近年、メイド姿の若い女性がメディアに登場するようになった。フリルの付いたエプロンドレスをまとい、「ご主人様、お帰りなさいませ」と応じる。女子店員にこの格好をさせたメイド喫茶が東京・秋葉原の名所として定着し、メイド姿のグラビアアイドルが週刊誌を彩るのは珍しくなくなってきた。しかし、わたしは少しもときめきを感じない。わが国の悲惨な近未来を予言するように見えてならないからである。

メイド姿の繁殖と米国財界の要求
 メイドを生理的に受け付けないのは、その様式が日本のものでないからだろう。わが国に女中や家政婦がいた歴史はあるが、あのような格好はしていない。普通の日本人には無縁な存在である。ネットニュースや漫画にメイド姿が繁殖するようになったのは、何か魂胆があるに違いない。

 在日米国商工会議所(ACCJ)が2006年に発行した『ビジネス白書−−相利共生』には、わが国への改革要求が赤裸々につづられている。「人的資源」の章では、少子高齢化社会での国内労働力を補完するものとして、未熟練労働者や単純労働者を含めた移民の活用を挙げている。その中で、女性が出産や育児、介護に縛られずに働けるよう外国人ホームヘルパーの導入を推奨し、次のように課題を示す。

 「育児や高齢者介護の負担を和らげる外国人ホームヘルパーが就労ビザを取得するために、その家庭が雇用主になることができない。その結果、再就職を希望する女性が、それを実現できないことも少なくない」

 その上で、提言として4つの対象者に就労ビザ給付の簡素化を求めている。その中の一つである。

 「日本人および外国人の家庭で就労するホームヘルパー」

 ACCJはわが国の労働力不足を心配してくれているようだが、総人口に占める生産人口の割合は50年間、ほとんど変わっていない。名目の一人当たり生産性は過去30年間に約3倍に伸びているから、前提から誤っている。わたしは女性の就労こそ少子化の最大の原因と認識しているので(国立社会保障・人口問題研究所が2006年に公表した調査結果では、男女雇用機会均等化が子供数減少の決定的要因と指摘)、提起された問題自体に取り合うつもりがないが、ほかの女性に育児を頼むなら、その人の子は誰が面倒見るのだろう。経済力の劣った国の女性ということか。他国における女性の人権状況にいつも注文をつける米国の主張に反するではないか。

 しかも、家族の大切な機能を奪うことにもつながる。「日本人および外国人の家庭で」と提言にあるように、米国人は直接雇用により、安上がりのメイドを調達できれば満足なのかもしれない。しかし、われわれ日本人の子供が日本語も話せない、慣習を無視した外国人女性に育てられれば、一世代で伝統が断絶しかねない。子供は母親をまねて、はしの持ち方から近所の付き合い方まで学ぶのだから。

メイドの地位向上と日本の没落
 米国からの要求に沿う形でメイドブームに火を付けているのが、日本メイド協会である。ホームページによれば、この協会は国内唯一のメイド関連事業者の団体で、メイドの普及と育成、社会的地位の向上のための活動を行う。その一環として2007年10月から始めたのがメイド検定。検定の目的を次のように規定する。

 「19世紀のイギリス、ヴィクトリア朝時代に花開いたメイド文化をベースにし、メイドの知識・教養を高め、ご主人様(お嬢様)へ仕えるスキルを養いつつ、メイドとして積極的にホスピタリティを発揮したい人を育成するため」

 注目したいのは、この検定が遊びではないこと。1、2級の合格者は本物のメイドとして、協会に加盟する法人会員に仕事のあっせんを行うとしている。理事長の小野哲也氏はメイド服専門店を経営するほか、メイドによる自宅清掃サービスやメイド店員をそろえた眼鏡店も手掛ける。会長はコスプレ雑誌編集長、メイドを主人公にした作品を描く漫画家などが理事会に名を連ねる。これらの業種から、「地位の向上」にこだわる動機と、それを可能にする技術が垣間見られる。

 グラビアアイドルが身に付けるメイド服は丈が異常に短く、本来の衣装ではない。長身で美顔のモデルがほほ笑む姿は、他人の家に住み込んで尽くすだけの存在という、暗くみじめなイメージを消し去っている。地位向上のPRが進めば、そのうち女の子の「なりたい職業」の上位に食い込むかもしれない。しかし、ご主人に完全に従順になることを目標とする「職業」が、あこがれる存在であっていいのだろうか。

 メイドの自宅サービスに縁があるのは、どういう人たちだろう。わが国は規制緩和と緊縮財政による自滅政策によって、没落の一途をたどっている。郵政民営化によって国民の虎の子350兆円は国際金融市場にさらされ、三角合併の解禁でハゲタカの襲来に手をこまねく。政治資金規制法が改正され、すでに外資企業が政治を指図できるようになった。社会保険庁の民営化で、約200兆円ともいわれる年金基金も理由を付けて外国の手に渡るだろう。2010年に償還を迎える政府保有の米国債104兆円はサブプライムローンの焦げ付きを口実に踏み倒されようとしているし、ほかの政府金融資産も「政府ファンド」の名の下に横取りが企てられている。

 一方で国民監視は強まっていて、人権擁護法案や児童ポルノ禁止法案が通れば、すでに施行されている盗聴法も手伝って不満分子はいくらでも逮捕できるようになる。

メイドの受益者と提供者
 1993年と1994年に世界一だったわが国の一人当たりGDPは、2006年に18位まで落ちた。あるシンクタンクの試算によれば、日本と中国のGDPは遅くとも2012年に逆転する。そうなれば、わが国はメイドの輸入国でなく、輸出国になるはずである。インターネット雑誌に、中国で日本式のメイド喫茶が誕生しているとの記事があった。「お帰りなさいませ、ご主人様」と日本語で出迎えてくれるそうだ。これは未来を暗示した皮肉ではあるまいか。

 北米500局以上で放送されている非営利の独立系ニュース番組『Democracy Now!』のサイトによれば、ハイチでは9歳の少女が50ドル(4900円)で売買されているという。オーストラリアでは先住民族のアボリジニの少女が白人家庭に預けられてきた。妊娠して子供が生まれると、男の場合は殺し、女の場合は性玩具として養う。政府があっせんし、肌が白くなるまで繰り返される。この制度は1980年まで存在した。これが対岸の火事と言い切れるだろうか。

 折しもマスコミは児童虐待を一生懸命に報じ、親子の分断を図っている。改正児童虐待防止法を根拠に親から取り上げた子供の受け皿の一つとして政府が取り組むのが里親制度である。1カ月10万円あまりの委託費を支給された家庭が他人の子供を育てる。厚労省は「社会的擁護が必要な子供」の里親利用率92%を誇るオーストラリアをモデルに、これを15%に増やす目標を掲げる。オーストラリアが高いのは、アボリジニの「擁護」が反映している。わが国で外国人参政権が認められ、富裕な外国人家庭が増えれば、日本人女性が奉仕する役回りをさせられかねない。

 男はもっと悲惨だ。国民投票法が行使されれば、職のない若者は戦場へ送られるだろう。「こんな政治は嫌だ」と立ち上がろうとしても、銃は没収されていて、手にする武器もない。国民のほとんどが貧しくなった時代に、メイドを持てる日本人は、外国のために同胞をだました者くらいかもしれない。

 施策を円滑にするための流行は、権力によってしばしばつくられる。映画『青い山脈』は占領下でわが国の因習を葬るのに一役買い、歌謡曲『こんにちは赤ちゃん』は高度成長下で労働力確保のための出産を促し、小泉政権下で広まった茶髪は外資による日本企業買収へのアレルギーを払しょくした。メイド姿のはんらんは日本人奴隷化の予告ではあるまいか。

 エプロン姿に皆は“萌(も)え”わたしはぞっとする。