「南極点望遠鏡 (South Pole Telescope, SPT)」を使用して研究にあたっているアメリカの研究チームはこの度、SPTによって「Bモード偏光」として知られる、宇宙マイクロ波背景放射の偏光パターンをはじめて検出したとする成果を発表。論文はarXivに掲載されている。

Bモード偏光は、宇宙マイクロ波背景放射の偏光パターンの一種で、その存在自体は長らく予期されてきたが、これまで観測されたことは一度もなかった。

Bモード偏光を検出したからといって、なにかの応用につながるというわけではなさそうだが、実験的な宇宙論において新たな扉を開くような一里塚となる可能性があるという。

今後、精度をさらに向上して観測することができるようになれば、Bモード偏光の観測は、ニュートリノのもつ質量により厳密な制約を与えたり、原子宇宙におけるインフレーションで生成されたと予測されている「重力波」の証拠が得られることにつながるかもしれない。

つまるところ、素粒子物理の「標準模型」では太刀打ちのできない領域に踏み込めることができるようになるポテンシャルが秘められており、それゆえにBモード偏光の観測には期待がもたれている。

宇宙マイクロ波背景放射観測の専門家であるChuck Bennett氏などは今回の成果を、「宇宙マイクロ波背景放射を手がかりとする宇宙の精査における、画期的な出来事だ」と話している。

また、氏によれば、今回発表された研究は堅実で信頼することのできる研究であるがゆえに、チームによって発表された成果を信じると述べてもいる。(Bennett氏は米国のジョン・ホプキンス大学を拠点に宇宙マイクロ波背景放射観測を研究しているその道のエキスパートだが、今回の研究には関わっていない)

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(Credit: DANIEL LUONG-VAN, NSF)



▲ 宇宙マイクロ波背景放射における「温度のゆらぎ」

ビッグバンからの残り火とも呼ばれている「宇宙マイクロ波背景放射 (CMB)」の起源はビッグバンからおよそ38万年後に求めることができ、電気的に中性な原子が形成されて光が空間をまっすぐ進むことができるくらいに透きとおった、いわゆる「宇宙の晴れ上がり」の時期に由来した光 (電磁波)であるとされている。

ざっくり言ってしまうと、宇宙マイクロ波背景放射とは3ケルビン程度の温度をもったマイクロ波だ。(摂氏に直すと-270℃ほど)

この背景放射には、初期宇宙についての理解を深める上で一助となり得るような情報がつまっているので、1964年に発見されて以来、集中的に研究されてきているところだ。

なかでも、CMBに含まれる情報の一つに、およそ100ミリケルビンの「温度のゆらぎ」というものがある。このゆらぎによって示唆されるのは、原始宇宙には密度のゆらぎが存在していたということであり、そのゆらぎがひいては、今日私たちが目にすることのできる恒星や銀河の「種」となった可能性が高い。


▲ 散乱によって偏光するCMB - 「Eモード」と「Bモード」

しかしながら、CMBに含まれる情報はなにも「温度のゆらぎ」だけではない。

宇宙マイクロ波背景放射は、青い光が青空にある原子から私たちに向かって放たれるのと同じように、初期宇宙の原子から私たちに向かって放たれたものである。

さらに、青空から放たれる青い光が「偏光」し得るのと同じように、宇宙マイクロ波背景放射も、ある特定の振動方向をもつ光へと偏光し得るのだ。

CMBの偏光パターンには「Eモード」として知られるものがあるが、これはすでに2002年に南極のDASI干渉計によって観測済み。おかげで初期宇宙の力学についての理解は深まった。

今回観測されたという「Bモード」は、Eモードよりも遥かに微妙な偏光パターンで、偏光成分が全体で渦を巻いているような模様をとることで知られる。

Bモード偏光の大多数は、「重力レンズ効果」として作用する銀河によって生成され、およそ140億年前に発せられたEモード偏光が「ひん曲げられ」て、つくられるという。

また、Bモード偏光は信じがたいほどに「ほのか」であり、その温度のゆらぎは約0.4マイクロケルビン。宇宙マイクロ波背景放射の温度ゆらぎにおいて、およそ1,000万分の1を占めるとされている。

そのため、宇宙についての理解を増進する助けになり得ることが期待されているとはいえ、観測することは至難の技だ。

したがって、今回の「Bモード観測」の知らせにより、天文・素粒子物理界隈は活気づけられることとなった。


▲ 「原始重力波に由来するBモード偏光」観測に向けて

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重力波のイメージ画像。
(Credit: NASA GSFC)


「重力波」は時空におけるさざなみのようなもので、宇宙が急速膨張をはじめた「インフレーション」の時期に生成されたと考えられている。時系列的にはCMBができる前であり、ほんの束の間の時期だ。

宇宙でインフレーションが発生したという「インフレーション理論」は最初、米国のアラン・グースや日本の佐藤勝彦らによって提唱され、現在では有力な仮説となっている。

しかし、この理論にはインフレーションがどのようにして始まり、終わったのかというような極めて肝要な点が未だ欠けており、またこのことを検証するすべもなかった。

したがって、かりそめにも「原始重力波」が検出されれば、インフレーションの存在を裏づける強力な証拠となり得るので期待がもたれている。

「重力波によってつくられたBモード偏光を検出することができるかもしれないという可能性は、数々の実験的な努力を駆りたてるには充分なだけ注目すべきものです」と語るのは米ピッツバーグ大学の宇宙論者、Arthur Kosowsky氏だ。

「SPTによってBモード偏光がはじめて検出された今、その他の実験チームにおいても集中的に探索されています。だから、今回の成果は向こう10年間にわたって繰り広げられるエキサイティングなレースを形づくる、はじめの一歩なのです」

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(Credit: Stephen Hoover/University of Chicago)



関連:

KEK QUIET Team
http://quiet.kek.jp/

元記事:

PhysicsWorld.com, "B-mode polarization spotted in cosmic microwave background"
http://physicsworld.com/cws/article/news/2013/jul/25/b-mode-polarization-spotted-in-cosmic-microwave-background