和楽ソウルバンド、HEAVENES(ヘヴニーズ)が11月2日、東京・日本橋三井ホールで能楽師、大倉流大鼓方(おおつづみかた)の大倉正之助氏をゲストに迎えコンサートを開いた。語りやコントを交えたバンド演奏に、大倉氏も鼓で参戦。会場の空気を振るわすような重要無形文化財総合指定保持者の打音に、観客は息をのんだ。

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鼓を打つ大倉氏(2020.11.2、[株]コミティッド提供)

 コロナウイルス騒動以降、HEAVENESがコンサートを開くのは2度目。4月5日に予定していた公演は中止になり、毎週日曜夜、メッセージと楽曲を『HEAVENES Style』と称して動画配信するようになった。8月16日の復活公演では、マスク・検温や、入場券への身元記入を拒否したファンが入場を断られるトラブルが起きている。

 リーダーのマレは翌週の番組で、「お二人の方々の心を、僕たちは無駄にしませんから。必ずやっていきますので、今後を見てください」と誓った。

 今回の主題は「FAKE WORLD〜われわれは偽りの世界に住んでいる」。公式ホームページでコロナ対策を「科学的根拠に基づかない」として疑問視。8月20日の日本感染症学会で「5種類目の風邪」と発表されたことや、C0VID-19の検査方法が2015年にオランダで特許申請されていた事実を挙げる一方、マスク着用や検温に協力を呼び掛けた。政府主導の感染症対策の内容には全面的に同意していないものの、出演者としては施設管理責任者と興業責任者の判断を尊重せざるを得ないことを理由に挙げ、「大変残念なこと」と吐露している。

 コロナ対策下で許される座席数いっぱいの400人強が入場した。外務省が後援し、ペルー・ブルガリア・セルビア・チュニジアの各大使館関係者も姿を見せた。子供から年配者まで、顔ぶれは多様。『コロナラプソディ』効果か、初めての観客が1割5分ほどを占める。約3時間にわたり、語りのBGMを含め20以上の楽曲と舞を披露した。
 
 舞台はインストロメンタル曲『The Code of the Samurai(武士道)』で始まる。日本の伝統文化を解説する映像と解説に、琴、尺八、太鼓、津軽三味線と、音が重ねられていく。登場したマレは、「どうよ。世の中すっかり狂っているが、僕は信じてる。皆さんと一緒に世界をもう一度、元に戻せると」とあいさつした。

 2曲目は『イノセントマン』。
 〈相変わらず僕、世渡りさえもろくにできない 理想主義者のままさ ああ、僕は信じてる 真っ直ぐすぎて曲がりきれない君だからこそ、同じ夢が見れると〉
 〈純粋なだけでは生きていけないと言われたけど、僕はまだちゃんと生きているよ〉

 16歳のとき、画一的な学校教育に反発し、高校を中退。自主授業による日本初のフリースクール「寺子屋」設立運動を展開したマレの生きざまを連想させる。

 続いて、Kumikoの歌による『サムライ・ブリッジ』。ゴスペルを主流音楽にした、故・アンドレ・クラウチの遺産を引き継ぐ。三味や太鼓に乗る英語の詞は、大和ゴスペルと言ったところか。「ブリッジ」はHEAVENESに欠かせない語句で、世代間と民族間の融和を呼び掛けるメッセージでもある。

 スクリーンにコロナの脅威を伝えるニュース映像が流れる。『HEAVENES Style』時事コーナーの楽曲が奏でられると、拍手が起きた。マレが「コロナによって世界はニューノーマルに転換しようとしている。欧州では第2波と騒がれている。しかし、世界中でデモが起き、対策に不満が爆発している」と状況を説明。

 「これは明日からの米大統領選と関係がある。世界は真っ二つに分かれた。このパンデミックはワクチンアライアンスとの覇権争い」と両断し、日本感染症学会での「5種類目の風邪」発表に言及。「しかし、それがニュースにならない。世の中のメディアの情報・印象操作は異常」と批判した。

 「科学的じゃないと分かっても、上から言われたとか、社の方針だからとか、正しいことをやらない。自分で考えない思考停止の人がうようよいる。保身だ」と糾弾。旧約聖書詩篇19:1「天は神の栄光を語り告げ、大空は御手の業を告げ知らせる」を引用した。

 「美しい宇宙を創り出した偉大な芸術家に思いを留め、大きく考える習慣を付けていこうではないか。そうすれば、この狂った社会をすいすい生きていけるのでは」と提案し、同詩篇からヒントを得た人気曲『千億の夜』を披露した。年内のCD化も公表する。

 中盤、忍者を主題に語る。「徳川の天下太平300年弱を陰で支えた功労者は忍者。諜報(ちょうほう)であり、『007』の世界。日本のお家芸であり、日本を代表する文化」と切り出すと、漫画『忍者ハットリくん』の主題歌が演奏される。

 「服部半蔵は伊賀忍者の頭領。祖先は秦氏とされるが、秦はヘブライ語の“イェフダ”が転訛(てんか)したもの」と古代ユダヤ人である可能性を指摘。「聖徳太子は志能便(しのび)というスパイを使って朝廷内の動きを探っていた。古代能楽師で、能の中に暗号を入れて未来に受け継いでいく」と解説。

 「この秦氏の直系子孫として、志能便の心を継承している人物こそ、いにしえの音、調べを今に伝える能楽師、大倉正之助さん」と紹介した。

 ステージの一角に明かりが照らされ、鼓を抱えた大倉氏が登場する。「イヨー、ポン」「ウオー、ポン」と掛け声を発しながら打ち鳴らしていく。「カーン」とも聞こえる甲高い打音が空気を揺さぶり、場の空気が一変する感覚が襲った。調べは3分間続き、「カンカンカン」「イヨー、ウォオー」と畳み掛けると、観客が総立ちになって拍手で応えた。

 マレが登壇し、前回のライブ終了後、控え室に大倉氏が訪ねて来て、「HEAVENESがやっていることは本来、われわれがやらなければいけない」と言われたことを明かした。マレは「秦氏の歴史を知っているので、あまりに感動して言葉が出なかった」と振り返る。

 大倉氏は「本来、能楽師は時の政権、為政者に対しても物言いをし、本当の真理を打ち出していくのが使命。だけど、時代に即した表現をわれわれも追求していかなければならないことを学んだ」とメンバーをたたえた。

 大倉氏は指にカバーを付けず、素手で打つ古代の手法を継承している。調べの違いに話が及ぶと、大倉氏は「皆さんが存在して、この建物、土地の力、全てが加わって立ち上がった調べ。決して私が創り出したものだけではない」と返す。マレは「だから調和の“調”なんだ。素晴らしくないですか」と客席に向けた。

 マレは、秦氏がさまざまな迫害を受けながらシルクロードを東に旅した歴史を研究しているときに、自身が秦氏の一員であるかのような感覚を持ったと告白し、『シルクロード』を一緒に演奏した。切ないバラード調の旋律に、大倉氏の「イヨー」という地の果てに届くような掛け声と、心臓の底を打つような「カーン」いう打音がぴったりと重なる。筆者の目に理由不明の涙が浮かんだ。

 江戸時代の寺子屋の自由な教育様式を紹介した後、コロナ下の滑稽な学校教育をコントで風刺。

 「先生、頭が痛いです。熱があります」
 「検温しなさい。そもそも何で来たの」

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『コロナラプソディ』を披露するHEAVENES(2020.11.2、[株]コミティッド提供)

 『コロナラプソディ』のピアノ前奏とともにフレディ・マーキュリー似の男が登場すると、歓声が湧く。後半のロック部分は、先生とアベノミズク博士、小池知事似の緑のおばさんも加わり、踊りが披露された。

 クライマックストークでは、鳥羽・伏見の戦いで劣勢に立ち、大阪城を脱出した最後の将軍、徳川慶喜の実像が語られる。薩長の掲げた錦の御旗の前に、彼は弓を引かなかった。「忠義を重んじる武士の魂が聞こえて来ませんか」とマレが向けると、太鼓2人とドラムに大倉氏が加わり、打楽器バトルが繰り広げられた。

 明治維新後、蟄居(ちっきょ)を解かれた慶喜は、静岡に居住する。天皇陛下が京都に行楽に向かう際、紋付き・はかまの正装でお召し列車を遠くからお見送りしたことや、慶喜に面会した伊藤博文が渋沢栄一に「彼は光圀(みつくに)公以来の家訓を守ってきただけ。何と忠義の男か、武士の中の武士。感動した」と語った秘話を紹介した。

 トークのエンディングは、昨年から定番になっているポール・リシャールの詩『告日本国』を朗読。1916年に来日したフランス人牧師が翌年作ったもので、日本が担うべき7つの大業が含まれている。すなわち.▲献△韮嬰戮蘯膰△鮗困錣覆った日本こそ、アジアに主権をもたらす使命を持つ■嬰戮眇¬叡呂砲覆辰燭海箸ない故、世界の植民地解放のために立ち上がること……О貔擇療一に貢献するために生まれ、日本人は武士であるが故に、人類の幸福を促すために存在している。

 「どうですか、皆さん。見渡せば自分の保身のためだけにマスクをしている。なぜ義を大切にしない国になったんだ。未来に引き継ぐ国は、リシャールを感動させたような国でなければ。立ち上がろう。保身でなく、言うべきことを言おう。われわれは武士なんだから。忠義、大義のために生きていこうじゃないか」と呼び掛けた。

 その上で、「人間は精神的な生き物だから、精神を伝えれば、滅ぶことはない」と励まし、人気曲『生まれる前にいた場所へ』を披露した。

 〈あまりに儚(はかな)くて、信じるのが怖いとき 隠れる場所はどこだろう〉
 〈あなたに帰ろう 今とりもどそう 変わらない心の故郷へ〉

 美しい日本の風景と苦難の歴史がスクリーンに映し出される。国を守ろうと戦った勇者たちの姿が次々と現れ、涙ぐむ観客も。

 アンコールは、大倉氏を含む全員が息を合わせ、大鼓を打ち鳴らした。

 東京都内に住む30代の女性は、学生時代からHEAVENESを見てきたという。「今日は本当に鼓が一番すごい。一音打った瞬間、体に音波みたいなものが伝わって来る感じがした。HEAVENESは技術的にうまいと思うが、それ以上のものがある。ただ売れたいとか、有名になりたいとかでなく、大義みたいなもののためにやっていると思う。それが音の性質にもつながっている。これぞ、本当の音楽だと思った」と認識を新たにしていた。

■参考サイト
HEAVENESホームページ


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