『ライブドアPJニュース』2008年10月24日掲載

 元名古屋商科大学大学院客員教授でエコノミストの植草一秀氏(47)=東京都迷惑防止条例違反で逮捕・起訴され1、2審とも有罪で上告中=がテレビ番組『ムーブ!』に名誉を傷つけられたとして起こしていた損害賠償請求訴訟は23日、東京地裁(岡健太郎裁判長)で和解が成立した。放送した朝日放送(大阪市)は和解金の支払いや番組での謝罪に応じた。

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記者会見で和解内容を説明する西岡弘之氏(中央)ら原告弁護団(撮影:高橋清隆、10月23日)

 問題の番組は、2006年9月13日に植草氏が逮捕された直後の同月21日に放送された。「ムーブ! マガジンスタンド」というコーナーで、当日に出た『女性セブン』の「植草一秀容疑者(45)『痴漢で示談7回』の過去」と題する記事を紹介。過去7件の痴漢事件について被害者と示談が成立したため、事件が明るみに出なかったと伝えた。さらに、コメンテーターの橋下徹氏、宮崎哲弥氏、大谷明宏氏の3人が「病気だと思います」「これは性癖。治療させるべきです」「もう、やく、薬物ですねえ」などと、植草氏をやゆするコメントをした。

 『女性セブン』の記事をめぐっては発行元の小学館が記事の誤りを認め、謝罪している。ほかの週刊誌を題材にしたとはいえ、この番組が植草氏クロの印象を広めた力は大きい。「植草教授逮捕」の警察発表しかされてない起訴前の段階で、お茶の間でなじみの評論家・ジャーナリストが口をそろえて個人の性癖の異常さを断定している。

 和解条項には、(1)植草氏への謝罪(2)和解金の支払い(3)おわび放送を行うことが盛り込まれた。謝罪は週刊誌の記事を裏付けなく放送し、名誉を傷つけたことに対するもの。和解金の額は公表されなかった。おわび放送は11月21日までに同番組内で別紙「お詫び放送目録」の文章を約1分間ずつ2回読み上げるとともに、その要旨を画面に表示する。

 訂正放送は放送法第4条で規定されているものの、そのハードルは高い。真実でない事項の放送があった場合、放送事業者に義務づけられているが、憲法第21条でもうたわれている表現の自由を確保する観点から、判決で命じる例はまれ。原告弁護団(梓澤和幸団長)は「被告が『事実無根』を認める表現を嫌ったが、週刊誌の記事を裏付けなく放送したことへの謝罪に同意した。放送メディアがおわび放送を認めた意義は大きい」と評価した。

 和解決定を受け、原告の植草氏は「裏付けを全く取らずに事実無根の虚偽情報をそのままテレビ番組で報道した点で、極めて悪質であると言わざるを得ません」とコメントを発表。「社会に多大な影響力を持つメディアは報道に当たり、十分な事実確認、適正な裏付けの確保を求められています」と報道関係者に警告した。

 この訴訟では、他媒体のねつ造記事を紹介した場合の違法性がどのように裁かれるかが注目された。当初から和解に向けた協議が進められてきた背景には、被告の朝日放送が虚偽の記事引用の罪で罰せられる判例第1号になることを忌避したことがあるとみられる。

 一方、原告は提訴段階で金銭での賠償のみ求めていたが、和解によりおわび放送を盛り込む優位点を得た。ただし、その陰で、なぜ有名人が申し合わせたように植草氏クロの印象を植え付けたのか、なぜ根拠のない週刊誌記事を大々的に宣伝する番組が作られたかの謎は闇に葬られた。「野村総研が事件をもみ消した」との宮崎氏の虚言も不問に付された。

 植草氏は余罪があるかのような根拠のない報道で名誉を傷つけられたとして4つの週刊誌を訴え、発行元の徳間書店、毎日新聞社、講談社の3社に賠償を命じる判決が下っている。被告の毎日新聞社は33万円の賠償を不服として控訴中。『女性セブン』の小学館とは慰謝料支払いと謝辞広告の掲載を盛り込んだ和解が成立している。

 植草氏は2006年に京浜急行の電車内で女子高校生の尻を触った疑いで132日間勾留(こうりゅう)された後、懲役4月の有罪判決を受けているが、一貫して容疑を否認している。1、2審ともつじつまの合わない検察側の主張を全面的に採用する一方、電車に乗り合わせたと名乗り出た目撃者の証言や学者による繊維鑑定結果など弁護側の要求をいずれも却下した。

 2004年には品川駅で女子高校生のスカートをのぞいたとして罰金刑と手鏡没収を受けているが、警察官が書いたエスカレーターの見取り図や逮捕の経緯についての証言は矛盾だらけ。防犯カメラの映像は、植草氏が検証を要求して10日たってから「消えた」と告げられた。被害者の母親は「被害届を出した覚えもないし、裁判にしないでほしい」と検察庁に上申書を提出している。

【お詫び放送目録】
 おととし9月21日に、「ムーブ!マガジンスタンド」のコーナーで、「植草一秀容疑者痴漢で示談7回の過去」とのテロップを表示しながら、この日発売された株式会社小学館発行の女性週刊誌「女性セブン」の植草一秀氏に関する記事を事実であるかのように紹介し、「同氏が痴漢を行った過去7件の被害者について、示談が成立したために、これらの事件が明るみに出なかった」との放送をいたしましたが、この放送に対して、同氏から「事実無根である」とのご指摘を受けました。

 この放送は、当社が、「女性セブン」の記載内容について全く裏付けをとることなくそのまま放送したものであり、そのために同氏の名誉を傷つけ、ご迷惑をおかけしたことを、深くお詫びいたします。

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東京地方裁判所(撮影:高橋清隆、10月23日)