リヴァプール熱帯医学校 DTM&Hコース(元亀田総合病院 総合診療・感染症科) 山本舜悟先生よりご寄稿頂きました!

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災害時の外傷における抗菌薬予防投与、治療について 最終更新日:2011年3月13日
リヴァプール熱帯医学校 DTM&Hコース(元亀田総合病院 総合診療・感染症科) 山本舜悟

災害時の初期数日間は外傷とそれに伴う皮膚軟部組織感染症が問題
になります。

ポイント
・外傷の感染予防には、十分な創部の洗浄と適切な創閉鎖が肝!
・異物が残っていないことを必ずチェック!
・高リスク患者では予防的な抗菌薬投与を!
・破傷風予防を適切に!

Q. 外傷の感染予防のためにどのようなことができますか?
A.
1)十分な創部の洗浄:異物の検索、デブリードメンを含む
2)適切な創閉鎖
3)抗菌薬予防投与
4)破傷風予防
の4点が必要な項目になります。特に1)、2)は感染予防には必須です。いくら抗菌薬を投与しても汚染された異物が残っていれば感染 の発症は必発です。壊死組織も感染の温床になるので適切なデブリードメンも大事になります。創内に異物がないかどうかは必 ず検索し、場合によってはレントゲンで確認することも必要になります。

Q. 創閉鎖のタイミングは?
A. 一次縫合が可能な時間を「ゴールデンタイム」と呼びます。受傷から6~8時間以内であれば、安全に縫合可能と言われますが、リ スクの低い創部ならば19時間以内をゴールデンタイムとする報告もあります (Annals of Emergency Medicine.  1988;17:496-500.)。
汚染がひどい高リスクの創部では、受傷から6~8時間以上経過してしまっていたら、洗浄した後に無理に縫合せず、開放創にしておく方 が無難です。

Q. 外来から患者を帰宅させる場合の注意点は?
A. 外来から患者を帰宅させる場合は、創部の感染徴候があれば再受診するように指示しておく必要があります。感染徴候といっても一 般の人にはわからないので、「傷の周りが赤くなったり、腫れてきたり、痛みが強くなったり、膿が出てきたり、熱がでてきたりしたら」と 具体的に説明しておくのがよいでしょう。

また、異物は可能な限り検索しなければなりませんが、人間のすることなので限界はあります。どうしても一定の確率で見逃しは避けられ ません。画像検査を含めて出来る限り探したけど見つからなかった、しかし経過を追っていくと後から異物が隠れていたことがわかったり、 感染徴候を現してくることもあるので、あらかじめその旨を説明してカルテに記載しておくとよいと思います。

Q. どんな外傷に予防的な抗菌薬は必要ですか?また、必要ないのはどのようなものですか?
A. 実は明確な回答はありません。現在入手できるエビデンスから言えることは、
・免疫不全のない人の単純な創に関しては、予防的抗菌薬は不要であること
・感染のリスクが高い創に関しては、おそらく予防的抗菌薬は利益があるだろうということ
です(Infectious Disease Clinics of North America. 2008;22:117-143.)。

では、どのような外傷が感染のリスクが高いのでしょうか?以下のようなものが高リスクと考えられており、これらに関しては予防的に抗 菌薬投与が奨められます。
・重度の免疫不全患者(例:コントロール不良の糖尿病、末梢血管病変があり、血流不良のある場合、ステロイド使用、リンパ浮腫、 AIDSなど)
・開放骨折または関節に達するような創
・腱や軟骨に達するような創
・肉眼的に汚染されており、十分に洗浄できないような創、特に異物が残っている可能性がある場合
・穿通創や挫滅創
・動物咬傷、人咬傷
・口腔内の傷
・受診までが大幅に時間がかかった(18時間以上)場合

Q. 創傷感染予防にはどの抗菌薬を使ったらいいでしょうか?
A. 一般論としては、蜂窩織炎の原因として頻度の高い黄色ブドウ球菌、連鎖球菌をターゲットにして第一世代のセファロスポリンが頻 用されます。汚染の状況によってこれは変わってきます。汚染が強い場合はグラム陰性桿菌をターゲットにしてアモキシシリン・ クラブラン酸を使用します(表1)。
βラクタム剤にアレルギーがあるような場合は、クリンダマイシンや場合によってはフルオロキノロンを使用するとよいでしょう。

Q. 予防的な抗菌薬の投与期間はどれくらいですか?
A. きちんとしたデータの裏付けはありませんが、3~5日間というのが一つの目安になります。
一方で創部感染を起こした場合には7~10日間ほど抗菌薬治療されることが多いですが、重症になればなるほど初診時に治療期間を決定 することは難しく、創部の状況を見ながら判断せざるを得ません。

Q.実際に感染が起こってしまった場合にはどうしたらいいでしょう?
まず、壊死組織や異物があるようであればデブリードメンが大切になります。
培養検体がとれる状況であれば、膿のグラム染色や培養結果を参考にして抗菌薬を選択していきます。治療前には培養を必ず採りましょ う。この際、スワブで培養採取すると皮膚表面の定着菌をひろってしまうので、必ず奥の方から膿を採取するのがポイントです。
しかし、仮設診療所等で培養検体がとれない状況であれば、創部の汚染状況によって抗菌薬を決定します(表1を参照)。


表1:外傷の抗菌薬予防処方例:予防なら3日間程度投与
注:投与量は腎機能正常の患者の場合です。
1)通常の外傷
問題になる微生物:黄色ブドウ球菌、連鎖球菌
*第一選択薬:セファレキシン(シンクルなど)1回1~2錠(250~500mg)を1日4回内服
*βラクタム剤にアレルギーがある場合:クリンダマイシン(ダラシン)1回300mgを1日3回内服
2)汚染の強い外傷
問題になる微生物:黄色ブドウ球菌、連鎖球菌、腸内細菌科、嫌気性菌(Clostridium属、Bacteroides属)
*第一選択薬:アモキシシリン・クラブラン酸 1回875mg(サワシリンまたはパセトシン2錠+オーグメンチン1錠)を1日2回内服
*βラクタム剤にアレルギーがある場合は
・モキシフロキサシン(アベロックス)400mg1日1回内服 または
・クリンダマイシン1回300mg1日3回+レボフロキサシン(クラビット)1回500mg1日1回内服
3)海水曝露のある外傷     :黄色ブドウ球菌、連鎖球菌、Vibrio属やAeromonas属など
*第一選択薬:レボフロキサシン(クラビット)1回500mg1日1回内服
*第二選択薬:ミノサイクリン(ミノマイシン)1回100mg1日2回内服


Q. 破傷風トキソイドや破傷風免疫グロブリンはどのような時に必要ですか?
A. 患者がこれまで破傷風の予防接種(破傷風トキソイド)を受けている回数と傷の汚染具合によって異なります(表2)。災害時の外 傷では創部は汚染されていると考えた方がよいでしょう。

過去に破傷風トキソイド受けているかどうかを覚えていない患者も多く、その場合は受けていないものとして対応するのが無難です。
日本では1968年から3種混合(DPT)ワクチンが定期接種になりましたが、1975年頃まで副反応が相次いで報告されたために接 種率は低迷していました。1981年から副反応の少ないワクチンが開発され、その後は接種率が向上しました。1981 年以降の生まれで国内で生活してきた人は3種混合ワクチンを規定通り接種して基礎免疫を有している人が多いです。

表2:外傷時の破傷風予防(MMWR  2006;55(RR-17):1-37.)
(注:災害時の外傷として「きれいで小さな外傷」の記載は省略しています)
1)過去の破傷風トキソイド接種が不明または3回未満:破傷風トキソイド3回(0、1、6ヶ月)+破傷風免疫グロブリン
2)過去の破傷風トキソイド接種が3回以上:最後の接種から5年以上経過している場合は破傷風トキソイドを1回のみ接種(破傷風免疫 グロブリンは不要)、5年以内に接種既往があれば不要
*破傷風トキソイドは、7歳未満の時はDPTワクチンを用いる。百日咳ワクチンが禁忌であればDTワクチンを用いる。