(上)からの続き
住民との接触阻む警備員

 松下大臣は本当に自殺したのか。報道以外の情報を集めようと、筆者は自宅のあるマンションの住民に聞き込みを試みた。埋め立てして再開発された地区には数本の高層マンションが立ち並ぶ。しかし、松下氏の自宅のある建物だけ、紺色の制服を着たガードマンが複数人立つ。ほかの棟とは別格の対応だ。

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通報を受けたはずの湾岸警察署は、なぜか門前払いする(2012.9.14、高橋清隆撮影)

 わたしがタクシーから降り、カメラのレンズをマンションに向けると、一人のガードマンが走り寄る。
 「駄目、駄目、撮影禁止だから」
 マスコミ各社は映像・画像入りで伝えていた。事後に禁止したと思われる。玄関ホールに近づくと、ガードマンが2人ブロックしに来る。どうせマニュアル通りに詰問され、異議を唱えれば警察に連絡するという仕掛けだろう。警備会社の役員は警察庁の天下りで構成され、政府の補完機能を果たす。
 
 筆者は裏口に回り、先に出てきた住民に声を掛ける。
 「10日の日、不審な人物を見掛けませんでしたか」
 「いや、見てない」
 「外人の集団などはいませんでしたか」
 「知らない」

 3組声を掛けたが、「見てない」「出掛けてたと」応じてくれない。ガードマンが集まってこちらを見詰めている。無線機か携帯を取り出してざわつき始めた。彼らは一体、誰から何を守るというのか。肝心な人物はもう、命を落としたのに。真相の解明こそ、住民の最大の安心材料ではないか。

一切対応しない警察

 伝えられる事実関係の矛盾点を解明するため、湾岸警察署に向かう。署の受付で大臣の「自殺」事件について話を聞きたいと言うと、「副所長が担当者になるから」と待たされる。しばらくすると別の人間が降りてきて、「警視庁の広報課を通してくれ」と言われた。

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警視庁。広報課の職員は「一切対応できない」の一点張り(2012.9.14、高橋清隆撮影)

 筆者は記者クラブに所属しないフリーの立場だから、こうなるのかもしれない。以前も別の事件で、同様の対応を取られた。タクシーとゆりかもめ、地下鉄を乗り継いで、警視庁に移動する。

 受付で「取材依頼をしたい」と告げると、女性が内線連絡する。すると、「何の事件ですか」と聞かれる。件名を伝えると、「湾岸署に言って聞いてください」と告げられる。たらい回しだ。「向こうで『こちらに』と指示されたから言われた通りにした」と返すと、「いきなり来られても困る」と言う。これが「いきなり」なら、湾岸署員がその場で連絡を取るべきではないか。

 「じゃあ、どこに聞けばいいのか」と抗議すると、女性はさじを投げた。「直接、話をしてほしい」と受話器を電話ごと筆者に差し出す。担当者が「湾岸署にこちらに来るよう言われたのか」と聞くので、「こちらを通してくれと言われた」と答える。取材依頼書を提出してほしいのだろう。事案名と質問項目を書くと、「警察が広報に資すると判断した場合に回答」してくれる。クラブに加盟しない記者が情報をもらう一つの手段だ。

 ところが、男は「その件は捜査中で、対応していない」と答える。筆者は思わず、「えっ、まだ捜査をしてるんですか。『捜査を打ち切った』と報じられてますが」と返す。ばつの悪い声で、「それも含め、まだお答えできない」と応じ、「うちでは対応していない」と重ねる。わたしが「どこで対応しているのか」と食いつくと、担当者は下階に降りてきた。

 筆者は捜査が終わったのかどうか、妻が鍵を開けて入ると首をつっていたとの報は確かかとただす。部下を1人伴った大柄な男は、「大変申し訳ないが、その事案については対応していません」と釈明する。「なぜ」と尋ねると、同じ言葉を繰り返す。「湾岸署が発表したんですか。そう書いた社もある」と言うと、「湾岸署でも発表はしてない、自殺は」と断じる。

 「…自殺は」と添えたので、「自殺は発表対象にならないんですか」とただす。すると、慌てて「自殺はというわけでなく、この件は」と訂正する。「自殺の方が誤解も生まれにくいし、捜査を終えたなら発表しやすいじゃないですか」と質問すると、「この事案は対応してないんです。プライバシーにもかかわることだし」と続けた。女性問題で自殺という最悪の結果になったのに、沈黙によってどんなプライバシーを守るというのか。説明機会を増やす方が名誉回復につながるではないか。

 広報課の言う通り、発表してないのかもしれない。各社記述が共通するのは、消防から情報を得た可能性もある。幾つかの新聞に「警視庁湾岸署などによると」「警察関係者によれば」との記述が見られるが、マスコミはオフレコで情報をもらったときに、こういう書き方をする。公には「発表してない」と言うことになる。なぜ、この案件だけできないのか。不信感だけが増した。

(下)に続く