アベノリスク 日本を融解させる7つの大罪
アベノリスク 日本を融解させる7つの大罪 [単行本]

 経済学者の植草一秀氏による第二次安倍政権の政策批評。マスコミに持ち上げられる「アベノミクス」が、参院選後に地獄を用意していることを告発する。

 同書が出されたのは7月3日。帯に「緊急出版」とあるように、著者は「地獄行き」を回避するために書いた。前書きで「今度の参院選では主権者が日本の最重要問題について最終判断を示すべきです」と語りかけている。

 この書評を書いているのは参院選投票日だが、残念ながら悪い予感は当たりそうだ。メディアが安倍自民党とその補完勢力しか宣伝しないからである。

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 インフレ誘導策は「第一の矢」だが、インフレは一般の労働者や富裕でない高齢者、年金生活者にとって百害あって一利ない現象である。得するのは企業と借金者。 P.クルーグマンの「インフレ目標政策」は企業の実質賃金を引き下げるために考え出された。インフレ率の上昇は、借金も軽くする。日本一の借金王は財務省である。
 
 財務省のよる日銀支配の企ては露骨だ。植草氏によれば、15年近く前から「デフレ」という言葉を流布させたのは旧大蔵省とみられる。「デフレ」には物価下落と不況の2つの意味がある。景気低迷の原因を物価の問題にすり替えて、日銀の責任にしてしまおうとの魂胆だ。

 この仕事をさせるために安倍政権は黒田東彦(はるひこ)氏を日銀総裁として送り込んだ。1998年以来の天下り先の奪還である。財務官僚が日銀に目くじらを立てる理由は「それなりに権力があるのに、給料も高い」ことだという。意外に説得力を感じた。

 2014年4月から始まる消費税引き上げは、最終的に毎年13.5兆円を奪い取り、1997年の橋本増税以上の打撃を国民生活に与える。「アベノミクス」が13兆円の補正予算を組んだのは事実だ。しかし、増税実施の是非は13年4−6月期のGDP統計の数値を見て13年秋に最終決定するとしている。補正が一気に執行される期間に当たり、増税のために編成された疑いが濃厚だと指摘する。

 TPPは農業だけでなく、すべての産業分野に打撃を与える。それどころか、国家主権も取り上げられそうだ。安倍氏は昨年12月、「聖域なき関税撤廃を前提とする限りTPP交渉には参加しない」と明言して選挙に臨んだ。しかし、3月15日、交渉参加を表明。オバマ大統領と会い、「聖域なき関税撤廃を前提としない」了解を取りつけたというのが理由だ。植草氏はこの点を厳しく糾弾する。

 「私は、このような言葉の綾を利用するような政治の手法が、この国を劣化させている最大の原因であると感じています」「このような、人をいかにして合法的に欺くかを競うような手法を肯定する社会が良いものであるとは思えません」

 政治不信をまん延させているのは、こうした狡猾(こうかつ)な手法ではないか。

 福島第一原発事故の影響は、現在進行中だ。内部被ばくの症状が現れるには、少なくとも10年から20年はかかる。政府がIAEA(国際原子力機関)に提出した報告書は、広島原爆の168発分であることを明かしているという。米国が広島に原爆を投下した際、原爆傷害調査委員会(ABCC)を設置したが、被爆者のデータを集め、日本には提供してない。

 国民が主権者ならすべての情報を示せるはずだし、原発再稼働の方針を首相が勝手に表明できるはずはないと植草氏は説く。

 官僚腐敗の項で胸にすとんと落ちたのは、勝栄二郎財務次官の異例の再就職先についてである。勝氏はIIJというIT企業に天下ったが、安倍政権は補正予算で独立行政法人情報通信研究機構施設整備費として500億円の予算を計上していた。ネット選挙が解禁され、マイナンバー法案も通り、今後の大幅な財政支出増加が見込まれる。

 最も深刻な問題は、戦争への誘導だ。7月の参院選の結果、改憲勢力が参院でも3分の2議席を確保すると、まず96条が改変され、次に衆参過半数の発議で今の自民党草案に近い改正案が各条文ごとに上程される可能性が高まる。

 憲法はそもそも、人権を守るために、国家及び国家権力の暴走を防ぐ役割を担う。植草氏はこのことを踏まえた上で、自民党憲法草案の危険性について次のように指摘する。

 「立憲主義の原理に立つ現行憲法では、憲法が国民を統制する、あるいは縛る条文が基本的にないのですが、自民党草案では、『国家権力が国民に対し権利や自由を付与する』が、『それはあくまでも、国民に課す義務の見返りである』とのスタンスが色濃いのです。つまり、国家が国民の上に立ち、国民を縛る取り決めとして憲法を定めるという逆立ちした精神構造が、はっきりと姿を現しているのです」

 米国の産軍複合体は10〜15年に1度、大規模局地戦争を必要とするが、日本を戦場とする可能性を排除していないと指摘する。米軍が2010年に公表した「エア・シー・バトル(空海戦闘)という統合作戦の新構想は、日太平洋地域における有事に際して米国が、自軍をいったんグアムなどに後退させた上で戦闘を行うスタンスを示しているからである。

 連日テレビから流れてくる反中、反韓報道に同調するのがいかに自滅的な振る舞いであるかが分かる。石橋湛山(たんざん)首相は蔵相時代、GHQの駐留経費を大幅に削減したため公職追放された。植草氏は彼の振る舞いこそ「真の愛国者の姿」であると強調し、次の言葉で同書を結ぶ。

 「強い者にはひれ伏して、自分より格下と見る相手には高圧的に振る舞うのは真の愛国者ではありません。しかし、残念なことに、日本の多くの政治家がこの行動をとり続けてきました。その結果、日本は対米従属・対米隷属から抜け出すことができず、今なお、真の独立を回復できていないのです」

 甘い言葉に包まれて国民を痛めつける経済政策が行われるのは、歴代首相が植民地総督にすぎないからではないか。一人でも多くの国民が同書を読み、覚醒されることを望む。