カナダの研究チームはこの度、「重ね合わせ」の状態にある、およそ光子1億個分のマクロな系を実験的に実証することに成功。二つの決定的に異なる状態にあるマクロな系をつくりあげることができたとするその研究成果は、Nature Physicsに21日付けで掲載されている。

今回、Calgary大学のAlex Lvovsky氏率いる研究チームが実証に成功したのは、およそ1億個の光子からなるマクロな系と、1~2個程度の光子からなるミクロな系で、片方のミクロな量子的なゆらぎが、もう片方のマクロな量子的なゆらぎと量子的な相関関係にあるということが示されたとしている。

また、シュレーディンガーの猫で言うところの、「生きている状態」と「死んでいる状態」とに対応する量子的な状態は、数万個の光子によって肉眼で見分けがつくようになっているという。

発表された論文の抄録 (abstract)は、次のような文章で結ばれている。

「この思考実験は元来、量子力学をマクロな物体に応用することの馬鹿馬鹿しさを伝えるよう意図されたものだが、今回の実験や関連した研究などからは、(シュレーディンガーの猫状態は)あらゆるスケールで当てはまるものであるという可能性が示唆される」


1935年に、有名な思考実験である「シュレーディンガーの猫」が日の目を浴びて以来、ミクロな系を支配する量子力学的な法則が、私たちが日常で目にするようなマクロな系にどのように当てはまるのかということを検証するべく、マクロな系を生成しようという数多くの試みがなされてきた。

しかしこれまで、量子的な効果を再現することができたのは、今回チームによって実証されたよりも遥かに小さいスケールにおいてのみだった。

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(Credit: pterwort / Fotolia)


※ 以下、補足的にお読みになってください。


▲ 「シュレーディンガーの猫」

私たちの日常的な体験とは対照的に、量子力学的な法則が支配するミクロの世界では、1つの粒子が同時に2つの状態をとることが可能だと言われるが、これは「重ね合わせ」として知られている。

例えば、放射性核種は「崩壊している状態」と「崩壊していない状態」の双方の状態をとることが、量子力学によると可能である。

この原理をマクロな物体に適用しようとしてみると、逆説的で奇怪とさえ言える結果が導かれる。そのことを強調するために、量子力学の創始者の一人であるシュレーディンガーは1930年代にある思考実験を考案した。今日、それは「シュレーディンガーの猫」として広く知れ渡っている。

この思考実験では、1個の放射性核種の崩壊によって誘発される仕掛けによって、1匹の猫が毒ガスによって命を絶たれる可能性に晒される。

かりそめにも…

1. 量子力学的な法則によって示されるように、放射性核種が「崩壊する状態」と「崩壊しない状態」の二つの状態を同時にとることが可能であり (重ね合わせ)、

2. そのような法則がマクロな物体にも当てはまるのであれば、

その猫は、「生きている」状態と「死んでいる」状態の二つの状態を同時にとることになる
、というものである。

この「シュレーディンガーの猫」に類似した性質をもつ量子力学的な系というのはこれまで、ミクロのスケールでは達成されてきた。しかし、この原理が果たして日常的なマクロな物体にも当てはまるのかどうかということを実証することは、困難を極めるということが分かっていた。

「というのも、マクロな量子的な物体は非常に脆弱であり、環境との相互作用に晒されると、得てして量子的な効果が崩壊してしまうきらいがあるからです」とLvovsky氏は説明している。


▲ 今回の成果を説明するLvovsky氏ら

「マクロの世界を司る量子力学は、生物のようなマクロな物体を支配すると考えられている古典力学とは、著しく異なります。マクロとミクロのあいだのどこに境界線を引くことができるのか、あるいはそもそもそのような境界線が存在するのかどうかということを理解するのは、ひとつの挑戦と言えます。今回の成果が光を投げかけるのは、まさにこの問題に対してなのです」とLvovsky氏は話している。

研究成果は有望なものであるが、論文の共著者であるChristoph Simon氏は、いまだ数多くの疑問が未解決のままであるということを認めてもいる。

「本物の猫で実現するには遥かに及ばないのが現状ですが、その方向に向けて踏み出される前進のための充分な機会があるということを、今回の研究成果は示唆しています」とSimon氏は話している。



元記事:

University of Calgaryプレスリリース
via Phys.org, "Making big 'Schroedinger cats': Quantum research pushes boundary by testing micro theory for macro objects"
http://phys.org/news/2013-07-big-schroedinger-cats-quantum-boundary.html

論文:

Nature Physics, "Observation of micro-macro entanglement of light"
http://www.nature.com/nphys/journal/vaop/ncurrent/full/nphys2682.html