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1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/08(金) 22:49:18.15 ID:r+/yxZP+0

オリジナル短編を三作品投稿します。
それぞれの関連性はありません。

それでは以下、本編です。





2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/08(金) 22:50:40.65 ID:r+/yxZP+0

「あ? なんだよてめぇ。やんのか?」

見るからにヤバい奴に絡まれた。
聞けばわかる通り、口がすこぶる悪い。
そして見ればわかる通り、すこぶる、可愛い。

「なにジロジロみてやがんだ? お?」

そりゃあ、そんな艶めかしい生足を目の前で組まれて、美しい脚線美を見せつけられたら、誰だって凝視してしまうだろう。

「ちょっと面貸せよ。こっちに来い」

ふらふらと、まるで誘蛾灯に惹き寄せられる羽虫のように、ヤバい奴へと歩み寄ると。

「ちゅー」
「!?」

胸ぐらを掴まれて、強引に、キスを、された。



3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/08(金) 22:51:36.48 ID:r+/yxZP+0

「ぷはっ」
「????」
「なんだよ、バカみてぇな顔して」

そんなことを言われてもどうしようもない。
まるで狐につままれたか、狸に化かされたような気分であり、理解不能、意味不明な状況だ。

「まだやんのか? チッ。しゃーねぇなぁ」

そう言って、ペロリと唇を湿らせて、再び。

「ちゅー」
「!?」
「れろれろれろれろ」
「!??!」

キスをされて、口腔内を舌で舐られた。

「ぷはっ……あー美味いっ!」

なんだかビールを一気飲みしたような表現だ。

「この為に生きてるって感じだよな?」
「?」
「あ? てめぇは生きる意味も知らねぇのか?」

ちょっと、何を言っているのか、わかんない。



4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/08(金) 22:52:59.97 ID:r+/yxZP+0

「わかんねぇなら教えてやんよ」

腕組みをすると、大きな胸がたぷたぷした。

「てめぇは今この時、この瞬間、俺様と出会って、キスをする為に生きてきたんだよ」

今、明かされる驚愕の真実。
無論、荒唐無稽である。
ポカンとして、口を半開きにしていると。

「あむっ」
「!」
「ちゅうちゅう」
「!?」
「がぶっ」
「?!!?」

キスされ、吸われ、そして噛みつかれた。

「どうだ? 痛えか?」
「~ッ! ~ッ!」
「生きてんだから、痛えのは当たり前だろ」

だったら噛むなよ。そう強い視線で訴えると。

「バ、バカヤロー! そんなに見つめんなよ!」

何故か赤面して、ぷいっとそっぽを向かれた。




5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/08(金) 22:54:52.99 ID:r+/yxZP+0

「べ、別に照れてるわけじゃねーし!」 

どうやら照れてるらしい。 
いつの時代のツンデレだろう。 
絶滅危惧種を見るように眺めていると。 

「照れてねぇ!」 

大切なことらしく、2回言われてしまった。 

「ごほんっ。今のはあれだ、その、なんだ」 

なんだよ。今更取り繕っても遅いだろうに。 

「こんな女にバカな男は引っかかるんだろ?」 

そうやって悪女ぶるのには向いてないと思う。 

「てめぇもバカな男だろ?」 

どうだろう。少なくとも、頭は良くない男だ。 

「安心しろ。俺様は、バカな男が好みなんだ」 

唐突に自分の好みを打ち明けられても、困る。 
ただ、ひとつだけ、言えることは。 
バカな男で良かったと、心から、思った。



6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/08(金) 22:56:11.15 ID:r+/yxZP+0

「まあ、とりあえず、隣に座れよ」 

そう言われたので、大人しく横並びに座った。 

「なんつーか、世の中、色々フクザツだろ?」 

漠然としすぎていて、何が言いたいのかよくわからないけれど、とりあえず相槌を打った。 

「俺様だって、普段はこんなじゃなくて、もっと大人しいってゆーか、引っ込み思案とゆーか、男の人に声をかけるのが怖い、みたいな」 

途中から別人みたいにしおらしくなった。 

「だから……頑張って、絡んでみたわけでして」 

あ、最終的に敬語になるわけね。了解です。 

「でも、上手くいかなくてですね……くすんっ」 
「!」 

女の涙を、落とさせる訳には、いかなかった。



7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/08(金) 22:57:31.81 ID:r+/yxZP+0

「ふあっ」 

何も言わずに、抱きしめた。良い匂いがした。 

「ぐすっ……てめぇ、調子に乗んなよ?」 

鼻声で凄まれても、怖くもなんともなかった。 

「はん! どうせ、見下してんだろ? バカな女だって……頭のおかしい、痛い女だってよぉ!」 

最初はそうだった。しかし、今は、違う。 

「笑いたければ、笑えよっ!」 

笑わない。笑えない。誰だって、そうだろう。 
誰だって、無理をすると、滑稽に映るものだ。 
でも、本人は必死なのだ。誰だって、そうだ。 

「笑わないなら、こっちだって考えがある!」 

自分を隠して、騙して、こじらせて、ついに。 

「笑わないなら、うんちしてやるかんな!」 
「おっ?」 
「糞を漏らしてやるっつってんだよっ!!」 

糞を漏らすという最終手段に、行き着くのだ。



8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/08(金) 22:59:54.15 ID:r+/yxZP+0

「くそっ! こんな筈じゃなかったのによ!」 

唖然としていると、膝の上に、乗ってきた。 

「全部、てめぇのせいだかんな!」 

責任はこちらにあるらしい。なら、仕方ない。 

「俺様は普通の恋愛がしたかったのに!」 

普通の恋愛とは、果たしてどんなものだろう。 

「キスして、抱きしめて、愛を囁き合う関係になりたかっただけなのに……畜生ッ!」 

それはたしかに心惹かれる恋愛だ。けれども。 

「……別に、いいんじゃないか?」 
「ふぇっ?」 
「糞を漏らす恋愛があっても、いいだろう」 

普通は、糞を漏らさない。 
糞を漏らさないのが普通。 
そんな普通は糞くらえだ。



9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/08(金) 23:01:27.23 ID:r+/yxZP+0

「……好き」 

このタイミングで告白をする感性に、惚れた。 

「俺も好きだ」 
「……ほんと?」 
「ああ、本当だ」 

こいつは見るからにヤバい奴だ。 
今まで出会ったことがない程ヤバい女だ。 
だからと言って、拒絶するつもりはない。 

ヤバい女に、ヤバいくらい、惚れたから。 

「うんち、漏らしても、いい?」 
「ああ、いいぞ」 
「嫌わない?」 
「絶対に嫌わない」 
「じゃあ、キスして」 

キスをした。すると、すぐに、脱糞をした。 

「んむっ……んあっ」 
「れろれろれろれろれろ……フハッ!」 

舐ってる場合じゃねぇ! 愉悦を、ぶちまけた。 

「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」 

狂ったように嗤い、哄笑して悟る。 
自分たちが、おかしいのではなく。 
この世界こそが、おかしいのだと。



10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/08(金) 23:02:58.44 ID:r+/yxZP+0

「はぁ~! 気持ち良かった!」 
「お疲れさん」 
「ん……ていうか、てめぇっ!」 

ひと仕事を終え、労うと、思い出したように。 

「い、いくらなんでも嗤いすぎだろ!」 
「あ、ごめん」 
「ま、まあ……愉しめたなら、いいけどさ」 

いきなりキャラを戻す彼女を見て思わず笑う。 

「な、なんだよ?」 
「いや、可愛いなと思ってさ」 
「うぅ~……好きっ!」 
「俺も、大好きだ」 

こいつは、おかしいのではなく、可愛いのだ。 
この世界の、誰もが、それを認めなくたって。 
自分だけがその可愛さをわかればそれで良い。 


【隠して、騙して、こじらせて……漏らして】 


FIN



11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/08(金) 23:03:32.74 ID:r+/yxZP+0

以下、二作品目です。



12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/08(金) 23:05:06.23 ID:r+/yxZP+0

「お前みたいな美人でも排泄するのか?」 
「おっ?」 

ずっと好きだった相手に、そう尋ねられた。 
前半は問題なし。美人と言われた。嬉しい。 
問題は、後半だ。排泄するのかと問われた。 
普通はそんなことは聞かない。びっくりだ。 
なので、目を丸くして、固まっていると。 

「ああ、悪い。聞き方が良くなかったよな」 
「いえ……おかまいなく」 

気まずい空気になってしまった。 
くそっ。どうして軽い調子で返さなかった。 
ヘラヘラ笑って、適当に返答すれば良かった。 
健気にも、自責の念に駆られる私に対して。 

「今朝はちゃんと出してきたのか?」 
「おっ?」 

あっれー? おかしいな。さっきと同じじゃん。 

「直接的な表現は控えたけど、伝わったか?」 
「えっと……その、あの……小の方ですよね?」 

何を聞いているんだ私は。彼は真顔で答えた。 

「は? 大の方に決まってんだろ」 
「あ、はい……で、ですよねー!」 

何がですよねだ。どうしよう。途方に暮れた。



13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/08(金) 23:06:27.53 ID:r+/yxZP+0

「それで、出たのか?」 

催促され、決断を迫られて、カミングアウト。 

「……で、出たよ」 
「そうか。それは良かったな」 
「あ、はい」 
「なるほど……美人でも糞をするんだな」 

糞とか言わないで。思わず涙が溢れてしまう。 

「ん? どうした?」 
「い、いえっ! 別に、なにも……」 
「腹が痛いのか?」 

優しいのは素敵だけど、違うんだよなぁ。



14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/08(金) 23:07:36.02 ID:r+/yxZP+0

「腹が痛いなら、我慢しない方がいい」 

だから、違うって。私は何度も首を横に振る。 

「照れてる場合じゃないだろ」 
「違っ……照れてるわけじゃなくて」 
「早く出さないと痔になっちまうぞ」 

否定しても聞く耳を持たず、余計心配された。 

「ほんとに、大丈夫ですから!」 
「ほんとか?」 
「はい! 朝にモリモリ出したので!」 

思わず余計な事を口走り赤面すると彼は笑い。 

「そうか。それなら、心配ないな」 

その優しい微笑みに、改めて好きだと感じた。



15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/08(金) 23:09:21.15 ID:r+/yxZP+0

「今日も出たか?」 
「……出ました」 
「そうか。それは良かった」 

あの日から、排便の報告が日課となった。 
毎回毎回、私は恥ずかしい気持ちになる。 
でも、それが嫌かと聞かれたらそうではなく。 
この胸の高鳴りを、心地良いと、感じていた。 

「あの……」 
「ん? なんだ?」 
「あなたも、その……」 
「どうした?」 

今日こそはと思い、意を決して、尋ねてみた。 

「あなたも、うんちするんですか!?」 

よし言えた。達成感とは裏腹に彼は絶句した。 

「あれ?」 

何かおかしかっただろうか。首を傾げると。 

「……直接的な表現はどうかと思うぞ」 
「あっ」 

やばい。失敗した。マナー違反だったらしい。 

「近頃は規制が厳しいから気をつけろよ?」 
「はい……ごめんなさい」 

謝りながら思う。なんだろう。すごく理不尽。



16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/08(金) 23:10:32.23 ID:r+/yxZP+0

「今回だけは大目にみてやるよ」 
「あ、有り難き幸せ」 

何に幸せを感じているんだろうね、私は。 

「それで、本題だけど」 
「はいっ! どうでした?」 
「出たことは出たけど、下痢便だった」 

今度は私が絶句する番だった。直接的すぎる。 

「なんだよ、悪いのか?」 
「……悪くはないと思いますけど」 
「ハッキリ言えよ。下痢便が汚いって!」 

そんな泣きそうな顔をされたら、言えないよ。 

「……汚くなんかないですよ?」 
「本当か?」 
「はい……私は、全然平気です」 

下痢便くらいで好きな人を嫌ったりはしない。



17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/08(金) 23:12:21.43 ID:r+/yxZP+0

「……ありがとな」 
「えっ?」 
「俺を見捨てないでくれて、ありがとう」 

感謝されて、胸が熱くなった。今しかない。 

「わ、私、実はあなたのことが……!」 
「ぐあっ!?」 
「へっ?」 

突然、腹を抱えて蹲った彼に慌てて駆け寄る。 

「だ、大丈夫ですか!?」 
「近づくなっ!」 
「えっ……?」 

拒絶されてしまった。でも、やっぱり心配だ。 

「あなたを助けたいんです!」 
「はぁ……はぁ……俺は、もうダメだ」 
「そんな……しっかりしてください!」 

どうやら彼の容態は、それほどに深刻らしい。



18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/08(金) 23:13:40.99 ID:r+/yxZP+0

「私に何か出来ることはありませんか!?」 
「もう、何もない。既に、手遅れだ……」 
「えっ?」 

彼はまるで吐血するように下痢便を漏らした。 

「フハッ!」 

それを目撃して、思わず、愉悦が漏れた。 

「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」 

好きだった相手が、下痢便を漏らした。 
それに対して、嫌悪感はまるで感じない。 
ただただ、愉しくて、愉快な気分だった。 

「……嗤いすぎだ」 
「あっ……ご、ごめんなさぁい!」 

はしたないところを見られて、恥じ入ると。 

「どうして、漏らしたのに、逃げなかった?」 

その問いかけの意味がわからず、私は尋ねた。 

「好きな人から逃げる必要がありますか?」 

言ってから気づいた。これって告白じゃんと。



19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/08(金) 23:15:17.37 ID:r+/yxZP+0

「好きな人……?」 
「いや、これは、あの、その……」 
「俺は好きで下痢便を漏らしたわけじゃない」 

だから、そうじゃないってば。こうなったら。 

「私はあなたのことが好きなんです!」 

下痢便ではなく彼を好きだとハッキリ伝えた。 

「そう、だったのか……」 
「はい……黙ってて、すみません」 
「いや、それはいいんだが……残念だ」 
「ざ、残念、とは?」 

ネガティブな言葉に思わず過剰に反応すると。 

「だって、もう嫌われちまっただろ?」 
「はい?」 
「こんなことならオムツを穿けば良かった」 

心底悔しそうに、彼は悔し涙を流していた。 

「あの……それは、どういう意味ですか?」 
「……オムツを穿けば漏らさなかっただろ?」 
「まあ、それはそうでしょうけど……」 
「そしたら、お前に嫌われずに済んだのに」 

ああ、なるほど。彼は完全に、誤解している。



20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/08(金) 23:17:01.46 ID:r+/yxZP+0

「あのですね、よく聞いてください」 

私は彼と目線を合わせて、ちゃんと説明した。 

「まず大前提として、私はあなたが好きです」 
「それは、俺が漏らす前の話だろう?」 
「いいえ、違います。現在進行形で好きです」 

彼はキョトンとして、飲み込めない様子だ。 

「私はあなたを嫌ってなんかいません」 
「だが、俺は下痢便を漏らして……」 
「だからどうしたと言うのですか?」 

過ぎたことはどうしようもない。今が大切だ。 

「その程度で揺らぐほど私は弱くありません」 

彼に対する私の好意はそんなにヤワじゃない。 

「むしろ、以前にも増して好きになりました」 

安心させるように微笑むと、抱きしめられた。



21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/08(金) 23:18:01.03 ID:r+/yxZP+0

「ど、どうしたんですか……?」 
「俺もお前が好きだ!」 
「ふぇっ?」 

おかしいな。私のターンだったのに。ズルい。 

「ずっと、好きだったけど、照れ臭くて……」 

私のことを力強く抱きしめながら、彼は語る。 

「だから、おかしな質問で、誤魔化して……」 

ああ、なるほど。そういうことだったのか。 

「ずっと、黙っていて、悪かった」 
「ううん……とっても、嬉しいです」 

だから、あんな質問をしてきたのか。 
なんとも不器用というか、不思議な人だ。 
そんなところが、たまらなく好きだった。 
一般的な感性では理解出来ないかも知れない。 
それでも、良かった。むしろ、嬉しい。 

私さえ、この人を理解出来たらそれでいい。 

「愛しています」 
「俺も愛してる」 

どちらともなく唇を重ねて、彼はこう言った。 

「今度は、お前の排泄を見せてくれ」 
「……いいですよ」 

返事をしてから再び唇を重ねつつ。 
モリモリ、彼の前で脱糞するのが。 
待ち遠しくて、愉しみだと思った。 


【下痢便に負けない好意】 


FIN



22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/08(金) 23:22:37.71 ID:r+/yxZP+0

最後に、これは近頃、セカイ系の物語を目にすることが減ったと感じて書いた作品です。 
最後まで、お楽しみください。 

それでは以下、三作品目です。



23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/08(金) 23:25:48.24 ID:r+/yxZP+0

「……守って、欲しいな」 

思わず、そう独りごちた。 
周囲は死屍累々といった有様で。 
戦場という名の地獄を、物語っていた。 

「ヒーローはどこに居るんだろう?」 

ヒーロー。すなわち、それは英雄だ。 
そうした存在はおとぎ話によく登場する。 
しかし、この現実世界で遭遇した経験はない。 

「今日も、空が真っ赤で綺麗だなぁ」 

赤く染まる空を見上げて、見たままを呟く。 
只今の時刻は真昼間なのにも関わらず。 
まるで朝焼けか夕暮れのように、空が赤い。 

「なにもかも、燃えていく……」 

草も木も車も家も町も国すらも、全部。 
世界中で火の手が上がり、燃え盛っていた。 
夜になってもそのあまりの明るさに眠れない。 

「ああ、ダメだ……また、落ちる」 

赤い空を引き裂く、戦闘機の爆音。 
けたたましい空襲警報のサイレンが鳴り響く。 
散発的に行われる対空砲火を、嘲笑うように。 

ズドンッ! 

「うわっ……今のはわりと近かったなぁ」 

ビリビリと身体に伝わる衝撃波。 
どこかで窓硝子の割れる音がした。 
爆風が頬を撫でて、その熱波により。 

流した涙は、乾いて、消えた



24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/08(金) 23:28:09.85 ID:r+/yxZP+0

「怪我人はいませんかー!?」 

爆心地に徒歩で向かいつつ、呼びかける。 
呻き声が聞こえたら、すぐさま駆けつける。 
助かった人と、助からなかった人がいた。 

「この人は助かって、この人は助からない」 

その違いがなんなのか、未だにわからない。 
早かったからなのか、遅かったからなのか。 
あるいは、運が良かったのか、悪かったのか。 

「ごめんね、食べ物はないの」 

泣き喚く幼い子供に何もしてやれない。 
せっかく助かったのに、これではあんまりだ。 
その度に、虚しい気持ちになってしまう。 
助けなければ良かったかと、思ってしまう。 
ガリガリに痩せた子供達を見るのは、辛い。 

「どうにかしないと」 

どうにかしようと思った。 
助けた上で、幸せに暮らせるように。 
その為には頭上の小蝿を追い払う必要がある。 

「ちょっと待っててね……すぐに戻るから」 

子供の頭を撫でてから、上空へと飛び立った。



25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/08(金) 23:30:23.79 ID:r+/yxZP+0

「エンジンは2つも要らないよね?」 

メリメリと、片方のエンジンを剥がして。 

「ほら、さっさとおかえり」 

威嚇射撃をすると、敵機は逃げていった。 

「はぁ……そんなに怖がるなら来ないでよ」 

何度追い払っても、小蝿はまたやってくる。 
その度に、こうして追い払って、威嚇して。 
すっかり相手は、怯えているように見えた。 

「怖いから、攻撃的になるのかな?」 

そこまで怖い顔をしているつもりはない。 
ちょっとだけ、むっとしているだけだ。 
子供を叱るように、めっとしただけなのに。 

「きっとあのパイロットはもう飛べないな」 

泣き叫ぶ悲鳴が電波に乗って、耳に届いた。



26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/08(金) 23:32:38.62 ID:r+/yxZP+0

「えぇ~! こちらから仕掛けるんですかぁ?」 

司令部からの指示に、難色を示す。 
守るのは本意でも、襲うのは不本意だ。 
そんなことをしても、犠牲者が増えるだけだ。 

「こっちが優勢になったら向こうにつきます」 

それが、参戦する条件だった。 
より可哀想な方を助けてあげたい。 
より多くの人々を、助ける為に。 

「ご理解頂けてなによりです。それではまた」 

良かった。寝返らずに済んだ。 
とはいえ、寝転んで眠る暇はない。 
寝返りを打つように、敵を撃とう。 
微睡みながらも、戦闘は継続していた。 

「敵機の数が多いので、増援を頼みます」 

無線で要請すると、増援が現れ、すぐ落ちた。 

「あちゃー……しっかりしてくださいよぅ」 

友軍のパイロットが脱出していたのは幸いだ。



27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/08(金) 23:35:17.16 ID:r+/yxZP+0

「まったく、本当にだらしないんだから」 

結局、独りで奮闘する羽目になった。 
真っ赤な空に眩い閃光を迸らせながら。 
東へ、西へ。南へ、北へ。東西南北。 
四六時中、何処へでも駆けつけて。 
救えるだけの命を助けて、そして見捨てた。 

「そろそろ、疲れたよ」 

別に無敵というわけではない。 
誰よりも速くて、誰よりも強いけれど。 
怪我はするし、疲れるし、涙を流すのだ。 

「これ、いつになったら終わるんだろう」 

最近は、そればかりを考えている。 
そもそも、どうすれば終わるのか。 
どちらかが滅べばそれで終わりなのか。 
もしくはどっちも滅べば、終わるのか。 

「だとしたら、終わる筈なんてないよね」 

そんなことはさせない。 
どっちかを滅ぼすなど論外。 
どっちも滅ぶなんて以ての外だ。 
なんとしても阻止しようと決意して、気づく。 

「ああ、そっか……だから、終わらないのか」 

それを阻止するから、地獄は終わらないのだ。



28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/08(金) 23:37:23.84 ID:r+/yxZP+0

「そろそろ出番だよ、ヒーローさん」 

倒すべき敵は明白だった。 
これにて舞台は整ったのだ。 
今現れなくて、いつ現れると言うのか。 

「いるんでしょ? 出ておいでよ」 

赤い空に向かって呼びかけると、彼は現れた。 

「あは。抵抗なんてするつもりはないってば」 

ヒーローは無抵抗な相手に戸惑っていた。 
それを見て、おとぎ話の通りだと思った。 
ヒーローは、弱い者いじめなんてしない。 

「それじゃあ、強い者は、いじめてくれる?」 

そう嘯いて、天と地を引き裂いてやった。 
もちろん、犠牲者は出さないように。 
確固たる強さを示すと、いじめてくれた。 
抵抗することなく、それを受け入れる。 

「えへへ……ばいばーい……」 

赤い空から堕ちて、真っ暗な闇に包まれた。



29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/08(金) 23:39:03.67 ID:r+/yxZP+0

「暗い……ここは暗くて、寒いなぁ」 

そこは暗い暗い、深い深い地獄の底。 
さっきまでは、赤い空の地獄だった。 
暗闇は冷たくて、居心地が良かった。 

「誰かいませんかー!?」 

呼びかけても、返事は返ってこない。 
それを知って、ほっと安堵した。 
もう救うべき、可哀想な人々は、いない。 

「ああ……良かったけど……寂しいなぁ」 

安堵の溜息と共に、涙が流れた。 
冷たい暗闇の中で流す、温かい涙。 
そうしなければ、温もりすら、感じられない。 

「疲れた……もう、疲れたよ」 

疲れて、くたびれて、地獄の底で横たわった。



30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/02/08(金) 23:40:22.34 ID:r+/yxZP+0

「ん……朝、かな?」 

パチリと目を開けても真っ暗。 
それでも目が覚めて朝だと認識した。 
まるで優しく起こすように、頭を撫でられた。 

「ああ、ヒーローさん。おはよう」 

見えないけど、わかる。ヒーローがいる。 

「これからは君が守ってくれるの?」 

ヒーローが頷いてくれたような気がした。 

「ありがとう……救ってくれて」 

ヒーローはおとぎ話の通り。 
あらゆる者を救う英雄だった。 
たとえそれが、地獄に堕ちた悪魔だとしても。 


【地獄の底のヒーロー】 


FIN







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