『ライブドアPJニュース』2008年04月16日掲載

 電車内で痴漢行為をしたとして東京都迷惑防止条例違反に問われ、1審有罪(懲役4月)を受けている元名古屋商科大学客員教授の植草一秀被告の控訴審判決公判が16日、東京高等裁判所で開かれた。田中康郎裁判長は1審判決を支持し、控訴を棄却した。植草氏は上告する方針。

 冒頭、裁判長が主文を読み上げると、植草被告は一瞬険しい表情を見せたが、後は淡々としていた。矛盾の多い検察側目撃者の供述について、今判決は「眼鏡を掛けていたのを覚えていないのは不自然といえない。供述は具体的かつ明確で被害者の供述とは矛盾しない」と擁護した。一方、被告に対しては「酩酊(めいてい)して記憶がないと言いながら、細かな点を覚えているのは不自然」とし、弁護側目撃者の証言についても女性が声を出したのを覚えていない点を挙げ、「信用性がない」と切り捨てた。

 公判は30分ほどで終わった。閉廷後、植草氏はコメントを発表し、推定無罪が推定有罪になっている刑事裁判の現状を批判。「わたしが罪を犯しているなら、正直に事実を認めて罪を償っております」と打ち明けた。

 控訴審は3月17日に始まり、2回目で幕を閉じるあっけない展開となった。新たな繊維鑑定や関係者の捜査段階での供述調書、逮捕者の証人尋問など約10項目に及ぶ請求はすべて却下され、まともに審理されなかった。判決について弁護団は、「植草氏が犯人であるという極めて強い予断に基づいて結論を下し、誠実、公平に証拠を評価して審理しようとしなかった」と批判した。

 2審で弁護側は、検察側が実況見分を行った事実を隠していたことにも言及した。事件2日後の2006年9月15日(金)に検察側目撃者は警察立ち会いの下、実況見分を行ったことが再現報告書で明らかにされているが、この目撃者は初めて警察官と接触したのを9月16日(土)と1審で証言している。今回の判決理由では「検察に隠す意図はない」と述べただけで、この矛盾を無視した。

 検察側目撃者が証言する電車内での位置関係や植草氏の当日の格好の食い違いは謎のままだ。被害者との距離77センチを適用すると、被害者は車両の真ん中ではなく、進行方向右側に立っていたことになる。植草氏が「少しうつろな目をして」いたことを目撃しながら、眼鏡を掛けていたことを記憶していない。犯人の左手が被害者の左のお尻の側面を触っているのを右方向に見たとしながら、植草氏が傘を左手首に掛けていたことに気付いていない。犯人の右肩が見えたと主張しながら、植草氏が右肩にかばんを掛けていたこと覚えていない。しかも、「重心が右に傾いていて変な格好をしている」と証言している。

 駅事務室から蒲田署まで連行した青木警官が植草氏の供述をねつ造した疑いも放置された。「電車の中で、女性に不快感を与えるようなことをしました」との自白があったと青木警官は公判で証言したが、弁解録取書や青木氏のメモにもどこにも記述がない。

 繊維鑑定では、被告の手指から被害者のスカートやパンツの構成繊維は1本も見つけられなかった「色調が類似した獣毛繊維」3本が検出されたとの結果は主観的であいまいすぎ、被害者のパンツのものとされる無色綿繊維は、空気中に無数に認められる。4件もの繊維鑑定を行ったのは被告の手指からスカートの構成繊維が見つけられなかった証拠であり、科警研が顕微分光光度計による鑑定結果を出さなかった不可解さを指摘した弁護側の疑問に答えていない。

 植草氏は事件当時酩酊しており、つり革にもつかまらず両手で被害者の左右のお尻を触っていたとの容疑は合理性を欠く。弁護人は植草氏の犯行時のアルコール摂取量が「正常な運転が困難な状態」と同程度だったことを指摘した。

 その一方で裁判官は、善意から名乗り出た弁護側目撃証人を全く相手にしなかった。電車内での位置関係や動き、植草氏の格好が極めて詳細で、起訴状にある犯行時間帯に植草氏が誰とも接触していなかったことを有利・不利問わずに証言したにもかかわらず。

 マスコミは検察側の情報だけを流し、これらの事実を国民から遮断した。植草氏はコメントで「第一審での弁護側目撃者のわたしの無実を証明する決定的な証言、弁護団の完ぺきな無実の立証、控訴審での弁護団のさらに詳細な無実の立証が全く報道されておりません。わたしの裁判、報道に対して、大きな力が加えられていると考えざるを得ません」と断じた。

 事件にまつわる数々の矛盾が司法によって解明されることはなく、事実をマスコミが伝えることもなかった。この国を支配する権力の闇の深さだけが印象づけられる裁判になった。【了】