家の外へ一歩出れば、誰かに責められている気がしてならない。私が酒をやめられない原因もここにある気がする。

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 先日、山口県へ行くため、飛行機に乗った。左右三列ずつの客室で、私の座席は右側の真ん中だった。搭乗者は列をつくり、順番に座っていく。私の左右はすでに人がいた。格安便のせいか、通路は狭い。カバンから読もうと思っている本やペン、手帳を取り出して荷物を天井に据え付けられた棚に収めたいが、棚はいっぱいだった。

 数珠つなぎの人々に、重圧を感じる。別の棚を開いたり、出す物を制限したりと、大急ぎで判断しなければならない。無数の白い目で、心身が焼かれそうだ。私は洗面所で手を洗っているときでさえ、後ろに人が待っていると思うと、死ぬほど苦しむ。洗わずに「どうぞ」と追い越させることもしばしば。動揺して視界が真っ白になる中、客室乗務員の声が襲った。

 「一旦、座席に入っていただけますか。荷物はこちらで収納いたしますので」

 私は全員の悪者になったと悟った。急がなければならないことは、私自身が一番意識している。幸い、周りは状況を理解して黙って見守ってくれていた。乗務員が何も言わなければ程なく解決したのにと思った。私は「こっちが何か悪いことしましたか」と抗議したい気持ちを抑え、飛行中は終始不快だった。

 人はといえば、狭い肘掛けを平気で占領してくる。こちらが身を細めて耐えていると、靴を脱いで、足を組む。汚い靴下がこちらに向いている。駅や町でも、イヤホンで耳をふさぎ、携帯玩具をいじりながらふらふらさまよう。こちらがよけなくてはならない。地獄の思いで手を洗っていても、「遅え」と舌打ちが聞こえてきそうだ。

 本を広げながら、納得のいかない気持ちを反すうしていると、「テーブルをしまってください」と注意された。着陸態勢に入るのだ。またもや、悪者にされた。もはや、生きざまをさらせない。着陸失敗で、皆平等に灰になるなら結構だと思った。

 ふて腐れて宇部空港に降り立ち、リムジンバスの券を買う。と、自販機の上に張り紙がしてある。

 「このバスはJAL291(定刻九時三十五分)の到着後出発予定です」

 「このバス」は九時五十五分発である。あと五十分以上、待合室で原稿でも書いていようと思ったが、バス停で待たなければならないのか。総合受付の女性に尋ねると、「291便が到着してからの発車となります」と繰り返すだけ。「五十五分より前に発車することはあるのか、ないのか」と明快な答弁を求めるが、かなわなかった。

 去り際、横に突っ立っていたほとんど仕事のなさそうな男が、「大丈夫か」と女に気使っていた。私は日本一の悪者になったようだ。早く独りの部屋に逃れたい。いよいよ酒が手放せなくなった。