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書評

【書評】『「国富」喪失』植草一秀(詩想社新書)

 天才経済学者、植草一秀氏の新刊本。副題に「グローバル資本による日本収奪と、それに手を貸す人々」とある。目下の政権がいかに国民生活を破壊しているかを分析し、「平和と共生」の理念を具現化する主権者国民勢力による新政権の樹立を訴える。


 同書は3つの章からなる。第1章「失われる国富」、第2章「日本収奪計画と売国の実態」、第3章「国富を守るためにいま、なすべきこと」と続く。題名に「国富」とある通り、物理的側面に焦点を当てて政治の善し悪しを評価しているが、国民が幸せに生きられる生活環境を築くことこそ、政治の役割との思いが垣間見える。

 「失われる国富」の例として挙げている1つに、政府による巨額の米国債保有がある。円高が進んだ際、財務省は為替介入の名目で政府短期証券を発行して日銀からドル買い資金を調達する。積み上がったドルの行き場はなく、米国国債に化ける。

 しかし、政府は米国債を売ったためしがない。07年7月からの4年半、円高進行により54兆円の為替差損を出した。その後13年から15年にかけての円安で損失が一旦解消する局面があった。著者は外貨準備の売却を再三主張したが政府は全く動かず、再び30兆円もの損失を生んだ。

 ほかには、小泉政権が推進した郵政民営化や長銀のハゲタカへの不当廉売、オリックスグループへのかんぽの宿売却計画、現在の安倍政権が引き起こしている年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による年金資金の巨額損失などが詳述されている。

 「日本収奪計画と売国の実態」では、グローバル資本の走狗である安倍政権が取り組む目下の政策が解説されている。具体的には、環太平洋連携協定(TPP)や農業改革、医療制度改革、労働規制の撤廃、水道事業民営化、原発再稼働、辺野古基地建設など。

 読んでいて思わず膝を打ったのは、現代成金のキーワードを「ハゲタカメソッド」と呼称しているくだりだ。民営化によく見られる現象で、実態は「官業払い下げ」である。郵政民営化に伴うかんぽの宿売却や国鉄民営化におけるJR東海、空港事業や水道事業の民営化などを挙げ、「誰がやっても必ずもうかる事業」と指摘している。全くその通りではないか。

 「国富を守るためにいま、なすべきこと」では、今日の支配構造の本質が明治維新から変わらないことを説明している。悪徳ペンタゴン(米・官・業・政・電)は米国を頂点とするピラミッドだが、同国を支配するのは国際金融資本だからである。西郷隆盛も江藤新平も田中角栄も鳩山由紀夫も、このピラミッドを壊そうとした知恵者ではなかったか。

 現在の自民党政権は、「国民のための国家」から「国家のための国民」への転覆を目指す。その証左が、12年に公表された自民党憲法改正草案である。基本的人権を制限し、戦争できる国にする条文に修正され、内閣の独裁を許す緊急事態条項や家庭教育への国家の介入も明記されている。

 安倍内閣は保育所で国歌と国旗に親しむよう指針を出したり、小学校の道徳教科書で「パン屋」を「和菓子」に直したり、体育に銃剣道を入れたり、戦時体制への準備を着々と進めている。支配者にとって、日本国民は年間60兆円の米国予算が付く軍産複合体を支える虫けらにしか映らないのだろう。

 全章を通じて出て来るのが、マスコミによる国民洗脳の問題である。問題の本質を有権者が知り得るには、権力と巨大資本の側に立つ「16社体制」を改めなければならない。NHK受信料を任意性にすることは、その第一歩である。植草氏はスクランブルをかける方法を提唱する。

 当のNHKは受信料不払い者を次々告訴し、勝ちまくっている。歴代会長は任意性には頑として反対の意向を示している。私見では、「公共放送」はまさに戦争を遂行するためにあり、そのためには全員に見せる必要があるからと解す。それ故、植草氏の主張を一層支持したい。

 植草氏は安倍政権を「戦争と弱肉強食」路線と捉え、逆の路線を実現する政権の樹立を説く。これが現在、氏が取り組む「オールジャパン:平和と共生」運動である。現内閣が存続し得ているのは、野党第1党の民進党にも前者の別働隊が潜伏しているからである。もう一つの警戒は、みんなの党、橋本維新、小池百合子と続くえせ第3極の台頭である。

 全ての選挙区に1人の候補者を樹立すれば、「戦争と弱肉強食」路線の候補者に勝つことは可能だと分析する。立候補予定者に公開質問状を送り、その回答をホームページで公開する予定だ。試金石となる項目は、原発再稼働・集団的自衛権容認・格差(消費税)の是非である。これらに平和と共生を加え、「日本版五つ星運動」と名付けている。

 模範の1つとなる選挙が、昨年あった。新潟県知事選である。民進党は当初、原発推進の立候補者を側面支援していた。覆したのは、市民連合による有権者の覚醒である。

 渡邉良明博士(政治学・学習院大)は、植草氏を「今日における“日本のガンジー”」と形容している。ガンジーは国際弁護士として南アフリカで活動しながら、有色人種というだけで1等車から荷物もろとも厳寒の荒野に放り出された屈辱がインド独立に導いた。同じように植草氏は、正確な経済分析を行う故、人物破壊工作に陥れられた。

 昨年3月、私は「オールジャパン:平和と共生」の参院選総決起集会を手伝ったことがある。植草氏が設営やビラ貼りに奔走している姿を見て、ある人が言った。「世が正常なら、財務大臣をやっている人が……。それを見て、泣けてきた」。

 現政権が為した政策を検証すれば、腹の立つことばかり。しかし、これを転換させ、所得水準を引き上げ、大学教育まで無償化し、公的医療保険を堅持し、年金給付を拡充すれば、景色は一変するだろう。

 「私たちが連帯し、共闘すれば、必ず明るい未来を切り開くことができる」

 最後の一文に、活動を緩めない著者の信念を見た。

「国富」喪失 [ 植草一秀 ]
「国富」喪失 [ 植草一秀 ]

【書評】『反グローバリズム旋風で世界はこうなる』植草一秀(ビジネス社)

 政治経済学者の植草一秀氏による最新の投資指南書。氏が執筆する会員制レポート『金利・為替・株価特報』の年度版に当たり、市場動向を占うため政治・経済に関する卓越した分析が行われている。


 同書は後半に「最強・常勝5カ条の極意」や「注目すべき株式銘柄2017」15などを掲載するが、大半は政治・経済分析に当てられている。「これらを読み抜くことなくして現実の経済を正確に予測することはできない」からである。

 12年の第2次安倍政権誕生以降、マスコミは「アベノミクスの成功」をもてはやしたが、本当か。日本の実質GDP成長率(年率換算)の平均値は民主党政権時代の2.0%に対し、安倍政権発足後は0.8%にすぎない。労働者の実質賃金は減少を続けていて、一人親世帯の相対的貧困率54.6%はOECD加盟33カ国中、堂々の1位にある。

 この1年間の金融市場変動で大きな注目を集めたのが中国株価調整=チャイナショックだった。15年6月以降に中国株価が下落に転じ、同年8月の人民元切り下げ措置実施後に世界市場に波及した際、麻生太郎財務相が中国バブルについて「何年も前から言われており、ついに来たかという感じで、みんな驚くことはなかったと思う」と発言した。

 しかし、植草氏がチャートを示して説明しているように「バブル崩壊」はたった1年間急騰した株価の一部が破裂したもので、「何年も前から言われて」いたことでは全くない。「日本の経済政策の司令塔にいる重要閣僚が、基本的な知識と情報を持たずに政策運営を行っていることは恐ろしい」と嘆く。

 うならされたのが、各種指標を使った株価動向の解説である。日経平均株価は2月12日と6月24日の1万4952円でダブルボトムを形成して現在に至る。15年6月を転換点に円高に連動した株価下落波動が始まったが、それに中国株下落という新たな要因が加わった。

 止めたのは2月末に上海で開かれたG20会合。世界経済の下方リスクを明示し、参加国の政策総動員方針を打ち出した。日経株価はニューヨーク株価、ドイツ株価とともに反転上昇する。6月24日に再び安値を付けた主因は、円高・ドル安の進行だった。

 6月3日に5月の米国雇用統計が発表され、雇用者増加数が3.8万人にとどまることが分かったからである。しかし、翌月8日発表の6月雇用統計で雇用者増加数が28.8万人に急増し、米国の追加利上げ実施観測が再浮上。ドルは反発し、これに連動して日経平均株価も反発したのである。

 同書を読んでいると、金融市場が実に論理的に推移していることが分かる。まさに目からうろこの連続。「ばらばらに見える経済指標と金融変動は、ジグソーパズルが1枚の美しい絵画に転じるように理路整然と理解し得るものになる」と植草氏。超一流の分析がそこにある。

 何度聞いても腹立たしいのは、国民資産を預かる政府の「失敗」である。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は直近1年間に11兆4197億円の損失を出した。14年10月の新運用方針で、外国株式や外国債券などリスク資産を65%に引き上げたのが裏目に出た。植草氏は「結果論で言っているのではない。そのプロセスにおいて、初歩的、そして致命的な過ちを犯している」と強調する。

 植草氏はドル円相場や日経平均株価、日本国債先物価格、NYダウの各種チャートを掲げ、株価が2倍に上昇した局面で株式の運用比率を大幅に引き上げていること、1ドル=78円が1ドル=112円に上昇した局面で外貨運用比率を大幅に引き上げていることを問題視し、「まさに、成績が最悪の素人の運用そのものである」と喝破する。

 さらに為替変動による外貨準備金の評価損は、この1年間に30兆円に上る。15年6月にドル円レートが125円までドル高になったとき、政府は米国債を売るべきだと植草氏はレポートやブログで主張していた。年金と外貨準備合わせて41兆円の損失。私には「失敗」でなく、わざとやっているとしか思えない。

 世界政治における16年の「3大ミステリー」を挙げている。すなわち(涜臈領選における異常なトランプたたき英国EU離脱国民投票におけるメディアのヒステリーF本のTPP前のめり対応である。

 これらの理解し難い動きを植草氏は「グローバリズムに対する、世界の各地から示され始めた狼煙(のろし)、反抗=レジスタンスのうねりに対する、巨大資本勢力、いわゆる1%勢力の動揺、あせりの裏返しである」とみる。

 は次期米大統領が「脱退」と言っているのになぜ突き進むのか。それは反グローバリズムのうねりの中で、1%勢力は窮地を打開すべく安倍首相に早期TPP批准の強行を命令したからではないかと推論している。
 
 同書の帯には「株価再躍動」とある。植草氏は17年が4、5年に1度の「大相場」になる可能性が生まれ始めていると記す。中国経済とともにわが国に強い影響を及ぼすのが米国経済の動向。FRB(連邦準備制度理事会)のイエレン議長は15年10月、「高圧経済“high-pressure economy”」という言葉を使って、緩和的政策を維持するのが得策との見解を示している。

 同書が可能性を示唆した通り、14日に米連邦公開市場委員会(FOMC)で1年ぶりの利上げが決まった。植草氏は直近レポートで、トランプ新政権の成長政策を背景に、「高圧経済」論に基づく金利引上げ路線が修正されて利上げが加速されるとの見通しを示しているが、09年のサブプライム危機から完全に立ち直っていない米国経済において、早急な金融引き締め策に慎重な姿勢を貫いてきたイエレン議長の手腕を評価している。

 懸念の1つは、トランプ次期大統領との関係だ。「トランプ新政権がFRBの真意を正確に理解し、FRBと良好な折り合いをつけて、米国経済の回復と安定的な金融政策運営、さらに世界経済の緩やかな回復実現に向けて、適正なマクロ経済政策運営の体制を構築することが強く望まれる」。

 17年は安定した内外の政治経済運営を願う。同書は資産運用だけでなく、激動する社会情勢を読み解くための羅針盤である。

反グローバリズム旋風で世界はこうなる [ 植草一秀 ]
反グローバリズム旋風で世界はこうなる [ 植草一秀 ]

【書評】『嘘まみれ世界金融の「超」最大タブー』安部芳裕・天野統康(ヒカルランド)

 敬愛する2友人による新著。過去の経済学が決して触れなかったマネーの仕組みと支配のからくりを暴露している。


 安部氏は08年に『金融の仕組みはすべてロスチャイルドがつくった』(徳間書店)を上梓し、「陰謀論」の根幹が決してうそでないことを明かした市民活動家で、山本太郎参院議員(自由)の秘書や三宅洋平参院議員候補の政策アドバイザーを務めてきた。

 天野氏は『世界を騙し続けた[詐欺]経済学原論』(ヒカルランド)や『世界を騙し続けた[洗脳]政治学原論』(同)、『サヨナラ! 操作されたお金と民主主義』(成甲書房)などを著し、講演活動を精力的に続ける民間研究者兼フィナンシャルアドバイザー。

 同書は7月に同社で開かれたセミナーでの2人による講演と対談を基にまとめられ、新たな書き下ろし論考が加えられている。

 第1章は「借金と利子が戦争をつくる! —銀行間の秘密カルテルから始まるお金の詐欺システム」と題し、安部氏がマネーを通じた民間銀行による支配の仕組みを解き明かす。通貨発行権はもともと国家が持っていたが、銀行がお金を創ることによって中央銀行を設立し、政府を凌駕(りょうが)するようになった。

 興味深いのは、「羊毛狩り」の仕組みである。これはウォール街の隠語で、略奪を指す。端的な例は1929年の大恐慌で、FRBは信用創造量すなわち貸し出しを増やした。担保に取ったのは株券で、株価がピークを迎えると一転、貸し出しを抑制する。株は暴落した。

 1931年に景気回復の名目で、米国民は金貨や金塊を財務省で紙幣と交換することを義務付けられた。FRBが金を回収すると、兌換(だかん)紙幣を廃止。合法的な金の強奪に成功した。

 第2章は「借金通貨システムのからくりを解く—250年にもわたる壮大な詐欺から抜け出せ!」の題で、天野氏が教育を通じた国民洗脳体制を告発する。国際銀行権力が知られてほしくない、マネーの仕組みに気付かせないためである。その仕組みとは、無から有を生み出す信用創造である。

 刮目(かつもく)すべきは、「アホノミクス」で知られる浜矩子(はま・のりこ)の素性である。毎日新聞はじめとしたマスコミで“反体制論客”としてコラムを連載する彼女は、同志社大学大学院の山口薫教授を首にしたとのこと。山口氏は通貨発行権や国際銀行権力の研究などに取り組んでいた。

 第3章の対談で思わず膝をたたいたのは、『21世紀の資本』で一世を風靡(ふうび)したトマ・ピケティ教授の評価。資本の収益率、すなわち金融経済の資産の増加率(r)が経済成長率(g)より高いから格差社会になるというのは、結果に過ぎない。なぜrの方が大きいかは語らず、問題の根本解決にはならないと指摘する。

 第4章は「嘘まみれ世界金融の超最大タブーからアベノミクスを斬(き)る—詐欺システムを目隠ししてきた主流経済学」の題で、天野氏が古典派経済学からマネタリズムまでを批判。リチャード・ヴェルナー理論を援用してアベノミクスの欠陥を暴く。

 第5章は「実用化へ待ったなし! 夢のエネルギーR水素—金と権力の独占もない、紛争や貧困もない未来へ」と題し、安倍氏が地球レベルの問題への処方箋として、R水素(再生可能水素)の活用を説く。

 R水素は水から取り出せ、地域で「つくって、ためて、つかう」ことのできる再生可能エネルギーと説明する。水や空気を汚すこともなく、地域でお金が回るように、地域を自立させるものとして注目する。独占できないため、紛争や貧困を引き起こすこともないという。

 同書は学校やマスコミによって固定観念の刷り込まれた人にこそ、読んでほしい一冊である。「タブー」の向こうに、明るい未来を予感した。

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嘘まみれ世界金融の「超」最大タブー [ あべよしひろ ]
嘘まみれ世界金融の「超」最大タブー [ あべよしひろ ]

追記
 12月18日、東京都杉並区の方南会館で開かれる「ワールドフォーラム」に両氏が登壇します。終了後には忘年会と出版記念パーティーもありますので、ぜひご参加を。
詳細ページhttp://worldforum.jp/information/2016/12.html

【書評】『GHQが恐れた崎門学——明治維新を導いた國體思想とは何か』坪内隆彦(展転社)

 畏友の坪内隆彦氏が新著を発表された。山崎闇斎(あんさい)を祖とする崎門学(きもんがく)が、いかに明治維新の原動力となったかを、幕末の志士たちの生き様、いや死に様を通して明らかにしている。



 坪内氏は自身が編集長を務める『月刊日本』で、平成24年7月から「明日のサムライたちへ」と題する連載記事を書いた。明治維新とその後の昭和維新運動にも影響を与えた10の國體思想の重要書を紹介されたが、同書はそのうちの5冊を軸に再編収録している。

 具体的には、浅見絅斎(あさみ・けいさい)の『靖献遺言(せいけんいげん)』、栗山潜鋒(せんぽう)の『保健大記(ほうけんたいき)』、山県大弐の『柳子新論』、蒲生君平(がもう・くんぺい)の『山陵志(さんりょうし)』、頼山陽の『日本外史』を指す。

 「これらの書物なくして、明治維新はなかったと言っても過言ではないと考えています。これらの『聖典』には何が書かれていたのか、そして、志士たちの魂をいかに激しく揺さぶったのか、それを本書で解き明かしていきます」と始めている。

 崎門学は、万世一系の天皇による親政を理想とする。闇斎は「徳を失った天子は倒していい」とする易姓革命論を否定する形で朱子学を受容し、さらに伊勢神道、吉田神道、忌部神道を吸収し、自ら垂加神道を樹立している。

 闇斎は、皇政復古の志を出処進退によっても暗に示している。仕えていた会津藩主の保科正之が死去すると、会津藩の俸を辞し、亡くなるまで京の地を出なかった。弟子の浅見絅斎も「世は既に終身関東の地を踏まず、食を求めて大名に事(つか)へずと誓へり」と語っていた。

 それにしても、武士の生き方は壮絶だ。収録の志士たちの最期も多分に漏れない。その1つとして、梅田雲浜(うんぴん)の例を挙げておく。小浜藩士の雲浜はペリー来航に危機感を抱き、藩主の酒井忠義(ただあき)に「藩政の得失と外寇防御」の上書を提出するも、怒りに触れて藩籍を奪われる。

 雲浜は外国の打ち払いと、京都御所の警備を固めるため勤皇の志篤い十津川郷士の指導訓練に乗り出す一方、危険覚悟で条約反対と慶喜擁立、井伊直弼排斥を主張し、朝廷に入説。彼の行動は大きな成果を上げる。

 しかし、危機感を抱いた井伊は弾圧に乗り出す。京都所司代に就いていた酒井忠義が雲浜逮捕に踏み切った。そうして拷問を受けながら節を曲げず、1年後に牢屋で生涯を閉じる。

 雲浜は吉田松陰から「『靖献遺言』で身を固めた男」と呼ばれていた。この書には中国の忠孝義烈の志8人が紹介されているが、特に方孝孺(ほうこうじゅ)に影響を受けた可能性を坪内氏は指摘する。建文帝の側近として活躍していた方孝孺は、反乱を起こして権力を簒奪(さんだつ)した燕王・朱棣(しゅてい・永楽帝)に最後まで従わず、刀で口を裂かれ、獄門死している。

 今の日本でも、国策逮捕と隠密殺人、それをごまかす偽報道は健在だと思っている。しかし、ほとんどの国会議員は死への恐れより、出世や欲得で本心に背く法案成立に従事しているように映る。議場の押しボタンロボットと化して。

 天皇の「お言葉」を契機に皇室と政治の関係が再び問われている中、同書の出版に宿命を感じる。題名にある通り、GHQは崎門学やそれに続く水戸学の書籍流通を封じた。米国言いなりの政権が終わるかどうかは、捨て身の志士たちの生きざまを国民がどう捉えるかにかかっている。

■参考サイト
坪内隆彦ブログ『国を磨き、西洋近代を超える』

送料無料/GHQが恐れた崎門学 明治維新を導いた國體思想とは何か/坪内隆彦
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【書評】『日本はなぜ、「戦争ができる国」になったのか』矢部宏治(集英社インターナショナル)

 気鋭の論客が対米隷属の真相を明かした本である。東京のど真ん中にある米軍施設には銃を持った米兵が日本人を監視する。米軍はわが国の領土・領空・領海を好きなように使い、自衛隊を指揮できる。集団的自衛権行使容認が65年前に決まっていたことを、解除された機密文書を通じて白日の下にさらす。

 同書は5月末に発売された。米軍に牛耳られたわが国の現状を描く「序章」は、前著『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』(同)の内容とのこと。文章は努めて平易に書かれているが、公文書を扱う性格から、内容は込み入っている。勉強嫌いな私は何度も挫折し、ようやく読み終えた。


米軍指揮下に入ることは65年前に決定
 同書に出て来る密約は数あるが、最も衝撃的なものは、『在日米軍基地に関する極秘報告書』だろう。1957年に東京の米国大使館からワシントンの国務省に送られた書類で、アイゼンハワー大統領が世界の米軍基地の現状や問題点を報告させていた。その一部を抜粋する。

 「(旧)安保条約の下では、日本政府とのいかなる相談もなしに、『極東における国際平和と安全の維持に貢献するため』という理由で米軍を使うことができる。この方針はすでに米軍の上級司令官が決定したものなので、日本政府が承認するかどうかという問題ではない。(略)数も分からない、非常に多くの米国の諜報機関と防諜機関のエージェントたちが、何の妨げもなく日本中で活動している」

 この報告書を作ったのは大使館癸欧離曄璽掘叱使だが、彼の驚く顔が想像できる。さらに衝撃的なのは、全土が基地のような現状に対する日本人の反応をつづった下の一文である。

 「このような強制された基地の在り方に対し、これまで日本人は驚くほどわずかな抵抗しかせず、日本の主権が侵害される中、米軍基地の存在を黙って受け入れてきた。

 加害者に突き放され、屈辱感も倍増である。

 米国の属国であると言うとき、真っ先に頭に浮かぶのが安保条約第6条にある基地権ではないか。しかし、もっと重大なのは、統一指揮権だと指摘する。つまり、戦争になったら日本軍は米軍の指揮下に入るという規定で、1952年7月と1954年2月に吉田首相が結んだ密約の中にある。

 それらの基になった『日米安全保障協力協定案』第8章2項には次のように書かれている。

 「日本区域において戦争または差し迫った戦争の脅威が生じたと米国政府が判断したときは、警察予備隊ならびに他の全ての日本の軍隊は、日本政府との協議の後、米国政府によって任命された最高司令官の統一指揮権の下に置かれる」

 昨年の安保法制の審議のとき、「どうのような事態のとき、日本は海外で武力行使できるのか」「現時点で想定される存立危機事態とは、具体的にどうのような事態か」と野党議員に聞かれても、安倍首相や中谷防衛相は最後まで答えられなかったのはこのためである。判断するのは米国だからである。

 「他の全ての日本の軍隊」とは、構想中だった自衛隊を指す。それは米国の手足となるようにあらかじめ設計された。その前身となった警察予備隊の創設責任者であるGHQ民事局の副官フランク・コワルスキー大佐は自著で次のように記している。

 「警察予備隊の全ての計画と実施は、われわれ米国人が行ったのである。警察予備隊はわれわれの創造した、われわれの作品と言っても過言ではなかった。(略)こうした方法と状況の下に創設された軍隊は、世界の歴史上どこにも存在しないだろう」

 軍事支援ができなければ、米軍の手足とはならない。この義務付けを明記したのが、1951年9月の「吉田・アチソン交換公文」である。「国連加盟国の軍隊が極東における国連の行動に従事する場合」「国連の行動に従事する軍隊を日本国内およびその付近において軍事支援することを日本国が可能にし、便宜を図る」と書かれている。

 ここには、ウォール街のらつ腕弁護士出身のジョン・フォスター・ダレス国務省顧問が巧妙ないかさまを仕込んでいる。米軍を「国連加盟国の軍隊」と「国連の行動に従事する軍隊」に分かち書きすることにより、日本に戦争支援の義務を負わせながら、米軍は国連からの拘束を一切受けずに自由に支援を受けることが可能になったのである。

今は「占領下における戦時体制の継続」
 同書には、気付かされたことが幾つもある。関東甲信越地域に日本の制空権はなく、民間機は最大高度7000メートル上空まで急上昇するか迂回(うかい)して飛んでいる。米国の高官や軍人は横田や厚木、座間、横須賀のいずれかの基地を経由し、ヘリで六本木ヘリポートに降り立つ。パスポートなど持たなくても、そのまま外に出ることができる。それ故、日本政府は国内に何人米国人がいるのか把握できていない。「この時点でもう、日本は独立国家ではない」と著者は指摘する。

 「日米合同委員会」の存在も、全く知らなかった。鳩山友紀夫元首相もそうなのだから、当然かもしれない。米軍のエリート将校と日本の高級官僚たちが35の部会に分かれて月2回、さまざまな問題を協議する場で、過去60年間にわたり、ときには日本の憲法を機能停止に追い込んでしまうような重大な取り決めを、国民の目に一切触れさせないまま、ここで決定してきた。

 この組織のメンバー構成は、日本政府が米軍の配下にあることを証明している。日本側代表代理には法務省大臣官房が据えられているが、彼らの多くは法務次官を経て検事総長になる。裁判所が米国絡みの事案でおかしな判決しか出さない根本原因は、ここにあるのだろう。

 日本国憲法に見られるよう、当初日本の本土に米軍基地は置かない方針だった。わが国民にとっての不幸は朝鮮戦争の勃発である。ダレスは米軍の駐留を継続させるため、すかさず狡知を駆使してマッカーサーを説得する。本来、日本に基地提供を求めるには、国連憲章43条が定めるとおり、日本が国連安保理と「特別協定」を結ぶ必要がある。そこでダレスは、日本が国連加盟を実現し、43条の効力が発生するまでの間、ポツダム宣言署名国(=連合国)を代表する米国との間に「特別協定」を結び、米国に軍事基地を提供できると提案したのである。

 その意味で、わが国で起きているのは「占領体制の継続」ではなく、「占領下における戦時体制の継続」だと強調する。

密約の量産体制築いた岸
 再び揺らいだのは岸信介への評価である。孫崎享氏は著書の中で、彼を面従腹背の対米自立派に分類していた。旧日米行政協定に手を付けたのは岸で、その後安保条約を本格的に改定しようとした首相はいないとの見方である。確かに旧安保条約とともに作られた日米行政協定では「米軍が絶対的な権利を持つ」という論調で書かれていたのに対し、新安保条約とともにできた日米地位協定では「日本国政府が、関係法令の範囲内で必要な措置を執る」といったように改善している。

 新安保条約に盛り込めない部分は地位協定に盛られたが、そこにも明記されない屈辱的な部分が密約文書として作成されていた。ここでは「地位協定の中の『関係法令の範囲内で』という表現に関して、もし日本の法律が米軍の権利を十分に保障しない場合は、それらの法律の改正について、日米合同委員会で協議する」と書かれている。

 当時の米国側の秘密電報には、行政協定の改定問題について岸は「裏でどんな密約を交わしてもよい。表の見せかけが改善されていれば、それでよい」という立場を取っていたことが明かされている。実際、岸のこの姿勢が後に日米首脳会談や日米合同委員会で、無数の無益な密約を生み出す原因となっていく。

 日本近代史研究の権威であるジョン・ダワー氏も「岸首相は確かに有能な政治家ではありましたが、従属的な日米関係を固定化する土台をつくった人だと私は考えています」と語っている。

 条約本文に表現できないデリケートな問題が取り決めや密約書に盛られるのは、ある種法則的なことだと著者は見抜いた。安保改定の目玉となった「事前協議制度」はその代表例である。米国が日本国内で装備の重要な変更(核兵器の配備など)をするときや、日本を防衛する以外の目的で出撃を行うときは、日本政府と事前に協議するという取り決めで、新安保条約の付属文書になっている。

 ところが、これには本当は第2項があった。事前協議について「米軍機の日本への飛来、米海軍艦船の日本国領海ならびに港湾への進入についての現在の手続きには、影響を与えない」と書かれ、核を積んだ米軍艦船の日本への寄港を変わらず認めていた。事実、今日まで、事前協議が行われたことは1度もない。

隠したがるのは常に弱者
 密約文書が作成される背景についても考えさせられた。「実質より体裁」にこだわったのは何も岸だけではない。吉田茂も、米国人のマッカーサーもそうだ。マッカーサーは米軍駐留を認めない方針を翻意するとき、ダレスにねつ造文書を作るよう求めている。

 隠したい気持ちは、勝者でなく弱者にあるのが常ではないか。この世界は誰しも見栄で生きている。カツアゲされたりけんかで負けた者がよく口にするのは、「このことは、誰にも言わないでくれ」である。『年次改革要望書』を米国大使館のホームページが公開し、日本の外務省が隠しているのと同じことである。TPP協定文や交渉過程記録もそうだ。

 誤訳もこうした心理で起きることを知った。最も数多く目に止まったのは“support”を「支持」と訳すもの。「軍事支援」が正しいのに、文書という文書で役人が多用している。公文書は真実を国民に知らせないために発表されると言った方がいい。

 「それほど知られたくないなら、秘密文書にもしなければいのに」。私は読み進みながら、そう思った。文書を残すことにこだわるのは、法律を重んじる欧米人の考え方から来ているのではあるまいか。著者は統一指揮権をめぐるダレスと吉田の2度にわたる口頭密約に触れ、次のように述べている。

 「もし軍の指揮権を明白な形で他国が持っていたら、それは誰が見ても完全な属国ということになってしまいます。けれどもその一方で、アメリカがそうした重大な問題について、口頭密約だけで終わらせる可能性も、またゼロなのです。必ずどこかで、きちんと紙に書いた取り決めを結んでいるはずなのです」

 クレジットカードを作ったり、金を借りたりする際に示される膨大な約款は西洋から来たものである。彼らにとっては、読まれなくとも、文書になっていることが重要なのだろう。植民地帝国はこの手で五大陸を土着民から奪ってきた。矢部氏はダレスを「法的怪物(ジュリディック・モンスター)」と形容する。

砂川判決の後は、条約が全て
 気付いたもうひとつのことは、砂川闘争の最高裁判決の大きさである。1959年12月、田中耕太郎最高裁長官はマッカーサー駐日大使と相談しながら、在日米軍の「憲法違反」を認めた1審の伊達判決を破棄する。以後、正規の手続きで憲法を改正しなくとも、条約を締結すれば、憲法改正と同じ目的を達成できることになった。

 「まさにこれこそが、昨年の安保法案の審議において、私たちの目の前で起こった出来事」と著者は指摘する。

 「57年前に(異を唱えた)3人の最高裁判事が予言したとおり、この最高裁判決が下された後の日本では、例えば『日米安全保障協議委員会』(通称「2+2」)で日米の外務・防衛担当4大臣が協定を結んでしまえば、国民の意思に関係なく実質的な憲法改正を行って、三権分立の原則を無視することも、基本的人権を弾圧することも、自由にできるようになっている」

 わが国はもはや、真っ暗闇のどん底にあるように見える。

希望持ち「サンフランシスコ体制」打破を
 しかし、表紙の帯に「日本の戦後史に、これ以上の謎も闇も、もう存在しない!」とあるように、矢部氏は「あとはこの事実を多くの日本人が知り、怒り、きちんとした政権をつくってアメリカに対し主張すればいいだけではないか」と前向きな構えを見せる。

 そうして「サンフランシスコ体制を終わらせよ」と呼び掛ける。「サンフランシスコ体制」とは、独立後も続く米国への異常な軍事的隷属体制を指す。そのための具体的提言として、改憲案も示している。修正3カ条を追加するもので、最小限の軍事力と交戦権の保持や、外国軍基地の撤去、核の排除をうたう。

 追加方式にしたのは、護憲派の多くが改憲にアレルギーを持っているからである。修正第1条は「ダレスの43条のトリック」を逆回転させる巧妙な副詞節を盛り込む。「国際連合による日本およびその周辺の平和と安全のための措置が効力を生じるまで、敵の侵略を自国の施政下の領域内において…」といった具合だ。

 修正第2条は特に胸に響いたので、そのまま紹介する。

 「2025年以降、自国の領域内における外国軍基地、軍隊および施設は許可しない。この改正された憲法の規定に反する他国との取り決めは全て破棄する。そのための憲法判断は最高裁判所が行う」

 独立を勝ち取るための範として、「フィリピン・モデル」と「ドイツ・モデル」を挙げている。フィリピンは憲法改正によって米軍を完全撤退させた。ドイツは東西統一とEUの拡大によって、国家主権を回復している。

 ドイツの例が参考になるのは、朝鮮半島が統一されれば朝鮮国連軍も国連軍地位協定も法的な根拠を失うから。在日米軍も在韓米軍も、駐留の根拠を失う。その意味で、朝鮮半島に平和条約が結ばれるよう、わが国は貢献しなければと説く。私は2002年のサッカー「日韓W杯」は分断・対立を維持するためのイベントだったと確信していて、当時「W杯は朝鮮半島一体で」と主張する新聞投稿をしたが、ボツになったのを思い出した。

 巻末は、希望に満ちている。われわれは政治について自己決定権があり、諦める必要はないと訴える。情報を広めたり、意志表示したり、拒否したりして、一人ひとりがそれぞれの立場でできる限りの行動を取れば、現実は変えられるのだと。

 著者はバルト三国の人々が独立を勝ち取るため、640キロに及ぶ『人の鎖』を組んで旧ソ連の弾圧をはねのけた事実を紹介し、次のように結ぶ。

 「今後日本でも、本書で紹介したような米国との違法な軍事上の密約についての知識が広まり、研究者たちの長年の努力が、いつか人々の願いと一体となって、独立の原動力となることを心より願っています」

 戦争が避けられるかどうか、われわれの子孫が他国の奴隷のままでいるかどうかは、今のわれわれの行動にかかっている。

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著者プロフィール


反ジャーナリスト。金沢大学大学院経済学研究科修士課程修了。ローカル新聞記者、公益法人職員などを経て、2005年から現職。『週刊金曜日』『ZAITEN』『月刊THEMIS(テーミス)』などに記事を掲載。  著書に『偽装報道を見抜け!』(ナビ出版)『亀井静香が吠える』(K&Kプレス)『亀井静香—最後の戦いだ。』(同)『新聞に載らなかったトンデモ投稿』(パブラボ)。           

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