政治経済学者の植草氏による2018年版投資指南書である。金融経済動向は政治を含む世界情勢を知ることなしに占うことはできないとの信念から書かれているため、投資家だけでなく、世界の現状を短時間に知りたい人にとっても良書といえる。


 同書は会員制レポート『金利・為替・株価特報』の年度版で、今回が6作目に当たる。世には来る年の経済動向を予測する投資家向けの本があまた出るが、出版されたきり、結果がどうなったか検証されることはない。しかし、同シリーズとレポートが示した注目銘柄は全て大幅上昇している。

 2017年版には「日経平均株価2万3000円台、NYダウ2万ドル時代へ!」と明記されていたが、現実の推移はその通りになった。2018年は「波乱に見舞われる年になると予想される」(p.26)。その際の注目点は5つ。すなわち、)鳴鮮情勢▲肇薀鵐彑権の行方C羚饋径寮発足げそ情勢の変化テ本の対応、と指摘する。

 最も警戒すべき要因と感じたのは、△鉢い鉢イ絡むが、米国の連邦準備制度理事会(FRB)の金融引き締め動向である。植草氏によれば、現在、日本円は現在あるべき水準より円安に振れていると考えられる。その影響で円高に推移する可能性があるものの、米国の金融引き締め政策が加速すれば、ドル高にもなりやすく、両者の綱引き相場になることが想定される。

 日経平均株価とドル円レートはほぼ相関関係にあり、普通なら円安は歓迎されるべきかもしれない。しかし、日本銀行は量的緩和政策の結果、17年3月末時点で418兆円の国債を保有している。世界経済が拡大傾向を強め、原油価格(WTI)が1バレル60ドルを突破して上昇すれば、日本のインフレ率にも影響が生じ、日銀は直ちに量的金融緩和の縮小、さらに短期金利の引き上げに進まなくてはならなくなる。

 植草氏は米国経済とFRB、資源価格の動向を挙げ、「これらの変動によって、2018年の日銀を取り巻く環境は大きく変化し得るが、日銀が潜在的に巨大なリスクファクターを抱えていること、2018年に国内債券相場の暴落すなわち長期金利急上昇が生じる場合に、日銀信用の危機という重大な問題が顕在化する可能性が多分に存在する」(p.93)と警告する。

 同書が出されたのは17年11月で、FRBのイエレン議長の後任は未定だった。結果は、理事で「中立派」のジェローム・パウエル氏が登用された。植草氏は1月15日号のレポートで「イエレン路線を継承すると見られる。セカンドベストの人選と評価できる」としながらも、トランプ大統領のメンツだけによる変更と非難。「大統領は妥協なくベストを選択すべきで、この判断が後に微妙なダメージをトランプ政権に与える可能性がある」とつづり、状況に対応した適切な引き締めが行われるべきと強調している。

 4月で任期が切れる黒田東彦(はるひこ)日銀総裁は再任案が提示された。米国に続き欧州中央銀行(ECB)も17年6月、ドラギ総裁が「デフレ圧力は、リフレ圧力に取って代わられた」と発言し、金融緩和出口戦略に歩を進める意向を示している。安倍政権は経済の見掛けを維持するために、潜在的危機をさらに大きくしているように映る。

 同書はトランプ政権の分析について1章を割いている。「政権の趨勢(すうせい)を考察することは、資産戦略の側面からも最重要の課題であると言っても過言ではない」からである。トランプ氏はいつもメディアからたたかれているが、その理由は「米国の支配者」である強欲巨大資本が彼を歓迎していないからと指摘する。

 これは分かっている人には当然のことだが、メディアを見る際、肝に銘じてほしいことである。ニュース研究者を自認する私からすれば、メディアが攻撃する対象は支配権力(国際資本)の敵、持ち上げる対象は支配権力の手先(売国奴)にほかならない。日本のメディアが植草氏をありもしない「犯罪」でこき下ろしてきたのもこの理由からである。

 トランプ氏が支配権力を敵に回したまま地位を維持することは難しい。植草氏は彼の行動様式を「現実主義=実用主義」と捉え、その「柔軟性」の高さを認める。具体例として、〆嚢盧枷住ニール・ゴーサッチ氏の就任承認⊆鸚弊鑪官兼大統領上級顧問スティーブン・バノン氏の解任O∨政府の債務上限引き上げや暫定予算など一本化法案を成立させたこと、を挙げる。

は中東など7カ国からの入国禁止措置をめぐる裁判所側との攻防で、大統領の示した人事案が議会承認されたことを指す。水面下で議会共和党とさまざまな取引が展開されたとみられる。

バノン氏は、米国が世界の警察官の役割から撤退することを提言してきた。トランプ候補が掲げた「米国第一主義」に沿う主張である。著者は「米国の支配者は巨大軍事資本であり巨大金融資本である。この支配者は、米国が世界の警察官の役割を放棄することを許すことができない」(p.61)とし、「トランプ大統領は、徐々に米国を支配する巨大資本との間合いを詰めていると考えられる」(同)と分析する。

は、民主党とも接触を欠かしてない証左である。長いビジネス経験で培った高い交渉能力の産物だろう。

 同書を読む中で反省させられるのは、少しの経済指標の変化に過剰反応してはいけないということ。景況は数値により論理的に見なければならない。これは投資家には欠かせない資質である。

 例えば16年初め、中国経済の崩壊見通しを喧伝(けんでん)した「中国メルトダウン」と題する類いの書籍が書店に山積みされた。確かに、上海総合指数は15年6月から16年1月にかけ半値に下がったが、急騰前より30%高い水準にとどまった。止めたのは2月に上海で開かれたG20会合。著者はレポートでその可能性を記述していた。

 冒頭に紹介したように、同シリーズの17年版は多くの経済予測本と違い、同年の世界経済改善と内外株価の上昇を予測した。広がっていた懸念は、FRBが金融引き締めを加速することだった。そうなれば資金が米ドルに吸い寄せられ、資源国や新興国、資源価格が大きな打撃を受ける。しかし、米国インフレ指標が目標値を大幅に下回る状況が続くようになり、追加引き締めの必要性が大幅に後退。米国長期金利は再低下し、新興国や資源国、資源価格が大きく持ち直した。

 同シリーズも過去に、「日本経済撃墜」や「日本の奈落」など、悲観をあおるような題名が付けられた年もあった。もしもの逆説を採用した言葉だが、今回の名称を含め、出版社が付けたものだという。店頭には世界恐慌や預金封鎖が今にも始まるかと思わせるタイトルの本が毎年並ぶのも、恐怖心につけ込む商魂からと考えた方がいい。

 「最強・常勝五カ条の極意」をはじめとする資産倍増への極意と今年の「注目すべき株式銘柄」は、同書でじっくり確認してほしい。

 最後に、気付いた点を幾つか挙げたい。

 17年4月に日経平均株価が1400円以上も下がるリスクオフ(回避)相場があった。同月6日、トランプ大統領がシリアでの米軍による攻撃を命令。同軍による北朝鮮攻撃が連想され、緊迫した。「これを最も大々的にアピールしたのは日本政府である。韓国市場においては2017年4月の北朝鮮リスクが、実はあまり強く意識されていない」(p.188)と指摘し、日本による演出の可能性を示唆している。

 植草氏の言うように、韓国株価指数はこの時変化していない。私がニュース研究者としていつも強調しているのは、マスメディアは国民の見たいものを見せるのではなく、国民に見せたいものを見せるということ。4月6日は共謀罪の審議が衆議院本会議で始まった日である。つまり、法整備目的で自国民に行った宣伝が、国内相場に影響を与えたのではないか。

 経済をめぐるマスコミの無能ぶりも明かされている。ドル円レート変動に最も強い影響を与えているのは米国長期金利変動で、両指標を見れば、その関係は一目瞭然である。しかし、17年10月7日付日本経済新聞に「北朝鮮緊張で円高 なぜ?」と題する特集記事が載った。見出しには「為替の謎、3つの理屈」とある。「日本経済新聞はドル円レートが米国長期金利に連動して変動しているという重要事実を把握していないことが分かる」(p.180)と著者。その後、植草氏の見解が伝わったのだろう。認識が変更されたとのことである。

 日銀の黒田総裁が15年6月10日、「これ以上の実質実効レートベースでの円安進行は、普通に考えればありそうにない」と発言した。円安進行へのけん制である。植草氏はこの発言の裏側に米国政府の指令があったと洞察する。当時TPP交渉が進展する中、円安が米国内でTPP反対を勢いづかせる要因になると判断されたからである。これを転換点に、今度は円高ドル安が進行した。

 12年11月14日、野田佳彦首相が安倍晋三自民党総裁との党首討論で消費税増税を約束して解散に踏み切ったことは「自爆テロ解散」と呼ばれている。植草氏はこの表現は不正確だとして「自爆解散」だと主張する。「自爆テロの場合は敵に大きなダメージを与えるが、野田氏の選択は単に民主党が自滅の道を選ぶ」(p.200)だけだったからである。思わず膝を打った。ただし、本人は損傷を負っていないから、「他爆解散」でもいいかもしれない。

 同書を読めば、マスメディアに接していると分からなくなる世界の実態が見えてくる。投資をする人もしない人も、真実の中で生きたい人は手に取ってほしい一冊である。

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植草一秀の『知られざる真実』

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