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萎縮性胃炎

治らない胃潰瘍にご用心 ~3度目の胃カメラで癌と診断~

MK1of3のコピー 今回ご紹介するのは70代の胃がんの患者さんです。下を向くと胃液がこみ上げてくるという症状で受診されました。2年前の胃レントゲン検査(バリウム)では問題なかったそうです。

 1回目の胃カメラでは、小さな胃潰瘍がみられました。潰瘍と言うよりはびらんと言って少し荒れている胃炎程度でした。組織をつまんで病理検査を行いましたが良性(グループ1)でした。

 この時ピロリ菌がいることがわかりましたので、除菌治療を行いましたが、後に不成功と判明しています。

病理検査(組織診断)は1から5までの5段階で表されます。簡単に言えば、グループ1は良性で問題なしで、グループ5は癌です。 

 当初の胃液が上がる症状の原因は、潰瘍やびらんではなく、逆流性食道炎が原因のようでした。胃酸を強力に抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)を処方したところ症状は改善しました。PPIは逆流性食道炎にも胃潰瘍にも効果があり、こういうときは好都合です。


MK2of3のコピー 胃潰瘍では治ったかどうか確認するため、数ヶ月後には再検査するのですが、この方の胃カメラは1年後となりました。嘔吐反射が強く、つい先延ばしになってしまいました。
 この2回目の胃カメラでも前回と同じ部位にびらんが見られました。ピロリ菌の除菌が失敗しているとはいえ、強力に胃酸をおさえるPPIを飲んでいても治らないのは変です。そこで病理検査を再度行いましたところ、結果はグループ2でした。

 通常病理の検査ではグループ1(良性)と3(腺腫)と5(癌)で表されることがほとんどでグループ2はあまり用いられません。グループ2は癌を強く疑うものではありませんが、病理の先生から「何か変だぞ!」という重要なシグナルなのです。


MK3of3のコピー そこで胃炎の影響を取り除くために十分PPIを飲んでいただき4ヶ月後に3回目の胃カメラを行いましたが、それでもまだ治りません。むしろ悪くなっています。

 この病理検査ではグループ4でした。グループ4は、癌(グループ5)とは断定できないけれど、癌を強く疑うということです。

 今回はこの経過から胃癌と診断し近隣の病院に紹介しました。幸い胃癌は早期であったため、開腹手術は不要で内視鏡で治療を行うことができました。

 あらためて胃潰瘍はしっかり治るまで確認しないといけないと思いました。胃潰瘍と診断されたまま来院されなくなる方も中にはいますが、今回は患者さんが定期的に通院されたので癌の早い段階で治療にもっていくことができました。

 正直に言えば、3回目の胃カメラは画質がいいハイビジョンのスコープで行いたかったのですが、嘔吐反射がとても強く、3回とも全て鼻からの内視鏡でした。経鼻内視鏡は画質や操作性はやや落ちますが、検査を受けてもらってこその胃カメラです。今回は比較的楽な経鼻内視鏡のおかげで、繰り返し検査を行えたことが早期発見につながったのかもしれません。


doc_toyonaidoc_toyonai  at 08:25コメント(1) この記事をクリップ! 

胃炎のピロリ菌治療が保険でできるようになりました。

 ピロリ菌治療の保険適用が拡大されて、胃炎も対象になりました()。

 ピロリ菌の正式な名前はヘリコバクター・ピロリと言い胃潰瘍の原因として発見されました。その成果でオーストラリアのマーシャル博士とウォレン博士は2005年にノーベル賞を受賞しています。
IMG_1709 日本ではそれに先立ち、2000年からピロリ菌の検査・治療が保険適用されています。当時は胃潰瘍・十二指腸潰瘍のみが対象でした。

 その後、胃MALTリンパ腫特発性血小板減少性紫斑病(ITP)早期胃がんESD後と保険適用は拡大されましたが、多くの日本人がピロリ菌に感染しておりそれが胃がんの原因だと考えられているにも関わらず、胃炎は保険適用されていませんでした

 詳細な検証作業と学問的な研究の積み重ねによって、今回晴れて胃炎の患者さんでもピロリ菌の検査・治療ができるようになりました。日本人の胃がんを大きく減らす分岐点となるでしょう。
 
 ただし、胃炎は内視鏡検査による診断が必要です。胃潰瘍や十二指腸潰瘍の診断はバリウム検査(胃透視検査)でもよかったので、少し厳しくなりました。ご注意下さい。
(胃カメラもバリウム検査もしたことがない人は、保険での検査や治療はできません)
 なおピロリ菌の検査はいくつもの種類があります。検査の詳細はかかりつけの消化器内科でご相談下さい。あるいはネットで検索してみて下さい(手抜き(^^;))。代わりに、あまりネットでは書かれてない費用について、ざっくりとした金額を示しておきます(3割負担で初診料込み)
 
内視鏡で行う方法
  迅速ウレアーゼテスト(約6000円)
  鏡検法(病理検査) (約9000円)
  培養検査(約7000円)

内視鏡を使わない方法
  尿素呼気試験(約3000円)
  抗体検査(血清抗体)(約2000円)
  便中抗原テスト(約2000円)

※写真にはそれぞれの検査で用いるものが写っています。当院では全て対応可能です。 


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