転載元 : http://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1526380556/

1: 名無しで叶える物語(たこやき) 2018/05/15(火) 19:35:56.75 ID:8DD1N3yf

「ねえ、絢瀬」

ちょっとちょっと、ねえねえ、嘘でしょう。

引くわ。正直、引く。エリチカ引いちゃう。だってね、私たちは今、お喋りしてたわけじゃない?

部室にいくまでの道すがら、花のJKが、廊下で、仲よさげにお喋りしてたわけじゃない?

そりゃあ、私と貴女は親しい関係になってから、それほど時間はたってない。

先週、私がμ’sに加入するまで、良くて『友達の友達』、悪くて『ただでさえ僅かな部費を更に削りとろうとする(にこにとっては)悪の生徒会長』だったわよ。

だから、たった一週間ぽっちで、しかも廊下で偶然あって、そのまま仲よさげに会話できるようになったなら、それはかなりの急接近だといえるのはわかる。

加えて、あなたがそういう人だというのはわかってる。人の名前をあまり呼ばない性格というか。

よく耳にするのは『希』くらいなもので、他の子には『あんた』とか『ちょっと』とかが多くて、たまに名前で呼ぶ。

私は時折、『生徒会長』と呼ばれるだけで、いつになったら名前で呼ばれるのだろうと少し期待していて、ついには待ちきれなくなって

こちらからきっかけを作ろうと、頑張って『矢澤さん』と呼んでいたのを『にこ』といってみたのだ。

顔を赤くしながら、何気なしに、話の最中に、『にこ』と織り交ぜて呼んでみたのだ。

―――そして、上記のお言葉である。



3: 名無しで叶える物語(たこやき) 2018/05/15(火) 19:37:04.53 ID:8DD1N3yf

えぇ……。やっぱり引く。『絢瀬』。『絢瀬』って。『絢瀬』はないでしょう。まさかの名字呼び。

あなた、他の子を名字で呼んでないじゃない。どうして私だけ名字呼び。

仲よさげにお喋りしてても名字呼び。同じ学年、同じ部活、他の子は名前で呼んでても、私はかたくなに名字呼び。

私は『矢澤さん』から『にこ』にランクアップさせたのに、矢澤さん(にこ)は『生徒会長』から『絢瀬』。これじゃ釣り合ってない。

これってどうしたらいいのよ。感情を処理しきれない。怒っていいのか、哀しめばいいのか、笑えばいいのか。喜ぶ選択肢だけはないのがつらい。

「どうかした?」

心配そうな姿に複雑な感情が胸中に漂う。なにせ、どうしたのって言われても、原因はアナタなんだから。

ついさっき、私が勇気を振り絞って、普段は『矢澤さん』というところを『にこ』といったことを、現在進行系でスルーしてるのはアナタで、私はそれを思い悩んでいるのだから。

ここで彼女が、私の『にこ』呼びに少しでも反応してくれたら、『ダメだったかしら……?』と恥ずかしそうに睫毛を伏せながらいって

彼女から「ふ、ふん……、別にいいけど……、絵里」というような

テンプレツンデレ台詞を引き出すことも出来たでしょうに。甘酸っぱい青春を演出することもできたでしょうに。

微塵も聴こえていなかったかと錯覚するほどのスルーを前にすると、そんな妄想は何の意味もなかった。

ここまでくると、本当に聴こえてなかった可能性もある。むしろそうであってほしい。

―――いや、待つのよエリーチカ!



4: 名無しで叶える物語(たこやき) 2018/05/15(火) 19:38:19.21 ID:8DD1N3yf

これは彼女流の警告なのかもしれない。あなた、距離感詰めてくるの早すぎですよっていう。

ほら私、友達あんまりいなかったし、そういうの不得意だし。

もしかしたら彼女の領域に土足で踏み込んでいて、それを遠回しに伝えてくれているのかもしれない。

だとすると、これは彼女流の優しさの表現になるわけで。お互いの間にある壁を崩していくには、やはり時間が必要なのかもしれない。

でもね、これだけは言いたい。あなたが元々『絢瀬』と呼んでいたのなら、何も文句はないの。でも、今回のこれは違う。

あなたはもともと『生徒会長』と私を呼んでいて、私があなたのことを『矢澤さん』と呼んでいて。

今回、私が呼び方を変えたのにあわせて、『絢瀬』になったわけで。

気が付かずに『生徒会長』のままなら、まあ良かった。でも、変えてしまったわけでしょう。

そこには明確な意思が存在しているわけでしょう。だからこそ私はダメージを受けて、すこぶるヘコんでいるのよ。

―――そもそも、本当に『絢瀬』っていったの?




5: 名無しで叶える物語(たこやき) 2018/05/15(火) 19:39:01.87 ID:8DD1N3yf

実は私の聞き間違いで、実際は『絵里』って呼んでたかもしれない、という気持ちを捨てきれない。 

だってほら、にこって結構優しいもの。短い付き合いながらも、優しいな~って思うことあるもの。 

希を挟んで友達の友達状態だったときだって、にこっちって結構優しいねんで~(希の関西弁ってこんな感じだったかしら?)って言ってたもの。 

ああ、なんだか、本格的に聞き間違いだった気がしてきた。確認したほうがいいかもしれない。 

今、私のことなんて呼びましたかって聞いたほうがいいかもしれない。 

またもや勇気が必要ね。今、私のことなんて呼んだ?なんて聞くのには勇気が必要だもの。 

こんなに勇気が必要になるなんて思ったなかったから準備はしてこなかったけど、ひねり出せばまだまだ出せる。 

頑張るのよ、エリーチカ。一歩を踏み出すのよ、エリーチカ。ネバーギブアップ、ネバーギブアップエリーチカ! 

「……絢瀬ってば!聞いてる?」 

「え、ええと、なにかしら、にこ……」



6: 名無しで叶える物語(たこやき) 2018/05/15(火) 19:40:05.19 ID:8DD1N3yf

わざとやっているんじゃないかっていうくらいのタイミングで、勇気が出るまで後三秒っていうくらいで 

にこのダメ押しの『絢瀬』によって一縷の望みは潰えてしまった。 

完全に『絢瀬』、まごうことなき『絢瀬』。 

ぼやっと思い浮かぶのは、ああそういえば、彼女から『あんた』とか『ちょっと』以外で呼ばれることにウキウキしていたなあ、ついさっきまでの私……という味わい深くない感慨だ。 

感動の予定だったのが、今ではショックがドワーっと襲ってきている。 

そりゃね、だって、『絢瀬』だもの。未だに最初の『絢瀬』が脳内でリフレインしていているもの。『絵里』じゃないもの。『絵里』がいいもの。 

μ'sに参加したのをきっかけに、同級生のにこと仲良くなれたらと思って、希に相談して、勇気をだして、一昨日くらいから『にこ』と呼ぶ機会をうかがっていて、やっと実践できたのに、これだ。 

もしも今、私が暗闇の密室に放り込まれるようなことがあったなら、きっとノータイムで泣き出してしまうだろう。それくらいヘコんでいる。 

「なにかしら、って。急に立ち止まってぼーっとしてるんだもん。どうかした?」 

そういって、印象深い赤い瞳をくりくりさせながら、俯き気味だった私を上目遣いに、心配そうに覗き込んでくる。はい可愛い。



7: 名無しで叶える物語(たこやき) 2018/05/15(火) 19:40:44.90 ID:8DD1N3yf

「なんでもないわ」 

自分には持ちえないマスコット的な可愛さを見せつけられて、意気消沈していた私の心はエベレストよりも高く浮き上がって、そのままどこかへ吹き飛んでいった。 

少し不安げに、私を見つめるにこ。ああ、抱きしめたい。ぎゅってしたい。もう『絢瀬』と呼ばれたことなんてどうでもよくないかしら。 

それに、逆に考えてみれば、私だけ名字呼びという特別だともいえるわけで。たった一週間の付き合いで特別まで登りつめた私、すごくない? 

そんなことを考えていたら、表情に出ていたらしい。にこに指摘された。 

「バカなこと考えてるでしょ」 

「えっ」 

「顔が百面相みたいに動いてるわよ」 

努めて真顔を抑えてみる。しかし、赤面するのは抑えられなかった。 

私の間の抜けた行動に、にこは苦笑している。ああ、恥ずかしい。 

賢い可愛い生徒会長だって失敗くらいするのだから、見なかったことにしてほしい。



8: 名無しで叶える物語(たこやき) 2018/05/15(火) 19:41:20.56 ID:8DD1N3yf

「ちょっと、あんまりこっち見ないで……!」 

いってから、失敗したと思った。 

あまのじゃくな彼女に、こっち見ないでというのは、こっち見てといっているようなものだと、この一週間の付き合いで学んでいたはずだったのに。 

「い・やっ♪」 

当然のように更に赤面させようと、にこはニヤニヤと笑いながら、私と目を合わせようとしてくる。 

視線を逸らしても、逸らしても、にこが視界に入ってきて、目と目をあわせようとする。 

気恥ずかしさに顔が熱くなってきて、そのうち手先まで震えだした。 

にこは私をいじめるのが楽しくて仕方がないかのように満面の笑みを浮かべている。 

そのうちに我慢できなくなって、顔を手で覆い隠して、座り込んだ。 

にこは、「耳まで真っ赤になってる」とひとしきり笑ってから、ごめんごめんと謝った。



10: 名無しで叶える物語(たこやき) 2018/05/15(火) 19:42:10.69 ID:8DD1N3yf

「……にこの意地悪」 

「だって絢瀬、可愛いんだもの。いじめたくもなるわよ」 

私のこと、可愛いと思ってくれてるんだ。 

私が、にこのことを可愛いと思うように。ニヤけそうになる表情筋を厳しく取り締まる。なんだか、胸が暖かくなってきた。 

希もこういう風にからかってくること多いし、やっぱり、友達ってこういうものなのかしら。 

ともあれ、にこと気安いやりとりができることは、純粋に嬉しく思う。 

惜しむらくは、名前で呼ばれないことだけれど、焦っても仕方ないか。 

これから一緒にすごすうちに『絵里』と呼んでもらえばいいのだから。 

ただし、いつまでも呼ぶ気配がなさそうならば、プライドを打ち捨てでも駄々をこねて、強制的に呼ばせる心づもりはしておきましょう。 

「ほらほら、立った立った。だいぶ時間食っちゃった。そろそろ部室行かないと、みんな待ちくたびれちゃうわよ!」 

「にこのせいでしょ……」 

「……なんのことにこ~?」 

「すぐそうやって誤魔化すんだから……」 

まあ、いいでしょう。可愛いから今日のところは誤魔化されてあげるわ。 

メンバーに遅刻を叱られたら、にこの分も私の責任だといってかばってあげる。 

でもね、にこに意地悪された分は、お返ししてもいいわよね。 

友達同士の意地悪は心の交流やで、と希がよくいっているから、間違っていないはず……。たぶん。



11: 名無しで叶える物語(たこやき) 2018/05/15(火) 19:43:02.73 ID:8DD1N3yf

「絢瀬ー?」 

さて、にこをどう調理しましょうか。 

実に加減が難しい。にこと希の間柄ならば、胸を揉んでわしわしMAXや!といっても平気なのでしょうけど。 

もし私が同じことをすれば、にこにはドン引きされるのは確実でしょう。 

そういう意味ならば、先程のにこのジーッと見つめる攻撃は程々でいい感じよね。流石にこ。 

それにしても、にこが恥ずかしがるようなこと……。難しいわね。 

「また、ぼーっとしてるし。おーい、絢瀬さん。口あいてるわよ」 

いっそのこと、ハグしてみましょうか。さっき、ぎゅっとしたいと思ったことだし。ロシアでは普通の挨拶よ、とかいいながら。 

にこが顔真っ赤にしてプンプン怒り出したとしても、フフ、日本人はシャイで可愛いわね、とかいってれば誤魔化せそうじゃない? 

まあ、私も日本人なんだけど。ハラショー。



12: 名無しで叶える物語(たこやき) 2018/05/15(火) 19:43:45.54 ID:8DD1N3yf

「絢瀬ってばー!」 

いやいや。誤魔化すのが前提の行動ってどうなのかしら。リスクが高い気がするわ。もっと軽い感じで良いわよね。 

うーん、握手とか……。いえ、それは微妙すぎるわね。そもそも、握手されたところで恥ずかしく思わないし。 

「絢瀬!」 

にこがやったことだって、私を見つめるだけだった。つまり、重要なのは行為自体ではなく、シチュエーチョン。 

例えば、そう、手を繋いで部室まで行く、というのはどうだろう。 

周囲の目にさらされるのは、想像だけれど、にこならば恥ずかしく思いそうな気がする。 

良いんじゃないかしら、これ。決めたわ。 

にこの手をぎゅっと握って、そのまま部室へ颯爽と歩き出す―――そんな素敵な考えに夢中になっていた。



15: 名無しで叶える物語(たこやき) 2018/05/15(火) 19:44:38.44 ID:8DD1N3yf

「絵、里!!」 

「―――あっ、な、なに!?」 

「ボケッとしてないで。部室いくわよ」 

「……うん。ごめんなさい」 

「たくもう。あんたって結構、ボケボケよね」 

にこのせいで私はこんなに悩んでいるのよ、なんて、やっぱりいえるわけもない。 

自分の妄想に浸っていて、にこの声が聞こえてなかったみたいだ。 

さらに、手を握るタイミングも逃してしまった。本当に、今日はツイてない。 

当初の目的も達成できなかったし、第二の目的も達成できなかった。失敗続き。 

関係性を遠くするようなことはなかったから、それで良しとするしかないかしら。 

はぁ……、今日の練習、身が入りそうにないわね。そんな憂鬱な気分で歩きだそうとしたところに、にこの手が差し出された。 

「ほら」 

「―――え?」 

「今日のあんた、なんかぼーっとしてるし。手でも繋いでおいたほうがいいかなって。……嫌ならやめとくけど」 

「そんなことない!」 

にこは私のことを見てくれているのだ。私がやろうとしたことと一致したのは偶然だろうけど、心が通じているみたいだ。 

テンションが乱高下していることを自覚しながらも、嬉しさの感情が抑えきれない。 

この期を絶対に逃すまいと、にこの手をぎゅうっと握りしめる。今なら暗闇の密室に放り込まれても、一時間は笑顔で過ごせるわ。



16: 名無しで叶える物語(たこやき) 2018/05/15(火) 19:45:23.35 ID:8DD1N3yf

「さぁ、にこ!いきましょう!いざ部室へ!」 

「急にうるさいわね……」 

「ほらほら!」 

「はいはい」 

部室へと先導する絵里に、にこはくすぐったそうな表情を浮かべる。 

ほんと、なんてわかりやすいやつ。仲良くなろうと積極的な(しかしどこか自信なさげな)絵里をみていると、ついついからかいたくなっちゃった。 

ころころと変わる表情は眺めるのは楽しかったし、笑顔は同性から見ても魅力的。あんまりにもやりすぎたせいか、ボーっとしはじめたときは焦ったけれど。 

手を繋ごうって提案してみたら、やたら元気になったし、結果オーライだ。 

今もニッコニコの笑顔を浮かべて歩いている。でもね、絵里。ひとつだけ言わせて。 

あんた、いつになったら気がつくの?あんたが気にしていたことくらい、私にはわかってる。 

だから散々もったいぶったっていうのに……。ハァ。まあいいわ。 

素直になれない私も悪いから。もう一度チャンスをあげる。次、私が呼んだとき。 

その時は、ちゃんと気が付きなさいよ。ねえ、絵里―――。 


終わり



18: 名無しで叶える物語(たこやき) 2018/05/15(火) 19:45:57.70 ID:8DD1N3yf

終わりえり!!



30: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2018/05/15(火) 20:12:33.27 ID:EAG2rb5v

仲良すぎて一周回って苗字呼びになるってことあるよな



32: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2018/05/15(火) 20:25:13.04 ID:fFum7iRb

乙 
距離の詰め方不器用なえりち好き






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