天才経済学者、植草一秀氏の新刊本。副題に「グローバル資本による日本収奪と、それに手を貸す人々」とある。目下の政権がいかに国民生活を破壊しているかを分析し、「平和と共生」の理念を具現化する主権者国民勢力による新政権の樹立を訴える。


 同書は3つの章からなる。第1章「失われる国富」、第2章「日本収奪計画と売国の実態」、第3章「国富を守るためにいま、なすべきこと」と続く。題名に「国富」とある通り、物理的側面に焦点を当てて政治の善し悪しを評価しているが、国民が幸せに生きられる生活環境を築くことこそ、政治の役割との思いが垣間見える。

 「失われる国富」の例として挙げている1つに、政府による巨額の米国債保有がある。円高が進んだ際、財務省は為替介入の名目で政府短期証券を発行して日銀からドル買い資金を調達する。積み上がったドルの行き場はなく、米国国債に化ける。

 しかし、政府は米国債を売ったためしがない。07年7月からの4年半、円高進行により54兆円の為替差損を出した。その後13年から15年にかけての円安で損失が一旦解消する局面があった。著者は外貨準備の売却を再三主張したが政府は全く動かず、再び30兆円もの損失を生んだ。

 ほかには、小泉政権が推進した郵政民営化や長銀のハゲタカへの不当廉売、オリックスグループへのかんぽの宿売却計画、現在の安倍政権が引き起こしている年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による年金資金の巨額損失などが詳述されている。

 「日本収奪計画と売国の実態」では、グローバル資本の走狗である安倍政権が取り組む目下の政策が解説されている。具体的には、環太平洋連携協定(TPP)や農業改革、医療制度改革、労働規制の撤廃、水道事業民営化、原発再稼働、辺野古基地建設など。

 読んでいて思わず膝を打ったのは、現代成金のキーワードを「ハゲタカメソッド」と呼称しているくだりだ。民営化によく見られる現象で、実態は「官業払い下げ」である。郵政民営化に伴うかんぽの宿売却や国鉄民営化におけるJR東海、空港事業や水道事業の民営化などを挙げ、「誰がやっても必ずもうかる事業」と指摘している。全くその通りではないか。

 「国富を守るためにいま、なすべきこと」では、今日の支配構造の本質が明治維新から変わらないことを説明している。悪徳ペンタゴン(米・官・業・政・電)は米国を頂点とするピラミッドだが、同国を支配するのは国際金融資本だからである。西郷隆盛も江藤新平も田中角栄も鳩山由紀夫も、このピラミッドを壊そうとした知恵者ではなかったか。

 現在の自民党政権は、「国民のための国家」から「国家のための国民」への転覆を目指す。その証左が、12年に公表された自民党憲法改正草案である。基本的人権を制限し、戦争できる国にする条文に修正され、内閣の独裁を許す緊急事態条項や家庭教育への国家の介入も明記されている。

 安倍内閣は保育所で国歌と国旗に親しむよう指針を出したり、小学校の道徳教科書で「パン屋」を「和菓子」に直したり、体育に銃剣道を入れたり、戦時体制への準備を着々と進めている。支配者にとって、日本国民は年間60兆円の米国予算が付く軍産複合体を支える虫けらにしか映らないのだろう。

 全章を通じて出て来るのが、マスコミによる国民洗脳の問題である。問題の本質を有権者が知り得るには、権力と巨大資本の側に立つ「16社体制」を改めなければならない。NHK受信料を任意性にすることは、その第一歩である。植草氏はスクランブルをかける方法を提唱する。

 当のNHKは受信料不払い者を次々告訴し、勝ちまくっている。歴代会長は任意性には頑として反対の意向を示している。私見では、「公共放送」はまさに戦争を遂行するためにあり、そのためには全員に見せる必要があるからと解す。それ故、植草氏の主張を一層支持したい。

 植草氏は安倍政権を「戦争と弱肉強食」路線と捉え、逆の路線を実現する政権の樹立を説く。これが現在、氏が取り組む「オールジャパン:平和と共生」運動である。現内閣が存続し得ているのは、野党第1党の民進党にも前者の別働隊が潜伏しているからである。もう一つの警戒は、みんなの党、橋本維新、小池百合子と続くえせ第3極の台頭である。

 全ての選挙区に1人の候補者を樹立すれば、「戦争と弱肉強食」路線の候補者に勝つことは可能だと分析する。立候補予定者に公開質問状を送り、その回答をホームページで公開する予定だ。試金石となる項目は、原発再稼働・集団的自衛権容認・格差(消費税)の是非である。これらに平和と共生を加え、「日本版五つ星運動」と名付けている。

 模範の1つとなる選挙が、昨年あった。新潟県知事選である。民進党は当初、原発推進の立候補者を側面支援していた。覆したのは、市民連合による有権者の覚醒である。

 渡邉良明博士(政治学・学習院大)は、植草氏を「今日における“日本のガンジー”」と形容している。ガンジーは国際弁護士として南アフリカで活動しながら、有色人種というだけで1等車から荷物もろとも厳寒の荒野に放り出された屈辱がインド独立に導いた。同じように植草氏は、正確な経済分析を行う故、人物破壊工作に陥れられた。

 昨年3月、私は「オールジャパン:平和と共生」の参院選総決起集会を手伝ったことがある。植草氏が設営やビラ貼りに奔走している姿を見て、ある人が言った。「世が正常なら、財務大臣をやっている人が……。それを見て、泣けてきた」。

 現政権が為した政策を検証すれば、腹の立つことばかり。しかし、これを転換させ、所得水準を引き上げ、大学教育まで無償化し、公的医療保険を堅持し、年金給付を拡充すれば、景色は一変するだろう。

 「私たちが連帯し、共闘すれば、必ず明るい未来を切り開くことができる」

 最後の一文に、活動を緩めない著者の信念を見た。

「国富」喪失 [ 植草一秀 ]
「国富」喪失 [ 植草一秀 ]