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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/03(土) 22:31:10.55 ID:I0oov03+0

怖い夢というのは印象に残る。

楽しかった夢や、なんてことない平凡な夢ほど簡単に忘れていくのに。

怖い夢というのは印象に残る。

起こるはずの無い事態も当然の様に見せつけてくる。大切な人もお構いなしに失う。

だからこれは怖い夢だ。

目の前で倒れている優花里さんも、華さんも、この薄暗い部屋も全部。

そして私の前に立つ銀髪の小さな子も、全部夢なんだ。

夢じゃないとダメなんだ……。

銀髪の少女が手を上げる。

かつて敵として戦い、お互いに健闘を称え合った少女。同じボコ好きとして一層仲良くなれたと思っていたのに。

その少女が今、感情の見えない瞳で手を上げる。

視界を覆う様に差し出された掌が怖くて、私は静かに瞳を閉じた。

悪夢から目覚める為に、私は夢に逃げていた。  






2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/03(土) 22:57:15.76 ID:I0oov03+0

「西住殿ー!」

元気な声に呼ばれて振り返ると、優花里さんがこっちへかけてくるのが見えた。服装は私と同じ大洗女子学園の制服だ。

「優花里さん、おはよう」

「おはようございます、優花里さん」

「おはよーゆかりん!」

「おはよう……」

「皆さんもおはようございますぅ! お待たせしてしまいましたでしょうか?」

「ううん、私達も今来たところだよ」

私は首を横に振りながら言った。優花里さんは安心した様な笑顔を浮かべる。

「それはよかったですぅ。昨日遅くまで戦車道の歴史を読み返してたのが仇となりました……」

「ゆかりん、女の子だからってデートに遅刻していい訳じゃないんだよ? 彼氏の器量を試すって高等テクなら話は別だけど!」

「試した事もないのに……」

「捕らぬ狸のなんとやら」

沙織さんの言葉に華さんと麻子さんが呆れた様子で肩を落とす。

「ひえぇ、私にはとてもそんな真似は出来ないです」

「気にするな秋山さん。実践経験の無い言葉だ」

「麻子酷いー! デートの基本テクニックの一つなんだから!」

「そんなことより、そろそろ中に入った方がよろしいのでは」

「華も何気に酷いスルー!」

私は頬を膨らませる沙織さんにとりあえず笑顔を浮かべながらも、華さんの言葉に頷いた。

そして背後に建つ建物を見上げる。

それは少し寂びれたショッピングモールで、お世辞にも華やかとは言えない佇まいをしていた。



3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/03(土) 23:22:55.00 ID:I0oov03+0

寂びれたモールの玄関を潜りながら、私達は指定された場所へと向かう。

「こんな辺境の地に呼び出すなんて、文科省の人間は何を考えているんだ」

「随分年季の入ったショッピングモールですね……場所も人里から離れていますし」

華さんが頬に手を当てながら首を傾げる。

麻子さん達の言う通り、ここは学園艦でもなく、人の多い都会でもないのどかな場所。

更に民家から離れた場所にある為、ただでさえ人が少ない場所からさらに人気が無くなってしまっている。

なので傍から見れば廃園した遊園地の様な、少し不気味で寂しい印象を受ける。

「ネオンモール祢屋河店、構造は一階を中心として地下一階、二階。上に二階、三階といった構造ですね」

「ゆかりん詳しいね」

「流石は優花里さんです」

「斥候はお手の物か」

「いいえ、そこのパンフレットを拝借しました!」

優花里さんが得意気にパンフレットを突きつける。

そんな優花里さんに皆が思い思いの表情を浮かべながら、私達は指定された三階へと向かいました。




4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/03(土) 23:57:40.21 ID:I0oov03+0

三階に上がって突当りに見える扉が、今回指定された集会所だ。

時刻は午前十一時。日も昇り始めた時間帯だと言うのに、モール内は閉店後の様な薄暗さをしている。

館内に流れるBGMもはっきり聞こえないためか、どこか不気味な囁きの様に思える。

とはいえ正式な書類で送られてきた以上、いたずらという事はない。

私達はどこか緊張した面持ちで、その扉へと向かって踏み出した。

その時。

視界の隅に、見知った人影を捉えて私は振り返る。

私達から見て右側、十メートル程離れた場所に彼女はいた。

「愛里寿ちゃん……?」

私達とは別の通路を歩く彼女の後ろには、これまた見知った人物が一緒に歩いていた。

綺麗に整えられた七三分けの髪、無機質な四角い眼鏡に黒スーツ。文科省の役人さんで、名前は確か……辻廉太さん。

二人はこちらに気付いた様子もなく、真っ直ぐに通路を歩いていき、商品棚の影へと消えてしまった。

「みぽりんどうしたのー?」

足を止めた私を不審に思って、皆が私に振り返っている。

「あ……ううん、何でもない」

私は直ぐに皆の元へと小走りで駆け寄り、再び歩き出す。

(愛里寿ちゃんも呼ばれてたのかな?)

書類には大洗女子学園の戦車道履修者と書かれていたけど、もしかしたら他の学校の人達も呼ばれているのかもしれない。

そう思って私は、深く考えないまま正面の扉へ手を伸ばした。



5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/04(日) 01:28:29.00 ID:UKdWgJlR0

扉を開くと、そこには広大な空間が広がっていた。

正面には大きな壇上があり、その壇上から緩やかな上り坂となっており、その丘に等間隔で無数の椅子がびっしりと並んでいる。

どうやら元は映画館か何かだったんだろう。

何でこんな所に、と疑問を浮かべながら中に入ると、

「みほ」

静かな、それでいてハッキリと聞こえる声が、横から聞こえた。

「お、お姉ちゃん……?」

そこには、黒森峰女学園の制服を着たお姉ちゃん、西住まほの姿があった。

「やはりみほも呼ばれていたか」

お姉ちゃんの背後には黒森峰の副隊長であるエリカさんの姿もある。

私が緊張しながらも会釈をすると、エリカさんはサッと顔を晒す。

いつも通りの対応……と、他の人には見えたかもしれない。

でも、私には何故か奇妙に思えた。

不機嫌そうに鼻を鳴らして顔を逸らすなら違和感はなかったかもしれない。

でも、今日のエリカさんは何処かおかしい。まるで何かを迷っている様な、焦りの様な苛立ちをしているように思える。

それが私には違和感として映った。

「姉上殿も呼ばれていたでありますか?」

「私達だけではない」

お姉ちゃんは視線を壇上の方に向ける。つられて視線を移すと、壇上付近に人だかりが出来ている。

生徒会の三人に、大洗戦車道チームの面々はもちろん、他校の隊長副隊長が勢ぞろいしている。

まるで大学選抜と戦った時のメンバーが、ここに集結していた。

「すごいですぅ! こうも色んな学校が集まる機会なんて滅多にありませんよ!」

優花里さんの言う通り、こんな集会は全校大会の日を除けば一度として開かれたことはない。

その事実に、私は何処か不安な気がしてならなかった。

私達が到着した事に気付いた会長が、小さな体をめいっぱい使って両手を振る。

会長のお陰で一躍注目の的となった私達に、ケイさんや西さんが手を振ったり敬礼したりと各々に挨拶をしてくれる。

私も一度大きく頭を下げて挨拶を返した。

「お姉ちゃん……」

「分かってる」

お姉ちゃんは何も言わずに頷く。お姉ちゃんもこの集会に何かを感じているみたいだった。

「とにかく今は文科省からの話を待つしかないだろう」

「うん……」

「そろそろ時間だ。私達も指定された席へ向かおう」

歩き出したお姉ちゃんに促される様に、私達も席の合間に設けられた階段を下っていく。

「こんなにいっぱい席があるのに、指定席ってなんかキッチリし過ぎだよねぇ」

ポツリと零れた沙織さんの呟きに、私の心はより一層不穏な気持ちに苛まれた。



6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/04(日) 01:58:29.45 ID:UKdWgJlR0

席に着いてから改めて周囲をぐるりと見渡す。

壇上の最前線には私達あんこうチームの面々と生徒会、そして黒森峰女学園のお姉ちゃんとエリカさん。

その後ろには大洗戦車道チームの梓ちゃん、中嶋さん、カエサルさん、猫田さん、園さんの順で並び、そこからサンダース大学のケイさん、アリサさん、ナオミさんが座っている。

その後ろは知波単学園の西さんと福田さん、アンツィオ高校のアンチョビさんとペパロニさんに、カルパッチョさん。

そして本来ならその後ろに聖グロリアーナ女学院とプラウダ高校、継続高校と続くはずなんですが……。

「何か最後列の人達、全然違う所に座ってない?」

「あ、あはは……」

沙織さんの言う通り、他の三校は指定された席とは別の場所にそれぞれ腰を下ろしていた。

聖グロリアーナのダージリンさんとオレンジペコさんは中央席、やや右側の場所に。

プラウダ高校のカチューシャさんとノンナさんは一番後ろの中央席に。

そして継続高校のミカさんは一人ポツリと一番右奥の席に。

「指定された席があるのに、勝手なことしていいんですか?」

「ペコ、何でも相手の言葉に従うことはないのよ」

「はぁ……」

……どうやら、色々考えがあっての事なんだろうな。

そう結論付けて、私は前に向き直る。

すると、丁度壇上に文科省の人が現れて、自然と皆の視線がそこに集中した。



7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/04(日) 02:16:56.54 ID:UKdWgJlR0

「先ずは突然のお呼び立てに応じて頂き、感謝の意を」

平坦な口調で、文科省の人は言う。

「Hey! ハンバーガーショップの一つもないこんな場所に呼び出して、一体何の話をするっていうの? 皆でキャンプって雰囲気でもないんでしょ?」

「用件を記載していなかったのは書類の不備という訳ではないでしょう」

ケイさんの言葉に続いて、ノンナさんの声が会場に響く。

「なに、用件というのはそれほど難しい話ではありません」

「もったいぶってないでさっさと言いなさいよ! 貴重なカチューシャの時間を無駄にしないで!」

「同士カチューシャ。朝早くに起こされたからってイライラしないで下さい」

「い、イライラしてなんてないわよ!」

カチューシャさんが大声を出しても、役人さんは顔色一つ変えずに黙っている。

誰もが不審に思っていると、

「それでは簡潔に述べましょうか」

役人さんは右手で眼鏡を掛け直すと、










「皆さんにはこれから死んでもらいます」



8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/04(日) 18:15:40.76 ID:UKdWgJlR0

一瞬、何を言っているのか本当に分からなかった。

凍り付いた様な静寂が辺りに漂う。

でも、それも一瞬。

「う~ん……流石にそのジョークは笑えないわ」

「最低ですね」

困った様子のケイさんに続いて、アリサさんが不愉快そうに顔を歪める。

ナオミさんに至っては銃があれば今すぐにでも発砲しそうな剣幕で睨んでいる。

しかし、役人さんは全く気にした様子もなく視線だけを背後に向けると、

「後は、君の好きにしたまえ」

そう言って舞台袖へと消えていった。

訳が分からないまま、私達の視線は先ほどまで役人さんが立っていた場所に再び集まる。

そこに立っていたのは、私達のよく知る人物だった。



9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/04(日) 18:19:17.79 ID:UKdWgJlR0

「誰かと思えば島田流の娘じゃないか」

「あぁ~! トマトとオリーブオイルとアンチョビとチーズが苦手な!」

「島田愛里寿さんです」

アンツィオ高校の皆さんが手を振っても、舞台の愛里寿ちゃんはいつもの無表情を貫いている。


それが、私を不安にさせる。

おかしい。

私は自分の呼吸が早くなっていくのを感じながら、その場を動けないでいた。

「愛里寿、早急ですまないが用件を聞かせてくれないか。我々も突然こんな所に集められて困惑している」

お姉ちゃんが起立して愛里寿ちゃんに言う。

「……」

「どうしたんだ? どこか具合でも──」

瞬間、愛里寿ちゃんの瞳が大きく見開かれた。

「お姉ちゃんッ!!」

無意識の内に、私は声を上げていた。

直後、愛里寿ちゃんが撃ち出された砲弾の様な速度でお姉ちゃんへと突っ込んだ。

「くッ!?」

お姉ちゃんは全身で左に飛び込む。直後、鉄の拉(ひしゃ)げる音が会場に轟いた。

見ると、先ほどまでお姉ちゃんが座っていた椅子は見る影もなく潰れ、鉄屑へと変貌していた。

在り得ない事だった。

信じられない。

信じられない、けど。



目の前にいるこの子は、愛里寿ちゃんなんかじゃ、ない。



「逃げろぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

お姉ちゃんの叫び声が会場に響き渡る。

その声に叱咤されて、ようやく私達は立ち上がることが出来た。

その場の全員が我先にと近くの出入り口へ向かって走り出す。

しかし。

ズンッ!と私の体に何かが駆け巡った。

一体何が、と思っている内に、いつの間にか私の体は地面に倒れ込んでいた。



10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/04(日) 18:36:02.94 ID:UKdWgJlR0

「あ……、はっ……れ?」

まるで体が動かない。

全身がむず痒い。

電流に体の外側から圧迫されているかの様な、気持ちの悪い苦痛が全身を包み込んでいる。

それは何も私だけじゃない。私は言う事の効かない首を無理矢理動かす。

ほんの少しだけ持ち上げた首を動かして周囲を見ると、最前列に座っていた私達あんこうチーム、そして生徒会の面々とお姉ちゃんやエリカさん達黒森峰の人達は私と同じ様に地面に倒れ込んでいた。

その中心、倒れる私達を見下ろす様に立つ愛里寿ちゃん……いえ、アリスちゃんに似た何かだけを残して。



11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/04(日) 19:03:14.50 ID:UKdWgJlR0

逃げ出さなきゃ。その一心で私は上体を起こす。

すると、アリスちゃんは私に振り返る。途端、私は心臓を鷲掴みにされた様な感覚に縛られた。

唇が震える。なのに体は一切動いてくれない。

ゆっくりとアリスちゃんが私に歩み寄って来る。

「み……ほ……ッ!!」

お姉ちゃんの声をどこか遠くで聞きながら、私の前に立つアリスちゃんに私は目を離さないでいた。

体は今までにない位に硬直している。普通なら倒れているはずだけど、前に着いた両手が柱の様に硬直していお陰で倒れ込むことはなかった。

だから、私はまるで掴み易い様に頭を差し出す様な姿になっていた。

私の顔に向けて、アリスちゃんが右手の掌を広げる。

「──死ね」

アリスちゃんがそんな言葉を呟く。

そして、アリスちゃんの右手が突き出される。

「に、しずみどのォ!!!!」

「みほさんッ!!」

アリスちゃんの右手が私を捉える寸前、優花里さんと華さんが私の体を勢いよく突き飛ばす。

私はその勢いに押されて後ろへ大きく吹き飛ばされる。

そして見てしまう。

私を突き飛ばした二人の背中に、アリスちゃんが手を添える。



直後、二人は私の前に頭から地面に倒れ込んだ。

「優花里さん……華さん……!」

急いで駆け寄ろうとしたところで、先ほどまで一切動かなかった体が少しだけ自由を取り戻している事に気付く。

そして、もう一つ気付いた事があった。

「ゆか、り……さん?」



地面に倒れた二人の横顔から、まるで生気が感じられない事に。



12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/04(日) 19:14:13.53 ID:UKdWgJlR0

……うそ。

そんな訳ない。

……。

…………。

………………あぁ、なんだ。

これは悪い夢か。

目の前で倒れている優花里さんも、華さんも、この薄暗い部屋も全部。

全部、悪い夢。

夢じゃないとダメなんだ……。

アリスちゃんが再び私に手を上げる。

私はそっと瞳を閉じ──




「とっかぁーーーーーーーん!!!!」
「おりゃーーーーーーーーー!!!!」

瞬間、威勢のいい声が響き渡り、私はハッと顔を上げた。



14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/04(日) 20:18:58.43 ID:UKdWgJlR0

顔を上げると、椅子を飛び越えて知波単学園の西さんと福田さんがアリスちゃんに飛びかかっていました。

福田さんがアリスちゃんの腰にしがみ付き、西さんが両肩を羽交い絞めにする。

「力仕事ならボクにも任せるにゃー!!」

更に猫田さんもアリスちゃんを抑え付けようと飛びかかる。

「大丈夫か西住妹!」

「アンチョビさん……」

「待ってろ! 今助けてやるぞ!」

アンチョビさんに肩を貸してもらって、私は何とか立ち上がる。

他の皆も後ろに座っていた大洗の面々やペパロニさん、サンダースの皆さんに助けられている。

引っ張られる様に壇上前から中央の通路まで昇ると、反対側から上がってきた救助班と合流する。

「一体何がどうなってんだァーーーー!!」

「河嶋。今はそんな事を考えてる暇はない……!」

「アンジーの言う通り! 今すぐここから逃げるわよ! 知波単ズ! 貴方達も早く──」

ケイさんはそこで言葉を失う。

恐る恐る視線を追うと、そこには地面に倒れて動かない西さん達の姿があった。

そして、先ほどと何も変わらない状態で立つアリスちゃんが、不気味なまで無表情でこちらを見上げていた。

「そんな……福田さんや猫田さんまで……」

「ボーっとするな西住妹! 来るぞ!」

アリスちゃんは一気に飛び上がると、私達目掛けて落ちてくる。

直ぐに皆が蜘蛛の子を散らす様に散開する。

アリスちゃんの拳が通路に深々と突き刺さり、辺りに大量の蒸気が吹き荒れる。

あまりの勢いに、私はアンチョビさんもろとも大きく吹き飛ばされる。

会場は一気に煙に覆われ、私達の視界はあっという間に白く染められる。

「これじゃあ前が見えないじゃない!」

「姑息な手を!」

何処かから皆の声は聞こえるけど、視界には捕らえられない。

「ドゥーチェ! どこっスか! いるなら返事を──ウワァ!!」

「キャアアア!! ドゥーチェ!! ドゥ──ッ!!」

「ペパロニ!! カルパッチョ!! どうしたんだ!! 返事をしてくれぇ!!」

何も見えないから、どうなっているかが分からない。

だからこそ、最悪の結果を連想してしまう。

このままじゃみんなやられる。

そう思った時、私の前にぼんやりと黒い影が迫っているのが見えた。

「ひっ……!!」

私は夢中で後退ろうとしたが、その前に勢いよく腕を掴まれた。

──やられる!!!!



15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/04(日) 20:36:17.17 ID:UKdWgJlR0

「嫌! いやぁ!!」

必死に振り払おうと私は力任せに暴れ回った。

嫌だ!

「助けてお姉ちゃん!!」

瞬間、掴んでいた手が放れ、私を優しく抱きしめた。

「大丈夫。大丈夫よみほ」

必死に優しく頭を撫でる手に、私は動きを止める。

「お姉ちゃん……」

「もう大丈夫だ、みほ」

私の前に現れたのは、お姉ちゃんだった。

途端に込み上げてくる涙を抑えられずに、私はお姉ちゃんの胸に飛び込んだ。

「お姉ちゃん……お姉ちゃん!!」

「怖い思いをしたな。もう大丈夫だ。お姉ちゃんが付いてる」

お姉ちゃんはそう言うと、後ろを振り返って叫ぶ。

「皆聞け!! 今すぐこの会場から出るんだ!!まずはこの会場から出て、逃げながら仲間と合流しろ!! 出口は上と左右の三か所だ!! とにかくここから脱出するんだ!!」

「OK! 分かったわ!」

「イ、イエス、マァム!!」

「そど子! こっちだ!!」

各方面から声が響き、次いでドアの開く音が次々に聞こえる。

「私達も出よう。走れるか」

「う、うん……!」

さっきまで言う事を聞かなかった体は嘘の様に自由を取り戻していた。

分からない事が多すぎるけど、とにかくまずはここから出る事が先。

お姉ちゃんに手を引かれ、私達は左手にある扉を目指した。




16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/04(日) 20:57:06.04 ID:UKdWgJlR0

「半数以上が逃げ延びたか……。女子高生とはいえ少々甘く見過ぎたか」

無数の画面を眺めながら、私はゆっくりと笑みを浮かべる。

「フフフ……普段表情を表に出さない様にしているのにな……」

無理な話と言うものだ。

こんなに楽しい事を前にして、感情を抑えられるわけがない。

「アリス」

「はい」

モニターを見つめたまま私が言うと、直ぐに後ろから返事があった。

「どうせ奴等はこのモールからは出られない。一人ずつ確実に、恐怖を刻み込みながら殺せ」

「はい」

無機質な返事の後に、背後から気配が消える。

それと同時に、私の携帯が振動する。

画面を開き、相手を一瞥してから通話ボタンを押す。

「はい。……えぇ、順調です。貴方には感謝していますよ。こんな素敵な計画に参加させて頂けるなんてね……えぇ、わかっています。貴方も早くご覧になるといい……えぇ、それではまた、何かあればご報告いたします」

通話を切って、私はもう一度口元を歪ませる。

本当、こんな素晴らしい計画を考えてくれたあの人には感謝の念を禁じ得ない。

「さぁ……見せてくれ。君達の戦略とやらを。ご自慢の知恵を十二分に使って、この地獄と戦いたまえ」

ズレた眼鏡を掛け直し、私は宣言する。



「アリス・ゲーム……スタートだ」



17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/04(日) 21:49:01.57 ID:6df22b+b0

バトルロワイヤルを思い出した。



18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/05(月) 00:54:41.58 ID:AELGXN1iO

巻きますか?巻きませんか?



19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/05(月) 21:58:24.79 ID:sY0C2/Nj0

3F 大ホール みほ・まほside


「急いで、みほ!」

会場を出た私とみほはそのまま会場から遠ざかる為に必死に駆ける。

しかし、すぐにそれはやってきた。

ボゴォ!! とさっき通り抜けてきた扉が吹き飛び、硝煙と共にアリスが飛び出してくる。

壁や天井を蹴りながら、急激に私達との距離を縮めてくるアリスに、私は背筋が震え上がりながら無我夢中で走り続けた。

でも、人間離れした身体能力を発揮するアリスに追いつかれるのは時間の問題だった。

ましてやこんな一本道。視認されてる状態では商品棚の影に隠れることも出来ない。

せめてみほだけでも、と私が奥歯を噛んだ時、

「隊長! こちらへ!」

前方の脇道から、エリカが手を振っている。

その奥には、非常用階段へと繋がる道が見えた。

しかし、真に喜ぶべきはその前に設置された防火扉か。

エリカが防火扉を閉め始める。

私は全力でその扉へ向かって走り抜き、みほを抱きかかえる。

「うおぉぉぉぉぉ!!」

そして、首根っこを掴まれない事を祈りながら扉の内側へと滑り込む。

間に合え……間に合え!

ゴゴン、と重厚な音と共に扉が閉まる。

直後。

ガァン!!!!

まるで砲弾が着弾した時の様な鼓膜を切り裂く衝撃音が階段中に木霊する。

だが、そこに奴の姿はなかった。



20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/05(月) 22:30:17.37 ID:sY0C2/Nj0

私はみほを抱きかかえたまま、何回も荒い息を吐く。

呼吸がいう事を聞かない。肺が勝手に伸縮を繰り返し、なされるがままに酸素を求める。

訓練でもこんなに呼吸を乱したことはない。私にとっても初めての出来事だった。

当然、それは防火扉の取っ手を握りながら座り込むエリカも同様だろう。

「……お怪我はありませんか、隊長」

「……あぁ」

お互い覇気の無い声を挙げ、そのまま黙り込んでしまう。

訳が分からない。

あまりに色んな出来事が雪崩の様に押し寄せて、頭が付いていけない。

それに……。

「う……ひっく……優花里さん……華さん……」

私に覆い被さる様に抱き抱えたみほの目元から、涙が止め処なく流れている。

今は泣いている場合ではない。なんとしてもここから脱出しなければならないんだ。

……なんて、目の前で友達を失ったみほに言うのはあまりに酷か。

私はみほの頭を優しく撫でる。すると、みほはより強く私の胸に顔を埋めて泣いた。

「隊長……」

エリカがやつれた様な顔を上げて私を見る。

ここでジッとしているのは得策ではない。

私はみほを抱き締めたまま上体を起こす。

とにかく先ずは落ち着いて考える時間が必要だ。

「みほ、エリカ。まずは場所を変えよう。落ち着いて話せる場所を探すんだ」

私の言葉に、みほは胸に顔を埋めたまま小さく頷いた。

そんなみほの姿に、私の胸はこんな時だと言うのにじんわりとした温かさを含んだ。

みほだけは何としても守らなければ。

私はより強くその事実を認識する。

……そう言えば、一つ返事が足りない。

不審に思い、私はエリカに視線を向ける。

すると、エリカは先ほどよりも辛そうに顔を歪ませ、俯いている。

私の視線に気付いたエリカは目を見張って驚いた表情を浮かべると、

「あ……あの、隊長!」

やがて、意を決した様に口を開いた。

「実はこの事件、全て──」


ブゥン!!


視界が、ブレた。

「しまッ!?」

同時に、私もエリカも糸が切れた様に倒れ込む。

私達の体は、再び自由を奪われてしまった。



22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/06(火) 22:03:31.00 ID:2kOsDAny0

「な……んで……?」

困惑する私の耳に、

ガァン!!!!

再び鼓膜を切り裂く様な衝撃音が響く。

まさか……。

「扉の向こう側から……ッ!?」

迂闊だった。扉を閉めれば安全なんて保障は一切無いというのに、私は相手を普通の人間だと勝手に思い込んで考えていた。

激しい衝突音は断続的に響いている。

ドン! ドン!! と衝撃音が鳴る度に重厚なはずの扉が大きく窪む。

奴が、アリスが来る……!!

私は同じく身動きが取れずにいるみほを抱きかかえたまま階下へ繋がる階段の縁へ必死に手を伸ばす。

あと少し、あとほんの少しで手が届くのに、それが叶わない。

頼む、届いて!

しかし。

ベギャン!!

後方で、一際大きな衝撃が響いた。

先ほどまで聞こえていた衝突音とは決定的に違う、絶望的な事実を告げる破砕音。

痺れる体を動かして背後を見る。

「くっ……そ!!」

そこには、肉厚な扉を貫いて伸びる小さな手があった。

貫かれた扉の穴から、大きくて丸い瞳がこちらを覗き込む。

そして、その眼はしっかりと私達を捉える。

私は必死に階段の縁へと手を伸ばす。例え転がり落ちてでも、ここから離れなければ。

逃げなければ。

逃げなければ!!

扉から伸びた手が内側にある鍵を開ける。



23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/06(火) 22:49:35.75 ID:2kOsDAny0

扉が、開く。

「隊長!!」

瞬間、扉の縁を蹴ってエリカが私達を突き飛ばす。

空いた扉を足場にして、エリカが渾身の力で押し出してくれた。

お陰で、私達の体は階段へと弾き出される。

私はみほを胸の前に抱え、背中を下に向ける。

ゴツゴツとした痛みに耐えながら、私達の体は階下へと向かって落ちていく。

何とか階下へ転がり着いた時には、先ほどまで動かなかった体にほんの少し力が戻った。

何とか立ち上がれるほどの、ほんの僅かな力だが、確かに動く。

みほと一緒によろよろと立ち上がったが、辺りにエリカの姿が見えない。

嫌な予感と共に上階を見上げると、エリカは階段の縁に留まったままだった。

違う。

エリカは留まったんじゃなく、降りれなかったんだ。

私達を助ける為に。

「逃げてください隊長! 早く!!」

「ば、馬鹿を言うなエリカ!!」

「このままじゃ三人とも殺されます!」

「しかし、私は──」

「撃てば必中!!」

「ッ!?」

それは、黒森峰の戦車道の基礎理念であり、我が家の家訓だった。

それだけで、全てを悟ってしまう自分がこの時だけは憎らしかった。

「西住流は勝利を貴ぶ。だから……だからどうか私の戦いを無駄にしないで下さい……」

私は奥歯を砕く勢いで噛み締める。

「ダメだよエリカさん! 私これ以上お友達を失うのは耐えられないよ!!」

扉が完全に開き、アリスが姿を現す。

「副隊長……逃げるのは得意でしょ。早く、行きなさい」

私はみほの腕を抱えて歩き出す。

全身が骨抜きにされた様な感覚以上に滾る感情に任せて体を操作する。

「お姉ちゃん! エリカさんが、エリカさんがまだ!!」

イヤイヤと暴れるみほを離さない様に、私は一歩一歩確実に歩みを進める。

目指すはさらに下の階。

「エリカさん! エリカさぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

私達の気持ちを体現する様に、下へ下へと。



24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/06(火) 23:03:06.23 ID:2kOsDAny0

二人の姿が見えなくなった事で、私は全身から力を抜く。

元より無い力を振り絞って二人を突き飛ばしたのだ。もう小指一つ動かせない。

それも当然、私の傍にはアリスが立っているのだから。

ドカッ。

アリスがうつ伏せに倒れている私を蹴り上げる。

反動で仰向けにされた私を見下ろしながら、アリスは言った。


「どういうつもり」


その言葉に、私は口元を吊り上げる。

「さぁね」

最大限の皮肉を込めた笑みだったつもりだが、アリスには効果はない様だった。

やっぱり皮肉は副隊長に言うのが一番ね。

それにしても……。

「まだ私の事を友達だなんて思っていたのね」

「……どういうつもりか知らないけど、裏切者には容赦はしない」

アリスが右手を振り上げる。

狙いを私の心臓に向けて、


「お人好しにも程があるわよ、みほ」


アリスの右手が、真っ直ぐ私に振り抜かれた。



26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/07(水) 02:17:15.75 ID:t4p5rJvg0

世にも珍しいガルパン×ローゼンのSSかと思ったらそんな事はなかった。



27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/08(木) 22:22:40.03 ID:JGiqrxFS0

1F エントランスホール 麻子・そどこside

「ここも開いてないよぉ」

「薄々分かっていた事だろう」

肩を落として落ち込む沙織に、私は初めから分かっていた事を口にする。

「出口を探そうって言ったのは麻子じゃん!」

「とりあえずは、だ。誰も開いているなんて言ってない」

「んもぉ……」

いつもなら頬を膨らませる所だが、流石に今はそうもいかないらしい。

無理もない、寧ろ沙織はよく気丈に振り舞えている方だ。

問題は同じく逃げ延びた二人の内の一人。

「貴方、本当に大丈夫?」

「あぁ……」

そど子の肩を借りて歩くアンツィオ高校の隊長が気の無い首肯で答える。

「頑張ってアンチョビさん。きっと二人は無事だよ」

沙織が気丈に振る舞う理由は一つ。周囲に助けを必要としている人がいるからだろう。

自分だって大切な友達を失ったというのに……。

私はそんな沙織が心配だ。

とはいえ、こんな訳の分からない状態で塞ぎ込まれてもそれはそれで大変なので、今はその強さに頼ろう。

「沙織、そど子、それに安斎さん。少しそこの靴屋の影で休もう」

私はすぐそこに見える靴屋を指差しながら言う。

突然走ったからへろへろだ。

「そうしよっか……まずは一端落ち着いて頭を整理しなきゃだよね」

「それには大いに賛成だわ……あと私の名前は園みどり子」

「……アンチョビだ」

三者三様の反応を受け取ってから、私達は靴屋の中へと入っていく。

通路から死角となる場所を見つけてはそこに試着用の椅子を集めてそれぞれ腰を落とす。

私が物陰から通路の見張りをしていると、背後から沙織が近づいてきた。



29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/08(木) 22:50:19.53 ID:JGiqrxFS0

「麻子、大丈夫?」

沙織が小声で尋ねてくる。私は視線を通路に向けたまま話す。

「私の心配より自分の心配を知ろ」

「……うん」

小さな返事と共に沙織が下を向く。

……少し言葉を間違えたかな。

私がそんな事を考えていると、

「……華達、置いてきちゃったね」

「……」

「友達を置いて自分だけ逃げ出すなんて……最低だよね」

「こんな状況なんだ。仕方のない事だってある」

「……うん。仕方ない事、なんだよね……」

そう呟く沙織の表情は先ほどと変わらず悲しげなままだった。

いつもはあんなに無駄に楽しそうに笑うのに、こんな顔をされたらこっちが困ってしまうじゃないか。

だからなのか。

「……心配するな。沙織とそど子達は私が何とかしてやる」

私は、気付けばそんな言葉を告げていた。

私の言葉に、沙織が驚いた表情で顔を上げる。

「麻子……」

「さ、沙織やそど子にはいつも助けてもらってるしな。日頃のお礼を纏めて返せるなら今日くらい頑張っても、いい……だからもうそんな顔するな」

「……まぁこぉ~」

「こら、抱き着くな。鬱陶しい」

抱き着いてくる沙織を引き剥がそうとするも、沙織は顔をぴったりと私の背中に引っ付けて離さない。

背後では私達のやり取りを見ていたのか、そど子が呆れた表情を浮かべていた。

こんな緊急事態なんだ。

私がやらないとな。



30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/09(金) 23:15:26.61 ID:cvsvdL3i0

周囲に人影がない事を確認して、私達は向かい合って座る。

「安斎さん、調子はどうだ」

「あぁ……少し落ち着いたよ。ありがとうな」

そう言って微笑む安斎さんはお世辞にも大丈夫には見えなかったが、沙織と同じく今は空元気でも助かる。

「いつまでも塞ぎ込んでちゃダメだよな……あいつ達の分も私が頑張らないと」

「その意気よ、安斎さん!」

「あぁ! ありがとうな、そど子! あと私はドゥーチェだ!」

「私だって園 みどり子よ!」

「今は遊んでいる場合じゃないぞ、そど子」

「なっ……くぅぅ~~ッ! 元はといえば貴方が──!」

「はいはいそこまで! このままじゃいつまでたっても話出来ないじゃん!」

沙織の制止で、ようやく場が落ち着きを取り戻す。

「とりあえず今の時点で分かっている事を纏めよう」

安斎さんの声に皆が頷く。

「このモールの出入り口は正面玄関以外にはいくつあるんだ?」

「パンフによると一階の正面玄関と東通路に一つ、二階は……えっとぉ~」

「二階は東と正面玄関上で二つ。後は地下一階のフードコートに一つだ」

「麻子スゴイ、もう覚えたの?」

「あれくらい直ぐに覚えられる」

「すごいな冷泉さんは。ウチにもそれくらいの知恵を持った生徒が欲しいよ」

残念だがアンツィオで見つけるのは難しいだろうな。

「それじゃあ私達がまだ見てないのは地下の出口だけね。直ぐに調べに行きましょう」

「多分無駄だ、そど子。あれだけ厳重に封鎖していたんだ。今更一つだけ見落としているなんて事もないだろう」

いつの間にか出口はシャッターが下りており、端には外から溶接した様な焼け跡が見えた。

「それじゃあ完全に閉じ込められたじゃん……」

沙織がガックリと肩を落とす。

「いや、まだそうと決まった訳じゃないぞ」



31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/09(金) 23:44:15.71 ID:cvsvdL3i0

「どういう事だ?」

「簡単な事だ安斎さん。私達を閉じ込める為に全ての入り口を封鎖したら、あの眼鏡はどうやって外に出るんだ」

「なるほどそうか!」

安斎さんが手に持った鞭を掌で鳴らす。

「どういう事よ冷泉さん。ちゃんと説明しなさい」

そど子の声に、沙織も頷く。

「つまりはパンフに乗っていない抜け道がどこかにあるはずだ。そこを見つけることが出来れば脱出できる」

「ホント!? それってどこにあるの!?」

「沙織、うるさい……。分かってたらとっくに向かってる」

「そっかぁ……そうだよね……」

「とにかく今は他のメンバーと合流しながら出口を探すしかないだろうな」

流石はアンツィオの隊長、状況整理が早くて助かる。私は無言で頷いた。

「みぽりん、大丈夫かな……」

「西住隊長ならきっと大丈夫よ。私達よりしっかりしてる所あるし」

「でも私達よりも抜けてる所もあるし……」

「それは……そうね」

「西住さんは大丈夫だろう。きっと傍には黒森峰のお姉さんが付いてる」

私達は顔を見合わせて笑う。

震える西住さんの前に毅然として立つ姉の姿が容易に想像できたからだ。

やることは決まった安心からか、皆の表情も少し柔らかくなった。

その表情は、

カツン、と。

靴底が当たる音で一瞬にして消え去った。

私は直ぐに椅子から飛び降り、物陰から通路を覗き見る。


……。



…………。





…………………ヤツが、来た。



33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/12(月) 21:44:55.46 ID:hBCbX2QX0

カツ、カツ、と小さな足音がまるで秒読みの様に鳴る度に体中から嫌な汗がじっとりと拭き出す。

どうやら奴はまだこちらに気付いていない様で、正面を見据えたままゆっくりと正面玄関を通り過ぎようとしている。

そのまま通り過ぎてくれ。

私達は必死に息を殺して奴が通り過ぎるのを祈る様に待った。

……。

…………。

やがて、奴は玄関脇にある階段を下っていった。

「……下にいった」

私が小声でそう言うと、その場の全員が大きな息を吐く。

「助かったぁ」

沙織がぐったりと肩を落として天を仰ぐ。

私も流石に痛い位に緊張した体を休めたくて何となく、本当に何となく沙織の真似をして天を仰いで息をついた。


「ッッッッッッ!?!!!?」


私は心臓が鷲掴みにされたかの様な圧迫感に息を詰まらせる。

私の頭上。

整然と並べられた靴棚の天辺から、こちらを覗き込む奴の姿があった。

「──ぅ」

叫び声を上げる事すらできなかった。

あまりの恐怖に私の頭は、体は、完全に動きを止めている。

そして奴は何の前触れもなく、

「……見っけ」

よじ登っていた靴棚を倒し、私達の視界を黒く染め挙げた。



34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/12(月) 22:25:02.56 ID:hBCbX2QX0

ダララララァ!! と大量の靴が落石の様に体中を叩く。

誰かの叫び声が聞こえたが、誰の声かはわからない。

次いで靴を置いていた棚に圧し掛かられる。

私の下半身は完全に棚の下敷きになった。

しかし、幸いにも棚は薄く、私一人の力でも簡単に抜け出せるほどの重量しかなかった。

私は腰まで潜り込んだ下半身を引っ張りながら周囲に声を掛ける。

「沙織そど子安斎さん無事か!?」

私の声に呼応する様に、靴の山から三人が姿を現す。

……どうやら棚の下敷きになったのは私だけの様だ。

だったら話は早い。

「直ぐにこの場から離れるぞ!! そこのエスカレーターまで付いて来い!!」

まだ視界もはっきりしていない三人にあたかも走り出した様な台詞を言うと、三人は置いて行かれまいと必死に立ち上がって走り出す。

私も太ももまで抜け出した足を引っ張って後を追おうとするが、

「ぐぅぅ!!」

未だ棚の下にある両足に、重圧が掛かる。

「ッ……、まぁそうだろうな」

倒れた棚の上に立つ奴を見上げながら、私は呟いた。

奴は下敷きになった私の両足の上に無造作に立っている。

お陰で今にも私の両足は折れてもおかしくない痛みと圧迫感に苛まれていた。

「冷泉さん!?」

遂にエレベーター近くまでたどり着いたそど子が異変に気付く。そど子の声に誘発されて、二人もこちらに振り返り、目を見開く。

これでいい。

「行くんだそど子!! 戻ってきたらそのおかっぱ頭をツインテールにしてやる!!」

そど子は今にも泣き出しそうな顔で首を横に振る。

全く、相変わらずお堅い奴だな……。

私は最後の望みの綱、この場で最も信用できる人物に視線を向ける。

「二人を頼んだ、安斎さん」

「……アンタの事は絶対忘れないぞ、冷泉さん!」

目尻に涙を浮かべながらも真剣な眼差しを真っ直ぐこちらに向けてくれる。

それだけで十分だ。

直後、私の首を奴の右手が捕らえる。



35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/12(月) 22:38:56.78 ID:hBCbX2QX0

「ぐ、ひゅ、……ぎッ!」

その小さな体のどこにそんな力だがあるのか、奴は万力の様な力で私の体を持ち上げる。

私よりも小さい癖に、私を宙吊りにするとはいい度胸だ。

そう奴に言ってやりたいが、残念ながらもうそんな気力はない。

意識も朦朧としてきて、口だけがぱくぱくと空気を求める。

やがてそれもしなくなり、本格的に視界が霞んできて──。


「ダメェェェェェェェェェ!!!!」


突然、全身を強い衝撃が襲った。

「がッ、ひゅ!? ゲホッ、エホッ!!」

それが地面に落ちた時の衝撃だと気付くのに、少しの時間が必要だった。

頭が酷く熱い。今なら全身の血の巡りが分かる気がする。

それくらいに私の体は危険だったのだろう。

ではなぜ助かった?

意識が消えそうになる直前、誰かの叫び声が──。

そこで私はハッと我に返って顔を上げる。

そして、目を疑う。

「……………………さ、おり?」

私の視界の先。

沙織が奴にしな垂れかかる様にして立っている。

沙織の脇腹。

そこから、暗がりでもハッキリと分かる鮮やかな赤が見える。



36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/12(月) 22:42:45.90 ID:hBCbX2QX0

なんで? 沙織は逃げれたはず。あんな所にいるはずないオカシイそれじゃダメなんだだってワタシはちゃんとでもあれはいやオカシイちがうあれはだめだちがうだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだ

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

さおりにかけよる。



38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/12(月) 23:10:20.21 ID:hBCbX2QX0

「冷泉さん!!」

私は沙織さんの元へ駆け寄ろうとする冷泉さんの体を寸での所で捕まえた。

「沙織、沙織!!」

「お願い冷泉さん!! お願いだから落ち着いて……!!」

「離せぇぇぇぇぇぇェぇぇぇぇぇ!!!!!!」

私はただただ彼女の体を抱きしめる。

癇癪を起した子供の様に腕の中で暴れる冷泉さんを引き摺って、エレベーターの方へ向かう。

「おい、急ぐんだ! あいつがこっち見てるゾ!!」

エレベーターのボタンを押して待っている安斎さんが引き攣った表情を浮かべて言う。

私はなるべくそちらを見ない様にしながら、全身全霊で冷泉さんをエレベーターへと放り込む。

エレベーターに乗り込んだことを確認して、安斎さんが扉を閉めるボタンを連打する。

こちらの意図とは無関係に、エレベーターはゆっくりとその扉を閉める。

「沙織ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

冷泉さんが最後にあらん限りの声を出して、





扉は、完全に絞められた。

扉の先に見えた光景を、冷泉さんは見ていなかった。



40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/13(火) 22:32:39.16 ID:V1IL9qGd0

 B2F フードコート ケイside

「とりあえずここまで来れば一息つけるかしらね……」

「何なんですか隊長! あんなのがいるなんて一言も聞いてないですよ!?」

涙目で詰め寄るアリサを手で制する。

「落ち着いてアリサ。私だってあんなのがいるって聞いてたらもう少し日課のフィットネスに力入れてたわよ」

「そう言う問題かぃ?」

ナオミのツッコミも頂いた所で、私は改めてメンバーを見回す。

無我夢中で逃げ回っている間に二人程増えている。

ラビットチーム隊長のアズサに三突の子。名前は確か、カエサルだっけか。

「Hey、皆! 先ずは現状把握よ。怪我はない?」

私の声に皆が頷く。

「OK、突然の事で驚いてるだろうけど、先ずは落ち着いて私の指示に従ってほしいの」

こんな非常時は特に混乱が起きやすい。今は少しでも意思の疎通は簡略化しておきたかった。

「了解した。今は指示に従うとしよう」

「わ、私もケイさんの指示に従います!」

直ぐに頷いてくれた二人に笑顔を返し、私はアリサ達に振り向く。

「一応聞いておくけど、あのモンスターに心当たりは?」

「知る訳ないじゃないですかぁ! あんなパニック映画みたいな化け者!」

「私もアメコミの中でしか知らないわ」

「そうよねぇ……」

私は後ろ髪をガシガシと掻く。

むちゃくちゃなフィジカルに謎の力で動きを止める。

「ホント、ファンタジーの世界だけにしてほしいわ」

「隊長はどう思う? あの娘の力について」

ナオミがポケットからガムを取り出しながら言う。

アリスに似たモンスターはみほ達が逃げ出そうとした瞬間に何かをした。

それは間違いない。近くにいた私も変な起動音の様な低い唸りを確かに聞いたのだから。

でも、それが何なのか、どうしてみほ達は急に動けなくなったのかは分からない。

ただ、分からなくとも予防策は用意できる。

「……何か仕掛けがあるんだろうけど、流石に今の段階では分かんないわ。でも、これだけは言えるわ」

私は人差し指を立てて言う。

「今後、あのアリスと遭遇しても決して近くに寄っちゃダメよ。それと、接近を許すのもダメ」



41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/13(火) 22:55:02.33 ID:V1IL9qGd0

「なんでなんですか?」

「アズサは見たかしら、みほ達が一斉に倒れた所を」

「は、はい……西住隊長のお姉さんが大声で叫んだ途端、一番前に座っていた人達が皆同時に倒れました」

「そうね。そしてそこがポイントよ」

パチン、と指を鳴らしてアズサを指差すが、イマイチよく分かっていない様なので言葉を続ける。

「みほ達が倒れた時、後ろには私達だっていたの。なのに倒れたのはみほ達最前列にいた子達だけ……なんであのモンスターは直ぐにその場の全員を倒さなかったのかしら」

私の言葉を聞いてアズサは考え込む様に下を向いた後、ハッと顔を上げる。

「……出来なかった?」

「いい線衝いてるわよ。でも惜しい。答えは出来ない理由があった、ね」

「何か条件があるって事ですか?」

「それは──」



「接地面ですわ」

突然、背後から声がしてその場の全員の表情が一瞬で凍り付く。

私達は一斉に声のした方へ振り返る。

仄暗いフードコートの柱の影。

そこから現れたのは──。


「……ダージリン?」



42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/13(火) 22:58:52.86 ID:q0C2v323O

乙です。
米国のショッピングモールならば何か遠距離攻撃に使えそうなものが有るんだろうけど、此処は日本だから良い物は無さそうだよなぁ…。
大量の花火が有れば簡単な爆弾は作れそうだが…。



46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/14(水) 21:39:14.16 ID:XIvhkkg60

「他の誰かに見えて?」

「皆さん、御無事だったんですね」

いつも通りの表情を浮かべて歩くダージリンの背後からヒョコリと出てきたのは、彼女の側近で後輩のオレンジペコだ。

「貴方達も無事に逃げ出せたのね」

「運が良かったのかしら。追手はなかったわ」

「後ろに座っていたのが幸となりました。プラウダの御二人や継続高校のミカさんも同じ様に逃げ遂せたと思います」

後ろに座っていた分、早く逃げ出せたという訳ね。

「そっちは二人だけ?」

「えぇ。早く逃げ出したと言っても、別々の扉でしたし」

「だったら先ずは他のメンバーと合流しないとだね」

「聞いてもいいかぃ?」

ダージリンとの会話の区切りを狙って、ナオミが声を発する。

「何かしら、17ポンド砲さん」

「さっき言っていた接地面ってのは?」

「あぁ、そう言えば説明がまだでしたわね、失礼」

あらいけない、といった風に口元に手を当て、ダージリンは上品に驚く。私には到底真似できないわ。

「恐らく彼女は地面を使って私達の動きを封じていると思われますわ」

「地面?」

続けても? といった風な気遣いの視線を私に向けてくるダージリン。

どこまでも奥ゆかしい淑女を心掛ける彼女に、私は迷わず頷く。

「あの時、彼女から力場の様な何かが溢れるのを見ましたわ。直後、まるでスコーンが割れる様に最前列のみほさん達が一斉に倒れた……でも、その時はまだ皆さん確かに生きていらっしゃったはずよ」

「確かに……動けないにしても、皆動いてはいたな」

「でも、みほさんを庇った大洗の御二人と三式中戦車の車長さん、それに知波単学園の御二人は助からなかった……なぜだと思います?」

「その謎の力にやられたって言うのか」

「ハッキリとは言えませんわ。ですがわたくしの予想が間違っていなければ、あの不自然な揺らぎに人を殺める力はありませんわ」

「なんですって!?」

アリサが目を丸くして驚く。

「それじゃあ大洗の子達や知波単学園の連中はなんでやられたのよ!?」

「死者と生者を別つ理由があるとすれば……それは、彼女に触れられたかどうか、かしら」



47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/14(水) 22:26:49.86 ID:XIvhkkg60

「触れられたかどうか? それって、一度でも触れられたらお終いってこと?」

「そこまで殺伐としたものではないと思いますわ。恐らくは彼女に触れられ、あの謎の力を直接その身に受ければ、人間の体は耐えられないのではなくて?」

流石は聖グロの筆頭策士。もうそこまで考え付いたのね。

「なるほど……だから倒れても直ぐには殺られなかった訳か」

ナオミが感心した様に何度も小さく頷く。

「でも、だったら傍にいた私達が平気だった訳は?」

「それはあの場が段差になっていたからよ」

アリサの疑問に、今度は私が答える。

「みほ達が立っていた場所と私達が立っていた場所には数センチの段差があったでしょ」

「そういえばありましたね。普通の段差じゃないなぁとは思ってたんですが」

「空気の抜け道か何かの為にわざとそうした造りにしてあったんでしょうけど、正直助かったわ」

「なんでです?」

「それでもウチの情報通なの? もしあれが普通の段差だったなら私達もみほ達と一緒にダウンしてたのよ」

ようやく理解した様で、アリサは真顔で青ざめた。

推測の域を出ない考えだったけど、どうやらダージリンも同じ事を考えてた様で少し安心出来た。

「流石はケイさんとダージリンさん! 西住隊長が言った通り凄い人達です!」

アズサが両手を胸の前で合わせて感嘆の声を上げる。そんなアズサに、ダージリンは小さな笑みを返した。

「素直なのは素敵だけど、鵜呑みにしてはいけませんわよ。確証は一つもありませんし、彼女の力事態は何一つ解っていないのですから」

「は、はい!」

「それで……ケイさん。これからどうするの?」

ダージリンが視線を私に向けて言う。

「……先ずは他のメンバーと合流しましょう」

「それについては異論有りませんわ。でも──」

ダージリンの目つきが細くなる。まるで人を吟味するかの様に研ぎ澄まされた眼差しが真っ直ぐ私を捉える。


「その後は?」


「…………」

本当、良い性格してるわね。



48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/15(木) 21:52:37.74 ID:bn4HT4zZ0

「その後なんて決まってるじゃない。さっさとこんなオンボロモールから出るのよ」

「アリサさん、あの殿方がそんな簡単に出口を残していると思っているのかしら」

「それは……」

「ダージリン、まだ全ての出口を封鎖しているとは限らないわよ」

口を挟んでは見るが、効果はなさそうね。

「ケイさん、貴方も指揮官として覚悟を決めるべきよ」

「……」

「あの、さっきから話が見えないんだけど」

ナオミが困惑した表情を浮かべながら言う。無理もない。あえてはぐらかした言い方をしていたのだから。

でも、どうやらダージリンの言う通りみたいね。

私も、覚悟を決めないと。

「皆、聞いて。他のメンバーと合流した後の事なんだけど、」

「お待ちになって」

急にダージリンが話に割り込む。

今度は何よ、という言葉は彼女の真剣な表情を見て鳴りを潜める。

代わりに湧き上がる冷や汗と恐怖を抑え込み、私はダージリンの視線の先、丁度アズサの背後にある通路に目を向ける。

「招かれざるお客様の登場といった所かしら」

フードコートに隣接する食品コーナーの奥。

そこに、小さな人影が一つ。


ジッッッと、こちらを見つめていた。



49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/15(木) 22:07:04.58 ID:bn4HT4zZ0

「さて、ケイさん。どうします?」

迷っている時間はない。

あのモンスターガールが動き出す前に動き出さないと。

「皆私に付いて来て! 全速力で上の階に行くわよ! Hurry Up!!」

私達が走り出すと同時に、モンスターガールも走り出す。

そこでようやく皆が彼女の存在に気付き、血相を変える。

「ケイさん、考えを聞かせてもらえるかしら」

「とりあえず逃げるわ。今の私達じゃパワフルガールの前に立つことも出来ないし」

私の隣を走るダージリンにそう言うと、彼女は満足そうに微笑んだ。

「先ずは武器の調達かしら」

「そうと決まればまずは撒くわよ!」

「たたた隊長! 先ほどから何か、その……不穏な単語が聞こえるんですが!?」

「盗聴とは感心しないわよ、アリサ。でもいいわ。時間もないから端的に教えてあげる」

私は肩越しに後ろを振り返り、伝える。


「戦うわよ! 皆であのパワフルガールをとっちめるの!」

悲鳴にも似た叫びが、何重も辺りに響いた。



53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/18(日) 17:07:47.29 ID:ILuFgtok0

   2F 雑貨商店通路 杏side

「……どうやらうまく逃げ切れたみたいですね」

小山が心底安心した様子で言う。

「桃ちゃん、くれぐれも大声だけは出さないでね。お願いね?」

「ふぅぅ……自信ない……」

必死に声を殺してべそをかく河嶋の頭を撫でながら、私はこの後の行動を考える。

どうせあの役人の事だ。簡単に逃がしてくれる様な事はないだろう。

とはいえ今の私達には戦車もなければ戦う術もない。かといって逃げてるだけでは何も変わらない。

だったら選択肢は一つしかない。

「二人とも落ち着いて聞いてくれ。どうやら私たちが生きてここから出るにはあの島田流を何とかする他ないみたいだ」

私がそう言った途端、二人は首が取れるんじゃないかというほどの早さで首を横に振る。

あはは……いやーまいったねー。

「もちろん私達だけじゃないよー。そもそも私達だけで何とかできるなんて思っちゃいないしねー」

「だったらどうするんですかぁ、かいちょ~」

「落ち着けかーしま。敵は強大だけど数ではこちらが圧倒的に有利なんだ。皆で協力すれば何とかできるかもしれない」

「無理ですよぉ、試合で十輌以上仕留めてたじゃないですかぁ」

「桃ちゃん、試合の事は今関係ないと思う」

やれやれ。すっかりダメダメだなぁ。

「これまでだって無理だと思ったことでも何とかなってきたじゃん。今回もきっと何とかなるよ。皆もいるんだし」

「そうですね……今回も大丈夫ですよね、会長。ほら、桃ちゃんも元気出して」

「うぅぅ……会長がそう言うなら……」

「うん! よろしく頼むよ二人ともー」

「それで、会長。これからどうします?」

「とりあえずついてきてー」

私は物陰から立ち上がり、二人を率いて歩き出す。



54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/18(日) 18:06:38.77 ID:ILuFgtok0

「どこに行くんですか、会長?」

「戦うにしろ何にしろ、まずは身を守る武器が必要になる。そこであるものを借りようと思ってねー」

私は通路の端側、比較的人通りのない場所にある店の前で止まる。

「ここは……アウトドアショップ?」

「キャンプなんかしてる場合じゃないですよかいちょ~」

「そっちの方が楽しそうなんだがなー、求めてるのは……あったあった」

「会長、それは?」

「ハンモックだよー。木とかに括り付けてゆらゆらするやつ」

「どうしてそんなもの……」

「これだけじゃないぞかーしま。他の店にも行って色んな物を集めに行くぞ」

私は傍にあった大きな登山用カバンも一緒に取り、ハンモックをその中に入れる。

「色んな武器を集めてみんなに配るんだ。そして皆で守りあうんだ」

もうこれ以上犠牲は出させない。

その為に出来ることは何でもやらないと。

「そうですね。会長の言う通りです!」

小山がふんす、と力強い表情で頷く。

「私達が皆の手本にならないとだね! 頑張ろう、桃ちゃん!」

河嶋はモノクルを外してグシグシと目元を擦ると、きりっとした表情を浮かべる。

「会長、そのカバンは私が持ちます」

「さんきゅー」

カバンを河嶋に渡すと、河嶋は勢いよくそのカバンを背負う。

「さぁ、次の場所へ行きましょう会長!」

どうやら立ち直ってくれたみたいだ。

本当に素直でいい子だよな、みんな……。


だからこそ、私がやらないとダメなんだ。


私の後ろ腰。スカートの内側に隠した物をそっと撫でる。

「……? どうしました、会長?」

「いや、なんでもー」

振り返る二人の元に、私はいつも通りのんびりとした足取りで向かう。

後ろ腰に分厚いサバイバルナイフを隠して。



56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/22(木) 22:03:46.41 ID:e9q7Fl4G0

3F エレベーターホール  麻子・そど子side

「……ぅ」

「あ! 気が付いたぞ!」

酷い頭痛と共に私は目覚めた。

ぼやける視界の先には薄暗く見慣れない天井と、アンツィオ高校の隊長が私を覗き込む様に見下ろしていた。

「気が付いた? 貴方、突然意識を失ったのよ」

「そど子……」

「……覚えてる?」

気遣わし気に窺うそど子。何を聞いているのかはすぐに分かった。

「どれくらい眠ってた」

「ほんの数分よ。エレベーターから下ろして直ぐって所かしら」

「……そうか」

私はゆっくりと立ち上がる。まだ頭痛は収まっていないが、歩けないほどの痛みじゃない。

「おいおい、大丈夫か?」

「どこに行こうっていうのよ」

私を支えようとする安斎さんを手で制する私に、そど子が真剣な表情で言った。

私が横目でそど子を見ると、そど子は少し怯えた様に一歩下がる。

「……貴方、酷い顔してるわよ」

「……」

私が一歩踏み出すと、すかさず私の前にそど子が立ち塞がった。

「……邪魔だ、そど子」

「まだ質問に答えてないわ、冷泉さん。どこに行こうって言うの」

「……決まってる、脱出口を探しに行くんだ」

「うそね」

「嘘じゃない」

「うそよ」

「何を根拠に──」

「だったら!」

そど子が声を荒げる。見れば、そど子はとても辛そうな表情をしていた。

「だったら、何でそんな怖い顔をしているの……?」

何で。

何でお前が辛そうな表情をしているんだ。

「そんな冷泉さん……冷泉さんじゃないわ……いつもみたいに眠たそうな顔しなさいよ」

私の方が辛いのに。

沙織は私の幼馴染なんだぞ。そど子なんかより、ずっと……!!

「今の冷泉さん、まるであの島田流の娘を──」


「どけ!! そど子!!」


「ッ!?」

私は腹の底から声を出した。



57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/22(木) 22:20:18.32 ID:e9q7Fl4G0

「れ、冷泉……さ」

そど子が目を見張って固まる。

何だ、私もやればこんなに大きな声を出せるんだ。

やればできるじゃないか、私。

そういえば沙織にもやればできるのにやらない、って呆れられてたな。

ははは。

そんな事を思い出しながら、私は再び歩き出す。

驚いた表情のまま固まるそど子の脇を抜ける。

必要な物は既に頭の中にある。

壁に貼られた案内図を見ると、どうやらここは三階。

なら、先ずは一番近くにある医療用品店だな。その後に工務店に行ってから食料品売り場にドライアイスを取りにいこう。

これからの算段を付けていると、ふと二人が付いて来ていない事に気付いて後ろを振り返る。

後ろでは、安斎さんがそど子の肩に手を置いて何かを話している。

「……何してる、早くいくぞ」

二人は不安そうな表情で顔を見合わせたが、やがてゆっくりと私の元へ向かってくる。

無理もない。あんな怖い目に遭ったんだから不安になるのも当然だ。

でも、だいじょうぶ。

私だってやる時はやるってことをそど子に見せておかないと。

こんな事態なんだ。

私がやらないとな。



私が、殺らないと。



58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/22(木) 22:45:00.13 ID:e9q7Fl4G0

「ふむ……」

あの会場から出て、既に一時間以上が経過した。

だと言うのに、あれからまだ数人しか始末できていない。

私は手元のトランシーバーを口元に持ってくる。

「……報告を」

『こちらアリス01。現在数人のターゲットを発見。大洗の磯部典子を心停止させ、残りを追跡中』

「少し手間取りすぎだ。容赦など無用、ペースを上げろ」

『了解』

そこで通信を切る。モニターの一つでは更に機敏になったアリスからあの手この手で逃げるプラウダの二人組と大洗のポルシェティーガー車長の姿が。

しかし、ついにポルシェティーガーの車長が飛びかかったアリスに倒される。

必死にもがく間もなく首餅を掴まれ、全身を大きく痙攣させた後、ピクリとも動かなくなった。

よし、その調子だ。次はそこのプラウダだ。

アリスがすっくと立ち上がり、怯える二人の元へ向かう。

すると、

「お?」

何を思ったのか、プラウダの副隊長はガキの隊長を抱き上げると、一目散に駆け出す。

彼女が向かったのは、メインエントランスがある吹き抜け。

まさか……。

プラウダの副隊長はそのまま落下防止の柵を飛び越え、階下へ向かって落ちていった。

確か彼女達がいた階は三階のはず。

「ははは! これはすごい!! よくやるもんだ!!」

私は年甲斐もなく声を上げた。

人は生きる為ならあんなことも出来るのか。

「つくづく楽しませてくれるな」

私が心の底から楽しんでいる時、


「はしたないですよ」


背後から声が掛かった。




62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/23(金) 22:53:24.34 ID:J3JiD++40

「これはこれは……お待ちしていましたよ」

「状況は?」

「一方的な鬼ごっこを楽しんでいる所ですよ。これがまた中々面白い」

「予定よりも時間が掛かっているみたいですね」

「すみません。つい楽しんでいたもので……指示は出しておきました。これからは手早く済ませてくれるでしょう」

「さて、それはどうかしら……? 彼女達もそろそろ行動を起こす頃じゃないかしら」

「行動……?」

「貴方は戦況を見るのが下手ね。あそこには仮にも人を率いる人材が数人いる。そんな彼女達がただ逃げ回るだけとは思えないわ」

「まさか。相手はただの高校生ですよ」

「……ともあれ、あまりゆっくりしている時間はありませんよ」

「分かっています」

私は再び画面に視線を戻す。

画面には、丁度策を飛び越え、階下へと降りるアリスの姿が映っていた。

その姿を見て、彼女は薄らと微笑んだのを私は横目で見ていた。

その笑みが何を意味しているのか、皆目見当もつかないで。



63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/23(金) 23:52:00.28 ID:J3JiD++40

   1F メインエントランス カチューシャ・ノンナside

バキバキバキィ!! と派手な音が耳に鳴り響いた直後、急激な衝撃に息を詰める。

咳き込みたい気持ちを強引に抑え込み、私はノンナの上から直ぐに起き上がる。

「ノンナ! しっかりして、ノンナぁ!」

「……」

呼び掛けるも、ノンナからいつもの返事はない。それどころか、額からタラリと赤い筋が流れ落ちてくる。

ぐったりとしているノンナを覗き込みながら、私は必死に頭を働かせる。

私達が落ちた先には簡易的なテントが張ってあった。何かの出店でもやっていたのか、吹き抜けのエントランスのあちこちに同じテントが張ってある。

私達がここに来た際にノンナはこの場所にテントがあることを見ていたのだろう。

それでも、三階から身を投げたのだ。テントが緩衝材になったとはいえ、無事で済むはずがない。

案の定、ノンナは意識不明の重体だ。

「こんなの……許されないわ」

自分の無能に腹が立つ。

しかし、後悔する時間すら今はなかった。

たん、と。

私達の背後にアイツが下りてきた。

同じ三階から落ちてきたはずなのに、何の怪我もしていない。

「もう諦めなさい」

「……」

私はノンナを庇う様に立つ。

「やらせないわ。ノンナには指一本触れさせない」

瞬間、アイツはものすごい速さで私の首元を掴み上げる。

「ぐっ、……は」

「終わりよ」

一切の感情を感じられない双眸を、私は精一杯の感情を込めて見下ろす。

「……なんで笑っているの」

「ホント……ノリーシャ達には悪い事をしたわ……ノンナにもこんな怪我を……負わせて……隊長、失格ね」

そういって私は口元を大きく吊り上げる。


「今度はもっとまともな作戦を立てないと、ね」



64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/23(金) 23:53:02.80 ID:J3JiD++40

「……何?」

感情が見えなかった琥珀の双眸に、ほんの一瞬、動揺した様な揺らめきが見えた。

それだけでも、私達の勝ちよ。

「本来はこんな危険な真似をさせるつもりじゃなかったんだけどね……流石はノンナ、しっかりと目的を完遂してくれたわ」

「何の話をしている」

「気付かない? 大学に、飛び級したって言っても……このカチューシャの作戦までは、読めない様ね」

「答えろ」

ギリリ、と首を締め上げる腕に力が増す。

もうほとんど体の感覚が無くなってきた。

ノリーシャ達を殺ったみたいに一思いに殺してくれればいいのに、苦しませるのね。

いいわ……だったら、最後の最後まで足掻いてあげるわ。

「ここは、吹き抜けのエントランス……そんな場所であれだけ派手な音を立てた、のよ……」

「……ッ!!」

ようやく気付いた様ね。でももう遅いわ。

「私達がいつまでも逃げてるだけのおこちゃまだと思わない事ね、おこちゃま」

直後。

吹き抜けのエントランスを囲う様に、様々な所から皆の姿が現れた。

「誘い、込み……成功……ね」

皆……後は頼んだわよ。




バリッ!! という音を最後に、私の意識は途絶えた。




66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/25(日) 21:04:52.90 ID:5Tkuu/YG0

1F メインエントランス ケイ・ダージリン・杏side

「ナイスガッツよ、カチューシャ……」

瓦礫と化した簡易テントの上に落ちた小さな軍師に、私は心からの敬意を払う。

隣に立つダージリンも静かに彼女の雄姿を見届けている。

「作戦というから何かと思えば……手間を省いてくれただけか」

「言ってくれるじゃない」

「数を集めた所で貴方達に勝ち目があるとは思えない」

「千の蟻は一匹の像をも倒す……貴方こそ力を過信し過ぎだわ」

「戦車の無い貴方達に勝ち目でもあると?」

「戦車だけが私等の全てじゃないんだなー」

頭上から声が聞こえたと思った瞬間、私達の前に大きなカバンが落ちてきた。

視線を上げると、二階にはアンジー達生徒会ズの姿があった。

「護身用の武器だ! それで身を守れェ!!」

「防犯グッズ並みに心許ないだろうけどねー」

「感謝するわよ、生徒会ズ!」

素早くカバンを拾い中を確認すると、スタンガンやカラーボールが大量に入っていた。

その中でも一際目を引くものが一つ。

「そっちの名手さんなら上手く扱えると思ってねー」

流石はアンジーね。私はカラーボールの入った袋をアリサに手渡す。

アリサが手早く皆に配っている間も、アリスに似たモンスターは特に気にした様子も見せずに佇んでいた。

「無駄な努力を……」

モンスターは一言だけそう言うと、姿勢を低くする。

来る……!?



67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/25(日) 21:25:29.57 ID:5Tkuu/YG0

アリスに似たモンスターがこちらへ飛び掛かろうとした、

その瞬間。

ガクン、とその体を急停止する。

「……い、かせません」

「……」

アリスの左足。

その細い足に、額から血を流したプラウダの副隊長がガッシリとしがみ付いていた。

「Why!? 何やってるの!」

「今の内に退避を!!」

「そんな体で何言って──」

「ケイさん」

私の肩を叩いて、ダージリンが指差す。

その先は、ノンナ達のいる所からややズレた……。

「ッ!?」

正気なの……!!

驚愕の表情を浮かべて彼女を見ると、彼女は優しい笑みを浮かべていた。

覚悟は……決まってるのね。

「総員直ちにこの場を離れて!! 一刻も早く!!」

私はすぐさま反転してこの場を離れる為に走り出す。

「ケイ! カバンの前ポケット!」

去り際にアンジーがそんな言葉を叫ぶ。

カバンの前ポケットに何かあるのだろうか。

とにかく今はそんな悠長な時間はない。

確認は後、今はこの場を離れるのが何よりも先だった。



69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/25(日) 21:48:00.73 ID:5Tkuu/YG0

カチューシャの横で横たわる私の喉元を、彼女の小さな手が掴む。

流石に身長差がある所為か、私を掴み上げるようなことはしない。

「貴方達は時間稼ぎばかりでうんざりね」

「それなら、結構……冥利に尽きます」

「いい加減楽にしてあげる」

「それは……こっちの台詞です」

「……」

「どうやら……この広場では小さな屋台が開かれていたみたいですね」

「それが?」

私は薄らと微笑み、両手を持ち上げる。

「問題です。ここにそこの屋台で拾ったマッチ棒があります」

「それが何の──ッ!?」

彼女は勢いよく首を横に振る。

今更気付いても遅い。

もう辺りはそれで充満しているのだから。


「それを気化したガスの中で点けるとどうなると思います?」


彼女が私の首元から手を離す。

それより先に、私は両手を動かした。

最後に、私は隣にいるカチューシャを見る。

同士カチューシャ。最後までお傍に入れた事、誇りに思います。



直後、天まで轟く様な爆音がモールに響き渡る。



70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/25(日) 22:16:13.32 ID:UZm9LVwvO

乙です。

このガス爆発でアリスはどれ程のダメージを受けただろうか…?
ホールに有る辻たちが覗くカメラは全滅しただろうけどね。


判明している戦死者

-大洗-
秋山優花里
五十鈴華
武部沙織
磯辺典子
ねこにゃー(猫田)
ナカジマ(中島悟子)

-黒森峰-
エリカ

-プラウダ-
カチューシャ
ノンナ

-聖グロリアーナ-
無し

-アンツィオ-
ペパロニ
カルパッチョ

-千波単-
西
福田



72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/25(日) 22:20:15.75 ID:5Tkuu/YG0

「ケホッケホッ! ……皆、怪我はない?」

「ナオミ、無事です」

「アリサ、生きてます」

辺りを覆う硝煙が薄れ始め、ようやく辺りが薄らと見え始める。

メインエントランスから離れ、角の階段を上がった辺りで鼓膜の破れる様な音が響き、私達は身を伏せた。

幸い爆風に煽られる事もなかったが、一瞬にして辺りは灰色の硝煙に包まれた。

だが、その硝煙もようやく薄らいできた。

「ダージリン達は?」

「えぇ……何とか無事よ」

私のすぐ後ろでダージリンの声がした。何とか無事みたいね。

「ペコも、大丈夫だった? ……ペコ?」

ダージリンの声に、返事がない。

辺りはまだ薄暗く、全員の姿を確認することが出来ない。

それが、余計に不安を煽る。

「ペコ!? 返事はどうしたの、ペコ!」

ここまで取り乱したダージリンを見るのは初めてだ。

とはいえ、今は呆けている場合ではない。

「落ち着いてダージリン! 足元に気を付けて一緒に探しましょう」

「え……えぇ、そうね。ごめんなさい」

そう言うものの、ダージリンの顔は硝煙の中でも分かる程青ざめている。

これはマズいわね……。

どうしたものかと頭を掻いた時、

「ダージリン、様……」

微かに。

消え入る様な小さな声だったが、確かに聞こえた。

その証拠に目の前に立つダージリンもハッとした表情で顔を上げている。

私達は声が聞こえてきた方角、一階の階段前へと慎重に向かう。

「ペコ! どこなの、ペコ! ペ──ッ!?」

「そんな……!?」

そこに、彼女達はいた。



74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/26(月) 22:10:12.41 ID:cOgElyGx0

辺りは爆発の影響で瓦解していた。

元々古い建物だったから、さっきの衝撃で天井や柱が崩れてしまったのだろう。

瓦礫に半ば埋もれる様に、オレンジペコの明るい色の髪が見える。

ペコの他にも、三凸の車長やアズサの姿も見えた。

私達は慌てて瓦礫を払い除ける。

「ペコ……!!」

彼女達に覆い被さっている一際大きな瓦礫を除けると、事故の全貌が見えた。

オレンジペコとアズサの上に覆い被さる様にして倒れている三凸の車長の息は既にない。

恐らく二人を瓦礫から守る為に……。

「確かカエサルって言ってたわね……エクセレント。貴方は英雄よ」

私は仰向けに寝かせた彼女の両目に手を当て、そっと瞼を閉じさせた。

「そっちの容体は?」

「ラビットの子が目を覚まさないわ……ペコも瓦礫に足をやられて歩くのは無理ね」

「どうしますか隊長、おぶっていきますか?」

「そうね……」

ナオミの提案に賛同しようとした時、


遠くで、微かに何かがはじける音がした。


それは、あのモンスターから聞こえる音と瓜二つだった。

そんな……まさか。

「あああああアイツよぉ……生きてたんだわ!!」

「クソッ!! 隊長、指示を!!」

「落ち着いて二人共! 今考えるから!」

Shit! これは本格的にマズいわ。

「ダージリン様……私達は大丈夫ですから、先にいってください」

状況を理解したのだろう、オレンジペコはそんな言葉を言ってくれる。

しかし。

「……馬鹿言わないでちょうだいペコ。貴方を置いていく訳ないでしょう」

ダージリンは優しくオレンジペコの頬を撫でる。

流石はダージリン。

後輩がこんなに想ってくれているのに、私達が応えない訳にはいかないわよね。

私は最後の望みを掛けて、カバンの前ポケットを開く。

アンジーが最後に残した言葉に縋る様な思いでポケットを開くと、そこには一枚の紙が入っていた。

綺麗に折り畳まれたその紙を開き、中身を確認する。

……。

「……ダージリン」

私は静かに彼女の名を呼んだ。

既に覚悟を決めている彼女に向かって、私は言う。

「一世一代の大勝負に出てみない?」



75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/26(月) 22:56:17.88 ID:cOgElyGx0

  1F メインエントランス 麻子・そど子side

吹き抜けのエントランスに黒煙が立ち昇る。

放射状に延びる黒い焦げ跡がその威力を如実に物語っている。

だというのに。

その中心には人影があった。

硝煙の中から、ヤツが現れる。

子供っぽい服は破れ、白い皮膚は赤く変色している。

でも、それだけだった。

何処かが欠損していても何ら不思議はない爆発を間近で受けたというのに、ヤツの変化といえばその程度だった。

「安心したぞ」

そんなヤツの前に出て、私は言う。

「あれで死なれては私が殺せなくなるところだった」

ヤツが私の姿を捉える。

「ほら、何してる……皆を殺しただろ。沙織を殺しただろ……だったら──」

私は手に持った包丁を煌かせ、

「私も殺しに来てくれよ」

殺し合いに身を投じる。



76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/27(火) 20:28:30.13 ID:1zGXHti70

「なぁ、本当にやるのか?」

「仕方ないじゃない。ここまで来ればやるしかないでしょ」

物陰に隠れながら、私と安斎さんは冷泉さんが来るのを待つ。

ここでヤツを捕らえる、って言ってたけど……。

多分、その後は彼女を殺そうとするでしょうね。

「絶対させないわよ……」

私が風紀委員をやっている間は犯罪者なんて一人も出してあげないんだから。

心で家宅決意した、丁度その時。

通路の向こうに冷泉さんの姿が現れた。

「来た……!」

「きっちりと段取り道理にね、安斎さん!」

「アンチョビだ、そど子!」

「園みどり子よ!」

逸る心臓を必死に抑えて、私はその時を待つ。



77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/27(火) 20:53:22.70 ID:1zGXHti70

戦うと言っても、正面からやり合って勝てる相手じゃないのは明らかだ。

付かず離れず、しかし確実に所定の場所へと誘導していく。

恐ろしい速度でヤツが近づいてくる。

その速さは最早砲弾に近い。

しかし、その速さも分かってしまえば対処は出来る。

私は商品棚の影に飛び込む。

そのまま棚の合間を縫って走る。

直線でなければ、ヤツの速度は機能しない。

しびれを切らしたのか、ヤツが路地へと入って来る。

今までは私が通路に飛び出してくるのをじっと待っていたのに。

まぁ、それも想定済みだが。

ヤツがゆっくりと警戒しながら進んでくる。

私は用意していたドライアイスを密封容器に入れて、奴の足元に滑らせる。

丁度私がいる反対側辺りで制止したそれは僅かな静寂の後、


ポン!! と、小気味良い音を立てて破裂する。


ドライアイスは二酸化炭素を個体になるまで圧縮したものだ。

そんなドライアイスを密封した容器の中で気化させれば、体積は800倍近くなる。

当然、容器の中の圧力は急激に上昇し、破裂するという訳だ。

その時に発する音を利用する。

ヤツは一瞬にして音のした方へ振り返る。

そして、私の前に無防備な背中が曝け出された。

私は物陰から飛び出す。

手に持つ包丁が狙うはヤツの脇腹。

お前が殺した沙織と同じ個所だ。

「ふうぁ!!」

私は渾身の力で振り抜いた。



78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/27(火) 22:11:29.65 ID:1zGXHti70

「ッ!!」

包丁がヤツの脇腹に潜り込む直前、ヤツは体を捻った。

私の包丁がヤツの白い肌に一筋の線を刻む。

「チッ」

タイミングは完璧だったのに……。

私の渾身の一撃はヤツの脇腹に切り傷を付ける事しか出来なかった。

飛び出した勢いを殺さないまま、私は再び物陰に紛れて走り出す。

後ろからヤツが追って来る気配がする。

よし、そのままついて来い。

商品棚の列を抜け、私は通路に飛び出す。

そのすぐ後ろに、ヤツも飛び出してきた。

私とヤツの間に隔てる物はない。階段へと続く一直線に伸びた通路だけだ。

ヤツの両足が踏み込まれる。

一気に私へと飛躍する為に。

そして、溜め込んだ力を一気に解放させて飛び出したヤツの足元で、

「今だそど子!」

一本の縄が飛び上がった。

ヤツも気付いたが、もう遅い。

足に引っかかった縄はくの字に引っ張られる。

そど子達は手に持った縄を限界まで引き絞った後、一斉に手放す。

縄の両端に付けたゴルフボールが遠心力を得て回り、一瞬にしてヤツの足に縄が絡み付く。

バランスを崩したヤツは勢いを止められないまま私の前で派手に転倒、受け身も取れないまま何回もバウンドして制止する。

……捕まえた。



79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/27(火) 22:16:37.20 ID:igcbeN0Ho

さすそど



80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/27(火) 22:29:35.90 ID:8nWaIgaro

家宅決意って字面にちょっと笑った
帰りたいよねうん



82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/29(木) 21:42:10.54 ID:bNThsZqu0

私がヤツの所へ向かおうとする前に、

「待ちなさい冷泉さん」

後ろからそど子が声を掛けてきた。

「その包丁は必要ないはずよ」

「……まだ分からないぞ。罠かもしれん」

「それは、そうかもだけど……」

そど子の声から勢いが無くなる。

これ以上何か言われるのが面倒だ。また何か言われる前に歩みを始める。

私がヤツの後ろに立つ。

ヤツは気を失っていなかった。

まるで人形の様に変わらない表情で両足に絡まった縄を取ろうとしていた。

その姿が芋虫の様に見えて、私は何だが可笑しくなって笑ってしまう。

この包丁を突き刺してやれば、もっと可笑しな動きを見せてくれるかな……。

そんな事を考えながら私は包丁を振り上げ、

「ダメよ冷泉さん!!」

そど子の制止など聞こえない。

私は勢いよく振り下ろした。

「ぅぅぅぅうううああああ!!」

「ッ!?」

アリスの口から、唸り声の様な音が発せられる。

氷の様に凍てついた瞳を見開き、ヤツは叫んだ。

これはまずい。

その言葉が頭に浮かんだ途端、

バリリィ!!

ヤツの体から放射状に何かが弾けた。

ぐん! と私の手から包丁が吹き飛ぶ。

次いで、私の体を衝撃が駆け巡った。

一瞬にして体から力を奪われる。

最初に受けた攻撃と同じものだった。

しかし、今回はその比ではない。

「あぎ、がぁぁあああああああああああ!!」

全身を締め上げられる様な痛みが私を襲う。



84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/29(木) 22:28:36.92 ID:bNThsZqu0

痛い、痛い。体の繊維が引き千切れそうだ。

「ううううううう……!」

歯をむき出しにしながら、ヤツが立ち上がる。

沸騰しているんじゃないかと思えるほど熱くなった眼球を動かして見ると、ヤツの足元に絡まっていた縄は燃え切れていた。

瞬間、私の頭の中で答えが出る。

そうか……やっとわかったぞ。ヤツの力の正体が。

しかし、どうやらそれを実践する機会はなさそうだ。

「ううううううう!!」

ヤツの体から湯気が上がる。赤くなった皮膚が更に増えていく。

それに呼応する様に、私の全身を包む力も強さを待つ。

もう、耐えられない……。

私の体内から、ミチミチと何かが切れる音が聞こえた気がした。

そんな時、

「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

ガラガラガラ!!

激しい音を撒き散らしながら、安斎さんがショッピングカートを押して突っ込んでくる。

カートがヤツの体に衝突する。そのまま数メートルほど押し進んだがやがて勢いは止まり、

「ううう!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

両手で彼方へと放り投げられた。

派手な衝撃音と商品の落ちる崩落音が立て続けに起こる。

「れ、冷泉さん……!」

「そ、ど子……」

その隙に私の体をそど子が抱き上げる。

私の肩を担ぎ、階段へと向かう。

「よせ、そど子……! 私に構わず逃げろ!」

「全く貴方って人は本当に手の掛かる生徒だわ!」

そう言うそど子の表情は私と同じ様に苦痛に歪んでいる。

それも当然、そど子もヤツの力を食らっているのだ。

私よりも遠くで初波を受けたからまだ何とか動けているだろうが、今も心臓を引っ掻かれる様な痛みを受けているはずだ。

このままではそど子も……。

「離せそど子……! 頼むから逃げてくれ!」

「うるさいわよ!!」

私の言葉を断ち切って、そど子は叫ぶ。



85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/29(木) 22:50:17.05 ID:bNThsZqu0

「いっつもいっつも遅刻ばかりで! 戦車道じゃ先輩ぶって! そのくせ人の名前は覚えようとしない! 話は聞かない真っ直ぐ立たない、挙句の果てにはどこでも寝る……それが貴方でしょうが、バカれまこ!!」

「な……何を言って──」

「貴方は貴方でいなさいって言ってるの! 敵討ちなんてしたって武部さんは戻らないの……悲しい事だけど、受け入れないとダメなの!」

瞬間、私の頭が一瞬で沸騰する。

力の入らない体などお構いなしに全力で叫ぶ。

「わがったようなごと言うな! アイツが殺したんだ! 仕方ないで済まぜるものか!!」

「だからって貴方が殺める必要はないの! それは絶対ダメな事なのよ!」

むかつく。

むかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつく!!!!

「人を殺めたら、貴方は絶対戻れなくなる。道を外れて幸せになれなくなる!」

後ろから、ヤツが歩いてくる。

決して早くない歩みだが、こちらが遅すぎる。

確実に距離が縮められていく。

このまま階段を上がっても追いつかれる。

もう……どうしようもなかった。



86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/29(木) 23:27:53.90 ID:bNThsZqu0

「もう、無理だ……」

私が諦めの言葉を呟く。

「……いいえ、まだよ」

「え?」

「風紀委員は何があっても諦めちゃダメなの。私がしつこいのは貴方が一番知ってるでしょ」

そう言ってそど子は階段の脇、小さな休憩室の様な場所に向かう。

ここは完全な個室で他に道がある訳でもなく、ましてや身を隠せる場所がある訳でもない。

一体ここに何の用が……?

そう思っていると、そど子は休憩室の一角で歩みを止める。

そこには、壁についている開閉式のごみ箱があった。

「これは地下のゴミ処理場まで繋がってるはず……私達なら通り抜けられるはずよ」

そど子は体の不自由な私をゴミ箱の縁に乗せる。

ヤツはもうすぐ後ろに迫っていた。

「お、おいそど子急げ。お前も早くこの中に──」


その時、私はようやく気付いた。


私達が通れるのなら、ヤツだって当然入れる。

ここでヤツを引き留める役が必要だ。

「やめろ……ダメだそど子!」

私が必死に手を伸ばすが、そど子は手を取ってくれなかった。

「全く……本当に手の掛かる生徒だったわ、貴方は」

「嫌だ、やめてくれ……も、もうあんな悲しい思いしたくないッ!!」

イヤイヤと首を振るが、私の体は徐々に滑り落ちていく。

「もう遅刻しちゃダメよ……大丈夫、貴方ならきっと一人で起きられるから」

そど子がフッと小さく笑う。

「そど子ッ! そど子ッ!! そど子ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

その笑顔を最後に、そど子は蓋を閉めた。

光は完全に閉ざされ、私は暗闇を滑り落ちていく。

私の叫び声だけを残して。



87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/29(木) 23:33:00.09 ID:bNThsZqu0



コメントありがとうございます、作者です。

家宅決意とはひどい誤変換もあったもんだ。雰囲気を台無しにして申し訳ない(。-人-。) ゴメンネ




90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/02(日) 21:32:13.45 ID:yWYz8bSl0

 B2F 食料品売り場脇非常階段 みほ・まほside

最下層に着いた私は防火扉を開く。

扉の隙間から外を見ればどうやら食料品売り場の様だ。

私は扉を半分ほど開けて、辺りに人がいないのを確認してからみほに振り返る。

みほは呆然自失といった様子だ。

「みほ」

「……」

「行こう、みほ」

みほに向かって、私は手を差し出す。

しかし、みほは手を取ってくれなかった。

「みほ……」

「……お姉ちゃん」

「なんだ?」

「……」

その後の言葉が、続かない。

ただ、立ち尽くすみほの顔からぽたり、ぽたりと涙が地面に落ちる。

私の心臓がどうしようもなく痛む。

「……行くぞ、みほ」

私は強引にみほの手を掴む。

ほんの少しだけ、みほは抵抗する様に手を引いたが、流されるままについてくる。

今のみほには、抵抗するだけの気力も残っていない様だった。

私はみほに気付かれない様に前だけを見て歩く。

抱き締めてやりたい。

お前は何があっても守ってやると、心行くまで囁いて安心させてやりたい。

でも、それは今はダメだ。

今は言葉では、想いだけでは守れない場所にいる。

例えどんな罵声を浴びようとも、結果を残さねば。

みほを無事にここから出す事だけを考える。

例えそれが他の全てを犠牲にする結果になってしまったとしても。



91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/02(日) 21:50:10.10 ID:yWYz8bSl0

ズズン……。

突然、地鳴りのような低い音と揺れが辺りに響く。

まるで間近で榴弾を受けた様な振動だ。これはかなり大きな衝撃だったに違いない。

「お姉ちゃん……」

「あぁ、上で何かあったんだろう」

「……お姉ちゃん」

「……」

「皆に、何かあったのかも……」

「…………」

「様子を見に行かないの……?」

「……今は、まだダメだ」

「でも……あ、」

私は皆を心配するみほの手を引いて、再び歩き出す。

行った所で、今の私達にはどうすることも出来ない。

それよりも、いち早く脱出の手掛かりをつかんで皆に知らせてやった方がよっぽどみんなの為になるはずだ。

私はそう結論付けて、出口を探して前に進む。

決して後ろを、みほを振り返らずに。



92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/02(日) 22:13:19.60 ID:yWYz8bSl0

私達はほとんど会話をしないまま食料品売り場を抜け、隣接するフードコートへと来た。

私がここに来た理由は一つ。

出口になるかもしれない場所に心当たりがあるからだ。

私は適当に辺りを見回し、手前にある蕎麦屋へと足を向ける。

「お、お姉ちゃん? どうしてこんなところに?」

「食料品や飲食店には日々大量の物資が届いている。特に鮮度の高い魚や肉、野菜などは毎日といっていいだろう。そんな大量の物資が行き来する為に必要な所がある。何か分かるか?」

私の問いに、みほはハッとした表情を浮かべる。

私は蕎麦屋の店奥、裏口と呼ばれるドアを開く。

その先には真っ暗な空間が広がっていた。

一人なら絶対に通りたくない漆黒の空間に、私は少しだけ臆する。

みほも、私の手を握る手に力が籠もる。

それでも、私は暗闇に一点だけ光る場所に向かってゆっくりと歩み出す。

足元に注意しながらその場所へ到着した私達は、そこにあるボタンを片っ端から押していく。

すると、真っ暗だった空間がチカチカと点滅し、やがて薄らとその全貌を照らし出した。

等間隔に置かれた大きな石柱に、広大な空間。

ここは物資搬入用の地下駐車場だ。

「予想していたより広いな」

「それいとっても薄暗いよ……」

みほの言う通り、天井に備えられた蛍光灯は総じて古く、殆どがチカ、チカと点滅を繰り返している。

完全に点いていない所もあった。

私達は搬入用の大きな段差を降り、薄暗く点滅する駐車場を進んでいく。



93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/03(月) 22:52:21.23 ID:Muy47Frq0

暫く進むと、すぐにそれは見えてきた。

物資を運ぶトラックが行き来する道、地上へと続く出口だ。

しかし当然というべきかガッチリと太い鉄格子が張られており、ここも通れそうにない。

ほんの数メートル先に月明かりが見える。どうやら外はもう夜の様だ。

「お姉ちゃん……」

「心配そうな顔をするなみほ。この鉄格子を何とかする方法を見つけよう。そしたら外に出られる」

「……うん、そうだね」

やっと見つけた希望なんだ。何としてでもここから無事に脱出して見せる。

「さぁ、そうと決まればさっそく解決策を探りに行こう」

気持ちを新たに、私達は来た道を戻る為に振り返った。


「みほさん……」


「ッッッッ!!!?!!」
「ひッ!!」

薄暗い駐車場の真ん中。

チカ、チカと点滅する灯りの下に、アリスが立っていた。



94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/03(月) 23:18:55.66 ID:Muy47Frq0

私は反射的に動いていた。

駐車場の脇に落ちてあった廃材を頭上にあるライトに投げる。

古びていた蛍光灯は呆気なく破壊され、辺りを闇が覆う。

休む間もなくみほの手を取り、アリスのいる場所から大きく迂回する様に走り出す。

「待って!」

石柱の影から飛び出した私達を捉えたアリスが追ってくる。

「お願いだから待って!」

「お……お姉ちゃん。なんだかあのアリスちゃん、様子がおかしいよ」

「振り返っちゃダメ!!」

「でも──痛っ!」

みほの手を引きづる勢いで、私は一心不乱に走る。

守らなきゃ……何があってもみほだけは、みほだけは……!!

「みほさん! まほさん! どうか信じて……私は島田愛里寿です!」

聞くな。足を止めたら終わりだ。

私は着た道を戻り、蕎麦屋の裏口へと全速力で飛び込んだ。

そのまま壁に衝突した反動を利用して扉を閉め、鍵を掛ける。

ドン!! ドン!!

薄いドアの向こうから、扉を叩く音がした。

私は半ば暴れる様にその辺の物をドアの前に叩き付け、即席のバリケードを作る。

「ハァ、ハァ……!!」

逃げないと……!!

「お、お姉ちゃん少し待っ──ッ!!」

私は床に尻餅を付いているみほの手を取ると、強引に立ち上がらせる。

そのまま蕎麦屋を飛び出した。

当てはない。

ただここより少しでも遠い場所へ逃げようと、私の頭はそれだけを考える。

「待ってお姉ちゃん……! お姉ちゃんってば!!」

「えッ!?」

みほが私の手を振り解く。



95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/04(火) 21:57:23.07 ID:mzf+xzFV0

お互い荒い息を吐きながら見つめ合う。

困惑したみほの表情に、私はもっと困惑する。

「みほ、どうして……」

「お姉ちゃんこそ、どうしちゃったの……?」

「どうしたって、私はいつも通りだ」

「いつものお姉ちゃんならこんな強引に引っ張ったりしないよ!」

「みほ、今は時間がない。アリスがまだ近くにいるんだ分かるだろ!?」

私は再びみほの手を掴もうとする。

しかし、みほはそんな私から逃げる様に身を引いた。

「さっきのアリスちゃんは何かおかしかった。少なくとも私達を襲おうなんて思ってなかったんじゃないかな」

「何を根拠にそんな事を」

「根拠は、まだよく分からない……けど!」

「みほ!!」

「ッ!?」

ダメだ、やめろ。

「今はそんな不確かな事に囚われている場合じゃないはずだ!」

こんな事を言っても意味はない。

分かっているのに、私の感情は舵を失った様に暴走する。

「でも、お姉ちゃん!」

守ってやるって言ってるのに……!

「あのアリスちゃんはきっと私達に何か伝えたいことがあったんだよ! だから──」

「いいからお前は私の言う事を──ッ!!」

そこまで口にして、ようやく私は我に返った。

私は、今何を言おうとした……?

「す、すまないみほ……違うんだ、私は──」

慌ててみほに弁明しようとしたが、そこで気付く。

みほが私に向ける眼。

そこには、明確な恐怖の色が浮かび上がっていた。

瞬間、私の呼吸も思考も、全て止まる。

みほに、怖がられた……。



96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/04(火) 22:12:50.60 ID:mzf+xzFV0

「……ごめんなさい、お姉ちゃん」

みほから、謝罪の言葉が零れる。

その瞳から、大粒の涙を浮かべて。

「私が、お姉ちゃんを追い込んだ……」

違う。

そう言いたいのに、私の口は動かない。

「結局私はお姉ちゃんに守られてばっかりで、自分では何も出来てなかった」

何してるんだ私は。

目の前でみほが泣いているんだぞ。

「お姉ちゃんにばかり辛い思いをさせて……ごめんなさい」

みほは目尻を拭うと、顔を上げる。

「でも、もうそれもお終いにしないと。私もお姉ちゃんに甘えているだけでいたくない」

拭った目尻から、再び涙が滲む。

それでも、みほは顔を上げる。

「だから……私は行くね、お姉ちゃん」

「だ、ダメだみほ……」

「私一人でアリスちゃんに会って来る。お姉ちゃんにはもう迷惑かけないから」

そう言ってみほは私に背を向け、走り出した。

私は遠ざかっていくみほの背に手を伸ばす事しか出来なかった。



97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/05(水) 20:53:35.96 ID:QOoVjtGM0

辺りに静寂が流れる。

「みほ……」

私は拳を強く握り締める。

「……最低ね」

愚かとしか言い様がない。

私はみほを守ると言っておきながら、ただ自分に従わせているだけだった。

みほが黒森峰を出て言った時と何も変わらない。

あれから少しはみほに近付けたと思っていたのに、結局私は何も変わってなどいなかった。

余りの情けなさに泣いてしまいそうだ。

誰もいないというのに、私は潤む瞳を隠す様に俯いた。

みほは私に甘えているといった。

だが、その実本当に甘えていたのはみほではなく私だったんだ。

だからみほが私と違う選択をするのが怖くて仕方なかった。

こんな場所で一人になるのが怖くて、またみほを手放すことが怖くて、理由なんて幾つだってある。

だが、

「それでも、私は……」

私の願いの根幹は一つだ。

もうみほと離れたくない。

その答えにたどり着いた時、私の頭の中に穏やかな風が流れた。

そう、それだけの事なのだ。

紐解くと出てくるのはそんな子供みたいな純粋なモノなんだ。

そして、それが何よりも大切で尊い物なんだ。

みほはアリスに会いに行くといった。

強大な敵に、みほは一人で立ち向かっていった。

あまりに無謀だとお母様なら言うだろう。

何の根拠もない、ただの直感でしかない。

加えて私は西住流次期後継者、ここで死ぬ訳にはいかない身だ。

生き残る為に、私は最善の手を取らねばならない。

その為には、このままみほを置いて逃げ延びるのが一番だ。

しかし、

「──撃てば必中」

私は自分で言ったじゃないか。

「守りは固く、進む姿は乱れ無し」

私は西住流次期後継者、西住まほなのだ。

「鉄の掟、鋼の心」

俯いていた顔を上げ、私は走り出す。

西住流に逃げるという道はない。

私の進む道が、西住流だ。



98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/05(水) 21:55:18.91 ID:QOoVjtGM0

   1F 東側階段付近 ケイ・ダージリンside

「──それじゃあ皆、準備はいい?」

鞄に入っていた無線機を口元に寄せて言うと、すぐに返事が来た。

『こちらは準備出来てます。先方とも打ち合わせは済ませてる』

『こちらもよろしくてよ』

「OK」

「隊長……ほんとにやるんですか?」

私と背中合わせになっているアリサが、泣きそうな顔で私に振り返る。

「いつまで泣きそうな顔してるのよアリサ。そろそろ覚悟を決めなさい」

「だって、だってこんなの……」

まぁ、言いたいことは分かる。

なんせ今、私とアリサは電動自転車に背中合わせで跨り、通路のど真ん中に立っているのだから。

「なんなら今すぐこの無線を使って救助を呼んでくれてもいいのよ? 得意分野でしょ」

「とっくに試したの知っててそんなこと言うのやめて下さいよ!」

嘆くアリサに私は声を上げて笑う。

鞄に無線が入っているのが分かると、アリサは嬉々として外とのコンタクトを取ろうと試みた。

しかし周囲にはジャミングが張り巡らされているのが分かり、アリサは見事に崩れ落ちた。

辛うじてこの建物内なら何とか通話ができるようだが、それでも離れすぎれば音が悪い。

「だったらこの作戦に賭けるしかないでしょ」

「うぅ……」

観念した様に項垂れるアリサから視線を正面に移す。

マーケットを貫くこの中央通路に陣取り、私達はあのモンスターが姿を現すのを待つ。

何処にいるのか分からない。だからこそ、どこからでも現れる可能性がある。

嫌な焦燥感に苛まれながらも、私達はジッとその時を待つ。

……。

…………。

………………。

「ッ!!」

中央通路の向こう端からあのモンスターが姿を現した。

私はすばやく無線を開いて言う。

「目標視認、これより作戦を開始するわ! 行くわよアリサァ!」

「ひぃぃぃ!!」

ペダルを思いきり踏み込み、私は自転車を走らせる。

あのモンスターガールの元へと、一直線に。



99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/06(木) 22:28:00.02 ID:t3ajVXuI0

近づいて気付いたけどあのモンスターガール、凄いボロボロね。

でもそれなら好都合。少なくともキャスパーって訳じゃない事は分かったんだから。

向こうもこっちに気付いた様で、勢いよく走り出している。

「アリサ、曲がるわよ!」

私は左の道に曲がって自転車を漕ぐ。当然追って来るアリスと再び追いかけっこが始まる。

「今よアリサ!」

「来るなぁぁぁぁ!!」

私の後ろに座るアリサが手に持ったカラーボールをアリスに投げる。

しかし、アリスは難なく回避して距離を詰めてくる。

「た、隊長! 一発も当たりません!」

「少しでも時間を稼いで頂戴!」

私達の前方にはエレベーターフロアがあり、そこにはアンジーの姿があった。

「ケイ、急げ!」

「分かってるわよ!」

自転車を必死に漕いで、私は全速力でエレベーターへと向かう。

ギリギリの所で急ブレーキをかけ、アリサ共々地面を転がりながらエレベーターに乗り込んだ。

しかし、アリスはもうすぐそこまで迫っていた。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」

アリサの叫びが響くと同時に、アリスが一気に飛びかかって来る。

しかし。

バチンッ!!

「ッ!?」

突然、横からアリスの体に何かがめり込んだ。

続けて二、三発と同じ様な音が響き、アリスの体制が大きく崩れた。

「ナイスよ、ナオミ!」

私は物陰に潜んでいたスナイパーに称賛の声を上げる。

空中で体制を崩したアリスはそのままエレベーターの中へと吸い込まれる様に飛んでくる。

気を見計らった様に私達はエレベーターから飛び出し、

「かーしま、小山!」

「はい!」

「うおぉぉぉ!」

アンジーの掛け声で、両脇から飛び出してきた生徒会ズの二人が手の持ったものを大きく広げる。

それは、ハンモックの様な丈夫な生地で出来た布だった。

ゴールテープの様に広げられたそれに、アリスは勢いよく飛び込む。

投網さながらの様に絡め捕られたアリスはそのまま勢いよくエレバーター内の壁に衝突し、床へと落ちる。

壁に当たった衝撃で気を失ったのか、アリスは布に包まったまま動かなかった。

「皆さん近づいてはダメよ」

物陰から出てきたダージリンが真剣な面持ちで言う。



100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/06(木) 23:08:13.84 ID:t3ajVXuI0

「彼女に近付きさえしなければ体の自由を奪われる事はないはずよ」

細心の注意を払いながら再生徒会の二人がエレベーターの扉にセロハンテープを張り巡らしている。

幾重にも巻いたセロハンの強度は単純な力では破るのは困難だ。

「流石は聖グロの隊長さん、助かったよー」

「こちらこそ助かりましたわ。貴方方がここで罠を張っていてくれたからできた作戦ですもの」

アンジーとダージリンが互いに顔を合わせて笑う。

アンジーが私達に残した一枚の紙。

そこには、アリスを捕らえる罠を張ってあることが掛かれていた。

後はアリスをここまで誘導する為に、私とダージリンで策を講じた。

「まぁ、この作戦の要は17ポンド砲さんですけど」

「見事な射撃だったねー。モデルガンでも役に立つもんだ」

ダージリンの言う通り、この作戦の起爆剤はナオミだ。

カバンに入っていたドラグノフライフルを見た時は驚いた。

「カバンに潜ませていた目玉商品の勝利って所ね」

「そう言えば噂の17ポンド砲さんはどこかしら」

「そういえばそうね……もう作戦も終わったから出てきても良いのに」

私達はナオミが隠れていた方に目を凝らす。

しかし、一向に姿を見せない。

「ナオミー? 終わったわよー」

仕方なく私はナオミが隠れている通路の奥へと進む。

暫く進むと、寝そべってライフルを構えているナオミの姿を発見する。

「お疲れナオミ。そんなに警戒しなくても大丈夫、もう終わったわよ」

未だ警戒を続けるナオミに、私は苦笑を浮かべながら言う。

しかし、ナオミは警戒を解こうとしない。

ずっとスコープを覗き込んだまま動かなかった。

「……ナオミ?」

流石にちょっと様子がおかしい。

私は彼女の肩を揺さぶろうとしゃがみ込み、


「──」


目を疑った。


……彼女は既に息を引き取っていた。



101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/06(木) 23:52:10.50 ID:MbiH+Pp+O

乙です。
ナオミは何を持っていたのかね…。
少なくともアリスがバランスを崩す程だからモデルガンではないよな…。




102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/07(金) 10:03:27.14 ID:vRGypxsZO

一口にモデルガンと言っても電動ガンだったり色々あるぞ。

ドラグノフってのはスナイパーライフルだから威力もそこそこある



103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/07(金) 10:17:59.37 ID:sgWPAVJLo

言うて日本のエアガンは1J規制というものがあって…

この世界だとそんな規制はおろか実銃実弾を日常的に使用しても何ら問題ない気もするから今更だけどな



104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/10(月) 21:32:57.81 ID:MUQCNMCG0

「何でよ……どうしてなのよ!!」

ガン!!

すぐ傍にあった棚を力任せに殴る。

「あのモンスターは確かに私達を追ってきていた……なのに何でナオミが!?」

一度だって目を離してはいないはず。

ナオミを襲う時間なんて一秒もなかったはずだ。

「落ち着け、考えるのよ……」

熱くなる頭を必死に落ち着かせて、私は考える。

ナオミに目立った外傷はない。

首の後ろが赤く変色している所を見るに、確実にあのモンスターガールにやられたに違いない。

でもあの娘は確かに私達の所にいた……。

で、あるならば。

「……まさか、そんなことって!?」

考えられる選択肢は限られる。

「くっ、皆が危ない!」

私は瞬時に踵を返し、全力で元の場所へと引き返した。



105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/10(月) 22:13:56.30 ID:MUQCNMCG0

「……妙だねー」

「会長? いかがしましたか」

「お気づきになられまして?」

「一体どうしたというんだ! 早く答えろ!」

「あまり大きな声を出すものではありませんわ、モノクルさん。おかしいのはもちろんあの娘の事よ」

私はネットに包まったまま身動きを取らない彼女を見据えながら言う。

「何がおかしいというのだ」

「なぜ身じろぎ一つしないのかしら」

「そんなの、壁に衝突して気を失っているからじゃないのか」

「あれだけ強靭な力をお持ちでそれは考えにくいわ」

「最初は気を失ったふりして近づいた私等を纏めて倒そうと思ってんのかなーと睨んだんだけど……何か違うっぽいね」

普段の飄々とした顔付きとはうって変わって、真剣な様子で生徒会長さんは言う。

「だ、だとしたら何で動かないのよ!」

サンダースの通信手の言う通り、動かない理由が分からない。

まさか本当に気を失っているというの?

「これじゃあ私達も下手に動くことが出来な──ッ!?」

その時、私の脳裏に一つの仮説が浮かび上がった。

普段ならあまりに非現実な事で笑っている所ですが、生憎そうではない様ね。

なぜなら、


カツン。


「ッッッッッ!?」

背後から小さな足音が響いた事で、私の仮説は一気に現実味を帯びる。

そんな、まさか。

ありえない!

一気に冷や汗が噴き出す。

それでも、私は勢いよく振り返る。

私の後ろには生徒会に所属するポニーテールの女の子。

そして、その背後に佇む彼女に私の心臓は鷲掴みにされた様な衝撃を受ける。

「伏せなさ──!!」

私の声が途切れる前に、

ドッ!! と。

致命的な音が響いてしまった。



106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/10(月) 22:43:52.09 ID:MUQCNMCG0

ポニーテールの子の体が不自然に揺れる。

まるで体から芯が抜けた様な動きで地面に倒れ込む。

「こ、やま……」

「……ゆずちゃん?」

愕然とする生徒会の二人は地面に倒れた小山さんを見た後、視線を少し上げる。

小山さんの真後ろ。

「………………」

「なんで……」


そこに立っていたのは、捕まえたはずの島田アリスだった。


マズイ!!

私はすぐに行動に移る。

もう手遅れだと承知の上で。

「直ぐにお逃げになって!!」

私が叫ぶよりも早く、彼女は動いていた。

彼女は一番近くの私に一足飛びで襲い掛かる。

死ぬ。

私の脳裏がその言葉で埋め尽くされた時、

「ダージリン!!」

突然横合いから声がかかる。

それと同時に強い衝撃が真横から私を襲い、なすすべもなく私は地面に倒される。

ドサッ! と品無く倒れた私の上には、ケイさんが覆い被さっていた。

「大丈夫!?」

「おかげ様で、命拾いしましたわ」

私達はすぐに立ち上がり、アリスさんに振り返る。

私達を仕留め損ねたアリスさんは瞬時に標的を変えていた。

再び勢いよく飛び出したアリスさんは、呆然としている生徒会の二人に襲い掛かる。

「伏せなさい生徒会ズ!!」

ケイさんの叫びに生徒会長は我に返る。

しかし、もう一人は微動だにしなかった。

「ゆずちゃ──」

「河嶋!!」

モノクルさんに、小さな死神が迫る。



107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/12(水) 21:14:17.87 ID:WNOOsykI0

アリスさんの手が河嶋さんの体を射抜く。

成す術もないまま、河嶋さんは小山さんと同じ様に地面に倒れた。

「そんな……」

「crazyよ、こんなの……」

「……」

「も、もう限界よぉぉぉぉぉ!!」

アリサさんが声を上げながらエレベーターへと駆け寄っていく。

「待ちなさいアリサ! そっちはダメ!!」

慌ててケイさんが止めるも、聞き入れる様子はなかった。

そして。

バチン!! と、

聞き覚えのある音よりもはるかに危険な音が響き、アリサの体が地面に倒れる。

泡を吹きながら体をピク、ピクと痙攣させるアリサの前、封鎖したエレベーター内で、それは起き上がる。

「ケイさん……非常に危険な事に気付いてしまったの」

「奇遇ねダージリン、私もさっき最悪な事態に気付いたわ」

覆い被さっていたネットが落ちる。

あれだけ張り巡らしたセロハンが煙を上げて焼け落ちる。

そして、中からゆっくりと出てきたのは、

「うぅぅぅぅ……」

紛れもなく、島田アリスそのものだった。



110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/12(水) 21:52:58.95 ID:WNOOsykI0

「島田アリスが、二人……」

「一体、どうゆうことなの……」

予期していた事とはいえ目の前の光景が納得できず、私とケイさんが呆気に取られていると、

「2人共危ない!!」

生徒会長さんの声が響き、私達はハッと我に返る。

そして、すぐ傍に河嶋さんを倒したアリスさんが迫っていた。

「くっ」

私は慌てて躱そうとしたけど、その前にアリスさんの手が私の左足を捕らえる。

ぴたりと小さな腕が触れた瞬間、万力で締め上げられる様な痛みが左足を襲った。

「ッッッああぁ!!」

「ダージリン!!」

ケイさんが果敢にもアリスさんに挑むが、私と同じ様に小さな腕に捕らえられてしまう。

「があぁぁぁぁぁぁ!!」

「あぁぁぁぁぁ!!」

ケイさんは右腕を、私は左足を捕まれる。

これは単純な握力ではない。そういった物理的な圧力とは少し違う、もっと抗い様の無い痛みだった。

そう、これはまるで──。

脳裏に答えが出かかったが、同時に限界でもあった。

私の意識はあまりの激痛に意識を失いそうになる。

「ぺ、こ……」

私の意識が途切れる。

その寸前で、

ザシュッ!!

突然響いた音と共に、私の左足はアリスの手から解放された。

私の左足はまるで一部だけ真っ黒に日焼けした様に鬱血している。

これではもうまともに歩くことはできそうにない。

解放されたのは私だけではない。隣ではケイさんが荒い息を吐いて倒れている。

「2人共大丈夫ー?」

私達の前には、小さな背中が一つ。

「角谷さん、貴方……」

「いや~どうやらここまでみたいだねー」

いつもの飄々とした調子で、彼女は言う。

その手には大きなサバイバルナイフが握られていた。



111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/12(水) 22:07:48.84 ID:WNOOsykI0

「少しだけでも時間稼ぐからさ、ケイを連れて逃げてよ」

「何を、言ってますの……」

「何でこんなことになっちゃったのか分かんないけどさ……あいつらの分も私がやんないと」

彼女は愛おしそうに倒れた生徒会の二人を見ている。

その瞳は、既に覚悟を決めている者の眼だった。

「ちゃんと生きてここから出て、私達の事をババーンと公開してよ。悪に立ち向かった悲劇のヒロイン達! みたいな感じで頼むよー」

「……えぇ、必ず伝えますわ」

「うん、ありがと……後、頼んだね」

とても爽やかな笑顔で彼女は言った。

彼女はアリスに立ち向かっていく。

恐らく一分と持たないだろう。

それでも、彼女の全てを掛けた猶予を無駄にするほど無様な真似は出来ない。

私は動かなくなった左足を引きづりながら立ち上がる。

ケイの肩を取り、二人で支え合いながらゆっくりと、確実にその場を後にした。



112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/12(水) 22:49:46.44 ID:WNOOsykI0

ダージリンとケイを逃がす為、私は増えた島田流に向かって駆け出す。

まるで気負いはなかった。

勝ち目がない戦いは何度も経験してきた。そのどれよりも今が一番勝ち目のない戦いのはずだった。

だけど、恐怖や緊張といった感情は湧いてこない。

……嘘、本当は痛いの嫌だなーとは思ってる。

でも、それだけ。

これが死ぬ気でやるってことなのかなーとぼんやり考えながら、私はナイフを振る。

私の振りかざしたナイフはあっさりとアリスに躱され、その手を叩き落とされる。

それだけだった。

パキン、と私の腕はくの字に曲がり、手からナイフが零れ落ちた。

瞬間、私の体を激痛が襲う。

「っっっっくうぅぅぅぅ!! いってぇ~!!」

私はそのままアリスに体当たりする。

アリスは多少よろけたが、難なく後ろに下がって態勢を整える。

「へへ……作戦どぉ~り」

額に大量の汗を浮かばせながら、それでも私は笑って見せる。

二人のアリスを同じ場所に立たせた。

これで下手に力を使えばもう片方は無事じゃ済まなくなる。

とはいえ、それだけだ。他に有効な手がある訳でも、考えている訳でもない。

やれることは一つだけ。

私は二人のアリスに飛びかかる。

二人のアリスは一度同じ顔を見合わせ、次いで互いに左右の手を突き出す。

私の両肩を二つの手が抑え込んだ。

そして、

バリリィ!!

両肩から尋常じゃない痛みが襲ってきた。

私は全身から白い煙を引いて地面に倒れる。

「こちらアリス02.アリス01に熱暴走を検知している。いかがいたしますか……了解、任務を再開する」

「……アリス01了解、引き続き任務を遂行する」

二人が同時に歩き出す。

踏み出したその足に、私は両腕で捕まる。

二人は体勢を崩して、片膝を付いた。

「へ、へへ~…………ま、だ……まだー……」

最後の力を振り絞って、私は小さく笑う。

直後、二人のアリスは躊躇なく私の体を刺していった。

手刀で人様をさせるとはねぇ、なんて馬鹿な事を思いながら、遂にピクリとも動かなくなった体の操作を諦める。

完全に意識がなくなる前に、私は小山と河嶋の姿を見る。

結局最後の最後まで一緒だったなぁ。

それならそれで悪くない最後かも。

私は謎の充足感に包まれながら、ゆっくりとその瞼を閉じていった。



113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/13(木) 08:04:13.11 ID:OfzDxTJ3O

会長以下生徒会も全滅か…。
役人に口で勝てる人材が失われたか…。


判明している死者

-大洗-
秋山優花里
五十鈴華
武部沙織
磯辺典子
ねこにゃー(猫田)
ナカジマ(中島悟子)
カエサル
角谷杏
小山柚子
河嶋桃
園緑子(そど子)

-黒森峰-
エリカ

-プラウダ-
カチューシャ
ノンナ

-聖グロリアーナ-
無し

サンダース
ナオミ

-アンツィオ-
ペパロニ
カルパッチョ

-千波単-
西
福田

不明
アリサ(泡を吹いて痙攣している)
オレンジペコ(意識はあるものの重傷か?)



114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/13(木) 17:59:47.62 ID:YN7U3Mn80

生死リスト作ってくれる奴さん、いつもありがとうございますw作者です。

気づきにくいでしょうが、アリサはもう昇天しています。

麻子とは違って暴走したアリスの○○をもろに受けたので助かりません。描写が少なくて申し訳ない……。



116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/13(木) 21:53:14.33 ID:YN7U3Mn80

「ハァ……ハァ……ケイさん、しっかりなさって」

「……」

私達は当てもなく通路を彷徨う。

「流石に手が尽きましたわね……」

「……ダージリン、置いて行きなさい」

「何を言い出すのケイさん。弱気な貴方もたまにはいいですけれど、今はいつもみたいに騒がしい方がよろしくてよ」

「ははは……ナイスジョーク。でもね……私はもうここまで見たい」

「……ケイさん?」

ケイさんは弱弱しい笑みを浮かべると、親指を立てて背後を見る様に促す。

誘われる様に背後を見た私は、ケイさんの背中に赤い染みが広がっているのを見つける。

「この傷……貴方、まさか私を庇った時に!?」

「かっこつけてやり過ごすにはちょっと傷が深かったみたいね……」

「……ごめんなさい、私の所為で──」

「ダージリィン? 言葉が……違うんじゃない?」

「……えぇ、そうね。ありがとう、ケイさん」

ケイさんは満足そうに笑うと、私の肩から手を離し、近くの壁に寄り掛かる。

そのままずる、ずると沈む様に地面に腰を下ろす。

「行きなさい、ダージリン……貴方にはまだ守らなきゃいけない子がいるでしょ」

壁に赤い線を引きながら腰を下ろしたケイさんは大きく息を吐いて言う。

「私みたいに後輩を守れない隊長になるんじゃ、ないわよ……」

「……貴方は立派な隊長だった。誰が何と言おうと、私が保証するわ」

そりゃ嬉しい、とケイさんは口元から血を流しながら笑う。

私は言う事を聞かない左足を真っ直ぐ立て、姿勢を正して敬礼する。

ケイさんも弱弱しく手を額まで上げ、互いに敬礼を交わす。

そして、私は彼女に背を向けた。



117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/13(木) 21:59:28.42 ID:YN7U3Mn80

それから、私は一心不乱に前へと進んだ。

もう完全に左足は動かない。

まるで足枷でも付けられたかの様に重くなってしまっている。

それでも、私は前に進む。

ペコの元へ……ただその思いだけを胸に秘め、私は進んだ。

残された命を守る為、私は最後まで戦う。

それが、私を救ってくれたケイさんとの約束だと思うから。



118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/13(木) 22:29:54.35 ID:YN7U3Mn80

   B2F 物資搬入用駐車場 みほ・まほside

私はさっき通ってきた蕎麦屋さんの裏口から、再び駐車場へと足を踏み入れた。

裏口の扉は複数点へこんでいる場所があり、形が歪んでいた。

私は強張る体にグッと力を込めて、薄暗く広大な駐車場へ降り立った。

ブゥゥゥゥゥゥ……。

蛍光灯に電気が通る低い音以外一切音の無い広大な空間というのはこんなに恐怖を煽るものとは思わなかった。

「お姉ちゃん……」

無意識にそう呟いていた事に気付いて、私は慌てて頭を振る。

もうお姉ちゃん一人につらい思いはさせない。

私は私の力でお姉ちゃんを支えたい。

例えお姉ちゃんに嫌われようとも。

昔お姉ちゃんがそうしてくれた様に、今度は私がお姉ちゃんを守りたい。

その為にも、この危険な偵察は何としても確かめないと。

一つだけ、もしあのアリスちゃんが私達の知る本当の愛里寿ちゃんなら、きっと応えてくれる言葉がある。

それを頼りに、私が駐車場の奥へと足を踏み出す。


突然、私の背後が暗くなった。


「ッ!?」

私の背後。

そこに人影ができたからだ。

私は反射的に後ろを振り返る。

振り返った私に、サイドテールを翻しながらアリスちゃんが飛びかかる。

「きゃあぁぁぁ!」

そして私は、成す術もないまま地面に組み敷かれた。



120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/16(日) 22:08:08.73 ID:UudMbvNn0

倒れた私のお腹に、アリスちゃんが馬乗りになる。

天井の蛍光灯が逆光になり、私の視界が白に染まる。

「いやっ!」

私は反射的に両手で顔を塞ぐが、その手をアリスちゃんに掴まれる。

完全に身動きを封じられた私に、アリスちゃんが顔を近づける。

やっぱり、お姉ちゃんの言う通り偽物だったの……!?

私はギュッと目を瞑る。

「みほ!!」

その時、私を呼ぶ声が聞こえた。

ダン! と音を立ててすぐ傍に着地した人影が私に覆い被さったアリスちゃんを突き飛ばす。

解放された私の腕をつかんだその人は、強引に自分の元へと引っ張る。

その人に抱かれる形で立ち上がった私は、困惑したまま呟く。

「お姉、ちゃん……?」

私を助けてくれたのは、まぎれもなく私のお姉ちゃんだった。

「どうして……」

「……」

正面から抱き合っている様な形になっている為、お姉ちゃんの表情が見れない。

それでも、私は腕を振り解こうとは思わない。

なんだかよく分からないけど、今はこのままの方がいい気がする。そんな気がしたから。

「……ごめん、みほ。私が間違っていた」

「お姉ちゃん……」

違う。お姉ちゃんは何も悪くない。

悪いのはお姉ちゃんに甘えていた私なのに。

「甘えているのは私の方だったんだ。みほと別れるのが怖くて、また私の前からいなくなるんじゃないかと思ったらいてもたってもいられなくて……ごめん」

「……おねえ、ちゃ」

お姉ちゃんはより一層私を強く抱きしめる。

とても懐かしい姉の温もりと匂いが、私を包む。

そして、お姉ちゃんは言った。

「どうか私をお前の傍にいさせてくれないか……もう、お姉ちゃんはお前と離れたくない」



121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/16(日) 22:27:08.80 ID:UudMbvNn0

それはまるで駄々をこねる子供の様に。

自分本位で勝手な、それでいて純粋な気持ちで放たれた言葉だった。

そして、お姉ちゃんが初めて私を求めてくれた言葉でもあった。

「……ふぇ」

私はもう、堪えることが出来なかった。

お姉ちゃんの背中に手を回し、強く、強く抱きしめる。

「お姉ちゃん……おねえちゃぁぁぁん!」

声を上げて泣く私を、お姉ちゃんは優しく抱きしめたまま撫でてくれた。

「ほんとはすごくこわがった……!」

「うん……」

「お姉ちゃんに嫌われたって、それでもって思って……でも、すごく嫌で!!」

「うん……ごめん」

「でも、わだしやっぱりお姉ちゃんと──!!」

それ以上は、言葉にならなかった。

でも、お姉ちゃんはゆっくりと頷いてくれた。

「大丈夫、私もみほと同じ気持ちだ」

本当に大切な気持ちは、ちゃんと伝わった。

言葉にしなくても確信できた。

私はそれが何よりも嬉しかった。

お姉ちゃんから鼻を啜る音が聞こえる。

私達はただ声を挙げて泣いた。

数秒か、数分か、どれくらいそうしていたかは分からない。

とにかく私達は抱き合ったまましばらくそうしていると、

ザリ、と床を掠る音が聞こえて我に返る。

お姉ちゃんが私を抱きかかえたままその身を引く。

音がした場所を見れば、丁度アリスちゃんが立ち上がるところだった。

「お願いです……どうか話をさせて」

悲痛な面持ちで訴え掛けるアリスちゃんを前にしても、お姉ちゃんの表情は変わらなかった。

「なら何故みほを襲う様な真似をした」

「それは、また逃げられてしまうと思ったからで、決してみほさんを襲うつもりなんてなかったんです!」

「……」

お姉ちゃんは黙ってアリスちゃんを見据えている。

お姉ちゃんは迷っているんだ。自分の考えと私の言葉の狭間で。

だから、ここは私がやらなきゃいけない所だ。

「お姉ちゃん」

「……みほ」

私が見上げると、お姉ちゃんは心配そうに私を見下ろす。

そんなお姉ちゃんに私は一度大きく頷く。

私を信じて。そんな思いを込めて頷いた私の意志を汲み取ってくれたのか、お姉ちゃんは少し逡巡した後ゆっくりと私から離れた。

私は一歩前に出て、アリスちゃんと対峙する。



122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/17(月) 22:52:43.51 ID:RLL11Za30

「みほさん……」

アリスちゃんが一歩前に踏み出す。

するとお姉ちゃんも牽制する様に一歩踏み出したので、アリスちゃんもそれ以上近づいては来なかった。

「……」

「……」

私を挟んで、一触即発の空気が辺りを支配する。

そんな中、私は息を大きく吸い込み、


「やぁ~ってやる、やぁ~ってやる、やぁ~ってやるぜ! イ~ヤなア~イツをボ~コボコにー!」


声高らかに歌い出した。

「ケンカは売るもの堂々と~」

「……み、みほ?」

困った様子で問いかけるお姉ちゃんを一先ず置いて、私は歌い上げる。

アリスちゃんの眼を真っ直ぐ見据えて。

アリスちゃんも突然歌い出した私に困惑した表情を浮かべている。

「come on、come on、come on、you can tihs!」

「……」

「ボコり、ボコられ、生~きていく~」

「ッ!?」

しかし、私が歌い終えた途端、その眼が大きく見開かれる。

やっぱり!

「み、みほ……? 一体、どうしてしまったんだ?」

「お姉ちゃん。このアリスちゃんは間違いなく私達の知る愛里寿ちゃんだよ!」

「……ごめん、みほ。全然わからないわ」

お姉ちゃんは頭を抱える。私は再度愛里寿ちゃんに向き直る。

「愛里寿ちゃん! 今の歌に可笑しな所があったよね! これはいつどこで誰が──」

「ボコの声優が交代する時!」

私が言い終わる前に、愛里寿ちゃんは身を乗り出して応える。

「ボコの第23回公開収録日で二代目ボコ声優さんが初めてボコの唄を収録した際に間違えて歌った時の歌詞だよね! 一番の歌詞の最後が四番の歌詞の最後と間違ってしまった時のやつ!」

「愛里寿ちゃん!」

私は両手を大きく広げる。

「みほさん!」

私の胸にアリスちゃんが飛び込んでくる。

回された腕はか弱く、とても人を持ち上げられる様な力はない。

小さな体は年相応の柔らかさをしており、強靭な肉体など一切感じさせない。

なにより、私の胸に顔を埋める愛里寿ちゃんはようやく母親を見つけた迷子の子供の様に安心した表情を浮かべていた。

「……一体、どういうことなの」

お姉ちゃんは額を覆ったまま重苦しい息を吐いたけど、私の胸にしがみつく愛里寿ちゃんを見て、やがて小さく微笑んだ。



123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/17(月) 23:02:50.45 ID:uu80JQ93o

本物が間違えられて殺される展開を期待していたのに……!



124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/17(月) 23:43:07.29 ID:hJxNXs36O

乙です。

オリジナル愛里寿は健在だったんやな。
良かった良かった。



126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/18(火) 22:40:29.53 ID:qQuAv4wQ0

「先ほどは済まなかった」

「ううん、私こそ疑われる様なことしてごめんなさい」

お姉ちゃんと愛里寿ちゃんは互いに頭を下げる。

「それにしてもみほには毎度驚かされる」

「へ?」

「私も。あんな見分け方があるなんて思い付きもしなかった」

「愛里寿ちゃんまで……私のは本当に思い付きみたいなもので、その、だから……あうぅ」

「大丈夫。あの策はとても有効な手だと思う」

愛里寿ちゃんが太鼓判を押してくれたので、私は少しだけ自信を取り戻した笑みを浮かべる。

「本当に信憑性があるのか私には分からないんだがな……」

「むぅ……お姉ちゃん」

少し頬を膨らませてお姉ちゃんを睨むと、お姉ちゃんは慌てて私から視線を逸らして咳払いする。

「それで愛里寿。君は何でここに来たんだ? 愛里寿も役人に呼び出されていたのか?」

「ううん、私はあの文科省の役人と話をしに来たの」

「話とは?」

「……私、知ってしまったんです。私の遺伝子で作られた兵器が生み出されているかもしれないって」

「それは、先ほど私達を襲った奴か」

愛里寿ちゃんは首を縦に振った。

「資料にはもう計画は動き出してるって書いてたから、まさかとは思ってたけど……気付いた時期が遅かった。もう最初のテストを実行に移していたなんて」

「テストって言うのは……今のこの環境か」

「私は直接辻さんを止めようとここに来ましたが、逆に捕らえられてしまって……自分と同じ顔をしたクローンに拘束された時はすごく怖かった」

「大丈夫だったの?」

「何とか隙を見て逃げ出せたんだけど、もう辻さんも気付いてると思う。恐らく私もみほさん達と同じ様に抹殺しようとすると思う」

「そうか……大体わかった、ありがとう」



127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/18(火) 23:02:23.61 ID:qQuAv4wQ0

「お姉ちゃん、これからどうする?」

「そうだな……」

お姉ちゃんが顎に手を当てて考えていると、

「みほさん」

愛里寿ちゃんが私の袖を引いて呼び掛けてきた。

「どうしたの愛里寿ちゃん?」

「黒森峰の副隊長は?」

「あ……」

「……」

私達は自然と俯いてしまう。

「エリカさんはね、私達を守ってくれたの……」

泣き出しそうになるのを堪えてそういうと、愛里寿ちゃんは私達の様子を見て察したのか、

「……ごめんなさい」

同じように顔を下げてしまった。

「愛里寿ちゃんが謝る事じゃないよ」

「そうだ。全てはこんなふざけた計画を思い付いたヤツの責任だ。決して許しはしない」

「……」

愛里寿ちゃんの表情は晴れることはなかった。

私とお姉ちゃんは顔を合わせて一つ頷く。

「愛里寿、先ずはここから脱出することを第一に行動しよう。先ほどこの奥に外へ通じる道を見つけた。何か鉄格子を破壊する手段さえ手に入れば出られるはずだ。それを探しに行こう」

「皆で一緒にここから出よう。ね、愛里寿ちゃん」

「……うん、ありがとう。みほさん、まほさん」

ようやく顔を上げてくれた愛里寿ちゃんの手を取り、私達は元来た道を引き返そうと踵を返した。

その時。

ギィィ……、と。

横合いの扉が、ひとりでに開いた。

「「「ッ!?!!!?」」」

竦み上がる私達を庇う様にお姉ちゃんが前に出る。

息を呑みながら開いたドアの奥に目を凝らす。

ポッカリと空いたドアの奥、深淵とも思える様な暗闇の中から、誰かがこちらに歩いてくる。


細い足に、見慣れた緑のスカート。そして白を基調としたセーラー服は私と同じ大洗女子学園の制服だ。


ゆらゆらとした足取りで、暗闇から出てきたのは──。





「……麻子さん?」



130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/19(水) 21:48:05.42 ID:zyF9FP510

「よかった! 無事だったんだね麻子さん」

そう言って麻子さんに駆け寄ろうとしたけど、お姉ちゃんがそれを制する。

「お姉ちゃん?」

「……少し様子が変だ」

お姉ちゃんに言われて視線を麻子さんに戻すと、確かに少し様子が可笑しい。

前髪の合間から見える瞳は手に持ったナイフよりも鋭く、怖い。

そしてその視線は私ではなくその隣、愛里寿ちゃんに向けられている。

「あのね! 大丈夫だよ麻子さん。この子はさっき私達を襲った子とは違う、本物の愛里寿ちゃんなの」

「……本物?」

「この子は私達を襲ったりしない。だから先ずはそのナイフを仕舞ってくれないか」

お姉ちゃんがそう言っても、麻子さんはナイフを仕舞おうとしない。

「麻子さん……?」

呼び掛けても反応はない。

代わりに、

ザリ、と麻子さんが一歩前に踏み出す。

そのまま二歩、三歩と歩み寄って来る。

奇妙な雰囲気が一転、危険な香りを放ち出した。

「聞けⅣ号操縦手。今までのアリスはあの役人が作り出したクローンなんだ。つまりこのマーケットに愛里寿は複数人いる事になる」

「……何を言ってるんだ」

「俄かには信じられないだろうが本当の事なんだ。必要ならちゃんと最初から説明しよう。だからまずは落ち着いてくれ」

「……」

「麻子さん! 大丈夫だから落ち着いて!」

「……そうか」

麻子さんの足が止まる。

ようやく安心してくれたと思い、私達は強張った体から力を抜く。

しかし、

「そんなことはどうでもいい」

「ッ!?」

状況はより困難を極めた。



131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/19(水) 22:13:36.89 ID:zyF9FP510

「アリスは沙織を殺したんだ……」

「沙織さんが……そんな……」

「その次はそど子も……もうどうやっても償えない事をしたんだそいつは」

「違うの……麻子さん違うの! 確かに許されない事だけど、この子は違うの!愛里寿ちゃんは関係ないの!」

「みほ、愛里寿を連れて下がれ」

言われて私は震える愛里寿ちゃんを連れて数歩後ろに下がる。

お姉ちゃんが麻子さんの前に立ちはだかる。

「この愛里寿はお前の友人を殺めた人物とは別だ。そんな無関係な人間を手に掛けるつもりか」

「……クローンとかいったな」

「それがどうした」

「なら、遺伝子提供者は間違いなくそいつだ。無関係でいられる訳ない。責任なら十分ある」

「何を馬鹿な事を──」

「いいからもうそこをどけぇ!!」

叫びながら麻子さんは顔を上げる。

怒りに満ちた眼は不自然に揺らぎ、犬歯を剥き出しにして荒い息を吐く。

私の知っている麻子さんとは、似ても似つかない形相だった。

「もう我慢の限界だ……いいからそいつを差し出せ!」

麻子さんがナイフを構えて駆け出す。

「くっ!」

そんな麻子さんにお姉ちゃんが飛びかかった。



132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/19(水) 23:08:08.51 ID:zyF9FP510

お姉ちゃんと麻子さんは正面からぶつかり合う。

ナイフを持つ麻子さんの手を側面から抑え付け、お姉ちゃんは必死に呼びかける。

「正気に戻れ! 何をしようとしているのか分かっているのか!?」

「眼なら冴えてる。これ以上ないって程に!」

「お願いだからやめて麻子さん!」

私も必死に声を掛けるも、麻子さんはやめようとはしてくれない。

尚も私は呼び掛ける。

元の麻子さんに戻ってくれると信じて。

「何で西住さんはやめろなんて言うんだ! 五十鈴さんも、秋山さんも、沙織も殺されたんだぞ!」

「でも、でも……!! だからって麻子さんも同じ事しちゃダメだよ! 麻子さんが人を殺すなんて絶対ダメ!」

「そう言ったそど子はそいつに殺されたんだぁ!!」

麻子さんがお姉ちゃんを突き飛ばす。

普段から鍛えているお姉ちゃんを突き飛ばすなんて、並の力じゃない。

全身を駆使した見事な体裁きを見るに、おそらく即興の技だろう。

「もう言葉で解決するなんて無理なんだ! 命を奪った奴の命を奪う事でしか終わらない!」

「そんなことしたら絶対後で後悔する! 消えない傷を一生背負うことになるぞ!」

「もうそんな幸せな人生歩める訳ないだろぉぉぉぉぉ!!」

麻子さんがお姉ちゃんに斬りかかる。

間一髪、お姉ちゃんは身を引いたが、ナイフの先端が掠ったのか、左肩の服が裂け、白い肌に一筋の赤い線が浮かび上がる。

「っ……」

「お姉ちゃん!」

肩を抑えるお姉ちゃんの前で、麻子さんは尚もナイフを構える。

「目の前で沙織を、そど子を殺されたのにこれから笑って生きていけると思うのか……? 自分に言い訳もできないんだ私は!! 自分の! 目の前で! いなくなられたんだから!」

「くっ……みほ! 愛里寿を連れて逃げるぞ!」

麻子さんのナイフを危うい所で交わしながら、お姉ちゃんは言った。

「分かった!」

私は愛里寿ちゃんの手を取って走り出す。その後ろをお姉ちゃんがついてくる。

「逃がすかぁぁぁぁ!!」

後ろから麻子さんが来る前に、私達は裏口の扉を閉める。

ドアを蹴破ろうとする音は、しなかった。

「他の出入り口から来るつもりだ……すぐに逃げるぞ」

「お姉ちゃん、怪我してる……」

「大丈夫、掠めただけだよ。それより、早く」

「うん。さぁ行こう、愛里寿ちゃん」

頷いた愛里寿ちゃんの手を引き、私達は駐車場からフードコート内へと戻って来る。

客席の合間を走り抜けていると、

ガララララァ!! と、別の店から派手な騒音を立てて麻子さんが飛び出してくるのが見えた。



133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/20(木) 00:11:42.99 ID:BtlEl2zyO

この麻子さんやばいな。
確実にハイライトオフになっているな。

ついでにSEEDも出ていそう。



134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/20(木) 02:00:30.53 ID:t3qQ4mrt0

辻…貴様には地獄すら生ぬるい



136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/20(木) 22:21:46.50 ID:SMbMZRkb0

「うあぁぁぁぁぁぁ!!」

雄叫びを上げながら麻子さんの表情は見たこともない程怒りに染まっている。

「麻子さん……っ!」

「みほ、今は引く事に徹しよう」

私達はフードコート脇の階段に逃げ込む。

階段を半分ほど上がり、手すりを持って折り返しの階段を上っていく。

私と愛里寿ちゃんを先に行かせた後、お姉ちゃんも続く。

しかし、

ガシッ!!

「ぅ!?」

手すりの下から伸びた手が、お姉ちゃんの足首を掴む。

「くそっ!」

お姉ちゃんは掴まれた左足を乱暴に振り乱す。

左右に振り回され、下から伸びた麻子さんの手は手すりに激しくぶつかる。

傍から見ても腫れ上がっていくその手は痛々しいのに、まるで離れない。

それどころか、万力の様にその手はお姉ちゃんの足を締め上げる。

「く、あぁ……」

「お姉ちゃん!」

「みほ、さ、先に──」

「行かないよ!」

遂に呻き声を上げたお姉ちゃんに私は駆け寄る。

「麻子さん! お願いだからもうやめてよ! このままじゃお姉ちゃんが──」

階下を覗き込みながらそう言った私の声は、次の瞬間には完全に消え失せていた。

麻子さんと目が合う。

壁にへばりつく様に手を伸ばす麻子さんの眼は、異常なまでに冷静だった。

その時、私は気付いてしまった。

もう麻子さんは目の前の私達を見ていないんだ。とにかくナイフを突き刺す事しか考えていない。

如何にナイフを突き刺すか、どうすればナイフを突き刺せるか。

天才と呼ばれる程優秀な麻子さんが、ただその一点だけに思慮を働かせている。

それはあまりにも危険すぎる状態だった。



137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/20(木) 22:50:04.05 ID:SMbMZRkb0

このままじゃお姉ちゃんも無事では済まない。

そう思った時、私は決意した。

「ごめん、麻子さん!」

私はその場で立ち上がると、お姉ちゃんの足を締め付ける麻子さんの手を思い切り踏み付ける。

踵の裏から伝わる生々しい感触に思わず戻しそうになる。

しかし、その甲斐あってビクともしなかった麻子さんの手がようやく離れる。

ドシャ、と階下から麻子さんが落ちた音を聞いて、私はすぐさまお姉ちゃんの肩に手を回す。

反対側に愛里寿ちゃんが入って、私達は三人で階段を上がる。

「く……」

お姉ちゃんの足首にはくっきりと紫の手形が浮かび上がっている。

「大丈夫、だ……骨は折れていない」

「お姉ちゃん……」

額に冷や汗を浮かべながらも私達を安心させようとお姉ちゃんが笑顔を浮かべる。

その優しさがとても嬉しくて、

そして見ていられなかった。

私達は階段を上り切って一階へと到着する。

正面玄関の前に出た私達はそのまま壁際まで行き、怪我をしたお姉ちゃんを座らせる。

「……お姉ちゃん」

「……どうした、みほ。こんな所で休んでいる暇はない」

お姉ちゃんが少し口調を強めて言う。

やっぱり、お姉ちゃんはすごいな。もう私の考えている事を分かってるんだもん。

「愛里寿ちゃん、お姉ちゃんの傍にいてあげて」

「み、みほさん?」

「やめるんだみほ! 一人でやろうとするんじゃない!」

「それをお姉ちゃんが言っても説得力ないよ」

私は思わず苦笑する。

「麻子さんは私の戦車の操縦手でチームメイトだもん……車長として、友達として私が何とかしないと」

「みほ……!!」

お姉ちゃんが私を掴もうと手を伸ばす。

その手は虚しく空を切る。

立ち上がった私はそのままお姉ちゃん達に背を向けて歩き出す。

私の視線の先には先ほど上がってきた階段がある。

薄暗く不気味なその階段から、

麻子さんが上がって来る。



138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/20(木) 23:09:20.88 ID:SMbMZRkb0

「……麻子さん」

麻子さんが私達の前に立つ。

もう逃げ場はない。

それを分かっているのか、麻子さんも直ぐには襲ってこなかった。

「……西住さん、あそこに転がっているのが何か分かるか?」

麻子さんがナイフを立てて示す先には、誰かが横たわっていた。

赤い水溜りの上に倒れる明るい茶髪の人物を見て、私は息を呑む。

「そう、あそこに倒れてるのは沙織だ。腹を突き破られたんだ。ついさっきまであんなにうるさかったのにな……もう一言も話さん」

「さ、おりさん……」

「最後だ、西住さん。これ以上邪魔するのなら、私はもう止まらない。私の命に掛けてそいつを殺す」

「……」



140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/24(月) 21:05:44.18 ID:eNfFNNlo0

「……どうして」

その言葉を聞いた途端、

「どうしてそんなこと言うの!」

私の頭はカッと熱くなった。

「沙織さんがそんな事を望んだの!? アリスちゃんを殺してって麻子さんにお願いしたの!? 違うでしょ!?」

「そんなことは関係ない!」

「関係あるよ! 麻子さんはただ沙織さんや園さんを奪われた怒りに身を任せてるだけ!」

「それの何が悪い!」

「そんなの沙織さん達が望んでると思うの!?」

「望んでないと何故言える!」

「解るよ!!」

私は断言する。

「沙織さんは優しくて、思いやりがあって、いつでも友達の為に行動できる人だった。園さんも厳しい所はあったけど、その何倍も自分に厳しい人だった。学園の為、皆の為により良い学園造りを、っていつも皆の事を考えてくれる人だった! そうでしょ!?」

「……やめろ」

「そんな人達が麻子さんに仇討ちなんて願うと思う?」

「やめろ」

「私達が知ってる沙織さん達はそんな事をして喜んでくれると思う?」

「やめろぉぉぉぉ!!」

私の声を掻き消す様に大声を出して、麻子さんはナイフを突きつける。

その手は大きく揺れていた。

「殺されたんだ! 沙織もそど子も殺されたんだ! 憎しみだって生まれるはずだ! 敵討ちだって願うはずだ!」

「……じゃあ、麻子さんが最後に見た二人はそんな事を願う様な顔をしていたの?」

「……ッ」

麻子さんがこれ以上ない程に苦い表情を浮かべる。

その表情を見て、私は確信した。

「……やっぱり、沙織さん達はすごい人達だね」

「違う!!」

麻子さんは慌てた様に首を振る。



141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/24(月) 22:05:07.04 ID:eNfFNNlo0

「違う! 違う違う違う! 私は、私はそいつを……そいつを殺さないといけないんだ!」

私はゆっくりと麻子さんへと向かって歩き出す。

「決めたんだ! 私がそいつを殺すと!」

「どうして?」

「殺さないといけないからだ!」

「沙織さん達はそんなこと望んでないのに?」

「それでもだ! それでもなんだッ!!」

頑なにそう言う麻子さんの前に立つ。

あとほんの数センチ前に出れば、ナイフは私の胸を貫く。そんな危険な距離だ。

お姉ちゃんと愛里寿ちゃんが息を呑んだのが聞こえた。

「……本当はもう気付いてるんだよね?」

「……殺さないと、いけないんだ」

最後に麻子さんはそう言って、

ナイフを、手放した。

からん、と空虚な音を立ててナイフが地面に落ちる。

同時に、麻子さんも崩れる様に地面に墜ちる。

まるで懺悔する様に両手を地面に付け、麻子さんは叫んだ。

「殺さないといけないんだ……じゃないと、私は二人に顔向けできない!!」

「麻子さん……」

その叫びは、今までの憎しみに囚われた声とは違う、生の感情に隠れていた本音。

「2人は私を庇って死んだんだ……こんな私なんかの為に、命を懸けてくれたんだ!」

ぽたり、ぽたりと地面に無数の雫が落ちる。

それは人が人を想って流す、大切な物だった。

私はそっと麻子さんを抱いた。

「だからせめて二人の死に意味を与えないといけないと思った。そいつを殺して、他の皆を救って、あの二人に生かされた私が殺すことでその意味を与えることが出来たらって……私なんかを助けた事にも意味があったって!」

「でも、そんな悲しい事ないよ……二人は麻子さんに生きて欲しかっただけなんだよ」

二人の願いは、麻子さんが抱いていた気持ちと、きっと同じだ。

「守りたかった……本当は、ただそれだけだったんだ」

その為に、命を懸けて命を紡いだ。

だからこそ、絡まってしまったんだ。麻子さんは。

「生きようよ、麻子さん。二人の……ううん、失ってしまった皆の気持ちをしっかりと握りしめて」

華さん、優花里さん、エリカさん。私を紡いでくれた人達の想いを抱いて、絶対にここから出るんだ。

「……あぁ、そうだな」

麻子さんが私の言葉に頷く。

私達は体を離し、二人で立ち上がろうと足に力を込める。

そんな私達の耳に、



「目標、補足」



そんな言葉が聞こえてきた。



142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/24(月) 22:30:40.78 ID:eNfFNNlo0

愛里寿ちゃんと同じ、しかし明確に違いの分かる声が、すぐ近くで聞こえて私達は一瞬にして背筋を凍らされる。

やられる……!

私がそう思った途端、

「跳べ西住さん!!」

突然そう叫んだ麻子さんに驚き、私は反射的にその場で跳び上がった。

その直後。

ブォン!! と、

周囲の壁や床に放射状の何かが展開された。

立ち上がりかけていた麻子さんが再び地面に倒れ込む。

背後ではお姉ちゃんや愛里寿ちゃんも同様に地面に這い蹲っている。

あの謎の力だとすぐに分かった。


しかし、今回は私の体に異常は見られなかった。


不審に思いながら着地すると、

「いた……!」

途端に全身をビリビリとした感覚が襲う。

まるで全身の毛をつままれたような不快感だが、今までの様に体の自由を奪われる様なことはなかった。

「これって、一体……」

ううん、詮索は後。

私は何とか麻子さんを引きずってお姉ちゃん達のいる場所へと移動する。

「み、ほ……」

「みほさ……」

自由の利かない二人に私は微笑む。

私が何とか注意を引き付けないと……。

そう思って顔を上げた私の前に、信じられない光景が広がっていた。

「……うそ」

私達の前。


そこには、数人のアリスちゃんが立っていた。



144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/25(火) 22:07:59.45 ID:6PH3jtDi0

1、2……5人。

そこには、5人のアリスちゃんが立っている。

一人だけボロボロの姿をしているアリスちゃんを中心に、通路を塞ぐ様に佇んでいる。

当然、私達に逃げ道など無かった。

お姉ちゃんも、愛里寿ちゃんも、麻子さんも動けない。

そんな中、私の取れる手段なんてあるのだろうか?

『どうやらここまでの様ですね』

愕然としている私の頭上から、声が聞こえてきた。

館内放送などを呼びかけるスピーカーからだ。

声の主はあの文科省の役員さんだ。

『随分粘りましたね……ですが流石に飽きました。そういう訳なので、もう終わりにしましょう』

目の前のアリスちゃん達の目つきが一斉に変わる。

鋭く尖った双眸が一斉に私を刺す。

「みほ……逃げてくれッ!!」

「みほさん……逃げ、て!!」

「く……」

私は皆の前に立つ。

そして、両手を大きく広げる。

私に出来ることは、これだけだった。



145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/25(火) 22:24:40.69 ID:6PH3jtDi0

『……何をしているんです?』

カメラか何かで私の行動を見ているのだろう、スピーカーから怪訝そうな声が響く。

逃げないのか?

その問いには、言外にそんな言葉が含まれているのだろう。

「……悔しいけど、私にこの状況を打破することはできません」

だから、私は言う。

言ってやる。

「でも、私の心は負けてません。ううん、負けたくない。最後の瞬間まで、私は自分の信じた生き方を貫きます」

「みほ……」

私は肩越しにお姉ちゃんに振り返る。

「それが私が見つけた戦車道だから」

「……ッ」

私の背後にいるのは、私に大切な物をくれた人達。

一緒に見つけてくれた人。

共に競い合ってくれた人。

そして、私に道を示してくれた人。

どれもかけがえのない物をくれた人達だ。

そんな人達の為に、私は胸を張って証明したい。

自分の見つけた戦車道……自分の人生を。

『……本当、愚かで理解しがたい判断だ』

スピーカーからため息が漏れる。

『それではお別れです』



147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/26(水) 21:43:22.98 ID:OfoMrQ1V0

役人さんの宣告が、館内に木霊する。

『やれ、アリス達!』

熱の籠った声が執行の合図を出した。

「「「「「……」」」」」

しかし、目の前のアリスちゃん達は一向に動き出すことはなかった。

『……? どうした、さっさと始末しないか。おい、聞いているのかアリス01、02』

アリスちゃん達の視線はいつの間にか私達から逸れている。

その視線は私達のやや左側、閉ざされた正面玄関に向けられている。

一体何が……?

そう思った時、

「ッ!」

私の耳は微かな、本当に小さな音を感知する。

それは音というよりも、振動といった方がいいかもしれない。

私達のよく知る、機械的な音だ。

『ん……何だ?』

その振動はやがて地面を揺らし始める。

比例する様にキュラキュラと鉄の擦れる音がはっきりと聞こえてくる。

近づいてくる!!

「みほ!!」

「お姉ちゃん!!」

私は両手を広げるお姉ちゃんの胸に飛び込む様に地面に倒れ込んだ。

『な……馬鹿な!?』

慌てた声がスピーカーから流れた後だった。

ドゴォォォォォォン!!!!!!

突然鳴り響いた轟音と共に、正面玄関が吹き飛んだ。



148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/26(水) 22:24:36.31 ID:OfoMrQ1V0

「くぅッ!!」「きゃぁぁぁぁ!!」「うぅぅぅぅ!!」「ぐ……ッ!!」

私達は互いの体にしがみ付いて爆風に飛ばされない様に丸くなる。

圧倒的な暴風はアリスちゃん達も容赦なく巻き込み、一気に吹き飛ばしていく。

4人のアリスちゃんは成す術もなく吹き飛んでいった。しかし、真ん中の一人、ボロボロのアリスちゃんだけはまるで足を床と引っ付けたようにビクともしなかった。

瓦礫と硝煙ではっきりとは見えなかったが、何か青白い空間がアリスちゃんを包んでいたように私には見えた。

辺りに静けさが戻る。

すっかり視界の悪くなった玄関前で私達はのろのろと立ち上がる。

訳が分からないまま音の発信源である正面玄関に視線を移すと、そこにはポッカリと大きな空洞が出来ていた。

溶接され、分厚く頑丈な鉄の障壁となっていたシャッターは穿たれ、その穴を押し広げる様に一台の機械が入ってきた。

カタカタと愛らしいと言われているキャタピラがこんなにカッコよく見えたのはきっと初めてだ。

薄らと白煙を吐く砲身もどこかと頼もしく感じる。

「……お姉ちゃん」

「あぁ……」

私達の目の前に現れたのは、紛れもなく戦車だった。

迷彩色の流麗なフォルム、隙の無い装甲に120mm滑腔砲を搭載したこれは、10式戦車だ。

「どうしてこんなところに戦車が……?」

愛里寿ちゃんはそう言って首を傾げるけど、私とお姉ちゃんにはすぐに理解できた。

正面からこんな無茶を突き通す人物は、一人しか知らない。

その人物が、キューポラから体を出す。

戦車の上に立った人物は、鋭い視線で前を見据える。

その人物を見上げながら、私は呟く。

「……お母さん」

私達を助けてくれたのは、西住流家元であり、私とお姉ちゃんの母親でもある西住しほその人だった。



149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/27(木) 21:57:06.49 ID:50/ictxw0

私の声が聞こえたのか、お母さんはハッとこちらに振り返る。

「みほ……」

一瞬、お母さんの鋭い視線が揺らいだ気がした。

しかし、それは私の勘違いだろうか。お母さんはいつもの凛々しい顔つきで言う。

「……無事でしたか。まほも、ちゃんと生きていますね」

「お母様……」

「怪我をしている足を伸ばしなさい。楽にしていればいずれ痛みも引くはずよ」

一目見ただけでお姉ちゃんの怪我を診断した後、颯爽と翻る。

動きがはっきりとしていて、堂々としている。

お母さんの背中は、とても大きく見えた。

「あれがプロト・アリスね。聞いていた話とは様子が違う様だけど」

「恐らく暴走しているのではないでしょうか」

お母さんの声に応えたのは、戦車のキューポラから顔を出した蝶野亜美教官だ。

「ただでさえU細胞で体を強化されているのに、厄介ですね……何をしてくるか分かりませんよ」

「先を急ぎましょう。これ以上一人だって犠牲を出させる訳にはいかないわ」

お母さんは悠然と戦車の前に出る。

前に出たお母さんに、アリスちゃんが飛びかかる。

砲弾の様に飛び出したアリスちゃんが、一直線にお母さんに接近する。

「お母さん危ない!」

私は思わず叫ぶ。

しかし、アリスちゃんが今まさにお母さんと衝突するという瞬間、アリスちゃんの体はまるで弾かれた様に後方に流れた。

勢いを落とさないまま逸れたアリスちゃんはお母さんの左後ろの壁に衝突し、そのままずり落ちる。

すかさず蝶野教官がネットを放出し、アリスちゃんを捕らえる。

「軍で開発された特殊捕獲ネットよ。耐久、対刃、そして耐電性能をそろえた優れ物よ」

得意気に蝶野教官が言うも、私達の意識はお母さんに釘付けだ。

物凄い速さで突っ込んできたアリスちゃんを、お母さんは腕を振るうだけで退けた……様に、私には見えた。

余りの速さにはっきりと見えた訳じゃないから何とも言えないけど、とにかく思ったのは、

「今のは、一体……?」

隣にいるお姉ちゃんの言う通り、訳が分からなかった。



150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/27(木) 22:43:19.12 ID:50/ictxw0

「昔の先祖から伝えられている西住流の戦車外戦闘術の一つです。もうこの時代には不要と判して教えませんでしたが、考えを改める必要がありそうね」

そんなものがあったなんて、知らなかった。

「他のプロトタイプは個々に散らばったようですね。恐らく辻の指示でしょう」

「ここで彼を捕らえます。周囲の包囲網は?」

「問題ありません。10式戦車隊で完全に包囲しています。周囲五キロ内は完全に私達の支配下です」

「結構、スピーカーの回線特定急いで頂戴」

「了解」

目まぐるしく変わる状況に、私達は全く対応できないでいた。

呆然としている私達に気付いたお母さんが、つかつかとこちらに向かってくる。

私とお姉ちゃんはドキドキしながら待っていると、

ひし、と。

突然、私達はお母さんの腕の中に迎えられた。

「……無事で安心しました」

「お母様……」

「お母さん……」

懐かしいお母さんの匂いに、じんわりと心が温かくなる。

「どうしてここが……?」

「以前から文科省、というよりはあの辻という役員ね。彼が不審な動きをしているのを聞かされていたの。警戒はしていましたが儀装の書類で戦車道生徒を集めていると気付いたのはつい先ほどです。早急に集められるだけの戦力を整えてきましたが……遅すぎたわね」

お母さんは周囲の惨状を眺めながら、深く目を閉じる。

あちこちが荒れ果て、通路の向こうでは無造作に沙織さんが倒れている。

「既に別働隊が館内で生存者の救助を開始しているはずです。貴方達は先に外の救護車に避難しておきなさい」

「お母さんは?」

「私は首謀者を取り押さえに行きます……私はその為に来ました」

お母さんはどこか悲しそうに眉を下げる。

「みほさん……」

愛里寿ちゃんが私を見上げる。

愛里寿ちゃんの言いたいことは、すぐに理解できた。

私も直ぐに頷き、お母さんに向き直る。

「お母さん、私達も一緒に連れて行って」



151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/27(木) 23:07:58.05 ID:50/ictxw0

「ダメよ」

「私達は知りたいの。何でこんなことになったのか……大切な友達を失った理由を、ちゃんと分かりたい……だから、お願い」

「……」

お母さんは暫く私をジッと見た後、隣の愛里寿ちゃんにも視線を移す。

そして、

「いいでしょう。真実を知る覚悟があるのなら、ついてきなさい」

「うん……ありがとう、お母さん」

私が一歩前に出ようとした時、お姉ちゃんも一緒に前に出る。

「お姉ちゃん……」

「一人で行かせるわけないだろう」

「……うん。一緒に行こう、お姉ちゃん」

「私も行くぞ」

麻子さんも私達の横に並び立つ。

「私も、最後まで知りたい」

「麻子さん……」

「では、わたくしもご一緒させてもらおうかしら?」

「え?」

突然声がしたと思ったら、戦車の影から人影が出てきた。

金の髪を編み込んだ髪型の少女に、私達は驚きの声を上げる。

「ダージリンさん!?」

「無事だったか、ダージリン」

「とても優雅とは言えませんけどね」

とにかく、これで揃った。

私とお姉ちゃん。

愛里寿ちゃんと麻子さん、そしてダージリンさん。

私達を見回した後、お母さんはため息をつく。

「……蝶野さん」

「たった今特定終了しました」

「結構」

お母さんは踵を返す。

「最後の前進よ。戦車道女子として、胸を張って歩きなさい」

「「「「「はい!!」」」」」

お母さんの言葉と共に、私達は歩き出す。

全てに決着を付ける為に。



153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/29(土) 20:57:10.57 ID:rQetn6Gp0

蝶野さんが特定した場所を聞いた後、蝶野さんと戦車は建物の外から目的地へ向かう事になった。

お母さんと私達は建物の内部からその場所へ向かう。

道中、アリスちゃんとの戦いがあったと思われる場所をいくつも見た。

その結果、命を落としてしまった皆の姿も……。

「皆さん、本当に勇敢に戦いましたわ……私はそんな彼女達のお蔭で生きています」

麻子さんと愛里寿ちゃんに支えられながら、ダージリンさんは言う。

ダージリンさんの左足はお姉ちゃん以上に赤黒く、深刻な傷を負っていることがハッキリと分かる。

「……私もだ。沙織やそど子のお陰で生きている。二人から託されたものがあまりにも大きくて、私は逃げ出そうとしてた」

「麻子さん……」

「前を向きなさい、冷泉麻子さん」

そう声を掛けたのは、以外にも先頭を行くお母さんだ。

「貴方はそれでも気付いた。二人に託された物をしっかりと受け止めたのなら、次はその命を誇りなさい。二人がつないだその命を何よりの矜持にして、大切に時を刻むの。それが託された者の責務よ」

「託された者の、責務……」

お母さんの言葉を、私は一人反芻する。

以前、私がお母さんに言われた言葉が蘇る。

『犠牲無くして、大きな勝利を得ることはできないのです』

その時、私はなんて悲しい事を言うんだろうと思った。

仲間を見捨てようとも、ただ勝利を掴むことだけを考える。

勝利のためにはどんな犠牲を払っても構わない。当時の私にはそう言われている様にしか思えなかった。

だから、そんな考えの西住流を恐れた。

お姉ちゃんやお母さんを恐れた。

でも、それは違うんだってことが、大洗の皆のおかげで分かった。

犠牲を許容したんじゃない。

同じ夢を達成する為に、倒れていった者の意志を背負い、前に進む。

きっと、それが西住流なんだって、私は考える様になった。

今まで確証がなくてハッキリとした気持ちでそう思う事は出来なかったけど、

「それが、私達の道なんだね」

今、私はハッキリと口にする。

「みほ……」

お姉ちゃんは驚いた様に目を見開いた後、嬉しそうに微笑んだ。

お母さんは振り向かない。

尚も前を見て歩くだけだ。

私はそんなお母さんの背中が、とてもかっこよく見えた。

「……全く、貴方はいつも遅いのよ」

「え?」

「何でもありません」

お母さんが何かを呟いた様に聞こえたんだけど、うまく聞き取れなかった。

「それより、そろそろ目的地に着くわよ。各自気持ちを引き締めなさい」

私達の前には最上階である立体駐車場へ続く階段がある。

全ての決着をつける為、私達はその階段へ足を掛けた。



154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/29(土) 21:41:22.08 ID:rQetn6Gp0

屋上の駐車場へ出る扉は、既に壊されていた。

ドアの向こうに武装して立つ蝶野さんが扉を開く。

「既に包囲は完了していますが、周囲にはプロトタイプ達が構えています」

屋上に出ると、辺りは既に真っ暗闇だ。

いくつもの照明によって周囲は見えるが、その先は一面の黒で塗りたくられた様に見えない。

屋上の一部に、照明が多く照らされている場所がある。

プレハブ小屋程度の大きさをしたその建物の端には制御室と書かれたプレートが張ってある。

「あそこね」

「どうしますか家元」

「相手に時間を与えたくないわ。一気に突っ込みます。貴方達、走るわよ」

「でも、ダージリンさんが……」

「構わなくてよ」

「無理をするなダージリン。その足じゃ厳しいだろう」

お姉ちゃんがそう言うけど、ダージリンさんは引く気はない様で、

「貴方も似た様なものでしょ? ここで指をくわえて待てるほど、私はか弱くないの」

「いいのか? 足を引きずりながら走る姿は優雅じゃないぞ」

「やるべきことを投げ出す程無様なものはないわ」

「……ふっ、そうだな」

それ以上口を挟む者はいない事を確認して、蝶野さんは声を上げる。

「周囲のプロトタイプは私達が何とかします。皆は一直線に進むのよ!」

「「「「「「はい!」」」」」」

「それじゃあ皆……突撃ィ!!」

蝶野さんの合図で、私達は制御室の扉へと一斉に走り出す。

周囲を固めていたアリスちゃん達が振り返る。

しかし、周囲に構えていた蝶野さんの部下たちが発砲したゴム弾のおかげで道が開ける。

何とか無事に制御室にたどり着き、お母さんがドアノブを捻る。

以外にも、扉にカギは掛かっていなかった。

「入りなさい!」

お母さんが扉を開いた先に、皆を入れる。

最後にお母さんが内側に入り、ドアを閉めようとした時、

ガチャン!! と、ドアの隙間にアリスちゃんが飛び込んできた。



155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/29(土) 21:53:24.13 ID:rQetn6Gp0

「きゃあ!」

半身だけ内側に潜り込んできたアリスちゃんが目の前の私を掴もうと手を伸ばす。

「くっ!」

そのアリスちゃんの腕を、お母さんが掴む。更にその腕をアリスちゃんが掴んだ。

「お母さん!」

「奥の奴に気を付けるのよみほ! 決して油断しない様に!」

そのままお母さんはアリスちゃんに引っ張られる様に外へ投げ出された。

「お母様!」

「お母さん!」

バタン!と勢いよく扉が閉まる。

「……お母さん」

「しっかりなさって二人とも。貴方達のお母様ならきっと無事よ」

「周りには蝶野教官達がいる。そう簡単にやられたりしないだろう」

外からは銃声が幾つも聞こえる。

私達がここで立ち止まっている暇は一秒だってない。

「……行こう、みほ」

「……うん。行こう、お姉ちゃん」

私達は手を繋いで立ち上がる。

何の機械か分からない機材に挟まれた通路を奥に進むと、階下へ続く階段が現れた。

私達は一度顔を見合わせた後、ゆっくりとその階段を下る。

階段を下り終えると、そこは建物内の裏側、つまり従業員用の通路に繋がっていた。

前方はいくつもの資材の山で塞がれている為、私達は後ろへ続く道を進む。

薄暗い通路は直ぐに終わった。

目の前には一つの扉があり、上部にはモニタールームの文字が書いてある。

「この先に、あの眼鏡がいるのか」

麻子さんの瞳が怪しく光る。

「……行こう」

私と繋ぐお姉ちゃんの手に、力が籠もる。

応える様に私も握り返すと、強張ったお姉ちゃんの表情が少しだけ和らいだ。

私とお姉ちゃんはゆっくりと両開きの扉を開け、その奥へと足を踏み入れた。



156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/29(土) 22:34:41.25 ID:rQetn6Gp0

最初に目に入ったのは、いくつも光るモニターだった。

無数のモニターの中には、地面に倒れた生徒会の人達やサンダースのナオミさんやアリサさんの姿が見える。

カエサルさんやカチューシャさんの遺体は既に救護班が丁重に運び出してくれたと聞いた。

怪我人をしたらしいオレンジペコさんや梓ちゃんも無事に救助されたとダージリンさんが言っていたけど、まだ全員を救助するには時間が掛かるのかもしれない。

私達はそのモニターの下で慌ただしく資料を纏めている人物に声を掛ける。

「動くな!」

お姉ちゃんが手に持った銃を役人さんに向ける。

自前にお母さんから渡されていた物だ。

弾は鎮圧用のゴム弾を装填している。

お姉ちゃんに続いて、皆も同じ様に銃を構える。

しかし、そんな事情を知らない役人さんは、

「ひ、ひいぃ!? やめろ! 撃たないでくれ!」

手を上げて降参のポーズを取る。

しかし。

ズガァン!!

「あがぁ!!」

一つの銃声と同時に、役人さんが倒れる。

「いくら何でも都合がよすぎるだろ、お前」

痛みに悶える役人さんの傍に立ち、麻子さんが言う。

「何人の命を奪ったと思ってるんだ? 私が知っている分だけでも教えてやろうか」

ズガァン!! と再び銃声が炸裂する。

役員さんの体が、大きく跳ねる。

「まずは武部沙織、私の幼馴染で口うるさいけどいなきゃ調子が狂う、大事な奴だった」

ズガァン!!

「あッッがッッッッ!!」

「次にそど子……結局、最後まで名前で呼んでやれなかった」

「も……もう、やめてくれ……頼むぅ」

「ふざけるな……他にもたくさん死んだ事を聞いたぞ!! こんな痛みくらいで何言ってんだ!!」

ズガン!!

ズガン!!

力任せにトリガーを引く麻子さんに、私とお姉ちゃんが駆け寄る。

「もういい、これ以上はやめておけ」

「麻子さんの気持ちは十分わかったから……今は我慢しよう」

「はぁ、はぁ……済まない、私はまた……」

「大丈夫、大丈夫だよ」

安心させる様にそう言うと、麻子さんは少しずつ呼吸を整えていった。

愛里寿ちゃんはぴくぴくと痙攣する役人さんを見下ろし、

「……大丈夫。気絶してるだけみたい」

そう言って一度役人さんの背中を蹴り上げた。



157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/29(土) 22:42:45.21 ID:oQ0ndmTao

最後の蹴り上げはご褒美



158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/29(土) 23:05:23.47 ID:Q42bYmqu0

ざまあwwwwwwwww



159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/29(土) 23:14:49.26 ID:rQetn6Gp0

「これで終わったんだな……」

麻子さんがポツリとつぶやいた。

しかし、

「……ううん、まだ終わってないよ」

愛里寿ちゃんは、静かにそう言った。

「まだ終わってないって、どういう事?」

「……この事件の真犯人は、この人じゃない」

愛里寿ちゃんは役人さんを見下ろしながら言う。

「この人は計画の実行者だろう」

「でも指導者じゃない。この人はあくまで上からの指示で動いていたの」

「……そういうことか」

お姉ちゃんが納得した様に頷く。

しかし、顔色は謎が晴れた時の爽快感など一切ない。

むしろ、最悪の事実に気付いてしまった時の様な苦しそうな表情になっている。

事実、私もその最悪の事実に気付いてしまった。

「説明、していただけるかしら」

事情を知らないダージリンさんと麻子さんが、愛里寿ちゃんの方を向く。

「私は知ってしまったんです。私の遺伝子で作られた兵器がある事に……それを止める為、私はここに来ました」

ずっと気にはなっていた。


愛里寿ちゃんは一体、どこでそんな情報を手に入れたのかと。


こんな危険を知ったなら、普通は警察など、そういった機関に知らせるのが道理。

しかし、愛里寿ちゃんは態々自分の足で動いた。

あれだけ優秀な戦車乗りの愛里寿ちゃんがそんな簡単な事実に気付かなかった訳はない。

だとすれば、考えられるのは一つ。

【自分が動くことで事態を変えられる可能性がある人物】が相手だからだ。

愛里寿ちゃんがそう思える相手という事は──。

「だから」

愛里寿ちゃんはモニターの方に振り返り、言う。


「もうこんな事は止めましょう……お母様!」


暫くの静寂の後。

モニターの後ろから、人影が出てくる。

赤いドレススーツに身を包んだ女性──島田流家元、島田千代さんが私達の前に現れた。



163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/01(火) 21:41:29.51 ID:oDxvGKrZ0

「そんな……島田流家元がこの事件の首謀者だというの!?」

ダージリンさんが口に手を当てて驚く。

麻子さんからピリリとした雰囲気が漂う。

「……まさかこれほどの者とはね。さすがは西住流……いいえ、戦車道女子といった方がいいかしら」

「島田流ともあろう方が、どうして……」

お姉ちゃんの問いに、千代さんは小さく微笑む。

「どうして、か……そうね。どうしてかしら」

「ふざけていると容赦はしない!」

麻子さんが銃口を千代さんに向ける。

表情は今にも爆発しそうな怒りに染め上げられている。

「散々人の命を弄んだんだ。さぞ崇高な理由があるんだろうな……」

「……若いわねぇ」

「ッッッ!!」

「麻子さんダメ!」

今にもトリガーを引こうとする麻子さんの手を横から引っ張る。

「離してくれ西住さん! こいつは……こいつだけはッ!!」

「愛里寿ちゃんの前でそんなことしちゃダメだよ! お母さんなんだよ!?」

「でも、だって……ッ!!」

「お母さん……ちゃんと答えてください! 何でこんなことを!?」

「愛里寿、貴方が何でここにいるの?」

「母の書斎で偶然この計画の資料を見てしまったんです。演習の資料に判を貰おうと思って出向いたんですがいなかったので……」

「ハンコを探している内に、ってことか……あらあら、私もすっかり老いたわね」

「全くだ、この大バカ者め」

背後から声がして振り返ると、そこにはお母さんの姿があった。

スーツは所々汚れ、右手を庇う様に立つ姿は痛々しいが、それでも胸を張っているお母さんに私は心から安堵する。

「今更申し開きを聞くつもりはない。だが……この娘たちの為に敢えて問います。なぜこんなことをしたの」



164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/01(火) 22:25:25.98 ID:oDxvGKrZ0

千代さんは傍のモニター台をそっと撫でる。

そこには小さなボコのぬいぐるみが置いてあった。

確かあれは数年前に発売された古いシリーズの物だったはず。

何故そんな物が? 私が首を傾げていると、

「……最初はただの興味本位でしかなかった」

千代さんが静かに話し出した。

「愛里寿が十歳の時に行った定期健診の結果で話したいことがあると、私は病院側から呼び出された。そこで私は愛里寿が人よりも特異な体質である事を知ったの」

「得意な体質?」

「人は体から微弱な電磁波を放っているのをしっているかしら。愛里寿は生まれつきそれに強い耐性を持っているらしくてね、稀有な体質だと驚かれていたわ」

「……それがどうした」

「話はこれからよ。その帰り道、私は一人の人物に声を掛けられた。何でもその人は新薬を研究している科学者らしくて、耐電性質を持つ愛里寿の細胞を研究したいと言われたの。断ろうと思ってたけど、話を聞くうちになんだかおもしろそうなことを試すみたいで、少し興味が湧いてきたの」

「それが、私のクローン?」

「あの娘達はそんな単純な存在じゃないわ愛里寿。あの娘達の身体能力を見たでしょ? あれは電磁波を意図的に操作して筋肉を最大限に活用しているのよ」

聞いた事がある。

人間は自身のポテンシャルの三割ほどの力しか使用できない、らしい。

「それだけじゃないわ。電磁波を体外に放出する事で周囲の人間の行動も阻害することが出来るの。その凄さは貴方達もよく知っているでしょ?」

何処か嬉々とした様子で語る千代さんに、私は背筋が凍る想いを抱く。

「直接触れて電磁波を流し込めば心臓を止めることだって出来る……あの娘達はどんな武器や戦力よりも安全で、強力な力となれるのよ!」

両手を広げてそう言い放つ千代さんの真意が理解できないのだろう、愛里寿ちゃんは首を横に振る。

「何を、言ってるのお母様……」

「心配しないでいいのよ愛里寿……全部お母さんに任せなさい。私達は戦車道なんて小さな競技の枠には収まらない、もっと巨大な組織になれるの。それこそ、世界を股に掛ける様な巨大な──」

「もうやめてお母様!!」

愛里寿ちゃんの叫び声が、狭い室内に反響する。



165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/01(火) 23:15:51.30 ID:oDxvGKrZ0

「巨大な組織って……なんですか? 強力な力って、なんですか? そんなの、なんで必要なんですか……」

「……」

「そんな事の為に、皆の命を奪ったの!? 答えてお母様!」

「……」

千代さんは静かに顔を伏せた後、再び顔を上げて言う。

「えぇ、そうよ」

「ッ!?」

ハッキリと言われた愛里寿ちゃんは、その場でぺたりと座り込んでしまう。

「……ひどすぎる」

「西住流がいる限り、私達島田流はいつまでも日陰者なの。貴方もそれは分かっているはずよ。島田流は忍者、こそこそ小手先の妙技ばかりの姑息な流派だと罵られ、西住流は王者の戦いだ何だと崇められる屈辱を!」

「……」

「私達には力が必要なの! 誰にも負けない、有無も言わせない強大な力が!」

「もうやめておけ」

見かねたお母さんが止めに入る。

「それ以上娘に醜態を晒すな」

「……醜態とは、また随分な言い方ね。西住流家元」

「貴方の言い分は理解しました島田流家元。これ以上この場で聞くべきことはありません。素直に投降、していただけますね?」

「投降……投降、ねぇ」

千代さんはモニター台に置いていたボコのぬいぐるみに手を伸ばす。

「愛里寿……出来ればあなただけは巻き込みたくなかったのだけれど──」

「ッ!? やめなさい千代!!」

お母さんが慌てて声を上げるけど、


「これも運命、なのかしらね」


千代さんはボコのぬいぐるみのお腹を強く押し込んだ。

カチ、という軽い音が鳴る。

直後。

ズズン!! と大きな地鳴りが私達を襲った。




168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/06(日) 20:42:06.85 ID:fzqbpK/40

「きゃあ!」

「みほ!」

バランスを崩した私を、お姉ちゃんが支えてくれる。

揺れは尚も続いていて、心なしか重心が左に引っ張られる様な感覚がする。

「戦車道合同講習会中に謎の事故で建物が崩落、悲しい事にその場に居合わせた全生徒が事故の犠牲になってしまった……そういう筋書きの予定だったのだけれどね」

「……センスの良いシナリオではありませんわね」

「全くだ」

ダージリンさんの言葉に、麻子さんも頷く。

「そうかしら? 私は穿った物語も嫌いじゃないけど」

「何をしたの、島田流家元」

「この建物を支える柱を破壊したのよ。残りの柱が折れるのはもう時間の問題。こんな所で私の相手をしていていいのかしら、西住流家元さん」

お母さんは厳しい目線を千代さんに向ける。けどすぐに耳に嵌めてあるインカムに向けて話す。

「蝶野さん、中の常夫さん達から連絡は!? ……分かったわ。ならば今すぐ全員をこの建物から即時退避させて。この建物は数分で崩れ去るわ」

素早くそう指示をした後、お母さんはこちらに向き直り、

「まほ、皆を連れて脱出しなさい。ここを出て真っ直ぐ進めば車輛用のスロープがあります。それを渡れば直ぐに外へ出られるはずよ」

「お母様も一緒に!」

「お母さん!」

「私はまだやるべきことがあります。私の問題に貴方達は巻き込めない」

ズズン!! と一際大きな揺れが私達を襲う。

「もはや一刻の猶予もありません、急ぎなさい」

「しかし……ッ!」

「お母さん……」

「……ありがとう、二人とも。こんな母でも心配してくれるのね」

お母さんが私達の頬を撫でる。

それは幼い頃、まだ戦車の事を教わる前に知っていた温もりだった。

あの時と同じ、何も変わらない温もりがそこにはあった。

「さぁ、早く行きなさい。手遅れになる前に!」

お母さんの言葉に、私とお姉ちゃんは互いに顔を見合わせて頷く。

「……はい!」

「絶対に帰ってきて、お母さん」

私とお姉ちゃんは一度お母さんをギュッと抱き締めた後、その脇をすり抜ける。

ダージリンさんと麻子さんがその後に続く。

「お母様……」

「……行きなさい愛里寿。貴方はちゃんと生きるのよ」

愛里寿ちゃんがどんな表情をしているのか、後ろにいる私には分からなかった。

大好きなお母さんと別れが悲しくない訳がない。

それでも、愛里寿ちゃんは一度目元を強く擦った後、

「さようなら、お母様」

勢いよくこちらに振り返り、走り出した。

最後に一度、私はお母さんへと視線を移す。

お母さんは肩越しに小さく頷く。

同じ様に頷き返し、私はお姉ちゃんと一緒に部屋を飛び出した。



169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/06(日) 21:33:47.10 ID:fzqbpK/40

「……娘さんと随分仲良くなったのね」

みほ達を無事に見送った後、私は再度島田流家元、島田千代へ向き直る。

「娘は娘のやり方で己の道を示したのよ。認めてあげなくては戦車道女子としての私が泣くわ」

「……そうね、貴方はいつもそうやってただ愚直に突き進む」

「揺るがず、疑わず、信念をもって前に進む。それが私。それが西住流よ」

「偽りなく生きれる貴方がずっと憎かった……そして同時に羨ましかった」

「……」

「貴方みたいな生き方をしていれば、偽りだらけの私の人生も少しは違っていたのかしら」

「……本当、馬鹿ね。貴方は」

私は盛大にため息をつく。

「自分の娘のクローンを作り出し、世界を股に掛ける強大な力を手に入れる。その為の実験に戦車道履修者を秘密裏に殺す計画を立てた、か……」

そして、ずっと黙っていた事を口にする。



「そんな嘘八百で私を騙せると思ったの?」



私の言葉に、千代は驚いた様に目を見張る。

しかし、次の瞬間には納得した様子で微笑んでいた。

「……やっぱり、貴方には通用しなかったわね、しぽりん」

「私を誰だと思っているの、ばかちよ」

「どこから気付いてたの?」

「貴方が内の学校の副隊長に要らぬちょっかいを掛けている時からよ」

「ほとんど最初からじゃない」

「内容までは把握していなかったわ。でも、精神的にまだ未熟な彼女を唆(そそのか)してる貴方には目を光らせていたけど」

私の息が掛かっている黒森峰に儀装書類を送れば見つかるリスクは高い。

恐らくそれを見越した千代が内部に協力者を作ろうとして選ばれたのが彼女、逸見エリカだろう。

「あの娘は私に似ている所があったから、気持ちを共有するのはとても簡単だったわ……西住の下に就くのがどれだけ大変か、私もよーく知っていたし」

「そんなだからやり方が姑息とか言われるのよ、いい加減気付きなさい」

ズガシャア!!

再び建物が大きく沈む。

それと同時に、漏れ出したガスが引火したのか、背後の扉の向こうでは赤い波が揺らめき、じわじわと熱気が押し寄せている。

「私は嘘に染まりすぎたのよ……もう今更貴方みたいな道は歩めないわ」

「……教えなさい、ちよきち。こんな非道を起こしてまで貴方は何を成したかったの」

「……」

千代は答えない。

しかし、問い掛けておいてなんだが、私は既に凡その答えを知っていた。

「愛里寿ちゃんの事なんでしょ?」

「……ッ」

千代の表情は変わらない……と、普通の人ならそう思うだろう。

でも、私にはハッキリ分かった。



170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/06(日) 22:32:57.31 ID:fzqbpK/40

千代は暫く黙って俯いていたが、やがてため息と共に顔を上げた。

「……さっき言った事は全部本当よ。あの娘は特殊な体質だし、その力を利用しようとする科学者に協力したのも事実」

それはあの強力なクローン達が証明している。

犯罪に加担したのは疑いようもない事実だ。

「それで……その見返りに、何を求めたの?」

恐らく、そこにすべての答えが詰まっている。

私はそう確信していた。

だからこそ、私はここに残った。

本人の全てを掛けた、千代の意志を知る為に。

そして、きっとそれは私の知る千代の想いであると信じて。

「……あの娘は」

言葉に詰まったのか、千代は口を開いては閉じて、を繰り返す。

それでも、彼女は苦しそうに迷い、悩んだ後、

「私は……あの娘を助けたかったのッ!!」

ついに、彼女は遂に気持ちをさらけ出してくれた。

「あの娘は特殊な体質だけど、それに耐えられるだけの体は持ってないの。当たり前じゃない、あの娘は普通の女の子、ただの私の可愛い娘なんだから!」

「ちよきち……」

「このままだとあの娘は寿命が尽きる前に自身の電磁波に肌を焼かれて死ぬって言われたわ。何とかするためにはクローンを用いた実験が必要だって! 拒否権なんか最初から無かったのよ!」

なんて居た堪れない話なんだ……。

「だから私は悪魔になる覚悟を決めたの。たとえ世界の全てに背いてでも、あの娘を助ける為なら何だってやると!」

娘を想う気持ちが、千代を狂わせたなんて。

「自分の行いを正当化する気なんて最初からないわ。だからこの話は墓場まで持っていくつもりだったのに……貴方はいつも無遠慮に踏み込んでくる!」

私は額を覆う。

そうしないと表情が崩れてしまいそうだったから。

「これが全部よ。私の全てを掛けた人生の、最後の物語よ」

「……」

娘を想う気持ちが、なぜこんな結果になってしまうんだ。

「千代、貴方のやったことは決して許される事じゃないわ」

本当に、嫌になってしまう出来事だ。

それでも。

「でも、娘を想う貴方を、私は誇らしく思う」

彼女の人生に、価値がなかったと私には言えない。

例え世界の全てが否定しようと、私は彼女の本当の想いに敬意を払う。

「……もう行きなさい。貴方には帰る場所があるでしょ」

その言葉を最後に、千代は背を向ける。

これ以上話す事は、もうなかった。

私も千代に背を向け、歩きだす。

ついでに床で転がっている役人を担ぎ、私は扉の前に立つ。

炎はもうすぐそこまで迫っていた。



171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/06(日) 22:45:09.76 ID:fzqbpK/40

「千代……」

何を言おうとしたのかは、私にもわからない。

ただ、何かを告げようとした私の言葉は、バゴン!! と激しい破砕音を立てて燃えるモニターの爆発によって遮られる。

反射的に額を覆った私の脇を、

「ッ!?」

何かが擦り抜けた。

視線を再び千代に向けると、千代の周囲にはプロトタイプ達の姿があった。

業火に包まれる部屋の中で千代を囲う様に立つ彼女達は皆千代を見上げている。

そんなプロトタイプ達を、千代は優しく抱きしめた。

直後、再び大きな爆発が部屋の中を包み込んだ。

「……さようなら」

火中の戦友にそう告げて、私は歩き出す。

彼女が歩みたかった道を、胸を張って進んでいく。

後ろはもう、振り返らなかった。



172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/06(日) 23:52:19.85 ID:P2tev5c9O

乙です。

千代さんにも千代さんなりの考え方が有ったのが。
但し、犠牲が大きすぎた…な。



174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/08(火) 19:57:03.49 ID:tqAsUbRa0

「急いで! 今にも崩れそうよ!」

駐車場に出ると、蝶野さんが私達に手を振っているのが見えた。

部下の人達や戦車は先に脱出したのだろう。その場には蝶野さんしかいなかった。

「家元は!?」

「まだやり残したことがある、と」

「……そう、分かったわ。ならすぐにここを離れるわよ。しっかりついてきて!」

「「「はい!」」」

蝶野さんを筆頭に、ダージリンさんと麻子さん、愛里寿ちゃんと続き、最後尾に私とお姉ちゃんが走る。

「くっ……」

途中、ダージリンさんが呻き声を上げて足を止めそうになる。

見れば、ダージリンさんの足は既に限界を迎えていた。血の気は失せ、白い肌が一層不気味に白んでいる。

「少し失礼するわね!」

「きゃ……ッ!?」

すかさず蝶野さんがダージリンさんを抱き上げる。

「しっかり掴まっているのよ!」

「お、お願いしますわ」

ダージリンさんを抱き上げたまま、蝶野さんは先ほどよりも速度を上げて走り出す。

そうして進んでいくと、やがて目の前に白いスロープが見えてきた。

「あそこを下れば建物の外へと直接出れるわ! もう少しだけ頑張って!」

蝶野さんの声に励まされ、私達はスロープへと最後の力を振り絞って走り抜けた。

緩いカーブのスロープを抜けると、後は大きく長い下り坂だけだ。

ここを下りれば、建物の外へと出られる。

私達は息をつく間もなく走り出す。

そして、下り坂を半ば程下った時だった。

ドゴォン!! と、激しい爆発音とともに、周囲が激しく揺れる。

「マズイ……!! 本格的に崩れ始めた!!」

ぐわん、ぐわんと左右に揺さぶられるスロープに這い蹲りながら、私達は何とか揺れをやり過ごそうと耐える。

しかし。

ビキリ、と嫌な音が鼓膜を叩く。

それは私の真下から聞こえてきた。

「みほ!!」

咄嗟にお姉ちゃんが手を差し伸べる。その手にしがみ付く様に、私はお姉ちゃんへ向かって勢いよく飛びこんだ。

直後、ついさっきまで私のいた場所が裂ける様に崩れ落ちた。



175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/08(火) 20:29:03.33 ID:tqAsUbRa0

私の体が宙に浮く。

崩れていく瓦礫と共に、真っ暗闇へと吸い込まれる様に落ちていく。

「みほぉぉぉぉぉぉ!!」

間一髪、お姉ちゃんの手が落ちていく私の手を掴む。

ガクン、と掴まれた腕に鋭い痛みが走る。

「ぐ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「お、お姉ちゃん……!」

お姉ちゃんが苦痛に歪んだ表情で叫ぶ。

私を支えているお姉ちゃんの痛みは相当のもののはずだ。

「みほさん!」「西住さん!」

対岸にいる愛里寿ちゃん達が心配した様子でこちらを見ている。

しかし、距離が空きすぎて向こうからは手出しができない様だった。

このままじゃみんなも危ない。

「……」

私は視線を下に向ける。

真っ暗闇とも思える場所には、薄らと瓦礫の姿が見て取れる。

目安でしかないが、恐らく十メートル足らずといった所だろう。

私は一つ大きく息を吸って、顔を上げる。

「……お姉ちゃん、手を離して」

「な……ッ!?」

私の言葉に、お姉ちゃんの目が驚きに見開かれた。



176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/08(火) 20:54:00.27 ID:tqAsUbRa0

「ダメだ! 諦めるんじゃない!」

「聞いてお姉ちゃん。このままじゃみんなが危険な目に遭う。私なら大丈夫、この高さならきっと落ちても死ぬ事はないよ」

もちろん、無事では済まないのは分かっている。

十メートル足らずとは言え、この高さから落ちれば両足の骨折は免れないだろう。

墜ち方が悪ければ背骨にまで影響が及び可能性も十分にある。

でも、この選択肢以外皆が無事に逃げ延びる方法は考え付かなかった。

しかし、

「絶対にダメだ!」

お姉ちゃんは頑なに手を離そうとはしなかった。

それどころか、自身を支えていたもう片方の手でも私の手を掴む。

「絶対に離さないから!」

確固たる意志を感じさせる声音で、お姉ちゃんは言い放つ。

その瞳に、私の気持ちがどうしようもなく揺さぶられる。

「お願いだよお姉ちゃん! 私だって本当は怖いけど、でも決めたの!」

「そんなのは決めたとは言わない!」

「だって、他に皆が助かる方法なんて──」

「みほが助かってない!」

「ッ!?」

「犠牲を前提にした選択肢なんて選択肢じゃない! それは貴方が一番嫌いな事でしょう!?」

……お姉ちゃんの言う通りだ。

勝つ事よりも仲間を助ける事を選んだ私が、自分だからと犠牲を容認してしまった。

「でも……だったらどうすれば」

「決まっている」

痛みに耐えながら、それでもお姉ちゃんは笑って見せる。

「お姉ちゃんに任せなさい」

お姉ちゃんは歯を食いしばりながら、ゆっくりと上体を持ち上げる。

ミチ、ミチと体が悲鳴を上げているのが分かる。

それでも、お姉ちゃんは腕を上げるのを止めようとはしなかった。

その気持ちが嬉しくて、気付けば私は涙を流していた。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

私の体が、数センチ引き上げられる。


しかし、それまでだった。

「ぐ、ぅ……!」

互いに体力の限界だった。

繋いだ手から徐々に力が抜けていくのに、そう時間は掛からなかった。



177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/08(火) 21:26:11.43 ID:tqAsUbRa0

「く、そ……」

必死に力を籠めようとしていても、私達の手はゆっくりとその距離を離していく。

「み、ほ……みほ!」

「お姉ちゃん……!」

そして、遂に私達の手が放れる。

その直前、

ガッ!! と、突然力強い手が私達の手を掴んだ。

「2人とも気をしっかり持ちなさい!」

「お母さん!」「お母様!」

私達の手を掴んだのは、紛れもなく私達のお母さんだった。

「まほ、呼吸を合わせて一気に引き上げるわよ」

「はい!」

お母さんの合図で、私の体は一気に橋の上へと引き上げられる。

「みほ!」

お姉ちゃんがギュッと私を抱き締める。

私もいざ窮地を脱すると途端に恐怖が込み上げてきて、お姉ちゃんの背中に手を回してしがみ付く様に抱き返す。

「お姉ちゃん……!」

「よかった……よかった!!」

「ありがとう、お姉ちゃん……私、すごく嬉しかったよ」

「安心するのは早いわよ二人とも」

お母さんはそう言うと、少し離れた場所で倒れていた役人さんを拾い上げ、勢いよく橋の向こう側へと放り投げた。

「みほ。まほは足を怪我しているわ。私と貴方で支えながら跳ぶわ、いいわね」

「う、うん!」

まだ安心はできない。

私とお母さんはお姉ちゃんの手を両脇から握り、助走をつける為少し下がる。

「行くよお姉ちゃん!」

「あぁ、分かった!」

「しっかり踏み込むのよ!」

ピッタリと息を合わせて私達は暗い、暗い闇を飛び越える。

同時に、惨劇の舞台となったショッピングモールが一際大きな爆発音と共に燃え上がった。





こうして、私達は死の実験場から逃げ出すことが出来た。



183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/09(水) 21:40:20.86 ID:O5ij1x2z0

  屋外 モール跡地前 まほside


バララララ、とヘリの羽が空気を叩く。

モールから離れた平野に幾つものヘリが降り立っては飛び立っていく。

警察や軍など様々な人達が忙しなく立ち回る姿を、私達は隅の救護車で傍観していた。

「はい、これでお終いよ」

「ありがとうございます」

足の手当をしてくれた救護隊員の人にお礼を告げ、私は立ち上がる。

「それにしても珍しい怪我の仕方をしたわね。骨に異常はないけど、その周りの繊維だけを痛めてるなんて……まるで鬼にでも締め上げられたみたい」

「ふふ、そうですね……とても優しい鬼でしたよ」

「え?」

「何でもありません。それでは」

もう一度頭を下げ、私は救護車を後にする。

外に出ると、すぐ傍で待っていたみほがすぐさま駆け寄って来る。

「もういいの?」

「うん」

松葉杖が必要なほどではない。少々歩行に難はあるが、その程度のものだ。

「私のは大したことない。それよりダージリンの方はどうだ」

「ご心配には及びませんわ」

みほに問い掛けたつもりだったが、返事はすぐ後ろから帰ってきた。

振り返ると、そこにはまるでみほが大好きなボコられグマの様に包帯に包まれたダージリンの姿があった。

「……優雅じゃないな」

「黒森峰の隊長さんは一言余計ですわよ」

「足はもう平気なのか」

「ゆっくり歩く程度には問題なさそうですわ。しばらくは車椅子の世話になるでしょうけどね。ペコに押してもらうのも悪くないわ」

「彼女達は?」

「先に救護ヘリで病院へ向かったそうよ。私達も準備が整えば出発するそうよ」

「そうか……そういえば、みほ」

「何? お姉ちゃん」

「大洗の、冷泉さんといったか。彼女は無事か?」

「あぁ、麻子さんなら……」

みほが指し示した先には小高い丘があり、そこには大洗の操縦手と共に、愛里寿の姿もあった。

私達は特に示し合わせた訳でもないのに、自然とそこに向かって歩き出した。

二人は私達が傍に来ても振り向かず、目の前の光景を呆然と眺めている。

その視線の先には、かつて大きな建物が立っていた場所だ。

かつては家族や友人で賑わいを見せたはずの場所。

しかし、私達にとってはその幸せを共有してきた仲間を奪われた場所でもある。

これ以上に理不尽な出来事を、私は知らない。

「……沙織はな、クローンに掴まった私を助けてくれたんだ。自分の命を犠牲にしてまで」

皆で崩れ去った場所を眺めていると、不意に麻子さんがそう呟いた。




184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/09(水) 22:31:43.13 ID:O5ij1x2z0

「そど子もだ。命を懸けて私を助けてくれた。最後の最後までお説教してた」

「……うん」

みほが俯きながら肯定する。

これはきっと、彼女なりの手向けだ。

命を賭して戦った仲間達の雄姿を、これから生きていく者への享受とするために。

であるならば、私も語るべきことはある。

「エリカも、私とみほを助ける為に命を懸けてくれた。彼女のお陰で今の私達がいる」

エリカが裏で手を引いていたことも、先ほどお母様から聞かされた。

それでも、エリカは最後に私達を助けてくれた。

良くも悪くも、不器用なエリカらしくて、私は怒る気にはなれなかった。

もちろん、許される事じゃない。

それでも、エリカを叱っていいのは私とみほだけだ。

「わたくしも沢山の方々に助けられました。ケイさんに生徒会の皆さん、大洗のカエサルさんは後輩を守る為に自らを盾にしていました。プラウダの二人なんて大爆発を起こしていましたのよ」

「途中大きく揺れたのはあの二人が原因だったんだな」

「うん……うん……」

何度も頷くみほの肩を抱き寄せる。

そうして、私達は亡き戦友達の雄姿を誇らしく語り合った。

「本当、みんな凄かったんだな」

一通り語り合った後、麻子さんが立ち上がる。

遺体は回収できるだけ回収したそうだが、全員回収できた訳ではないらしい。

建物と共に沈んでいった仲間もいるのだろう。

私達は静かに目を伏せて祈った。

「……う、ぐすっ」

静かに嗚咽を漏らしたのは、以外にも麻子さんだった。

彼女は苦しそうに自分の肩を抱き締める。

「またこの苦しみを感じて生きていかなきゃいけないのか……もう大切な人を失う悲しみなんて感じたくなかったのに、また私は……」

確か彼女の両親は事故で……。

「麻子さん……」

「うぅ……ぐすっ……」

寂しそうに、心細くて震える心を抑える様なその姿に、誰もが胸を痛めていた事だろう。

そんな時だ。



「何を泣き言ばかり言ってるのよ、れ・ま・こ!」



背筋を伸ばしそうになるほど凛とした声が響いたのは。

突然の声に、その場の全員が驚いた。

しかし、より一層驚いていたのは私の隣にいるみほと、前にいる麻子さんだ。

二人は固まった表情のままゆっくりと後ろを振り返る。

つられて背後を振り返ると、そこには綺麗に切り揃えられた髪が特徴的な女の子が立っていた。



185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/09(水) 23:16:46.14 ID:O5ij1x2z0

大洗の制服に身を包んだその少女の名は、確か先ほどまで話に出てきていた──

「そど、子……?」

麻子さんが信じられないものを見る様な目でおかっぱ頭の少女を見る。

「貴方がめそめそしてるなんてらしくないわよ! 辛い時こそ胸を張って立つのが風紀委員の──」

「そど子ぉ~~~~~~~~~~~~~~~!!!!」

麻子さんが一直線にそど子という少女に掛けていく。

「ちょ!? 落ち着いて冷泉さんあああああああ!!」

そして、その勢いのまま飛びつき、二人は勢いよく倒れ込んだ。

「い、いきなりなに飛びついてるのよ!」

「そど子ぉ、そど子ぉ! う、うあぁ~~~~~~~~~~!!」

「な、何よ……何泣いてるのよ……そんな泣いてたら……私だって泣きたくなるじゃないぃ~~~~」

うあぁぁ~~~~、と二人して声を上げて泣き出してしまった。

「よかった……無事だったんだね、園さん……本当によかった」

みほも先ほどとは違い、嬉しそうに涙を拭っていた。

「でも、どうして無事だったんですの? 先ほどの麻子さんのお話ですと、園さんは冷泉さんを助ける為に自らを囮にしたと聞いていたのですが」

「ぐすん……えっと、実は冷泉さんと別れた後、あそこの隊長さんに助けられたのよ」

そど子さんは顔を左側へと向ける。

その視線の先には、いつの間にか私達と同じ様に丘の上に立つ人物の姿があった。

目を閉じて弦楽器をつま弾く彼女の姿を見たのは随分と久しぶりな様に思えた。

「……姿が見えないと思ってましたら、ちゃっかりしていますこと」

「全くだ」

呆れた様な苦笑と共に言うダージリンに、私も同じ様な笑みを浮かべて頷いた。

私達は心地よさそうに風を感じている彼女の元へ向かう。

「ミカさん、無事だったんですね」

「やぁ、みほさん。それに皆さんも……どうやら互いに乗り越えられたみたいだね」

「今までどこにいた? 全く姿を見なかったが」

「風がね、言ってたんだよ。時期が熟すのを待て、とね……」

ミカの言ってる事がよく分からず、みほに解釈を求めるが、みほもよく分かっていない様だった。

「彼女、ずっとトイレに隠れていたそうよ」

私達が首を傾げていると、ようやく立ち上がったそど子さんが心底呆れた様子で言った。

「違う。刻が満ちるのを待っていたんだ」

「…………」

……まぁ、深くは追及しないでおこう。

「たまたま様子見で出てきた所で私が襲われそうになっていたから、消化器を撒き散らしてくれたの。その隙に一緒に逃げ出したってわけ」

「そうだったのか……」

とにかく、彼女のお陰で一人の命が救われたのは間違いないのだ。

「そど子ぉ……」

「も、もういい加減放れなさいよ冷泉さん! 恥ずかしいじゃない!」

──いいや。救われたのは一人じゃない、か。

「よかったな、みほ」

「うん」

嬉しそうにそど子さんに抱き着く麻子さんを見ながら、私達は顔を見合わせて微笑んだ。




188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/10(木) 22:08:21.61 ID:QNfxJwvR0

丘を降りた私達の元に一人の軍人さんがやってきた。

「ヘリの準備が整いましたので、これから二組に分かれてもらいます」

軍人さんが言うに、病院に向かうヘリと西住流が提供している対策本部が設置されている施設に向かうヘリとで分かれているそうだ。

手元の髪を見下ろしながら、軍人さんが言う。

「人選は既に西住流家元から聞いています。対策本部へ向かうヘリには西住御息女方と島田流御息女、それに園みどり子様とミカ様。病院へ向かうヘリにはダージリンさんと冷泉さんだそうです」

「私もか?」

麻子さんが不思議そうに尋ねる。

「はい。家元からは強いストレスを受けていると聞いております。問題ないとは思うが、念の為にカウンセリングだけは受けておいてほしいとの事です」

「……そう、か」

どこか納得していない様子の麻子さんを見て、そど子さんが人の悪い笑みを浮かべる。

「何よ冷泉さん。まさか病院が怖いとか言うんじゃないでしょうね」

「……別に、そうじゃない」

「じゃあなに? まさか一人になるのが寂しいとか言うんじゃないでしょうね。そんな子供みたいな事言う訳──」

「………………そうだ」

「え?」

そど子さんの制服の袖をギュッと掴み、麻子さんが言う。

「そど子も一緒じゃなきゃ行かない」

「な、な、な……」

そど子さんの顔が、みるみる赤くなっていく。

「いいんじゃないかな。ね、お姉ちゃん」

「うん」

メンタルカウンセリングなら同伴者がいた方がいいだろう。

傍に安心できる存在がいるのなら、無理に引き離す理由はない。

「お母さんには私から言っておくから園さんは麻子さんについていてもらってもいいかな」

「……た、隊長の指示なら仕方ないわね! あくまで隊長の命令だから仕方なくついていってあげるんだからね!」

「そど子ォ……もう私の前からいなくなるなぁ」

「~~~~~ッ! もうッ! 何だか調子狂うわよぉ~~~!」

まるで姉妹の様に仲睦まじく腕を組んで……とはいえないが、とにかく二人は寄り添ってヘリへと歩いていった。

「あの様子じゃ、当分離れる事はなさそうね」

「今は寄り添う相手が必要だ。多少の我が儘は目を瞑ろう」

「ふふ、黒森峰の隊長さんもたまには気が利きますのね」

「ダージリンも寂しかったら遠慮なく言ってくれて構わないぞ」

「お気遣いありがとうございますわ。でも結構、私は安易に膝を付きませんのよ」

誰よりも酷い有様をしているというのに、彼女は誰よりも強く立っていた。

「そろそろ行きますわ。待たせるのは好きじゃありませんので」

「あぁ、気をつけてな、ダージリン」

「また落ち着いたら連絡ください!」

みほの言葉に、ダージリンは静かに頷く。

「こんな格言があるわ。【友人同士は未来を語り合わなくても未来に再会することを確信している】いずれまた会う事になるでしょうよ」

そう言って、ダージリンはヘリへと向かって歩いていった。

そうして、彼女を乗せたヘリはゆっくりと上昇を始めたのだった。



189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/10(木) 22:24:01.83 ID:QNfxJwvR0

「それじゃあ私達も」

「うん」

「はい」

ヘリを見送った後、私達も自分達のヘリへ向かおうと踵を返す。

しかし、ついてきたのはみほと愛里寿だけで、ミカが後ろに続いてこない。

「どうした?」

「どうやら私と君達の風はここで別れているらしい」

「……つまり、ヘリには乗らないってことか?」

「それは君達の道さ。私の風は、ほら」

彼女の見ている先には、一台の戦車がこちらに向かってきている所だった。

大学選抜戦で共に戦った彼女達の戦車だ。

「で、でもミカさん……たぶん事件の関係者には全員事情聴取があると思うんだけど──」

「その行為に意味があるとは思えない」

あぁ、なるほど。そういうことか。

私は思わず笑みを浮かべる。

その奔放さが彼女らしかった。

「それではいずれまた……」

そう言って彼女はゆっくりと野道を歩き出した。

「不思議な人」

「そうだな」

愛里寿の言葉に頷きながら、私達は彼女の言う道へと向かった。



190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/10(木) 23:07:19.55 ID:QNfxJwvR0

 ダージリン エピローグ


「ペコ、一体どこに連れていくの?」

「いいから怪我人さんはジッとしていてください」

「意地悪なペコね。貴方だって怪我人でしょうに」

二人は白く清潔な廊下を進んでいた。

車椅子に乗ったダージリンを頭に包帯を巻いたオレンジペコが後ろから押していく。

「私の傷は大した事ないから大丈夫なんです。それよりもダージリン様はご自分のお体を大切になさってください」

「ダメよペコ。淑女たるもの、小さな怪我も見過ごしてはならないわ。我が校の生徒は常に気高く、気品良くよ」

「分かってます」

いつも通りの教えに、いつも通りの笑みを浮かべる。

それがどれだけ幸せな事かを、二人はしっかりと噛み締めていた。

「……ペコ」

「はい、わかっています……私達は、とてもたくさんの人達のお蔭で今こうしていられるんですよね」

「えぇ、そうよ……私達の日常は沢山の人達に支えられ、成り立っているの。そのことをしっかり胸に刻んでいきましょう」

「はい!」

ペコはハッキリ返事をすると、一つの病室の前で止まった。

「ペコ? この病室がどうかしたの?」

ダージリンの問いかけに、ペコは答えない。

品行方正な後輩にしては珍しい対応に、ダージリンは困惑する。

すると、再び車椅子が動き出した。

「ちょ、ちょっとペコ。勝手に入ってはいけないわ。ねぇペコ聞いて──」

ペコによって半ば無理やり病室に入らされたダージリンの前に飛び込んできた光景は、とても信じられないものだった。

病室の窓は開いていた。

爽やかな風が窓際のカーテンをふわりふわりと撫でている。

そして、その風に靡く金色の髪に、ダージリンの全ての感覚が奪われる。

緩いウェーブ掛かった髪を靡かせる少女が、こちらに気付いて振り返る。

「ぁ……」

呆然と、ダージリンはその人物と見つめ合う。

気付けば、ダージリンは腰を上げていた。

車椅子から立ち上がった彼女はゆっくりと覚束ない足取りでベッドの縁へと向かう。

ぎこちない歩みは決して怪我だけの所為ではない。

ポタリ、ポタリと床に水滴が落ちる。それはダージリンの頬から伝い、滴り落ちた雫。

ダージリンの視界は涙でぼやけていた。

それでも、ダージリンは彼女の元へと急いだ。

ベットに腰掛ける少女はいつもの様に元気な笑顔を浮かべてくれる。

そんな彼女の元へ、ダージリンは遂にたどり着く。

「……Hey、お互いしぶといわね、ダージリン」

「……もう、ほんとうに……貴方って、人は──」

それ以上は言葉にならなくて。

ただ、ダージリンは静かに温かな涙を流しながら膝を付き、彼女の手を両手で握りしめた。

その姿はまるで神に祈りを捧げる少女の様に神聖で、掛け替えの無い光景だった。



192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/11(金) 01:17:27.19 ID:6k6b9LrPO

乙です。
ケイさんも生存していたか。

良かった。



193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/13(日) 00:15:56.30 ID:fyUgD1A40

  まほ エピローグ

「失礼します」

扉を開き、まほは母の執務室へと入る。

机に座る母が顔を上げる。その表情は少しやつれている様にまほには思えた。

「もう足は平気なの?」

「はい、日常生活に支障はありません」

あの事件から、数日が経過した。

首謀者である島田流家元、島田千代は建物と共に消え、文科省局長、辻康太は逮捕された。

辻康太は尋問に対して最初こそ口を割らなかったが、次第に質問に答える様になり、終いには洗いざらい白状した。

その甲斐あって違法実験をしていた科学者とその施設を抑える事に成功、本当の意味で一連の事件に終止符が打たれた。

「お母様こそ、少しは休まれた方がいいと思います」

「戦車道連盟が遺族の対応に走り回っているのは知っているでしょう。今は休んでいられないわ」

事件とは直接的な関係性はないにしても、戦車道生徒を狙った事件として報道された一連の騒ぎに連盟が何の対応もしないわけにもいかなかった。

やり場のない怒りと悲しみを突然突きつけられた遺族達を少しでも落ち着かせようと、連盟は今あちこちの家に向かっては事細かに事件の詳細を語り回っていた。

もちろん、それはまほの母も例外ではない。

「それでも、休んでください」

懇願にも近いまほの申し出に、しほは薄らと微笑んだ。

「29人もいて、生存者はたったの11人だけ……この事件は間違いなく戦車道界に大きな傷跡を残すわ。西住流家元としてやるべきことは山ほどあるわ」

「……」

「それにね、私も遺族には全てを知る権利があると考えているわ。例えそれが悲しみを深くすることだとしても、ね」



194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/13(日) 00:22:51.46 ID:fyUgD1A40

「……はい」

俯くまほの前に立ち、しほはその肩を優しく叩く。

「ありがとう。その気持ちは嬉しいわ」

「お母様……」

まほが母の顔を見上げると、しほはさっと顔を逸らした。

「ところでまほ。その……みほの様子はどう?」

あの事件以来、しほは少しだけ変わった。

今まで娘達にも毅然とした態度を貫いていたしほの中で、初めて後悔というものを感じたのがこの事件だった。

娘達を失うかもしれないという恐怖を植え付けられたしほは、どうしても娘達の事が気になってしまう。

結果、しほは今まで通りに娘と接する事がどうしてもできないでいた。

夫の常夫は『君はそれくらいが丁度いい』と笑っていたが、しほからしたら冗談ではない。

結局、しほは今は亡き首謀者を密かに恨む結果となった。

「みほなら愛里寿の見送りに行きました。私もこれから合流しようと思います」

「そう……」

母を失った愛里寿は事件が終わって暫くはこの家で共に過ごしていた。

悲しみで一時は塞ぎ込んでいたが、何時しか気持ちの整理をつけ、海外にいる父親の元へ向かうといった。

今日はその出向の日だ。今はみほと最寄りの港に向かっている。

「彼女は強いです。きっと再び私達の前に立ちはだかると思います」

「その時が今から楽しみね」

「はい」

プルルル、机の上にある電話が鳴る。

どうやらお喋りはここまでの様だ。

「それではお母様、私もそろそろⅡ号で出かけます」

「えぇ、気を付けていくのよ」

まほは扉へ、しほは自身の机へと向かう。

受話器を取り、しほはそれを耳へと宛がう。

「はい、こちら西住……蝶野教官?」

珍しい電話相手に、まほは思わず足を止める。

「どうしたの、少し落ち着きな…………え?」

しほの顔から、血の気が失せる。

それが、まほの心をざわつかせた。

「…………そんな」

呆然とした様子で、しほが受話器を落とす。

「お母様……?」

「……まほ、みほが──」

「ッ!?」

瞬間、不安は恐怖へと変わった。

「お母様! みほが、みほがどうしたんです!」

「直ぐに出る準備をしなさいまほ! みほが……危ない!!」

血相を変えて叫ぶしほに、まほは泣きそうになりながら玄関へと向かった。



195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/13(日) 01:05:11.22 ID:fyUgD1A40

  みほ エピローグ

「愛里寿ちゃんはどこだろう……」

フェリーの搭乗口で愛里寿を見送ったみほは、見送り口となっている波止場で船の上を眺めていた。

此方に手を振る乗客は何人か見えるが、肝心の愛里寿の姿が見当たらない。

「場所を変えてみようかな」

そう言ってみほが踵を返すと、

「あれ、愛里寿ちゃん?」

意外な事にそこには愛里寿の姿があった。

確かに発着場で別れたはずの愛里寿に、みほは首を傾げる。

「どうしたの愛里寿ちゃん。何か忘れ物でもしたの?」

「……」

愛里寿は俯いたまま反応しない。

(もしかして、やっぱり海外に行くのが怖くなっちゃったのかな……)

慣れ親しんだ国を出るというのは勇気がいる事だ。

天才少女なんて言われても、愛里寿はまだ13歳の女の子。不安になっったとしても何らおかしくはない。

みほは愛里寿を励まそうと、優しい笑みを浮かべてその肩に手を置こうとした。

その時、

「みほさ~ん!」

「え?」

遠くから、みほを呼ぶ声が聞こえた。

視線を船に戻すと、甲板にはこちらに手を振る人物の姿が見えた。

可愛らしい白黒の洋服を着たその人物に、みほは驚いた様に目を見張る。

「あ、愛里寿ちゃん?」

訳が分からず、みほは困惑する。

愛里寿は船の上で手を振っている。


なら、今目の前にいる愛里寿は一体誰だ?


みほの背筋に、嫌な汗が伝う。

(……そんな訳ない。だってあの事件は確かに終わったんだもん。愛里寿ちゃんのクローンだってあの建物と一緒に──ッ!?)

そこで、みほは気付いた。

蝶野さん達がモールに入ってきた時に、捕獲していたクローンの存在を。

「……あ、貴方は」

恐怖で動けないでいるみほの前で愛里寿は──アリスは、ゆっくりと顔を上げて言った。





「目標、補足」

怖い夢は、忘れた頃にやって来る。



196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/13(日) 01:17:54.60 ID:fyUgD1A40

怖い夢を見たのが二か月前とは……つい昨日の様に思えます。作者です。

これにてアリス・ゲームは終わりです。

息抜きとして書き始めたこのSS、非常に長くなりました。当初の予定の二倍以上の長さになりました。驚いた。

普段は必ず何かテーマがあってそれを書いていたのですが、今回のはただ怖い夢を見た、という非常に漠然としたものしかなくて苦戦しました。

何せ夢の内容ですから、非常に少ない夢の断片しかなくてですねww

ともあれ、無事に完結できたのは前にも言いましたが、コメントをしてくれた方や、読んでくれている人がいるという思いだけです。

最後はホラー作品らしく後を引く最後にしてみましたが、いかがだったでしょうか?

感想とかもらえると嬉しいです。

長くなってしまいましたが、ここまで読んでくれた方、本当にありがとうございました。



198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/13(日) 14:57:11.24 ID:MQoaVw9jO

乙です。
まさかのホラーエンドだったとは(汗)

2ヶ月に亘って楽しめました。
お疲れ様でした。



199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/13(日) 21:08:10.05 ID:J0favs7No

クローンがみほに懐いたと脳内解釈しておく









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