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1: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/03/25(土) 17:49:24.050 ID:M7TdiFwLx.net
※ほんとながくなる
それはもう、退屈と戦う日々でした。
【数年前…天使学校(中等部) 入学式】
「…続いては、新入生のあいさつ…新入生代表、白羽=ラフィエル=エインズワース…前へ」
ラフィ「はい」
ざわざわ………
「入学試験、トップの成績だったらしいわよ」ひそひそ
「彼女がいた初等部でも、有名な存在だったそうだよ」ひそひそ
「白羽って、あの名門の白羽家の娘さん、流石…それに、すごい美人ね…」ひそひそ
「すごいなあ…ぜひ、お友達になりたいです」ひそひそ…
……
【前にでて、入学生代表のあいさつをするラフィエル】
ラフィ「あたたかな春の迎えとともに…ここにいる私達は無事、この天使学校に入学することができたことを…うんぬん」
ラフィ「(ああ…、なんて退屈なのでしょう)」
そう、この話は、わたしこと、ラフィエルが天使学校に入学したころからはじまります。
……
- 2: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/03/25(土) 17:51:09.315 ID:M7TdiFwLx.net
……
【2組の教室】
ラフィ「はあ…」
同級生1「あの白羽さん!」
ラフィ「はい?」
同級生1「あ、あのう、もしよかったら、わたしたちとお昼やすみに御飯、一緒しませんか」
同級生2「ぜひ、白羽さんには、いろいろとお話したいこともありますし」
ラフィ「あら、いいですねえ…けどごめんなさい…実はお昼は用事がありまして…」
同級生1「そ、そうですか…」
同級生2「しかし、用事があるのでしたら、仕方ありません」
ラフィ「ええ、すみません。ですが、また、機会があったら、ぜひまた誘ってくださいね」
同級生1と2「は、はい!」- 3: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/03/25(土) 17:52:20.684 ID:M7TdiFwLx.net
…
一人廊下を歩くラフィエル
ラフィ「(うそをついてしまいましたね)」
ラフィ「(別に用事はないんですが…正直いうと、少し気のりしなかっただけで)」
ラフィ「(退屈だった初等部での生活…この天使学校の中等部にはいれば、この退屈な日々も解消されるかと思っていたのですが…期待外れでしたね…)」
ラフィ「(私に対する周りの反応は、初等部のころと変わりはなく…白羽家の家柄と成績トップの私に対する賞賛の嵐…、あ、いや、そりゃもちろん大変、ありがたいことなんですが…)」
ラフィ「(けどどこか物足りない…なんなんでしょうね…この感情は)」
生徒A「白羽さん」
ラフィ「はい?」
生徒A「ちょっと、いいかしら?」
【ひと気ない教室】
ラフィ「あのう、こんなとこに呼び出して一体……ほかにも2人いらっしゃるみたいですが」
A「ふふ、はじめまして白羽さん。ワタクシは1組の、北斗=サキエル=フランソワーズよ。って、入学試験ではあなたに次ぐ、2位だったし、北斗家といえば、名前くらいは知ってるわよね」
ラフィ「(いや全然しりませんけど)」
B「ふふ…そして、僕は3組の風見=イロウル=テルプチコレ。…入学試験は3位だ。まあ、君と同様、名門の風見家の人間って、言ったらわかってもらえるかな」
ラフィ「(無理ですわかりません、誰ですかあなた)」
C「くっくっく、そしてあたいは4組の白馬=メタトロン=クインテッドよ。ま、名門同士、よくパーティで一緒になってるし、もういまさら、って感じかな…ちなみに入学試験は4位よ」
ラフィ「(え、パーティにあなた、いましたっけ…?)」
名前を覚えるのはめんどくさいので、そのままA~Cさんで記憶にとどめることにしました。
ラフィ「あの、それでお話というのは」
A「とりあえず、あなたに『あまり調子にのるな』、そう言っておきたいな、とおもってね。くすくす」
B「確かに入学試験で1位をとるとはさすが、あの白羽家のご令嬢…だが、次の試験は、風見家の天使として負けるわけにはいかないな」
C「くく、そう…1週間後の中間試験では、絶対に負けないわ…!ようはあたいらは、宣戦布告をしにきたってわけよ…!!白羽=ラフィエル=エインズワース!!あんたにねえええええええええ!!」
ラフィ「はあ…」
A「はあ、って、な、なによその気の抜けた返事は!あなたそれでも、あの白羽家の娘なの!?」
ラフィ「ああ、いや、そーですね…なんかこう…お互い、なんか、切磋琢磨しあって、なんか頑張って、行きましょ的な感じですねっ、うん…そーですね!お互いこれからの試験もフェアに頑張りましょうA~Cさん!」
A「A~Cさん!?え、あ、あれ、今、みんな名前名乗ったはずなんですけどっ!?てか、知らない?名門の北斗家のこと!?」
B「それになんか、切り返しも適当じゃないかなあ!?おざなりというか…」
C「そ、そうよ、ここはライバル同士、もっと激を飛ばしあう的なそんなのが…」
ラフィ「あ、ええ、ええ、大丈夫です。次の試験が楽しみですね。これからの学園生活もよろしくお願いしますねっ!それじゃ!」
C「あ、ちょ、待ちなさいよっ!!」
【そそくさと教室をあとにするラフィエル】
ラフィ「はあ…」
………
こんなことも、初等部からよくあることでした。
家柄や成績を振りかざして、周りに高圧的な態度をとる人たちにとって、私はいいオカズのようです。
オカズ側としてはいい迷惑なのですが。
ちなみに私は、こんな感じで絡んでくる人たちに試験で、負けたことがありません。
というか、私。
試験で誰かに負けたこと、今まで一度もありません。自慢じゃありませんが、1位以外、とったことないのです。
………
ラフィ「(中間試験まであと1週間…、
はあ…そうですか…入学して、退屈な日々を送りながら…もう2か月近くたつのですね…)」
ラフィ「はあ…退屈ですねえ……」
そんなことを思っているうちに、一週間後、中間試験が終了し、
そのさらに1週間後には、さっそく試験結果が廊下にはりだされました。
張り出された結果に、試験の点数と点数が高かった順に天使の名前がずらっと並んでます。
ランキング形式というやつですね。
もちろん私は、あのA~Cさんに勝ってました。ぶっちぎりでしたね。いやまあ、わかってましたが。
A・B・C「…………」
A~Cさんが廊下に立ち尽くし、唖然とした表情で、試験結果をみています。私に負けたのがそんなに悔しかったのでしょうか。
ああ、それで、私の順位ですか?
順位はもちろん2位でした。
ラフィ「えっ…、…2位……?」
………
【貼り出された試験結果にたむろする生徒たち】
ざわざわ…
「うそだろ…白羽さんが…2位だって…」
「うそ…どうして…あの白羽家の人間に勝つ天使がいるなんて…前代未聞なんじゃあ…??」
「え、一位だれだよ…あれ、なんて読むんだ?テンシン?」
「テンマだって。天真=ガヴリール=ホワイト…?え、だれ?」
「知ってる…確か6組にいる子だ…」
ラフィ「…………」
【たむろする群衆から、すこし離れた廊下にいる数人の生徒の群れ】
クラスメイト1「す、すごい、天真さん!一位だよ、学校で一位をとるなんてすごい」
ガヴ「い、いえ…違うんです…まぐれ…まぐれですよ…そんな…」
クラスメイト2「まぐれだなんて!?まぐれじゃあ一位なんてとれないよ!上位にはいっぱい家柄のいい天使がいっぱいいるのに!すごい!どうやったら、そんな成績がとれるの」
ガヴ「い、いえ、違うんです…ほんとにたまたまで…その、あんまり騒がないで」
ラフィ「天真……、ガヴリール、ホワイト……?」
天使学校に入学し、私は初めて、試験で他の誰かに敗北を喫することとなりました。
と、同時に、この敗北が、のちの大親友、天真=ガヴリール=ホワイト…通称ガヴちゃんとの出会いのきっかけとなったのです。
……
下界で会って最初からガヴちゃん呼びだったし仲良かったんだろうな
【それから数日後…】
ざわざわ…
「天真さんって言う子、すごいのね…あの白羽家に試験で勝つなんて」
「けど、天真って名前、聞いたことないわよね…どこの出なのかしら」
「よくわからないけど…噂では彼女がいた初等部では“神童”って呼ばれた子がいたって…」
「“神童”……つまり、それが天真さんのことね…、すごいわ…けどどこの初等部だったのかしら、」
「なんにしても、ぜひお友達になってみたいわ」
ラフィ「神童…」
ラフィ「(今、校内では、あの天真さんの噂で持ち切りのようですねえ)…ん?」
A「白羽さん、話があるから、ちょっと、こっち来て」
ラフィ「え、あ、あのちょっと…」
………
【ひと気のない教室】
ラフィ(入学試験1位→中間試験2位)「あのう、またしても、こんなところに呼び出しておいて、はなしっていうのは」
A(2位→6位)「どうもこうもないですわ、なんなんですか、あの天真って子は!」
B(3位→8位)「ああ…あんな聞いたこともない家柄の奴に、負けるなんて…くそ…いまいましい」
C(4位→12位)「おかしいわよ!なんか絶対不正をしたに決まってる!アタイたちは、あんなやつ、絶対に認めないわ、そうでしょ!」
ラフィ「いや、ていうか、あなたがた、それ以前に、前回より、ほかにもちょこちょこ、いろんな人に負けまくってせんかね…、3人とも順位、めっちゃ落ちてますけど」
A「とにかく!
あの天真って子!どんな手を使ったのか知らないけど、私達に勝ったからって、つけあがられたら迷惑です!1回思い知らせてやろうって話ですわ!私達、四天王の手で!」
ラフィ「いや、いつ私が四天王の一人になったんですか…あの、わたし、失礼しますね」
C「ちょ、アンタ、どこに行くのよ!アタイたちの話はまだ終わっては」
ラフィ「ただでさえ退屈な日々にうんざりしているというのに…あなた方の退屈な『さえずり』に、これ以上つき合わせないでもらいたいんですけど」
B「なんだと…!?」
ラフィ「御三方の天真さんへの嫉妬丸出しの愚痴に付き合う余裕なんて私にはないって、そう言ってるんです…それじゃ、失礼させてもらいますね」
A「はん、嫉妬丸出しだなんて、それ、あなたのほうなんじゃあないんですの、白羽さん」
ガヴの姉を考えるに天真家も有名になっていてもおかしくないとは思う
ラフィ「はい?…なんですって?」
A「だって、そうでしょう、悔しいけれど、白羽家といえば、私達以上の名門中の名門の家柄…
あなたのご父上も、その上のご尊父様も、この学校では試験で1位を取り続け、首席のまま卒業されたことは、有名な語り草ですわ…
…それが、あの天真とかいうどこの馬の骨ともしれない小娘のせいで、あなたの代で、その栄光が崩れてしまった…つまり、あなたが、白羽家の名誉にドロを塗ったのも同然の話ではありませんか」
ラフィ「……」
B・C「にやにや…」
A「余裕ぶった顔をしたところで無駄ですわ…あなただって、にくいのでしょう、あの天真とかいう小娘のこと…さあ、自分に正直になって、とっとと、私達、四天王と、あの小娘をつぶ…いえ、『洗礼』をあたえる作戦を考えましょ」
ラフィ「ふふ…ほんと、しょーもない人達ですねえ」
A「は…?」
ラフィ「天真さんに試験に負けたのが悔しいのでしたら、次回の試験では負けないよう、おのおのが努力し、研鑽をつめばいいだけの話ですのに…
それを、負け犬がそろいもそろってつぶすだの何だの愚痴を言い合って、イヌのようにキャンキャン吠えあう行為に、私にも参加しろと?それとも私にはただ、その様子を見てもらうのがご趣味?」
A「んな…!」
ラフィ「わたし、イヌは好きですけど、あなた方のような、吠えるだけしか脳のない駄犬とは、ちょっと関わりたくないですかねえ」にっこり
A「な、な…!」
ラフィ「それじゃ、すみませんが、これで私は失礼しますね」ばたん
A「ふ…ふ……」ぷるぷる…
A「ふざけてんじゃないですわよおお!!!」
あとにした教室から、おもいっきり悔しがってるAさんの声が聞こえました。
おもいっきり煽りまくりましたが、Aさんへの効果は抜群だったようです。
ただ、実際には痛み分けでした。
正直に言いましょう。
Aさんの言う通り。たしかに私は、当時、その“天真さん”に、ちょっと嫉妬しちゃってました。
その後…
【学校内にある庭園…ベンチに腰掛けるラフィエル】
ラフィ「はあ…」
?「大きなため息を出して…君らしくもない…何か、悩みでもあるのかな、白羽君」
ラフィ「あなたは…!」
ぴかああああああ…
校長「もし…、私でよかったら、…相談にのるがね」
ぴかああああ…
ラフィ「………」
校長「どうした、遠慮することはない…様子をみていればわかる…何か悩みを…」
ラフィ「校長……、いや………、あの光うっとおしいです」
校長「!?…す、すまない!つい力がはいってしまって」
………
校長「そうか…要するに君は、試験で天真君に負けたのが、悔しいのだね」
ラフィ「ええ…そして、そんな自分に激しく失望もしています
私は、今まで、家柄や成績の良さだけを自慢し、ただ見せびらかし、周りの方を威圧し、高慢な態度をとる方たちのことを正直、どこか見下していました…、
しかし、今回、天真さんに負け、自分の心に芽生える醜いキモチを感じ、気づきました。
結局は私自身も、そのような方たちと同じ穴のむじなだったんです
…私も、どこかで自分の家柄や成績が周りより良いことを鼻にかけ、こだわっていたかとおもうと…情けない話です」
校長「ふむ……、しかし、代々、守り続けた家柄を誇りにおもい、学校で研鑽をつみ、成績を他者と競い合うことは決して、悪いことではないとおもうのだが」
ラフィ「もちろん、代々守ってきた白羽家の名はこれからも守っていかねばなりません…、
そして、白羽家のこの学校において首位を取り続けてきた誇りを、私の代でだめにしてしまったのですから、これが悔しくないわけないのですが…」
ラフィ「それにしても、その天真さん…正直すごいです。
中間試験の結果…どうやったら、あのような成績をとれるのでしょう…入学試験の時の上位者にはいなかったように思いましたが…」
ラフィ「なんでも、初等部のことは"神童"、と呼ばれていた、という噂もあります…
どこの初等部だったのでしょう…今までどのように研鑽をつみ、生きてきたのでしょうか…疑問はつきません」
校長「ふむ…、君は天真くんにあったことはあるのかな」
ラフィ「いえ…ありません。クラスも違うようですし…、成績発表のときに、天真さんらしき人を、廊下で遠目でみたことがあるかもですが、さだかではありません」
校長「そうか、ではどうだろう、一度彼女に自分から会いにいってみては」
ラフィ「え…?」
校長「どうやら、君は、試験に負けた悔しさもあるが、彼女に強い興味をもっているようだ…ぜひ会って、いろいろとお話を聞いてみたい…
そう思っているようにも感じられたが」
ぴかあ…
ラフィ「あ…いや…」
ラフィ「(まあ…たしかに…彼女にはいろいろと聞いてみたいことはありますが)」
校長「私は、この学校の校長として天真君をよく知っているが…、私としては君と天真君はきっといい、友人関係になれると、そう感じている」
ぴかああ…
ラフィ「友…人…」
校長「ああ…もし君さえよければ、一度、彼女にクラスに会いに行ってみるといいさ」
ぴかああああああああ
ラフィ「あの…、いい感じのこと言って、また光でてきてますんで…あの、めっちゃうっとおしいです」
校長「!?」
【白羽家の屋敷…ラフィの部屋】
ラフィ「はあ…、とはいえ…どうしたらいいのでしょう」
正直にいいましょう。私は今まで誰かと友達になったことがありません。
もちろん、今まで多くの方と交流してきましたし、学校での知り合いもたくさんいます。
ですが、そのような方たちはどこか、私を白羽家の人間として崇め奉る方たち、もしくは敵視し、無駄に絡んでくる人ばかり…。
思い返せば、私を対等な友達として、扱ってくれた同期の生徒はいなかったのです。
そして、私自身も、自分から積極的に動き、友達を作ろうと努力したこともなく。
ラフィ「私と天真さんが…友達……、なれるのでしょうか…、いや、そもそもどのような方かわからないのに、そんなことを考えるのも…いやいや…、それ以前に」
ラフィ「話に行くって、一体、どうすれば……まずは、彼女のクラスに赴く、というのはいいとして、どんな口実で彼女とお話をすれば…」
ラフィ「どうしましょう…なにかいい案はないものでしょうか」
?「御昼のお食事をお誘いする…というのはいかがでしょう…お嬢様」
ラフィ「あなたは……、マルティエル…」
マルティエル「事情は、お嬢様の独り言を聞き、おおむね理解いたしました。どうやら、中等部へ進学し、新たな挑戦の一歩を踏み出そうとしている様子…
このマルティエル…差し出がましいとは思いますが…僭越ながら、アドバイスさせていただきたく参上いたしました」
ラフィ「お昼のお食事…ですか…」
マルティエル「ええ…まだまだ知り合いの少ない入学し間もないころは、お昼休み中にさまざまな方と昼食をともにし、様々な話をしあい、交流を深めていくもの…
他のクラスの方ということで、誘うのに多少の勇気がいるかもしれませんが…大丈夫、お嬢様なら、必ず、成し遂げることができると思います」
ラフィ「なるほど……素敵なアドバイス、ありがとうございます。ところでマルティエル……」
マルティエル「はい?」
変態登場。
安定の変態
マルティエル「はい?」
ラフィ「なぜ、あなたが唐突に現れたのですかね、今は私が部屋で独り言をつぶやくシーンでしたのに、なぜ部屋にいなかったあなたが、私の独り言を聞き、事情を把握した状態で今ここにいるのですか」
マルティエル「知れたこと…お嬢様がお困りの際は、このマルティエルどこにいても」
びーびーびー
ラフィ「あらあら…おかしいですよマルティエル…この盗聴器発見器をコンセントの近くに近づけると、めっちゃ変な周波数でて、鳴っちゃいけない警報がなりますけど」にこにこ
マルティエル「……」
ラフィ「あっれー、…このコンセントに差し込んでるやつ…これ盗聴器…ですか?…
あ、コンセントタップ型の盗聴器『神様のお耳-14式』ですね、なんでこんなところにあるんですかね」
マルティエル「…お嬢様を身の周りに潜む危険からいつでも、守れるようにと、僭越ながら」
ラフィ「盗聴器しかけるのに僭越ながらとかいう言葉、使いませんからねー、で、これ、また『TENZON』で買ったんですか?ほんと、懲りない人ですねー、それで、これを使って私の一人ごとを盗み聞きしていたと…」めりめりめりばきごきい…
マルティエル「あ、そ、そんな…わ、わたしの『神耳』…が…お嬢様の白い指先で破壊されて…ああ…」
ラフィ「なんですか『神耳』って、愛好者同士の略称なんですか、気持ち悪い人ですねー、いい加減にしとかないと、マジ豚箱ぶち込んじゃいますからねー、…はい、ほら、とっとと部屋から消えてくださいね、目障りですからね、ほらほら」にっこり
マルティエル「あああ、お、お嬢様の冷徹な…、冷徹な…言葉の数々、ああああ!!」バタン
【部屋から追い出されるマルティエル】
………
………
その次の日。
変態だけど、意外と頼りになる我が家の執事のアドバイスを採用することにしました。
その日の昼休み、私は、天真さんをお昼に誘うことにしたのです。
ラフィ「(昨日、頑張って自分で作ってきたこのお弁当をもって、6組にいる天真さんをお食事に誘うのです)」
ところがです。
【6組の教室】
クラスメイト1「天真さん…ですか…ええっと…今、教室にはいなくて」
クラスメイト2「たぶん…校舎裏にある丘のうえで…ごはんを…食べると思いますが…」
ラフィ「……え?それは他のクラスメイトの方と、丘のほうで、もうお昼しちゃってるってことですか」
ラフィ「(それだと困るのですが)」
クラスメイト1・2「いえ…その…、実は」
ラフィ「……え?」
その2人のクラスメイトは、正直に話してくれました。
天真さんは、ここのところ、お昼は、いつも校舎裏で”一人飯”なんだそうです。
昼休みだけではありません。彼女はここ最近、校内でずっと一人で行動してるそうです。
理由ですか?
『学校生活を穏便に過ごしたくば、天真=ガヴリール=ホワイトとかかわるな』、
そういった『圧力』が校内中に、水面下で広がっているから、だそうです。
一体、誰が、そんな圧力を?なんのために?
ラフィ「(まあ…、別に考えなくても…、ぜんぶ想像はつきますが…、ふう…この辺ですか)」
私は、そのまま、彼女が“一人飯”してるという、校舎裏の丘へと、足を運びました。
ラフィ「(この先に天真さんが……)」
【一歩一歩、丘にある階段に足を踏み出し、小さく、緩やかな丘の頂を目指すラフィ】
ラフィ「(あれ…なんか私……、珍しくドキドキして……ますね…、緊張してるんでしょうか…
天真さんと、お食事をご一緒させてもらう…ことを…)」
ラフィ「(きちんと…いえるのでしょうか…)」
などと、考えてる間に丘のうえ。
ラフィ「……」
その先に見える光景をみたとき、わたしは、一瞬、言葉を失いました。
………
晴天の中、心地よい風が吹く丘の上。
そこには、学校の制服を身にまとい、大きな木の木陰に座りこむ一人の女のコがいました。
その目はきれいな碧眼で…透き通るような白い肌…さらさらの綺麗な金髪のロングヘア―が風になびいています。そして、その頭のすぐうえには、この世界の住民の証である輝かしい輪っかが宙に浮いています。
座り込む彼女の横顔はまだまだ幼く、けど、どこか気品に満ち溢れた整った顔…表情はどこか憂を帯びたような表情をしていますが…それがまた、美しく気高い…
そう。その姿を一言でいうならば。
その姿はまるで…
ラフィ「………、……い」
ガヴ「え?」
【気づけば、すぐ横まで近づいていたラフィに気づくガヴリール】
ラフィ「(げ、し、しまった…気づいたら、こんな近くにまで彼女に近づいてきていました)」
ラフィ「あ、あ、あの、ご、ごきげんよう…そ、そのわ、わた…わたしは…」
ラフィ「(ああ、ど、どうしましょう…お食事に誘うために、考えたセリフが、全部ふっとんでしましました…)」もじもじ
ガヴ「え、…し、白羽……さん?」
ラフィ「え?」
ガヴ「え、白羽さん…ですよね!?ええ、な、、なななんでこんなところに!?え、ええ!?」
ラフィ「(私のことを、知っている…?、まあ、確かに入学式の時に、皆さんの前であいさつをしましたから、知っていても当然かもしれませんが…
…ですが、なぜ、こんなにも焦っているのでしょう)」
ガヴ「も、ももしかして、この丘!?何かこれからされるんですか!?す、すみません、わたし、今すぐ、捌けますからっ」
ラフィ「あ、いえ、落ち着いてください天真さんっ!あ、あの…違うんですっ!!実は私……その、これ!」
【弁当をかがげるラフィ】
ガヴ「え?」
ラフィ「あ、あなたと…ちゅ、昼食を…ご一緒…したくて」
………
【木陰に座り込み2人で昼食をとるガヴリールとラフィエル】
ラフィ「え!?それじゃあ、入学試験のときは、遅刻して1教科受けていなかったんですか!?」
ガヴ「ええ…実は…、試験場に向かってる最中、重そうな荷物を持つおばあちゃんがいて…その方の荷物運びを手伝っているうちに…、はあ、けど、ほかの試験でなんとかカバーできてよかったです」
ラフィ「そうだったんですね。入学試験時の成績上位者にいなかった理由がわかりました…ですが、中間試験では見事でした。あんな点数、私はとったことがありません」
ガヴ「いえ…そんな…あれは、たまたま…まぐれですよっ、白羽さんに比べれば、私なんて、全然…まだまだで」
ラフィ「とんでもありませんよ、天真さん。謙遜しないでください。率直に今回は私の負けでした」
ガヴ「え、い、いやいやいそんな…!?白羽さんっ…あのわたし」
ラフィ「?」
彼女は何か言いたげでしたが、わたしはそのまま別の話題に移しました。
ラフィ「ところで、自宅はどちらあたりなんですか」
ガヴ「ええっと、家はこの学校から離れた田舎にあって…きれいな湖のほとりの…」
ラフィ「ご家族は…」
ガヴ「両親と、妹と姉が…」
お昼をともにしながら、私達は、お互いのいろいろなことを、話しました。
それはとても、短い時間でしたが、分かったことがあります。
天真=ガヴリール=ホワイトさん。
彼女は名家の家柄ではないようですが、とても礼儀正しく、まじめで温厚で、とても美しく、かわいらしい顔立ちをした女のコであるということ。
率直に、わたしは、とても彼女のことが気に入りました。
ガヴ「あ、もうそろそろ、昼休みが終わっちゃいますね」
ラフィ「そうですね…、……、あ、あの天真さん」
ガヴ「は、はい?」
ラフィ「その…よろしければ…明日も……、御昼、ご一緒してもよろしいでしょうか」
ガヴ「え!?…は、はい、あの…もちろん私でよければ」
ラフィ「あ、いや…違いますね…いや、違わなくはないんですが…その…もっと具体的にいうと……天真さん…
その、私と、友達になってもらえませんか?」
ガヴ「……え?」
ラフィ「あ、ああ、いえ、その……!天真さんがよければ、でかまわないといいますか…その」
ガヴ「…………っ!」
ラフィ「あ、あの、ごめんなさい、わたし…おかしなことを」
【ラフィの手をつかむガヴリール】
ラフィ「……え?」
ガヴ「あ、あの白羽さん!あの、…わ、私でよければ、私こそっ!ぜひっ!ぜひっ、友達になってくださいっ!」
かくして、私とガヴちゃんは、このとき、お友達となったのでした。かなりあっさりと。
まだ、一度の昼食をともにしただけだった私達は、その日以来、いろいろと親交を深めはじめました。
毎日の昼食は、あの丘のうえで一緒に食べてました。
ラフィ「毎日、昼食のお弁当は自分で作っているのですね、天真さん。とてもおいしそうです」
ガヴ「ええ、まあ…妹の分の作るついでといいますか…けど、白羽さんのお弁当もおいしそうです…手作りなんですか」
ラフィ「ええ…執事に作らせると、いっつも変なのいれる気がして、その、体液的な」
ガヴ「た、体液!?執事ってそんなことするものなんですか!?」
天界の図書館で勉強しあったり…
ラフィ「すごいですねえガヴリールさん…、ノートにこんなに細かくびっしりと授業中の書き取りを…勉強になります」
ガヴ「そんな、ラフィエルさんも、こんなにたくさんいい参考書を見つけて勉強してたなんて、とても勉強になります」
一緒に体育の練習をしたり…
【ふらふらになって、校庭を走るガヴリール】
ガヴ「はあ…はあ…」
ラフィ「あら~、運動は、あまり得意じゃあないんですね、ガヴちゃん、なんかちょっとかわいいです」
ガヴ「お、おいていかないでください、ラフィ…す、すごいですね…運動も得意だなんて…ぜんぜん…おいつけない」
ラフィ「いえ、けど、授業で習う天使の術はガヴちゃんのほうが上手みたいですし…」
そんなこんなしてるうちに、私達はお互いを苗字の下の名前で呼びようになり、
さらには、お互いが考えた“あだ名”で呼び合う仲になりました。
そうそう、お互いのおうちに遊びに行ったこともありましたね。
【白羽家の屋敷】
ガヴ「こ、これがラフィのおうちですか…す、すごいですね…お城みたいです」
ラフィ「そんな、大げさですよ…さ、どうぞ、はいってください」
【自分の部屋にガヴリールをまねくラフィエル】
ラフィ「ほんとは、私の両親と妹を紹介したかったのですが、残念ながら外出中みたいです」
ガヴ「ラフィの部屋の中も、すごく広いのですね…とてもうらやましいです」
ラフィ「いえ、そんなことありませんよ…、あ、せっかく友人が来ているのにお茶もださずにすみません…。
いま執事にお茶を出すように連絡しますから」
ガヴ「あ、いえ、お気遣いなく。あれ、けど…」
ラフィ「ん?どうしました、ガヴちゃん」
ガヴ「なんだか…だれかに見られているような…」
ラフィ「………」
ガヴ「あ、す、すみませんラフィ!わ、わたしったら、お友達の部屋に来て、なんて無礼な…」
ラフィ「いえ、いいんですよ、ガヴちゃん!大丈夫です、むしろ教えてくれてありがとうございます」
ガヴ「え?」
マルティエル「失礼いたします。お茶をおもちいたしました、お嬢様」
ラフィ「あらあら、マルティエル…いいタイミングですねえ…まだ、私はあなたに何も言っていなかったのに……まるで私の発言を盗み聞きしていたような完璧なタイミングです」
マルティエル「いえ……、おそれいります」
ラフィ「ところでマルティエル…あそこ部屋の角に少し光輝くものがみえるのですが、なんでしょうねあれ…わかりますか、マルティエル」
マルティエル「……」
ラフィ「あらあら、なんですかこれ、なんですかねえ…何かとおもって手にとってみたら、これ、小型の盗撮器ですね…『神様のおめめ-15式(最新型)』じゃあないですか…なんでこんなところにあるんですかねえ…」
マルティエル「はい…お嬢様がご学友を連れてくると聞いて…いてもたってもいられなくなり、『TENZON』で購入いたしました。
部屋で二人きりになり、間違いがあってはいけないと思い、別室で監視(+録画)を……」
ラフィ「間違いがあって、いけない生き物なのはあなたですからねー、マルティエル…前回あれだけ言ったのに、なんでいうこと聞けないんですかあ?その脳みそは犬以下なんですかね?保健所ぶち込まれたいんですか?」ごりごりごりごり
マルティエル「あ、あああ…お嬢様の白い指が、わたしの…わたしの『神めめ』をごりごりってえ…奥までごりごりってえ…
…そ、そして、わたしをイヌ以下だと……なんて、冷徹きわまりないお言葉を…」じゅわ~…
ラフィ「なんなんですかその効果音、なにがどうなった音なのか存じませんけどガヴちゃんの前でいい加減にしてくださいねー、
その『神めめ』って略称もマジキモイですからね、とにかく、とっとと出てってくださいねーキモイです、いやほんと」
マルティエル「あ、ああああ、お、お嬢さ…」バタン
ラフィ「……」
ガヴ「………」
ガヴ「あ、あのう、ラフィ…今の人は…」
ラフィ「あ、気にしなくていいですよガヴちゃん。単に我が家の恥部ですから」
ガヴ「我が家の恥部!?はじめて聞く表現ですけどなんかものすごくひどい言葉のようなっ!??」
部屋の外から、かすかに聞こえる声
『あ、ああ、お嬢様…お嬢様がわたしのことをご学友に…恥部だと…ああ』
ラフィ「あ、なんかまだ、部屋の会話が盗聴されてる気がしますね。ごめんなさいガヴちゃん、ちょっと盗聴器、探すの手伝ってもらっていいですかね」
ガヴ「は、はあ…」
………
ここからあそこまで堕落していったガヴも凄いがそれをさらっと流せたラフィも凄い
………
今度は私がガヴちゃんのお家にお邪魔した時の話です。
都市からは、少しはずれた山岳地帯、きれいな湖の近くに彼女のいえはありました。
ガヴ「うちの家はラフィの家みたいに立派ではないので、期待しないでくださいね」
ラフィ「いえいえ、そんなガヴちゃんのおうちに行けるならどんなおうちでも構いません」
【ガヴリールの家】
ガヴ「ただいまハニエル」
ハニエル「おかえりなさい、ガヴお姉ちゃん、とそれと…」
ラフィ「あ、はじめまして、ハニエルちゃんですね、わたしは、ガヴちゃんの友達のラフィエルといいます」
ハニエル「そうなんだ、はじめましてラフィエルお姉ちゃん」
ラフィ「妹さん、可愛いですね」
ガヴ「あと姉がいるのですが、今は下界の高校に通ってて家にはいないんです」
ラフィ「へえ、そうなんですね」
ハニエル「ねえねえ、ラフィエルおねーちゃん、一緒にあそぼっ」
ラフィ「ええ、いいですよ、一体、何の遊びをしましょう」
ハニエル「お馬さんごっこ」
ラフィ「…!?そ、それはどういう遊びで」
ハニエル「あのね、えっとね、まずお姉ちゃんが…四つん這いになってもらって」
ラフィ「……なっ!?よ、四つん這い…??」
ガヴ「こ、こら、ハニエル!客人になんてこというんですか、それは私が今度…」
ラフィ「い……、い…いえいえ、ガヴちゃん、全然OKですよ…お馬さん…わたし、やらしてもらいます」
【四つん這いのラフィエルの上にのるハニエル】
ハニエル「きゃ、きゃ」
ラフィ「はあ…はあ…はああ…」
ガヴ「だ、大丈夫ですか、ラフィ、なんかものすごく、汗かいてますが…」
ラフィ「だ、大丈夫です…ガヴちゃん…大丈夫…そう…体力的には全然ダイジョブなんですが…その…なんなんでしょう…(ドSの)精神的な拒絶反応がすごくて…」
ガヴ「いやなんかすごく険しい顔してますよっ、いや、ほんともう無理しなくていいですからっ!!」
ハニエル「ねえねえ、ラフィエルお姉ちゃん、えっとね、普通のお馬さんみたいに、このむち(おもちゃ)でたたいてもいい?」
ラフィ「!!???は、はい、いいいいい、いいですよおおお…!!」メラメラ…
ガヴ「いやもういいですからラフィ!なんかもう、顔めちゃくちゃ怖くなってますから、ハニエルも速やかに降りなさいっ!早くっ!!」
……
……とまあ、そんなこんなで。ガヴちゃんとは親交を深めあい。
既にこのころには、お互いのいろいろなことを話し合った仲となっていた私とガヴちゃんなのですが、
実は、私には、まだ一つだけ、ガヴちゃんにどうしても聞けなかったことがありました。
それは、“神童”と呼ばれていたという、ガヴちゃんの初等部時代の話。
一体、どこの初等部にかよっていたのか、どのような行いをすれば“神童”と呼ばれるほどになれたのか。手本としてた方はだれ、などなど。
それについて、聞きたいことはたくさんあったのですが、私からそれらを聞くことはできませんでした。¥
怖かったのです。
彼女の”神童”と呼ばれたほどの優秀なエピソードの数々を聞いて、このころにはすっかりなくなっていた彼女への醜い感情が…、
そう、あのAさんに指摘された、彼女に対する嫉妬の念が再燃してしまうのではないかと恐れていたのです。
私にとってガヴちゃんは、今や友達。たとえ一瞬であっても、醜い嫉妬する対象には、もう二度としたくありませんでした。
彼女に嫉妬し、いじわるするような方たちと同レベルになる気がしたからです。
ガヴちゃんも自分から初等部の時の話を語ることはありませんでした。
私も聞きません。それでもう、いいのだと、思っていました。
……
ところで、私とガヴちゃんが友達になり、早2か月がたったころ…校内では、ある喜ばしい変化がありました。
クラスメイト1「ねえねえ、最近、天真さんと白羽さん、一緒にいることが多いわよね」
クラスメイト2「うん、二人は友達同士になったって噂よ」
クラスメイト3「あの超名門の白羽家のご令嬢と、“神童”と呼ばれる天真さんのコンビ…とてもすばらしいですわ」
クラスメイト1「こんど、私達も会話に混ぜてもらえないかしら」
クラスメイト2「え、けど…天真さんとはかかわっちゃダメだって噂が…」
クラスメイト3「平気ですわ、だって、あの白羽さんが仲良く天真さんとお話しているんですから」
……
『学校生活を穏便に過ごしたくば、天真=ガヴリール=ホワイトとかかわるな』、
このころには、もはや、こんなつまらない圧力に従うものはほとんどいなくなり、校内でガヴちゃんを、無視する天使は、ほとんどいなくなっていたのです。
これは仕方ありません。
だって、みんなだって、ほんとはガヴちゃんとお話ししたかったのですから。
【6組】
クラスメイト1「ねえねえ、天真さん、これ教えて」
クラスメイト2「今度、一緒に遊びましょう!」
クラスメイト3「白羽さんとだけじゃなく、私達ともたまには、御飯をご一緒に…」
ガヴ「あ、ええっと、あの…あ、ちょっと、ひ、ひっぱらないで!わたしは一人しかいませんからっ」
【そんな様子をみたラフィエル】
ラフィ「(ふふ…よかったですね、ガヴちゃん)」
突然人気者になり、戸惑っているガヴちゃんをみるのはちょっとだけ面白かったのです。
まあ、ちょっとせっかく友達になったガヴちゃんをとられたような気がして、すこし寂しい気もしましたが…
なんにせよ、初めてできた大切な友達が、ハブ→人気者になる、というのは私にとっても喜ばしいことです。
ただ、残念ながら、これを快く思っていない、仕方のない方たちがいました。
まあ、言わずもがな、周りの生徒達に件の圧力をかけた張本人たちです。
いや、まあ、それが誰なのかも、お分かりのことかと、思うのですが。
【そんなガヴたちの様子を校舎のすみからのぞく3人の人影】
A「くそ…くそ…なんなんですの…どうなってんですのよ」
B「下流の家の娘ごときが…あんなに調子にのって…くそ…いまいましい…」
C「白羽の野郎も…最近仲良くしてるみたいだけど…、あの女に取り入ったってことかい…ふざけやがって…」
……
それから数日後、期末テストの結果が廊下に張り出されました。
ざわざわ…
「同率一位だって…」
「すごい…、同じ点数だなんて…、はじめてみた」
「また、あの2人ですか…すごい」
ラフィ(1位→2位→1位タイ)「やはり、やりますねえ…ガヴちゃん。今回は勝ったと思ったのですが…」
ガヴ(47位→1位→1位タイ)「いえ…、教科別に比較してみると、ラフィのほうが私よりも1科目勝ってますし…今回は私の負けですね」
ラフィ「いえいえ…やはり、評価は総合得点ですから…うーん、しかし同率一位というのも締りが悪いですねえ…あ、それでしたら」
ガヴ「え?」
ラフィ「これは勝敗を決するため、延長戦が必要ですかね!
来週ある野外授業…『天神山』で行われるハイキングで勝敗を決めるというのは…先に山の頂上に着いたほうが勝ち…どうですかガヴちゃん!?」
ガヴ「おーけー、わかりましたラフィ、延長戦のすえ、わたしの負けです。
まいりました。さすがはラフィ…いえ、さすがは、ラフィ、ですねっ!!」
ラフィ「不戦勝!?やる前からあきらめるなんてガヴちゃんらしくない!」
ガヴ「いえいえ、私、運動はいくら努力してもいまいちですし…さすがに運動神経抜群のラフィに登山で勝つ自身はありませんよ…ううう…」
ラフィ「うふふ…、なーーんて、冗談ですよガヴちゃん」
ガヴ「え?」
ガヴ「せっかくの楽しいハイキングなんです。つまらない競争なんてやめましょう、ぜひ一緒に楽しく頂上を目指しませんか」
ガヴ「ありがとう、ラフィ!ラフィと一緒にハイキング…私、とても楽しみですっ」
………
【そのころ、ひと気のない教室】
だんっ!
A(2位→6位→8位)「ほんとなんなんですの、あの天真って子は!最近ますます調子にのってます!周りの生徒もどうなってますのよ!あれほど、かかわるなと釘を刺しておいたというのにっ!」
B(3位→8位→10位)「ああ…それに白羽君も最近、あの天真という子とよく一緒にいるという話を聞くし…どうなっているんだ」
C(4位→12位→16位)「はん!白羽家のご令嬢が情けない話さね!あの天真にはとても敵わないとわかって、取り入る方向に話をもってった、ってわけだ!アタイだったら、そんな情けないこと、できやしないがね!」
B「くそ…なんとかして、あの天真に…私達、天使の手痛い洗礼を…」
C「ええ…ついでにあの『裏切り者』の白羽のやつにも、思い知らせてあげないと…!」
A「そのとおりだわ…そこで、なんだけど、わたしにいいアイデアがあるの…、そう、これ、を使おうと思っています」
B「え、こ、これって…この臭気……それ、まさか…ま、魔界の…!」
C「え…まさか…アンタ……魔界の品を…密輸したっていうの……?」
A「そのとおりよ…、魔界で人気の『魔界通販』から、とりよせたこの悪魔的な商品…これをつかって、来週の野外授業…天神山でのハイキングで、あの2人に相応の洗礼をくらわすのよっ!」
……
順調に順位下がっててワロタ
その翌週。
私達生徒は、野外授業のハイキングのため、天界にある霊峰『天神山』の麓へと集まりました。
【登山道の入り口】
先生「いいですかみなさん、いまから、この山岳ルートにそって、天神山の頂上へとむかっていただきます。休憩や昼食は適宜、登山中に取ってもらって構いません。
ただし、頂上へと向かうのに天使の術は使ってはいけません。
これは競争ではなく、自らの足を使い頂上を目指し、己の精神を鍛えることが、この野外授業の目的だからです」
生徒「はーい」
先生「ただ、頂上に着き、下山するときは、各自、神足通など天使の術を使って、速やかに下山するようにしてください。
さすがにこの山を、帰りまで、歩いて山を下っていては、日が沈んでしまい大変危険ですから。わかりましたね」
ラフィ「ガヴちゃん、一緒にがんばりましょうね」
ガヴ「ええ、がんばりましょうラフィ…それと、提案があるんですけど」
ラフィ「なんですか?」
ガヴ「昼食は、天神山の頂上についてから食べる、というのはどうでしょう?天神山の頂上で美しい景色をみながら、昼食を食べるのです」
ラフィ「いいですねえ、わかりました。そうしましょう…ふふ、それでしたら、なんとか昼くらいまでに頂上に着かねばなりませんね。あまり、悠長にしてられないと思いますけど、ガヴちゃん大丈夫ですか」
ガヴ「お、お手柔らかにラフィ…一生懸命がんばりますので…」
ラフィ「冗談ですよガヴちゃん、まあ、あまり無理をせず上りましょう…あ、けど、上るまえに、わたし、ちょっとトイレにいってきますね」
ガヴ「あ、わたしも行きます、ラフィ」
【一度、荷物を地面に置いて、登山コースの入口にあるトイレへ向かう2人】
【その様子を遠目にみる3人の人影】
A「ふふ…、荷物を置いて、離れたわね……チャンスだわ」
B「それじゃあさっそく」
C「作戦にうつりますか」
……
その後、わたしとガヴちゃんは、その足を使い、一緒に天神山の頂上を目指しました。
ガヴ「はあ…はあ…」
ラフィ「ガヴちゃん、大丈夫ですか、そろそろ一度、休憩しましょうか」
ガヴ「いえ…ラフィ…このままじゃあ…お昼までに頂上に着くのは間に合いません…このままいきましょう」
ラフィ「ですがガヴちゃん…」
ガヴ「わたしは…ダイジョブ…ですからっ…ラフィ…気を…使わないでください…、私は、ラフィに、何としても、ついていきますから…絶対…はあ、はあ」
ラフィ「……?わかりました、ですがガヴちゃん、絶対無理はしないでくださいね…無理だとおもったら、言ってください」
ガヴ「は…はい…けど、だ、ダイジョブ…ですっ…そのまま、私の前を歩いていってください…、ラフィ……わたし、決して、離れません…からっ」
ガヴちゃんは頑張り屋さんです。それは苦手な運動であっても変わりません。
それはそうなのですが。これほどまで、意地になって必死で頑張るガヴちゃんも珍しい。
新しい一面をみた気分でした。
私への対抗心でしょうか?競争、というのは冗談でしたのに。いや、率直に彼女らしくない気もしました。
一体、なぜ?
そんなこんな考えている間に…
ラフィ「はあ…はあ…あ、見えました、ガヴちゃん!頂上、頂上ですよ!」
ガヴ「は、はひ…はひ…ぜえ…ぜえ…あ、ほ、ほんと…です…ね」ばたーん
ラフィ「が、がヴちゃん!?」
………
【座り込み、お弁当を食べる二人】
ラフィ「ガヴちゃん、ほんとに大丈夫ですか?」
ガヴ「ええ、大丈夫です…ご飯を食べて、水分を補給したら、すっかり元気になりましたよ」
ラフィ「そうですか、それならいいのですが…」ごくごく
ラフィ「……ん?」
ガヴ「どうしました、ラフィ」
ラフィ「あ、いえ、別に」
ガヴ「しかし、ラフィはすごいですねえ…あれだけのペースでまだまだ余裕がある感じです…まだまだ、かないませんね」
ラフィ「何を言ってるんですかガヴちゃん。たまたま体力では私のほうがまさってますが、神通力や、その他多くの授業の評価は、ガヴちゃんのほうが上です。
私のほうこそ、ガヴちゃんにはかないません」
ガヴ「いえ…そんなことはありません、ありませんよ。だって、ラフィは、わたしの…」
ラフィ「…?」
ガヴ「あ、いえ…十分、休憩しましたし、そろそろ、おりましょうか!もうお昼をすぎていますし、下山しないと」
ラフィ「そうですね、たしか帰りは、速やかに天使の術を使って下山して、もとの登山口に戻る、という話でしたね」
ガヴ「ええ、それじゃあ、さっそく神足通をつかって……あれ?」
ラフィ「ガヴちゃん…?一体、どうしたんですか……あら?」
ガヴ「……なぜでしょう……神足通が…使えないです…」
ラフィ「え?…あ、いや……、わ、わたしも、です…翼もでない…術が、一切使えなくなってます」
………
【その数時間後……、登山口では】
先生「下山の制限時間まであと30分程度、大方みなさん下山してきましたかね…各組、点呼をとって、全員そろっているようであれば、少し早いですが、切り上げて学校へ…」
クラスメイト1「せ、先生、あの6組ですが…ひ、ひとり足りません」
クラスメイト2「あ、あの…天真さんが…まだ」
先生「…え?」
クラスメイト3「先生、2組も一人たりません。その…白羽さんが、白羽さんがまだ帰ってきてません…」
先生「え…?そんな優等生の2人が、こんなぎりぎりの時間まで帰ってきていないなんて…一体…」
A・B・C「にやにや…」
……
……
お互い、突如、天使の術が一切使えなくなった私とガヴちゃんは、仕方なく、行きと同様、その足で下山することを試みました…
しかし。
ガヴ「はあ…はあ…」
ラフィ「ガヴちゃん…大丈夫ですか…はあ…はあ…」
ガヴ「はあ…はあ、ええ、けど、なんで急に、ふたりして…、術が使えなくなったのでしょう」
ラフィ「……、わかりません、お互い、行きの登山道で、頑張りすぎて体力を失ったのが原因かも」
そんなわけありません。ていうか、わたしには、もうおおよその原因はわかっていました。
ラフィ「(…頂上で自分の水筒で水分補給したとき、味に違和感がありました…
ガヴちゃんは、疲れはてて、気づかなかったのかもしれませんが…
おそらくいやがらせの一環で、一時的に神通力を使えなくするような薬を『あの3人』が盛った、とか、
…おおかた、そんなところでしょうね…)」
予想はつきましたが、ガヴちゃんには言いたくありませんでした。
同じ学年に、自分たちを妬み、陥れようとする不遜極まりない連中がいる。
そんなこと、ガヴちゃんに言えるわけがない。
ガヴ「ああっ!」
【足をひっかけて、地面に倒れこむガヴリール】
ラフィ「ガヴちゃん、だ、大丈夫ですか」
ガヴ「はあ…はあ…ら、ラフィ…あの……、だいじょうぶ…わたしは…だいじょうぶですから…もう、帰りは、一人で先に行ってください」
ラフィ「な、何言ってるんですかガヴちゃん!」
ガヴ「……もう下山の制限時間がせまっています…せめて、ラフィだけでも、先に…はあ…はあ、わたしは、あとからゆっくり下山しますから」
ラフィ「ばかなこと言わないでくださいガヴちゃん…、行きの時に私についてくる、という意気込みはどうしたんですか」
ガヴ「はあ…い、行きとは、もう状況が違います……今は、ラフィが気を使って、わたしのペースにあわせているだけです…、そ、それじゃあ…、ラフィまで、時間内に帰れなくなって…」
ラフィ「ガヴちゃん…、そんなことどーだっていいですよ…、ほら、心なしか天候も悪くなってきてますし…、お互い、1人になるのは危険ですよ。
今は、2人そろって、無事に帰ることが大事なんです…。ほら、わたしの肩につかまって」
ガヴ「ら、ラフィ…ですが…」
ラフィ「見損なわないでくださいガヴちゃん…わたしは…、はじめてできた大切な友達を見捨てるような真似…しません。それは、絶対に、です」
ガヴ「え…はじ…めて?」
ラフィ「あ、カミングアウトしちゃいましたね…そうですガヴちゃん…わたし、ガヴちゃんが初めての友達なんです…
それまでは、ずっとぼっちでした。ひいちゃいましたかね」
ガヴ「そんな…うそ…だ、だって、ラフィのまわりには…あんなに…たくさん」
ラフィ「知り合いはたくさんいますが…ほんとうに…友達と呼べるのはガヴちゃんしかいません…わたしにとってガヴちゃんは、
初めて勇気を振り絞ってできた…心の底から尊敬できる、かけがえのない、大切な友達なんです…
そんなガヴちゃんを見捨てるような真似…わたしは絶対にしません」
ガヴ「ラフィ……、………、そんな尊敬できる、なんて……、わたしは……、わたしのほうこそ…わたし…はずっと…」
ラフィ「え…ガヴちゃん…?…あ、あら?」ぐらっ
【急に地面に倒れこむラフィエル】
ガヴ「……!?ら、ラフィ!?い、一体どうしたんですか急に!?ラフィ、ラフィ!??」
ぽつぽつ…ざあーーーーー…
【雲がかかり、雨が降り出しはじめる山の周辺】
先生「2人はまだ帰らないのですか!?も、もう制限時間もとっくに過ぎているというのにっ!」
クラスメイト1「は、はい、麓のあたりにも、全く人影がありません」
先生「一体、ど、どうしたことでしょう…、あの成績優秀な2人が、こんな時間までかえってこないだなんて…山の中でもしかして、何かのトラブルが…?まずい…一体、どうしたら…!」
ざわざわ…
「ねえ、やばいんじゃないの…周りも暗くなってきて、雨も降ってきて…とても山の中にいられる状態じゃあ」
「行きは2人であんなに早く上っていたのに…一体、なんで」
「なんで、神足通をつかわないのかしら…?」
A・B・C「…………」
C「ちょ、ちょっとちょっと…どういうこと…な、なんでまだ帰ってこないのよ…
そ、そりゃ、水筒にいれた『魔界通販』の薬がよく効いたのは分かったけど…」
B「ああ、仮に徒歩で下山したとしても、制限時間ぎりぎりには、帰路につくはず…みんなのまえにドべで到着することで、恥をかかす算段だったのに…こんな時間までかえってこないなんて…お、おいどうするんだよ、やばいんじゃあないのか」
A「ど、どうするって、そ、そんな…、そんな……、…そんなつもりじゃあ…」
先生「こ、このままじゃあ、まずい、も、もしもし!?す、すみません、緊急事態です!救助を要請します…実は…!!」
……
……
ざあーーー
ラフィ「…ん」
ガヴ「…はあ…目覚めましたか…ラフィエル…よかった」
ラフィ「……が、ガヴ…ちゃん…こ、ここは……え?」
ガヴ「はあ…はあ…はあ…」
【雨の中、ラフィエルを背負いながら、登山するガヴリール】
ラフィ「が、ガヴちゃん!?な、何してるんですか!?お、おろしてくだっ…ううっ!」
ガヴ「ラフィ…おそらく、目が覚めても、体がもう、動かないんですね……」
ガヴちゃんのいう通り。なぜか、私は、もう、思うように体が動かせません。
これはおそらく盛られた薬の影響。神通力でガヴちゃんに劣る私のほうが、薬の効き目が人体にまで影響が及んだのだと、そう思いました。
しかし、ガヴちゃんだって、無事ではありません。身体能力で私に劣る彼女は、すでに体力の限界を超えている状態です。
ガヴ「大丈夫です…わたしが、このままラフィをおぶって…下山、しますから…はあ…はあ…」
ラフィ「な、何言ってるんですか…む、無理ですよ…私、言いたかないですけど、結構、重いですし…そ、それにっ…ガヴちゃん…もう、体力が…!!」
ガヴ「はあ…はあ…、だ、大丈夫…大丈夫です…ラフィ…もうすこし…もうすこし、ですから」
ラフィ「………」
無茶でした。ナンセンスでした。
この大雨のなか、ますます足取りが悪くなっている山道を、すでに疲労困憊のガヴちゃんが、わたしを背負いながら、下山するなど…、
考えるまでもなく、無茶な話でした。
現実的に考えれば、ガヴちゃんが選択すべき行動は、こうです。
体が動かないわたしを山にいったん置きざりにして、体がうごくガヴちゃんが先に下山
→下山したガヴちゃんが周りのものに状況をつたえ
→雨がやんだあとに、わたしは、救助してもらう。
置き去りにされたわたしが助かる可能性は少なくなるかもしれません。
しかし、少なくとも、まだ体がうごくガヴちゃんが、みすみす、その道ずれとなる可能性はなくなります。
もう、いまや、これが、もっともベストな方法。
もう、そんなところまできてました。
ところが、ガヴちゃんは、その方法を選択しようとしません。
いかなる理由があれ、体の動かないわたしを山に置いて、一人下山するという、この行為を選択することが、心優しい彼女には、できなかったのでしょう。
しかし。
ラフィ「(このままでは2人とも助からない)」
直感的に、わたしは、こうおもいました。
ラフィ「む、無茶ですガヴちゃん…お、おろしてください!せめてガヴちゃんだけでも残りの体力を振り絞って、下山して…」
ガヴ「言ってることがさっきと違いますよラフィ…、
2人そろって無事にかえることが大事だって、…そういってたのに…
わたしだって、大事な…尊敬する友達を……、ラフィを見捨てるような真似…絶対にしません…から…はあ…はあ…」
ラフィ「状況が変わりました…ふ、2人一緒に帰るのは、もう、無理です…、わたしは、雨宿りしながら、救助をまちます…私なら…大丈夫…ですから」
ガヴ「いやです…、絶対に…はあ…絶対にそんなこと…しません…はあ、はあ…」
ラフィ「が、ガヴちゃん…わたしは…、もう、いいですから……おろして…ください、このままじゃガヴちゃんが…」
ガヴ「いや…です、できません、絶対に…できません」
ラフィ「……」
ガヴ「……はあ…はあ…」
ラフィ「ガヴちゃん…おろして」
ガヴ「いやです」
ガヴ「はあ…、はあ…、はあ…!」
ばしゃ… ばしゃ…
【大雨の中、ラフィエルを背負いながら、雨ですっかりぬかるんだ山道を、おぼつかない足どりで一歩一歩、足を踏み出すガヴリール】
ラフィ「………」
体が動かなくなった自分のために。
一人であれば、助かるであろう自分の命を危うくしてまで。
その小さな体で、自分をかばい、ボロボロになりながらも、必死になって、足を踏み出していくガヴちゃん。
こんなとき、友達なら、なにを感じ、なにをおもうのでしょうか。
心から賞賛し、感謝の念を禁じ得ないでしょうのでしょうか。
足をひっぱている自らのふがいなさに、自責の念にかられるのでしょうか。
わたしは、そのどちらでもありませんでした。
ここへきて、こんな状況下なのにもかかわらず……、
わたしは、彼女への感謝や、自分の不甲斐なさなんかを感じるよりも先に、
ふと、今まですっかり心の底に眠っていたガヴちゃんへの“あの感情”がよぎるのを感じてしまいました。
悔しい。
そう。わたしは、このとき、気づいてしまったのです。
わたしがほんとうにガヴちゃんに負けているのは、試験の成績なんかではない、ということを。
彼女がもつ、こういうひたむきさや、心強さ、やさしさ、であると。
自分がもし、逆の立場だったら、ガヴちゃんのために、友達のためにここまで必死にがんばれただろうか…いや、先に下山する選択をしたかもしれない。
そう。このとき、私は、わたしを助けようと、必死で体をはり、ひたむきに、必死になって頑張る、そんな、ガヴちゃんに、
2度目の“負け”を感じ、醜くも、彼女にふたたび“嫉妬”してしまったのです。
わたしは、またしても、自分に失望してしまいました。
この状況下で……、つくづく、自分は、サイテーなやつだと思ました。
そして、こうも思いました。
こんな自分が、このまま、彼女に自らの命をかけてまで、身を呈して助けてもらう価値があるでしょうか。
わたしは、ガヴちゃんの実力や才能に嫉妬し、いじわるする連中と何が違うのでしょうか。
はたして、わたしは、ガヴちゃんの友達として、そばにいる資格なんて、あるのでしょうか。
ガヴちゃんの背中に身をゆだねながら、こんな考えが私の頭をかけめぐりました。
そして、わたしは…
ざあーーーー…
ラフィ「……、…もう、友達では……いられませんね…」ぽつり
ガヴ「……え?」
ラフィ「……ガヴちゃん、わたしは…もう…ガヴちゃんの友達では…ありません…
その資格はありません…あなたに助けてもらう資格もありません……
だから、もう…おろしてください…ガヴちゃん」
ガヴ「え…、ちょ…、急に、なに、いってるんですか…ラフィ…、突然…一体どうしたんですか?」
ラフィ「…あのね…ガヴちゃん…、わたしの…こと…、大事だって、尊敬できる…友達だって…さっき、そう言ってくれましたね…
大間違いですよ、それ…、わたしは…あなたに尊敬してもらえるような要素は…どこにもありません…それどころか…わたしは、…あなたに助けてもらう価値なんかない……、最低なやつです…いま、それに気づいちゃいました」
ガヴ「…いったい、なにを」
ラフィ「ガヴちゃん…、…そもそも、わたしは、今までずっと、…たまたま生まれついて持った家柄や成績の良さを鼻にかけて…どこか、周りに優越感を感じながら生きてきました…
それもガヴちゃんに中間試験ではじめて負けて、
あなたに醜くも嫉妬の念をいだくまで、そんなことすら自覚していなかったのだから、よけいタチが悪い…」
ガヴ「ラフィ…?いや、だから、急になにを…」
ラフィ「……そして今は…、あなたが自分の身を削り、必死でわたしを助けようとしている…こんな状況なのにもかかわらず、
私というやつは……、あなたのその、ひたむきさや心強さ、やさしさ……、自分より優れたものをもつあなたに…また、嫉妬してしまったんです。
ほんと最悪…ですよね…ガヴちゃんが尊敬する要素…なし、ですよ」
ラフィ「それに比べて……ガヴちゃん、あなたは…それだけの才能にあふれながら、それにおごることなく…誰かをねたんだりすることなく…毎日、がんばっている…
…今だって…私のために……必死にがんばってくれている…、
…それに比べてわたしは……、ほんと、恥ずかしいやつです…友達失格ですよ…
…わたしはもう、あなたと友達でいられる資格はありません…
あなたに命をかけてもらって助けてもらうほどのひとではないんです…
だ、だからもう…こんなわたしのことはもう…ほおっておいてください
だって、…このままじゃあ…わたし、だけじゃなく、ガヴちゃんも…、助からなく……なっちゃ…」
ガヴ「や、やめてくださいっ!!」
ガヴ「何言ってるんですか、ラフィ…!急に、なにをバカなことを……こんな時だからって、弱気になって……そんな、そんな…バカなこと、ラフィがいわないでください……!」
ラフィ「…ガヴちゃん、けどっ…」
ガヴ「わたしの…わたしの知ってるラフィは…そう、あなたのほうこそ、“初めて”あった時から、わたしなんか、はるかに凌駕した、すばらしいひとでした…!
…ラフィは、なにをしても一番で、リーダーシップがあって、みんなにやさしくて、思慮深くて…、周りのみんなは、いつだって、あなたに助けられてきました……
ラフィは知らないでしょうが、わたしだって、あなたには何度も何度も助けられてきたんです…、初等部のころから、ずっとそうですよ…!もちろん、いまだって…!」
ラフィ「………初等部……?え……、ガヴ…、ちゃん?それって…」
ガヴ「私…初等部のころからずっと…、そんなラフィの背中をみて努力、してきたんです…!あなたにずっとあこがれて…ここまで努力してきたんですっ!
今日だってそうです!わたしは、昔のように、あなたの背中をみながら、必死でくらいつき、山を登ってきたからこそ、お昼までに、頂上までこれたんですからっ!」
ガヴ「だから……、お願いだから……、そんなラフィがそんな弱気なこと、言わないでくださいっ!わたしの知ってるラフィは、こんな状況くらいで変な弱音をはくようなひとじゃありません!
っていうか、ラフィのことは、ラフィより、わたしのほうがよく知ってますっ!
だって、わたしは、ずっとずっと、ラフィのこと、初等部のころから、みてきたんですもんっ!初等部時代、“神童”と呼ばれたあなたのことを…ずっと…!ずっと…!わたしはみてきたんですからっ!
ラフィの聡明さ、思慮深さ、リーダーシップ…、わたしは、まだどれも、ラフィの足元におよびませんっ!そして、そんなあなたを、わたしは、心の底から、尊敬していますからっ」
ラフィ「……………、」
言葉がでませんでした。
彼女から発せられる、数々の初めて知る事実に、頭が追い付かなかったからです。
結論からいうと。
初等部のころ、“神童”、などと、重々しい二つ名で、影で呼ばれていたのは、ガヴちゃんではありませんでした。
それは、わたしのことでした。
そして、ガヴちゃんは、わたしと同じ初等部出身で、そのころ、才能にあふれ、優秀な生徒として認められていたわけではありませんでした。
しかし、彼女は…そんなわたしにあこがれを抱きながら、研鑽をつみつづけ、そう、持ち前のひたむきさで、わたしに追いつこうと日々努力を惜しまず…。
その結果、……いまの学校で、ここまでの成長をとげたのでした。
つまり。
ガヴちゃんは、ずっとわたしの近くにいて、わたしのことを見続けていてくれたのです。天使学校で、友達になる前から、ずっと。
単にわたしが気づかなかっただけで。
わたしは、いよいよ自分の情けなさに涙がでてきました。
ラフィ「ガヴちゃん…、わたしは…、ごめんなさい…あなたは…ずっとそばにいてくれたのに…わたしは…私は…」
ガヴ「わたし、そんなあこがれだったラフィと……この天使学校で、友達になれて、今、ほんとに幸せなんです……、それも、ラフィのほうから、友達になろう、って言ってくれて…ほんとうにうれしかったんですからっ…!
それなのに…、友達でいられないとかなんとか…なんでこんなときに、そんな悲しくなるこというんですか!?
ラフィはもう、私にとって、かけがえのない、尊敬できる、一番の友達なんです!
ラフィが何と言おうが、わたしは、あなたの友達をやめてあげませんからっ!
そんなあなたを、こんな薄暗い山奥においていくこともできませんっ!
それに、ラフィには、わたしをここまで成長させてくれた恩も返さなきゃいけないんですからっ……、こんなときぐらい、ラフィは、素直にわたしに助けられてくださいよ!」
ラフィ「が、ガヴちゃん…」
そのときです。
ずずず…
ガヴ「え……、今、何の音…?」
がごお…
ラフィ「…、が、ガヴちゃん…じ、地面に雨が浸透して…周りが崩れかかってます…!ま、まずい…!は、早く私を置いて、急いで遠くに避難して…」
ガヴ「だから、そんなことできません…!!けど、はやく、崖のそばから離れないと…!」
ずごお!!
【そのまま地面が抜け落ち、滑落するガヴリールとラフィエル】
ガヴ・ラフィ「きゃああああああ!!!」
そのまま、谷底へ叩きつけられる………、ことなく、空中で止まる2人】
ラフィ「え?」
ぴかああああ…
突如、温かい光につつまれ、空中に浮いた状態となるガヴとラフィ
校長「ふむ、どうやら間に合ったようだな」
ぴかあああああああ…
ラフィ「こ、校長…ど、どうしてここに…」
校長「担当教師から…君たち2人がまだ下山していないとの連絡をもらって探しにきたのだよ…しかし、ほんとうに、間一髪だったな」
ガヴ「………」
ラフィ「あ、あれ、ガヴちゃん、ガヴちゃん、大丈夫ですかっ」
校長「心配いらない、白羽くん、彼女は一時的に気を失っているだけだ」
校長「それにしても…君たちのそのボロボロの様子…、命すら危ないこの状況下で、我が身を二の次にして、お互いを労わりながら、下山してきたとみえる……
いい“親友”にめぐりあえたな、2人とも」
ラフィ「え………?」
校長「ああ、最近の君たちをみて、わたしはつねづねそう感じていた。
そう、君たちは、それぞれ互いにないものをもち…そして、互いの良いところを認め合い、尊敬しあい、大事にすることができる…君たちは、とてもいい友人関係…
もはや、親友同士と言っても、いいんじゃないかな」
ラフィ「………、校長…けど…わたしは…、わたしはガヴちゃんのこと……」
校長「もちろん、それと同時に、君たちは、どちらも実力の均衡するとても優秀な生徒同士…
時に争い、競いあることもあるだろう…
その結果いかんで、喧嘩もするし、うらやみ、ねたみあうこともあるかもしれない…
だが、相手の優れた部分を理解し、それを互いに認め合ってこそ親友…、
そして、そんな親友の一面は、互いに見習いあい、追いつくことができるよう、切磋琢磨すればいいのだ。
気にすることはないんだ、白羽君、君にはそれができる」
ラフィ「……校長……」
校長「なんだい?」
ラフィ「その……、光……うっとお…しい…です…」
ラフィ「………」
……
……
そのあと。
校長の助けのおかげで、私達はなんとか、下山することができました。
しかし、長い間雨にうたれ、精神的にも、身体的にもひどく疲弊していた私達は、下山後すぐに病院に直行し、入院を余儀なくされました。
しかし、幸いにもお互い、目立った外傷はなく、わたしはというと、ほんの数日の入院で、身体は快方に向かい、無事退院することができました。
ただ、ガヴちゃんは、わたしを担ぎながら下山するという無理がたたったのか、わたしに比べて、若干退院が長引くことになりました。
先に退院したわたしは、そんな彼女のお見舞いため、病室に何度も足を運ぶ日々が続き、
その間、ガヴちゃんの病室には、意外な方たちの訪問がありました。
【入院中のガヴリールの病室】
A・B・C「ほ、ほんとうに、す、すみませんでしたっ!」
ガヴ・ラフィ「………」
A「ほ、ほんとうにごめんなさい…、まさか、こんなことなるなんて…、謝ってすむ話じゃないのはわかっていますが」
B「しかし、気づいたんだ……君たちがお互いを助け合いながら下山してきた、というエピソードを聞いて…今までの自分たちの醜さや不甲斐なさ、情けなさに…」
C「アタイたち、これからは、あんたたちのような立派な生徒になれるよう、心を入れ替えてがんばるからっ…、だ、だから、今回の一件、水に流してくれないかなっ…」
ガヴ・ラフィ「………」
スーパー・ミラクル・デラックス都合のいいことを、3人は言いました。
ラフィ「(一体、何を、言ってんですかね…この連中は…、自分たちのしたことの重大さがわかってないんじゃあないでしょうか…)」
ラフィ「(そもそも以前、周りの生徒に、ガヴちゃんに関わらないようにいじわるしてたのも、この3人なのでしょうし、
今回の一件では、この3人のせいで、命すら危ない事態になったというのに…、しかも、ガヴちゃんは今も入院したままです。
当然、このくらいの謝罪で許すわけにはいきません。そう…この私が、じっくりと、コトコト、たんねんにこの3人に、…おおいなるお導きをしないことには…そうですね、まずはイヌの…)」
ガヴ「わかりました、水に流しましょう」
ラフィ「ふぁ!?」
A「え!?ほ、ほんとに…、ほんとに…いいん…ですか。こんなに…都合のいいことを…わたしたち、言っているのに…ほんとに、もう許して…くれるの…?」
ガヴ「ええ…、たしかにお話の真相を聞いて…正直、ちょっと悲しい気持ちになりましたが…
ですが、こうして、3人が私達のところまで赴いて、謝りに来てくださったのですから…許します。もう、顔をあげてください」
B「そんな…、天真くん…きみは…な、なんて…慈悲深い人なんだ…うう…」
C「ほ、ほんとだよ…ありがとう…ありがとう……!」
ラフィ「………………………………、」
ガヴ「あ、ご、ごめんなさいラフィ…、わ、わたし、自分ひとりの判断でこんなこと言ってしまって…!ラフィもわたしと同じ被害者の立場だというのに…ラフィ…ラフィは、どう思いますか…」
ラフィ「……、…イヌのまね」ぼそ
ガヴ「……は?」
ラフィ「あ、いえ、もちろん、ガヴちゃんわたしも同じ気持ちです。
許します、水に流しますとも。
しかし、そうですね…やはり、このまま許す、というのは、心を入れ替えた3人も気が済まないかもしれません…
そこでどうでしょう、3人には私達2人の“お導き”を受けてもらう、というのは…」
ガヴ「ええっと、ラフィ…それは、どういう」
ラフィ「基本的に、ですね。3人にはちょっとイヌの真似をしてもらいたくて」
ガヴ「急に何言ってんですかっ!?」
ラフィ「いえ、ガヴちゃん、最後まで聞いてください。
具体的には、そうですね、ちょっと3人には、まあ、なんか、全校生徒がみてるまえで、四つん這いになってもらってですね…、
わたしたちの足を、てっかてかになるまで、ペロペロなめるみたいなのがいいですね。
それからさらに、そのお披露目が済んだあとも、廊下とかで私達にすれ違うたびにわんわん、とか、キャンキャンとか、元気よく吠えてもらって、継続的にイヌの真似をやってもらうとか、そういうのはどうでしょうね…、
そしてさらにさらに、来年以降は毎年、新しく入ってくる後輩たちの前で、再びわたしたちの足をですね」
ガヴ「ラフィもこうして、許す、といってくれてるみたいです。
後半の話は、ぜんぶ、ラフィなりの冗談みたいですので、気にしないでください」
ラフィ「!?」
ラフィ「い、いえ、あの…ガヴちゃんわたしは」
ガヴ「冗談ですよね、ラフィ」にっこり
ラフィ「いや、あの」
ガヴ「で、す、よ、ね」にっこり
ラフィ「は、はひ…」
ガヴ「どうやら、ラフィもわたしと、同じ気持ちみたいです。
これからは、おなじ学校の生徒として、がんばっていきましょう!」
A「ぐす…ぐす…、ありがとう…天真さん…白羽さん…ありがとう…ありがとう」
B「な、なんてことだ…心が…心が洗われる気分だ…あああ」
C「あたいたち…、これから、アンタに少しでもおいつけるように…がんばるよ…!…」
ラフィ「え、ええ~、なんなんですか…これ…なんなんですかあ…」
………
………
【3人が帰ったあと、ガヴリールの病室】
ガヴ「すみませんラフィ…、わたしの意向にあわせてもらって…、ですが彼らも深く反省していたようですし、わたしはもう、
同じ学校の同級生同士、変な遺恨は残したくなかったんです」
ラフィ「もういいですよガヴちゃん…ガヴちゃんがそこまで言うのでしたら、わたしはもう、何もいいません。ガヴちゃんのキモチを尊重します」
ガヴ「ありがとう、ラフィ…さすがは……、さすがは、その………、さ、さすがは、…わたしの友達っ、ですね」
ラフィ「……友達」
ガヴ「え、な、なんですか、ラフィ、なんですか!?もしかして、まだ、違うっ、ていうんですか!?下山してたときも…そのようなことを言ってたから、私、気にしてたんですけど…ラフィ…ラフィと、わたしは…、友達じゃあ…ないんですか?」
ラフィ「………、そうですね。わたしとガヴちゃんは……友達なんかじゃあありません」
ガヴ「ら、ラフィ!?」
ラフィ「親友ですよ」
ガヴ「え?」
ラフィ「わたしとガヴちゃんは、親友です。友達、よりも上です。
お互いを認め合い、尊敬し、時に競い合う…そんな、親友同士ですよ、ガヴちゃん」
ガヴ「親友……」
ガヴ「」ぽろぽろ…
ラフィ「え、が、ガヴちゃん…ど、どうしたんですか急に泣き出して!?どこか体の調子でも…!」
ガヴ「あ、い、いえ…ご、ごめんない…ラフィ…わたし、わたし、ラフィにそこまで言ってもらえてほんと…うれしくて…」
ラフィ「ガヴちゃん…」
ガヴ「そ、そうですねっ、私達は、親友同士です!ともに、これからも仲良く頑張っていきましょう、ラフィ!!」
ラフィ「ええ、ガヴちゃん!!」
ガヴちゃんは、わたしより優れている点がたくさんあります。
それは、学校の成績だけではなく、
彼女のひたむきさだったり、心の強さだったり、やさしさであったりもします。
そういった自分を上回る部分にかんして、私は時に悔しく感じます。それはもう、否定しません。
しかし、そんな彼女の優れている面は、素直に見習い、少しでも追いつくことができるよう、私が努力すればいいのです。
そう、かつてガヴちゃんが私の背中を追って、努力したように。
そして、ガヴちゃんは、今でも私のことを尊敬している、といってくれました。
互いの良いところを認め合い、尊敬しあい、大事にすることができる友達。
それは、校長がいったように、それはもう、親友といってもよいのだと思います。
私とガヴちゃんは、親友同士となりました。
それから.
親友ガヴちゃんと過ごす学校生活は、とても楽しく、実りあるものとなりました。彼女とは、多くの時間を共にすごし、よく遊び、よく学び、よく競いあい…
ときに喧嘩をすることもありましたが、私達の友情は決して変わることはありませんでした。
A~Cさんもそれ以降、わたしたちにいじわるしてくることは決してありませんでした。どうも、ほんとにこころを入れ替え、頑張るようになった様子でした。
ああ、それと、その後の私とガヴちゃんの試験結果ですが。
確か、それ以降は勝ったり負けたりだったと思いますが、あまり詳しくは覚えていません。
ただ、私にとって、もう試験の勝ち負けはあまり重要ではありませんでした。
わたしにはもう、彼女は自分に比べ、何が優れ、見習うべきなのか。それはもう、
とっくにわかっていましたし。
そしてそれは、試験の結果とは、あまり関係のないところでした。
ガヴちゃんのそばにいることが、わたしにとって、何よりも勉強となりました。
それから1年、2年と時が過ぎ、天使学校の卒業も間近となった冬…
【図書館】
ラフィ「あら、一体なんの本を読んでるんですか、ガヴちゃん」
ガヴ「あ、ラフィ…実は、卒業後、住む予定になる下界の本を読んでまして…」
ラフィ「下界の中でも、小さな島国の…、ふーん…ガヴちゃん、どうしてここを選んだんですか」
ガヴ「近くに、大きな湖と山があるんです。湖は、自分の家の近くにある湖に似て、とてもきれいですし、それに、この山は1年のとき、ハイキングに行った天神山に似ています。
わたしにとって、天界での大切な思い出を胸に、下界でも過ごせそうで、ここに住むことに決めたのです。
ほら、この本の写真、みてくださいよ」
ラフィ「ほんとう、湖も山も綺麗ですねえ…ですが、ガヴちゃん。
1年の時の山でのハイキングは、あれだけひどい目にあったというのに…、
あれが大切な思い出ですか?」
ガヴ「なに言ってるんですか、ラフィ。確かにつらい目にあったのは事実ですが、あのハイキングのおかげで、わたしはラフィと親友同士になれたんですから、わたしにとっては大事な思い出ですよ」
ラフィ「ガヴちゃん…ふふ、そうですね。確かにそう考えると、私にとっても、あのハイキングは、とてもいい思い出です」
ガヴ「ところでラフィ、ええっと……、ラフィは卒業後、どこに」
ラフィ「わたしは…わたしは実はいろいろと悩んでいたんですが…
ですが今決めました。ガヴちゃん、わたしもそのガヴちゃんが済む下界の土地についていきます」
ガヴ「え、い、いいんですかラフィ…!?てか、そんなあっさり…無理にわたしにあわせなくていいんですよ、ラフィはラフィの望む道を…」
ラフィ「ええ…私のほうが、まだまだ、ガヴちゃんのそばにいて、いろいろ勉強したいのです。これからもガヴちゃんと一緒にいたいのです…それとも、迷惑ですかね」
ガヴ「そんな、そんなわけないじゃないですか!下界での暮らしにもラフィがいてくれたら、とても心強いです!ラフィ、こちらこそよろしくお願いします」
ラフィ「そうです、ガヴちゃん、下界に行ったら、その山、また一緒に上ってみませんか。
今度は、以前のようにトラブルにならないように、もっと事前準備していく必要がありますが」
ガヴ「いいですね、ぜひ、一緒に頂上をめざしましょう!」
【ラフィエルの屋敷にある庭園】
ラフィ「結局、天界でできた初めての友達、そして親友であるガヴちゃんについていくことに決めました…
ラフィ「…本当は、お父様やおじい様に勧められた西洋の土地に住むことも考えていましたが…
わたしの判断は、間違っているでしょうか、マルティエル」
マルティエル「いえ…聡明なお嬢様がご自身の意思で決められたこと…間違っていることなどありません。
そして、きっとおふたりも、お嬢様のその気持ちを尊重し、ご理解してくれるはず」
ラフィ「…ふふ、ありがとう、マルティエル、ちょっと自信がでてきました」
マルティエル「しかし、お嬢様が下界へ行かれ、しばらくお会いできなくなってしまうと考えたら…
小さなころからお嬢様にお仕えてしてきた私としましては、とても悲しくおもいます」
ラフィ「マルティエル…そうですね。私としても、何かとお世話になっていたマルティエルと離れるのはとてもつらいです。ですが、これも私自身が成長するため…
今まで、ほんとうにありがとう、マルティエル」
マルティエル「お嬢様…もったいないお言葉…です。……ところで、お嬢様」
ラフィ「なんでしょう?」
マルティエル「その手にもっているたいまつで、これから燃やそうとしてるその大量の段ボール箱は一体」
ラフィ「ああ、これですか、これはあなたの部屋で発見した、大量の盗撮らしき写真アルバムやビデオテープ、怪しげな器具なんかをまとめて段ボールにつめて、
いっしょに燃やそうかと思いまして、ほら」メラメラ
【段ボールの山に火をつけるラフィ】
マルティエル「!??な…、ば…わ、わたしの…わたしの…お嬢様が幼少のころから、
集めてきたお嬢様コレクション…がなかに…そ、それを…も、もや…して?」
ラフィ「ええ、この家を旅立つまえに、どうしてもあなたの部屋だけは、チェックしておきたくて、
この間、しらみつぶしに家探ししたんですが…すごいですねえマルティエル…、あなたがこの家に仕えてから…私が何も知らない幼少のころから、
ずっとこんなことしてきてたんですね…新しい発見の数々に、ものすごくイライラしました」にっこり
ラフィ「なんですか『お嬢様アルバム』1巻~112巻って、丁寧にナンバリングしてアルバムに盗撮写真まとめてるの、死ぬほど気持ちわるかったですからね。それで100巻超えてるのがおぞましいですね、
それに、ビデオテープも大量に見つけましたけど、
いちいち『芽生え』とか『成長』とか表題つけてたのもクソきもかったです。
あなたがだーい好きな盗撮グッズの『神様シリーズ』もずいぶん、古い型式から最新のまでみつけましたけど…、かかさず『TENZON』でチェックして購入してきてたんだなってわかって、さすがに鳥肌がたちました。
あ、もちろん今話したやつは、全部、今燃やしてる段ボールの中にいれてますからね」
マルティエル「はうう……!お、お嬢様が、今まで、見たことない……あんな冷たい目でにこにこ私を見ながら…、お嬢さまがわたしの部屋をごりごりって物色してええ……わたしの秘蔵のお嬢様コレクションを……、あ、熱い…あああ…!あっ、あっ」びくびくびくーーん!
ラフィ「なんですかなんで顔真っ赤にしてビクビク痙攣してるんですか…ほんと気持ち悪いですね、
次かえってくるまでにその変態精神治しておかないと、次は、ドラム缶にコンクリート流し込んで、天界から放り出しますからね、マジ覚悟しててくださいねー」
マルティエル「お、お嬢様…お嬢様の辛辣するおことばが…、
あっ、あっ、ああああああーーーーーーーーーーー!!」
びくんびくーーーん!!
………
………
………
………
ラフィ「……とまあ、こんなこんなで」
ラフィ「…卒業した時の話は、もうご存知のとおりですよね。
ガヴちゃんが首席卒業で私が次席卒業。校長が判断し、きめたとのお話です。
ラフィ「おそらくいろいろ面を総合判断し、決定したのでしょう」
ラフィ「悔しい気持ちがないわけではないですが、納得しています。そして、ガヴちゃんと同じ、この下界に行くことを決めてほんとによかったとも思いました。
だって、わたしは、これからもこの、尊敬する親友のそばで、いろいろなことを学ぶことができるのですから…」
ガヴ「あ、こら、…ヒールしろよヒールを…くそが…」ぶつぶつ
ラフィ「っとまあ、話はこんなところですかね……、ん?どーしたんですか」
サターニャ・ヴィーネ「…………」
【ここは、ガヴリールの家】
サターニャ「………、いや…あの……確かに私から、天界でのアンタたちの想い出話を振っといてなんだけど……」
サターニャ「その、あんたの話に頻繁に出てきてた親友ってのは、一体…」
ラフィ「え?」
ガヴ「あー、くそ……ちゃんと援護しろよクソが…こいつはさっき経験値横取りしやがって…」ぶつぶつ…
ラフィ「いえ、ですから、そこにいるガヴちゃんですけど」
サターニャ「ありえないでしょうが!??」
サターニャ「ヴィネットがコイツと会った時の話を聞いた時も似たようなこと思ったけど!あらためて思うわ!
なになに、何なのよ!?尊敬する親友!?ひたむきで、心強くて、優しい!?誰の事よ誰の!?今のガヴリールと似ても似つかないじゃない!?」
ガヴ「あーもう…ぎゃーぎゃーうるせーぞアホ悪魔、人の部屋で…いい加減にしないと部屋から追い出すぞばか」
サターニャ「な、なんですってええ!?」
ヴィーネ「アンタもいい加減、ネトゲやめたらガヴ…せっかくアンタの部屋にみんなで遊びに来たってのに」
ガヴ「ムリだよヴィーネ…だって、いま、限定クエスト中なんだからさあ…」
ヴィーネ「だっての意味が、ぜんっぜんわかんないんだけどっ!?」
サターニャ「わかったわ、ラフィエル!アンタ絶対嘘ついてるでしょ!?きっと、その思い出、あんたの妄想で、実際には全然違うんでしょ!
そもそも…、こいつが山でアンタを、必死になって助けようとした、ってエピソードが一番うさんくさいわ!」
ラフィ「そんなことありませんよ、サターニャさん。ガヴちゃんの心優しさや慈悲深さは、付き合いの長い私が一番よくわかってます。
それに、それは下界に来た今でも変わってないはずです。ほら今でも、その姿をみれば、なんとなく、それが感じ取れて……」
ガヴ「ふっざけんなよヒューマン共!なんで私にヒールかけないんだよ!ぶっ〇す!ぶっ、○してやる!
すぐラッパふいて、駆逐するぞこの野郎!」ばんばん!
サターニャ「しぬほど、説得力ないんだけどぉ!!?」
サターニャ「ラフィエルのやつ、長々とありえない思い出話を話して!!絶対作り話だわ!ヴィネットもそう思うでしょ!」
ヴィーネ「いやまあ…私は一応、下界でまだ駄天してないガヴのこともちょっとは知ってるし
…それに今もガヴは結構優しいところもあるから、作り話とは思わないけど…
けど…昔はラフィの背中をみて、ひたむきに努力してた、なんて話を聞いちゃうと…
はあ…今は、ネトゲ三昧、成績は最低……、見る影もないわねえ…」
ラフィ「そうですね…おそらく今のガヴちゃんは、初等部時代より、
必死でがんばってきた反動が一時的に出てなまけているだけだと思うんです……、つまり」
ヴィーネ「つまり…?」
ラフィ「つまり、今のガヴちゃんは充電期間中……、ガヴちゃんはやればできる子ですから、充電が終わればもとの頑張り屋のガヴちゃんに戻るはずです!ねーガヴちゃん!」
ガヴ「あーうんそう、充電期間中だからねわたしは、そのうち本気だすからねわたしは…お、レアアイテム発見」
ヴィーネ「なんかニートの息子を甘やかすお母さんみたいな発言なんだけどっ!」
ガヴ「…まあ、ラフィエルには悪いと思ってるよ。天界でのわたしは所詮、“偽り”だったからなあ…」
サターニャ「いや、それ悪いどころじゃないわよガヴリール!ラフィエルの話だと、ラフィエルは、天界にいたころのアンタの追って、この下界のこの地に来たって話じゃない!そのアンタが見る影もなくなってラフィエルかわいそうじゃないの!」
ガヴ「だよな、めんごなラフィ」
ラフィ「いえいえガヴちゃん、うふふ」
サターニャ「お互い軽ぅ!?なんなのアンタら、ほんとどんな関係なのよ!
っていうか、ガヴリール、あんた、もとの自分に戻る気はないの!?」
ガヴ「いやあ、偽りの自分に戻るなんてまっぴらだね。それに駄天ってのもなかなかカッコいい感じだし、
この今の天使の輪っかもなんか、ダークで最近気に入ってるんだよね、ほら」
ヴィーネ「うわ…ますます真っ黒に…きったな…」
サターニャ「うわあ…ひくわ…わたし、悪魔だけど、まじひくわ…」
ラフィ「くすくす」
ヴィーネ「ところで、そのラフィの思い出話にでてきた、この近くにある“山”の話だけど、
せっかくだから、今度行ってみない!?私も山登りは魔界にいたころ、家族とよく一緒にいったわ」
サターニャ「悪くないわねえ…、大悪魔たるもの、あの偉そうにそびえる山の頂上を制覇しなきゃ気が済まないって、常日頃から思っていたところよ」
ラフィ「あらあら、いいですねえ、………そうだ、ガヴちゃんも一緒にいきましょうよ」
ガヴ「………ん、まあ…うん」
ヴィーネ・サターニャ「………」
ヴィーネ「あれ、珍しいわねえ、アンタ。こういうイベントごとは、わたしが誘うときは、絶対、一発目は断るくせに」
サターニャ「確かに珍しいわね。てか、アンタ、意外に、ラフィエルには素直なのね」
ガヴ「うるさいなあ…」
ガヴ「…まあ、…確か、約束してたからね」ぼそ
ラフィ「………、」
ラフィ「うふふ…あら、ちゃんと覚えてたんですねえ…ガヴちゃん
あのころより体力もないでしょうから、あえて忘れたふりしてあげてたのに」
ガヴ「うっさい……ああもう、胸おしつけんなバカ…バカラフィエル!」
ラフィ「じゃ、のせちゃいますねえ…楽しみですねえガヴちゃん。けど、今度は気を付けて上りましょうね」
ガヴ「ばか、登りはよかったんだよ…問題は下りだ。言っとくけど、“今度”は、下りは神足通で降りるからな」
ラフィ「そうですね、もう、面倒ごとはいやですものねえ、けど、もうすっかり天使の術もなまってるようですし、パンツだけ下山しないように気をつけなきゃ、ですね」
ガヴ「ああもう、うっさいわ!」
………
ガヴとラフィは絶対熟年夫婦だと思うわ
ガヴラフィすこ
………
まあ、ごらんのとおりですが。
下界に降りてきてから、ガヴちゃんはちょっぴり雰囲気が変わりました。
下界での娯楽もろもろが彼女を少し変えてしまったのだそうです。
本人はこれを、”駄天”したと言ってます。
さらに、本人は、天界での自分は“偽り”だった、なんて言いだし始めてます。
けど、わたしは、常々思うのですが。
それってどこまで、ホントのことなんでしょうかね。
ホントに、天界にいたころのガヴちゃんは偽り、だったのでしょうか。
私とともに、学校生活を共にし、親友として、過ごしたあのころのガヴちゃんは
もういないのでしょうか。
てか、駄天ってなんなのでしょうか。
謎は多く、とても、難しい問題だと思いますが。
けど、知ってますか。ガヴちゃんが、自身の”駄天”の象徴とする、その頭上に浮く真っ黒な輪っかのひみつを。
あれって、ふきんで拭けばすぐとれるんですよね。
そして、全部拭き取れば、すぐに、天界の住民の証拠である、光り輝く輪っかにもどるのです。
そう、例えるなら、汚い彼女の部屋の角にたまってるほこりのように、はらえば簡単に落ちる程度のもので、
いわば表面上の変化でしかないのです。
それって、何を意味するんでしょうね?いや、なにも意味しないかもしれないのですが。
いずれにしても。天界でのガヴちゃんと今の下界でのガヴちゃん。
そのどちらもよく知る私にとって、さきほどの問いの答えは、もうなんとなく出ています。
………
さて。わたしとガヴちゃんの出会ったころの話、横道にそれた部分もあったかもですが、おおかた話終えたかとおもいます。
けど、実は、ほんの1点だけですが、言葉を濁して、端折った部分があります。
それは、わたしがガヴちゃんをお昼に誘うため、学校の裏の丘の上へと向かった時のこと。
丘の上で彼女を初めて目にしたとき、おもわず口にした言葉です。
なぜ、端折ったかといいますと、単純に、ちょっとだけ恥ずかしかったからです。
なぜ、端折ったかといいますと、単純に、ちょっとだけ恥ずかしかったからです。
それは、天界で生まれ、天界で生きてきたわたしが思わず、口にするには、ちょっぴり恥ずかしいセリフ。おまえが言うな的な。
まあ、恥ずかしくもあり、思わず口にして、悔しい、ってキモチもあるのかもしれないですね、
これに関しては、努力しても、追いつけるか微妙ですので、
嫉妬のキモチが収まらないかもですね。
まだまだわたしも修行がたりません。
まあ、話の“締め”として、ふさわしいかどうかはよくわからないのですが、最後に、その時のほんの一節だけ、今度はセリフを端折らずに語り直し、この長い話を締めくくることとしましょう。
それでは、みなさん。ごきげんよう。ご清聴ありがとうございました。
………
………
………
晴天の中、心地よい風が吹く丘の上。
そこには、学校の制服を身にまとい、大きな木の木陰に座りこむ一人の女のコがいました。
その目はきれいな碧眼で…
透き通るような白い肌…さらさらの綺麗な金髪のロングヘア―が風になびいています。そして、その頭のすぐうえには、この世界の住民の証である輝かしい輪っかが宙に浮いています。
座り込む彼女の横顔はまだまだ幼く、けど、どこか気品に満ち溢れた整った顔…
表情はどこか憂を帯びたような表情をしていますが…それがまた、美しく気高い…
そう。その姿を一言でいうならば。
その姿はまるで…
ラフィ「……まるで、“天使”みたい」
おしまい
ずっとガヴィーネばっか書いてきたけど、最終回を目前にしてずっと苦手だったけどだんだん好きになってきた
ラフィを中心にしたSS書きたくなった
もうアニメも最終回だし、たぶん書くのもこれが最後のSSになるな それでは
おつ
ガヴラフィに目覚めそう
おつおつ超大作だった
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サターニャ「ガヴリールが階段から落ちた!?」
ヴィーネ「思い出に一回だけ」
サターニャ「ガヴリールがヴィネットに告白してるところに遭遇してしまったわ」
サターニャ「ガヴリール!!今日はこのカードゲーム!デビルズサタニキアで勝負よ!!」
ガヴリール「見抜き……?」
ガヴ「悪魔だけと天使に恋したから安価で告白の手伝い?」
サターニャ「福引で温泉旅行が当たったわ!」
ガヴリール「天使力たったの5か……ゴミめ……」ヴィネット「は?」
ガヴリール「千咲ちゃん、月乃瀬家のクマ人形になる」
ガヴリール「絶対出ないからな!」
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