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実験では2つのガラス容器が使用されたが、各容器内には「数十億個に及ぶセシウムの気体原子」が含まれていた。今回は「レーザー光」を使用することで、互いに50cm離されたガラス容器Aとガラス容器Bとのあいだで、 エンコードされた情報を「量子テレポーテーション」させることに成功した。
(Credit: Image courtesy of University of Copenhagen - Niels Bohr Institute)


スイスの研究チームはこの度、2つのガラス容器内の「セシウム気体原子」のあいだで情報を「量子テレポーテーション」させることができたと発表。

テレポーテーションさせるのに成功した距離は50cmであるとのことだが、一度や二度ではなく何度も安定した結果が得られたとのことで、次世代型の量子通信ネットワーク開発・発展に向けた大きな前進がなされたと言えそうだ。

また、実験に当たったEugene Polzik教授によれば、50cmという距離は専ら実験室の空間的な大きさによるもので、もし充分なだけの空間が用意されれば原理的には衛星を始めとして、より遠くへ情報をテレポーテーションさせることも可能であるとしている。

成果はNature Physicsに掲載されている。

▲ 実験の概要

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実験で用意されたのは2つのガラス容器で、それぞれの容器内には「数十億個のセシウム気体原子の雲」が含まれていた。

もちろん、このガラス容器は互いに接続されてはいなかった。しかし、それにもかかわらず、レーザー光を使用することで情報が片方のガラス容器からもう片方へと「テレポート」されたという。

レーザー光はまず初めにガラス容器Aに当てられ、光と気体原子とを「量子もつれ」の状態に置かせた。

容器は両方共に「磁場」を伴ったチェンバー内に密閉されていたが、特定の波長をもつレーザー光が気体原子に当てられると、気体原子の外側部分にある電子が反応し、そのスピンが同一方向に向くようになっている。

(スピンの向きには2種類あるが、量子情報で利用されるのはこのスピンの向きである。従来型のコンピュータが0か1のビットからなっているのと同じように、量子技術では『上向きのスピン』か『下向きのスピン』を利用することが標榜されている)

それから気体原子は量子情報を含む光子を放出。この光がもう片方のガラス容器Bへと「伝送」され、その量子情報が光から読み出され、非常に高感度の検出器によってレジスターされた。

そして検出器からの信号はガラス容器Aへと再び伝送され、電子がもつスピンの方向がその信号に関連して調整されたという。

以上のプロセスにより、ガラス容器Bからガラス容器Aへの量子テレポーテーションが完了した。

▲ エンコードされた情報をキープするための工夫

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Eugene Polzik教授。実験装置を背景に。 Credit: Ola Jakup Joensen, Niels Bohr Institute)


実験は室温環境下で行われたとのことであるが、したがって気体原子はガラス容器内で、秒速200メートルの速度で運動する。

これにより、気体原子は容器内の「壁」に絶えずぶつかることになり、エンコードされたばかりの情報を失うところであるが、研究チームはこの問題に対する解決策を既に開発済みだった。

「パラフィンの一種で、ガラス容器内の内側をコーティングしました。これによって、気体原子がどれだけ壁にぶつかろうとも、エンコードされた情報を失わないようにすることができました」とEugene Polzik教授は話している。

ここ数年、「光」から「光」へと量子レベルで情報を「テレポート」させることに物理学者らは成功してきたが、今回研究を発表したコペンハーゲン大学のNiels Bohr Instituteは2006年に「光」と「気体原子(ガス原子)」とのあいだで情報をテレポートさせることに成功している。

University of Copenhagen - Niels Bohr Institute. "Quantum teleportation between atomic systems over long distances." ScienceDaily, 6 Jun. 2013.
http://www.sciencedaily.com/releases/2013/06/130606140844.htm

H. Krauter, D. Salart, C. A. Muschik, J. M. Petersen, Heng Shen, T. Fernholz, E. S. Polzik. Deterministic quantum teleportation between distant atomic objects. Nature Physics, 2013; DOI: 10.1038/nphys2631