書評:『働く人のための精神医学』




仕事をしていると、病気の社員と対峙する機会も少なくない。マネージャー時代も、うつ病を発症した部下のケアをするようなことがあって、苦労したことがある。人事は、その十倍くらい面倒な機会が多く、十倍くらい複雑な案件に対応しなければいけない。マネージャー時代に苦労したのなんて、かわいいもんだったな、と思う。

そんなわけで、きちんと病気のことも理解しておかなければいけないと思い、入門書として手に取ったのが本書。愛着障害やパーソナリティ障害、うつ病、双極性障害など、網羅的に取り扱われており、思惑どおり全体像を把握することができた。結論から言うと、これ、めっちゃ良書だと思う。

自分にとって驚きだったのは、こうした精神病は、環境要因でなく遺伝子によるものがあるということだ。日本人は、欧米人と比べて、不安になりやすい遺伝子を持っているそうだ。

日本人では、セロトニン・トランスポーター遺伝子のタイプで見ると、不安を感じやすいタイプが3分の2を占め、さらに3分の1の人はとくに不安を感じやすい。6割が不安を感じにくいタイプである白人とは、その比率が逆である。つまり、養育環境の影響を白人以上に受けやすいと言える。


こうした遺伝子の前提を踏まえ、いかに病気にならないように、もしくは病気が進行しないような環境を作っていくかが重要である。本書で繰り返されているのは、安全基地の重要性だ。困ったときや弱ったときに無条件に受け入れる存在があることが大切である。個人主義的な時代になって、うつ病が増えているのは、この安全基地の存在の差ではないか。

また、うつになりやすい性格が2つ挙げられている。一つは、完璧主義で、もう一つは、囚われやすい性格である。この2つとも、仕事ができる人に見られる性格でもあるのではないか。こういう性格こそが、仕事で成果を上げることの原動力になっている人も多いのではないだろうか。役職者のうつ病が多いということと符合する。これを読んで、思わずいくつかの顔が浮かんでしまって苦笑い。

この本を読んだから病気診断が出来るわけでもないし、病気自体を解決できる力も身に付かない。それは専門の医師に任せるべきで、素人が下手に手出しするところではない。病気を理解して、その人を受け止められるようになること。そして、医師と協力して治療できるようになること。そのための基礎知識と心構えを得るのが、本書の正しい読み方だろう。端から端まで、勉強になりました。



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