No.1エコノミストの植草氏による投資戦略の指南書である。投資が成果を上げるには経済・金融市場の正確な分析が不可欠。経済理論に関する豊富な知識と卓越した観察眼で株価変動を解説する。政治や海外の動きにも目配りする姿勢は彼ならではのものだ。

 同書は12月1日に発売されたもので、3月に出された『金利・為替・株価大躍動』(同)の続編に当たる。前著が安倍政権の進める成長戦略によって株価上昇の真っただ中で出されたのに対し、今回は景気浮揚の流れが途切れる中で市場の先行きを占う。その動向は経済政策の取り方が決定的な要素だ。

 バブル崩壊が始まってからの24年間、経済浮上のチャンスは今回が4度目。最初の2回は政策逆噴射で自滅し、3度目はサブプライム危機でついえた。順風満帆のように伝えられる「アベノミクス」だが、株価を冷静に見れば、5月以降は乱高下しながらも株価頭打ちの傾向にある。

 植草氏によれば、安倍政権の経済政策の真価が問われるのはこれから。14年度に入れば前年度に執行された13兆円の補正予算の効果がはがれ、デフレインパクトとして跳ね返る。そこに消費税等による9兆円の国民負担増加がのしかかる。22兆円もの緊縮規模は史上空前で、著者は「日本版『財政の絶壁』問題」と呼ぶ。6兆円の景気対策を打ったところで、焼け石に水の大きさだ。

 消費税増税は野田政権から引き継がれた「宿題」だが、なぜ野田前首相は民主党が不利になるタイミングの12年12月に解散・総選挙を実施したのか。この点について、植草氏は面白い指摘をしている。野田氏の狙いは小沢—鳩山ラインを徹底してつぶすことにあったとの推論だ。事実、生活の党(当時は日本未来の党)は政党交付金の受け取り額を大幅に減らし、鳩山元首相は民主党の公認から外された。

 投資戦略の知識として、前著同様「7カ条の極意」が紹介されている。すなわち、「損切りルール」の厳格な適用、移動平均線や RSIなどを用いた「タイミング捕捉」、株価変動要因の分析による判断などである。巻末には注目する18銘柄とその理由も記す。

 今回の投資技術に関するページは、前著と比べより実践的なものとなっている。13年に入ってからの変動めまぐるしい相場を各種指標から対処可能であることを説明する。例えば、日経平均株価は5月22日の1万5627円から6月13日には1万2445円に急落を演じた。これも米国長期金利と円ドルレートとの関係から読むことが可能というのだ。

 5月22日までの株価上昇は円安進行の下での動きだが、円ドルレート変動に最も重要な影響を与えるのは米国長期金利である。米国長期金利の上昇傾向が米ドルの上昇傾向を生み、日本株上昇の背景になった。しかし、3月上旬から5月初めにかけて米国長期金利が低下し始め、4月5日からは日本の長期金利が上昇に転じる。この両面から、円安ドル高でなく、円高ドル安に向かう力が働き始めていたと分析する。

 「マクロ経済分析から得られる、円高・株安の可能性をあらかじめ想定しておいて、現実にその動きが表面化した時点で、損切りルールなどのルールに則って、売買行動を決定していれば、あのジェットコースター相場においても、大損失を免れることができたはずである」

 経済理論に基づいた市場分析は、実に説得力を持つ。

 投資技術の伝授が同書の1つの主眼だが、国民の幸福を第一に考えるとマクロ経済政策について言及せざるを得ない。この視点が貫かれているところに、著者の国民に対する愛情が感じられる。

 植草氏は安倍政権の取るべき対応として、14年の消費税率引き上げの見送りを説いた後、次の提言を掲げている。

 「どうしても消費税増税を実施するというなら、少なくとも20兆円規模の経済対策の策定が必要である。その中身は、中低所得者層に対する購買力の付与を軸に据えるべきだ。中低所得層に強大な税負担を押し付け、それによって得た資金を金持ち減税、法人減税、ばらまき公共投資に振り向けるのは言語道断である」

 同書は個人投資家に向けた優れた参考書だが、マスコミ報道では分からない政治経済の実態を知りたい人にもお薦めの一冊である。