転載元 : http://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1561476901/

1: 名無しで叶える物語(たこやき) 2019/06/26(水) 00:35:01.88 ID:e6rhMUIu

ちかよし



2: 名無しで叶える物語(たこやき) 2019/06/26(水) 00:35:22.44 ID:e6rhMUIu

卒業式。

それは学生であれば、必ず訪れる別れの日。

新たな未来へと羽ばたく、旅立ちの日。

浦の星女学院が廃校になって初めて迎えるのは────私たちの一番近くにいてくれた先輩たちの卒業式。

私とルビィと花丸は2年生で……それを見送る役目。

私はこの日が永遠に来なければいいのに、と考えていた。

どうしてって……わかるでしょう?

ずっと一緒にいた人たちが、離れ離れになってしまうんだから……寂しいのよ。

当然、口にすることはないのだけれど。

当然、先輩たちの門出を祝う気持ちがないわけでは断じてない。むしろお祝いしたい気持ちがあるからこそ、複雑で。

お祝いはしたい、けれど居なくなってほしくない────つまりはそういうことなのだ。



3: 名無しで叶える物語(たこやき) 2019/06/26(水) 00:36:45.13 ID:e6rhMUIu

先のAqoursの三年生……小原鞠莉、黒澤ダイヤ、松浦果南がそれぞれ別々の道を歩んだように。

Aqoursの二年生……いや、もう三年生ね……高海千歌、桜内梨子、渡辺曜も、それぞれ別の道を歩んでいく。

千歌は静岡を離れ、他県の大学へ。

曜は沼津から少し離れたところにある、船乗りになるための大学へ。

そして梨子は東京へ戻り、音楽の大学へ。

3人とも、違う道へ進む。

送り出す私たちは、それを喜ぶべきか悲しむべきか、分からない。

ともかく理解できるのは、ずっと一緒にいた人たちが、離れてしまうのは……たまらなく寂しいということ。

花丸がそう言ったわけでも、ルビィがそう言ったわけでもなくて。

当然、私が言ったわけでもなくて。

漠然と、私たち3人は、そんな気持ちになったのだ。

ずっと一緒にいたのに────と。

きっとあの3人はこれからも同じ大学に進んで、もしかしたら家を借りてルームシェアでもするんじゃないか。

千歌のことだから絶対そう言うに違いない……そう、語ることはないまま、私たちの中で漠然とそんな風に考えていた。

けれど、実際は。

3人とも、違う道へ行く。

もちろんそれぞれの人生だから文句を言うつもりはない。

ただ寂しいだけ。



4: 名無しで叶える物語(たこやき) 2019/06/26(水) 00:37:14.46 ID:e6rhMUIu

ただ……一緒にいて欲しかった。

私達と一緒にいて欲しかった。

あの2人とも一緒にいてほしかった。

……これは私のエゴでしかないし、わがまま。

でも、だけど、どうしても。

あなたと離れてしまうのは、つらい。

あなたたちが離れてしまうのは、寂しい。



5: 名無しで叶える物語(たこやき) 2019/06/26(水) 00:38:38.02 ID:e6rhMUIu

……千歌。高海千歌。

私を見つけてくれた人。

私に、好きなものを捨てなくていいと言ってくれた人。

その言葉で私は救われた。

私を変えてくれた、大切な人。

千歌、私はあなただけは沼津に残るんだと思っていたの。

沼津から通える大学に行くと……遠く離れたりしないと。

梨子が東京に戻ると口にしたのには驚いたけれど……心のどこかで納得している私がいた。

もともと東京にいたから────ではなく、彼女が本気で音楽の道に行くなら東京に戻ることは簡単に想像できたこと。

曜が海洋学部のある大学へ進学すると言いだしたときも、納得できた。

彼女の目指すものを考えれば、沼津で学べることはそう多くはないだろうから。

だけど……千歌、あなたまでが沼津から出ていくなんて思わなかった。

千歌はずっと沼津にいて……あの旅館で笑顔を振りまいてくれてるものだと。

会いたくなったらすぐに会いにいけて、いつもみたいに歓迎してくれるんだって────




6: 名無しで叶える物語(たこやき) 2019/06/26(水) 00:39:50.98 ID:e6rhMUIu

・・・ 


4月。 

春を迎えて、私たちは高校三年生。 

三年生ともなるとスクールアイドル活動をしながら、他にもやらなければならないことがある。 

もちろん、進路選択である。 

自分の将来。 

未来を決める重要な選択────私はそれを決めあぐねていた。 


善子「ん゛んー……」 


机に突っ伏しながら唸る。 

唸ったところでどうにもなるわけじゃないけれど。 


花丸「悩んでるずら?」 

善子「当たり前でしょ……自分の将来なんて、まだなんにもわかんないんだから」 

花丸「まあ……そうだよねぇ」 

善子「あんたは決まってるの?」 

花丸「まるもまだ完全に決まってるわけじゃないけど……図書館の司書さんに……えへ」 

恥ずかしそうに答える花丸。けれど、確かに本の虫の花丸には似合いそうな将来だわ。 

花丸「ふふ、毎日本読めるんだよ~」 


そんな風に嬉しそうに言ってるけど、司書って……読む暇あるのかしら?



7: 名無しで叶える物語(たこやき) 2019/06/26(水) 00:41:17.63 ID:e6rhMUIu

善子「ルビィはどうなの?」 


本に囲まれた夢のような生活に想いを馳せる花丸をよそに、私は右隣に話しかける。 


ルビィ「え?」 

善子「え?」 


素っ頓狂な返事が返ってきた。 

どうやら話しかけられると思っていなかったらしいルビィは、照れた表情で髪をいじいじしながら、恥ずかしそうに答える。 


ルビィ「あ、えっと……ルビィはお姉ちゃんの大学に……」 

善子「なるほどね」 


まあ……2人の進路は予想の範囲内。 

前の2学年がそうだったように、私たちも進む道は別々になる……ということ。 

それを寂しいとは思う……けれど、口にする気はないし、口にしたところでふたりも同じような気持ちだろうから無意味よね。 

それを理解した上で、私は私の進む道に悩んでいる。 


花丸「善子ちゃんは進学? それとも就職?」 

善子「……就職はしない」 


ルビィ「じゃあ進学だねっ! ルビィと一緒に東京の大学に行かない?」 

花丸「むむ、それならまると同じ大学か短期大学に!」 

善子「どっちも行かない」 

るびまる『がーん……』 


……どうせ行くなら3人で同じところ────なんて、口が裂けても言わないけど。 

恥ずかしいからよ、うるさいわね。



8: 名無しで叶える物語(たこやき) 2019/06/26(水) 00:42:46.46 ID:e6rhMUIu

善子「うーむ」 


わざとらしく腕を組んで唸ってみせる。 


善子「そうねぇ……進学も就職もせず、クリエイターとして動画投稿で食べていくのもアリかも」 

るびまる『え~……』 

善子「なによ! バイトする必要ないくらいには稼いでるんだからね、私」 

ルビィ「そ、それは知ってるけど……ゆーちゅーばーってことでしょ?」 

花丸「やばみが深いずら……」 

善子「あんたそれ最近覚えたでしょ……」 

花丸「えへ」 

善子「……まあ冗談だけど、普通に進学でしょうね。困った時の進学」 

ルビィ「目的なしで進学しても、就職するときに結構厳しかったりするみたいだよ?」 

花丸「そうするくらいならむしろ高校卒業でそのまま就職したほうが経験としては意味があるってお話も聞いたことが……」 

善子「う、うるさいわね! どうせ目的も意味もなく進学する底辺よ私は!」 

ルビィ「そ、そこまで言ってないよ~!」 

花丸「被害妄想は良くないずら……」 

善子「ちがわい!」 


思わぬマジな返事にムキになってしまう私であった。だってそんな本気で心配されると思ってなかったんだもの…… 

というか、ルビィたちに将来の心配なんかされたくないわよっ!



9: 名無しで叶える物語(たこやき) 2019/06/26(水) 00:43:38.84 ID:e6rhMUIu

善子「……目的はないけど、理由はあるもの」 


そう、理由は……ある。 

あるから……ある意味、決まっているけれど。 

まだ決めきれない、私がいる。 


花丸「……千歌ちゃん?」 

善子「……っ」 


ずばり。 


ルビィ「そういえば……善子ちゃん、泣いてたもんね。卒業式」 

善子「……うるさいわね」 


卒業式の話は耳が痛い。 

1ヶ月ほど前の卒業式で、私は泣いてしまったのだ。 

まさか私がそんな風になってしまうなんて思ってもみなくて、自分で自分が泣いてることに驚いてしまったほど。 

それほどに、私の目の前から────輝きが消えることは辛いことなのだと、そのとき初めて理解した。 

まあ、実際……千歌と曜と梨子にもうあまり会えなくなる寂しさもあったけど。 

果南たちの時は……次のAqoursのことでいっぱいで、それどころじゃなかったっけ。



10: 名無しで叶える物語(たこやき) 2019/06/26(水) 00:44:36.41 ID:e6rhMUIu

……ともかく。 

私が悩んでいるのは、それだ。 

あの輝きを────追いかけるか。追いかけないか。 

そこに尽きるのだ。 


ルビィ「善子ちゃんは千歌ちゃんが大好きなんだねっ」 

善子「ぶっ!?」 


す、好きとか別にそんなことじゃないわよ!? ただ、ただ私はそのあのえっと! 


花丸「分かりやすすぎるずら……」 

善子「くっ……」 


見透かされた風なのがとても不愉快だけれど、なんというか、もう……その、うぅうん……! 


善子「と、とにかく私は……まだ考える」



11: 名無しで叶える物語(たこやき) 2019/06/26(水) 00:45:55.87 ID:e6rhMUIu

そう、私はまだまだ悩める時期。 

面談なんかもあるからあまり長く悩むことはできないだろうが、あと半年くらいは考えたっていいはずだ。 

要するに、結論の先延ばし。 

モラトリアムの延長。 

半年後の私に全てを託してこの話題はおしまいに──── 


ルビィ「どーして?」 

善子「えっ」 


……しようとした私を、ルビィの純粋な瞳が射抜いた。 

その、心からの疑問に私の心臓はドキンと唸った。 


ルビィ「そんなに好きなら、ルビィは追いかけたらいいと思うなぁ」 

花丸「ふふ、だからルビィちゃんはダイヤさんと同じところ目指してるもんね」 

ルビィ「うん!」 

善子「わ、私は好きとか、そういうのじゃ……」 


……そういうのじゃ、な……うう。 

反論できずに歯をくいしばる私を覗き込むようにして、花丸。 


花丸「善子ちゃん」 

善子「な、なによ」 

花丸「自分の将来だから、自分に素直になって良いと思うずら」 


それだけ告げ、彼女は自分の席へ戻っていった。 

午後の授業はなんだか頭に入らなかった。



12: 名無しで叶える物語(たこやき) 2019/06/26(水) 00:46:35.49 ID:e6rhMUIu

・・・ 


夜、私の部屋。 

夕飯もお風呂も済ませて、あとはもう眠るだけ。 

今日はもうゲームをやる気にもなれなくて、ベッドに寝転んでのんびりとケータイを見ながら時間を過ごしていた。 

とは、言いつつも。 


────自分に素直になって良いと思うずら──── 


花丸の言葉が私の頭の中で囁いてくる。 


────そんなに好きなら、ルビィは追いかけても良いと思うなぁ──── 


ルビィの核心を突いた一言が、私の胸に突き刺さる。 

確かに二人の言う通り。 

私は自由だし、追いかけてもいいのかもしれない。 

いいのだろうけれど……私は、まだ決めきれない。



13: 名無しで叶える物語(たこやき) 2019/06/26(水) 00:47:15.35 ID:e6rhMUIu

善子「……」 


進学はしたい。 

高卒で働くのも選択肢としてはありだろうけれど、進学してすることで選択の幅が広がるのだから。 

けど、その進学先──── 

どの大学に行きたい、どの専門学校に行きたい────というのは、それぞれ理由がある。 

好きな人がいるから。 

やりたいことがあるから。 

夢を叶えるのに近道だから。 

人それぞれ、多種多様の理由がある。 

私にだって、理由はある。 

だけど、その理由は1つではない。 

1つではないから、私は悩んでいるのだ。



14: 名無しで叶える物語(たこやき) 2019/06/26(水) 00:47:45.92 ID:e6rhMUIu

善子「……」 

スマホを手に取り、画像フォルダから1つの画像を開く。 

映し出されたのは、3人の写真。 

私と、ルビィと、花丸の写真。 

私がAqoursに入って……最初に遊んだ時の写真。 

友達になった時の写真。 

出会って2年────ずっと一緒にいた、大切な友達。 

私の迷いは……この2人。 

私と違って、2人はすでにある程度の将来を考えている。 

花丸は司書を目指し、ルビィは姉とともに実家の手伝いを。 

そしてそのために進む道も、既に。 

────私にはなにもない。 

何もないから、2人を……未来に向かって歩き始めてる2人を、止めることはできない。 

3人で同じところへ進学したいと、言えない。 

そして、バレバレだけど……追いかけたい人がいることも。 

このふたつが私を悩ませているのだ。



15: 名無しで叶える物語(たこやき) 2019/06/26(水) 00:48:27.89 ID:e6rhMUIu

2人と離れたくない────けど、あの人のそばにも行きたい。 

選択肢はどれかひとつ。 

ふたつは選べない。 

だから、迷っているのだ。 

私にとってあの人は、私の輝き。 

いつまでも追い続けたい、追い求めたい、離したくない輝き。 

だけど……だけれど、花丸とルビィも、それに劣らないくらいの輝き。



16: 名無しで叶える物語(たこやき) 2019/06/26(水) 00:49:18.13 ID:e6rhMUIu

きっとルビィは、東京の大学に行く決意を曲げることはない。 

けれど、花丸は……司書になるための資格は、東京でも取れるから……折れてくれるかもしれない。 

私が3人で、と言えば……きっとふたりは真剣に考えてくれる。 

でも、それを選ぶと私はもうあの人を追いかけられない。 

逆に私があの人のところへ行くことを選べば……ふたりとは離れ離れになる。 

あぁ、ほんとに……もう。 

私ってめんどくさい。 


善子「……はぁ」 


ため息をひとつ。 

何かが変わるわけでもないけど、黙ってると心の中で悪の魔力が溜まってしまいそうだったから。 

結局、答えは出ないままその日は布団をかぶって眠ることに。 

近いうちにある面談まで、考えるのはやめておこう────



17: 名無しで叶える物語(たこやき) 2019/06/26(水) 00:49:47.61 ID:e6rhMUIu

・・・ 


5月の、後半に差し掛かる頃。 

3年になって最初の進路面談を終えた私は、うんざりした気分で屋上から空を眺めていた。 

こんなにもいい天気なのに、今の私にはこの空が深淵の闇に見える。 


『受験するならもう勉強始めてるくらいじゃないと。就職するにしても準備は早めからしておいて損はないし』 


そんな教師の言葉が頭の中でぐるぐる。 

確かにその通りだし分かってはいるんだけどぉ……その、進学先が問題なのよっ! 

勉強はある程度してるから、受験する大学もある程度は圏内のはず。調べてないから全然知らないけど。 

でも、私の行きたいところは……



18: 名無しで叶える物語(たこやき) 2019/06/26(水) 00:51:37.37 ID:e6rhMUIu

「よーしこちゃん!」 


後ろから声をかけられ、振り返る。 

見れば、今日は部活がないというのに練習着に着替えてきたらしいルビィが、ぴょこぴょこと赤いツインテールを跳ねさせながら駆け寄ってくる。 

部活のない日でも自主練を欠かさない……さすが新生Aqoursのリーダーね。 

まあ私と花丸も一緒にやる約束になってるんだけど。 


ルビィ「面談どーだった?」 

善子「別に、普通よ。早く進路決めろって」 

ルビィ「そっかぁ……」



19: 名無しで叶える物語(たこやき) 2019/06/26(水) 00:52:30.86 ID:e6rhMUIu

善子「……ルビィは、もう決めてるのよね?」 


私の問いかけに、ルビィはうなずいて応える。 


ルビィ「お姉ちゃんと同じ、東京の大学に」 


彼女の意思は固い……と思う。 

この子はずっとそう言っているし、姉のダイヤの背中を追いかけようとするのも、彼女らしい。 

やっぱりルビィはルビィね。可愛らしい。 


ルビィ「あ、今ちょっとバカにしたでしょー」 

善子「し、してないわよ!?」 

ルビィ「言っとくけど、お姉ちゃんと一緒じゃないと嫌だからってことじゃないよ?」 


え、そうなの? 


ルビィ「もちろん一緒に居たいけど……それは、善子ちゃんや花丸ちゃんとも同じだもん」 

善子「っ……」 


思いがけないルビィの告白に、喉が詰まるような感覚に陥ってしまった。 

私が悩んでいた、理由そのもの。 

進学先を決められないでいた原因。 

ルビィも、同じことを────



20: 名無しで叶える物語(たこやき) 2019/06/26(水) 00:54:44.53 ID:e6rhMUIu

ルビィ「本当は……ほんとはね」 


ゆっくりと紡ぐように、言う。 


ルビィ「ルビィ……善子ちゃんと花丸ちゃんと、同じところに行きたいって気持ちがあるの」 

善子「……」 

ルビィ「大好きな2人と離れ離れになるなんて、とっても嫌で……千歌ちゃんたち、お姉ちゃんたちは別々の道に行ったけど、ルビィたちは、一緒にいられたら、って」 

善子「ルビィ……」 


でもね、と続ける。 


ルビィ「でも……ルビィは、お姉ちゃんが目標だから。お姉ちゃんを追いかけなくちゃって、思って……だから、だからルビィはお姉ちゃんと同じところに行こうって決めたの」 

善子「……そう」 

ルビィ「マルちゃんも、きっとルビィと善子ちゃんと同じ気持ち。だけど、マルちゃんにも目指すものがあるから……そう決めたんだよ」 


だから、善子ちゃんも迷わなくてもいいんだよ! ────ルビィはそう言って私の手を取る。 


ルビィ「……離れても、ずっとルビィたちは一緒だから。ずっとずっと、一緒だから」 

善子「……」



21: 名無しで叶える物語(たこやき) 2019/06/26(水) 00:56:19.64 ID:e6rhMUIu

悩み迷う私の背中を押してくれようとしているのか、この子は──── 

その勇気ある瞳が、くすぐったくて……私はまともに見返すことができなくて。 


善子「ふふ、あの甘えん坊がよく言うようになったわね」 


と、茶化すしかできなくて。 


ルビィ「むっ! ルビィ、まじめになってたのに!」 

善子「ククク、あなたに心配されるような堕天使ヨハネではないわ。我が進むべき道は、そのうち見つかるはず。多分、きっと」 

ルビィ「カッコつけるなら最後まで通そーよ……」 

善子「う、うるさいわねっ! いいでしょまだ悩んでたって……それより、今から自主練でしょ? 私もやるから待ってて、すぐ着替えてくる! ついでに花丸も呼んでくるから!」 

ルビィ「えっ……あ、うん!」 


私はルビィの視線と、その空気から逃げるように屋上を離れ、花丸が籠っているであろう図書室へと向かう。 

……そんなのはわかってる。 

わかってることなのよ……わかってるからこそ、寂しいのよ、私は。 

あなたは……どうしてあんなに強い気持ちを持てるの? 小さな頃からずっと仲良しだった花丸と離れることになるのに。 

出会って3年くらいの私ですら、こんなにも悩んでいるというのに……あなたと花丸は、もっと昔からずっと一緒で。 

幼稚園の時に一緒だった私とは違って、共にいた時間は長いのに。 

そのはずなのに、ルビィは離れ離れになってもずっと一緒だと言った。 

確かな覚悟と、勇気と、強い信頼を宿した眼差しで。 

泣き虫のルビィが、こんなに強く──── 


善子「……あぁ」 


────その瞳で、思い出した。



22: 名無しで叶える物語(たこやき) 2019/06/26(水) 01:00:07.73 ID:e6rhMUIu

浦の星女学院、最後の日。 

3人で図書室の扉を閉めるんだと頑なだった花丸と。 

おしまいを自分の手で作るのを嫌がる私と。 

無言で従い、目線で私に訴えかけるルビィ。 

あのふたりが、すべてなのだ。 

あの花丸の気持ちが、ルビィの気持ちが、今にもつながっているのだ。 

そう、寂しくないわけがない。 

花丸も、ルビィも。 

そして私も。 


花丸「あれ、善子ちゃん?」 


そうしてたどり着く、花丸の城────図書室。 

ガラリと戸を開け放つと、カウンターに座っていた花丸が私を見た。 


図書室──── 

浦の星女学院では、図書室は花丸を守ってくれる場所だった。 

あの子とつるんでいた私とルビィにとっても、それは同じで。 

だからあの時の花丸は、自分たちで閉めるのだと譲らなかった。自分たち3人で一緒に、と。



23: 名無しで叶える物語(たこやき) 2019/06/26(水) 01:01:48.46 ID:e6rhMUIu

善子「相変わらず本にまみれてるわね」 

花丸「ふふ、本はね……まるの世界そのものだから」 

善子「……ええ、そうね」 


穏やかに、だけど寂しげに微笑む花丸。 

この顔をする時は、だいたい決まっている。 

いま読んでる本がそろそろ読み終わる時だ。 


花丸「進路面談、どうだった?」 

善子「進学するってこと以外は、まだなにも。でも考えがまとまり始めてるかも」 

花丸「そっか……よかった。もうすぐ読み終わるから、これだけ待っててほしいずら」 


頷き、カウンター越しに花丸の表情を見つめる。 

本当に、私は弱い。 

堕天使ヨハネは最強なのに、津島善子はまだまだだ。 

浦の星女学院の卒業式でも。 

イタリアでも。 

この静真高校に来る時も。 

ヨハネの力を借りて、強い自分であろうとして。 

でも、こうしたところでボロが出る。



24: 名無しで叶える物語(たこやき) 2019/06/26(水) 01:03:01.56 ID:e6rhMUIu

花丸「本って」 


静かにページをめくっていた花丸が口を開く。 


花丸「最後の1ページを読み終わると、そこでおしまいになっちゃうんだよ」 

善子「……そうね」 

花丸「まるはその本の世界が好きだから、いつまでもその世界を見ていたくて……だから、いつも最後のページを読むのが寂しくなっちゃうずら」 

善子「……」 


分厚い本を両手で持ちながら、花丸は穏やかに告げる。 


花丸「その世界からお別れちゃうのが……その世界の続きがもう見られないのが、とても寂しくて、辛くて」 


だからお別れするのって、いつも好きじゃないんだよ────と。 


花丸「だけどね、善子ちゃん」 


本から目を離さないまま、言う。 

その、最後のページをめくりながら。 


花丸「まるたちの世界は、まだまだ全然、最後のページじゃないの。もっともっと厚くて大きくて、ずっと続く大きな本なんだよ」 


だから。 


善子「だから、また必ず会える。ずっと一緒なのね」 

花丸「うん……離れ離れになってしまうけど。いつでも会えるし、いつでも一緒だから」 

花丸「だからまるたちの最後のページは、今じゃないってことずら」 


ぱたり、と分厚いハードカバーの本を読み終えた花丸は、目を閉じて深い息を吐きながら椅子に背を預けた。 

そして数秒、読み終えは本の余韻に浸り────立ち上がる。 


花丸「そろそろ行こう? ルビィちゃんを待たせちゃうし」 


その眼差しは、先のルビィと同じような────穏やかで、だけど力強い瞳。



25: 名無しで叶える物語(たこやき) 2019/06/26(水) 01:06:06.40 ID:e6rhMUIu

花丸もルビィも……強いなと思う。 

さすが私の選んだリトルデーモンね……クックック、堕天使ヨハネとして鼻が高いわ。 

……おかげで私も、気持ちは固まった気がする。 

ふたりで図書室を後に、廊下を歩きながら……ひとりで頷く。 


善子「……うん」 

花丸「寂しい?」 

善子「っ……べ、別に? せいせいしてるわ」 

花丸「ふふ、そっか~」 


くっ……その見透かしたような目が気に入らないわリトルデーモン5号……! 


善子「せいせいしてる……けど」 

花丸「?」 

善子「寂しいとか、悲しいとか……そんなことで悩むより、限られた時間の中で全力で輝くことに本気にならなきゃ」 


って、なんかのスクールアイドルの本で読んだわ。 


花丸「……受け売りずら」 

善子「ヨハネの琴線に触れたセリフというだけで価値のあるものよ。クックック」 

花丸「ふぅ~ん……」



26: 名無しで叶える物語(たこやき) 2019/06/26(水) 01:06:37.82 ID:e6rhMUIu

そう、私たちはお別れじゃない。 

ルビィの言う通り、離れても一緒だ。 

花丸の言う通り、私たちの物語は続いていく。 

千歌の言う通り……ゼロにはならない。 

だから、私も…… 私も、私のやってみたいことを……やってみてもいいのかな。 


花丸「あ、ルビィちゃんからめーるが来てるずら」 

善子「へ?」 

花丸「『まだ~?』……だって」 

善子「あ……そういえば結構な時間待たせちゃってるわね」 

花丸「急ぐずら善子ちゃん!」 

善子「わ、わかってるわよ!」 


慌ててふたりで廊下を駆け……げふんげふん。 

怒られない程度に、早歩き。 

手早く着替えて、屋上へ。 

ほっぺを膨らませて怒るルビィが待っていた屋上には、輝かしいほどの青空が広がっていた。



27: 名無しで叶える物語(たこやき) 2019/06/26(水) 01:07:08.75 ID:e6rhMUIu

・・・ 


夜。 

私は進学を目指す大学のパンフレットを片手に、ある人へ電話をかけていた。 

およそ3ヶ月ぶりの連絡────Aqoursの送別会以来かしら。 

まずなんて言葉をかけよう? 久しぶり、お疲れ様、こんばんは……色々あるけれど。 

……やっぱり私は堕天使ヨハネ。 

あの人が言ってくれた、私のやりたい私でいこう。 

数秒のコール。 

もしや寝てしまったのかと若干不安になりかけた瞬間、通話口から涙が出そうになるほどに懐かしく、ずっと聞きたかった声が炸裂する。 

私は感情が昂ぶるのを感じながら、声が震えないように抑えて告げる。 


善子「────元気にしているかしら、リトルデーモン1号?」 

善子「っ、だからヨハネよ! もう!」 

善子「……ええ、私は元気よ。新生Aqoursも頑張ってるわ」 

善子「ふふ、あなたも元気そうでよかった。……ええ、実はちょっと話があって」 

善子「千歌……私ね、あなたと同じ大学に行くことに決めたわ」 


おしまい



28: 名無しで叶える物語(たこやき) 2019/06/26(水) 01:07:58.25 ID:e6rhMUIu

ちかよしと言いつつ千歌はでない 
それでもちかよしと言い張りたい 

では、良い夢を



29: 名無しで叶える物語(はんぺん) 2019/06/26(水) 01:09:53.43 ID:aYGHtVef

乙、寝る前に良い話を読めたわ 
青春だなあ…



30: 名無しで叶える物語(なっとう) 2019/06/26(水) 01:11:41.04 ID:VGyZ37kw

ちかよしいいよね… 
9LdyiRp



34: 名無しで叶える物語(北海道地方) 2019/06/26(水) 02:42:03.81 ID:Et4HLWbp

良い雰囲気だった



35: 名無しで叶える物語(やわらか銀行) 2019/06/26(水) 06:01:57.45 ID:LJfhm7h2

え~なんかもうすごい素敵…






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