私たちが暮らしている宇宙は、決して唯一のものではなく、無数にある宇宙の一つ ( ≒マルチバースの一つ)にすぎない可能性があるーーー
少し信頼性に欠ける主張であるように思う人もいるかもしれない。
しかし、実際のところ、このような「マルチバース理論 (多元宇宙論)」は、数々の研究によって理論的に支えられている。
また、マルチバース理論に至るアプローチも一つではない。つまり、それぞれに独立した数々の物理学的な理論が、マルチバース理論という一つの共通した結論を指し示しているのだ。
専門家の中にも、「隠された宇宙」が存在している可能性があると考える者は少なくない。
以下に紹介するのは、私たちがマルチバースにいるということを示唆する、あまたある「マルチバース理論」の中でも、最も科学的に説得力のある理論だ。全部で五つある。
それでは、順番に見ていくことにしよう。
▲ 1. 無限に広がる宇宙 (infinite universes)
時空の形状がどのようなものであるかについては、はっきりしたことが分かっていない。
しかし、時空は球形やドーナツ型などに比べれば平坦 (フラット)であり、無限に広がっているという可能性が高い。
もし時空が永遠に広がり続けるのだとすれば、ある時点で「反復」し始めなければならない。というのも、時空における粒子の組み合わせは有限だからだ。
したがって、はるか遠くかなたの宇宙には、「もう一人のあなた」がいる可能性がある。つまり、あなたには「無数のバージョン」があり得る。
別の宇宙には、今あなたがしていることとまったく同じことをしている「別バージョンのあなた」が存在し得るし、あるいは、今あなたが着ている服とは違う服を着ている「別バージョンのあなた」もいるかもしれない。
また、無数に存在するあなたの中でも、今あなたが歩んでいるキャリアとは大きく異なるキャリアを歩んでいるあなたもいるかもしれないし、この文章に目を通しているあなたとは著しく異なる人生選択をしてきたあなたもいる可能性がある。
私たちに観察可能な宇宙というのは現在のところ、ビッグバンから38万年後以降およそ138億年にわたって宇宙に広がる「宇宙マイクロ波背景放射」という光を手掛かりに観察することができる宇宙なので、この138億光年という距離を越える時空がまったく独立した別の宇宙であるとみなすことは可能なのである。
この線で考えていくと、無数にある宇宙の集合体であるマルチバースの中で、無数の宇宙が互いに隣合わさりながら存在しているという帰結に至る。
▲ 2. 泡宇宙 (Bubble Universes)
前項で述べたような、無限に拡大していく時空によって生成される無数の宇宙という考えに加えて、「永遠のインフレーション (eternal inflation)」と呼ばれる理論は、それらとはまた別の宇宙が生成される可能性があることを指し示している。
「インフレーション」理論とは、宇宙がビッグバンの後に急速に拡大したとする理論であるが、要するに、宇宙はまるで風船さながらに膨張していったとみなされている。
「永遠のインフレーション」理論は最初、米タフツ大学の宇宙論者であるAlexander Vilenkin氏によって提唱された。
この理論によっては、宇宙全体では膨張がストップするような箇所があったり (これは「ポケット」と呼ばれている)、膨張し続ける箇所があったりするおかげで、数多くの孤立した「泡宇宙」が生成されるということが示唆される。
したがって、インフレーションに終止符が打たれ、数々の恒星や銀河が形成されるようになった私たちの暮らす宇宙は、空間の広大な「海」におけるちっぽけな「泡」のようなものであるとみなされるのだ。
したがって、中にはいまだに膨張し続けている泡も存在し、広大な「海」には私たちの泡に類似したような泡が他にも数多く含まれていると考えられる。
これら泡宇宙の中には、物理法則や基本的な物理定数が私たちの宇宙とは異なるものも存在する可能性があるので、私たちの目には奇妙な場所に映るような宇宙が他にあったとしても不思議ではない。
▲ 3. 並行宇宙 (Parallel universes)
「超弦理論 (超ひも理論、string theory)」という理論からは、「膜世界 (ブレーンワールド, braneworlds)」という考えも導き出されている。
「ブレーンワールド」というのは、私たちの世界からはちょうど手の届かないところで漂っている並行宇宙群のことで、このアイデアは最初、米プリンストン大学のPaul Steinhardt氏とカナダのPerimeter InstituteのNeil Turo氏らによって提唱された。
この考えが由来しているのは、私たちの世界には、私たちにおなじみの4次元時空※よりも多くの次元が存在し得るという可能性だ。
※ 時間も1次元分とみなし、3次元空間に1次元分の時間を足して、4次元と考える。
私たちにとっては当たり前の存在である3次元空間の「膜」に加えて、その他の3次元空間の「膜」が、より高次元の空間に漂っている可能性が、この考えからは示唆されるのだ。
コロンビア大学の物理学者、Brian Greene氏は、自著『The Hidden Reality" (Vintage Books, 2011)』の中でで次のように述べている。
「私たちの宇宙は、より高次元の空間に漂っている、数あるパン切れのようなものの一つであるという考えである。さながら、一固まりの雄大な『宇宙ローフ』の中にある一切れのようなものであるとみなせる」
この理論の発展形によっては、この「膜宇宙」同士は、「いつも互いに並行な位置にあって、互いに接触することが不可能であるとは限らない」ということも示唆されている。
つまり、膜宇宙同士は時たま、互いにぶつかり合ってビッグバンを繰り返すのだ。そして、そのたびに宇宙が何度もリセットされる、というわけである。
▲ 4. 妹宇宙 (daugter universe)
ミクロな素粒子の世界を支配する「量子力学」は、上記に示されたのとはまた別の方法で、複数の宇宙が生じ得るということを示唆している。
量子力学によっては、決定的な結果よりも「可能性・確率」という観点で世界が記述される。
そして、量子力学によって数学的に示唆されるところによれば、起こることが可能なあらゆる結果は、それぞれの別の宇宙で起こる。
例えば、あなたが十字路に到着したとしよう。あなたは右に進むか、左に進むか、真っすぐ進み続けるか、あるいは今やって来た道を引き返すかというような選択を迫られる。
この場合、いくらか単純化してしまうと、起こり得る結果は四つであるーー左に進むか、右に進むか、真っすぐ進み続けるか、あるいは引き返すか、という四択だ。
量子力学を応用した考え方によれば、選択の際に宇宙は枝分かれをする。つまり、あなたが左へ進んだ宇宙、右へ進んだ宇宙、真っすぐ進み続けた宇宙、道を引き返した宇宙、の計四つの「妹宇宙」に宇宙は枝分かれをしていくと考えられるのだ。
「そして、それぞれの宇宙には『あなたのコピー』が存在していて、どの方向に進んだのかという結果をそれぞれに目撃している。もちろん、それぞれのあなたが、『いま、私の体験している現実こそが唯一の現実なのだ』と誤った考えを巡らせながら」
と、Greene氏は『The Hidden Reality』のなかで述べている。
▲ 5. 数学的な宇宙 (mathematical universe)
数学は単に、宇宙を記述するのに有用なツールであるだけなのか、あるいは数学自体が根本的な現実であるのかということについては、長きにわたって議論されてきているところだ。
後者がもし本当であるとするならば、私たちは、宇宙がもつ数学的な性質を不完全に知覚しているという帰結が導き出され得る。
その場合、私たちの宇宙を構成している特定の数学的構造は、おそらく、唯一のオプションではなくなる。
実際のところ、ありとあらゆる可能な数学的構造が、それぞれ独自の宇宙として存在している可能性がある。
「数学的な構造というのは、人間的な重荷 (human baggage)からは完全に独立した方法で記述することのできる、何かです」と、この過激な考えの提唱者であるマサチューセッツ工科大学のMax Tegmark氏は話している。
「私とは独立して存在することのできる、このような宇宙の存在を、私は本気で信じています。そのような宇宙は、たとえ人間が誰一人として存在していなかったとしても、存在し続けるでしょう」
Space.com, "Top 5 Reasons We Might Live in a Multiverse | Hidden Universes"
http://www.space.com/18811-multiple-universes-5-theories.html
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