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1: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:17:12.23 ID:3tnS2gIH0

過去回想と百合エロ。

後半になにかくっついてるけど、
エロシーン以外は読み飛ばしていいよ。 
 
第1作【モバマス時代劇】本田未央「憎悪剣 辻車」
第2作【モバマス時代劇】木村夏樹「美城剣法帖」_
第3作【モバマス時代劇】一ノ瀬志希「及川藩御家騒動」 
第4作【モバマス時代劇】桐生つかさ「杉のれん」
第5作【モバマス時代劇】ヘレン「エヴァーポップ ネヴァーダイ」
第6作【モバマス時代劇】向井拓海「美城忍法帖」
第7作【モバマス時代劇】依田芳乃「クロスハート」 
第8作【モバマス時代劇】神谷奈緒 & 北条加蓮「凛ちゃんなう」 

読み切り 
【デレマス時代劇】速水奏「狂愛剣 鬼蛭」
【デレマス時代劇】市原仁奈「友情剣 下弦の月」
【デレマス時代劇】池袋晶葉「活人剣 我者髑髏」   
【デレマス時代劇】塩見周子「おのろけ豆」 
【デレマス時代劇】三村かな子「食い意地将軍」
【デレマス時代劇】二宮飛鳥「阿呆の一生」
【デレマス時代劇】緒方智絵里「三村様の通り道」
【デレマス時代劇】大原みちる「麦餅の母」
【デレマス時代劇】キャシー・グラハム「亜墨利加女」
【デレマス時代劇】メアリー・コクラン「トゥルーレリジョン」
【デレマス時代劇】島村卯月「忍耐剣 櫛風」
【デレマス銀河世紀】安部菜々「17歳の教科書」
【デレマス時代劇】土屋亜子「そろばん侍」
【デレマス近代劇】渋谷凛「Cad Keener Moon 」



2: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:17:33.37 ID:3tnS2gIH0

神谷家は裕福ではなかった。

貧困の極み、というほどでもないが、

奈緒が温かい飯を食えた回数は少なかった。

その苦しみをばねにして、彼女は懸命に

勉学と剣術に打ち込んだ。



3: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:18:31.63 ID:3tnS2gIH0

元からの才気もあったのだろう。

藩士の花形、馬廻に勤めることが叶った。

ここで、奈緒は少々天狗になった。

彼女のほどの境遇から、馬廻になった者は

いなかったからだ。

周りを見渡せば、家柄がよく、

はじめから成功が約束されたような輩ばかり。

自分は違う。この身1つで成り上がったのだ。

近所では奈緒の名前を知らぬ者がいない。



4: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:19:16.81 ID:3tnS2gIH0

しかし、勤めに出て数ヶ月した頃。

奈緒は強大な壁にぶつかった。

渋谷凛。

千川家につらなる家柄の生まれで、

文武両道。

同性の心もくすぐる怜悧な面は、

一見冷たい表情を浮かべているが、

思いやり深く、とても気がきく。

奈緒は凛のことが気に食わなかった。



5: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:20:26.26 ID:9i+yqaiD0

憎悪剣の前日譚?



7: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:21:15.22 ID:3tnS2gIH0

>>5 
そう。




6: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:20:32.19 ID:3tnS2gIH0

奈緒は凛のことが嫌いだった。

ある時、馬廻内で

「誰が一番強いのか、はっきりさせようぜ!!」

と誰かが言った。

奈緒は自分だ、と叫びたかった。

ぼんぼんが習っている新陰流のような、にわか剣術とはちがう。

奈緒は実戦式の稽古が基本の、一刀流の名手だ。

家柄で自分を見下してきた連中を見返す、よい機会だった。

奈緒は、一回戦目で凛とあたった。



8: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:22:03.44 ID:3tnS2gIH0

もとからいけすかない相手だった。

吠え面かかしてやる。

ちょっとした広場に、枝木で円陣を描いただけの

舞台で、奈緒は凛と対峙した。

まずは両者一礼。剣士の習いである。

そこから構え。

奈緒は大上段に構える。

誰から見ても、振り下ろすのだとわかる。

躱すのは容易だろうか。



9: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:22:37.77 ID:3tnS2gIH0

否。

奈緒の振り下ろしは、“伸びる”。

足運びの迅速さで、すぐさま相手を間合いに

引き摺り込み、一撃を加えるのだ。

そして、このこの技を防いだ者は、

その時までは誰もいなかった。

凛の構えは八相。

突きか、それとも柔軟に

手首をかえし、水平斬りでくるか。

奈緒には分からぬ。

分からぬから、相手が動くより早く仕留める。



10: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:23:31.65 ID:3tnS2gIH0

「ええいッ!!」

奈緒が踏み出した。周囲は驚嘆した。

歩法というよりは、もはや縮地の領域。

あまりにも速い。

だが、それを全く危なげなく

受けた凛には、さらに驚愕した。

「速さと力を追うあまり、体が乱れてる」

迫る木刀を、一寸の震えもなく止めながら、凛は言った。



11: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:24:18.01 ID:3tnS2gIH0

「凛殿の慧眼には恐れ入ります…なあ!!」

奈緒は相手の腹を蹴り上げた。

上品な武家様には、防げない攻撃。

凛は身体をくの字に曲げて、後ろへ下がった。

周囲は面白くなってきたと、盛り上がった。

元々剣術だけで食っていきたいと

思うような連中であるから、

多少の外法も歓迎する。

体勢を崩した凛に、奈緒は容赦なく迫り、

彼女の木刀を打ち払った。

そして、私の勝ちだと宣言しようとした時。



12: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:24:45.82 ID:3tnS2gIH0

奈緒の意識が、ぷっつり途切れた。



13: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:25:17.56 ID:3tnS2gIH0

井戸の水をぶっかけられ目を冷ました時には、

勝負は決していた。

油断した奈緒の水月と烏兎に、

凛が拳を叩き込んだのだという。

刀の勝負を拳で決するとは。

自分が先に蹴っておきながら、奈緒は憤った。



14: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:25:49.23 ID:3tnS2gIH0

転機が訪れたのは、

山に現れる賊を討伐した時だった。

凛に負けてなるものか、と奈緒は

仲間の制止を振り切って敵陣に踏み込んだ。

そこで、賊を1人で皆殺しにした。

だが、皆と合流する時、

かすかに息があった者によって、毒の吹き矢を当てられた。

それが胸に刺さった。



15: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:26:20.75 ID:3tnS2gIH0

まっすぐに駆け寄ったのは、凛であった。

奈緒は、服を脱がされるのを嫌がった。

傷のあたりに小さな黒子があって、

それを人に見せたくないのだ。

だが凛は、引き裂くように衣を剥ぎ取ると、

矢を引き抜き、傷口に唇を当てた。



16: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:27:22.24 ID:3tnS2gIH0

ひゃっと、奈緒はくすぐったい声を出した。

凛のやわらかくて、ふにふにとした唇が、

肌に吸い付いて毒を吸い出す。

ちろちろと、かすかに舌があたって、それが

奈緒の背筋に電流を走らせた。彼女の陰部から、少し尿が漏れた。

そして、手当てが終わった頃、凛が倒れた。

聞くところによれば、隠していた虫歯があって、

そこから毒が入ってしまったのだという。




17: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:28:21.67 ID:3tnS2gIH0

奈緒は悟った。

凛は承知していただろう。

つまり、彼女は身を呈して自分を救ってくれたのだ。

奈緒は床に伏せる凛のもとへ見舞いに行った。

そこで彼女に詫びた。

自分の勝手のせいで、このようなことになってしまったと。

凛は少し身体を起こして、

奈緒の髪をくしゃっと撫でて、微笑んだ。

その時から、奈緒は凛に心酔した。

だから、向井拓海らと袂を分かち、千川派についた。

東郷派の人間を何人も斬った。




18: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:28:50.40 ID:3tnS2gIH0

だが、ただ1人、凛を守ることはできなかった。




19: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:29:35.00 ID:3tnS2gIH0

北条加蓮は病弱であった。

しかし、彼女の母は厳しかった。

精神が弱いから身体も弱いのだと、

頭ごなしに加蓮を叱りつけた。

腰がうまく立たない彼女を、

新陰流の道場に叩き込み、稽古に従事させた。

木刀を握るには、あまりにも弱々しい腕。

体を維持するには、細すぎる足腰。

加蓮は稽古から置いていかれた。




20: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:30:51.28 ID:3tnS2gIH0

はやく帰ると母から叱られるので、

彼女は最後まで道場に残って、修錬に励むようになった。

ある時、ふらふらになるまで木刀を振っていると、

髪の長い、怜悧な少女が加蓮に声をかけた。

渋谷凛。

道場、いや美城藩きっての天才剣士。




21: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:31:27.42 ID:3tnS2gIH0

「あ、う…」

加蓮は口ごもった。

自分の情けない姿を見られるのが、ひどく恥ずかしかった。

顔を赤くしてうつむく彼女の手を、凛はそっと握った。

「加蓮は弱くないよ。
 
 膂力だとか段位じゃなくて、

 強くなろうって思うことが大事なんだから」

「で、でもアタシ、構えもうまく取れないし…」

 加蓮がそう言うと、凛は彼女の身体にぴったりと寄り添った。



22: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:31:58.35 ID:3tnS2gIH0

「そのまま、足を、そう。それで、腕を前に伸ばして…」

凛が言うままに、身体を動かした。

心臓がものすごい速さで高鳴っていた。

凛の身体には、加蓮と違って、

ほどよく筋肉と脂肪がついている。

かすかにふくらんだ胸、なやましいくびれが、

この時間だけは、加蓮1人のものだった。

「そう、これで完璧」

きちんとした構えが取れた直後、

加蓮はきゅう、と倒れてしまった。





23: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:32:30.56 ID:3tnS2gIH0

彼女が自慰を覚えたのは、この数日後のことであった。



24: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:33:18.95 ID:3tnS2gIH0

【デレマス近未来】南条光「二足歩行の幽霊」



25: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:34:54.25 ID:3tnS2gIH0

 平和な世が遠い過去になり、

 地球の大気が汚染し尽くされた頃。

 人々は生身の身体を捨てる代わりに、楽園を手に入れた。

 意識を電子空間に転送し、そこで享楽の限りを尽くす。

 喜び、楽しみ、気持ちいい。

 それが際限なくリピートされる、歪な幸福。

 程度の差こそあれ、

 誰しもがそれにあやかることができた。


 皆があまねく快楽を手にし、

 老い、病 怪我そして死からも解放されたように見えた。。

 「人類は、楽園への復帰を果たした」

 メディアなどはそう囃し立てた。

 しかし神は、人間を許してなどいなかった。



26: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:35:23.38 ID:3tnS2gIH0

 電子空間は、容量の限界を迎えた。

 新たな技術を生み出すような、気骨のある人間は、

 数世紀前に絶滅していた。

 研究者の教育カリキュラムも形骸化していた。

 それならば、どうする?



27: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:37:58.03 ID:3tnS2gIH0

南条光は、高性能フィルターのついたガスマスクを付けた。

さらに、特殊繊維で編まれた、

厚手のレインコートを羽織る。

部屋から出る準備だ。

彼女は、現実空間に生身で存在している、

極めて珍しい人間だった。

空は吐き気がするような真っ黄色。

雲はまるで泥のようだ。

降る雨は、数時間で石畳に小さなくぼみを作る。

最悪の環境。

いくら上品に表現しても、

地獄という以上にふさわしい言葉が見つからない。

それでも光が現実世界にとどまるのには、理由がある。



28: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:38:54.03 ID:3tnS2gIH0

彼女はA級ロケーター、電子の世界の掃除人である。

違法に作られた電子空間(チャネル)を消し、

中にいる人間も根こそぎ抹消する。

こうしなければ、あっという間に容量の限界がきてしまう。

“掃除”は必要悪なのだ。

だが、死にたくないと泣き叫ぶ人間を

シャットダウンするのは、深刻な精神的苦痛を伴う。

なので光や、他のロケーター達も、

あえて現実世界で生きる。

“あれは、モニターの中の虚像に過ぎない”

そう考えるために。



29: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:39:36.43 ID:3tnS2gIH0


『CRISIS』とペンキで

雑に書かれた5階建てのビル。

これがロケーター達の拠点であった。

外観はどこにでもある雑居ビルだが、

中は高度な空気清浄システムが作動しており、

さらに蛇口をひねれば綺麗な水が出る。

また、地下にある巨大な発電機で、

屋内の電気を全てまかなっている。

人々が電子世界にいるおかげで、

食料を除けば、資源にあまり困らない。

ロケーター達は、拠点でそこそこの

暮らしができるようになっていた。




30: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:40:18.23 ID:3tnS2gIH0

モニタールームの扉の前。

光は室内で、猛烈な音量のパンク音楽が

流れていることに気づいた。

犯人は分かっている。

部屋に入ると、燻んだ金髪をトサカのように

逆立てて、ソファーでくつろいでいる女を見つけた。

音源はコンパクトプレイヤーと、

彼女のつけているヘッドフォンだった。

どんな耳してるんだ。

光は、プレイヤーの電源を落とした。



31: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:40:57.87 ID:3tnS2gIH0

「………斬新な演奏法だな。聞いたこともない」

木村夏樹は、ヘッドフォンを外して光を見た。

別に怒った様子はない。

「よお、光。今日も生きてるな」

夏樹が尋ねる。

彼女がこんな質問をするのは、現在ロケーターが

相次いで殺されているためであった。

犯人は不明。証拠もあがらない。

死体だけが、足跡として残っている。

ロケーター達は、相手と自分達を皮肉って、

犯人を『二足歩行の幽霊』と呼んでいた。




32: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:41:52.97 ID:3tnS2gIH0

「まだ捕まってないんだな」

光は呟いた。

恨まれる仕事だ。犯人の当ては膨大。

地道に捜索していたら、おそらく天から…

いや、奈落の底からお迎えが来てしまう。

「逆にぶっ殺すしかないわけだ!」

夏樹はからからと笑った。

物騒なセリフだが、まったくそうは感じさせない。

どこか達観した様子のある女だった。



33: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:45:00.02 ID:3tnS2gIH0

「今日の掃除は、誰と組むんだ」

「アタシと、例の“漫才師(コメディアン)”」

「難波さんか…」

 仲間内でも、悪名高い女だった。

 しかし上の決定だ。文句は言えない。

「ダイブはきっかり15分後、

 それまでまあ、リラックスしてな」

 虐殺をする覚悟を決めておけ。

 光にはそう聞こえた。


「やあやあ、お2人さん!!」

馬鹿でかい声で挨拶をする女がいた。

鳶色の髪にゆるいパーマをかけて、おでこを出す髪型。

表情は、ロケーターの中で浮くほどの笑顔。

そして、この時世では珍しいスーツ、それも男性物。

極め付けに、それはピンク色であった。

「今日はウチの“公演”に付き合ってくれて、ありがとうな!」

笑美の言葉に

光は眉をひそめ、夏樹は苦笑した。



34: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:45:33.87 ID:3tnS2gIH0


ロケーターは誰しもがなれるわけではない。

特殊な才能が必要だった。

生身の身体を、そのまま電子空間にダイブさせる才能だ。

特殊な薬剤を用いるのが、A級“ウィザード/ウィッチ”。

単身でダイブできるのが、S級“タイタン”

さらに、自分以外も潜らせるのが、SS級“アルティメット”だった。

この中では、夏樹がSSで、笑美がSである。



35: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:46:57.77 ID:3tnS2gIH0

3人は手をつないだ。

効率的なダイブを行うためである。

夏樹はまたヘッドフォンからパンクを垂れ流していた。

かなり集中力を要するはずだが、

彼女にとっては音楽こそがトリガーのようだ。

「1,2…1234」

独特のリズムで夏樹がカウントをした後、

光の身体は頭が痛くなるような、

文字化けした言葉が羅列された滝を

落ちていった。



36: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:48:21.94 ID:3tnS2gIH0

光が降り立ったのは、

なぜか現実世界と同じように汚らしい空間だった。

打ち壊されたビル、濁った水たまり…歪む大気。

これも人々の趣向だろうか。

3人は、肩に下げた機関銃を構えながら、

電子の町を歩く。

探すのはプロパイダー。

チャネルの開設を行う能力者だ。

それを抹殺すれば、この空間は消滅する。

とはいえ、顔に書かれているわけでもないので、

3人がやるのは片っ端から住民を撃つことである。

音も反動もなく、銃弾がばらまかれる。

人々がばったばったと倒れていく。

弾丸にはウィルスコードが仕込まれており、

当たった人間の意識構造体は、

ただの数字となるまで破壊される。



37: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:48:53.48 ID:3tnS2gIH0

「待ってくれ! 投降する!!」

そう言って、人々がぞろぞろと出てきた。

一応、3人は銃を下げた。

「話を聞いてやろう」

木村が音楽に合わせて身体を揺らした。

周囲の音は聞こえていない。

「プロパイダーは差し出すから……!」

ぼろぼろになった男が、

縛られた状態で突き出された。

これまで住民のために空間を維持してきたのに。

そんな、悲しげな目をしていた。

光は、さっと彼から顔を背けた。



38: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:49:23.30 ID:3tnS2gIH0

「まあまあ、みんな!

 落ち着いてくれや!!」

 笑美が両手を振りながら、人々の前にでた。

「ちょい、ウチの話を聞いてくれ。

 ウチの父ちゃんと母ちゃんな、最近な、猫飼い始めて。

 あー……知っとる? 猫わかる?」

 笑美は笑顔で、再び銃を上げた。

「……猫、わかるよなあ?」

 問いかけに、人々はすくみながらも頷いた。



39: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:50:18.61 ID:3tnS2gIH0

「でな、ウチは両親と別居してるから、

 ときど〜き、メールくるねん。

 猫の写真付きでな。

 それでな、この前は、母ちゃんが猫だっこした

 写真が送られて来て」

 笑美はべらべらと話した。

“住民とは極力コミュニケーションは避けろ”

それがロケーターの鉄則であるにも関わらず。

「ウチ聞いたんよ。“今何ヶ月なんや”って。

 したらな、父ちゃんから“555ヶ月や”って。

 それ、それ…母ちゃんの年齢やないかーいっ!!」

 ぎゃははははと、笑美は笑った。

 住民達の中からも、小さく、くすくすと聞こえた。



40: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:51:19.33 ID:3tnS2gIH0

「それでな…」

 笑美が話を続けようとうすると、住民の中から、

 1人の女が現れた。

「私には幼い息子がいるんです!

 どうか、どうか……」
 
 同情的なロケーターだと思ったのか、

その女は笑美に懇願した。

 「息子…?」

 笑美が、呟いた。

 「そうです、まだ5歳の息子が」



41: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:51:47.58 ID:3tnS2gIH0

言葉を続けようとした女の頭が、弾け飛んだ。

「いま、ウチが話しとったやろ?

 なあ自分、耳ついとらんのか。

 耳……頭ごとないやんけ!!」

 笑美はぎゃはははと笑いながら、機関銃で住民達を撃った。

 同時に、夏樹がプロパイダーの男を始末した。



42: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 00:52:53.63 ID:3tnS2gIH0

 3人が戻ると、モニタールームの

 機器が血まみれだった。

 チャネルを消去した際に起こる

 怪奇現象の1つだったが、

 今では皆が慣れてしまった。

 「それじゃあ…解散」
 
 伸びをしながら、けだるそうに夏樹が言う。

 笑美は興奮がさめやらないのか、

 スーツをがりがり掻きむしっていた。



44: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 02:23:37.54 ID:MpjPVm8Mo

なつきちは何時の時代でも強いな…



45: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 02:28:09.33 ID:kx3iJQEk0

一口サイズのいいSSたち



46: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:07:21.46 ID:3tnS2gIH0


 気分が悪い。

 仕事の後、光はすぐに自宅に戻った。

 あんな殺し方があるか。あんな…。

 顔をミネラルウォーターで洗いながら、光は鏡を見た。

 死人のような目。

 真っ白い肌に蒙古斑がいくつか。

 身体全体も、骨が浮き出るほどやせている。

 ダイブ中毒。薬の副作用だ。

 今日は夏樹が転送してくれたが、

 いつもは一度に錠剤を

半ダース分摂取している。

 まるでアタシが幽霊みたいだ。

 光は苦笑しながら、寝室に向かった。

「おかえり」

 そこには少女がいる。

 少なくとも、光には“そう見える”。

「ただいま、麗奈」

 光は幻像に向かって話しかけた。

 これも薬の影響だと、彼女は考えている。

 麗奈は、光が初めて消去した

 電子空間の住民だった。

そして、そこのプロパイダーの娘だった。

両親の死に呆然とする彼女をよそに、

光は電子空間から脱出した。

そういう風に記憶している。


ある日から、ぼんやりと部屋に

麗奈が現れるようになった。

症状が悪化した今は、ずいぶんくっきりとしている。



47: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:08:20.01 ID:3tnS2gIH0

「今日は何人殺したんですか?」

「アタシが直接撃ったのは、8人だ」 

 光の答えに対して、麗奈は笑った。

「いいえ、貴女が見殺しにした人も、
 
 しっかり数えなくちゃ」

 子どものような、純粋な笑顔で、

 幻はゆらゆら揺れる。

 光の精神は、彼女によって圧迫されているのか。

 それとも限界の近い精神が、幻覚を見せるのか。

 光は麗奈に、ミネラルウォーターの

 ペットボトルを投げつけた。

 すると、ふっと彼女が消えた。



48: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:08:45.42 ID:3tnS2gIH0

 光は浴びるほど酒を飲んだ。

 未成年であったが、殺人を犯すことに比べれば、

 ささいなことである。

 そして、ばくんと、自分の右肩の関節を脱臼させた。

 以前任務で外れてから、光の関節は緩くなっている。

 自殺をする度胸はない。

 リストカットをするほどハイになることもない。

 これは光なりの自傷、あるいは自罰行為であった。



49: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:09:16.20 ID:3tnS2gIH0

 南条光は、いまは封鎖された阿波で生まれた。

 生まれてすぐにロケート適正を調べられ、

 10歳までに決断を出すように迫られた。

 両親はより上位の楽園へ至るために、

 光に徹底的な“正義心”を

植え付けた。

いや、厳密には悪への憎悪を。

その教育は功をそうし、

 光は迷うことなくロケーターの道を選んだ。

 全て順調だった。

 初任務の、その時までは。




50: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:09:58.75 ID:3tnS2gIH0

翌朝、二日酔いで頭痛を覚えながら、

 受話器を取った時点で、相手がわかった。

 ごちゃごちゃしたドラムとエレキギターの音が、漏れている。

「こちら、南条」

『どうしてお前が出るんだ』

「…ここはアタシの部屋です」

 向こうから、小さく笑う声が聞こえた。

『良いニュースと悪いニュースがあるんだ。

 どっちから聞きたい?』

 夏樹はもったいぶって言った。

「悪い方から」

『幽霊がまた現れた。

 そんで良いニュースは、難波が死んだことだ』

 これには光も、くは、と声を漏らした。

『…難波はS級だった』

 音楽が止み、真剣な声が受話器から響いた。

『アイツを殺るってことは、少なくともS級

 下手をすればSS級だ。

 光、お前はしばらく引きこもっていた方がいい。

 上に話はつけておく』



51: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:10:33.92 ID:3tnS2gIH0

「謝りたいけど、相手に許してもらえないとき、

 どうすればいい?」

 受話器に耳を当てながら、

 おぼつかない口調で、光は尋ねた。

 夏樹は、しばらく考えてから答えた。

『……謝る姿勢にもよるな。

 許してほしいからなのか

 謝りたいからなのか。

 それで相手の受け止め方も変わるだろ』

 光の視界の端で、血まみれの麗奈が笑った。

 電話が切れた。

「アタシは正義の味方になりたかった」

 吐瀉物にまみれたシーツの匂いを嗅ぎながら、

 光は呟いた。

 麗奈達がくすくすと笑った。

「悪い奴は、コテンパンにして、皆を助けたかった」

 ロケーターがやっているのは、

 どんなに飾っても弱者の虐殺。

 だが、誰かがやらねば、電子空間は

 全てシャットダウンされてしまう。

 こんなとき、家族に相談するのが10代の少女らしかった。

 しかし、光はそうしなかった。

 彼女は最近になって、

 自分が両親に売り飛ばされたことに、

 気づいてしまったから。



52: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:11:05.25 ID:3tnS2gIH0

安斎都は、電子空間の海を泳いでいた。

特定のチャネルには入らず、文字化けした0と1の間を

するすると進んで行く。

彼女は今、失踪ロケーターの捜索を行なっていた。

最近職務の酷薄さに耐えかねて、電子空間に逃げ込む輩が増えている。

都も気持ちはわかる。

はじめは世界を守る仕事だと誇りを持っていたが、

数ヶ月もせずに辞職届を五枚も出した。

すべて却下された。

都が甘美な楽園に足を踏み入れるためには、

契約を取り消すだけの手柄を立てる必要がある。

周りは全くあてにならない。

先輩の木村夏樹は、

「10代なんてただの荒野だ」

などと、からから笑うだけだった。

失踪したロケーター達は、

特定のチャネルには留まらず、

海を泳いでいる時間の方が長い。

都も、同じようにして探す。



53: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:11:49.90 ID:3tnS2gIH0

数列の残滓が身体をすりぬけて、またどこかへいく。

海水はデリートされた空間の破片でできている。

なので、それをすくってスキャンすると、過去に存在した

チャネルの情報が残っていることがある。

なにやら近頃は、現実空間を

汚れた景色をそっくり模倣したチャネルが増えているらしい。

楽園の中に、地獄を創造しているのだ。

都は苦笑した。

持続する快楽すらも窮屈になって、逃れたはずの現実を

電子空間の中に持ち込むとは、本末転倒ではないか。




54: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:12:56.56 ID:3tnS2gIH0

南条光は、すでに化石になりつつある

 ビデオテープを、デッキに入れた。

 内容は特撮もの。光の趣味だ。

「レッドマ〜ン、レッドマ〜ン、ンフフフ」

 昔は難解なものを好んだが、この頃はシンプルな勧善懲悪

 いや、正義による一方的な蹂躙に偏っている。

 理由は、言うまでもない。

「そうよ、正義はこうでなくっちゃ!!」

 光が振り返ると、ソファに麗奈が座っていた。

「御託を並べて自己弁護をするのは、ただの臆病者。

 正義も悪も、ただ、“そうある”だけでいい!!」

「その通りだ」

 光は同意して、彼女の横に腰掛けた。

 紙コップにコーラを注ぐ。

 すると、それを麗奈が取って、

 ぐびぐびと飲み干してしまった。

「…これは、アタシが飲んだことになるのか」

 まあいいや、と南条はもう1つ紙コップを出した。



55: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:14:56.24 ID:3tnS2gIH0

「アーう、あ゛ーあー」

 バッドトリップ。

 視界が、世界が、おぼつかない。

 気分が悪い、いや気分がいい時なんてあったか。

 正義の話、そうアタシは、世界が中心の、

 そう、まっすぐ、アタシなんだ。

 その顔は何だ!?その眼は何だ!?その涙は何だ!?

 自分自身の力で光になれるんだ。

 ヒーローが必要なんだ・・・。ヒーローが・・・。

 だってやるしかないだろ?

 テレビジョンが砂嵐に変わる。
 
 光は嘔吐しながら、ベッドに横たわった。

 「ざまあみろ」
 
 麗奈が言う。

「アンタなんて名前?」

 麗奈が尋ねる。

「アタシは…南条、光」

「「通りすがりの、仮面ライダー」」「キャハハハ!! 馬っ鹿みたい!!」

「人殺し!」「ピーマン嫌い?」「お肉ゥ!!」

「滅びゆく弱者に、涙など要らぬわ…」

「白いお部屋に子供が1人、まっくろい犬が2匹。

 でも首輪はひとつしかないの」 
 
 麗奈がいっぱいだ。麗奈がいっぱいて、

 寝室を埋め尽くしている。

 光はうずくまって、耳を塞いだ。

 しかし声は聞こえ続ける。

「許して…」

 そう呟くと、麗奈の1人が、光の頭を撫でた。

「__________?」

声が聞こえなかった。

彼女は、優しく微笑んでいた。



56: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:15:23.25 ID:3tnS2gIH0

光が目を覚ますと、部屋は滅茶苦茶になっていた。

テレビは壊れ、ビデオはテープが千切られている。

フィギュアの大半が、五体が不満足になっている。

身体中が汗でびっしょりだった。

シャワーを浴びよう、そう思って寝室から出ると、

玄関の鍵が開いている。

まさか、この雨の中、

自分は外に出たのだろうか。

光は、バスタブにpH調節薬と

たっぷりのお湯を注ぎ、身を沈めた。



57: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:15:52.27 ID:3tnS2gIH0

木村夏樹は単身でダイブを行なっていた。

掃除ではなく、幽霊探しのためだ。

彼女は犯人の目処をつけはじめていた。

現在、生身電子にかわからず、

人々の大半は識別用のチップを埋め込まれている。

例外は、違法な空間で“産まれた”子ども。

どこぞの変態技術者によるものか、

電子空間での生殖によって、

擬似的な精神プログラムが発生するような

チャネルが最近見つかっている。

仮にそのプログラムが、ロケート能力を持ち、

現実空間での身体を構築できるとしたら?

識別コードにも反応せず、ロケーターの殺害後は、

再び電子の海に消える。

奇々怪々な仮説だが、いかんせん自分達の能力や

機器からの流血を考えると、不可能とも言い切れない。

これが正解だとすると、かなり厄介だ。

特に、増殖などされた時には手に負えない。

わらわらと現実空間に這い出してきた日には、

ロケーターは1人残らず殲滅されるだろう。



58: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:16:28.06 ID:3tnS2gIH0

 南条光は、部屋の片付けを始めた。
 
 壊れたものを全て窓の外に放り投げる。

 テレビも、ビデオも、フィギュアも、汚れたシーツも。

 一度誤って、自分が落ちそうになった。

 その時は、麗奈の1人が身体を支えてくれた。

 他の麗奈は舌打ちをした。
 
 それから光は、PCの前に立った。

 ラムネのような錠剤をばりばり噛み砕きながら、

 モニターに手を当てる。

「光の…オーロラ…身に纏い〜」

 光が口ずさむのに合わせて、

 彼女の身体が青い粒子に変わっていった。

 ダイブ。

 



59: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:17:11.12 ID:3tnS2gIH0

 光は膨大なチャネルが、パルスの紐帯によって

 蟻の巣のように連なっている風景を幻視した。

 その中では、皆だらしない顔をして、

 快楽を享受している。

 ひどく退廃的だった。

 ただ生きているだけ。

 こんなやつらの生活を担保するために、ロケーターは……。

 光の中に、ふつふつと昏い怒りが込み上がってきた。
 
 「アンタは、この愚民どもの犬なの?」

 麗奈がふよふよと、そばを漂っていた。

「ちがう…とは言えないな」

 光は肩を落として、返した。

 大義はある。しかし、それは自分で掲げたものではない。

「アンタの正義は、どこにある?」

 光はすぐに答えることができなかった。

 正義とは、悪の相対によって生じるもの。

 逆もまた然り。

 ゆえに価値観、

 厳密には“決定的な悲しみや痛み”を

 共有できない世界では、正義も悪も存在しない。

 全てが他人事で、虚像に過ぎないからだ。



60: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:17:56.45 ID:3tnS2gIH0


「…この世の悪の前にある」

 光は皮肉った。そんなものはどこにもない。

 電気信号に対する反射装置と化した人類に、

 難解すぎる概念だ。

「それじゃあやっぱり、光は正義の味方になれるわ!!」

 麗奈はけらけら笑って、電子空間の星々に手をかざした。

 そして、手をぎゅっと握ると、

 指の間から光の粒子がはらはらと散った。

「麗奈…?」

 光は呆然とした。これも幻覚か。

 A級ロケーターに、こんな真似はできない。

 いやSS級でさえも。

「今アタシは、けちなロケーター殺しから、

 人類の天敵になった…。

 ねえ光、これでアンタは戦える?」

 麗奈はまた笑った。

 こんな、悲しそうに笑う少女を、

 光は知らなかった。



61: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:18:29.25 ID:3tnS2gIH0

 現実空間に戻ると、部屋が血と錆にまみれていた。

 外に出ると、アパート、いや区画そのものが、

 赤黒く染まっていた。

 まぼろし、光が言いかけた時、夏樹が現れた。

「無事だったか」 

 そう言う彼女に、光はぺたぺたふれた。

「本物の夏樹さん?」

「アタシ以外アタシじゃねえよ。

 偽物でも見たか?」

 夏樹はからからと笑った。

「正規のチャネルが複数、まとめて消滅した。

 上はカンカンを通り越して、便器に向かって懺悔してる」

 あの風景は幻覚ではなかったのか。

 光は両手を差し出した。

「アタシがやったんだ」

「嘘つけ。お前にそんなことする力はねえし、

 あっても絶対やらないだろ」

夏樹は光の手を、ぶっきらぼうに払った。




62: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:19:51.46 ID:3tnS2gIH0

CRISISの会議室で、光は幽霊について報告した。

ある者は眉をひそめ、ある者は愕然とした。

前代未聞のSSS級ロケーター。

電子世界を自由に移動するだけでなく、

チャネルを丸ごと握りつぶしてしまう。

光の話が真実だとすれば、人類の危機である。

「これで皆、“目が覚めた”かな」

夏樹の言葉にロケーター達が苦笑した。

幽霊による虐殺さえも、楽園の住民達には

ちょっとしたスリルの追加でしかなかった。

こわいね、と一言、言ったきり

また快楽に耽っている。

もしかすると、彼、彼女達にとっては

生も死も、すでに曖昧なものなのかもしれない。



63: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:20:20.30 ID:3tnS2gIH0

これからは、チャネル整理はしばらく休みだ。

各自、全力で幽霊の抹殺にあたってくれ」

統括部の東郷あいの言葉に、一同は曖昧に頷いた。

光は会議室の中にいる麗奈を、そっと一瞥した。

今ここにいる麗奈は、誰にも見えていないようだ。

したがって、彼女は幽霊ではない。

光は、麗奈が複数見えていることを口にしていなかった

なんとなく、話すのが面倒だった。

話したところで、混乱を生むだけ。

そんな自己弁護をしながら、光は部屋を出た。





64: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:20:48.21 ID:3tnS2gIH0

家に帰って、ビデオの続きを見るのだ。

もう考えるのはやめた。

相手がSSS級のロケーターなら、

電子空間をジャンプして、

PCからPCへ移動ができるという。

いままさにCRISISにやってきて、

ロケーターを皆殺しにすることなど造作もない。

A級の光など一捻りだ。

かすかに緑色をした雨に、

建物のネオン灯が散って、

外の風景はひどく幻想的だった。



65: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:21:46.89 ID:3tnS2gIH0

 木村夏樹は尾行相手を見た。

 薬の副作用のせいか、ふらふらだった。

 譫言のようになにかぶつぶつ言っている。 

 もう長くないな。

 夏樹はため息をついた。

 A級ロケーターは、S級やSS級の負担を

 減らすための消耗品だ。

 ロクな治療も手術も受けられず、雑草のように死ぬ。

 光は、水たまりにすべてすっ転んだ。

 そして倒れたっきり、起き上がらない。

 どうした…!?

 夏樹が物陰から足を出すと、

 世界が一変した。

 パネルを裏返すように、ぱたぱたと

 景色が入れ替わっていく。

 電子世界に引き摺り込まれた。

 夏樹はホルスターから拳銃を抜いた。

「…はあ?」

風景は一面灰色の、採石場だった。

特撮か。

夏樹が苦笑する前に、地平線から大量に、

おでこの広い少女が押し寄せてきた。

皆、黒一色の戦闘服を着ている。



66: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:23:18.65 ID:3tnS2gIH0

拳銃で撃っていたら間に合わない。

夏樹は左手の指をこめかみに当て、右手を前にかざした。

「デリート」

彼女の声に合わせて空間が抉り取られ、

相手が12名ほど消滅した。
 
空間展開能力を逆用した、空間の強制封鎖。

SS級ロケーターのみ許される能力。

しかし、その負荷は重い。

彼女の瞳から、血が一筋流れた。


「ザコはザコらしくしてなさい」

「雑魚戦闘兵が何言ってやがる」

1人の言葉に、夏樹が返す。

強がってはいるが、デリートは何度も使えない。

「アタシと光の邪魔をしないでよ!!」

「ちょっと、光様はアタシのヒーローなのに!!」

「やろう、ぶっろしてやる」

「きゃあ、じぶんごろし」

肩で息をする夏樹をよそに、彼女達はお互いを攻撃し始めた。

皆、光に対する執着心が強すぎる。

正体のわからない相手に、夏樹は困惑した。

「「「この気持ちは何なのかしら!?」」」」

少女達がぐると一斉に、夏樹の方を見た。

夏樹は肩をすくめながら答えた。

「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」



67: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:24:31.87 ID:3tnS2gIH0

光が、ロボット配達人からピザを

受け取っていた時、麗奈は現れた。

右肩から流血していた。

「アタシ、光のこと愛してるんだってさ」

「他人事みたいに 」

「今のアタシ達は、まだ他人だったの!

これからもっとお互いのことを知らなくちゃ!」

アパートの玄関で、

麗奈はしゅるしゅると服を脱いだ。

光は息を飲んだ。

光のやせ細った身体とは違い、つくべきところに

肉と脂肪がついている。

少女と女性のアンビバレンス。

ふくらみかけでも、強い自己主張をする胸。

きゅっとしなやかにくびれた腰。

つるりと卵のように艶のあるお尻。

肩口の傷にあって、そこから流れる血河が、

なめらかな肌の上をゆっくり流れて、陰部から地面に垂れる。

途方もなく、どうしようもなく、美しかった。



68: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:25:27.71 ID:3tnS2gIH0

「キッスをしましょ!」

ドアを閉じて、麗奈は光に近づいた。

光は抵抗せず、身を任せた。

「あ…駄目。

 キッスしたら、好きになっちゃう」

唇がふれあう直前で、麗奈が身を引いた。

その代わり光のズボンのベルトに手をかけた。

「君みたいな女の子が、こんなことしちゃ…」

そこでようやく、光は麗奈を止めた。

だが実際は、両親を殺められた少女が、その犯人に対して

跪いて媚びるというシチュエーションに背筋がぞくぞくしていた。

背徳感、罪悪感、自己陶酔、怒り。

それらの感情が光の中をせめぎあって、ちくちくと

瞼の裏を刺激する。

「光だってまだ女の子のくせに、

 人をたくさん殺しているじゃない!

 それに、アタシはもう“女の子”じゃないわ!!」

 光の手を振りほどいて、麗奈は手際よく

 パンティを下ろした。



69: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:26:26.30 ID:3tnS2gIH0

「ひゃっ…」

 麗奈の舌が、中に入ってくる。

 こんなことをされたのは、久しぶりだった。

 「あっ、あ」

 光のお尻から背筋にかけて、電流が走った。

 さらに失禁。そこで二度目の絶頂を迎えた。

 その尿すら麗奈はごくごくと飲んで、愛撫を続ける。

 「光、ねえ、気持ち…んんぐ!」

 話そうとした麗奈の顔を、光は自身の陰部へ押し付ける。

 舌が、さらに激しく暴れまわった。



70: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:27:05.46 ID:3tnS2gIH0

 そこから2人はベッドに入って、ナメクジのように交わった。

 光は中毒と快楽でぐったりしていて、

 その身体に麗奈がまとわりついていた。

 震える舌で、光は麗奈の傷口をちゅうちゅうと吸った。

「光、んぅ!! アタシの赤ちゃん…」

 麗奈も震えながら、何度も達した。

 お互いの汗と愛液で、シーツがぐっしょり濡れた。

「アタシは、正義の味方に…なりたかった」

 絶頂して力がふっと抜けると、光は譫言のように呟いた。

 そのたびに麗奈は、光の顔を両手で優しく包んで、言い聞かせた。

「このレイナサマが、光を皆のヒーローにしてあげる」

 光はぼんやり、これって自慰になるのかなあと考えていた。

 部屋では、他の麗奈達が2人を食い入るように見つめていた。 




71: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:27:43.07 ID:3tnS2gIH0

 安斎都は、奇妙なチャネルを発見した。

 CH555。

 数年前、新人ロケーター達が

 デリートしたはずのチャネルだ。

 報告よりも好奇心が優って、都は侵入した。

 構造物は、高層マンションと、

 そこに併設されたショッピングモールと遊園地。

 きわめて世俗的かつクラシカルな幸せ空間。

 メリーゴーランドに向かう足を引きずりながら、

 都はマンション内に入った。

 警備AIやセキリュティボットもいない。

 というか、人気が全くない。

 都はエレベータで最上階に向かった。

 そこらから階段を下り、

 一階ごと全部屋を確認していく。

 大半は何もない、空っぽの部屋だったが、

 二階の23号室は、他と様子が違っていた。

 部屋の前で、都は女の子が泣く声を聞いた。

 ドアを開けると、中から黒い犬が二匹、

 都に襲いかかってきた。

 よだれを垂らし、目の焦点が合っていない。

 まるで狂犬病にかかっているようだった。

 躊躇わず発砲し、デリートした。

 泣き声は止んでいた。



72: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:28:16.88 ID:3tnS2gIH0

 玄関から正面すぐに、子供部屋があった。

 いや、配置を鑑みるに、23号室はすべて子供部屋で占められていた。

 その中を開けると、やはり他と同じで真っ白な空間。

 しかし、都は振り返った時戦慄した。

 内側のドアは、血塗れで、

 無数の引っかき傷があった。

 そして『ME』と、記されていた。

 そのドアを開けると、また別の空間が広がっていた。

 そこには都の後輩ロケーターの死体があった。




73: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:28:51.66 ID:3tnS2gIH0

光は、容赦のない暴力によって目を覚ました。

 まず顔面を一発殴られ、次は横腹を蹴飛ばされ、

 ベッドから落とされた。

 卑怯な、悪の組織の襲撃か。

 光がよろよろと立ち上がって、相手を見ると、

 それは同僚の松永涼だった。

「涼さん…一体何が」

「何がだと?

 アタシが聞きてえよ、てめえっ!!

 夏樹を殺しやがって!!」

 鷲色の髪を逆立たせて、涼は激昂していた。

しかし、光にはなんのことだかわからない。

自分が? 夏樹さんを?



74: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:29:22.43 ID:3tnS2gIH0

「今すぐにぶっ殺してやりてえけど、

 “現実空間に連れてこい”、って命令だからな!!

 半殺しで勘弁してやる。

 処分が決定したら、残り半分を殺してやる!!」

涼は銃弾で、光の両脚を撃ち抜いた。

痛みはなかった。薬のせいだろうか。

ただ、身体がどうしようもなく寒い。 

「頼む、涼さん。止血を…」

懇願する光に対して、涼は刺すような視線をぶつけた。

「人間のふりしてんじゃねえ!!」

どういう意味だ、と尋ねる前に、光の意識は暗転した。



75: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:29:54.70 ID:3tnS2gIH0

松永涼は、ずたぼろにした光を、

いや厳密には、“光を完全に模した電子生命体らしき物体”を

抱えて、空間内をジャンプした。

安斎都はCH555で、生身の南条光の死体を見つけた。

彼女は初任務から帰って来ず、入れ替わっていたのだ。

さらに、木村夏樹が尾行していた光も、

死体としてCRISISに収容されている。

情報的には、どの死体も全くの同一人物。

2人目の南条光は、ダイブ中毒者のバイタルまで

完全に模倣していた。

おそらくこの光を調べても、全く同じ結果が出るだろう。

時折、「麗奈…麗奈」と呟いている。

涼は首をかしげた。

知らない名前だった。



76: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:30:45.59 ID:3tnS2gIH0

使われなくなった会議室で、

光はテーブルに縛り付けられていた。

光は麗奈に問いかけた。

「アタシは、南条光じゃないのか」

安斎都から、状況について簡単な説明を受けた。

その最中、彼女はずっと怪物を見るような目をしていた。

「いいえ!

 アンタは紛れもなく南条光!!」

「情報的には、か」

悲しい思いはしなかった。

空っぽだった。

「一号はどうなったんだ」

「1人目のアンタは、初任務で自分に絶望してしまったの!

 せっかくアタシを助けてくれたのに!!

 ああでも心配しないで、今の光は、

 自殺をしなかった分岐の1つであって、

 偽物なんかじゃない!!」



77: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:31:44.90 ID:3tnS2gIH0

「自分にとって都合のいいアタシを作ろうとしたのか」

「ちがうわ、光。

 これは1人目も、17番目のアンタも、全ての光が願った結果。

 ずっと言っていたでしょ」

 正義の味方になりたい。

 弱者を守り、悪者を倒す。南条光の原風景。

 しかし荒廃した楽園には、殺すべき弱者しかいなかった。

「アタシが見ていた麗奈達も、複製なのか?」

「アタシ何度か、アタシ達に殺されかけたわ!!」

 けらけらと、麗奈が笑う。光は苦笑した。

「光は、アタシとおんなじ

SSS級ロケーターになれるようにしてあるわ。

あるキーワードを呟くとね。

弱くっちゃ、ヒーローは務まらないもの!!」

それを早く教えてくれれば、自分はダイブ中毒に苦しむことは

なかったのでは。

光は半笑いで、麗奈に言った。

「光なら、すぐにキーワードに気づくと思ったの!!」

麗奈はまたけらけら笑いながら、答えた。

光にとってありふれた、当たり前の言葉であるという。

「でも教えてあげない!!

 自分で道を切り拓いてこそ、アタシのヒーローだもん」

 かすかに温かくなる胸をおさえながら、光は動かない肩をすくめた。



78: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:32:17.88 ID:3tnS2gIH0

 光がCRISIS内に捕らわれてから数日後、

『幽霊殺し』が計画された。

 違法チャネルに、新たなウィルスコードをばらまき、

 住民を歩くモニターとして使う。

 その段階で意識は死ぬが、元々消去するつもりの

 チャネルだったので、誰も気は咎めなかった。

 さらに生け捕りにしたプロパイダーの

 脳髄を利用して、トラップを製作した。

 特定の空間を幽霊が通った際、

 強制閉鎖して彼女を抹消する。

 全国にいるロケーターもクラス問わずかき集めれ、

 皆が日夜、血眼になって幽霊を探した。
 
 楽園の住民達はCRISISと幽霊の攻防を楽しみ、

 それに飽きるとまた別の快楽に耽った。




79: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:33:00.81 ID:3tnS2gIH0

縛り上げられたところで血流がとまって、光の身体は

 ひどく痛んだ。

 キーワードはわからない。

 わかったところで、どうすればいいのかも。

 自分は南条光の幽霊、それも偽物の幽霊だ。

 想いも、願いも、意志も贋作。

 光は自身の記憶の海をロケートした。

 どこからが“南条光”の記憶なのか、判別ができない。

 あるいは、全ては麗奈の作った幻か。

 それとも、実は南条光はロケーターなどになっていなくて、

 これは楽園の住民が見る1つの夢に過ぎないのか。

 過ぎ去った幻想(ヒーロー)に

 憧れる少女が見る、悲しすぎる夢。

 光は、自分がどうしようもなく空っぽに感じた。

 しかし、空っぽの心のすみに、麗奈がぽつんとしていた。

光は気づいた。

1人目の南条光と小関麗奈が創造した地獄の中で、

17番目の南条光として。

「そうだ、アタシが、本当に…」

分かっていた。

世界を守るようなヒーローは、自分には無理だと。

南条光は弱くて、不器用で、小さい。

だから、せめて、誰か1人だけでもいい。

その1人の笑顔のために、

立ち上がれるような“南条光”でありたかった。

「本当に謝りたかったのは、麗奈をまっすぐに見なかったことだ」

 ばくんと、彼女の身体の中で音がした。



80: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:33:32.51 ID:3tnS2gIH0

 幽霊は、CH555で観測された。

 トラップは全て解除されたが、

 モニター上は動いていない。

 CRISISのロケーター全員が、CH555へダイブした。
 
 そこは安斎都が発見した時とは一変し、全てが

 灰色の採石場だった。

 小関麗奈は、1人で佇んでいた。

「アタシは、光以外に殺されるつもりはないわ!!」

 彼女は叫んだ。

 しかし、ロケーターの数はあまりにも多い。

 一人一人であれば、麗奈に瞬殺されるような者でも、

 寄り集まれば厄介だった。

 逃げようにも、空間を外から閉じている者がいる。
 
 麗奈は手を、ロケーター達にかざした。

 デリート。

 夏樹のものとは、精度も規模も段違いの一撃。

 しかし相殺された。

 出力を上げてもう一発打つと、ぶしゅと、肩の傷が開いた。

 相手には、それ以上の打撃を与えた。



81: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:34:23.52 ID:3tnS2gIH0

小関麗奈は、血を吐きながらデリートを繰り返した。

脳味噌がすべて口から出てしまったのではないかというほど、

頭が軽くなっている。

視界はもう真っ赤で、ほとんど何も見えない。

身体中の筋肉がちぎれそうなくらい痛い。

こんなに痛くて、寂しくて、ひとりぼっちだった記憶が

蘇ってきて、気持ちが悪い。

だが、ロケーターはまだ何十人も残っていた。

「しぶとい女だ!」

鷲色の髪を揺らめかせて、松永涼が麗奈に迫った。

短距離の空間跳躍。

そして、頭上からの踵落とし。

麗奈はすんでのところで動いた。

しかし、右腕が小枝のようにへし折られた。

「がっ…!」

痛覚信号を遮断した。

再生をする行うためのメモリは、

トラップによって削りきられた。



82: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:34:54.92 ID:3tnS2gIH0

倒れたところに、安斎都の蹴りが肋に入った。

サッカーボールのように、ぽてぽてと、

石の上を転がった。

立ち上がれない麗奈をロケーター達が取り囲んだ。

武器の弾はすでに使い果たしてしまったので、

彼女達は極めて原始的な手段に訴えて、麗奈を消去することにした。

それは、まるで鳥葬のような風景だった。

麗奈の端正な顔は、ぐしゃぐしゃにされた。

目は潰され、髪は引き抜かれ、鼻は折られ、

頰は原型をとどめぬほど腫れ上がった。

もう身体のどこから血が流れているのか、

麗奈自身にもわからない。

このままじゃ、光を正義の味方にしてあげられない。

麗奈は暴力の海嵐の中で、ぼんやりそう思った。

光、ひかる。

声を出す場所も、もう壊れている。



83: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:35:30.01 ID:3tnS2gIH0

だが、名前を呼ぶ声がどんなにか細くても、

ヒーローは、必ず現れる。



84: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:36:04.38 ID:3tnS2gIH0

麗奈を取り囲んでいたロケーターが、ばたばたと倒れた。

ウィルスコードの弾丸を受けていた。

「光、てめえっ!!」

涼は叫んだ。

光は、両手に機関銃を抱えて、ロケーター達を見ている。

どろりとした瞳。ダイブ中毒の末期患者の特徴。

彼女は、A級ジャンパーのまま、ここへやってきた。

「1人の女の子を大勢で嬲る。

 お前達は、悪だ」

ぽつりと呟いて、また機関銃を乱射した。

涼は空間跳躍で躱し、光の背後に移動した。

「くたばれ!」

頭部に向けての回し蹴り。

光はそれを銃身で防いだ。

しかし、機関銃の方が粉々になった。

涼は間髪入れず光に襲い掛かり、押し倒した。

馬乗りになり、顔面に拳を振り下ろす。

光の顔がみるみる腫れ上がっていく。



85: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:36:31.91 ID:3tnS2gIH0

だが、涼の動きは次第に緩慢になっていた。

倒した時に、光のベルトが火を吹いていた。

バックル型拳銃。 

CRISISの武器庫に保管されていたものだ。

「光、…てめえ…夏樹…」

涼の身体が、光の胸に突っ伏した。

SS級も、S級のジャンパーも全滅した。

光が残りのロケーターを見ると、彼女達は

ふっと空間の外へ退避した。

このままチャネルごと強制封鎖する気なのだろう。

しかし光は逃げなかった。

てくてくと、ゆっくりした足取りで、

麗奈のそばに行った。




86: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:37:08.35 ID:3tnS2gIH0

数分後、光のPCは咳き込むように、二人分の血液を吐き出した。
 



87: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 11:40:45.56 ID:3tnS2gIH0

おしまい



89: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/18(日) 12:50:59.13 ID:3tnS2gIH0

読みたい人は読めばいいし、そうじゃない人はエロだけ楽しめるように書いた。






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