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ためしてガッテン「糖尿病」 ~強化インスリン療法について~

 最近、複数の患者さんから、ためしてガッテンで「早くからインスリンを打つと糖尿病が治る」とやっていたと相談されました。

 治る?きっと誤解が生じているな、と思って10/5放送の番組を見てみました。そのサブタイトルが過激です。「糖尿病が完治する!?すい臓を復活させる薬」ですから、、、。

 番組の冒頭ではHbA1cが11以上の糖尿病の方が出てきました。早期にインスリン治療を行い、弱い飲み薬だけで維持できるようになったそうです。(完治ではないですね)

 これまでの糖尿病治療では、進行して飲み薬が効かなくなり、最終手段としてインスリン注射を導入となるのが普通でした。しかしこの方はそうなる前にインスリンを使用しています。ここがポイントです。

 インスリンは膵臓のβ細胞から放出されますが、糖尿病の治療でよく使用されるSU薬(「えすゆーやく」と読みます)は、β細胞に鞭を振るってインスリンを出させる薬なので、コントロールが悪いままずるずると増やしてしまうとβ細胞が疲れてしまいます。(番組内ではβ細胞が気絶していると表現されていました)

 またそれとは別に、高血糖状態そのものがβ細胞に悪い影響を与えます。
 これを「糖毒性」と言います。

 つまり、SU薬でなかなか血糖が下がらずに難渋していると(大抵は不十分な食餌療法が関係しています)、β細胞が疲れてしまうばかりか、糖毒性のためにβ細胞が壊れてしまいます。この悪循環によって糖尿病が悪化してしまうのです。
 その結果、回復が困難なほどまでにβ細胞が壊れてしまい、インスリン療法をせざるを得ない状態になってしまいます。

 ですから、血糖が200や300あるようなコントロール不良な方には、まずインスリンをしっかりと導入して糖毒性を解除してあげます。これによりβ細胞が大量のインスリンを出す仕事から解放され、β細胞の機能の復帰が促されます。β細胞が壊れるのを防げば、結果的にインスリン療法を回避できるようになることがあります。

 ちなみに番組で取り上げられていたような1日3-4回注射を行う方法は強化インスリン療法といい、現在普通に行われている治療法で、そう特別な治療ではありません。

 まさに番組冒頭で出てきた患者さんは、早期から強化インスリン療法を行い、「弱い飲み薬」だけでコントロールできる状態に持ち込めたのでしょう。糖尿病の程度が軽い方であれば、更に食餌療法と運動療法で薬を飲まなくてよくなる方もいます。

 「薬物療法」が不要になることを、「完治」と言うならそれもありでしょうが、ずっと「食餌療法」「運動療法」という治療は続けていきましょうね。この3つ全てフリーになれる糖尿病は稀です。

 ところで番組冒頭で出てきた「完治」という過激な表現は、後半では巧みに薄められていましたが、視聴者の頭には、「完治」という言葉が焼き付けられたのではないでしょうか。インスリン療法の悪いイメージを払拭した番組作りは非常にありがたいのですが、過剰な期待を与えたのではと危惧します。

 ちなみに、当院の外来でこの番組を話題にした方の多くは、既に少量の糖尿病薬で血糖値がコントロールされており、いま強化インスリン療法を導入しても特にメリットはないと思われました。
 また当院でも強化インスリン療法を行っている方はおりますが、既にインスリンなしではコントロールできない状態での当院への転医であり、この番組のような理想的な経過はたどれていないのが現状です。皆さん、前医との相性や、近隣に専門医がいないことにも苦労されています。

 なお、僕は糖尿病専門医ではなく、専門で糖尿病だけを診てきた経験はありません。
 その代わり、消化器内科に入院してきた患者さんに糖尿病の合併があれば、強化インスリン療法を経てなるべく内服薬にコントロールして退院させていました。内服薬であれば、自分の消化器内科外来で一緒に診やすいですから。 
 なので今回のテーマのようなインスリン治療を含め、糖尿病治療は人並みにはできるつもりでいます。

 しかしそれでも強化インスリン療法を外来でコントロールしていくことについて、専門医ほどの経験・技術はないのが現状です。
 ですからインスリン導入は当院でも行えますが、まずは専門医受診をおすすめしています。

 蛇足ですが、 糖尿病のコントロールが急に悪くなったり、急に痩せたりした方、注意です!膵臓がんの検査はされていますか?糖尿病の人が膵がんになりやすいわけではないですが、糖尿病発症や増悪が膵がん初期の症状のことがあります。ご注意を。


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