高橋清隆の文書館

 当ブログでは、マスメディアが伝えない情報や事象分析を発信しています。
新聞やテレビがつくる「社会標準」から解放されれば、人類は本来の豊かな人生を送れると確信します。

書評

【書評】『あなたの資産が倍になる——金融動乱に打ち勝つ「常勝投資術」』植草一秀(ビジネス社)

 政治経済学者の植草氏による2018年版投資指南書である。金融経済動向は政治を含む世界情勢を知ることなしに占うことはできないとの信念から書かれているため、投資家だけでなく、世界の現状を短時間に知りたい人にとっても良書といえる。


 同書は会員制レポート『金利・為替・株価特報』の年度版で、今回が6作目に当たる。世には来る年の経済動向を予測する投資家向けの本があまた出るが、出版されたきり、結果がどうなったか検証されることはない。しかし、同シリーズとレポートが示した注目銘柄は全て大幅上昇している。

 2017年版には「日経平均株価2万3000円台、NYダウ2万ドル時代へ!」と明記されていたが、現実の推移はその通りになった。2018年は「波乱に見舞われる年になると予想される」(p.26)。その際の注目点は5つ。すなわち、)鳴鮮情勢▲肇薀鵐彑権の行方C羚饋径寮発足げそ情勢の変化テ本の対応、と指摘する。

 最も警戒すべき要因と感じたのは、△鉢い鉢イ絡むが、米国の連邦準備制度理事会(FRB)の金融引き締め動向である。植草氏によれば、現在、日本円は現在あるべき水準より円安に振れていると考えられる。その影響で円高に推移する可能性があるものの、米国の金融引き締め政策が加速すれば、ドル高にもなりやすく、両者の綱引き相場になることが想定される。

 日経平均株価とドル円レートはほぼ相関関係にあり、普通なら円安は歓迎されるべきかもしれない。しかし、日本銀行は量的緩和政策の結果、17年3月末時点で418兆円の国債を保有している。世界経済が拡大傾向を強め、原油価格(WTI)が1バレル60ドルを突破して上昇すれば、日本のインフレ率にも影響が生じ、日銀は直ちに量的金融緩和の縮小、さらに短期金利の引き上げに進まなくてはならなくなる。

 植草氏は米国経済とFRB、資源価格の動向を挙げ、「これらの変動によって、2018年の日銀を取り巻く環境は大きく変化し得るが、日銀が潜在的に巨大なリスクファクターを抱えていること、2018年に国内債券相場の暴落すなわち長期金利急上昇が生じる場合に、日銀信用の危機という重大な問題が顕在化する可能性が多分に存在する」(p.93)と警告する。

 同書が出されたのは17年11月で、FRBのイエレン議長の後任は未定だった。結果は、理事で「中立派」のジェローム・パウエル氏が登用された。植草氏は1月15日号のレポートで「イエレン路線を継承すると見られる。セカンドベストの人選と評価できる」としながらも、トランプ大統領のメンツだけによる変更と非難。「大統領は妥協なくベストを選択すべきで、この判断が後に微妙なダメージをトランプ政権に与える可能性がある」とつづり、状況に対応した適切な引き締めが行われるべきと強調している。

 4月で任期が切れる黒田東彦(はるひこ)日銀総裁は再任案が提示された。米国に続き欧州中央銀行(ECB)も17年6月、ドラギ総裁が「デフレ圧力は、リフレ圧力に取って代わられた」と発言し、金融緩和出口戦略に歩を進める意向を示している。安倍政権は経済の見掛けを維持するために、潜在的危機をさらに大きくしているように映る。

 同書はトランプ政権の分析について1章を割いている。「政権の趨勢(すうせい)を考察することは、資産戦略の側面からも最重要の課題であると言っても過言ではない」からである。トランプ氏はいつもメディアからたたかれているが、その理由は「米国の支配者」である強欲巨大資本が彼を歓迎していないからと指摘する。

 これは分かっている人には当然のことだが、メディアを見る際、肝に銘じてほしいことである。ニュース研究者を自認する私からすれば、メディアが攻撃する対象は支配権力(国際資本)の敵、持ち上げる対象は支配権力の手先(売国奴)にほかならない。日本のメディアが植草氏をありもしない「犯罪」でこき下ろしてきたのもこの理由からである。

 トランプ氏が支配権力を敵に回したまま地位を維持することは難しい。植草氏は彼の行動様式を「現実主義=実用主義」と捉え、その「柔軟性」の高さを認める。具体例として、〆嚢盧枷住ニール・ゴーサッチ氏の就任承認⊆鸚弊鑪官兼大統領上級顧問スティーブン・バノン氏の解任O∨政府の債務上限引き上げや暫定予算など一本化法案を成立させたこと、を挙げる。

は中東など7カ国からの入国禁止措置をめぐる裁判所側との攻防で、大統領の示した人事案が議会承認されたことを指す。水面下で議会共和党とさまざまな取引が展開されたとみられる。

バノン氏は、米国が世界の警察官の役割から撤退することを提言してきた。トランプ候補が掲げた「米国第一主義」に沿う主張である。著者は「米国の支配者は巨大軍事資本であり巨大金融資本である。この支配者は、米国が世界の警察官の役割を放棄することを許すことができない」(p.61)とし、「トランプ大統領は、徐々に米国を支配する巨大資本との間合いを詰めていると考えられる」(同)と分析する。

は、民主党とも接触を欠かしてない証左である。長いビジネス経験で培った高い交渉能力の産物だろう。

 同書を読む中で反省させられるのは、少しの経済指標の変化に過剰反応してはいけないということ。景況は数値により論理的に見なければならない。これは投資家には欠かせない資質である。

 例えば16年初め、中国経済の崩壊見通しを喧伝(けんでん)した「中国メルトダウン」と題する類いの書籍が書店に山積みされた。確かに、上海総合指数は15年6月から16年1月にかけ半値に下がったが、急騰前より30%高い水準にとどまった。止めたのは2月に上海で開かれたG20会合。著者はレポートでその可能性を記述していた。

 冒頭に紹介したように、同シリーズの17年版は多くの経済予測本と違い、同年の世界経済改善と内外株価の上昇を予測した。広がっていた懸念は、FRBが金融引き締めを加速することだった。そうなれば資金が米ドルに吸い寄せられ、資源国や新興国、資源価格が大きな打撃を受ける。しかし、米国インフレ指標が目標値を大幅に下回る状況が続くようになり、追加引き締めの必要性が大幅に後退。米国長期金利は再低下し、新興国や資源国、資源価格が大きく持ち直した。

 同シリーズも過去に、「日本経済撃墜」や「日本の奈落」など、悲観をあおるような題名が付けられた年もあった。もしもの逆説を採用した言葉だが、今回の名称を含め、出版社が付けたものだという。店頭には世界恐慌や預金封鎖が今にも始まるかと思わせるタイトルの本が毎年並ぶのも、恐怖心につけ込む商魂からと考えた方がいい。

 「最強・常勝五カ条の極意」をはじめとする資産倍増への極意と今年の「注目すべき株式銘柄」は、同書でじっくり確認してほしい。

 最後に、気付いた点を幾つか挙げたい。

 17年4月に日経平均株価が1400円以上も下がるリスクオフ(回避)相場があった。同月6日、トランプ大統領がシリアでの米軍による攻撃を命令。同軍による北朝鮮攻撃が連想され、緊迫した。「これを最も大々的にアピールしたのは日本政府である。韓国市場においては2017年4月の北朝鮮リスクが、実はあまり強く意識されていない」(p.188)と指摘し、日本による演出の可能性を示唆している。

 植草氏の言うように、韓国株価指数はこの時変化していない。私がニュース研究者としていつも強調しているのは、マスメディアは国民の見たいものを見せるのではなく、国民に見せたいものを見せるということ。4月6日は共謀罪の審議が衆議院本会議で始まった日である。つまり、法整備目的で自国民に行った宣伝が、国内相場に影響を与えたのではないか。

 経済をめぐるマスコミの無能ぶりも明かされている。ドル円レート変動に最も強い影響を与えているのは米国長期金利変動で、両指標を見れば、その関係は一目瞭然である。しかし、17年10月7日付日本経済新聞に「北朝鮮緊張で円高 なぜ?」と題する特集記事が載った。見出しには「為替の謎、3つの理屈」とある。「日本経済新聞はドル円レートが米国長期金利に連動して変動しているという重要事実を把握していないことが分かる」(p.180)と著者。その後、植草氏の見解が伝わったのだろう。認識が変更されたとのことである。

 日銀の黒田総裁が15年6月10日、「これ以上の実質実効レートベースでの円安進行は、普通に考えればありそうにない」と発言した。円安進行へのけん制である。植草氏はこの発言の裏側に米国政府の指令があったと洞察する。当時TPP交渉が進展する中、円安が米国内でTPP反対を勢いづかせる要因になると判断されたからである。これを転換点に、今度は円高ドル安が進行した。

 12年11月14日、野田佳彦首相が安倍晋三自民党総裁との党首討論で消費税増税を約束して解散に踏み切ったことは「自爆テロ解散」と呼ばれている。植草氏はこの表現は不正確だとして「自爆解散」だと主張する。「自爆テロの場合は敵に大きなダメージを与えるが、野田氏の選択は単に民主党が自滅の道を選ぶ」(p.200)だけだったからである。思わず膝を打った。ただし、本人は損傷を負っていないから、「他爆解散」でもいいかもしれない。

 同書を読めば、マスメディアに接していると分からなくなる世界の実態が見えてくる。投資をする人もしない人も、真実の中で生きたい人は手に取ってほしい一冊である。

■関連サイト
植草一秀の『知られざる真実』

あなたの資産が倍になる 金融動乱に打ち勝つ「常勝投資術」 [ 植草一秀 ]
あなたの資産が倍になる 金融動乱に打ち勝つ「常勝投資術」 [ 植草一秀 ]

【書評】『日本のお米が消える』(『月刊日本』2月号増刊)

 保守系言論誌『月刊日本』が出した「瑞穂の国」崩壊の危険を警告する新刊本である。「主要農産物種子法(種子法)」を2017年4月14日に廃止させたのは米国であり、その背後にモンサントに代表されるグローバル種子企業が控えることを明快に描いている。


 同書には、農政に精通したわが国を代表する論客15人が登場し、権力におもねない告発を展開する。各口述の合間には編集部の筆による豆知識がちりばめられ、楽しく読み進むことができる。F1種(1代雑種)の意味や農業協同組合(JA)の仕組み、遺伝子組み換え(GM)作物の現状など、今さら聞けない疑問に答えている。

 種子法は1952年の成立以来、日本の主要農産物(稲、大麦、はだか麦、小麦、大豆)を守ってきた。各都道府県に優良な種子を維持するよう予算措置などを義務付け、専門的な人材や施設を確保させてきた。おかげで日本のおコメは安全・安心で、ほぼ100%の自給率を維持してきた。その効力が18年3月末で、完全になくなる。

 同廃止法案が参院で審議されていた17年4月10日、「日本の種子を守る有志の会」が議員会館前で抗議行動を展開していた。その中心にいたのが山田正彦元農水相で、同書の1番手に登場している。

 山田氏は同法廃止によって、稲の苗の価格が5〜10倍に高騰していくと指摘する。税金で育ててきた公共品種が失われ、民間企業に提供され置き換わってしまうからである。すでに野菜の種子がF1種になり、1粒1円か2円だったのが海外の種子企業で生産され、1粒40円か50円になったように。

 多様性も失われる。同法廃止に合わせて成立した農業競争力強化支援法8条3項では、多様な銘柄を集約するとなっているからだ。民間品種は高いだけではない。日本モンサントの「とねのめぐみ」の契約書では、農家が代理店の指示に従わない場合、農家は日本モンサントに損害賠償責任を負うとされている。住友化学「つくばSD」や三井化学「みつひかり」にも同様の規定がある。

 鈴木宣弘・東大大学院教授は安倍政権の進める農業改革の本質を「大企業が稼げる農業」と断じる。そこでは農家・農協が犠牲にされるが、利益が出なくなれば「大企業が稼げる不動産業」に転じる二段構えだと看破した。農家の大規模化・法人化の推進と並行して、農地転用の規制を緩和する地方分権一括法案、地方再生改正法案を閣議決定したほか、企業の農地保有を解禁する戦略特区改正法案も閣議決定する方針だったからである。

 農協改革は。複疏潅罎了愼魁Υ篤弔療映僂よび一般社団法人化■複疏看世粒式会社化が2本柱だが、真の狙いは 崢餽垣力」である農協つぶしと独禁法の適用や買収への道を開き、農協を企業に食い荒らさせることと指摘する。モンサントやカーギルが虎視眈々(こしたんたん)と市場を狙っており、GM作物が一気に流入する危険性もある。

 金融財政学者の菊池英博氏は農業改革で380兆円の農協マネーが米国に略奪されると警告する。安倍政権の進める農業改革は2014年6月に閣議決定された「規制改革実施計画」に基づくが、在日米国商工会議所(ACCJ)の意見書と酷似している。意見書をまとめたのはACCJの保険委員会と銀行・金融・キャピタルマーケット委員会で、彼らの狙いがJAバンク(貯金残高91.5兆円)とJA共済(保有契約高289兆円)にあるのは明白だと指摘する。

 これは郵政民営化と同じではないか。規制改革会議の農業ワーキング・グループは「准組合員の事業利用は、正組合員の事業利用の2分の1を超えてはならない」と提言しており、竹中平蔵氏が金融相時代に『年次改革要望書』に沿って小規模共済をつぶしたのと同じ手口である。

 元農水官僚の篠原孝衆院議員は、霞が関の上級官僚約600人を統括する内閣人事局制度によって官邸言いなりの官僚がばっこしている現状を嘆く。篠原氏は彼らを「政僚」と呼び、同制度の廃止を主張する。奥原正明農水事務次官は「農業が産業化し、農水省が要らなくなることが理想だ」と発言したことを問題視し、「農業を一産業と捉え、経産省が管轄している先進国は世界でどこにもない」と糾弾する。

 もともと農政は農政審議会(現食料・農業・農村政策審議会)の意見を参考に推進されてきたが、現在は官邸に設置された規制改革推進会議や産業競争力会議(現未来投資会議)が差配する。それらのメンバーは財界寄りの主張をする御用学者や御用経営者ばかり。このままでは日本の農業・農村は滅び、日本の存立自体が危うくなると指摘する。

 「食政策センターVision21」代表の安田節子氏は、米モンサント社による食の支配に警鐘を鳴らす。GM作物の開発を展開し、世界の種子市場でシェア1位を誇る独占的企業の実態は、何度聞いてもぞっとする。12年、仏カーン大学のセラリーニ博士を中心とする研究チームが同社のGMトウモロコシをラットに与え続けた結果、3カ月で巨大な腫瘍ができた。4カ月すぎに大多数にがんが確認され、寿命(約24カ月)前の早期死亡率は雄50%、雌70%だった。

 同社はGM作物の種子に特許を掛け、種取りも、種の交換も、種の保存も禁止している。年間1000万ドル・75人の訴訟部門を設置し、モンサントポリスと呼ばれる監視員が農地を回り、GM種や雑交種を見付けると無断栽培だとして農家に損害賠償を求める訴訟を起こす。一方、「害虫に強く、収穫量が増える」との触れ込みのGM綿花の種子と肥料・農薬をセットで購入したインドの農家は想定の利益が得られず、10年間に17万人が自殺している。

 種子法廃止という喫緊の問題に対しては、山田氏の促しで「日本の種子(たね)を守る会」(会長・八木岡努JA水戸代表理事組合長)が組織され、種子法に代わる法律を議員立法で制定するなどの運動に取り組む。八木岡氏の主張も同書に収められている。

 わが国の農業を取り巻く現下の問題を知るのに、これ以上の本はない。書店売りもあるが、お近くの店頭にない場合は、ネット書店か『月刊日本』にご注文を。「瑞穂の国の農業、美しい棚田を守りたい」(安倍首相)なら、一読を勧める。

■参考サイト
日本の種子(たね)を守る会
『月刊日本』ホームページ

月刊 日本増刊 日本のお米が消える 2018年 02月号 [雑誌]
月刊 日本増刊 日本のお米が消える 2018年 02月号 [雑誌]

【書評】『見えない不祥事——北海道の警察は、ひき逃げしてもクビにならない——』小笠原淳(リーダーズノート)

 畏友のジャーナリスト、小笠原氏が著した初の単行本である。札幌市内に住み、月刊誌『北方(ほっぽう)ジャーナル』を中心に取材記事を書き続ける彼が、北海道警察による身内の不祥事隠蔽(いんぺい)に切り込んだ傑作である。


 小笠原氏は情報公開制度を使い、公にされない警察の不祥事を明らかにしてきた。極寒の地で地道な取材活動を続けてきた1つの成果が同書である。行政文書の行間を読み、警察関係者に食い下がる姿には、同業者として頭の下がる思いだ。

 面白いのは、北海道新聞をはじめとしたクラブ記者との微妙な位置関係である。彼らは日常的に、フリー・雑誌記者を排除している。そのまなざしは軽蔑的である一方、われわれの側も彼らを敵視しているのが普通だ。

 ところが、前例のない暴露については、様相が異なる。ネタの取り合いが起きる一方で、援護射撃となる続報を一般紙が掲載することがあるのだ。口も利かない間柄の記者同士が同じ行政文書を請求し、不思議な「連帯」を見せている。

 警察特権の問題は、中央政界を揺るがせている「モリカケ問題」同様、今の日本を象徴しているのではあるまいか。全体の奉仕者である公務員が、一部の奉仕者になっている証左だから。

 米ワシントンDCにあるホロコースト記念博物館に「ファシズムの初期兆候」として14項目が掲げられている。その中に、「身びいきや汚職のまん延」というのがある。一見小さな不祥事を問題にすることは、軍事国家化を阻止する大きな仕事かもしれない。

 堅い主題を追った著作だが、小笠原氏の私生活がちりばめられている。別の事件取材との兼ね合いや、奥さんの顔色をうかがいながらの飲酒、警察情報センター職員との温かいやり取りなど、味わい深く面白い。一冊のノンフィクション小説ともいえる。

 日本の警察権力の実態を知り、国家について考えるには、格好のドキュメンタリーである。権力の闇に興味のある方にお薦めする。

見えない不祥事 北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない [ 小笠原淳 ]
見えない不祥事 北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない [ 小笠原淳 ]

【書評】『「国富」喪失』植草一秀(詩想社新書)

 天才経済学者、植草一秀氏の新刊本。副題に「グローバル資本による日本収奪と、それに手を貸す人々」とある。目下の政権がいかに国民生活を破壊しているかを分析し、「平和と共生」の理念を具現化する主権者国民勢力による新政権の樹立を訴える。


 同書は3つの章からなる。第1章「失われる国富」、第2章「日本収奪計画と売国の実態」、第3章「国富を守るためにいま、なすべきこと」と続く。題名に「国富」とある通り、物理的側面に焦点を当てて政治の善し悪しを評価しているが、国民が幸せに生きられる生活環境を築くことこそ、政治の役割との思いが垣間見える。

 「失われる国富」の例として挙げている1つに、政府による巨額の米国債保有がある。円高が進んだ際、財務省は為替介入の名目で政府短期証券を発行して日銀からドル買い資金を調達する。積み上がったドルの行き場はなく、米国国債に化ける。

 しかし、政府は米国債を売ったためしがない。07年7月からの4年半、円高進行により54兆円の為替差損を出した。その後13年から15年にかけての円安で損失が一旦解消する局面があった。著者は外貨準備の売却を再三主張したが政府は全く動かず、再び30兆円もの損失を生んだ。

 ほかには、小泉政権が推進した郵政民営化や長銀のハゲタカへの不当廉売、オリックスグループへのかんぽの宿売却計画、現在の安倍政権が引き起こしている年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による年金資金の巨額損失などが詳述されている。

 「日本収奪計画と売国の実態」では、グローバル資本の走狗である安倍政権が取り組む目下の政策が解説されている。具体的には、環太平洋連携協定(TPP)や農業改革、医療制度改革、労働規制の撤廃、水道事業民営化、原発再稼働、辺野古基地建設など。

 読んでいて思わず膝を打ったのは、現代成金のキーワードを「ハゲタカメソッド」と呼称しているくだりだ。民営化によく見られる現象で、実態は「官業払い下げ」である。郵政民営化に伴うかんぽの宿売却や国鉄民営化におけるJR東海、空港事業や水道事業の民営化などを挙げ、「誰がやっても必ずもうかる事業」と指摘している。全くその通りではないか。

 「国富を守るためにいま、なすべきこと」では、今日の支配構造の本質が明治維新から変わらないことを説明している。悪徳ペンタゴン(米・官・業・政・電)は米国を頂点とするピラミッドだが、同国を支配するのは国際金融資本だからである。西郷隆盛も江藤新平も田中角栄も鳩山由紀夫も、このピラミッドを壊そうとした知恵者ではなかったか。

 現在の自民党政権は、「国民のための国家」から「国家のための国民」への転覆を目指す。その証左が、12年に公表された自民党憲法改正草案である。基本的人権を制限し、戦争できる国にする条文に修正され、内閣の独裁を許す緊急事態条項や家庭教育への国家の介入も明記されている。

 安倍内閣は保育所で国歌と国旗に親しむよう指針を出したり、小学校の道徳教科書で「パン屋」を「和菓子」に直したり、体育に銃剣道を入れたり、戦時体制への準備を着々と進めている。支配者にとって、日本国民は年間60兆円の米国予算が付く軍産複合体を支える虫けらにしか映らないのだろう。

 全章を通じて出て来るのが、マスコミによる国民洗脳の問題である。問題の本質を有権者が知り得るには、権力と巨大資本の側に立つ「16社体制」を改めなければならない。NHK受信料を任意性にすることは、その第一歩である。植草氏はスクランブルをかける方法を提唱する。

 当のNHKは受信料不払い者を次々告訴し、勝ちまくっている。歴代会長は任意性には頑として反対の意向を示している。私見では、「公共放送」はまさに戦争を遂行するためにあり、そのためには全員に見せる必要があるからと解す。それ故、植草氏の主張を一層支持したい。

 植草氏は安倍政権を「戦争と弱肉強食」路線と捉え、逆の路線を実現する政権の樹立を説く。これが現在、氏が取り組む「オールジャパン:平和と共生」運動である。現内閣が存続し得ているのは、野党第1党の民進党にも前者の別働隊が潜伏しているからである。もう一つの警戒は、みんなの党、橋本維新、小池百合子と続くえせ第3極の台頭である。

 全ての選挙区に1人の候補者を樹立すれば、「戦争と弱肉強食」路線の候補者に勝つことは可能だと分析する。立候補予定者に公開質問状を送り、その回答をホームページで公開する予定だ。試金石となる項目は、原発再稼働・集団的自衛権容認・格差(消費税)の是非である。これらに平和と共生を加え、「日本版五つ星運動」と名付けている。

 模範の1つとなる選挙が、昨年あった。新潟県知事選である。民進党は当初、原発推進の立候補者を側面支援していた。覆したのは、市民連合による有権者の覚醒である。

 渡邉良明博士(政治学・学習院大)は、植草氏を「今日における“日本のガンジー”」と形容している。ガンジーは国際弁護士として南アフリカで活動しながら、有色人種というだけで1等車から荷物もろとも厳寒の荒野に放り出された屈辱がインド独立に導いた。同じように植草氏は、正確な経済分析を行う故、人物破壊工作に陥れられた。

 昨年3月、私は「オールジャパン:平和と共生」の参院選総決起集会を手伝ったことがある。植草氏が設営やビラ貼りに奔走している姿を見て、ある人が言った。「世が正常なら、財務大臣をやっている人が……。それを見て、泣けてきた」。

 現政権が為した政策を検証すれば、腹の立つことばかり。しかし、これを転換させ、所得水準を引き上げ、大学教育まで無償化し、公的医療保険を堅持し、年金給付を拡充すれば、景色は一変するだろう。

 「私たちが連帯し、共闘すれば、必ず明るい未来を切り開くことができる」

 最後の一文に、活動を緩めない著者の信念を見た。

「国富」喪失 [ 植草一秀 ]
「国富」喪失 [ 植草一秀 ]

【書評】『反グローバリズム旋風で世界はこうなる』植草一秀(ビジネス社)

 政治経済学者の植草一秀氏による最新の投資指南書。氏が執筆する会員制レポート『金利・為替・株価特報』の年度版に当たり、市場動向を占うため政治・経済に関する卓越した分析が行われている。


 同書は後半に「最強・常勝5カ条の極意」や「注目すべき株式銘柄2017」15などを掲載するが、大半は政治・経済分析に当てられている。「これらを読み抜くことなくして現実の経済を正確に予測することはできない」からである。

 12年の第2次安倍政権誕生以降、マスコミは「アベノミクスの成功」をもてはやしたが、本当か。日本の実質GDP成長率(年率換算)の平均値は民主党政権時代の2.0%に対し、安倍政権発足後は0.8%にすぎない。労働者の実質賃金は減少を続けていて、一人親世帯の相対的貧困率54.6%はOECD加盟33カ国中、堂々の1位にある。

 この1年間の金融市場変動で大きな注目を集めたのが中国株価調整=チャイナショックだった。15年6月以降に中国株価が下落に転じ、同年8月の人民元切り下げ措置実施後に世界市場に波及した際、麻生太郎財務相が中国バブルについて「何年も前から言われており、ついに来たかという感じで、みんな驚くことはなかったと思う」と発言した。

 しかし、植草氏がチャートを示して説明しているように「バブル崩壊」はたった1年間急騰した株価の一部が破裂したもので、「何年も前から言われて」いたことでは全くない。「日本の経済政策の司令塔にいる重要閣僚が、基本的な知識と情報を持たずに政策運営を行っていることは恐ろしい」と嘆く。

 うならされたのが、各種指標を使った株価動向の解説である。日経平均株価は2月12日と6月24日の1万4952円でダブルボトムを形成して現在に至る。15年6月を転換点に円高に連動した株価下落波動が始まったが、それに中国株下落という新たな要因が加わった。

 止めたのは2月末に上海で開かれたG20会合。世界経済の下方リスクを明示し、参加国の政策総動員方針を打ち出した。日経株価はニューヨーク株価、ドイツ株価とともに反転上昇する。6月24日に再び安値を付けた主因は、円高・ドル安の進行だった。

 6月3日に5月の米国雇用統計が発表され、雇用者増加数が3.8万人にとどまることが分かったからである。しかし、翌月8日発表の6月雇用統計で雇用者増加数が28.8万人に急増し、米国の追加利上げ実施観測が再浮上。ドルは反発し、これに連動して日経平均株価も反発したのである。

 同書を読んでいると、金融市場が実に論理的に推移していることが分かる。まさに目からうろこの連続。「ばらばらに見える経済指標と金融変動は、ジグソーパズルが1枚の美しい絵画に転じるように理路整然と理解し得るものになる」と植草氏。超一流の分析がそこにある。

 何度聞いても腹立たしいのは、国民資産を預かる政府の「失敗」である。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は直近1年間に11兆4197億円の損失を出した。14年10月の新運用方針で、外国株式や外国債券などリスク資産を65%に引き上げたのが裏目に出た。植草氏は「結果論で言っているのではない。そのプロセスにおいて、初歩的、そして致命的な過ちを犯している」と強調する。

 植草氏はドル円相場や日経平均株価、日本国債先物価格、NYダウの各種チャートを掲げ、株価が2倍に上昇した局面で株式の運用比率を大幅に引き上げていること、1ドル=78円が1ドル=112円に上昇した局面で外貨運用比率を大幅に引き上げていることを問題視し、「まさに、成績が最悪の素人の運用そのものである」と喝破する。

 さらに為替変動による外貨準備金の評価損は、この1年間に30兆円に上る。15年6月にドル円レートが125円までドル高になったとき、政府は米国債を売るべきだと植草氏はレポートやブログで主張していた。年金と外貨準備合わせて41兆円の損失。私には「失敗」でなく、わざとやっているとしか思えない。

 世界政治における16年の「3大ミステリー」を挙げている。すなわち(涜臈領選における異常なトランプたたき英国EU離脱国民投票におけるメディアのヒステリーF本のTPP前のめり対応である。

 これらの理解し難い動きを植草氏は「グローバリズムに対する、世界の各地から示され始めた狼煙(のろし)、反抗=レジスタンスのうねりに対する、巨大資本勢力、いわゆる1%勢力の動揺、あせりの裏返しである」とみる。

 は次期米大統領が「脱退」と言っているのになぜ突き進むのか。それは反グローバリズムのうねりの中で、1%勢力は窮地を打開すべく安倍首相に早期TPP批准の強行を命令したからではないかと推論している。
 
 同書の帯には「株価再躍動」とある。植草氏は17年が4、5年に1度の「大相場」になる可能性が生まれ始めていると記す。中国経済とともにわが国に強い影響を及ぼすのが米国経済の動向。FRB(連邦準備制度理事会)のイエレン議長は15年10月、「高圧経済“high-pressure economy”」という言葉を使って、緩和的政策を維持するのが得策との見解を示している。

 同書が可能性を示唆した通り、14日に米連邦公開市場委員会(FOMC)で1年ぶりの利上げが決まった。植草氏は直近レポートで、トランプ新政権の成長政策を背景に、「高圧経済」論に基づく金利引上げ路線が修正されて利上げが加速されるとの見通しを示しているが、09年のサブプライム危機から完全に立ち直っていない米国経済において、早急な金融引き締め策に慎重な姿勢を貫いてきたイエレン議長の手腕を評価している。

 懸念の1つは、トランプ次期大統領との関係だ。「トランプ新政権がFRBの真意を正確に理解し、FRBと良好な折り合いをつけて、米国経済の回復と安定的な金融政策運営、さらに世界経済の緩やかな回復実現に向けて、適正なマクロ経済政策運営の体制を構築することが強く望まれる」。

 17年は安定した内外の政治経済運営を願う。同書は資産運用だけでなく、激動する社会情勢を読み解くための羅針盤である。

反グローバリズム旋風で世界はこうなる [ 植草一秀 ]
反グローバリズム旋風で世界はこうなる [ 植草一秀 ]
新聞に載らなかったトンデモ投稿
亀井静香―最後の戦いだ。
亀井静香が吠える 痛快言行録
偽装報道を見抜け!世論を誘導するマスメディ…
Archives
記事検索
ご支援のお願い
 このブログでは、マスコミが伝えない社会の動きや事象分析を紹介したいと考えています。取材・執筆には時間と労力がかかります。     つきましては、当ブログの記事に賛同いただける皆さまに寄付を賜りたく、お願い申し上げます。少額でも助けと励みになりますので、ご理解とご協力をいただければ幸甚の至りです。

       高橋清隆

郵便局からのお振り込み
【記号】13160   
【番号】10900411

銀行からのお振り込み
【口座】ゆうちょ銀行  
【店名】三一八(読み:サンイチハチ)
【店番】318     
【預金種目】普通預金  
【口座番号】 1090041 
【口座名】盒鏡粁粥  

著者プロフィール


反ジャーナリスト。金沢大学大学院経済学研究科修士課程修了。ローカル新聞記者、公益法人職員などを経て、2005年から現職。『週刊金曜日』『ZAITEN』『月刊THEMIS(テーミス)』などに記事を掲載。  著書に『偽装報道を見抜け!』(ナビ出版)『亀井静香が吠える』(K&Kプレス)『亀井静香—最後の戦いだ。』(同)『新聞に載らなかったトンデモ投稿』(パブラボ)。           

メールはこちらから
livedoor プロフィール

donnjinngannbohnn