どこまでもイスラム国

イスラム国最新情報&解説をイスラム思想研究者がお届け。「どこまでもエジプト」の姉妹ブログです。

イスラム思想の観点から、イスラム国現象を読み解きます。イスラム国が消滅するその日まで、継続させるのが目標。 「どこまでもエジプト(http://nouranoiitaihoudai.blog.fc2.com/)」著者による姉妹ブログです。

すみません、まただいぶご無沙汰しています。

イスラム国以外のことも書けるように、「どこまでもイスラム世界」というブログを立ち上げました。

関心のある方はご覧になってみてください。

イスラム国が機関誌『ルミヤ』10号を発行しました。

特集は「東アジアにおけるジハード」。
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東アジアって・・・というわけで、これは看過できません。

冒頭にはドゥテルテの顔。
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「しかしアッラーは彼らの予期しなかった方面から彼らを襲った」という、『コーラン』第59章2節の一部が引用されています。

マンチェスターの攻撃を祝福した上で、イスラム国がイラクで領土を失うことがイスラム国の終焉ではない、それはむしろ、イスラム国を再結成させ、戦いの炎をたぎらせ、「そんなところをイスラム国が統治するようになるとは誰も予期していないような場所」にまで領土を拡大させる動機づけとなるのだ、としています。

そして、それこそがまさにフィリピンだ、とのこと。

後半には、イスラム国東アジアの指導者アブーアブダッラー・アルムハージルのインタビューも掲載されています。

下の写真の左から二番目が彼だそうです。
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うーん、穏やかそうなおじさん。

っていうか、顔もろだしなんですけどいいんですかねえ??

フィリピンのミンダナオ島を拠点とする彼は、「ジハード戦士たちのここでの状況はよくなってきている。人数も増えているし、武器も充実してきた。東アジアやその他の地域からの移住者も増えてきている。」と述べています。

ミンダナオ島のマラウィにはすでに、チェックポイントができています。
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彼は他にも、「ドゥテルテなんかに負けない」、「イスラム国は永遠に不滅」、「みんなどんどんヒジュラ(移住)してきて!」等々、述べていました。

実際にフィリピンにヒジュラした、マレーシア人戦闘員についての記事も掲載されています。
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2006年にアブーサヤフ入りしたそうです。

総じて、『ルミヤ』10号に書かれていた東アジアについての記事は、大したことないっちゃ大したことないのですが、世界で最も凶悪なテロ組織イスラム国の支部長でも、アジア人ってだけでどうしてこんなに親近感というか安心感を覚えてしまうのだろう・・・と自らの不覚を反省したり、イスラム国のいう「そんなところをイスラム国が統治するようになるとは誰も予期していないような場所」っていうのは、当然日本も含まれてるな、という認識を新たにしました。

また、「モスルが陥落しても、ラッカが陥落しても、イスラム国の世界的拡大は継続中である」という彼らの主張が、ミンダナオ島の状況や昨日のテヘランのテロなどをふまえることで、より一層リアルに感じられました。

6月7日イランの首都テヘランにある国会議事堂とホメイニー廟がほぼ同時に襲撃され、12人が死亡、約40人が負傷しました。

これはおそらく、1979年のイラン・イスラム革命以後最悪の、つまりイラン建国以来最悪のテロ事件です。

意外かもしれませんが、イランというのはこれまで、ほとんどテロ・フリーな国でした。

多少の語弊があるかもしれませんが、今回のテロ事件は、東京の国会議事堂と靖国神社で同時にテロ事件がおこった場合に日本人が受けるのと同じくらいの大きなショックを、イラン国民に与えたのではないかと思います。

そして、今回も犯行声明を出したのはイスラム国です。

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この声明の後、たてつづけにもう2つ声明を出し、おまけに国会議事堂内部の犯行現場をうつしたビデオまで公開しました。


イスラム国がイラン国内でこのような大規模テロをおこしたのは、今回が初めてです。


しかし、イランはもともとイスラム国にとっては大敵で、いつかは「やってやりたい」相手ではありました。


その証拠に、去年からイスラム国の報道官はイランを名指しで攻撃せよと呼びかけてきましたし、ここ数ヶ月間は、イランを攻撃しようと呼びかけるビデオも公開してきました。


今年の3月には、複数のイラン人戦闘員が「出演」し、イラン在住のスンナ派ムスリムに蜂起を呼びかけ、ホメイニー政権打倒を訴えて、シーア派民兵を殺害する、という大作ビデオが公開されました。

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イランの内務相は2016年8月、これまでに1500人のイラン人がイスラム国入りしようとしたのを阻止した、と発表しています。

・・・が、それでもイラン人戦闘員はイスラム国にいるのです。

先週も、アフガニスタンのナンガルハルで戦闘員をしている、というイラン人のビデオが公開されました。

彼はイランの西アーザルバーイジャーン出身で、Telegramをみてイスラム国入りした、と言っていました。

イランでは、Telegramの使用者は数百万人ともいわれています。

話は前後しますが、なぜイランがイスラム国にとっての大敵なのかというと、第一に、イランがイラクとシリアで対イスラム国戦争に直接的に参加しているからです。

イランの国会議事堂とホメイニー廟という、いわば「ど真ん中」を攻撃することは、モスル攻撃に対する「報復」の意味をもちます。
また第二に、イランがシーア派の「大ボス」だからです。イスラム国はスンナ派イスラムであり、彼らにとってシーア派は存在そのものが汚らわしい、ある意味欧米以上に敵視している相手です。

理由を説明すると長くなるのでここでは省略しますが、要するに「近親憎悪」のようなものを抱いている対象です。

ですから、今回の攻撃の持つ象徴的意味は、ロンドン攻撃以上に大きいともいえます。

イスラム国はおそらく、イラン国内に隠れ家をつくり、周到な準備をし、このラマダンにタイミングを合わせて攻撃を実行してきたのでしょう。

国内に絶対にイスラム国を入れない!と強調してきたイラン当局にとって、今回の事件が与えた衝撃ははかり知れません。

「モサドがやった!」とか、「CIAがやった!」とか、言い出さないといいのですが。。。

(何があろうと、「うちには絶対に絶対にイスラム国とかいませんっ!!」と言い張る国は、結構あります。)

6月3日のロンドンでのテロ事件をうけて翌4日、イギリスのメイ首相が、テロリストをつないでいるのは「イスラム過激主義という邪悪なイデオロギー」であり、「このイデオロギーを撲滅することは我々の時代の大きな挑戦である」とする演説を行いました。

メイ首相曰く、イスラム過激主義とは「憎しみを説き、分裂の種を蒔き、宗派主義を推進する」ものであり、かつ「自由、民主主義、人権という我々西洋の価値が、イスラームという宗教とは矛盾すると主張するイデオロギー」であって、このイデオロギーは「イスラムからも真実からも逸脱している」と結論づけています。

テロの最大の原因はイデオロギーであって、必ずしも組織やネットワークが関わっているわけではない、というのは、もともとの私の主張でもあるので、その点に関しては一切異論はありません。

こちらや、こちらで書いたように、テロは「やる気」と「ナイフ一本」さえあればできるのです。

ナイフの一本くらい、どんな家にもあります。

重要なのは「やる気」のほうですが、この「やる気」を引き出す上では、組織による「勧誘」よりもインターネットの影響力のほうが圧倒的に大きいと考えられます。

例えば、今年のラマダン開始直前にイスラム国がインターネット上に公開したビデオの冒頭には、『コーラン』のタウバ章38節〜39節が引用されています。
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ご丁寧に、英訳つきです。

日本語にすると、次のようになります。

【信仰する者たちよ、あなたがたはいったいどうしたのか。「アッラー(神)の道のために出征せよ」と言われた時、地に低頭するとは。あなたがたは来世よりも、現世の生活に満足するのか。現世の生活の楽しみは、来世に比べればごくわずかなものに過ぎないのに。あなたがたが奮起して出動しないならば、かれは痛ましい懲罰をもって懲しめ、他の民をあなたがたと替えられる。あなたがたは少しもかれを損うことは出来ない。本当にアッラー(神)は凡てのことに全能であられる。】

(※訳は日本ムスリム協会の翻訳を参考にしています)

イスラム国がこの句の引用で言いたいのは、「ぼーっとしていないで、早く敵を殺せ。そうすれば天国に行かれる。」ということです。

神のために戦え!と言っているわけですから、この句がメイ首相の言うように「憎しみを説き、分裂の種を蒔き、宗派主義を推進する」ものであると言えなくもありません。

・・・というか、イスラム国はそのもっぱらその趣旨でこの句を引用しています。

一方でメイ首相は、イスラム過激主義が「イスラムからも真実からも逸脱している」とも断罪しているわけですが、これは難しい問題です。

これは、というか、これこそが最大の難題です。

なぜなら今みたように、この「憎しみを説き、分裂の種を蒔き、宗派主義を推進する」イデオロギーの根拠になっているのが、『コーラン』だからです。

『コーラン』はイスラム教徒にとっては神の言葉そのものであり、信仰の根幹をなすものです。

イスラム過激派にとってだけではなく、すべてのイスラム教徒にとって、『コーラン』はそうした特別な、比類ない価値をもっているのです。

たとえば、イスラム教徒といえばお祈りをすることで知られていると思いますが、このお祈りをする根拠も『コーラン』にあります。

お祈りについての言及はたくさんあるのですが、たとえば次のような句があります。

【それで、夕暮にまた暁に、アッラーを讃えなさい。 天においても地にあっても、栄光はかれに属する。午后遅くに、また日の傾き初めに(アッラーを讃えなさい)。】(『コーラン』ビザンチン章17節〜18節)

何が言いたいかというと、同じ『コーラン』を根拠としているにもかかわらず、礼拝をするイスラム教徒は「穏健なイスラム教徒」で、戦いを奨励するイスラム教徒は「過激派イスラム教徒」だと判断するのは、現状ではひとえに

「こちらの都合」

だということです。

『コーラン』は比類なき価値を持つ神の言葉だとはいえ、世界に16億人いるイスラム教徒の全員が、常日頃からその章句に慣れ親しんでいるわけではありません。

つまり、毎日礼拝をしているからといって、それが『コーラン』のどこにどのように記されているか
、などということは、特に意識することなく多くのイスラム教徒は暮らしているわけです。

これまでのイスラム教徒にとっては、『コーラン』の章句というのは集団礼拝の説教師から聞く程度のもので、これらの説教師は基本的には国によって説教内容を管理されていることが多いため、イスラム過激派が好んで引用するような「憎しみを説き、分裂の種を蒔き、宗派主義を推進する」と解釈されうる章句は回避される傾向にありました。

インターネット以前の時代においては、当局が、恣意的に、「広めたいイスラム」を広めることができたわけです。

ところがインターネットが普及し、簡単に『コーラン』の章句を各国語で目にしたり、その細かな意味をひもといたりすることができるようになり、過激派は『コーラン』を引用するかたちで「憎しみを説き、分裂の種を蒔き、宗派主義を推進する」イデオロギーを直接人々に届けることができるようになりました。

『コーラン』は神の言葉ですから、そこに書かれていることは真実です。神が命じていれば、その命令は何が何でも正しいのです。

これは、私が決めたことではありません。

イスラム教徒自身が決め、守ってきた、イスラムという宗教の絶対的ルールなのです。

要するに、メイ首相や私のような「よそ者」が、「イスラム過激主義はイスラムに反する!」とか「真実に反する!」とかいくら叫んでみても、問題の根本的な解決にはならないのです。

この絶対的ルールを遵守したまま、『コーラン』と「憎しみを説き、分裂の種を蒔き、宗派主義を推進する」イデオロギーとを決別させ、イスラム過激派による『コーラン』の「悪用」を終わらせるには、なによりもイスラム教徒たち自身の努力が不可欠なのです。

日本時間の今朝、イギリスのロンドンの二箇所で車による突進とナイフによる攻撃が発生し、警察が双方をテロと断定しました。

警察発表によると、死者は6人とされています。

犯行声明は、まだどこからも出されていません。
イギリスでは5月22日に、マンチェスターのコンサート会場で大規模テロが発生し、22人の方が亡くなったばかりです。

いみじくもイスラム国は今回のテロの2日前、広報誌において、「マンチェスターの攻撃はキリスト教諸国への新たな教訓である」という記事を掲載し、その中で「イギリスが不信仰にとどまる限り、我々は必ずや攻撃を継続する」と記していました。
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また、テロの前日には「ラマダンを利用して、キリスト教徒の市民を殺し、車で轢こう」と、改めて呼びかけを行ってもいました。
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イスラム教徒たちの暦においては、今はラマダン月という月の真っ只中です。

この一ヶ月間、イスラム教徒たちは日中の飲食を絶ち、いつも以上に善行に励むのが通例です。

一方で、前回の記事にも記したように、イスラム国のようなイスラム過激派は「最大の善行=敵の殺害」と規定しているため、ラマダンを「戦いの月」と位置づけ、いつも以上に敵を殺そうという呼びかけを強化します。

イスラム国がこれまで最大の拠点としていたイラクのモスルでは、イラク軍による掃討作戦が最終段階に入り、もはやイスラム国の支配領域は数平方キロメートルという状況にあります。

先ほどイスラム国が公開したモスルのビデオでは、そうした追い詰められた状況にあっても、戦闘員たちが粛々と戦い、コーランをよみ、祈りを捧げる様子が映し出されていました。
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こうした映像は、世界中にいる支持者の心を揺さぶり、「自分も何か行動を起こさなければ!」と思わせる十分な効果を発揮します。

イギリスでテロが連続して発生し、その他にもフィリピンやアフガニスタン、イラクのバグダードなどで大規模テロが相次いでいる背景には、このラマダンが間違いなくあります。

イギリスの首都警察は今回のテロの発生をうけて、ツイッターの公式ページにテロに遭遇した時の簡明なマニュアルを掲載しました。
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「逃げろ!隠れろ!電話しろ!」とあります。

テロに遭遇したら、とにかく安全な場所に逃げる。犯人に屈服したり交渉したりするより、これが最善の策だ、とされています。

そしてもし逃げ場がなかったら、隠れる。携帯をサイレント・モードにして、バイブも切る。できるだけ自分を守れ、とあります。

最後に、それができる状況にあるならば、999に電話しろ、とされています。

この手のテロは、世界中の全員の人間をターゲットにしており、世界中の全ての場所で発生しえます。ですから、世界中の全ての人が、こうしたテロに遭遇する可能性があるわけです。

私たち日本人も、この「逃げろ!隠れろ!電話しろ!」というマニュアルくらいは、頭に叩き込んでおいて損はないと思います。

マンチェスター・アリーナで発生した爆弾テロについてさきほど、イスラム国が犯行声明を出しました。
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次のように記されています。

「神の恩恵とお支えを得て、イギリスの街(マンチェスター)において、カリフ国の兵士のひとりが十字軍兵士たちの集団の中心部に爆弾をしかけることに成功した。これは神の宗教のための復讐であり、多神教徒たちを恐怖におののかせるためであり、イスラム教徒たちの土地における彼らの罪への報復である。爆弾は恥知らずな祝宴のための建物(アリーナ)で爆発し、約30人の十字軍兵士を殺害、約70人を負傷させた。神のお許しのもとに、十字架の信奉者たちとその同盟者たちに次におこることは、より苛烈で、より甚大な被害を与えるものとなるだろう。全ての祝福は創造主たる神に属する。」

イギリス当局は自爆の可能性も疑っているとのことですが、声明では仕掛爆弾だとされています。

ただこの程度の齟齬は、この世界では「誤差」にすぎません。

実はこの爆発の直後から、イスラム国支持者らの間で、犯行予告と思わしきビデオが出回り始めました。

覆面をした男が神を祝福し、「イスラム国のライオンが全ての十字軍兵士たちへの攻撃を開始する」と述べ・・・
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その後、「神は偉大なり!」と繰り返し言いながら、「manchester 2017-05-22」と書かれた紙を掲げます。
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このビデオにうつっているのが実行者や協力者のものなのか、またこれが犯行予告なのかどうかについては、まだはっきりしていません。

ちなみに、日付の下にはアラビア語で「神は偉大なり」とあります。このアラビア文字の書き慣れていないっぷり、メッセージに含まれるアラビア語単語の発音の下手っぷりからは、当人がアラブ人ではないか、アラブ系だとしても欧米生まれであることがうかがえます。

今回の声明の最後にある「次はより苛烈なものになる」というフレーズは、イスラム国が大規模テロを成し遂げた後に出す声明文でよく使われるものです。

ですが、今回に限っては、これを単なる常套句として見逃してはなりません。
というのも、今週末(27日頃)からラマダンが始まるからです。

ラマダンというのは、イスラム教徒が日の出から日没まで飲食を断つ月のことですが、イスラム教徒が信仰心を高揚させ、「いいこと(善行)をしよう!」と励む月でもあります。

イスラム国やアルカイダのような「イスラム過激派」にとって、最高の「善行」はテロです。

例年、イスラム国やアルカイダはラマダン前になると、「ラマダンの間にたくさんテロしよう!」という呼びかけを熱心に行っており、今年ももちろんその例外ではありません。

既にイスラム国の外国人戦闘員やビンラディンの息子が、欧米での攻撃を実行しようと促すビデオを出しています。

昨年のラマダン期間も世界中でたくさんのテロ事件が発生し、7月1日にバングラデシュで発生したテロでは日本人7人が犠牲になりました

今年のラマダン期間中も、世界のどこかでイスラム過激派によるテロが発生する可能性は否定できません。

と、ここで再びマンチェスターの事件に戻りますが、ここ数年ヨーロッパで発生したテロの中でも被害の規模は大きいと言えます。

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また個人的には、今このタイミングでアリアナ・グランデのコンサートを狙ってきたというところに、特別な恐ろしさを感じます。

タイミングというのは、トランプの中東歴訪・・・というのもありますが、日本でも今まさに大ヒットしている映画「美女と野獣」のテーマ曲を歌っているのがこの、アリアナちゃんです。

世界中の少なからぬ人々が今後、「美女と野獣」→アリアナ・グランデ→テロと連想するようになるのかな・・・というのは、私の考えすぎかもしれませんが。

幸い、アリアナちゃんに被害はありませんでしたが、犠牲になった人々の中には8歳の女の子もいるそうです。

ご冥福をお祈りします。

非常に残念なお知らせですが、ここ数日、イラクの過激派組織「イスラム国」に復興の兆しがみえます。

イラクでイスラム国が最大拠点としてきたモスルに対する奪還作戦が開始されたのが、2016年10月17日。もうすぐ200日が経ちます。

2017年1月25日には、モスルの東岸からイスラム国戦闘員を完全に駆逐したと、イラク政府が発表しました。
ところがその東岸で今月21日、再度自爆テロが発生し、市民ら18人が死傷しました。
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つまり、東岸からはイスラム国戦闘員はまだ一掃されてはおらず、戦闘員が潜伏し、自動車爆弾による自爆テロを行う力を温存していたということです。

モスル東岸解放宣言がなされてから3ヶ月。避難していた住民も徐々に帰還し、シャワルマ(ケバブ)屋さんが営業再開とか、ヴァイオリニストが活動再開とか、明るい話題が続くさなかの自爆テロでした。

この3ヶ月間、西側から迫撃砲が飛んでくるくらいのことはありましたが、自爆テロは初めてです。

さらにこの数日間で、まだ戦闘が続いているモスル西岸でも、イスラム国が一度は奪われた地区をいくつか奪還しました。
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イスラム国は、奪還したとするバーブットウブ地区を撮影したビデオも公開しています。
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奪還した。。。とは言っても、破壊され尽くされているのでこんな感じなのですが。

奪還宣言を行う戦闘員たちです。
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手前から二番目の戦闘員。寄ってみると。。。
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たぶん、欧米人ですね。。。

イスラム国は戦闘員の多くを、モスル市民に紛れ込ませてシリア方面に脱出させたと言われていますが、見た目に明らかに「外人」だとわかる戦闘員は、モスル市民のふりをする作戦が使えないため、モスルに残留するしか道がないのです。

一方、一番奥の戦闘員に寄ってみると。。。
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たぶん、10歳くらいの子供、少年兵です。

イスラム国は建国当初より子供に対する軍事訓練を熱心に行ってきましたが、ここまで最前線に少年兵が投入されるようになったのは、モスル奪還作戦開始以降です。

このビデオの撮影中も、彼だけはずっと下を向いたままで、そこに彼の心情が垣間見える気がしてしまい、胸が苦しくなります。。。

この戦いで、イスラム国はイラク軍の装備品、武器弾薬の類もそっくりそのままいただいたとのこと。
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これがまた、イラク軍兵士を殺すのに使われるという皮肉。。。

ところでイラク軍は、モスル西部もすでに60%は奪還し、イラク全体でみても、イスラム国が支配する土地はイラク全土の7%にまで減少した、としています。

下の地図で黒く塗られた部分が、イスラム国の今の支配領域です。
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しかし、イスラム国が攻撃を実行しているのは、この黒い地域にとどまりません。

こちらは、ここ1ヶ月間にイラクで発生した主な治安事件を示した地図ですが・・・
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首都バグダードを始め、サーマッラーやディヤラでも大規模な攻撃を行っていることがわかります。

サーマッラーの東にはジャラムという砂漠地帯が広がっており、イスラム国はここの地元部族に深く食い込み、拠点を築いているとされています。このエリアは砂漠だけに、治安当局はどこにイスラム国の拠点があるのかすら掴めていないと言われています。

一方、イスラム国はモスルの戦闘員の多くをすでにシリアに移動させたのですが、シリアで最大の拠点としてきたラッカも有志連合の空爆で危険にさらされているので、ラッカの南東にあるイラク国境近くのデリゾール(Deir Al Zor) に、首都機能を移転済みだとされています。

モスルのほとんどを失いながらも、防衛戦に終始することなく一部の地域を奪還、さらに遠隔地にまで攻撃の手をのばしていること、モスルからラッカ、デリゾールへと首都機能を移転させていること、指導者であるカリフ、バグダーディーも数ヶ月前にデリゾール方面に脱出し、健在だと伝えられていること・・・これらのみを考慮しても、イスラム国が力を失ったと安心するのは時期尚早であるといえます。

アメリカの保険関連会社Aonが、テロのリスクに関する最新のリポートを発表しました。

これによると、2016年に全世界で発生したテロは4151件。2015年の3633件から、14%増加しています。
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増加率が特に高いのが西側諸国で、2015年にはテロ発生件数35件だったのが、2016年には96件。3倍近くに増えています。

そして昨年特にテロが多く発生したのが、ドイツです。

2015年のテロ発生件数は2件のみ、しかも犠牲者は出なかったのに比べ、2016年のテロ発生件数は17件、犠牲者数も12人にのぼっています。
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ヨーロッパのみに限って犠牲者数の推移をみると、2016年より2015年のほうが数は多いです。しかし波はあるものの、この7年間に非常に多くの方がテロの犠牲になっていることがわかります。
犠牲者数

テロのリスクの高低を世界地図に落とし込んだものが、こちらです。

世界地図

「テロのリスクがない」とされているのが、グリーンで示された国々。ヨーロッパではノルウェーやオーストリア、スイスなどがグリーンに分類されています・・・が、先日ノルウェーのオスロでは爆弾が発見されました。


「テロのリスクが低い」とされているのが、イエローで示された国々。我らが日本のほか、韓国やオーストラリア、アメリカ、韓国などがここに分類されています。

日本とアメリカのテロのリスクが同程度、というのは個人的には納得しかねるところもありますが、アメリカの保険会社だからでしょうかね。。。

「テロのリスクが中程度にある」とされているのが、薄いオレンジで示された国々。中国やロシアの他、ベルギーやフランスなどがここに分類されています。私がかつて留学していたモロッコも、ここです。

「テロのリスクが高い」とされているのが、濃いオレンジで示された国々。身近なところでは北朝鮮、インドネシア、他にはトルコ、インドなどもここに分類されています。

私が4年間住んでいたエジプトは、ここです。

生きて帰ってこられてよかった。。。

最後に、「テロのリスクが非常に高い」とされているのが、赤で示された国々。シリア、イラク、バングラデシュ、アフガニスタン、パキスタンの他、スーダン、リビア、マリ、ナイジェリアといったアフリカ諸国が多く含まれています。

こうして改めてみると、やはり中東アフリカ地域に最も危険な国が集中しており、そこから離れると少し危険性が低下する、という傾向が一目瞭然です。

しかし、テロのリスクがほとんどない国っていうのは、少ないものですね。

みなさーん!日本から一番近いところにある低リスク国はブータンですよー!

これから学生さんには、海外旅行先としてブータンでも勧めるか。。。

と、少し脱線しましたが。

同リポートによると、2016年に最も多くテロの標的となったのは、個人や個人の資産であり、それらを狙ったテロは1342件発生しました。次に多く標的とされたのは軍ですが、件数は799件。第3位は公共の集会で、714件。

世界中でテロが増加していることだけではなく、その刃が無辜の市民にむけられている現実を再認識させられます。

昨日4月9日、エジプト北部にある教会2カ所で立て続けに自爆テロが発生し、47人が死亡、100人以上が負傷しました。

エジプトはイスラム教徒が多数を占める国ですが、国民の1割ほどはコプト教というキリスト教の一派を信じています。エジプトのコプト教徒は、中東に存在するキリスト教コミュニティーの中では、最大の勢力です。

今回標的にされたのは、このコプト教徒の教会で、彼らが聖枝祭を祝う儀礼をとりおこなっている最中に自爆テロが発生しました。

犯行声明を出したのは過激派組織「イスラム国」で、声明文には、2人のエジプト人「同胞」(「兵士」ではありません)がタンターとアレクサンドリアにある教会でそれぞれ自爆し、190人のキリスト教徒を死傷せしめた、と記されています。
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実はアレクサンドリアの教会の入り口で自爆テロが発生した瞬間、エジプトのコプト教会のトップであるタワドロス2世はその教会の中にいました。

治安部隊員が自爆ベルトを装着した男を不審者とみて制止したため、男は入り口付近で爆発したと伝えられています。

もし教会内で自爆していたら、前代未聞の「教皇爆死」という事態が発生していたかもしれません。

イスラム国は教皇暗殺を狙っていた、と考えられます。

イスラム国は昨年12月に発生したカイロのコプト教会での自爆テロについても、犯行声明を出しています。

いみじくも先ほど彼ら自身が、「イスラム国がエジプトのキリスト教徒に対して実行した3つの攻撃」と題するグラフィックを公開しました。
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合計80人以上を殺害したとされています。

改めて確認しておきますが、エジプトにはイスラム国の支部があります。

地元の武装勢力アンサール・バイトゥルマクディスが2014年11月にイスラム国入りを宣言、それ以来シナイ半島を中心に、エジプト全土でしばしばテロ事件をおこしてきました。

エジプトに限らず、世界中のイスラム国支部や戦闘員、シンパらは、軍や治安当局者、政治家などを標的として攻撃していますが、彼らが強い敵意をむき出しにする標的のひとつが「異教徒」です。

なぜなら彼らの教義においては、「異教徒」は無条件で直ちに殺害すべき対象とされているからです。

(厳密にいえば、イスラム国の統治に服し人頭税を支払うキリスト教徒には、生存権が与えられます。)

エジプトのイスラム国も様々なテロ事件をこれまでおこしてきましたが、この半年間のコプト教会に対するテロは3件ともが自爆であり、死傷者数も非常に多いという点で際立っています。

他にもイスラム国はコプト教徒を誘拐して惨殺するという犯罪行為を繰り返しており、シナイ半島からは多くのコプト教徒がそれを恐れて移住してきてもいます。

エジプトでは古来より、イスラム教徒とキリスト教徒が互いを「当然の存在」として共存してきました。

歴史的にもほとんどの時代において、イスラム教の専門家は「異教徒」を迫害するより、うまく共存することを共同体全体の利益と考え、イスラム教の教義をその方向で解釈してきました。

イスラム国の恐ろしいところは、そうした解釈や知恵の全てを「イスラム教の歪曲」であるととらえている点です。

今回のテロを受け、エジプトのイスラム教の権威の一人であるアズハル総長は、「テロがエジプトのイスラム教徒とキリスト教徒を引き離すことはない」と述べました。

近年エジプトの国力はどんどん弱体化し、その影響力も低下の一途をたどっていますが、本当に頑張ってほしいです。いろんな意味で。

記事の更新をものすごく怠っていて、申し訳ありません。。

まずは、お知らせです。

イスラム国以外のネタについて、こちら(ホウドウキョク)でも書くことになりました。

イスラム国のことも、そのうち書くかもしれません。

私はアラビスト兼イスラム研究者で、中東やイスラムについて教えたり、書いたり、話したりするのを生業としていますが、今更のように気づいたことがあります。

それは、「世の人々の、中東やイスラムに対するアレルギーはかなり強い」ということです。

そんなことについては知りたくもない、そうした情報は不愉快である、といった反応を示されることもあります。

そうした方が少なからずいらっしゃるということを認識した上でなお、私は次のように言いたいと思います。

「2075年までに、イスラム教徒は世界最大の勢力になります。」

これは、私の妄想ではありません。

先日発表された、ピューリサーチセンターのリポートで示された予測です。

同リポートによると、2035年までにイスラム教徒の出生数はキリスト教徒の出生数を上回り、その後その差はどんどんと広がります。
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その結果、2060年までには、イスラム教徒とキリスト教徒の総数はほぼ拮抗することになります。
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同リポートは2060年までの予測をたてたものですが、これを踏まえると、2075年までにはイスラム教徒は世界最大の宗教勢力になる、と予測してもいます。

現在の世界の人口は約70億人。

うち31%がキリスト教徒、24%がイスラム教徒です。
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2015年から60年にかけて、ほぼ全ての宗教人口が増加するのですが(我ら仏教徒のみが減少します)、ぶっちぎりの増加率を示すのがイスラム教徒です。
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その結果、2075年までにはイスラム教徒が世界最大勢力になる、とされています。

ただ、イスラム教徒といっても、世界人口の多くはそもそもアジア太平洋地域に集中しているので・・・
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中東人が爆発的に増えるかというとそうではないのですが、とにかく、イスラム教徒はこれからもどんどん増えます。

唯一神に帰依し、預言者ムハンマドを信じ、『コーラン』を神の言葉そのものとする人々が、世界で最大の勢力を構成する時代がそう遠くない未来にやってくるのです。

だから、イスラムについて知ることが大切なんだ!なんて説教するつもりは全くありません。

そういう時代が一歩一歩着実に近づいてきているという、それ自体が言いたかっただけです。

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