テレビのニュースや新聞には、そのときの一番の「悪者」がトップに踊る。これを見て腹を立てる人が多いが、わたしはやりきれない思い出で聞き流す。騒ぎ立てていい結果になった例を知らないし、そもそもマスコミが事態悪化を招いた例が多いからである。

 8年前、日本長期信用銀行は経営危機が過剰報道され株価が急落して窮地に陥った。わずか10億円で買い取って経営権を引き継いだのは、米投資会社リップルウッド・ホールディングス。7兆9000億円の国費が投じられる一方、新生銀行として上場を果たし、売却益2300億円を労せずして手にした。

 「ノーパンしゃぶしゃぶ」に象徴される金融不祥事が話題になった。都市銀行の担当者が旧大蔵省金融証券検査官を接待していたことを問題にしたものである。総額わずか290万円の接待費に目くじらを立てたことが「金融ビッグバン」をもたらし、1200兆円にも及ぶ国民の預金をはげたかファンドに開くことになった。

 鈴木宗男衆議院議員は「ムネオハウス」建設や外務省職員暴行などが報じられ、やまりんから500万円の献金を受けたとして逮捕。国民から蛇蝎(だかつ)のように扱われたが、今になって北方領土返還の機運があったことが明らかになった。

 日本道路公団の藤井治芳前総裁は財務諸表を隠したとして世論の反発を招き解任されたが、同公団は米国の要求通り民営化した。

 耐震偽装は検査機関の民間委託、エレベーターやプール事故は管理の民間委託で起こったことである。相も変わらずトップニュースに挙げられる談合摘発は、「年次改革要望書」に一貫して明記されていることではないか。

 小さなスキャンダルが大々的に報じられる一方、まともに扱われない事実がある。地方の医師不足の問題を取り上げるとき、背景にある医局制の廃止や診療報酬のマイナス改定に触れることはない。商店街の衰退を扱うとき、原因である大店法廃止に言及したのを見たことがない。農業の自由化によって全国で5000の集落が消え、全国の過疎地比率は50パーセントを超えたが、新聞は大規模法人化による成功事例を紹介するばかりである。

 皇室滅亡の危機はGHQによる11宮家の廃絶によってもたらされたが、マスコミは皇族復帰を論外な主張として片付けている。どの新聞も今に至るまで、「年次改革要望書」の文字を一切載せていない。植草一秀教授は8月、りそな救済に絡む竹中平蔵のインサイダー疑惑を指摘したが、マスコミは完全に無視している。

 米軍基地が列島の北から南まで駐留する敗戦後のわが国において、マスコミは一貫して米国の権益を擁護する役割を果たしてきたように見える。占領期はGHQの指令でウオー・ギルト・インフォメーション・プログラムを実施し、国民に罪悪感と劣等感をすり込んだ。

 「独立」後も米国に忠実でなかった田中角栄を金脈問題で攻撃し、ASEANの拡大や円の基軸通貨化が議論され始めると、従軍慰安婦や閣僚の靖国参拝「問題」を取り上げてアジアの融和に水を差した。プラザ合意後はマネーゲームを特集してバブルをあおり、バブル崩壊後は構造改革を唱え、今日の荒廃した社会状況をつくった。

 『ドラえもん』という漫画に、「スネ夫」という登場人物がいる。「ジャイアン」の威を借りて「のび太」をいじめる役柄である。外圧という巨大な権力に乗じて国内の小さな権力をたたくマスコミは、まるで「スネ夫」のようだ。

 この国には無数のメディアがありながら、自国を愛する立場から米軍基地の撤去を主張するものが1つも見当たらない。マスコミは同胞をだますことを仕事にし、大衆はこれを見ることで属国体制を自ら支えているように思える。