近代文学を嗜む方なら、一度は凌雲閣という単語に接したことがあるかもしれない。
帝都東京の繁華街浅草に聳え立ったそのビルヂングは文字通り、雲をも凌駕する高さを誇った。八角形の煉瓦普請というモダンなデザインは大衆を魅了し、文士たちもこぞって作品の舞台にするほど。多くの耳目を集めた観光地だったのは想像するに難くない。
だが、関東大震災で呆気なく瓦解。その後爆破され跡形もなくなった、というセンセーショナルな最期を遂げる。
そんな神話の一節のような”彼”が、100年も経とうとする現代、ひょっこりと地の底から顔を覗かせたのだから、好事家たちも大騒ぎだ。これをきっかけに謎に包まれた奇怪遺産の全容解明も遠くない!と色めきだっているところ、なんと今回発見された遺構は保存されず埋められる、というではないか。
世紀の発見がまた地中に戻されてしまう、というのはもちろん遺憾ではあるけど、これはこれで彼らしい幕切れとも思える。
凌雲閣、スキャンダラスなやつ!
過去からいきなりやってきて散々世を賑わせたと思ったら、またひょいっといなくなる。なんて洒脱な東京モンだろう、と僕は尊敬するね。次は何年後にあなたのカケラに出会えるのか。もう二度とないのかもね。