転載元 : http://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1528560464/

2: 名無しで叶える物語(茸) 2018/06/10(日) 01:08:01.96 ID:ZMjAv8tR

ーとある日の放課後、裏の星屋上ー


ダイヤ「ぶっぶーーーーーーー! ですわ!」


果南「おっ。出た、ダイヤのぶっぶー」

鞠莉「久し振りに聞いたわねえ、ダイヤのぶっぶー」

曜「今ダイヤさんぶっぶーって言った?」ヒョコ

千歌「だれだれ~? ぶっぶーって言われたの誰~?」ヒョコ

梨子「だいたい想像つくけど……ほら、やっぱり」ヒョコ

ダイヤ「なにを面白がってますの! 千歌さんたちも寄ってこなくていい! 見せ物じゃありませんわよ!」シッシッ

善子「うう…あう…」

千歌「なに? 善子ちゃん? どうしたの?」

ルビィ「うゆ…ルビィがμ'sの話を出しちゃったから…」

花丸「別にルビィちゃんが悪いわけじゃないずら。…今回に関しては善子ちゃんが悪いわけでもないと思うけど」

ダイヤ「不勉強が発覚した善子さんに、今からお説教するところですわ」

鞠莉「事前にお説教宣言されるなんてサイアクだね」

果南「ほどほどにしときなよ。強すぎる熱意は空回りのもとだからね」

花丸「善子ちゃん」

善子「ずら丸ぅ…」

花丸「御愁傷様ずら」ペコ

善子「薄情者ォー!!」

………………

………



4: 名無しで叶える物語(茸) 2018/06/10(日) 01:09:51.07 ID:ZMjAv8tR

ー黒澤邸、ダイヤの部屋ー


ダイヤ「これが三人のファーストライブで、次いで九人での新歓ライブとアキバライブ、これが文化祭ライブ…うっ。このライブの直後に穂乃果さんが…うう……いえ、なんでもありません」

ダイヤ「それとこっちはPVです。希さんが二年生だった頃のものからMスタまで幅広く取り揃えていますわよ」

ダイヤ「それから、こちらがラジオ関連と、雑誌、ネット系番組と」

善子「は?! ちょ、ちょっと待ってよ…こんなに持ってけっていうの?!」

ダイヤ「当然でしょう。この全てがμ'sなのですから」

善子「そうかもしれないけど…無理よこんなにたくさん! 10個くらいにしてよ!」

ダイヤ「はあ? わたくしにμ'sの選別をせよとおっしゃるんですか? なんと残酷な…」ワナワナ

善子(知らないわよ)

ダイヤ「わかりました。そこまでおっしゃるのなら仕方がありません」フゥ

ダイヤ「今から一緒に観ましょう」ガチャ ウイーン…

ルビィ 本当にやめておいたほうがいいのサイン(遠くから)

善子「あっダイジョブです! とりあえずこの辺のライブ系だけ借りていくわね! じゃっ!!」ヒョイ サササッ ダッ

………………

………



5: 名無しで叶える物語(茸) 2018/06/10(日) 01:10:59.38 ID:ZMjAv8tR

ー津島家、善子の部屋ー


善子「ひどい目に遭ったわ、まったく」


鞄をベッドに放り投げようとしかけ、ライブのディスクが入っていることを思い出し寸でのところで慌てて踏みとどまる。

ぱっと見で歪なほどにパンパンの鞄。

ファスナーをひらくと、ビックリ箱よろしくディスクがわらわらと湧いて出る。


善子「持ってきすぎたわ…」


なんだっけ。

三人のファーストライブ、九人のシンカンライブ、文化祭ライブ…だっけ?

穂乃果さんが二年生の頃のMステがどうとか言ってたっけ。

出演? したのだろうか?

すでに覚えていない。

シンカンってなによ。

震撼ライブ?



6: 名無しで叶える物語(茸) 2018/06/10(日) 01:12:12.31 ID:ZMjAv8tR

十枚ほどのディスクを無造作に並べてみる。

その一つひとつにラベルが貼られ、丁寧な字で色々と書いてあるけれど、どうもぴんと来ない。

正直なところ、実はμ'sのメンバーを全員言えるかどうかすら怪しいのだ。


善子「リーダーの穂乃果さん、作詞が海未さん、作曲が真姫ちゃん、あと…ルビィが好きなのが花陽ちゃん? で、三年生がエリーチカと、にっこにっこにーの人と、えーと…あと一年生の真姫ちゃんか」


指折り数えてみるも、七人…

誰が足りないのかもよくわからない。


善子「…これって、私が不勉強なの?」


確かにスクールアイドルはやっているけれど、別にμ'sに憧れて始めたわけじゃない。

ダイヤにルビィに千歌さんに散々聞かされるμ'sの凄さに、どのくらい驚き、どのくらい感心すればいいのかもわからない。

スクールアイドル時代の牽引者。

ふうん、って感じだ。




8: 名無しで叶える物語(茸) 2018/06/10(日) 01:13:30.39 ID:ZMjAv8tR

善子「本当、ダイヤの熱意にも困ったものね」 


果南センパイも言っていたように、あれだけ熱意がものすごいと、どこかで誰かがついてこられなくなりそうなものだ。 

これがダイヤ発起のグループだったらと思うと、…私もう辞めてたかもね。なんて。 

全部は観ていられないけれど、せっかく持ってかえってきたんだし、いくつかは観てみることにしよう。 

というか、感想の一つも用意しておかないと、明日またダイヤにしごかれそうだし… 

あー、結局今日は後半ほとんど練習できなかったなー。 

μ'sの映像を参考にして、ダンスの自主連でもしようかしら。 

それは割といい考えかも…… 


善子母「善子ー、ごはんあと30分くらいでできるわよー」 

善子「! はーいっ」ピョン 


…ま、お風呂とごはんが終わったらね♪ 

***



9: 名無しで叶える物語(茸) 2018/06/10(日) 01:14:40.80 ID:ZMjAv8tR

*** 

ー次の日、三年生の教室ー 


ダイヤ「 」ソワソワ チラッチラッ 


果南「…なにあれ?」 

鞠莉「放課後になるのが待ち遠しいみたいよ」 

果南「なんで?」 

鞠莉「善子のことじゃないの。ほら、昨日の」 

果南「ああ~…なんかミューズのビデオ貸すとか言ってたもんね。早く話したいのか」 

鞠莉「大変だねえ、善子も」 

果南「目ぇ付けられちゃってねー」 

鞠莉「正直な話さ」ヒソ 

果南「なに?」ヒソ 

鞠莉「私も別にμ'sのことよく知らないよ」ヒソ 

果南「いや私もだよ。全員言えないもん」ヒソ 

鞠莉「………………」 

果南「………………」 

かなまり「「大変だね、善子」」 

……………… 

………



10: 名無しで叶える物語(茸) 2018/06/10(日) 01:17:42.73 ID:ZMjAv8tR

ー同じ頃、一年生の教室ー 


善子「 」ソワソワ ボー… ハッ! ソワソワ 


ルビィ「花丸ちゃん、今日の善子ちゃん、なんだか…」 

花丸「変ずらね」 

ルビィ「寝不足かなあ? 昨日、おねいちゃあからμ'sのライブディスクいっぱい借りていってたから…」 

花丸「寝不足、ねえ」チラッ 


善子「 」ボー… ハッ! ブンブンッ ソワソワ 


花丸(なんかそういう感じじゃないんだよなあ) 

花丸(確かにぼーっとはしてるんだけど、徹夜には普段から慣れてそうだし) 

ルビィ「保健室に行ったほうがいいかなあ」オロオロ 

花丸「放っといていいと思うよ。そのうち落ち着くずら」 

ルビィ「うゆ…」 

花丸(落ち着くといいんだけど…) 

……………… 

………



11: 名無しで叶える物語(茸) 2018/06/10(日) 01:18:31.58 ID:ZMjAv8tR

ー放課後、部室ー 


ダイヤ「お待たせいたしました」ガチャ 

ダイヤ「ところで善子さんはもうーー 

善子「ダイヤ! 待ってたわよ!」ズイッ 

ダイヤ「へ?! 善子さん?」ギョッ 

ダイヤ「わ、わたくしもちょうどお話ししたいと思っていて、 

善子「今日も家に寄っていい?!」 

ダイヤ「え? ええ、構いませんけれど、 

善子「ほんとに?! いいって言ったからね?!」 

ダイヤ「は、はあ…」 

善子「それなら、ね! 早く行きましょ!」グイ 

ダイヤ「あ、あの善子さん…ちょ…わたくしまだ着替えてませんわ!」 

善子「帰るのになんで着替える必要があるのよ! ほら早く!」グイグイ 

ダイヤ「は?! いや、うちに来るのは練習が終わってから…あっ待ってまだ帰らな…ダレカタスケテェェーーーー!!」ズルズルズル… 


ルビィ「お、おねいちゃんが連れてかれちゃった!」 

花丸(落ち着かなかった…) 

……………… 

………



12: 名無しで叶える物語(茸) 2018/06/10(日) 01:19:52.20 ID:ZMjAv8tR

ー黒澤邸、ダイヤの部屋ー 


善子「借りてったの全部観たわよ! この中ではこれが好き! 四回も繰り返して観たんだから!」 

ダイヤ「あ、ええ、はあ…このライブはいいですわよね…」 

善子「でもハロウィンのやつも可愛かったわ! どれだっけ…あ、これ!」ガシャガシャ パッ 

ダイヤ「ええ、はい、これと言われなくてもわかりますが…」 

善子「他のディスク借りてもいいかしら?! み、二年生の人たちが目立つやつとか観たいの!」 

ダイヤ「二年生ですか。それならこれとこれと…あとこれとか」ヒョイヒョイ 

善子「ありがとう! ああ…全部持ってかえれないのがもどかしいわ」 

ダイヤ(昨日と随分変わりましたね…) 

ダイヤ(ま、それだけμ'sが素晴らしいということですわ!)ドヤッ 

ダイヤ「せっかくなら、今何枚か一緒に観ますか?」ソワソワ 

善子「! そうね、そうする! ダイヤのお勧めはどれ?!」 

ダイヤ「や、やっぱりμ's優勝時のライブは外せませんがーー」 


ダイヤ(ああ、善子さんがこんなに喜んでくれるなんて。多少強引にでも勧めて正解でしたね) 

***



13: 名無しで叶える物語(茸) 2018/06/10(日) 01:20:52.36 ID:ZMjAv8tR

*** 

それから毎日のように、善子さんは私の家に寄って、大量のディスクを借りていった。 


善子「ワンダラ最高だったわ! もう頭に焼き付いて離れないの。授業中なんかも気を抜くと口ずさんじゃいそうでね…」 

ダイヤ「μ'sの曲は癖になるものばかりですものね。わたくしも以前は似たようなものでしたわ」 

善子「あ、ダイヤ。あれ持ってる? にこりんぱなに二年生来た回のやつ!」 

ダイヤ「もちろんあります」ゴソゴソ… サッ 


鞄に詰められるだけ、いや、割と許容量を超えた物量を詰め込んで帰り、次の日にはその全てを返却する。 


善子「ありがとうダイヤ!」ガシャガシャ 

ダイヤ「今回はなにか気に入ったものはありましたか?」 

善子「脳とろコンビは最高ね。『告白日和、です!』の生は痺れたわ…ほんとに脳がとろけちゃいそう」 


映像ディスクのみならず、やがてCDやラジオ抜粋の音源ディスクまでも借りていくようになり、その全てをスマートフォンにコピーしたと嬉しそうに語る。 


善子「えへへ…これ、みんなスマホに入れちゃった」 

ダイヤ「全曲ですか? 九人分?」 

善子「せっかくだからね! ソロライブだけで容量とんでもないことになったわ!」ウキウキ 


私が大好きなμ'sを心底楽しんでくれるその姿は嬉しくもあり、けれど、どこか…危うく見えた。



14: 名無しで叶える物語(茸) 2018/06/10(日) 01:22:19.20 ID:ZMjAv8tR

私自身にも、かつて狂ったようにμ'sを観て、聴いて、それでもまだまだ足りないと求め続けた日々がある。 

だから今の善子さんの姿は、ある意味では懐かしいとすら思える。 


ココハドコ? マッテ、イワナイデ…ワカッテル 

ユメニミタ アツイシンキロウナノサ 


善子「…あっあっ、来るわよダイヤ!」バシバシ 

ダイヤ「わかっています! お静かに!」 


ナゲキッス~ 


ダイよし「「きゃああああああああっっ!!」」ンミチャー! 


でも、かつての自分と重ねて見るには、心なしか善子さんは…そう、『熱すぎる』ように見えて。 

あの頃の私と比べても余りあるほどに、熱の入りかたが強いように…感じられる。



15: 名無しで叶える物語(茸) 2018/06/10(日) 01:23:27.92 ID:ZMjAv8tR

それは単純に、ただただ単純にμ'sの熱に浮かされていた私とは、目に映しているものが少しだけ違うのではないかと。 


Ah! ホノカナ ヨカンカラ ハジマリ 

Ah! ノゾミガ ホシゾラ カケテ 


善子「 」ジィッ… キラキラ 

ダイヤ「……」 


強いて言うならば、そう。 

μ'sの中でも特に私が魅せられているあの人、エリーチカを追ってしまうときの姿に重なる。 


ワスレナイ…イツマデモ ワスレナイ 

コンナニモ、ココロガ ヒトツニナル 


善子「 」ジィッ… ドキドキ 

ダイヤ「……」 


そしてその上でいて、なかなかに熱狂的だと自負するそんな私の影すらをも凌駕する様子は、なんというか。



16: 名無しで叶える物語(茸) 2018/06/10(日) 01:24:24.76 ID:ZMjAv8tR

コトリノ ツバサガ ツイニ 

オオキクナッテ…タビダチノ ヒダヨ 


善子「………っ!」ハッ 

善子「……」ギュウ… 


恋をしているように、映って仕方がない。 

***



18: 名無しで叶える物語(茸) 2018/06/10(日) 01:25:35.92 ID:ZMjAv8tR

*** 

ーとある日の放課後、教室ー 


善子「 」ボー… 

ルビィ「よしこちゃーん」フリフリ 

ルビィ「よしこちゃーん、部活いこー」トントン 

ルビィ「よしこちゃーん。ねー」ユサユサ 

ルビィ「…………」 

ルビィ「 」ソッ 

ルビィ「………っ、脈…が…」ワナワナ 

ルビィ「どうやればわかるのか、わかん…ない…」ガビーン 

花丸「なにやってるずら、ルビィちゃん」 

ルビィ「善子ちゃんがぼーっとしてるから、遊んでるの」 

花丸「もー」ガタ 

花丸「この堕天使、とうとう使い物にならなくなったね」 

善子「 」ボー… 

花丸「…………」ソッ 

花丸「……脈が…」 

花丸「…わから、ない」 

ルビまる ドッwww 

……………… 

………



28: 名無しで叶える物語(茸) 2018/06/10(日) 01:28:11.48 ID:ne2OOw2y

ー同日、部室ー 


花丸「…ということで、とうとう善子ちゃんがだめになりました」 

善子「誰がだめになったのよ」 

ルビィ「目をさましてよかったあ」 

善子「その…なに、心配…掛けたわね…」ブスッ 

花丸「謝る表情じゃないずら」 

善子「なんだかばかにされてたみたいで癪なのよ!」ンニャー! 

花丸「みたいっていうか」 

鞠莉「善子がぼーっとするなんて珍しいね。普段はうるさいくらいうるさいのに」 

善子「なんて?」 

千歌「きっと疲れてるんだよ。今日はお休みにする?」 

曜「それはちかちゃんが休みたいだけじゃ…」 

梨子「…ダイヤさん、ちょっといいですか」ヒソ 

ダイヤ「はい?」 

梨子「少し、外に」



35: >>1 ◆z9ftktNqPQ (茸) 2018/06/10(日) 01:29:19.12 ID:ne2OOw2y

ー部室の外ー 


梨子「ダイヤさん、なにかご存知ですか? よっちゃんのこと」 

ダイヤ「…心当たりが、一つ」 

梨子「聞いても?」 

ダイヤ「 」コク 

ダイヤ「最近、善子さんがよく我が家に来ますの」 

梨子「一緒に帰ってますもんね」 

ダイヤ「へ?! あ、ええ、そういう見方も…できますが…」 

梨子(周りに内緒にでもしてるつもりだったのかな) 

梨子「それで、ダイヤさんのお家で、なにか?」 

ダイヤ「なにか、と言うほどではありませんが…」 

ダイヤ「μ'sのライブやPVを、よく一緒に観ています」 

梨子「………は?」 

ダイヤ「おそらくそれが原因なのではないかと…」 

梨子「いやいやいやいや。待ってください、ダイヤさん」 

ダイヤ「はい?」 

梨子「μ'sのライブを観てるから、なんですか?」 

梨子「とても激しく盛り上がるから疲れてるとか、そういうことですか?」 

ダイヤ「まさか! あの程度で疲れるわたくしではありませんわ! ファンミ全通できますし! ファイナルも!」 

梨子「ダイヤさんの話はしてません」



43: >>1 ◆z9ftktNqPQ (茸) 2018/06/10(日) 01:30:25.66 ID:ne2OOw2y

梨子「毎日何枚ものDVDを…」 

ダイヤ「それで疲労、というか寝不足になっているのではと。わたくしでもあれほどの枚数を観るのは休日くらいのものなのに、それを次の日にはしっかり返してくださるものですから…」 

ダイヤ「…………」 

梨子「…それだけですか?」 

ダイヤ「え?」 

梨子「ダイヤさんのおっしゃる心当たりって、それだけですか?」 

ダイヤ「…………」 

梨子「ダイヤさん!」 

ダイヤ「…こんなことをわたくしが、しかも推測で…言ってしまってもよいものなのでしょうか」 

梨子「よっちゃんのプライバシーに関わることなんですか?」 

ダイヤ「はい…」 

梨子「…よっちゃんを呼んできましょう」



59: >>1 ◆z9ftktNqPQ (茸) 2018/06/10(日) 01:33:08.98 ID:XT1XlmlL

ーヨハネ召喚ー 


善子「次はなによ」ブッスウ 

梨子「どうしてそんなにぶうたれてるのよ」 

善子「あの子たちが散々ヨハネをおもちゃにするからよ!」 

梨子「おもちゃにされるよっちゃんが悪いんじゃない」 

善子「え…なんか今日のリリー辛辣…」キョトン… 

梨子「さあ、ダイヤさん。話してください。よっちゃんがいる場でなら、間違っていれば間違っていると言ってもらえます。推測だけで話が進んでしまうこともありません」 

ダイヤ「…わかりました」 

善子「なんで私が蚊帳の外なの? 絶対私の話よね?」 

ダイヤ「善子さんが最近使い物にならないのは、μ'sのせいです」 

善子「使い物にならないって言った? それずら丸にも言われたんだけど。みんなの中で私そんなことになってるの?」 

ダイヤ「いえ…もっと言うならば、μ'sの中でもある一人のせい」 

梨子「ある一人…?」 

ダイヤ「……」ジッ 

善子「なに…」 

ダイヤ「…μ's九人での活動当時二年生の、南ことり。善子さんは、ことりさんに恋をしているのです」 

梨子「…こ?」 

善子「…い?」 


よしりこ「「はああああああああああああっっ??!!」」 

……………… 

………



103: ぬし ◆z9ftktNqPQ (茸) 2018/06/10(日) 09:11:37.85 ID:KyYM3O1R

ー練習後、黒澤邸ー 


ダイヤ「ここで検証してみましょう」 

梨子「はい」 

善子「はい?」 

ダイヤ「まず、このライブを流します」ウイーン 

善子「せめて表面だけでも説明しなさいよ」 


~♪ 

マッスーグナー オーモーイガー 


ダイよし「「きゃああああああああっ!!」」 

梨子「初めて観る…」ポッ



104: ぬし ◆z9ftktNqPQ (茸) 2018/06/10(日) 09:12:10.02 ID:KyYM3O1R

ユメナキーユメハー ユメジャナイー 

~♪(アウトロ) 


ダイヤ「はあ…はあ…っ」 

梨子「はあ…はあ…っ」 

ダイヤ「やはり…ススメ→からの穂乃果さんソロは半端ないですわね…」 

梨子「そうですね…喉も、胸も、焼け付くような感じです…」 

ダイヤ「さあ梨子さん、来ますわよ…運命の曲が…」 

梨子「運命の…っ?!」ドキッ… 


梨子(…あれ? 私なにやってるんだっけ?)



105: ぬし ◆z9ftktNqPQ (茸) 2018/06/10(日) 09:12:50.97 ID:KyYM3O1R

ダイヤ「善子さんをご覧なさい」ヒソ 

梨子「え? よっちゃんがなにか…」 

善子「 」ポー… 

梨子「っ?!」 

梨子「だ、ダイヤさん…この表情は…?!」ヒソ 

ダイヤ「これこそが、わたくしの先ほどの発言の根拠です」ヒソ 

ダイヤ「この数日間、ひたすらにμ'sを追い掛けてきた善子さんは知っているのです」ヒソ 

ダイヤ「ここで、彼女のソロ曲が入ることをーー」 


ハシリーダスゥ ベリベェリ トレー 

アァマァクテェ スゥパクテェー 


ダイヤ「南ことりで…『ぶる~べりぃ♡とれいん』!!」



106: ぬし ◆z9ftktNqPQ (茸) 2018/06/10(日) 09:13:52.50 ID:KyYM3O1R

梨子(あんな…よっちゃんのあんな表情、初めて見たよ…) 

善子「やんやんっ! 遅れそおですぅ!」ピョインピョイン 

善子「たいへんっ! 駅までぇだあしゅう!」ピョインピョイン 

梨子「さっきの緊張と恥じらいを感じさせる雰囲気はどこに」 

ダイヤ「善子さんの胸に」 


`¶cリ˘ヮ˚)| ヤンヤンッ! ソンナノォダメヨォ 

`¶cリ˘ヮ˚)| タイヘンッ! デンシャヨォイソゲェ 


梨子「…………」 

ダイヤ「……………」 


メノ*> ヮ <リ サンザンッ! カンガエェマシタア 

|c|| ^.ヮ^|| ハンセイッ! ソレドコォロジャナアイ 

……………… 

………



107: ぬし ◆z9ftktNqPQ (茸) 2018/06/10(日) 09:14:52.62 ID:KyYM3O1R

ダイヤ「先ほどの一幕からわかるよう、善子さんは南ことりに恋をしているのです」 

梨子「わかりました」 

善子「なにもわかりませんでした」 

ダイヤ「善子さんは自覚がないのですか?」 

善子「自覚もなにも、ダイヤの妄想だもの…」 

ダイヤ「妄想とな」ンマッ 

梨子「ううん、私にもそう見えたよ。よっちゃん確かに、ことりさんが出たときだけ反応が違ったもの」 

善子「それは、たまたま南ことりの曲に好きなやつが多いからよ」 

ダイヤ「なかなか強情ですわね」 

善子「なんでそんなに私を恋する乙女に仕立て上げたがるわけ?」 

梨子「仕立て上げようとなんかしてないよ。最近よっちゃんがおかしいから、みんな心配してるだけなの」 

善子「寝不足よ、寝不足。疲れてるだけだってば」 

ダイヤ「…それならば、μ'sのディスクは一時お預けにしましょう」 

善子「?! な…なんでよ!」



108: ぬし ◆z9ftktNqPQ (茸) 2018/06/10(日) 09:16:10.42 ID:KyYM3O1R

ダイヤ「当然でしょう。それが原因で体調を崩しているのだから、取り上げるに決まっています」 

ダイヤ「このままそんな生活を続けられては、わたくしたちの活動にも支障をきたします。いずれ善子さんは倒れてしまいますわ」 

善子「だ…大丈夫だってば!」ガバッ 

ダイヤ「きゃっ?!」 

梨子「よっちゃん?!」 

善子「体調は自分できちんと管理する! 夜もちゃんと寝るし、練習だって授業だって問題ないようにするから! だから、お願い…取り上げないで!」 

ダイヤ「わ、わかりましたから…手を…」 

梨子「よっちゃん! 放して! ダイヤさんが…」グイ 

善子「あっ…ご、ごめんなさい…」パッ 

ダイヤ「こほ…平気ですわ」 

梨子「…よっちゃん」 

善子「………」 

梨子「今の取り乱しかた、やっぱり異常だよ。普通じゃない」 

ダイヤ「だからどう、ということにはしませんわ。ですから、正直に答えてください」 

ダイヤ「好きなのでしょう? 南ことりが」 

善子「………」 

善子「 」コク… 

ダイヤ「やはり…」



109: ぬし ◆z9ftktNqPQ (茸) 2018/06/10(日) 09:17:44.57 ID:KyYM3O1R

善子「…最初はね、憧れとかだったと思うの。μ'sに対する。 

善子「ダイヤたちがよく言うような『μ'sは凄い』っていうのが、よくわかって。圧倒的なパフォーマンスに圧倒されてた。 

善子「でもね、色んなのを観てるうちに少しずつ慣れてきて、それぞれのメンバーを追う余裕が出てきて、一人ずつしっかり見てみたりして… 

善子「絵里さんはステップのキレが凄い。穂乃果さんはよく伸びる歌声が素敵。音を取ることに掛けては真姫さんが突出してる。 

善子「一人ひとり違って、可愛くて、格好良くて、美しくて、みんな凄いなって…μ's凄いなって… 

善子「そうしてるうちに、ふっと気付いたの。 

善子「あ。私、この人を追い掛けてるーーって。 

善子「それが、ことりさんだったの。 

善子「九人みんなが歌うパートでもすぐに声を聞き分けられたし、PVとかライブではずっと目で追っちゃうの。MCとかラジオとかでことりさんが喋ってると嬉しくって、もっと聞きたいって思うの。 

善子「そのうち、ライブ観てないときもことりさんのこと考えちゃうようになって、朝起きてママと話してる間も、バスで曜さんと話してる間も、授業中も、練習中も… 

善子「布団に入っても胸がどきどきして眠れなくって、気付いたらことりさんの曲流したり、それでもだめだったらライブ観始めちゃったりして、そしたらね、すっごく嬉しくって、でも、おんなじくらい切なくなって… 

善子「ねえ、ダイヤ。リリー。 


善子「こんなの、私知らないの。こんな気持ち、どうすればいいのよーー」 

……………… 

………



110: ぬし ◆z9ftktNqPQ (茸) 2018/06/10(日) 09:18:43.68 ID:KyYM3O1R

ダイヤ「…思ったよりも、深刻ですね」 

梨子「みたいですね…」 


善子さんは一足先にお帰りになった。夜は必ず休むことをしっかりと言い含めた上で、いくらかのディスクを渡して。 

なんならしばらくはうちに泊まらせたいくらいだけれど… 


梨子「どうすればいいんでしょう。これがクラスメイトとかだったら、まだやりようはあるけど…」 

ダイヤ「素人とは言え、相手はアイドル…しかも、もう何年も前に解散したグループ。正直、手の施しようがありませんわ」 


叶わない、想い。 

いや、叶わないだけならばまだマシかもしれない。 

想いを届けることも、育むことすらできない。 

失うとわかっている箱に、大切な想いを詰め込んでいくかのよう。 


ダイヤ「なんとか…なんとか、してあげたい…」 

梨子「そんなの、私だって…」 


でも、どうすればいいのか。 

ただ刻々と、二人分の沈黙が過ぎていった。 

……………… 

………



111: ぬし ◆z9ftktNqPQ (茸) 2018/06/10(日) 09:19:27.85 ID:KyYM3O1R

ー桜内家、梨子の部屋ー 


梨子「ふう…」 


握り締めていたペンを転がす。 

清々しいまでに白い五線譜ノート。 

窓を挟んだ対岸からは、調子外れの鼻唄が聞こえる。 


梨子「もう。どうして鼻唄になると途端に音が取れなくなるのかしら」 


それを言い訳にしてみたところで、音符が並ぶわけでもなければ、頭の中が晴れるわけでもない。 

むしろ、片付かないものは片付かないままでいいんだよと囁く子守唄のようでーー 


梨子「…なんて。これはさすがの千歌ちゃんでも怒っちゃう物言いね」 


ぎ、と背もたれを鳴らす。 

考えるのはよっちゃんのこと。



112: ぬし ◆z9ftktNqPQ (茸) 2018/06/10(日) 09:20:07.45 ID:KyYM3O1R

ことりさんのソロ曲を前にした、緊張の面持ちも。 

思考を取られて呆ける姿も。 

恥ずかしそうに、嬉しそうに、語る頬の紅潮も。 

そのどれをも、私はーー私たちは初めて目の当たりにして。 

どこか悔しい気持ちと、どこか羨ましい気持ちとが混在する。 


ーーねえ、ダイヤ。リリー。こんなの、私知らないの。 


年頃の女子として、想いを歌うアイドルとして、胸に抱いておくべきその感情を、初めて知ったのはよっちゃんだった。 

けれど、決して心地よいばかりのものには見えなくて。 


ーーこんな気持ち、どうしたらいいのよ。 


梨子「わかんないよ、よっちゃん。私だって知らないもの…そんな気持ち」 


ぎぃぃ、と背もたれが鳴いた。 

***



113: ぬし ◆z9ftktNqPQ (茸) 2018/06/10(日) 09:21:09.70 ID:KyYM3O1R

*** 

悔しかったり、羨ましかったり。 

そんな些末な感情は、けれど、もう全く顔を覗かせることはなかった。 

なぜならーー 


花丸「善子ちゃん。よーしーこーちゃん!」パン! 

善子「きゃっ?! な、なによずら丸…」 

花丸「なによじゃないよ。もうじゅうぶん真っ白になったずら」 

善子「あ、ああ…ほんとね」 

果南「ここまでぴかぴかにされると、改めてペンを走らせるのが申し訳なくなっちゃうねー」アハハ 

曜「ホワイトボードってこんなに真っ白になるものなんだ…」 

ルビィ「遅くなりましたぁ」ガチャ 

千歌「あ、ルビィちゃん。こんにちはー」 

ルビィ「こんにちは。…あ、善子ちゃん」 

善子「なに?」 

ルビィ「吉田先生、かんかんだったよ…『津島はカバン沼津駅にでも置いてるのか』って」 

善子「げ! 忘れてた!」バッ ゴソゴソ 

善子「ごめん! 課題提出してくる!」タタタタ… 

花丸「あ~…」 

曜「なに? どしたの?」 

花丸「善子ちゃん、課題提出し忘れてて、さっき廊下で吉田先生に『すぐ持っていきます』って言ったんだけど…」 

ルビィ「すっかり忘れてたみたい…」 

果南「あははは。善子はドジだな~」 


梨子「…………」 

ダイヤ「…………」 

***



114: ぬし ◆z9ftktNqPQ (茸) 2018/06/10(日) 09:23:33.29 ID:KyYM3O1R

*** 

ー桜内家、梨子の部屋ー 


梨子「よっちゃん…」 


日に日に、よっちゃんはぼーっとしたり失敗したりすることが増えていく。 

花丸ちゃんとルビィちゃんが言うには、授業中だって頻繁に上の空になっては思い出したように首を振ってノートに向かい、すぐにまた上の空…という様子らしい。 

ライブディスクを貸す条件としてダイヤさんが言い含めたことが、ぎりぎり意識に残っているのだろう。 

とは言え、ちらっとノートを盗み見た限り、ほとんど意味がないようだけれど。 

まだ幸いなのは、誰かと一緒にいて話をしているときは集中してくれることくらい。 

一人で歩かせると車に轢かれかねない、と、わざわざ曜ちゃんは朝晩よっちゃんの家まで付き添っているという。 


梨子「ふう…」 


何度目かになる溜め息を漏らす。 

胸の内を吐露してくれたよっちゃんに、してあげられることが何一つない。 

だってμ'sはアイドルで、しかも過去の人たちで。 

例えば私が音ノ木坂に通っていたからといって、南ことりの『み』の字にすら触れたことがない。 

理屈上は最も近いはずの私がこれでは、ダイヤさんにも、他の誰にも、たぐれる糸なんかあるはずもない。



115: ぬし ◆z9ftktNqPQ (茸) 2018/06/10(日) 09:24:34.88 ID:KyYM3O1R

梨子「南ことりさん…」 


ノートパソコンの画面には、舞台をいっぱいに跳び回るμ'sの九人。 

南ことりさん。 

確かに素敵な人だよね。 

歌も上手い、ダンスも上手い、声も可愛い、顔も可愛い。 

でもさ、歌なら花丸ちゃんだって上手いし、ダンスなら果南さんだって上手いじゃない。 

声も顔も、Aqoursのみんなだって負けないくらい可愛いよ。 

手が届く範囲にいる私たちの誰かじゃ、だめだったの? 

どうして絶対に届かないような人を見初めちゃったの? 

…なんて、 


梨子「きっとそういうことじゃないんだよね、恋って」 


私にはまだわからないけれど。 

思い通りになるばっかりなら、きっと誰も恋なんてしないのだろう。



116: ぬし ◆z9ftktNqPQ (茸) 2018/06/10(日) 09:25:36.22 ID:KyYM3O1R

よっちゃんだけの問題じゃない。 

たまたまよっちゃんが誰よりも早かったというだけの話。 

これはいずれ、私たちの誰しもに降り掛かる問題だ。 

私たちだけですらない。 

μ'sのみんなにも降り掛かり、あるいは乗り越えたのだろう。 


梨子「ねえ、穂乃果さん。あなただったらどうしますか」 

梨子「例えば真姫さんが、遠い恋に悩んでいたら」 

梨子「どんな風に、手を伸ばしますか?」 

梨子「…なんて、ね」 


これは私たちが乗り越えるべき私たちの問題。 

穂乃果さんも、真姫さんも関係ない。 

穂乃果さんも、真姫さんも… 


梨子「西木野、真姫さん…」 

梨子「西木野…」 

梨子「あっ」 


その刹那、脳裏にあることが思い浮かんで。 

私は、慌ててスマートフォンに手を伸ばした。 

***



117: ぬし ◆z9ftktNqPQ (茸) 2018/06/10(日) 09:27:21.76 ID:KyYM3O1R

*** 

ー週末の土曜日、沼津駅前ー 


梨子「全員揃いました!」ゞ 

ダイヤ「よろしい。それではさっそく電車に乗りましょう」 

梨子「切符は2,270円のやつです」ピッピッ 

ダイヤ「ありがとうございます。ICカードが使えれば便利なのですけれどね」ピッピッ 

梨子「よっちゃんも早く」 

善子「いや券売機両方とも埋まってるし」 

ダイヤ「一緒に買っちゃいましたわ」ハイ 

善子「あ、ありがとう…ちょっと待って細かいのないかも」チャリ… 

ダイヤ「後で崩れてからで結構ですよ」 

善子「悪いわね」 

梨子「それじゃとりあえず入りましょう。電車そろそろ来ますし」 

ダイよし「「はーい」」 


カシャン カシャン カシャン 


梨子「三番線の熱海行です」 

ダイヤ「さすが、慣れたものですわね」 

梨子「向こうじゃ電車に乗れないとどこにも行けませんでしたからね」 

善子「こっちだとバスか歩きでいいものね」 

梨子「あ。もう止まってますね。乗っちゃいましょう」 


ハッシャ イタシマス 

プシュー ガタゴト… 


善子「…ってちょっと待てえええええええいっ!!!」



118: ぬし ◆z9ftktNqPQ (茸) 2018/06/10(日) 09:28:21.77 ID:KyYM3O1R

ダイヤ「もう、なんですか善子さん。公共の場で大きな声を出さないでください」 

善子「あっゴメンナサイ…」シュン 

善子「じゃなくて!」 

善子「どうして突如東京行くことになってるのよ!」 

ダイヤ「なんですか今さら」 

梨子「それはもう済んだ話じゃない」 

善子「あなたたちの中ではね?! 私は集合を掛けられただけよ!」 

梨子「もう、よっちゃんってば…」 

ダイヤ「仕方ありませんね…」 

善子「なんで私が悪いみたいになってるのよ…」 

……………… 

………… 

……



119: ぬし ◆z9ftktNqPQ (茸) 2018/06/10(日) 09:29:42.99 ID:KyYM3O1R

ー回想ー 


ダイヤ『西木野総合病院、ですか…』 

梨子「はい」 

梨子「ことりさんの行方は知れませんけれど、真姫さんなら…ほぼ間違いなく、西木野総合病院にいると思うんです」 

ダイヤ『それは、まあ…真姫さんはμ'sの現役時代から、高校卒業後は医大へ進んでお家の病院を継ぐと公言されていましたから…』 

梨子「そうですよね。だったら、」 

ダイヤ『だからといって、どうするつもりですか?』 

梨子「どうって、だから…」 

ダイヤ『真姫さんを訪ねて、ことりさんにアポを取っていただくと?』 

梨子「…はい」 

ダイヤ『………梨子さん』ハァ 

梨子「い、嫌な声を出しますね」 

ダイヤ『それはそうでしょう。その案にどれだけの実現性があるとお思いですか』 

ダイヤ『病院を訪ねたとして、真姫さんがいるとは限らない。いたとして、面識のないわたくしたちに会ってくださるとは限らない。会ってくださったとして、ことりさんに取り次いでくださるとは限らない』 

ダイヤ『そして、ことりさんが会ってくださるとも。』 

梨子「…………」 

ダイヤ『身も蓋もないことを言えば、真姫さんとことりさんの繋がりが健在である保証すらないのですよ』 

ダイヤ『そんなことは承知の上でしょう?』



120: ぬし ◆z9ftktNqPQ (茸) 2018/06/10(日) 09:30:45.38 ID:KyYM3O1R

梨子「もちろん、わかってます」 

梨子「ダイヤさんがおっしゃったことは全て正論。乗り越えるべきハードルは多すぎるし、その全てを乗り越えられる可能性は、ほとんどないに等しいのかもしれません」 

ダイヤ『そこまでわかっているのなら、』 

梨子「だけど!」 

梨子「このままよっちゃんを放っておくなんて、私にはできません」 

ダイヤ『それは…』 

梨子「よっちゃん自身なにもできない、私たちもなにもできない…これじゃ、よっちゃんが苦しみから解放されるのをただ待つしかないじゃないですか」 

梨子「時間なのか、私たちの誰かなのか、それ以外のなにかなのか、きっかけを待ち続けることしかできない…そんなのには、耐えられないんです」 

ダイヤ『…言うまでもないことだと思いますが、この行いが必ずしも善子さんを救う結果になるとは限らないのですよ』 

梨子「…わかってます」 

梨子「きついかもしれないけれど、そういう形でもよっちゃんが解放されるのなら、それでいいと思っています」 

梨子「傷付いたよっちゃんの傍にいることだけは、私たちにもできるから」 

ダイヤ『………………』 

ダイヤ『…二年生は、強情なかたばかりですわね』 

ダイヤ『善は急げ。善…かどうかはともかく、こればかりは待ったからといって日和が来るものではないでしょうからね。土曜日でよいですか?』 

梨子「ダイヤさん……はいっ!」 

ダイヤ『最悪、泊まりになりますわよ』 

……………… 

………… 

……



121: ぬし ◆z9ftktNqPQ (茸) 2018/06/10(日) 09:31:46.03 ID:KyYM3O1R

梨子「で、よっちゃんに連絡したとおりよ」 

善子「なんでそれを私に話さないのよ! 話の肝を!」 

梨子「話したら来なかったでしょ、よっちゃん」 

善子「当たり前じゃない!」 

ダイヤ「宿泊道具はお持ちになりましたか?」 

善子「持ってきたわよ! 持ってこいって言われたもの!」ホラ! 

ダイヤ「よろしい」 

善子「あああもうなんなのよこの先輩たちこの間から…」 

ダイヤ「始まったことを悔いても仕方ありませんわ。それよりほら、トランプを買ってきたので…その…」ソワソワ 

善子「いーえまだ間に合うわ! 次で降りて引き返す!」 

ダイヤ「んなっ!」 

ダイヤ「ま、待ちなさい! ルック! ルックチョコもあります!」 

善子「そんなんで釣られるわけないでしょうが!」 


ワーキャー ワーキャー 


梨子「……」 

梨子(ごめんね、よっちゃん。無理やりこんなこと…) 

梨子(でも、よっちゃんのためにできることがあるなら、どんな細い糸でもたぐってみたいの) 

梨子(…力を貸して。) 

……………… 

………



122: ぬし ◆z9ftktNqPQ (茸) 2018/06/10(日) 09:32:47.18 ID:KyYM3O1R

ミシマー ミシマニ トウチャクデス 


善子「おりるぅぅぅ~~~っ!」ジタバタ 

ダイヤ「おとなしくしなさい!」ガシッ 

梨子「もうちょっと! もうちょっと我慢して!」ガシッ 


カンナミー カンナミニ トウチャクデス 


善子「離してぇぇぇ~~~っ!」ジタバタ 

ダイヤ「他のお客さんの迷惑でしょう! 騒がない!」ガシッ 

梨子「ほらよっちゃん! イチゴのポッキーあるから!」ガシッ 


アタミー アタミー、デスッ 


善子「 」ブスッ 

ダイヤ「なにをしていますの。早く降りますわよ」 

梨子「よっちゃん早く。降り遅れるよ」 

善子「なんなのよ、もう!!」ンニャー! 

……………… 

………



123: ぬし ◆z9ftktNqPQ (茸) 2018/06/10(日) 09:33:44.64 ID:KyYM3O1R

ハッシャイタシマス 

プシュー ガタゴト… 


ダイヤ「やっとおとなしくなりましたね…」 

梨子「これで東京駅まで行くから。また途中で降りようとしないでね?」 

善子「…もうしないわよ」プイッ 

梨子「…怒った?」 

善子「気分は害した」 

梨子「ぅ…」 

善子「でも、怒ってはいないわ」 

善子「だって、ダイヤも梨子も私のためを想ってくれたから、こんなことするんでしょ」 

善子「それなら…怒る理由はないもの」 

ダイヤ「善子さん」 

善子「だからここからは、頭を切り替えることにする」ハァ… 

ダイヤ「頭を切り替える?」 

善子「 」キッ 

ダイりこ「「 」」ビクッ 

善子「会えるの?」 

梨子「え」



124: ぬし ◆z9ftktNqPQ (茸) 2018/06/10(日) 09:35:50.13 ID:KyYM3O1R

善子「こんな思いして電車乗って二千円も払って、ほんとにみ…南ことりに会えるわけ?!」 

梨子「それは…だから、言ったじゃない。わからないって」 

ダイヤ「そうですわ」 

ダイヤ「わたくしたちが無事ことりさんに会うためには、考えられないほどの幸運が必要になります」 

ダイヤ「時間があれば作戦を練ることで少しは勝率も上げられたかもしれませんが…」 

梨子「ううん…正直、時間を掛けたところで妙案が浮かぶとも思えなかったから。結局はほとんど出たとこ勝負だよ」 

善子「なんなのよそれえ!」モーッ! 

善子「それじゃ私はどうすればいいのよ。がっかりする準備をすればいいの? それともお話しする準備?」 

梨子「どっちの覚悟も決めておいて」 

善子「鬼ぃ!!」 

ダイヤ(スパルタ…) 

ダイヤ(………) 

ダイヤ「善子さん。ここで言うことではないかもしれませんが」 

善子「なによ」 

ダイヤ「復路と宿泊費があるので、掛かる費用はこの二千円だけじゃ到底済みませんわよ」 

善子「ほんとに言うことじゃないわね! ばか!」 

梨子(追い討ち…) 

……………… 

………



125: ぬし ◆z9ftktNqPQ (茸) 2018/06/10(日) 09:37:05.50 ID:KyYM3O1R

ー東京、西木野総合病院への道ー 


善子「ほんとに来ちゃったのね…」ズン 

梨子「さっきまでのテンションはどこに行ったの?」 

善子「無理やり上げてたのよ。ここまで来ちゃったんじゃ、もう引き返せないじゃない…」 

ダイヤ「もとより引き返すつもりなどありませんわ」 

梨子「ここで引き返したら、それこそここまでの道程が全て無意味になるんだもの」 

善子「あなたたちはもう少し私の意見を聞いてもいいと思うのよ」 

ダイヤ「駅からの道はわたくしも調べておきました。10分もしないようですよ」スタスタ 

善子「…意外ね」 

梨子「なにが?」 

善子「元とはいえμ'sのメンバーに会うなんて、ダイヤだったら跳んで喜ぶかと思ったんだけど」 

梨子「…そうでもないよ」 

梨子(自分の感情で一喜一憂する余裕なんて、ないよ。私がそうなんだから、ダイヤさんだって…同じはず) 

梨子「さ、ついていこ」スタスタ 

善子「うんー…」ハァ… スタスタ… 

……………… 

………



128: ぬし ◆z9ftktNqPQ (茸) 2018/06/10(日) 10:11:17.33 ID:eyJC9Jj8

ー西木野総合病院ー 


善子「人が多いわね…」 

ダイヤ「東京の病院ですから…」 

善子「っていうか土曜もやってるのね…」 

ダイヤ「大病院ですから…」 

梨子「私は総合案内に行ってきますけど、お二人はどうしますか?」 

ダイヤ「も、もちろん行くに決まっているでしょう。なんのために来たとお思いですか」 

善子「私一人で待ってるなんてイヤよ」 

梨子「 」クス 

梨子「それじゃ、三人で行きましょっか」スタスタ 

善子「…意外ね」 

ダイヤ「なにがですか?」 

善子「リリー、知らない人と話すのとか苦手そうなのに」 

ダイヤ「…そうでもありませんわよ」 

ダイヤ(今日のこの動きは梨子さんの提案…責任感もあるでしょうけれど、) 

ダイヤ「 」チラッ 

ダイヤ(善子さんのことを想う心が、ご自身の羞恥など呆気なく抑え込んでしまっているのでしょうね) 

ダイヤ「さて、遅れずについていきましょう。これだけ人が多いとはぐれてしまいます」スタスタ 

善子「うん」スタスタ…



129: ぬし ◆z9ftktNqPQ (茸) 2018/06/10(日) 10:16:13.45 ID:eyJC9Jj8

案内係「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか」 


その一言に思考を失い掛ける。 

わかっていたはずなのに。 

用件、用件…は、 

しかし。 


梨子「私、桜内と申します」 


必死に言葉を捻り出そうとした私の隣で、梨子さんが一歩踏み出した。 

鞄から、クリアファイルに挟んだ封筒を取り出して。 


梨子「西木野真姫先生に用があって伺いました。お取り次ぎいただけますか」 

案内係「…ご用件は?」 

梨子「ピティナ正会員の桜内より伝令で伺った…とお伝えいただければ、おわかりになるかと」 

案内係「承りました。掛けてお待ちください」 


ぺこりと一礼。 

慌てて善子さんと共に倣い、颯爽と踵を返した背を追い掛けるーーぴてぃな? 

……………… 

………



130: ぬし ◆z9ftktNqPQ (茸) 2018/06/10(日) 10:17:27.76 ID:eyJC9Jj8

案内係「お待たせいたしました。西木野と連絡が取れましたので、会議室までご案内いたします」 

ダイよし「「…………!!」」 


ロビーの長椅子で待つこと数分、無言の私たちに掛けられた案内係のかたのそんな声に、思わず絶句した。 


梨子「ありがとうございます。行きましょう、二人とも」 


そう言い席を立つ梨子さんの表情は、取り繕っているながらも明らかな安堵の色に満ちていて。 

とてもあっさりと過ぎたように感じられるこの一幕が、"賭け" であったことを示していた。 

その証拠に。 


梨子「…………」スタスタ 


梨子さんの表情は未だに堅く、案内される道中、一言も発しなかった。 

……………… 

………



131: ぬし ◆z9ftktNqPQ (茸) 2018/06/10(日) 10:18:17.36 ID:eyJC9Jj8

案内係「こちらでしばらくお待ちください」 


簡素な長机とパイプ椅子が並べられた室内。 

まあ、俗に言う会議室なのだろう。 

無機質な空間に三人だけで残され、扉が閉まると同時に、誰からともなく息を吐き出した。 


善子「…病院にもこんな部屋があるのね」 

ダイヤ「…法人の顔もありますからね」 

善子「ほうじん?」 

梨子「ふううーーーー…っ」 


その息に、善子さんと視線を交わす。 

あなたが訊きなさいよ、と言外の訴え。 

こ、こんなときばっかり年長者扱いして… 


ダイヤ「コホン。り、梨子さん」 

梨子「さっきの書類、お父さんから預かったものなんです」 


意を決したところに食い気味の回答。 

肩透かし…なのは、この際置いておくとして。 


ダイヤ「お父さま…から?」



132: ぬし ◆z9ftktNqPQ (茸) 2018/06/10(日) 10:19:03.18 ID:eyJC9Jj8

梨子「全日本ピアノ指導者協会…通称を『ピティナ』と言います」 

梨子「ピアノ指導者から成る国内の組織なんですけど、私のお父さんが正会員…その、少し上のほうの立場にいるんです」 

梨子「真姫さんも、ほら、ピアノ弾いてらしたじゃないですか。だからなんとかきっかけを作れないかと思って、相談してみたんです」 

梨子「それで、その…紹介状みたいなものを、ね…」 


照れ臭そうに説明を終えた梨子さんに、善子さんが詰め寄る。 


善子「す…すごいわリリー! まさかこんなにあっさり真姫さんを呼び出しちゃうなんて!」 

梨子「そ、そんなに大げさなことじゃないよ。それに私じゃなくてお父さんの力だし…」 

ダイヤ「いいえ。たとえお父さまのお名前を借りたとしても、その繋がりを武器にしたのは、紛れもなく梨子さんの功績です」 

ダイヤ「わたくしはぼーっとしていただけで、お恥ずかしい…」 

梨子「そんなことありませんよ! たまたま運がよかっただけで…」



133: ぬし ◆z9ftktNqPQ (茸) 2018/06/10(日) 10:19:58.70 ID:eyJC9Jj8

善子「こんな秘策があるなら、教えておいてくれたらいいのに」 

梨子「上手く行く保証があったわけじゃないから。ぬか喜びになってもいけないなと思って」 


自身のふがいなさが身にしみた上、さらに後輩にフォローまでされてしまった。 

どうにか次のターンでは、私も役に立ってみせなければ。 

と心を引き締め直すのも束の間、 


梨子「…それに、私が切れるカードはこの一枚きりだから…」 


ややトーンの低い声に、私たちは再び黙り込む。 

加えて、懸念事項が拭われたわけでもない。 

梨子さんは言われるまでもなくそんなことわかっているようで、変わらず表情は晴れない。 


梨子「それより、あの紹介状で本当に真姫さんが私たちに会ってくださるかどうかは、まだ…」 

??「会いますけど?」ガチャ 

ダイヤ「……え」 


という私たちを、まるで観察して楽しんでいたかのように。 


真姫「どうも、西木野真姫です…けど、冗談みたいな顔ぶれね。冗談じゃないの?」 


あっさりと彼女は現れた。



147: ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭) 2018/06/10(日) 14:16:27.95 ID:udyFii49

真姫「改めて。西木野総合病院の心臓血管外科で研修医をしてます、西木野真姫です」 

真姫「…いります?」 

ダイヤ「あ、はい。頂戴いたします…」 


差し出されるままに名刺を受け取り、目を落とす。 

『西木野総合病院 心臓血管外科 研修医 西木野真姫』 


真姫「嘘なんか吐いてませんけど」 

ダイヤ「あっいえそんなつもりでは!」バッ 

真姫「ふふ。冗談よ」 

ダイヤ「 」//



149: ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭) 2018/06/10(日) 14:17:46.39 ID:udyFii49

梨子「心臓血管外科…」 

善子「研修医…」 

真姫「それはどういうリアクションなんですか?」 

梨子「いえ、その…そういう科があるんだなって…」 

善子「病院にいるのに『研修』の途中なんだなって…」 

梨子「ちょっとよっちゃん?!」 

善子「あっ、や、あの、」アセアセ 

真姫「言うわね。病院には免許を取れば入れるけど、すぐに一人前ってわけじゃないのよ…」 


真姫さんを含めた三人で何事か話しているけれど、正直なところ、ほとんど耳にも頭にも入ってこない。 

西木野真姫 

その字面を、そして本人を目の前にして、やっと私の脳は正常な状態を取り戻したようだ。 

すなわち、興奮。 

大興奮。 

あ、私、今もしかしてあの真姫さんと対面しているの? 

しかも話してるの? 

むーー無理ーーーーなんて、思考が冷えるまでに短くない時間を必要とし、その間お話を全く聞いていなかったことをひどく後悔するのはまた後日の話です。 


そして。



150: ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭) 2018/06/10(日) 14:19:23.41 ID:udyFii49

真姫「それじゃ、本題に入ってもいいかしら。そう長く席を外すわけにもいかないから」 

梨子「は…はいっ」ダイヤ「はい…」善子「………はい」 

真姫「まず、あなたたちは誰なの? というかそもそも、私は桜内氏すら知らないんだけど」ピラ 

梨子「…あ」 

ダイよし((あー…)) 

真姫「今回の伝令はわからないことだらけで、申し訳ないけどまだ半信半疑よ。この紹介状が本物なのかどうかすら訝ってる」 

真姫「まず、なぜ今さら声が掛かるの? 次に、なぜ私に声が掛かるの? 最後に、あなたたちは一体なんなの?」 

真姫「ピティナほどの組織が、なぜ郵便じゃなくて高校生三人を使わせてくるのかしら」 

真姫「この誘い自体は魅力的だけれど、それらがはっきりしないうちは、頷くつもりは全くないわ。なんなら、全てはっきりしたとしても…ね」 

真姫「わざわざ人を使わせるからには、説明してくれるんでしょ? というか、説明されるまで帰さないけど」キッ 

ダイよしりこ「「「………っ」」」ゴク… 

真姫「現役を退いたとはいえ、私もそれなりに知られてる自覚はある。まさかいたずらじゃないことを祈ってるんだけど、」 

真姫「どうなの?」 

梨子「……ぁ、あの」 

真姫「…」 

梨子「………ほ」オソルオソル… 

梨子「本題…は、その件じゃ…あり、ま、せん……」 

真姫「…………は」 


真姫「はああああああああああああああああっっっ?!!」ガタッ



151: ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭) 2018/06/10(日) 14:20:09.50 ID:udyFii49

梨子「本当に申し訳ありません!」バッ 

梨子「どうしても西木野さんにお会いしたい理由があって、父に無理を言いました!」 

ダイヤ「そっ、それを言うなら年長者はわたくしなのです! 監督責任はわたくしにあります!」バッ 

善子「あ、ああああの…ちがくて、ダイヤとリリーは…あっこの二人のことなんですけど、二人がこんなことをしたのは全部私のためで、だから、」 

善子「その…ごめんなさい!」バッ 

真姫「ちょっ…」オロ 

真姫「や、やめなさいよ! 謝られたってイミワカンナイだけだから!」 

真姫「いいから座って!」 

真姫「ああもうっ…なんなのよ! とにかく起きてってばーー!」 

……………… 

………



152: ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭) 2018/06/10(日) 14:21:00.83 ID:udyFii49

ダイヤ「黒澤ダイヤと申します。静岡県は沼津市の、浦の星女学院にて生徒会長を務めています」ペコ 

梨子「桜内梨子といいます。同じく浦の星女学院に通う二年生です」ペコ 

善子「つ、津島善子です…一年生です」ペコ 

真姫「…そう。」 

真姫「それで、えっと…なにから訊けばいいのかしら」 

梨子「私からお話しします」 

ダイヤ「梨子さん、」 

梨子「平気です。父のこともありますから」 

ダイヤ「…わかりました。お願いします」 

梨子「よっちゃん、いいよね?」 

善子「もちろんよ。それより、私のことなのにお願いしていいの?」 

梨子「うん。私が間違ってたり言葉が足りなかったりしたら補足してくれる?」 

善子「わかったわ…ありがとう、リリー」



153: ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭) 2018/06/10(日) 14:22:25.41 ID:udyFii49

梨子「なにからお話しすればよいのか、私たちも…」 


そう切り出した梨子さんは、しかし、簡潔に事のあらましを話した。 

私たちがスクールアイドルAqoursであること。 

ふとしたきっかけで善子さんがことりさんに憧れたこと。 

そして、なんとかしたいと思い、 

ことりさんに繋がりがあるであろう真姫さんを訪ねようと考え、 

真姫さんに会うために、ピティナ正会員である梨子さんのお父さまに協力を仰いで紹介状を発行していただき、 

今こうしていること。 

あらかじめ話運びは考えていたに違いない。 

ところどころ言い淀む場面はあったにせよ、私たちの補足など必要としない調子で、全てを。 

口を挟むことなくそれを聞き終えて真姫さんは、一言だけ。 


真姫「まだるっこしい」 


とおっしゃった。 

……………… 

………



154: ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭) 2018/06/10(日) 14:23:46.10 ID:udyFii49

真姫「話はわかったわ」 

善子「…怒ってますか?」 

梨子「よっちゃん!!」 

真姫「別に怒ってやしないわよ。なんというか、ただ…呆れてる」 

梨子「呆れて、ますか」 

真姫「そりゃ呆れるでしょ」ハァ 

真姫「こんなものまで作って…」ピラ 

梨子「あの、それは本当に私が無理を言って発行してもらったもので、その…都合がいいことを言うのは承知の上なんですけど、」 

真姫「平気よ。あなたのお父さまの不利になるように報告するつもりなんかないわ」 

真姫「この誘い自体が作り話っていうんじゃないのなら、これはこれで考えてみるから」スッ 

梨子「あ、ありがとうございます…」ホッ… 

真姫「その心労を抱え込むことになることくらい、わかってなかったわけじゃないでしょ。何度でも言うけど、まだるっこしいしやり方が下手くそよ」 

梨子「手厳しいですね…」 

真姫「行動力への褒め言葉だとでも受け取っておきなさい。それと…ああ、ちょっと待ってて」スタスタ 

梨子「? はい…」



155: ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭) 2018/06/10(日) 14:24:52.48 ID:udyFii49

真姫「 」カチカチ… 

善子「待ってる間、雑談してても平気かしら」 

ダイヤ「時折やけに図太いのはなんなのですか」 

梨子「なに?」 

善子「ついていけなかったんだけど、結局あれってどういうものだったの? 紹介状?」 

ダイヤ「あっ。それはわたくしも聞きたいです」ノ 

梨子「ダイヤさんまで…」 

梨子「簡単に言うと、ピアノコンクールへの参加のお誘いです」 

梨子「ピティナ…全日本ピアノ指導者協会と、日墺文化協会ってところが協賛で、近々大規模なコンクールを開催することになってるんです」 

梨子「それで、真姫さんをエキシビションプレイヤーとしてお招きできないかって、父に頼んでみて…その紹介状です」 

ダイヤ「エキシビションプレイヤーですか…また随分と思い切ったことを…」 

善子「そんなのに融通利かせられるなんて、もしかしてリリーのお父さんってすごい人なの?」 

梨子「そんなことないけど…」 

真姫「そんなことあるわよ」(間近) 

梨子「真姫さん」 

真姫「ピティナ正会員というのは、ピアノやってるから誰でもなれる…ってものじゃないのよ。ついでに調べたけど、あなたのお父さま、指導者賞を3回も受けていらっしゃるのね。そりゃ文句なしの権力者だわ」 

梨子「ち、父に伝えておきます…」 

真姫「三人とも、こっちに来なさい。いいもの見せたげる」 

ダイよしりこ「「「?」」」



156: ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭) 2018/06/10(日) 14:27:01.77 ID:udyFii49

『M' used』 

真姫さんに手招きされるまま覗き込んだパソコンの画面。 

そこにはアルファベットの羅列と、一人の女性。 


梨子「っ! これ…」 

ダイヤ「間違いない…ことりさんですわ…」 

善子「………!!」 

梨子「ま、真姫さん…これは?」 

真姫「ユースト…って言ってたかしらね。ご覧の通り、南ことりのホームページよ」 

ダイヤ「ホーム…ページ…」 

真姫「あなたたち、今どきの高校生なのにネットに頼らないのね」 

梨子「…まさか」 

真姫「ええ」 


真姫さんはにっこりと目を細めて、 


真姫「標準言語がフランス語だから気付きづらくはあるけど」 


そう言うやブラウザの設定をいくつかいじり、 


真姫「ほら」 


わずかな読込みのあとに再び映されたのは。 

『デザイナー 南ことり お仕事のご依頼は下記メールアドレスまでお願いします』 


真姫「『南ことり』で検索すれば出るのよ、これ」 

ダイよしりこ「「「………………!!」」」 

真姫「外での仕事がメインみたいだし、連絡したからすぐどうなるってわけじゃないでしょうけど。でもことりのことだから、スクールアイドルって聞けば黙ってないかもね」 

……………… 

………



157: ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭) 2018/06/10(日) 14:28:54.85 ID:udyFii49

ー西木野総合病院近傍、喫茶店ー 


ダイヤ「完全に盲点でしたわ…」ズン… 

善子「三人いて誰も検索しないなんてね…」ズン… 

梨子「私たち女子高生なのにね…」ズン… 


華の女子高生、とはよく言ったものだ。 

囲うテーブルにはことりさんのホームページと真姫さんの名刺。 

成果を思えば喜びこそすれ落ち込む理由など全くないとはいえ、『ネット検索』という解法は私たちに大きなダメージを与えた。 

しかし。 


ダイヤ「…こんなことで落ち込んでいたって仕方ありませんわよね」 

善子「ま、それもそうね」 

梨子「時間は有限。切り替えていきましょうか」 


それぞれにカップを干す。 

と息巻いたはいいものの、やることといえば。 


梨子「ことりさんへメールを送る…か」



158: ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭) 2018/06/10(日) 14:30:19.04 ID:udyFii49

善子「今さらだけど、このメールアドレスってお仕事以外の連絡に使ってもいいのかしらね」 

梨子「本当に今さらだね…騙し討ちで真姫さんを訪ねた時点で前科一犯よ」 

善子「今日のことって、真姫さんからことりさんに伝わるのかしら…」 

梨子「そうなると…なかなか印象は悪いよね…」 

善子「うう…」 

ダイヤ「それはないと思いますよ」 

梨子「えっ」 

ダイヤ「わたくしも真姫さんの人となりをよく知っているとは言えませんけれど、曲がりなりにもμ'sのいちファンとして言わせてもらうならば、」 

ダイヤ「西木野真姫はーーそんな人ではない」 

よしりこ「「………」」 

ダイヤ「と、思いたい」 

善子「 」ガクッ 

善子「ダイヤの願望なんじゃないのよ!」 

ダイヤ「だって仕方がないでしょう! 級友でもなければ幼馴染みでもないのですから! 日常の言動などわかりませんもん!」 

善子「わかりませんもんじゃないわよ! まったく…」 

梨子「…ふふ。でも、そうかも」 

善子「リリー?」 

梨子「真姫さんなら、私たちの行方を見守ってくださるんじゃないかなって。いつかことりさんと会ったときに『そういえばね』なんて話はするのかもしれないけど…」 

梨子「そんな気がしない?」 

善子「…うん。それもそうね。いい人そうだったものね」 

ダイヤ「美しかったですしね」 

梨子「関係ないですしね」 

善子「それじゃ…メールの文面を考えましょうか」 

ダイヤ「ええ!」梨子「うん!」 

……………… 

………



159: ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭) 2018/06/10(日) 14:32:38.45 ID:udyFii49

ー某所ー 


女性「 」カチカチ… 

女性「新着12通…ヒュウ。相変わらず人気者だな~、先生は」 

女性「一時間目を離したら20通は来るんだもんなー。おちおち昼休憩にも入れないって」カチ…カチ… 

女性「………………」カチ… カチ… カチ… 

女性「…ん? 珍しいな」カチカチッ 

女性「…………ほっほおう…」ニヤ 

女性「せーんせー。メール~!」 


パタパタパタ… 


??「も~、先生はやめてってばあ」ヒョコ 

女性「いいからいいから。ほらこれ、興味深いメール来てるよ」 

??「え? お仕事の?」 

女性「ノットビジネス。ま、読んでみたほうが早いって」 

??「えー。どれ… …………」 

??「…い、いたずらかなあ?」エヘヘ… 

女性「ないでしょー。ここまで設定練ってくるんならいたずらでも感心しちゃわない? どれも確認すればすぐ裏とれちゃうだろうし」 

??「うーん…」 

女性「とりあえず」トントン 

女性「確認しとく?」 

??「…うん。私のスマホ使っていいから。お願いしていい?」 

女性「はいは~い」 

……………… 

………



166: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/10(日) 21:34:26.12 ID:jWpHTJrO

ダイヤ「…送信しましたわ」 

梨子「ありがとう、ダイヤさん」 

善子「ありがと。悪いわね、全文代筆してもらっちゃって…」 

ダイヤ「善子さんに任せたら遅々として進まないんですもの。あーとかうーとか唸るだけで」 

善子「うう、面目ない…」シュン 

梨子「なんにせよ、これでもう待つしかありませんね。これからどうしましょうか?」 

善子「これからって?」 

梨子「いつまでこっちにいるのか、よ」 

善子「へ? 別に、もう真姫さんには会えたんだから、帰っていいんじゃないの?」 

梨子「でもほら、もしかしたらことりさんが明日会ってくださるって可能性もあるじゃない」 

ダイヤ「それを期待して『東京に来ています』と書いたわけですからね。不自然に組み込む形になりましたけれど…」 

善子「それはそうだけど…いくらなんでも、今日送った返事で明日会えるなんてことないんじゃないの? 普通に考えて」 

ダイヤ「いやに冷静というか、シビアな見方をしますわね…」 

梨子「よっちゃんが一番期待して舞い上がってくれてもいいのに」 

善子「いや、なんていうか…もう一周回って落ち着いちゃったのよ。本物の真姫さんに会ったりしちゃって」 

梨子「わからなくはないけど」



167: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/10(日) 21:35:24.91 ID:jWpHTJrO

ダイヤ「いずれにせよ、どうせ明日のうちには戻らなくてはなりませんからね。学校ですから」 

善子「…もし明後日なら会えるって返事だったら?」 

ダイヤ「放課後急いでまたこっちに戻りましょう」 

梨子「えー?! 本気ですか?!」 

ダイヤ「当然でしょう」 

善子「ダイヤの石頭ーっ! そういうとこあるわよ!」ブー 

ダイヤ「わたくしたちは学生であり、学生の本分は勉強です! 本分を全うせずして、胸を張ってことりさんに会えるというのですか?!」 

梨子「ええええ……そうなることを考えると、今日は戻っておきたいね…」 

ダイヤ「宿泊すればその分だけお金が掛かりますからね」 

ダイヤ「しかし、現実的には善子さんのおっしゃるよう、明日や明後日会えるなんてことはまずないでしょう。そもそも日本にいらっしゃるのかもわかりませんし、それでなくても快いお返事を頂けるかどうかすら…」 

梨子「………」 

ダイヤ「ですから…慌ただしく二度手間になるという心配は、おそらく不要なのではないかと」 

梨子「…そうですよね」 

善子「…」 

善子「イヤだ」



168: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/10(日) 21:36:17.97 ID:jWpHTJrO

梨子「へ?」 

ダイヤ「はい?」 

梨子「ごめんよっちゃん、今のなにに対しての返事?」 

善子「帰りたくないわ。このまま沼津に戻るなんてやっぱりイヤだって言ったの!」 

梨子「よ、よっちゃん…」 

ダイヤ「善子さん。聞き分けのないことを言わないでください…ここまでですでに望むべくもないほどの結果なのですよ。ここで一つわがままを言ったところで、これ以上望外の好転など…」 

善子「そうじゃなくって」 

ダイヤ「え?」 

善子「その…」 

善子「せっかく来たんだし、遊んでいきましょうよ。めったにない組合せなんだから…」モジ 

ダイヤ「な…」 


ダイりこ((なるほど大賛成ーーーーっ!)) 

……………… 

………



169: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/10(日) 21:37:18.79 ID:jWpHTJrO

ー翌日昼過ぎ、都内某図書館ー 


トコ… 


ダイヤ「梨子さん」 

梨子「どうですか?」 

ダイヤ「 」フルフル 

梨子「…ですよね」 

ダイヤ「善子さんは?」 

梨子「もう少し見ていたいって。こんな機会ないからって。集中したいだろうから、一人にしてきました」 

ダイヤ「ふふ。結局、今日は遊ぶどころではなさそうですね」カチ 

梨子「せっかくですし、私たちもどこか行きますか? …ほら、近くに賢いビーグル犬ミュージアムなんてあるみたいですよ」 

ダイヤ「善子さんをここに置いて? ばかを言わないでください」クス 

ダイヤ「梨子さんなら図書館でも充分に楽しめるでしょう」カチ 

梨子「ダイヤさんこそ。パソコンに掛かりっきりなんて、らしくないですよ」 

ダイヤ「書物なら手前のもので間に合ってますもの。μ's関連なら、それ以上に…ね」 

梨子「あら。よっちゃんだって本屋さんや図書館に行くんですよ」 

ダイヤ「そうなのですか? それは意外な…」 

梨子「黒魔術の本を漁りに、ね」フフ 

ダイヤ「視野の狭いことで」フフ



170: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/10(日) 21:44:41.44 ID:jWpHTJrO

ダイヤ「あちらのブース席だとDVDを観たり音楽を聴いたりすることもできるようですよ」カチ 

梨子「そうですね。落ち着いたら教えてあげようかな」 

ダイヤ「あれだけわたくしの家に足繁く通っていて、図書館の陳列で目を輝かせるとは思いませんけれどね」フフン 

梨子「じゃあ視聴ブースの話振らないでください」 

梨子「…どうですか?」 

ダイヤ「ええ。予想はしていましたけれど、かなり大手ですね」 


『M' used』 


ダイヤ「リンク先やら関連ページやらがいちいち外国語なので、まだあまり多くのページは見ることができていませんが…」カチカチッ 

梨子「日本での実績みたいなものはあるんですか?」 

ダイヤ「ありましたよ。この辺とか」カチ 

梨子「…なるほど。美大の文化祭とかアマのコンペとか…か。やっぱり、個人の依頼で動くような規模じゃなさそうですね」 

ダイヤ「そうですわね…イタリアだかの個人資産家がリピーターになっているとは、どこかに書いてありましたけれど」 

梨子「……黒澤家って確か、」 

ダイヤ「お父さまが音楽界では著名なかたなのではありませんでしたっけ」カチ 

梨子「ごめんなさいなんでもないです」



171: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/10(日) 21:45:22.97 ID:jWpHTJrO

梨子「………………」 

ダイヤ「………………」カチ…カチ… 

梨子「どうしたら、いいんでしょう」 

ダイヤ「なにがです?」カチ 

梨子「ことりさんからよくも悪くもお返事が来なかったら。事態は結局、なにも進展しないまま…ううん、今より希望が薄くなるとさえ言える」 

ダイヤ「それは覚悟の上で決行したのでしょう? 今さら弱音を吐いてどうにかなるとでも?」カチ 

梨子「……っ」グッ… 

ダイヤ「………」チラッ 

ダイヤ「冗談ですよ。少し意地悪を言っただけですわ」フフ 

梨子「ダイヤさん…」ヘナ 

ダイヤ「複雑な心中ではありながら、わたくしも賛同したのは事実です。この旅の先、責任は一緒に抱えましょう」 

梨子「…はい」 

……………… 

………



172: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/10(日) 21:46:06.15 ID:jWpHTJrO

善子「すご…」 

善子(スクールアイドルコーナーなんてあるのね…) テクテク 

善子(その中でもμ'sの棚があそこからここまで) 

善子「…はぇ~」 

善子「 」ヒョイ 

善子(新聞記事と雑誌の切抜きノート…) 

善子(よほど熱心なファンがいるのね。いくら大図書館とはいえこれはやりすぎだもの…) クス 

善子(あのダイヤたちでさえ新聞記事まで網羅はしてなかったし) 

善子「 」ペラ…ペラ… 


『南ことり』『μ's 南ことり』『ことりちゃん』『南さん』 


善子「…………っ」ギュウ…



173: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/10(日) 21:47:15.32 ID:jWpHTJrO

もう、南ことりのことは一生分考えたと思った。 

南ことりの歌声も、ダンスも、作った衣装も、考えた歌詞も、笑顔も、情熱も、可愛さも、ひたむきさも、プロフィールも、インタビューも、目標も、経緯も、愛情も、あざとさも、過去も、未来も。 

貪欲に求め、聴いて、観て、読んで、知って、惚れて、笑って、泣いて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて。 

気が付けば生放送も忘れていたし、睡眠より優先したし、その他の日常を一つだって思い出せないくらいに。 

それなのに、 


ペラ… 

『次のセンターは南ことり!』 

ペラ… 

『ことりちゃんに5の質問』 

ペラ… 

『△△書店でμ's 南ことりの握手会』 


知ってる、知ってる、これは知らない、こっちは知ってる。 

知っていても知らなくても、関係ない。 

あなたの名前を探すこの目が憎い。 

あなたの名前に弾むこの胸が憎い。 

あなたに会えないーーこの現実が、 


善子「つら…すぎるわ……っ」ポロポロ… 

……………… 

………



174: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/10(日) 21:48:10.99 ID:jWpHTJrO

善子「…」トコトコ… 

梨子「あ。よっちゃん」 

善子「ん」 

ダイヤ「もうよいのですか?」 

善子「うん…」コク 

善子「おなかすいちゃった」 

ダイヤ「そうですね。もう四時間もいましたし」 

梨子「帰りのことを考えると、そんなにのんびりしてられるわけでもありませんしね」 

ダイヤ「口惜しいでしょうが、借りていくのはナシですわよ。返しにくるのも一苦労なのですから」 

善子「わ、わかってるわよ。そこまでばかじゃないわ」 

ダイヤ「ふふ…それならよいのですが」チラ 

梨子「…」 


ーーダイヤ『善子さんは、まだ?』 

ーー梨子『はい。あの…もう少し、掛かりそうです…』 

ーーダイヤ『…なにか?』 

ーー梨子『………泣いてました』 


梨子「……」フウ 

梨子「よっちゃんがあんまり長居するから、私たちだってお腹ぺこぺこよ! なにか奢ってね」 

善子「ええっ?! り、リリーが好きなだけいていいって言ったんじゃないの!」 

梨子「限度を超えたのよ」 

善子「先に言いなさいよ、そういうのは!」 

ダイヤ「わたくしは、とうもろこしの唐揚げが食べたいです」 

善子「ダイヤまで! ってかなにそのありそうななさそうなチョイス!」 

梨子「私、タコのカルパッチョ」 

善子「せめて同じ店で食べられそうなものにしなさいよーーっ!!」 

……………… 

………



175: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/10(日) 21:49:07.89 ID:jWpHTJrO

ー東京駅近傍ー 


善子「まじで奢らされたんだけど…うそでしょ…」 

梨子「とうもろこしの唐揚げありませんでしたね」 

ダイヤ「タコのカルパッチョも」 

善子「居酒屋にでも行かなきゃないでしょ! 知らないけど!」 

梨子「そんなの行ってみなきゃわからないじゃない」 

善子「ここは少なくとも行かなくたってないのわかるわよ!」ビシッ 


『100% ChocolateCafe.』 


ダイヤ「いやいい店でしたねホントに」ウンウン 

梨子「ちょべりぐでしたね」ウンウン 

善子「あなたたちの中でチョコってそんなにハイカラなものなの…?」 

ダイヤ「さすが、チョコ好きとうそぶくだけのことはありますわね。東京のこんな店を知っているとは」 

善子「チョコ好きなのってそんな言いかたされること?」



176: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/10(日) 21:49:59.59 ID:jWpHTJrO

ダイヤ「さて。おやつも済んだことですし、そろそろ」 

善子「…」 

善子「ダイヤ、」 

ダイヤ「メールの返信はありませんわ」 

善子「…っ!」 

善子「………そうよね」 

梨子「よっちゃん」 

善子「いいの。わかってるのよ」 

善子「無謀なことだって、はじめからわかってたもの」 

ダイヤ「……」 

梨子「……」 

善子「さ、行きましょうか。遅くなっちゃうわね」 

ダイヤ「…ええ」 

……………… 

………



177: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/10(日) 21:50:42.54 ID:jWpHTJrO

10バンセン ドアガ シマリマス 

プシュー ガタゴト… 


梨子「これで熱海まで行きます」 

ダイヤ「ありがとうございます。往路の電車から頼りっ放しになってしまいましたわね」 

梨子「いえ。電車は慣れてますし、たいしたことじゃありませんから」 

善子「また長旅ねー」ホオヅエ 

梨子「そうね」 

善子「…」ボーッ 

ダイヤ「 」スッ 


『新着 0件』 


ダイヤ(わかってはいたことだけれど) 

ダイヤ(現実になると、結構くるものね…) 


ガタゴト… ガタゴト… 


そうして私たちは無事に沼津・内浦へと帰り着きーー 

文字通り何事も無く、短い二日間は幕を閉じた。 

***



178: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/10(日) 21:55:00.39 ID:8E+hq59f

*** 

ー翌朝、黒澤邸ー 


ルビィ「何事もなくないよ!!!!!!!」ドン!! ←机たたいた 

ダイヤ「ひっ?!」ビクッ 

黒澤母「ルビィさん? どうかしましたか?」ヒョコ 

ルビィ「あっ、うゆ…なんでもない」 

黒澤母「そう。あまり騒いではいけませんよ」スッ 

ルビィ「はあい、ごめんなさい」 


スタスタ… 


ダイヤ「 」ドキドキ… 

ルビィ「何事もなくないよ!!!!!!!」ヒソ ドンッ! ←壁ドン 

ダイヤ「ひぃぃぃっ?!」ビクビク 

ルビィ「会ったの?! 真姫ちゃんに?! あの西木野真姫ちゃんに?!」 

ダイヤ「え、ええ…その、運よく…」 

ルビィ「っっっああああああァァァァァ!!」ガァァァッ 

ダイヤ「る、ルビィ?!」アセアセ 

ルビィ「ついていけばよかった…会いたかった…四つならべるゲームの特訓なんかしてる場合じゃなかった…」ズーン イジイジ 

ダイヤ「そ、その…ごめんね…。大所帯で行くものでもないと思って…」オロオロ



180: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/10(日) 21:56:18.84 ID:jWpHTJrO

ルビィ「…………写真とかないの?」グスッ 

ダイヤ「と、特には…」 

ルビィ「肉声の目覚ましボイス録ったりは?」 

ダイヤ「してないわ…」 

ルビィ「髪の毛貰ってきた?」 

ダイヤ「あ、あなたは真姫さんをなんだと…」 

ルビィ「だあってずるいずるいずるいおねいちゃんだけ真姫ちゃんに会うなんて!! ずっと憧れてきたのはルビィもおんなじなのにぃ!!」ウエーン ジタバタ 

ダイヤ「おっ…おおお…」アセアセ オロオロ 

ダイヤ「…はっ!」ピーン 

ダイヤ「ある! ありますわ! 真姫さんから貰ったもの!」 

ルビィ「!!」 

ルビィ「なに?! なに貰ったの?! ルビィにあげていいもの?!」 

ダイヤ「ナチュラルに所有権を欲しないでちょうだい」 

ダイヤ「確かお財布に…」ゴソゴソ 

ダイヤ「これです」つ名刺 

ルビィ「…………?? これなに? TDC…?」 

ダイヤ「名刺よ。真姫さんの」 

ルビィ「ルビィ知ってるよ。こういうのって東京駅に置いてある機械で作れるんでしょ」 

ダイヤ「なぜそんな知識を」 

ダイヤ「う、疑ってる?! お姉ちゃんのこと疑ってるの?!」 

ルビィ「こんなの作ろうと思えば作れるもん!」 

ダイヤ「あーいいですー! そんなに言うならもういいですー! せっかくコピーしてあげようと思ったけど、それならお姉ちゃんだけで楽しみます~!」 

ルビィ「それはだめ! にせものでもいいから貰う! おねいちゃんがコピー!!」 

ダイヤ「ぬぁんでそうなるのーーー!」 


コラー カエシナサーイ 

ヤダー ルビィガモラウノーッ 


黒澤母「遅刻しますよー」ズズ… 

……………… 

………



181: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/10(日) 21:57:58.24 ID:jWpHTJrO

ー同じ頃、高海家&桜内家ー 


カラカラ… 


千歌「あ! 梨子ちゃん! おはよ!」 

梨子「あら千歌ちゃん。おはよう。今日は早いのね?」クス 

千歌「梨子ちゃんが起こしてくれないかもしれないと思って。な~んだ…じゃあもう少しゆっくり寝ればよかった」チェーッ 

梨子「明日から絶対に目覚まし掛け忘れないことね…」イラッ 

千歌「そういえば、昨日どうだったの? 東京」 

千歌「いいなー、ダイヤさんと善子ちゃんと三人なんて。そんなに仲良しなんだっけ?」 

梨子「もちろん、仲良しよ。千歌ちゃんだって果南さんともルビィちゃんとも仲良しでしょう」 

千歌「そーだけど。でも三人でお出掛けなんてしたことないよ! しかも東京までなんて!」 

梨子「はいはい。だったら誘ってみたらいいじゃない…それに、私たちだって別に遊びにいったわけじゃないのよ」 

千歌「へ? そなの?」キョトン 

千歌「じゃあなにしに行ったの?」 

梨子「真姫さんに会いに」 

千歌「まきさん? 梨子ちゃんの親戚?」 

梨子「ふふ…なに言ってるの。西木野真姫さんよ」 

千歌「にしきの…まき………」 

千歌「?!」 

千歌「えええええええええ~~~~~~っっ?!!」



182: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/10(日) 21:58:49.84 ID:jWpHTJrO

美渡「千歌ァ! うるさい!」 

千歌「ごめんなさーーいっ!」 

千歌「えっ?! なに、どゆこと?! 真姫さんに会いにいったの?! なんで?! えっ、っていうかどうだったの?! 会えたの?!」 

梨子「会えたわよ」 

千歌「会えたのォ?!」 

梨子「なんとかね」 

千歌「なんとかねって…すごいことじゃん!」 

梨子「真姫さんだって人なのよ? 歴史上の偉人でもなければ物語上の英雄でもない。そりゃどうにかすれば会えるじゃない」 

千歌「なんでそんなに冷静なの?!」 

梨子「さーて、千歌ちゃんが起きてるなら話は早いわ。のんびり朝ごはん食べれるなー」ンーッ 

千歌「ちょ! ちょちょ待って待って梨子ちゃん! 話はまだ終わってないよ!」 

梨子「45分には出るから。間に合わなかったら置いてくからね」スタスタ… 

千歌「梨子ちゃん! あ~~~っ、梨子ちゃあ~~~んっ!」 

……………… 

………



183: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/10(日) 21:59:58.47 ID:jWpHTJrO

ー少し遅い頃、沼津駅~浦女間バスー 


ピッ 


曜「いっちばーん!」タタッ 

曜「善子ちゃーん! オハヨーソロー!」ゞ 


後部座席「 」ガラン… 


曜「…あれ?」キョロキョロ 

運転手「発車します。お座りください」プシュー バタン 

曜「あっ、ごめんなさーい」テテテ… ストン 


ブゥゥゥン… 


曜「…なんでいないんだろ。お休みなのかな…」 

……………… 

………



184: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/10(日) 22:01:24.27 ID:jWpHTJrO

ーかなり早い頃、通学路ー 


一人、浦女までの道を行く。 

なにも言ってない、曜さんには悪いことしたかな。 

でも別に約束してるわけじゃないしな。 

部活のときに一言謝ればいいか。 


善子「…行きたくな」 


呟いてはみるけれど、足は止めない。止まらない。 

本当は休んでしまおうかと思った。 

数ヶ月前の不登校を思えば、今さら一日や二日のずる休みくらいたいしたことじゃない。 

けれど、 


ーーダイヤ『わたくしたちは学生であり、学生の本分は勉強です! 本分を全うせずして、胸を張ってことりさんに会えるというのですか?!』 


存外ダイヤのあの言葉がキているらしい。 

意識せずとも体は勝手に身支度を済ませ、気付けば一本早いバスを捕まえていた。 

朝食はトーストとゆで卵とウインナーと堕天使の黒血(ブラックコーヒー)。 

側頭部で髪を強く結い束ねる。 

時間以外はなにも変わらない毎朝の風景。 

…ああ。 

鏡の前に立つ時間が、普段より少しだけ長かったかもしれない。 

胸を張ってことりさんに。 


善子「会えるわけでもないのに…愚かな肉体ね」 


シニカルに独りごちた言葉も冷笑も、朝の波音に消えていった。 

***



185: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/10(日) 22:02:36.03 ID:jWpHTJrO

*** 

それから数ヶ月ーー… 


善子「おつかれさまー」ガチャ 

梨子「あっ! 来た!」 

ダイヤ「!!」キッ 

善子「?!」ビクッ 

善子「な、なによ…」 

ルビィ「よしこちゃん。自分の行いには責任を持たないとね…」ススス… 

花丸「善子ちゃーん。自分の胸に手をあてて思い返してみるずらー」ススス… 

ルビまる「「 」」ガシッ 

善子「ひっ?!」 

善子「な、なによ! なんなのよ?! 放しなさいよ!」ジタバタ 

果南「善子なりの考えがあったのかもしれないけどさー、ああいうのは一応本人に許可を得とかないとねー」アハハ 

鞠莉「じゃないとこういう事態になるからねー♪」ナムアミダ… 

善子「なっ、なに?! なんの話?!」 

ダイりこ「「 」」ジリジリ… 

善子「ダイヤ! リリー! 目! 目がマジに見える!!」 

ダイヤ「マジですからね」梨子「マジだもの」 

ダイヤ「それではさっそく善子さんの粛清を…」 

果南「チカ。プレイ!」 

千歌「はいはーい」カチッ



186: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/10(日) 22:03:20.98 ID:jWpHTJrO

ダイヤ「なっ?!」ハッ 

梨子「がっ!」ハッ 

ダイりこ「「さ、なくていい!!」」バッ… 

かなまり「「 」」ガシッ 

果南「まあまあ。そう言わずに。実物を見せないと善子だってなんのことかわかんないでしょ?」クス 

鞠莉「そーよ。情報の伝達に齟齬が発生するかもしれない…でしょ?」クス 

ダイヤ「あーなーたーたーちー…っ!」 

梨子「どうしてここで私たちもダメージを受けなきゃいけないんですか!」 

果南「んー」 

鞠莉「おもしろいから?」 

果南「かなん♪」 

ダイりこ「「 」」ブチッ 

ダイヤ「はじめからそれが目論みでーー!!」 

善子(なんなのよ…) ジッ… ←羽交い締めされてる 

善子「…あ」



187: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/10(日) 22:04:13.65 ID:jWpHTJrO

梨子『お…おchu~しゃ堕天使リリーよ!』// 

梨子『あなたのハートに堕天の一撃っ♡』 


梨子「っっっああああああァァァァァ!!」 


ダイヤ『きょ…今日も元気にいっきますわよ~!』// 

ダイヤ『恋のダイヤル rin rin rin♡』 


ダイヤ「っっっああああああァァァァァ!!」 


アアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!! 

リコチャン! ダイヤサン! キヲシッカリ! 

カワイイヨ! カワイイカラ タイジョウブダヨ! 


善子「…これね」ナルホド



188: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/10(日) 22:05:25.88 ID:jWpHTJrO

ダイヤ「な、に、を…冷静に心当たってますのォ!」ユラァ 

善子「罰ゲームなんだからしょーがないじゃないの。内容提案したの私じゃないし」 

ダイヤ「それを誰が撮っていいと言いましたか!!」 

梨子「そしてそれを誰がホームページにアップしていいって言ったのよ!!」 

善子「そう噛み付くことないじゃない。おかげでほら、二人のAqours内ランクはうなぎ登りよ?」ククク… 

ダイヤ「ほお~…反省の色は全くないようですわねえ」ヒクヒク 

梨子「消しなさい! 今すぐに!」 

善子「イヤよ! これのおかげでAqours自体の知名度だってガンガン上がってきてるんだから!」 

梨子「ダイヤさん! よっちゃんの進路は私が塞ぐので早く!」シュッシュッ ←反復横跳び 

ダイヤ「待ってください梨子さん! その役目はわたくしが!」シュッシュッ ←反復横跳び 

ダイヤ「わたくしはホームページの動画を削除するなどという高等技術は扱えません!」シュッシュッ 

梨子「んなっ?! わ、私もなんですけど!」シュッシュッ 

ダイヤ「なんですって?! じゃあ果南さんか鞠莉さん…」バッ 

果南「~♪」スー フスー スヒー ←口笛 

鞠莉「ね、このときの曜も可愛かったわよね」ホラココ 

曜「えーっ、もう。やめてよ鞠莉ちゃんってばー」// 

ダイヤ「 」 

梨子「千歌ちゃん!」バッ 

千歌「ごめん梨子ちゃん…今のチカは果南ちゃんの従順な犬…」モグモグ 

梨子「みかんくらい後で好きなだけあげるわよォ!」 


キャーキャー ワーワー 


善子「…もう放してくれてもよくない?」 

花丸「確かに」スッ ルビィ「確かに」スッ 

……………… 

………



189: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/10(日) 22:17:46.74 ID:jWpHTJrO

ー練習後ー 


善子「じゃ! バスだから!」シュタッ タタタ… ピッ 

梨子「あっ!」 

曜「私も~♪」タタタ… ピッ 

運転手「発車します」 


プシュー バタン ブゥゥゥン… 


ダイヤ「…もうっ。明日こそとっちめますわよ」フンス 

梨子「逃げ足だけはトップスピードなんだから…」フンス 

千歌「梨子ちゃーん。ダイヤさーん」ノシ 

梨子「なあに裏切り者の千歌ちゃん」ジトッ 

千歌「うわあ根に持たれてるぅ…」タジ 

梨子「当然でしょ。今日の裏切りは忘れないからね」 

千歌「えーっ、やだやだ困る!」 

ダイヤ「今からでも遅くありません。削除に協力してくださるのならそれなりの温情措置を…」 

千歌「それはおもしろくないからやだなあ」 

ダイヤ「こっ…この人はァ!」 

梨子「で、なに? 帰らないの?」 

千歌「ああ、うん。アクアステージ寄ってこうかって話してるんだけど、どう? どうですか?」 

ダイヤ「寄り道は校則で禁止されていますわよ」 

千歌「じゃあ梨子ちゃんだけ誘う」 

ダイヤ「そういうのはやめてください」 

千歌「今から下りればちょうど『船が夕焼けを渡る時間』くらいだよ!」 

梨子「どうしますか?」 

ダイヤ「そうですわねえ…」 

……………… 

………



190: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/10(日) 22:18:40.25 ID:jWpHTJrO

山道を下りるという千歌ちゃんたちを見送り、ダイヤさんと二人、帰路に着く。 

今日はこのまま帰る。 

なぜか、意見が一致した。 


梨子「ダイヤさんと二人で帰るのなんて、初めてですね」テクテク 

ダイヤ「そうですね」テクテク 

ダイヤ「…気まずい、とか思っていますか?」 

梨子「なんですか、それ」クス 

ダイヤ「ちょっと気になっただけです」フフ 

梨子「そういえば、二人きりで過ごすのってあれ以来かもしれませんね」 

ダイヤ「東京の?」 

梨子「そうです。図書館で四時間」 

ダイヤ「ふふ…懐かしい」 

梨子「もしかしたら、あの小旅行がなかったら、この時間って気まずかったんでしょうか」 

ダイヤ「ありえなくはないですね」 

梨子「…」テクテク 

ダイヤ「…」テクテク 

梨子「…よっちゃん、あれから……」 

ダイヤ「…ええ」 


短く、ただそれだけの会話。 

言いたいことは伝わったとわかるし、受け取った通りで正しいと確信できた。



191: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/10(日) 22:19:36.86 ID:jWpHTJrO

あれから、よっちゃんは少しずつ落ち着いていった。 

東京から戻ってからしばらくは、夜中に突然私に電話を掛けてきたり、練習中に突然ダイヤさんの手を引いていなくなったりしたけれど。 

ダイヤさんの家に寄る頻度が二日に一度、三日に一度…と減っていき、ぼーっとすることや失敗することも同じように減っていって。 


梨子「最後にダイヤさんのお家に来たのはいつ頃ですか?」 

ダイヤ「さあ…いつでしたか。貸していたディスクも丁寧に手提げ鞄で返してくださっただけなので、今は貸しているものもありません」 

梨子「そうですか」 

ダイヤ「ええ」 


やがて、ことりさんの話をすることはなくなった。



192: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/10(日) 22:21:08.68 ID:jWpHTJrO

よっちゃんは元通り、飄々として、マイペースで、どこか危なっかしい…そんなよっちゃんに戻った。 

ダイヤさんのスマホがメールの受信を告げることもなくーー 

まるであの二日間が、そしてあの日々が、そもそも白昼夢かなにかだったんじゃないかとすら思うようになっていた。 


梨子「これでよかったんだと思いますか?」 

ダイヤ「…」 

ダイヤ「よくないとするなら、どうするつもりですか」 

ダイヤ「再び善子さんのことりさんへの想いを掘り返し、悩ませ苦しませようとでも?」 

梨子「そういうわけじゃ…ありませんけど…」 

ダイヤ「言いたいことはわかりますけれどね。よくも悪くもなんの決着すら見なかったことこそが、いつか再び善子さんの枷になるのでは…と」 

梨子「…はい」 

梨子「一回だけ真姫さんにお願いしてみるとか、あと一回だけことりさんにメールを送ってみるとか」 

ダイヤ「意味はないでしょうね」 

ダイヤ「真姫さんはあの場でことりさんのホームページを教えてくださった。ことりさんから返信はない。これこそが、答えなのではありませんか」 

梨子「そう…ですよね」 

梨子「このまま忘れるのが最善なんでしょうか」 

ダイヤ「善子さん本人がなにも言わない以上、わたくしたちだけが躍起になるのは悪手だろう…とは、思いますわ」 

ダイヤ「ですが、忘れるのが最善という風には、わたくしは思いませんよ」



193: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/10(日) 22:21:53.91 ID:jWpHTJrO

ダイヤ「なんの決着も見なかった。膨らみ、そして萎み。叶いも破れもしなかった。だからといって、それを『なかったもの』と切り捨てるのはあんまりでしょう。 

ダイヤ「もしかしたら善子さん自身は忘れたいと願うのかもしれません。忘れられずに苦しむのかもしれません。それでも、わたくしたちだけは覚えていましょう。 

ダイヤ「叶えてあげたくて奮闘したことも、叶えてあげることができなかった事実も。 

ダイヤ「だって、善子さんの想いは、確かに存在したのですから」 


梨子「…………はい。」 

ダイヤ「…もう。あなたが泣かないでくださいな」ポン… 

***



197: 名無しで叶える物語(やわらか銀行) 2018/06/10(日) 22:37:59.96 ID:0K5RXr27

この善子ちゃんガチ恋だ…



201: 名無しで叶える物語(庭) 2018/06/11(月) 04:30:01.72 ID:94zwx6yX

ことりちゃんなら堕天使トークにも「うんうんヨハネちゃん♡」って優しく頷いててくれそうだなぁ



219: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/11(月) 21:52:10.30 ID:efuRTpQb

*** 

さらに数週間後ーー… 


司会者「本日は、日墺・ピティナ・文化交流ピアノコンペティションにお越しいただき、ありがとうございます」 

司会者「今日この場から生まれる音楽が、オーストリアと日本の、ひいては国際的なピアノ文化の発展に寄与することを祈っております」 

司会者「それではオープニングセレモニーと致しまして、日欧の若きピアノ奏者二名によるコントラストエキシビションをお届けいたします」 

司会者「まずは日本の奏者をご紹介いたしますーー西木野真姫さまーー」 


ワァァァァァァ… 


善子「わ、すご…」 

ダイヤ「本当に真姫さんが…」 

善子「リリーのお父さんってすごいのね…」 

梨子「いや、正直私も驚いてるよ…真姫さんが引き受けてくださったことまで含めて…」 

ダイヤ「それどころか、」 


『招待状 日欧・ピティナ・文化交流ピアノコンペティション』 


ダイヤ「わざわざ三通も…」 

善子「できすぎよね…」 

……………… 

………



220: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/11(月) 21:53:10.15 ID:efuRTpQb

司会者「ーーピアノ文化の更なる可能性を感じさせる演奏でした」 

司会者「それではプログラム進行に参りますーー」 


梨子「はあ…綺麗な音だった…」// 

善子「リリーのピアノだってキレイよ」 

ダイヤ「そうですよ。Aqoursのピアノ奏者だって負けてませんわ」 

梨子「そっ! そんな! 今の演奏に比べたら私のピアノなんか鼻唄よ、鼻唄!」アセアセ 

ダイヤ「どういう謙遜の例えなのですか? それは…」 

ダイヤ「…っと。奏者のかたには申し訳ありませんが、今のうちに真姫さんへご挨拶に伺いましょう」 

梨子「あ…そうですね」 

善子「あ、待って、先にその、お手洗い…」 

ダイヤ「善子さん! だから始まる前に行っておきなさいとあれほどーー」 

梨子「まあまあダイヤさん。じゃあエントランスで待ってるから、行ってきて」 

善子「うん。すぐ戻るわ」 

梨子「あ! よっちゃん、これこれ」ヒラ 

善子「わ。ありがとう、リリー」 

善子「じゃあすぐに!」テテテ… 

……………… 

………



221: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/11(月) 21:54:09.27 ID:efuRTpQb

善子「エントランス…は、あっちね」 

善子「 」トコトコ 

女性「……ん?」 

女性「 」ジッ… 

善子「……… …」ピク 

善子(な、なんか見られてる? 気のせいよね? 誰?) トコトコ… 

女性「…」 

女性「 」トコトコ 

善子(ついてきたァ!) ビクッ 

善子(なになに?! なんなの?! 怖い!) トコトコ 

女性「 」トコトコ 

善子(ダイヤぁ…リリー…) トコトコ 

女性「………ねえ」 

善子「 」ビックゥゥゥゥ!! 

女性「あはは。そんなに驚かなくてもいいのに」 

善子「な、なにか?」ビクビク 

女性「んー…なにかっていうかー…」ジッ 


ブラン 

『ゲスト(招待者:西木野 真姫) 津島 善子 さま』 


女性「真姫ちゃん…善子ちゃん…」 

女性「ってことは、間違いないよね」ニパッ 

善子「は、はいい…??」 

……………… 

………



222: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/11(月) 21:55:09.77 ID:efuRTpQb

梨子「よっちゃん遅いですね」 

ダイヤ「方向さえ間違わなければ、迷うような造りでもないのですけれどね」 

梨子「表示板もあるしなあ…」 

ダイヤ「仕方ありませんね。わたくしが見てきますので、梨子さんはここで…あ」 

梨子「あ。よっちゃん、遅かったわーーねーー?」 

女性「こんにちは!」ニパッ 

善子「………」アセアセ 

ダイヤ「こ、こんにちは…」 

ダイヤ「その…どちら様ですか?」 

梨子「よっちゃん…」 

善子「私なにもしてないもん…」←半泣き 

女性「わたしは、まー…」ウーン 

女性「真姫ちゃんの知り合いかな!」 

ダイヤ「真姫さんの」 

女性「うん! 今から真姫ちゃんとこ行くつもりでしょ? 私もそうだから、一緒に行こ!」 

梨子「え、はあ…」 

女性「行くよ、善子ちゃん!」ズンズン 

善子「ちょ、手ぇ放して! 善子って呼ばないで! あなた誰よ!」 

善子「あーーーーも~~~~っ」ズルズルズル… 

梨子「…とりあえず行きましょうか」 

ダイヤ「そうですわね…」 

ダイヤ(この人、どこかで…) 

……………… 

………



223: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/11(月) 21:57:33.55 ID:efuRTpQb

『西木野真姫さま 控え室』 

コンコンガチャ 


女性「や、真姫ちゃん! お疲れさま!」 

真姫「応答待ってから入りなさいよ」 

女性「まあまあそう言わずに。ほら、お客さん連れてきたよ」 

真姫「年々姉に近付いてきてるわよ…客? 誰よ……あら」 

女性「ほい」グイ 

善子「きゃっ。ま…真姫さん、お久し振りです」ペコ 

梨子「あ…真姫さん、こんにちは。お招きいただいてありがとうございます」ペコ 

ダイヤ「黒澤ダイヤです。ご挨拶に伺いました」ペコ 

真姫「久し振り。来てくれたのね」 

梨子「まさかご招待いただけるなんて思ってなくて…驚きました」 

真姫「私がこの舞台に立ったのはあなたのおかげよ? 招待しないわけないじゃない」 

梨子「あ、ありがとうございます……演奏とっても素敵でした」 

ダイヤ「わたくしもそう感じました。ピアノに関しては素人ですが、それでもうっとりしてしまいました」 

真姫「ふふ…アリガト。善子はどうだった?」 

善子「き、キレイでした」 

女性「あははは。シンプルな感想だねー」 

善子「………」アセ… 

真姫「善子の言葉がシンプルになってるのはあなたのせいでしょ。いい加減、放してあげなさいよ」 

女性「おっと。手繋ぎっぱなしだったね」パッ 

善子「 」ホッ 

真姫「ま、みんな座って」



224: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/11(月) 21:58:32.68 ID:efuRTpQb

女性「いやー、久し振りに聴いたね真姫ちゃんのピアノ。相変わらずキレイな音だなーって感心しちゃったよ。ね!」 

梨子「え、ええ…そうですね」 

女性「んー? なんか堅いね」 

真姫「…その様子だと、あなた自己紹介してないんじゃない?」 

女性「へ?」キョトン 

女性「あー、してないや」テヘ 

真姫「そりゃこの子たちも萎縮しちゃうわよ…まったく…」 

ダイヤ「…」ジッ 

ダイヤ「あ!」ハッ 

梨子「え? ダイヤさん、お知り合いですか?」 

ダイヤ「いえ、直接お会いするのは初めてですが…」 

ダイヤ「高坂、雪穂さん…では…」 

よしりこ「「えっ?!」」 

雪穂「わ! 嬉しいなー、ダイヤちゃん私のこと知ってるんだ! そうだよ。わたし、高坂雪穂! よろしくね!」



225: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/11(月) 22:00:31.24 ID:efuRTpQb

梨子「穂乃果さんの妹さん…」 

雪穂「おっ。そうだよね、スクールアイドルやってるんだったらそっちが先に出てくるよね」アハハ 

梨子「ご、ごめんなさい。失礼な言いかたを…」 

雪穂「いいよいいよ! お姉ちゃんに比べたらわたしの活躍が日陰になっちゃうのは事実だからね!」 

真姫「自分で活躍とか言うし」 

ダイヤ「真姫さんに続いて雪穂さんまで…」ポーッ 

善子「ほんと、信じられないわね…こんな…」 

真姫「こんなちゃらんぽらんがスクールアイドルやってたなんて、でしょ」 

善子「いいいいいえそそそそそんなことは」 

雪穂「動揺が激しい」 

真姫「姉からの遺伝よね。スクールアイドルやってた頃は雪穂ももう少ししっかりしてたと思うんだけど」 

雪穂「真姫ちゃんは手厳しいなー」 

真姫「ほんとのことでしょ」



226: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/11(月) 22:01:32.80 ID:efuRTpQb

善子「…ん?」 

善子「そういえば雪穂さん、なんで私たちがスクールアイドルだって…」 

雪穂「あー…それは、ねー…」 

雪穂「メール読んじゃったから…かなー…」ポリポリ… 

善子「メール?」 

雪穂「うん」チラッ 

雪穂「そろそろ来ると思うんだけど」 

ダイりこよし「「「?」」」 

真姫「あら。来れるの?」 

雪穂「来てるよ。真姫ちゃんの演奏も聴いてた」 

真姫「そう」 

真姫「…善子には少し酷かしら」 

雪穂「うーん…」 

梨子「………………………えっ。もしかして…」 

真姫「…気付いた?」 

梨子「え、その、まさか…」 


コンコン 


??「真姫ちゃん。いますかー?」 

ダイよし「「っ!!」」 

真姫「いるわよ。入って」 


ガチャ 


ことり「こんにちは~っ♪」 

……………… 

………



227: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/11(月) 22:02:34.58 ID:efuRTpQb

真姫さんたちの会話。 

リリーの反応。 

それらを目の当たりにしても、なにも思い至らなかった。 

色々な動揺が残っていたから? 

それはあるかもしれないけれど、仮に落ち着いていたとしても、きっと思い至ってはいなかっただろう。 

そして、仮に仮に思い至っていたとしても、心の準備など、一時間掛けたって整うことはなかっただろうから。 


ガチャ 


その瞬間があまりに唐突であったことは、 


ことり「こんにちは~っ♪」 


ほとんどなににも影響しなかったのだと思う。 

……………… 

………



228: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/11(月) 22:03:33.11 ID:efuRTpQb

ことり「こんにちは~っ♪」 

雪穂「先生、遅いよー」 

真姫「久し振りね、ことり。来てくれて嬉しいわ」 

ことり「わあっ、真姫ちゃん! ほんとに久し振り! ことりも会えて嬉しいよ!」ヤンヤンッ 

善子「こ、ことり…さん…」ガタッ 

梨子「…」 

ダイヤ「…」 

雪穂「あ…」 

真姫「…」フウ 

真姫「紹介するまでもなさそうだけど。こちら、私の友人の南ことりよ」 

梨子「は、初めまして。桜内梨子といいます」ペコ 

ダイヤ「初めまして…黒澤ダイヤと申します」ペコ 

ことり「梨子ちゃんに、ダイヤちゃん。初めまして! よろしくね」ニコッ 

ことり「 」チラッ 

善子「 」ビクッ 

ことり「じゃあ、あなたが…」 

ことり「津島善子ちゃんーーだね」 

善子「…っ、はい…」 

ことり「そんなに緊張しないで。とりあえず、ね? 座ろ」



229: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/11(月) 22:04:33.88 ID:efuRTpQb

真姫「どこか寄ってたの?」 

ことり「うん。偶然ね、知り合いと会ったから。少しお話ししてたの」 

雪穂「先生マイペースなんだから」 

ことり「ユキちゃんだってなにも言わずに行っちゃったくせに~」プンプン 

ことり「っていうか先生はやめてってばあ」 

梨子「せ、先生というのは?」 

ことり「えっとね、…あれ? ユキちゃん自己紹介したの?」 

真姫「させたわ」 

雪穂「したよー。わたし、ことりちゃんのとこでアシスタント兼マネージャーやらせてもらってるんだ。だからね、先生」 

ことり「先生じゃなーいーっ!」チュン! 

真姫「大先生」 

ことり「真姫ちゃんまで!」ガーンッ



230: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/11(月) 22:05:47.93 ID:efuRTpQb

ダイヤ「あの…つかぬことをお伺いしますが」 

ことり「うん。なあに?」 

ダイヤ「ことりさんがいらしているということは、その…他の方々も?」 

ことり「μ'sの?」 

ダイヤ「 」コク 

真姫「呼んでないわよ。ことりと雪穂だけ」 

ダイヤ「そ、そう…ですか…」シュン 

梨子「…ダイヤさん」ジトッ 

ダイヤ「だ、だって!」 

ことり「うふふ。ことりたちのこと、好きでいてくれてるんだ。嬉しいなあっ♪」 

ダイヤ「も、もちろんですわ! μ'sはわたくしたちの…いえ、全スクールアイドルの憧れですもの!」 

雪穂「わたしたちだってμ'sに憧れて始めたんだもん。みんな同じだって」 

ことり「えへへ…照れちゃうね」 

真姫「そ、そう? たいしたことないデショ」クルクル 

ことり「うふふ…」 

梨子「あの」 

梨子「ご歓談中に悪いんですけど、伺ってもいいですか?」



231: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/11(月) 22:09:47.36 ID:efuRTpQb

ことり「…」 

雪穂「…」 

真姫「…なにかしら」 

梨子「ことりさんだけ招待なさったのは、どうしてですか?」 

ダイヤ「り、梨子さん?」 

真姫「…どうして、とは?」 

梨子「失礼な言いかたになったら申し訳ありません…ことりさんだけを招待なさったことと私たちを招待してくださったことは、関係がありますか?」 

梨子「意図的なんでしょうか」 

梨子「よっちゃんがーーいるから」 

善子「……!」 

真姫「…そうよ。わざとよ」 

ダイりこよし「「「っ!!」」」 

梨子「ど、どういうつもりでーー」ガタッ 

真姫「待ってよ。落ち着きなさい…別に深い意図はないわ」 

ダイヤ「梨子さん、座って」 

梨子「…」スッ



232: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/11(月) 22:10:48.06 ID:efuRTpQb

真姫「知人友人で呼びたい人がいたら呼んでいい。そう言われたから、呼びたい人を呼んだだけよ」 

真姫「真っ先に浮かんだのはあなたたち。この場に私を引き合わせてくれた恩があるからね」 

真姫「それだけでもよかったんだけど。せっかくだからμ'sからも誰か呼ぼうと思って、しばらく会えてなかったことりを招待した。それだけよ」 

真姫「私はなにか悪いことをしたかしら」 

梨子「だって真姫さんは、私たちの…よっちゃんの事情をご存知で…」 

真姫「知ってたけど、それがなに? 招待客同士でランチに行く企画でもないのよ。必ず出会うとわかってるなら少しは気を遣ったかもしれないけど。反対に、私がそこまで気にしなきゃいけないことだった?」 

真姫「あなたたちが来てくれる保証もなかった。多忙なことりが来てくれる保証もなかった。ましてやみんなで揃って挨拶にきてくれるなんて思いもしなかったわ」 

真姫「そんな言いかたをされる覚えはないわね」 

ダイヤ「…真姫さんのおっしゃる通りです。あまりに失礼な物言いでしたよ」 

梨子「…ごめんなさい」 

梨子「…でも真姫さん、ご自分で『わざと』だって」 

ダイヤ「梨子さん!!」 

真姫「いいわよ。確かに言ったもの。『わざと』なんて言いかたは、些か偽悪的が過ぎたかもしれないけどね」



233: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/11(月) 22:11:59.99 ID:efuRTpQb

真姫「呼ぶ相手をあなたたちとことりに決めたとき、もちろん考えなかったわけじゃないわ。善子の気持ちを」 

善子「…」 

真姫「だけど、憎み憎まれている二人ならまだしも、想い想われている二人を引き合わせることを躊躇う理由は思い付かなかったのよ」 

真姫「だって、そうでしょ?」 

真姫「好きな相手でも、好きだった相手でもいいけど…私だったら会いたいと思うもの」 

梨子「!」ハッ 

真姫「もちろん、好いてくれてる相手でも好いてくれてた相手でも…ね。ただそれだけのことよ」 

真姫「だけど…今になって気付いたわ。間違いだったかしらね」チラ 

ダイりこ「「えっ…?」」 

善子「…」 

真姫「 」ハァ 

真姫「あなたがそんな態度を取るなら間違いだったんじゃないかって言ってるのよ! 聞いてるわけ?! 津島善子!!」バン! 

善子「ひっ?!」ビクッ



234: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/11(月) 22:13:02.74 ID:efuRTpQb

ことり「真姫ちゃん」 

真姫「…ごめん」 

真姫「でも言わせてよ」キッ 

善子「…」オロ… 

真姫「私が気を回したかどうかなんてこれっぽっちも考えなくたっていいけど。あなたの隣にいる友達は、ずっとあなたのことを心配してくれてたんじゃないの?」 

善子「そ、そんなこと…わかって…」 

真姫「わかってないから言ってんでしょうが!」 

真姫「わざわざ静岡から東京まで付き添ってくれて。自分のことでもないのに私に頭下げてくれて。私が勝手なことしたからって、自分の立場を顧みずにあなたの代わりに怒ってまでくれて」 

真姫「友達がこんなにあなたのことを想ってくれてるのに、よくも隣でそんな風にうじうじ下向いていられるわね!!」 

善子「…………っ!」 

真姫「あなたがことりに対してどれだけ本気だったかなんて知らない。会ったからって告白を済ませろなんて言うつもりもないわよ」 

真姫「でも、友達の誠意にくらい応えなさいよ。本当に大切な友達だと思ってるならね」フン



235: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/11(月) 22:14:04.68 ID:efuRTpQb

ガチャ 


スタッフ「なにかありましたか?! 大きな声が…」 

ことり「すみません、なんでもないので大丈夫です」ペコ 

スタッフ「そうですか…」スッ バタン 

雪穂「ヒュウ。真姫ちゃんは相変わらず苛烈だねー」 

真姫「なんとでも言いなさい」 

ことり「大きな声を出したことは、後でみんなで謝りにいこうね」 

ことり「でもその前に、話さなきゃいけないことがあるよね」



236: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/11(月) 22:15:39.78 ID:efuRTpQb

ことり「善子ちゃん」 

善子「は、はい」 

ことり「この数ヶ月、どうしてた?」 

善子「この数ヶ月…」 

ことり「うん。真姫ちゃんに会いにいって、私に連絡をくれてから、今日までの数ヶ月間。どうしてたのかなあって」 

善子「どうって…」 

善子「…特に、なにも。学校に行って、練習して、ラブライブ!の予選に出て……そんな感じ、でした」 

ことり「そっか。私のことは、どれくらい考えてくれた?」 

善子「初めのうちは、ずっと考えてました…その、ことりさんにメールしてからしばらくは。返事まだかなとか、会えたらなんて話そうとか、曲もいっぱい聴いたし、ライブも何回も観直しました…」 

ことり「じゃあ、最近は?」 

善子「…あんまり」 

善子「たまに思い出すことはあるけど、でも前みたいにことりさんのことで頭がいっぱいになったりする感じじゃなくて、ふと思い出して、なんとなく頑張ろうって思う…みたいな…」 

ことり「うふふ…つまり、そういうことなんだよね」 

善子「そういうこと?」 

ことり「うん」 

ことり「つまり、もう善子ちゃんの中に、私はいないってこと」 

善子「そっ!」ガタッ 

善子「そんな…こと…」 

ことり「落ち着いて。善子ちゃんが嘘をついてたとか、裏切ったとか、そんな風に思ってるわけじゃないんだよ」 

ことり「そういうことじゃ、ないんだよ」



237: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/11(月) 22:16:50.68 ID:efuRTpQb

ことり「その気持ちはね、とっても不思議なの。 

ことり「ある日突然目覚める。 

ことり「いつ、なんで、誰が、誰に。一つもわからないまま、ある日…突然。 

ことり「そして一回目覚めたら、もう誰も止められないの。本人にも、友達にも、お母さんにもお父さんにもどうにもできなくって、どんどん大きくなっていく。 

ことり「コントロールすることもできないし、抑え込むことも消すこともできない。 

ことり「苦しくって、切なくって、嬉しくって、そしてーー幸せ。 

ことり「それでね、またある日突然、いなくなっちゃうんだよ。 

ことり「振り回されて、それしか考えられなくって、もうどうにでもなれって思っちゃってたのが嘘みたいに、あっさりといなくなっちゃうの。 

ことり「そして後には、なんだか温かくて優しいカケラみたいなものだけが胸に残る。 

ことり「そういうものなんだよ、その気持ちは。永遠でもないし、絶対でもないーー



238: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/11(月) 22:17:50.89 ID:efuRTpQb

ことり「善子ちゃんが私のことを好きだなって思ってくれたとき。そのときは、善子ちゃんが求めてたなにかを私がたまたま埋められたときだったの。 

ことり「パズルのピースみたいに、善子ちゃんの心の形と私の形がぴったり重なった。だから、そのとき善子ちゃんは私のことをなによりも魅力的に感じてくれてた。 

ことり「でもね、心の形ってずっと一緒じゃないんだよ。 

ことり「毎日なにかを悩んで、闘って、乗り越えてーー心の形ってくるくる変わるの。 

ことり「きっと、今は善子ちゃんの心の形は、前と違う形になってる。だから、もうそこに『南ことり』のピースは重ならない。 

ことり「いつかまた善子ちゃんの心の形に重なる誰かが現れたとき。そのときは、私も全力で応援しちゃいますっ♪ 

……………… 

………



239: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/11(月) 22:19:03.15 ID:efuRTpQb

司会者「これにて、本日のプログラムは全て終了となります。日墺・ピティナ・文化交流ピアノコンペティションにお越しいただき、誠にありがとうございましたーー」 


テクテク… 


梨子「素敵な会でしたね」 

ダイヤ「ええ、本当に」 

善子「最後に真姫さんのとこ寄らなくていいの?」 

梨子「二回は行かないわ。会後こそ、お偉いさんたちの挨拶でお忙しいだろうし」 

善子「そう。そんなものなのね」 

ダイヤ「それに、あれだけたくさん話をしておいて、同じ日に改めて交わす挨拶などありませんわ」 

善子「ふふ…それもそうね」 

梨子「ねえ、よっちゃん。いい一日になった?」 

善子「もちろんよ」 

善子「素敵な音楽は聴けたし、素敵な人たちにも会えた。心の中でもやもやしてたものもみんなすっきりして、それに…」 

梨子「それに?」 

善子「素敵な友人の存在に気付けたもの」ニッ 

梨子「あら。今さら?」 

ダイヤ「随分のんびり屋さんでしたわね」クス



240: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/11(月) 22:20:04.21 ID:efuRTpQb

梨子「あーあ。結局よっちゃん一人で自己解決したみたいなものだったってことよね」ノビーッ 

善子「ええ?! ちょっとリリー、あなたことりさんの話ちゃんと聞いてなかったわけ?!」 

ダイヤ「わたくしたちが東京に行こうが行くまいが、放っておけば治まったということでしょう」ノビーッ 

善子「ダイヤまで!」 

梨子「私たちの往復五千円はなんだったんでしょうね」ハー 

ダイヤ「本当。しなくてもいい出費だったようですわ」ヤレヤレ 

善子「い、いい話で終わったんだからそういう掘り返しかたやめなさいよ!」 

梨子「これはなにか見返りを要求してもいいかもしれません」 

善子「げっ! またなんか奢らせるつもりィ?!」 

ダイヤ「まさか。そんな"たかり"行為、この黒澤ダイヤの目の黒いうちは赦しませんわよ」キリッ 

善子「東京での行いを思い返してみなさいよ」 

梨子「しょうがない…簡単なもので済ませてあげるわ」 

善子「なんで譲歩したみたいになってるの?」 

梨子「よっちゃん」ガシッ 

善子「ひっ?!」 

ダイヤ「あの動画を消 し な さ い」ガシッ 

善子「あ…なんだ、それをさせたかったのね…」



241: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/11(月) 22:21:06.51 ID:efuRTpQb

善子「 」スルリ 

ダイりこ「「あっ」」 

善子「ぜーったいに、イヤよ」ベーッ 

ダイヤ「んなああああああああっ?!」ムキーッ 

梨子「待ちなさいよっちゃん! 再生回数どうなってるか知ってるの?!」 

善子「知ってるわよ。2521回でしょ」 

ダイヤ「さらに増えてるんですのよ!」 

善子「早く一万回になるといいわね」 

梨子「ふざけないでよ! こら、もう…待ちなさーい!」 

ダイヤ「梨子さんそちらに! 回り込んでください!」 

梨子「あっちょっ、ちょこまかと!」 

善子「あなたたちに捕まるような私じゃないわよ~だ」 

ダイりこ「「きーーーーーーっ!!」」



242: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/11(月) 22:22:08.61 ID:efuRTpQb

……………… 

………… 

…… 

ーー善子『一つだけ、訊いてもいいですか』 

ーーことり『うん』 

ーー善子『どうして、メールには返事をくれなかったのに、今日は来てくれたんですか?』 

ーー善子『 』チラ 

ーー真姫『…』 

ーー善子『それとも、本当に真姫さんに呼ばれたから来ただけで、私と会ったことは偶然で…』 

ーー善子『ことりさんにとって、私はなんの意味もない存在でしたか?』 

ーー梨子『…』 

ーーダイヤ『…』 

ーー雪穂『…』 

ーー真姫『…』 

ーーことり『…』 


ーーことり『そんなことないよ』 


ーーことり『私がμ'sで活動してた頃…か。それって、うふふ…何年前なんだろうね』 

ーーダイヤ『正式にμ'sの解散と言われた日から数えると、』梨子『ダイヤさん黙っててください』 

ーーことり『うふふ…』



243: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/11(月) 22:23:24.03 ID:efuRTpQb

ーーことり『一つ。がむしゃらになって駆け抜けたあの日々が、何年も経った今でもこうして誰かに感動を与えられる。そのことが、スクールアイドルμ'sの南ことりを讃えてくれる、なによりも嬉しい贈り物であること』 

ーーことり『善子ちゃんたちもスクールアイドルなんだよね。スクールアイドルAqours』 

ーー善子『はい』 

ーーことり『少しだけその世界を先に知った先人として、やるなら本気で。目指すなら頂点。そんな激励を、スクールアイドルAqoursの津島善子ちゃんに贈るよ。いつになっても色褪せない…その姿を見た人の心に感動を与えられる、そんなスクールアイドルになってほしい』 

ーー善子『…はい』 

ーーことり『そして、もう一つ』 

ーーことり『誰かを想う、その気持ち』 

ーーことり『恋、とも言うし、憧れ、とも言える。その二つに区別はないのかもしれないけど、私は善子ちゃんのその気持ちを、恋って呼びたい』 

ーーことり『叶っても、叶わなくっても。届いても、届かなくっても。たとえ一日だけの短い時間だったとしてもーー誰かを恋うこと、誰かに恋われること』 

ーーことり『それは、私が知ってるかぎり、世界中で一番きらきらしてるの』 

ーーことり『そんな相手を見付けられることはなによりも幸せなことだし、その相手に選ばれることはそれ以上に幸せなこと』 

ーーことり『だからね、善子ちゃん』 

ーーことり『私はこれだけ善子ちゃんに言いたくって、来たんだ』 


ーーことり『ことりを、あなたの心の傍にいさせてくれて、ありがとう。とってもとっても、幸せだったよ』 

……………… 

………… 

……



244: ぬし ◆z9ftktNqPQ (大陸鉄道) 2018/06/11(月) 22:24:25.82 ID:efuRTpQb

こうして、私の恋は終わりを迎えた。 

想った相手に感謝を告げられ、そして、はっきりと振られて。 

今、私の心はどんな形をしているのだろう。 

誰かを求めているのだろうか。 

もしかして、まだことりさんを求めているのだろうか。 

重なるピースがどこかにあるのか、はたまたないのか。 

わからないから日々を歩もう。 

なにかを悩んで、闘って、乗り越えていこう。 

そうして、きっと。 

次にそのときが訪れたのなら、私は必ず掴んでみせる。 

この痛みを、絶対に忘れないから。 



終わり



249: 名無しで叶える物語(禿) 2018/06/11(月) 22:34:56.18 ID:6e/zopH9

乙 
ことりちゃんの語る恋はスクールアイドルか、穂乃果に対する思いなのかな 
ライブ前後通していいSSを見させてもらったわ ありがとう



251: 名無しで叶える物語(やわらか銀行) 2018/06/11(月) 22:54:32.85 ID:Eyesa7V+

ことよしに可能性感じた



256: 名無しで叶える物語(茸) 2018/06/12(火) 01:14:43.44 ID:WMJeESWE

面白かったわ 
お疲れ様です






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