政治経済学者の植草氏による最新の投資指南書である。困難な時代を生き残るための資産運用技術の習得を通じ、内外政治経済情勢に明るくなるきっかけを与えてくれる良書だ。


 同書は植草氏が月2回発行する会員制レポート『金利・為替・株価特報』(TRIレポート)の年次版で、2013年から出版されている(当初はビジネス社刊)。年間8%の利殖によって、9年で資産を倍にすることを目標にする。堅実な手法を旨とし、一攫千金(いっかくせんきん)を餌にする投資本と一線を画す。

 構成は「老後資金が2000万円足りない!?」「低迷する日本経済」「老後に備える資産倍増術」「資産家になるため極意」「2020年の世界と日本」の5章と付章「厳選 日本株25銘柄」から成る。付章の参考銘柄の的中率には、TRIレポートの毎3銘柄や「TRI政経塾」の毎8銘柄同様、目を見張るものがある。

 第1章「老後資金が2000万円足りない!?」の最終節に「5つの資産倍増コース」が示されている。すなわち、。蕋庁紕達錙淵ぅ妊魁砲叛冦NISA(ニーサ)の堅実コース株主優待銘柄の有効活用資産分散と個別株式投資こ価指数先物取引の活用ズ跳堯金、FX、商品等の先物取引である。

 は投資運用戦略上の中核であり、第4章「資産家になるため極意」中の「最強・常勝五箇条の極意」が心強い手引きになる。「五箇条」とは「損切り」「逆張り」「利食い」「潮流」「波動」のこと。これを意識するだけで、成果はだいぶ違うのではないか。

 同書の内容は、2つに大別できる。すなわち、国内外の政治経済分析と、投資技術の解説である。前者では、グローバル資本が世界各国の政治を牛耳り、戦争と弱肉強食路線の政策を国民に押し付けている現状を冷ややかに描く。

 「今の日本政治の支配者は巨大資本だ。米国を支配する巨大資本が日本政治をも支配している」「米国の支配者は日本において、官僚機構、日本の大資本、利権政治勢力、メディアを支配下に置いて、彼らに都合のいい政治体制を生み出し、維持し続けてきた」(p.107)

 その上で、「私たち主権者のための政治を実現するには、この壁を乗り越えるしかない。(中略)この方向を目指しつつ、足元では悪政、暴政の継続を前提に、我が身を守る方策を模索するしかない」との立場を明確にしている。私はこのくだりを読み、麻生太郎財務相の「老後の資金を考えたことあるか」発言をやゆするツイートを連想した。

 「2000万円貯めるより、政権交代した方が早い」

 投資術を一から覚えるより、倒閣運動に尽くした方が気が楽だが、私の生来の勉強嫌いからの逃避かもしれない。

 気になったことが幾つかある。iDeCoとNISAの活用は著者の指摘するように「典型的な官と業の癒着」(p.38)だから、私は絶対に活用するものかと思っていた。政府の社会保障政策の失敗の尻ぬぐいのため、なぜわれわれのわずかな資産を金融賭場に供出しなければならないのかと。植草氏の答えは次の通りだ。

 「しかし、私たちの老後の生活を守るためには、こうした背景を持つ制度であっても税制上の恩典がある以上、利用を検討せざるを得ない。『白いネコでも黒いネコでもネズミを取ってくるのがいいネコだ』という言葉が知られるが、この感覚で考える必要がある」(p.39)

 いまひとつの懸念は、コロナウイルス禍(か)とそれによる経済損失が広がっても、「堅実コース」が損失を生むことはないかという点である。今後詳しく勉強していきたい。ただし、本書は多様な投資方法の活用を説いており、先物指数取引もその一つ。「相場の上昇だけでなく、相場の下落局面でも利益を確保することが可能になる」(p.133)と記す。

 上海総合指数の動きは奇妙だ。2019年1月以降、中国株価は米中関係の動向に左右される。しかし、同5月5日のトランプの強硬発言(トランプショック1)や同8月1日のトランプショック2による下落、同12月13日の米中第1段階合意による上昇の少し前に指数が動いているのが確認できる。

 著者は「上海市場の先見能力が高いか、上海市場に機密情報が流入している可能性がある」(p.204)と指摘する。

 後書きにある「知的な活動としての資金管理のための防衛術」(p.222)の語句は考えさせられた。私は植草氏が毎年出す投資本を読んだり、「TRI政経塾」に参加するたび投資の必要性を認識しながら、二の足を踏んできた。恐らく、金もうけを心のどこかで反知性主義的行為と見下していたのかもしれない。第4章の終わりに、次の記述がある。

 「個別株式投資においては、個人のベースでアクティブ運用を試みる。適切な運用手法を用いれば、アクティブ運用を行う投資信託商品よりも高いリターンを得ることも可能になる。ここに資金運用戦略の醍醐味(だいごみ)があるとも言える。投資資金運用は優れて知的創造的な活動なのである」(p.135)

 実際、同書に教えられたことも多い。米軍によるイランのソレイマニ司令官殺害と中東の近代史や、米国民主党内の勢力図、香港暴動と台湾総統選挙の関係など。

 2020年は庚子(かのえね)の年。算命学の研究者でもある著者は、「激動のなかにも、これまでの流れが新しい流れに転換する、大きな第一歩を印(しる)す年になる空気が感じられ始めている」(p.4)と展望する。同書の理念を胸に、投資を通じ、見聞を深める年にしたい。

山本太郎がほえる〜野良犬の闘いが始まった
高橋清隆
NextPublishing Authors Press
2020-01-20