熊本の三角港（みすみこう）を三十二年ぶりに訪れた。大学生のとき、熊本市内でサークルの合宿があり、終わった後、同じクラスで一年生のとき寮の部屋が隣だった友達と来たことがあった。
三角港の桟橋。天草下島の本渡港と天草上島の棚底港への定期便は運行を続ける。右は展望台「海のピラミッド」（2016.10.13筆者撮影）
彼は熊本が誇る大企業の息子だった。自宅に二晩泊めてもらった後、長崎まで車で送ってくれた。当時出たばかりのホンダの新型プレリュードでデュラン・デュランやカルチャークラブやなどのポップを大音量で流し、女性を見付けるとルーフから顔を出して手を振っておどけた。うそをつく必要もなく、街は輝き、何もかも楽しかった。
三角は中継地である。ここでフェリーに乗り、島原に上陸した。今回、彼は県外に出張中で、独りでの再訪となる。熊本駅前からバスに乗り、三角西港で降りる。明治時代に造られた重要港で、三角の原点である。佐渡の大間港（おおまこう）のような怪しさを期待したが、きれいに整備され、老人の団体客がいた。想像と違ったので、シャトルバスで東港に移動する。
ところが、駅前もフェリー乗り場も、人影がない。自家用車とタクシーが並んでいるだけである。定年退職者らしき男性が現れたので聞くと、天草行きのフェリーは〇六年に廃止されていた。一九九三年に熊本港ができたため、客が奪われたらしい。駅前通りには朽ちた店舗が並び、コンビニがあった。
男性は「昔は人が多くて、弁当売りがたくさんいた」と回想していた。物産館にミカンを買いに来たと言っていたので、立ち寄る。Ｋポップのような歌謡曲がスピーカーから流され、「名物カレー インド・タイ」と書かれたのぼりがなびく。数人のお年寄りがベンチに座っていた。
往時をしのばせる弁当屋を一軒見付けたが、「売り切れ」と言われた。何の収穫もなく、電車で熊本市内に戻ることに。到着の数駅手前で、高校生が乗って来てハッとした。若者が一人もいなかったのだ。心が浮き浮きしてきた。
ＪＲ三角駅（2016.10.13筆者撮影）
三角西港地区に復元された旅館「龍驤館（りゅうじょうかん）」（2016.10.13筆者撮影）
県都の玄関口、ＪＲ熊本駅（2016.10.13筆者撮影）
彼は熊本が誇る大企業の息子だった。自宅に二晩泊めてもらった後、長崎まで車で送ってくれた。当時出たばかりのホンダの新型プレリュードでデュラン・デュランやカルチャークラブやなどのポップを大音量で流し、女性を見付けるとルーフから顔を出して手を振っておどけた。うそをつく必要もなく、街は輝き、何もかも楽しかった。
三角は中継地である。ここでフェリーに乗り、島原に上陸した。今回、彼は県外に出張中で、独りでの再訪となる。熊本駅前からバスに乗り、三角西港で降りる。明治時代に造られた重要港で、三角の原点である。佐渡の大間港（おおまこう）のような怪しさを期待したが、きれいに整備され、老人の団体客がいた。想像と違ったので、シャトルバスで東港に移動する。
ところが、駅前もフェリー乗り場も、人影がない。自家用車とタクシーが並んでいるだけである。定年退職者らしき男性が現れたので聞くと、天草行きのフェリーは〇六年に廃止されていた。一九九三年に熊本港ができたため、客が奪われたらしい。駅前通りには朽ちた店舗が並び、コンビニがあった。
男性は「昔は人が多くて、弁当売りがたくさんいた」と回想していた。物産館にミカンを買いに来たと言っていたので、立ち寄る。Ｋポップのような歌謡曲がスピーカーから流され、「名物カレー インド・タイ」と書かれたのぼりがなびく。数人のお年寄りがベンチに座っていた。
往時をしのばせる弁当屋を一軒見付けたが、「売り切れ」と言われた。何の収穫もなく、電車で熊本市内に戻ることに。到着の数駅手前で、高校生が乗って来てハッとした。若者が一人もいなかったのだ。心が浮き浮きしてきた。
