高橋清隆の文書館

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2016年05月

【書評】『世界を騙し続けた[詐欺]経済学原論』天野統康(ヒカルランド)

 畏友の若きフィナンシャルプランナー、天野氏の新著。近刊の『[洗脳]政治学原論』の上巻に当たり、人類を騙(だま)し続けてきたマネーの仕組みが解き明かされている。



 同書を一言で形容すれば、「本物の資本論」と呼ぶのがふさわしい。カール・マルクスとフリードリッヒ・エンゲルスの著した『資本論』の副題が「経済学批判」であるように、同書も従来の経済学を批判しているからである。批判の対象は古典派・新古典派経済学やケインズ経済学、マネタリズムはもとより、マルクス経済学も含まれる。

 『資本論』と違うのは、経済学が無視してきた信用創造という暗部に踏み込んでいることだ。マルクスが解明したとする生産過程の定式“C(不変資本)+V(可変資本)+M(剰余価値)=W(生産物の価値)”がスミスやリカードらのそれとあまり違わないのに対し、天野氏は誰も触れなかったマネー増減のからくりに迫っている。ここが「本物」の批判本と称したい理由である。

 そもそも「科学的社会主義」は欧州の王室国家を横領するためにロスチャイルド家がマルクスとエンゲルスに研究させたものだと元MI6のジョン・コールマン博士が暴露している。同書も指摘しているが、ロシア革命を内外から資金支援したのは、クーンローブ商会のジェイコブ・シフである。

 従来の経済学が詐欺であることを、天野氏は3つの点から解き明かす。すなわち々餾欟箙垳⇔呂梁減澆魃す銀行業の信用創造の仕方を隠す実体経済と金融経済の通貨供給量を一緒に扱う——という詐欺である。

 ,話羆銀行の民間銀行への貸し出しによる錬金術性を隠していることを指す。複式簿記で説明すれば、総額50兆円を貸し出すとき、中央銀行の借り方「資産」に貸出金50兆円、貸し方「負債」に中銀預金50兆円が発生する。このとき、無から有が創り出される。

 「錬金術」と言うのは、中銀が実際に紙幣を印刷するわけでなく、会計上の処理にすぎないからである。民間銀行から国債を買った場合も、中銀の帳簿では貸し方に「中銀預金」50兆円、民間銀行は借り方に「中銀預金」50兆円が発生する。

 △鰐唄峩箙圓砲茲覺覿箸悗梁澆圭个靴量簑蠅世、ここでも同様の錬金術が発揮されている。面白いのは、民間銀行が社債を購入したときにも通貨が増えること。例えば50兆円の社債を購入した銀行はその分資産である現金が減るが、発行した企業が設けている別の銀行口座に現金が振り込まれるので、銀行業全体の帳簿の貸し方には「預金50兆円」が発生する。

 通貨を制御しているのは政府ではない。しかも、わが国の場合、民間銀行による信用創造は中央銀行の4倍以上。経済を分析するには、最も注目しなければならないはずの分野である。

 は、従来の経済学が景気変動などを説明するときに使う交換方程式の誤りを指摘する。主流経済学の公式は次の通りだ。
 
通貨供給量(現金+預金)×通貨供給量の流通速度=生産量×実体経済の商品価格(物価)

 これに対し、リチャード・ヴェルナーは次の公式を掲げている。

使われた通貨量(信用創造量)×使われた通貨の流通速度=商品の取引量×商品価格

 「商品の取引量」は政府・個人・企業など社会全体で作り出す。「使われた通貨の流通速度」「商品の取引量」は社会全体の経済活動の結果、作り出される平均的な数字である。つまり「使われた通貨量」を操作することで、インフレ、デフレ、経済成長率、好景気、不景気などをあらかじめ計画できる。

 天野氏がこの公式を特に高く評価するのは、「使われた通貨量」を実体経済向けと金融経済向けに分けて見られることだ。このモデルを使えば、実体経済を安定させながら金融経済だけバブル化させることもできる。日本で1980年代に起きたバブルや08年のリーマンショックはその例だ。

 わが国では1990年代から通貨供給量を増やしたが、不況が長期に続いた。その結果、主流派経済学の交換方程式で起きているのは「通貨供給量の流通速度」の低下問題である。これがフリードマンをはじめとする経済学者を20年以上悩ませてきた。これは、2つの分野への通貨供給が一緒にされているために起きる。

 無数の経済学徒がいながら、なぜ豊かに安定した経済運営ができないのか。それは、われわれ民衆が真実を見ないように洗脳されてきたからである。大学やシンクタンクなどの学術機関は洗脳装置の筆頭だ。

 天野氏によれば、ノーベル賞はスウェーデン中央銀行が創立300年を記念して設立した、中央銀行が与える中央銀行賞である。そのため、歴代のノーベル経済学賞の受賞者の多くは、中央銀行の独立性を支持する新自由主義経済学の系統である。

 ユダヤ人をめぐるタブーも、国際銀行権力の存在を無意識化させていると説く。銀行家の多くはユダヤ人だが、ナチスによるホロコーストの犠牲者数に疑義を呈する発言をすれば、逮捕も有り得る。この浸透によって、国際銀行家に対する批判が民族問題にすり替えられるようになり、通貨発行権の問題が無意識化された。

 第2次大戦後の東西冷戦も、国際銀行権力の存在を隠すのに役立ったという。ロシア革命と同じように、国際銀行家たちは自由主義圏と社会主義圏双方に金銭的支援をしてきた。

 卑近な現象を解き明かすくだりで、興味深い指摘が幾つかあった。ネット通貨「ビットコイン」もその1つ。地域通貨に似ていて中央銀行体制に対抗するのではとの期待も一部であるが、天野氏はこれを否定する。民間が作っているという点では、銀行の預金と全く同じだからである。マスコミにたたかれているのは、単に国際金融権力の競争相手になるからだろう。

 リーマンショックの真相も興味深い。保険大手のAIGや投資銀行大手のメリルリンチなどがつぶれたが、この大暴落でヘッジファンドなどウォール街の金融財閥は莫大な利益を上げたという。銀行トップの会合に出席した天野氏の知人は、「1000兆円!もうけ」と聞いた。そのマネーはケイマン諸島などのタックスヘイブンに移動している。

 リーマンショック後、景気回復を目的に実施されたのが、量的緩和政策である。日米欧の中央銀行が作り出した通貨は2015年9月までに700兆円に及ぶが、庶民の暮らしは一向に良くならない。そのほとんどは金融経済に回ったからである。

 新たに供給された通貨は国債や公社債、株、不動産、外貨建て商品などの購入に充てられ、貧富の格差が拡大した。この全貌も、実体経済と金融経済に分解するヴェルナー理論を使えば簡単に説明できるとして、次のようにつづる。

 「銀行システムの世界の誰よりも習熟している国際銀行権力は、量的緩和政策の影響など初めから分かっていたことであり、意図的に新たな金融バブルを作り出しているのだ。その結果、米国や英国の株価や債券は、過去最高価格になりそれらの試算を莫大に保有している国際銀行家たちはぼろ儲(もう)けしているのである」

 同書は世界経済を制御するマネー創造の仕組みを解明したもので、民衆や権力に「どうしろ」と求めた記述は見当たらない。下巻の「政治学原論」の領域かもしれないが、提言めいたものが2つ見られた。

 1つは、実体経済向けの信用創造量を明らかにすることである。中国は2011年から「社会融資総量」の公表を始めた。これは実体経済が金融システムから獲得した資金の量を指す。天野氏は「欧米日の政府および中央銀行は社会融資総量のような実体経済向け信用創造量をデータとして公表していない」と指弾する。

 巻末には、2015年9月に英国労働党首に就任したジェレミー・コービン氏が提唱する「国民のための量的緩和(People’s QE)」を紹介している。これはいわゆるヘリコプターマネーだが、国民にポンド紙幣をばらまく方式ではなく、インフラ投資事業を英中銀がファイナンスするもの。実体経済向けに信用創造を拡大させる、新しいタイプの量的緩和である。

 『資本論』と違い、労働者の団結を促すような文言はないが、理論上の破壊力は十分にある。これまでの学者やジャーナリストの誰一人、口にしなかった巨大詐欺の仕組みを暴露しているからだ。社会の行方は、民衆がこの告発ををどう受け止めるかにかかっている。

「詐欺」経済学原論 [ 天野統康 ]
「詐欺」経済学原論 [ 天野統康 ]

「洗脳」政治学原論 [ 天野統康 ]
「洗脳」政治学原論 [ 天野統康 ]

「経済植民地化が進んでる」と安田節子氏 5.11TPP抗議行動

 環太平洋連携協定(TPP)への抗議行動が11日夜、東京都千代田区の衆院第二議員会館前で展開され、食政策センタービジョン21主宰の安田節子氏が「米国による経済植民地化が確実に進んでいる」と報告し、「これを変えるには選挙で勝つしかない」と訴えた。

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「これを進めていけば、子供たちに手渡すまっとうな日本を残すことができない」と安田氏(右、2016.5.11筆者撮影)

 「TPPを批准させない5.11院内集会」の後開かれた抗議集会には、約200人の市民が集まった。呼び掛け人の山田正彦元農水相や3人の国会議員らとともに演説した安田氏は、TPP批准を待たずに国内法の整備が進んでいる現状を説明した。

 安田氏は、大島理森(おおしま・ただもり)衆院議長が4月29日渡米して下院議長に「秋の国会で結論を出す」と伝えたことを取り上げ、「TPPの本質が米国の意向に沿うためのものであることを表している」と提起した。

 現在、食の安全を守るための規制緩和が猛烈な勢いで進んでいて、農薬の基準が世界的に見ても極めて野放図な水準に緩められている上、食品添加物もさらに100品目を承認する作業に入っていることを紹介。TPPに言及した。

 「TPPには、これまでの自由貿易協定にない遺伝子組み換え食品に関する条項が入っている。まさに米国の多国籍企業、モンサント社などの食品を日本にさらに押し込むためのもの」と指摘。TPP批准により「遺伝子組み換え作物の国内生産が始まる」と警告した。

 「企業が農地を所有し、外資が農業をやっていく仕組みが内側から作られている。農家の隣で遺伝子組み換え作物を作っていて、日本の農家の畑に遺伝子が飛べば、特許侵害でTPPの知的所有権強化の条項が応用されて日本の農家が餌食になる」

 その上で、「国家戦略特区や規制改革会議など、あらゆる方向から日本を米国の都合のいいように経済的に取り込んでいく経済植民地化が確実に進んでいる。これを変えるには、政治に働き掛けるしかない。選挙で勝つしかない」と訴えた。

 今国会でTPP批准がなくなったことを受け、毎週水曜日の抗議行動は一旦中断する。同委員会はTPPを夏の参院選の争点にし、秋の臨時国会で廃案に持ち込みたい考えだ。

■参考サイト
#安田節子ドットコム
■参考記事
野党各党と市民が「安倍政権打倒」で気勢 オールジャパン平和と共生

「民進党は政権奪取の気概ない」と亀井氏 民衆の行動促す

 亀井静香衆院議員が7日、「さくらの木」構想に乗らなかった今の民進党について「政権奪取の気概がない」と酷評するとともに、安倍政権を倒すには民衆が民進党本部に抗議するなどの行動が必要との考えを示した。市民団体の集会で述べた。

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「歴史は一人ひとりにかかっている」と参加者に訴える亀井氏(2016.5.7筆者撮影)

 亀井氏は露木順一日大教授との対談に出席。4月に行われた衆院北海道5区補選の敗戦理由を尋ねられた亀井氏は、「今の民進党執行部がアホだから」と即答。公職選挙法上の「確認団体」を設立して民間人代表の下に結束する「さくらの木」構想をやれば勝っていたとの見方をした。

 民進党の党内事情についても「残念なのは、民進党の執行部でない議員もいいポストに就きたいから、執行部に徹底的に迎合し、自分の意見を貫こうとしない。野党でいいポストについて、何をやるのか」とやゆした。

 亀井氏は、民進党の中堅・若手に政策立案能力のある優秀な議員が多いことを挙げた上で、「政治家は行動し、それを実現するのが仕事。学者とは違う。今の民進党は昔の社会党と似ている。政権奪取の気概がない」と突き放した。

 安倍内閣の支持率が依然高い理由について「体の悪い安倍総理が世界中を飛び回って、死に者狂いにやっていることが国民の胸を打っている。それに比べ、野党には国民の心を打つものがない。だから、皆さんが一生懸命運動をやられても、無党派層は付いて来ない」と分析。

 状況を打開する方法として亀井氏は、「問題は皆さんの考え方。民進党の議員をねじ伏せてでも、ちゃんとやらせる努力をしなければ。今の執行部のやってることはけしからんと、党本部に押し掛ければいい」と行動を促した。

 さらに亀井氏は「国会前デモをするのもいいが、それだけではマスコミは取り上げない。面会を求めて本部に押し掛け、機動隊が出るまでやればいい。(刑務所に)ぶち込まれても。昔はそこまでやってた」と挑発。

 「暴れれば記事になる。誰がやるのか。皆さんがやるしかない。宇宙人が来てやってくれるのか。今、地球は文明の反逆を受けている。今決起しなければ、人類に未来はない」と鼓舞した。

【書評】『「ゆうちょマネー」はどこへ消えたか』菊池英博/稲村公望(彩流社)

 旧東京銀行出身の経済学者、菊池氏と旧日本郵政公社理事の稲村氏との新著。副題に「“格差”を生んだ郵政民営化の真実」と付されている。郵政民営化の反国民性を菊池氏は鋭い分析力から、稲村氏は実体験から告発する。

 構成は第1部が菊池氏、第2部が稲村氏の論文で、巻末に両氏の対談と日本郵政社長への提言が収められている。貫かれているのは、民営化の背景にある新自由主義への猛烈な批判である。


小泉改革に群がった利権屋たち
 菊池氏は新自由主義者の合い言葉を「破壊せよ、そこに利権がある」と断ずる。「彼らはレント・シーカーと呼ばれ(レントは政治的手段などで得る利権)、ポストを求める政治家、新たな商権や利益を狙う経済人、政権におもねる御用学者などが含まれる」。

 小泉構造改革以降見られるレント・シーカーたちの事例として、UFJ銀行つぶしと日本振興銀行への免許交付、首切りで潤うパソナを挙げている。

 UFJ銀行は04年、竹中平蔵氏が担当相を務めていた金融庁が資本不足に追い込もうとした。外資に譲渡する方針だったと伝えられ、創られた「行政リスク」を回避するため、同行は東京三菱に逃げ込んだ(このあたりの事情は菊池氏の07年著『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』に詳しい)。

 日本振興銀行は04年の開業からわずか6年5カ月で経営破綻し、戦後初のぺイオフが適用された。民主党・国民新党の連立政権下、菊池氏もメンバーに名を連ねる検証委員会が「妥当性を欠く不当な銀行免許」との報告書を提出した。

 しかし、竹中氏と、副担当大臣で後に大臣となる伊藤達也の責任は不問に付された。ペイオフに伴う預金保険機構の負担3500億円は金融機関の経費であり、最終的には預金金利の低下として国民の負担となっている。

 人材派遣会社、パソナはリストラを容易にした04年の労基法改正で躍進した。改正を促進したのが小泉内閣の閣僚だった竹中氏。パソナグループの会長を務める。最近ではグループ内に「日本雇用創出機構」という会社を設置。出資各社はこの「追い出し部屋」に人材を出向させてパソナの紹介を待っているという。

資産運用の転換で地方は停滞
 本題の郵政だが、菊池氏によれば「郵便局を通じて郵貯と簡保で集められたマネーは中央政府に集中され、中央政府が発行する国債の購入資金と財政投融資の原資として運用されてきた」。オリンピック不況からは建設国債も加わり、地方交付税と補助金も相まって、中央に集まった資金が地方に流れる好循環が実現していたのである。

 小泉内閣の頃、「郵貯は財投を通じて無用な特殊法人の原資になっているから民営化しなければ」という声をよく聞いた。しかし、01年4月、すでに旧大蔵省資金運用部に代わって財政投融資資金特別会計が財投債を一括発行する仕組みに変わっている。

 財投を批判したのは、米国である。日本の経済力の源泉と気付いたからである。同時に、対外債務国に転落した米国は、自国の国債の安定購入先として「ゆうちょマネー」に目を付けたのだった。これが『年次改革要望書』に明記した真意であると指摘する。

 日本国債の保有者は、郵貯と簡保を合わせた「ゆうちょマネー」で33%を占める。民営化でこの資金が海外に流れると、国債が売られ、長期金利の上昇となって日本経済に大打撃を与える。

 一方、米国債の海外保有者持ち分約2兆ドルのうち、約40%が日本。これを100%にすることを狙っていると、菊池氏はかねて指摘していた。

 不思議なことに、米国側の狙いに日本郵政幹部は応えようとしている。15年6月、日本のシティバンク銀行の前会長である長門正貢氏がゆうちょ銀行の社長に就任した。長門氏は資金の運用収益を上げるため、投資先を日本国債から株と米国債へ移す方針を示している。

 ゆうちょ銀行の資金量額は15年末で208兆円。うち107兆円が日本国債、32兆円が外国証券(米国債)で運用されている。後者の32兆円を60兆円に増やすとしており、日本国債への投資は28兆円減ることを意味する。そうなれば、日本国民は自国の金を自分たちのために使えなくなり、地域経済の停滞が進むのは必定だ。

 日本郵政株売り出しの主幹事11社の過半数が外資系証券会社なのは、安倍政権が国富を米国に差し出す姿勢の証左と指摘する。持ち株会社と金融2社の「親子同時上場」は明らかな利益相反だが、問題にするマスメディアもない。

永久占領体制に克つ人材育成を
 稲村論文は郵政を軸に据えながら、歴史や外交、メディアの問題など自在に往来し、さながら『黒潮文明論』の政治・経済版といったところか。特に筆に力を入れているのは、民営化の過程で露出した巨大な不正疑惑である。

 09年の政権交代で小泉・竹中の描いた郵政民営化が一旦止まった。菅内閣発足直前に発表された「日本郵政ガバナンス問題調査専門委員会」の報告書で、かんぽの宿をはじめとする国民財産の私物化の動きが明らかになった。稲村氏は次のように記す。

 「そこでは郵政民営化の個別事案の検証結果の概要を、不動産関係、JPEX事案、クレジット事案、責任代理店事業、ザ・アール事案、西川社長時代の日本郵政の経営体制についてまとめている。しかし、それに対する責任追及は影を潜めてしまって全く放置された」

 郷原委員長は中間報告で、「何か問題があったことについて、責任追及を目的としているものではない」と明言し、刑事告発の材料にしないことを断っていた。振興銀の報告書同様、ハイエナ勢力の逮捕に使わなかったことが、小泉民営化の進展を許している。

 日本トラスティ・サービス信託株式会社を介した疑わしいお金の流れにも触れている。亀井党首を裏切り晩節を汚した自見庄三郎参院議員が09年2月に質問しているが、同社は旧郵政公社の130兆円に上る債権の管理業務を引き受けていながら、オリックスの筆頭株主になっている。しかも、オ社株は半年もたたない間に、9分の1まで落ち込んでいた。この大問題を取り上げた新聞はない。

 それにしてもなぜ、わが国の政治家や官僚は誰も彼も外圧になびくのか。稲村氏は海外留学では必ずしも「日本の国際派」は育てられないとして、次のように訴える。

 「『我こそは日本の国際派である!』と真っ先に名乗りをあげそうな外国勢力の案内人がいるが、日本の国際派とは、祖国日本に対する理解に根差した国際教養を持つ人物のことなのだ。新自由主義を鵜呑みにして、アメリカの一部勢力の手先となるような人物は失格である」

 その上で、「国際教養や独自の教育機関こそ、対米自立、つまり『永久占領体制の克服』の鍵」と説く。外務省に出向し、各国大使館に勤務した経験を持つ稲村氏からすると、郵政民営化は日本の指導層の敗北と映ったに違いない。

東芝不正事件と西室前社長の闇
 日本郵政社長への進言は、豪州の大手物流会社(トール社)の売却や郵政3社株式の追加売却の停止など4項目からなる。とりわけ目に留まったのは、4つ目の「日本国債から外債(米国債)と株」への投資先転換をやめるべしとの項目である。転換した場合、マイナス金利導入による「ゆうちょ銀行」の損失は年間60億円と試算。余剰資金は日銀保有分の日本国債買取に充てるのが賢明と主張する。

 長門社長は4月に持ち株会社、日本郵政の社長に昇格している。本当に日本のことを考えているなら、ぜひ提言を実行してもらいたい。

 本筋でないが重要な情報もあった。西室泰三前日本郵政社長は東芝社長時代に米国の重電機メーカー、ウェステイングハウスを約6000億円で買収した。菊池氏によれば、このうち約4000億円が「のれん代」とのこと。東芝の収益状況が厳しくなり、不正経理に走る一因になった。

 稲村氏によれば、東芝が粉飾決算を行っていた時期は、西室氏が東京証券取引所会長を務めていた時期と重なる。郵政民営化委員会の委員長も務めていたので、郵政持ち株会社の社長を務めるのは、明確な利益相反ではないか。

 ちなみに、日本郵政が6200億円で買収したトール社は、3000億円が「のれん代」だった。

 メディアの闇についても、対談は触れている。小泉純一郎氏が「税金の無駄遣い」と郵政民営化を説く街頭演説が全国のお茶の間に流れた。しかし、郵政3事業に税金は1円も使われていない。稲村氏がNHKに訂正を求めたが、一度も直さなかったという。

 さらに稲村氏は何度も全国紙に取材を受けたにもかかわらず、1行も載ったことがない。これは私が国民新党で毎週見てきた光景である。記者は無自覚にスパイ役を務めているというのが私の確信である。取材メモは、官邸とCIAに渡っているとみる。

信念を貫く男の生きざま
 同書は「ミスター郵便局」と呼ばれる稲村氏がどうしても書かなければならなかった本である。奄美諸島の郵便局の宿直室で生まれ、民営化に抗議して職を辞した。その思いが「まえがき」に表れている。

 数年前、稲村氏が小樽郵便局を訪ねた際、局長室に郵政創業者、前島密氏の額が掲げられていた。「清廉規志」と書かれている。民営化時に廃棄を命じられたが、関係者が秘匿して難を逃れたもの。『郵政百年史資料』も廃棄処分となったと聞く。

 稲村氏は「新自由主義の手法は、歴史と伝統の記憶を抹殺しようとすることが特徴」と悟り、次のように続けている。

 「郵政とは、郵の字の示すように垂水の邦の政事と心得ていただけに、地方をないがしろにして格差拡大を黙認する新自由主義の郵政民営化に抵抗することは、運命として受け止めざるを得なかった」

 同書を通し、わが国が直面している重要問題を知るだけなく、信念を貫く男の人生を見てほしい。

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       高橋清隆

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著者プロフィール


反ジャーナリスト。金沢大学大学院経済学研究科修士課程修了。ローカル新聞記者、公益法人職員などを経て、2005年から現職。『週刊金曜日』『ZAITEN』『月刊THEMIS(テーミス)』などに記事を掲載。  著書に『偽装報道を見抜け!』(ナビ出版)『亀井静香が吠える』(K&Kプレス)『亀井静香—最後の戦いだ。』(同)『新聞に載らなかったトンデモ投稿』(パブラボ)。           

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