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日本脳炎

デング熱  ~まずは風疹・麻疹の予防接種を~

 デング熱が70年ぶりに日本国内で確認されてにわかに注目されてます。

 デング熱の症状はネットで検索すれば出てきますが(←手抜きでごめんなさい(^^;))、高熱がみられるなどそれなりに苦しい病気ではありますが、予後は比較的よい病気です。デング出血熱といった重篤な病気になると、適切な治療を受けないと死亡することもありますが、通常デング熱のほとんどは対症療法のみで治ります。過度に心配する必要はありません。
 そもそもデング熱そのものを治す薬はありませんヒトからヒトへ感染しないので、デング熱であるとわかっても症状や身体の状態にあわせて治療をするのみです。

 テレビを見て、熱が出たら調べないといけないと思う方がないように書きますが、デング熱かどうかを調べるために右往左往する必要はないのです
(そもそも商業ベースで調べる方法はなく、発熱のみで検査する必要はありません)

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 実は10数年前にデング熱の方を2例受け持ったことがあります。
 1例目の方は内科学会関東地方会(第469回)で発表しましたが、その時の抄録が右です。入院するような方ですから重い症状の方でした。下痢や発疹・高熱ととともに血小板が下がるなど、命に関わるのではと思ったからこそ懸命に原因を探りました。治療に役立つことは何でもいいから情報がほしいと思いました。だからこそデング熱に行き着きましたが、この方の場合は退院後に判明したこともあり治療に役立つわけではありませんでした。(検査は国立感染症研究所に依頼しました)

 その1年後に2例目の方(30代女性)を受け持ちました。この方も下痢と発疹と高熱などがみられましたが、やはり診断がついたのは退院後でした。
 
 デング熱が簡単に検査できる体制があれば早期に発見できたかもしれず、そうすれば余計な抗生物質使わなくてすんだかもしれません。しかしそれを含めて考えても、検査が決定的な役割を果たしたかといえば、微妙だというのが僕の印象です。ましてや不安だからと言って調べる必要はありません。

 もちろん今回の代々木公園のような事例ではデング熱の現状を知るためにサーベイランスは必要です。保健所や東京都・厚労省は、プライバシーや余計な憶測に注意を払いながら検査・調査をすすめていただきたいと思います。
(当院でも保健所に一例相談していますが検査不要でした)

 一方僕たち現場は(有病率がかなり低い)現状ではデング熱の検査に振り回されることなく、患者さんの状態を把握して粛々と対処していくことが結果的にデング熱診療に寄与するのだと思います。
 なお、デング熱はデングウイルスが原因です。フラビウイルス属といわれる種類で、仲間には日本脳炎や西ナイル熱、黄熱病などのウイルスがあります。いずれも蚊によって媒介されますが、ヒトからヒトへは感染することはありません
 日本脳炎や黄熱にはワクチンがありますが、残念ながらデング熱にはワクチンはありません。流行国ではワクチン開発が期待されています。
 
 最後になりますが、デング熱も心配ですが、まずはワクチンが存在する日本脳炎や風疹、麻疹の予防接種をきちんと受けて予防できる病気の対処しましょう。(更に言えばB型肝炎のワクチンもお薦めします)
 
 今日はこれが言いたくてデング熱のことを書きました。


doc_toyonaidoc_toyonai  at 09:45コメント(2) この記事をクリップ! 

日本脳炎予防接種後の死亡例について 2012年10月厚労省小委員会

 先日、子供が日本脳炎ワクチン接種後に亡くなられたとの報道がありました。
 この件を受けて 、10/31に厚生労働省で小委員会が開かれ、その資料が公表されています。

 そもそも日本脳炎ワクチンは、副作用の危険性が否定できないという理由から、2005年(H17年)から2010年(H22年)まで積極的勧奨が差し控えられていました。今回また何か許容できない副作用が発生したのでしょうか?
 小委員会の資料にある亡くなられたお子さんの報告をみてみましょう。 
事例1:
  5歳~9歳未満の小児:接種2日後から高熱を認め、けいれん発作を繰り返し、急性脳症、多臓器不全となり接種7日後に亡くなられています(今年7月)。
 基礎疾患として超低出生体重児による出生が、甲状腺機能低下症に対する内服加療、発育遅延に対するリハビリ、てんかんに対する内服治療がありました。

 専門家の意見では、日本脳炎ワクチン接種と死亡の因果関係はないという判断もある一方、否定することは困難との意見もありました。体重に対するワクチンの量が多かったのではと言う意見や、寝たきり甲状腺疾患持病のてんかんとの関連を指摘する意見も付記されています。
事例2:
 10歳の小児(10月に亡くなられ広く報道されました)
 予防接種5分後には心肺停止状態となり心臓マッサージが開始されています。その後救急隊から病院へ搬送まで心肺蘇生は継続されていますが、一度も心拍再開を認めていません。
 出席した救命救急センター長は、若い人の蘇生処置で一度も心拍が戻ってこないことは珍しく、心臓に異常がなければ起こりえないとする意見をあげています。これはアナフィラキシーショックなどのアレルギー反応とは違う原因の存在を示唆しています。

 基礎疾患として広汎性発達障害があり、薬剤治療をされていました。飲んでいる薬剤には突然死のきっかけとなる不整脈を引き起こす薬もあり、併用が原則的に禁忌の飲み合わせもあったようです。そのため、日本脳炎ワクチンそのものというよりも、もしかしたらQT延長症候群(突然死の可能性がある不整脈)がもともとあって、注射による痛みで致命的な不整脈が引き起こされた可能性も指摘され、ワクチンとの因果関係は否定も肯定もできないと報告されています。

 明確な結論は出ていませんが、僕はこの報告を読んで、日本脳炎ワクチンによる直接的な副作用であった可能性は低そうだなと思いました。
 
 とはいえ全く副作用のない薬はありません。今後副作用による死亡例が出る可能性はあります。その危険性はなんとしても下げていかないといけないと思います。そしてその危険性を勘案した上で、予防接種の必要性を考えていかないといけないとます。

 日本脳炎ワクチンに疑問を持ったお父さんお母さんは、是非上のリンクから小委員会の資料を読んで下さい。テレビのコメンテーターが神妙な顔して解説していますが、まずは一次情報を自分の目で確かめることをおすすめします。

追伸:小さいお子さんの日本脳炎ワクチンの予防接種を希望されることがありますが、当院は小児科ではありませんのでなるべく小さなお子さんはお断りしています。概ね10歳くらいのお子さんから予防接種を受け付けているところです。しかし「江東区予防接種指定医療機関名簿に載っているのに、断るとは何事か」とお叱りの言葉を受けることがあります。現在、日本脳炎予防接種は過渡期のため、本来3歳で受けるべき1期のワクチンが、高校生でも受けられます。そのため当院でも1期の接種が行えるよう申請しており、それが名簿に掲載されています。紛らわしくて大変申し訳ありませんがよろしくお願いします。



doc_toyonaidoc_toyonai  at 14:34コメント(0) この記事をクリップ! 

日本脳炎の定期予防接種が変更されています

 巷ではほとんど話題になっていませんが、今年5月20日から日本脳炎の定期予防接種の接種時期が緩和されました。平成7年6月1日~平成19年4月1日生まれの方は、20歳までの間、接種を受けられることに変更されています。
 それにちなみ、今回は日本脳炎の話しです。

日本脳炎ワクチン 日本脳炎は、日本脳炎ウイルスが蚊を媒介してブタから人にうつる重篤な病気です。脳炎を発症すると15%が死亡し、50%に後遺症が残るとされており、ワクチンによる予防と虫除けが重要です。特別な治療法はありません。
 アジアでは広く流行しており、毎年、3万5千-5万人の患者が発生し、1万-1万5千人が死亡していると推定されています。日本でもかつては患者が多くみられましたが、ワクチンの予防接種により患者数は著しく減少しました

 この有用なワクチンですが、平成17年に厚労省から積極的勧奨の中止が勧告され、定期接種が事実上一時中断してしまいました。その理由は重症の副反応(ADEM(急性散在性脳脊髄炎))がみられたことでした。

 日本では日本脳炎患者はかなり減っていたこともあり、少しでも安全なワクチンが出るまで予防接種を控えるという選択肢がとられたのだと思います。
 それでも2003-2008年の6年間に日本脳炎患者は、合計33例報告されています。昨年のブタの日本脳炎の抗体保有率をみると、意外にも身近に日本脳炎ウイルスが存在することがわかります。予防接種が日本脳炎に果たしてきた役割は大きいと思われます。

 ところで予防接種の中断は新しいワクチン開発までの一次的と考えられていましたが、結局平成21年に新しいワクチンが承認されるまで約4年間も経過してしまいました。
 そのため現在、日本脳炎の定期予防接種の機会を逃した方がたくさんいます。この方々を救済する為に、今回の措置が取られました。

 もし該当するお子さんがおられましたら、まずは母子手帳を確認してください。
 日本脳炎の予防接種を受け損なっているようであれば医療機関へご相談下さい。


doc_toyonaidoc_toyonai  at 08:35コメント(0) この記事をクリップ!