2006年06月29日
微笑をグラスに浮かべ・・・
何年か前に、懇意にしているバーテンダーのO嬢から
私の誕生日の祝いにグラスを頂いたことがある。
O嬢とも他の仲間たち同様、仕事の枠を外れて
会食などの機会を持っていたので、仲間の誕生日など
折に触れては集まって、祝い事などをしていた。
私は人の祝い事はするが、自分のことについては
沈黙を保って、一切、祝い事の席を設けないようにしていた。
偏屈だと揶揄されたが、理由はいろいろある。
一つには、 自分の仕事の関係者に対しての配慮であり、
一つには、O嬢をはじめとした関係者諸兄への配慮であり、
なにより、もっとも大切にしたのは盟友Mへの配慮である。
あっちを立てればこっちはたたず。
相手を立てようと思えばこそ、自分を潜めることも必要で、
ましてや、相手の職能やメンツを最大限に尊重して、
守らなければならない業種やポジションもあればこそである。
「相手が理解出来るから・・・。」
「相手が理解してくれるから・・・。」
大抵の場合は、そういう言葉で片付けて、
本当に相手のことをケアしてないことも少なくない。
だからこそ、自分を猛省して、相手を尊重して
いけるように、日々真摯に自分と向き合う。
そして、気を使わせないように、話題をかえたり、
誕生日のことは避けとおした。
ところが・・・。
本人の意思と無関係に、意を解さないものが必ず現れる。
(当時の)私の上司J氏が、O嬢に私の誕生日を
教えてしまったのである。
実にJ氏らしい行動だとも思ったが、
言っても先無きこと。
出来ぬJ氏に怒りをぶつけても仕方がないと、
溜飲を呑んだが、心中穏やかならず、かといって
知ったO嬢へのケアをしないわけにもいかず、
渋々誕生日の前日に店に訪れた。
いつもどおり静かに時を過ごし、
日が変わる前に帰宅とおもいチエックをすませた。
店を出ようとしたときに、背中越しに
「Masaさん 忘れ物ですよ」とO嬢の声がかかる。
荷物を預けた記憶がないので、いぶかしんで
振り返ってみると、O嬢の手には小さな包みが
抱えられていた。
店の玄関から出る私に触れてそっと一言
「明日から新しい一年の始まりだそうですね。
張り詰めた後はコレをつかってくださいね。」
手渡されたのはバカラの手提げ袋。
私の性格を理解した、O嬢らしい、気の利いた
動き方に、心底愉しみを感じられた夜だった。
私の誕生日の祝いにグラスを頂いたことがある。
O嬢とも他の仲間たち同様、仕事の枠を外れて
会食などの機会を持っていたので、仲間の誕生日など
折に触れては集まって、祝い事などをしていた。
私は人の祝い事はするが、自分のことについては
沈黙を保って、一切、祝い事の席を設けないようにしていた。
偏屈だと揶揄されたが、理由はいろいろある。
一つには、 自分の仕事の関係者に対しての配慮であり、
一つには、O嬢をはじめとした関係者諸兄への配慮であり、
なにより、もっとも大切にしたのは盟友Mへの配慮である。
あっちを立てればこっちはたたず。
相手を立てようと思えばこそ、自分を潜めることも必要で、
ましてや、相手の職能やメンツを最大限に尊重して、
守らなければならない業種やポジションもあればこそである。
「相手が理解出来るから・・・。」
「相手が理解してくれるから・・・。」
大抵の場合は、そういう言葉で片付けて、
本当に相手のことをケアしてないことも少なくない。
だからこそ、自分を猛省して、相手を尊重して
いけるように、日々真摯に自分と向き合う。
そして、気を使わせないように、話題をかえたり、
誕生日のことは避けとおした。
ところが・・・。
本人の意思と無関係に、意を解さないものが必ず現れる。
(当時の)私の上司J氏が、O嬢に私の誕生日を
教えてしまったのである。
実にJ氏らしい行動だとも思ったが、
言っても先無きこと。
出来ぬJ氏に怒りをぶつけても仕方がないと、
溜飲を呑んだが、心中穏やかならず、かといって
知ったO嬢へのケアをしないわけにもいかず、
渋々誕生日の前日に店に訪れた。
いつもどおり静かに時を過ごし、
日が変わる前に帰宅とおもいチエックをすませた。
店を出ようとしたときに、背中越しに
「Masaさん 忘れ物ですよ」とO嬢の声がかかる。
荷物を預けた記憶がないので、いぶかしんで
振り返ってみると、O嬢の手には小さな包みが
抱えられていた。
店の玄関から出る私に触れてそっと一言
「明日から新しい一年の始まりだそうですね。
張り詰めた後はコレをつかってくださいね。」
手渡されたのはバカラの手提げ袋。
私の性格を理解した、O嬢らしい、気の利いた
動き方に、心底愉しみを感じられた夜だった。
☆本日の一品:
![]() | バカラ(Baccarat)エトナ ペアタンブラーS |
2006年06月25日
情熱の滾りと・・・。
今日は私の友人で某メーカーに勤務するY氏のお話
Y氏はいつも陽気な顔で呑み仲間と接する。
いつも、遊びの場では同席した者に注意し、
極力その場での楽しみを共有しようと努力する。
そして、また、阿呆面した酒呑みというスタイルに
徹して年齢の上下を問わず、遊び方、呑み方、
趣向、スタイルを知ろうと真摯な態度で臨んでいる。
非常に努力家である。
なぜか?ということを確認したいという興味をもち、
いろいろと話をした。
それで、メーカーの人間だと晒した後では、
愛社精神が強い戦う営業マンに戻る。
非常に可愛くもあり、不器用でもある男である。
そんな彼だからこそ、心配なことも少なくない。
(人間幾つになっても勉強なのだが)仕事を覚えて
いく過程での努力ということもあってか非常に熱心だが、
メーカーの人間という色眼鏡で見られた場合に、
彼の努力は非常に報われないものに変わる。
無論、彼と直接会話をすれば、そうした努力も
彼の性格がなせる業であることもわかるし、
不器用な彼らしい一面であると受け止められる筈である。
だが、その人間性を受け止めていない場合には
彼は純粋な企業戦士としか受け取らず、
仕事熱心だなぁと揶揄されることは然り、
メーカーが個人に対してまで営業をするのか?と
穿った見方で彼個人を批判することに終始するであろう。
無論、Y氏が他のお客様に、そういった感情を持たせたり、
意識に明確に印象付けるようなことをしていないわけでは
ないと思う。
無論、それは主観で物事を捉えたときと、客観で捕らえた
ときとの違いであるだろうし、個人の行為を客観的に見て
その事象を冷静に受け止め、気付けるか否かという
一番シンプルでありながら、一番難しいことに帰結する
問題なのであろう。
ただ、それだけに難しいことでもある。
気付くということは、それだけの経験と尺度をもって
事象を冷静に捉えなければできない。
逆に言えばその尺度を持たぬものには、どれだけの時間を
つぎ込んでも叶うことのない夢のようなものかもしれない。
気付くということは実に難しい。
それだけに、どれだけ謙虚に事象と向き合い、経験を重ね、
自分の血肉に変えていけるか・・・。
Y氏の未来につながる茨の道と、それに立ち向かうY氏の姿を
を想いつつY氏の未来と我々の親交の為に今日はグラスを掲げたい。
Y氏はいつも陽気な顔で呑み仲間と接する。
いつも、遊びの場では同席した者に注意し、
極力その場での楽しみを共有しようと努力する。
そして、また、阿呆面した酒呑みというスタイルに
徹して年齢の上下を問わず、遊び方、呑み方、
趣向、スタイルを知ろうと真摯な態度で臨んでいる。
非常に努力家である。
なぜか?ということを確認したいという興味をもち、
いろいろと話をした。
それで、メーカーの人間だと晒した後では、
愛社精神が強い戦う営業マンに戻る。
非常に可愛くもあり、不器用でもある男である。
そんな彼だからこそ、心配なことも少なくない。
(人間幾つになっても勉強なのだが)仕事を覚えて
いく過程での努力ということもあってか非常に熱心だが、
メーカーの人間という色眼鏡で見られた場合に、
彼の努力は非常に報われないものに変わる。
無論、彼と直接会話をすれば、そうした努力も
彼の性格がなせる業であることもわかるし、
不器用な彼らしい一面であると受け止められる筈である。
だが、その人間性を受け止めていない場合には
彼は純粋な企業戦士としか受け取らず、
仕事熱心だなぁと揶揄されることは然り、
メーカーが個人に対してまで営業をするのか?と
穿った見方で彼個人を批判することに終始するであろう。
無論、Y氏が他のお客様に、そういった感情を持たせたり、
意識に明確に印象付けるようなことをしていないわけでは
ないと思う。
無論、それは主観で物事を捉えたときと、客観で捕らえた
ときとの違いであるだろうし、個人の行為を客観的に見て
その事象を冷静に受け止め、気付けるか否かという
一番シンプルでありながら、一番難しいことに帰結する
問題なのであろう。
ただ、それだけに難しいことでもある。
気付くということは、それだけの経験と尺度をもって
事象を冷静に捉えなければできない。
逆に言えばその尺度を持たぬものには、どれだけの時間を
つぎ込んでも叶うことのない夢のようなものかもしれない。
気付くということは実に難しい。
それだけに、どれだけ謙虚に事象と向き合い、経験を重ね、
自分の血肉に変えていけるか・・・。
Y氏の未来につながる茨の道と、それに立ち向かうY氏の姿を
を想いつつY氏の未来と我々の親交の為に今日はグラスを掲げたい。
☆本日のお酒:
![]() | ストラスアイラ 12年 |
2006年06月16日
今にして振り返る・・・
私は酒呑みである。いつからそうであるのかは定かで無い。
只々毎日一定の時間を、薄明るい店内の一角で酒の匂いと、
老若男女問わず訪れる者達の陽気な笑い声と喧騒に包まれ、
無常の喜びとリアルな命の躍動感を感じている。
何時の頃からかは判らないが、偶々仕事の帰りにみつけた
とあるショットバーに出入りするようになり、日の多くを
其処に絡んだ人間と共に過ごすようになっていた。
あれは確か梅雨明けが宣言された日・・・。
クライアントとの打ち合わせからの帰り道。
その日の天気予報を覆し、突然振り出した激しい夕立の後、
熱を奪いきれなかった夕立による湿気で、異常に生暖かく
重くなった空気の層を掻き分けながらオフィス街を一人、
シガーショップのある通りを一人進んでいた。
普段は、利便性を優先して目的地にあわせて一番便利な
交通機関を使い分けているのだが、予想外の夕立が市外の
足を狂わせたせいか、なかなかスムーズに流れていかない。
待ち続けるのも好きではないし、なにより落ち着かない
群集に身を預ける気になれなかったので、非合理的と
思いつつも歩く事にしたのだった。
うだるような暑さに、滲み出す汗をハンカチで拭いつつ、
酒食の楽しみを考えながらゆったりと歩きつづけた。
数分後、馴染みのシガーショップに到着すると、店の
親父は私の姿をみて素っ頓狂な声を出して迎えてくれた。
私が歩いて来店した事は今までに2度しかなく、
その2回は、いずれも、まだ事務所がこの店の近所に
あったときで、いづれの時も恩義ある方のお祝い事の折に、
贈り物を吟味しにきた時だった。
無論、今回の店主の関心はそんな事ではないことは
私も知っていた。
なぜなら、おおよそ半年前に遠来からお見えになる
クライアントのアクセスの利便性をあげるため、
事務所を拠点駅の傍に移してから、徒歩で店を尋ねたのは
これが初めてのことだったからである。
店主とは毎度たわいの無い世間話を交わすぐらいの事しか
ないが、彼の趣味人として、道楽家としての着眼点は
非常にユニークではあるものの、指摘は実に的を得ており、
いつも会話をしながら愉しく勉強させて頂いてた。
好きなシガーをくゆらせながら、趣味を解する人と言葉を
交わしてすごす豊かな時間、それが愉しくてこの店から
離れられないのかもしれない。
シガーを堪能し、シガーの補充も済ませた私は、
店主とすごした愉しいひと時の余韻と、昼の打ち合わせの
結果に浮かれた気分で再び駅に向かい歩き出した。
外は相変わらずのけだるさに包まれていたが、街の景色が
所々かわっているのを見つけては、自分がタイムスリップ
したような不思議な感覚で街を眺めながら帰路を愉しんで
進むうち、とある一件のお店の看板が目に留まった。
つい最近オープンしたばかりらしく、その看板は真新しく、
セピアにそまった街の色の中で異彩を放っていた。
それがこの店を知った最初だった。
バーと見ると、なぜか勝負を挑まれているような気になり、
やはり覗かずには何事も進まないであろうと勝手に思って
しまうのは悲しいかな酒呑みの性であろうか。
そう思うが早いか、私は妙な高揚感に駆られるのを覚えつつ
地上からはなかなかそれと気付きにくい地階へと繋がる
階段をゆっくりとおりていく。
黒と白で綺麗に纏められたモダンな通路を進むと、重厚な
木の扉が・・・。
扉を見たとき私の心はときめいた。
黙っていても期待感が高まる。
私は静かに心を落ち着けて扉に手をかけて、静かに開いた。
扉が開いたことに気が付いたバーテンダーの声がかかる。
扉の先の世界はモダンに整えられているが、所々に手が
加えられていて無機質になりすぎないよう配慮がされている。
私は、バーテンダーの声に誘われるままに更に奥へと進んだ。
バックバーを見たい・・・。
期待感が更に膨らむ。
一人であったのでそのままバーカウンターに・・・。
バックバーも綺麗に纏められており、かつ、カウンター越しに
みえる世界は、バーテンダーの為のステージとしての立派な
舞台装置として機能している。
バーテンダーも、グラスも、お酒のボトルの群れも
それぞれが対等にスポットライトの下に立っている。
常連さん・一元さんの別を問わず、見る側に楽しさを
与えてくれる作りだ。
私の期待は極限まで高まり熱を帯びた。
カウンターから自然な流れでメニューが出る。
ショーが開園したのだ。
私は圧倒されぬようにと気を引き締め、
探りを入れるような会話の後に軽い食事とアペリティフに
一杯目を頼む。
静かな緊張が走るも、バーテンダーも心得たとばかりに
オーダーしたカクテルの準備をしながら更に言葉を繋ぐ。
世間話のような、なにげない言葉を交わしながら、
互いに読みあいが続く。
バーテンダーが舞台の中で綺麗に踊る。
店内にシェーカーの音が気持ちよく響く。
シェイカーの音が止み、注ぐグラスに目が集中する。
差し出されたグラスを受け取ると、静かに口に運ぶ。
動き、見せ方もさることながら味もまとまっている。
・・・悪くない。
素直に評すると、其処から更に探りあいが始まる。
一杯目を呑み干す頃、オーダーした食事もカウンターに
運び込まれる。
それをゆっくりと口に運び味を確認する。
盛り付けに不慣れさを見るも、味は悪くない。
フードの味付けに合わせ、少し注文を加えて二杯目を
オーダーする。
フードへの指摘に一瞬顔色が微妙に滲むも、ポイントの
指摘に対しての食いつきがいい。
そして僅かなキャッチボールの後、二杯目が出された。
二杯目を受け取ると、次は非礼を詫び素直に評する。
心の滓がとれたのか、キャッチボールが加速する。
そんなこんなを幾度くりかえしたことか・・・
それからは、色々と言葉を交わし、時間を重ね、
公私問わず、酒を介して互いを解す日々を続けた。
気がつけばそんな生活も十余年を経て、いくばくかの酒の
知識と、時折言葉を交わす酒食を心から楽しむ同胞諸兄と、
相変わらず心地よいサービスを提供してくれるバーテンダーのM。
この関係こそが私を酒呑みたらしめている最大の要因なのかもしれない。
只々毎日一定の時間を、薄明るい店内の一角で酒の匂いと、
老若男女問わず訪れる者達の陽気な笑い声と喧騒に包まれ、
無常の喜びとリアルな命の躍動感を感じている。
何時の頃からかは判らないが、偶々仕事の帰りにみつけた
とあるショットバーに出入りするようになり、日の多くを
其処に絡んだ人間と共に過ごすようになっていた。
あれは確か梅雨明けが宣言された日・・・。
クライアントとの打ち合わせからの帰り道。
その日の天気予報を覆し、突然振り出した激しい夕立の後、
熱を奪いきれなかった夕立による湿気で、異常に生暖かく
重くなった空気の層を掻き分けながらオフィス街を一人、
シガーショップのある通りを一人進んでいた。
普段は、利便性を優先して目的地にあわせて一番便利な
交通機関を使い分けているのだが、予想外の夕立が市外の
足を狂わせたせいか、なかなかスムーズに流れていかない。
待ち続けるのも好きではないし、なにより落ち着かない
群集に身を預ける気になれなかったので、非合理的と
思いつつも歩く事にしたのだった。
うだるような暑さに、滲み出す汗をハンカチで拭いつつ、
酒食の楽しみを考えながらゆったりと歩きつづけた。
数分後、馴染みのシガーショップに到着すると、店の
親父は私の姿をみて素っ頓狂な声を出して迎えてくれた。
私が歩いて来店した事は今までに2度しかなく、
その2回は、いずれも、まだ事務所がこの店の近所に
あったときで、いづれの時も恩義ある方のお祝い事の折に、
贈り物を吟味しにきた時だった。
無論、今回の店主の関心はそんな事ではないことは
私も知っていた。
なぜなら、おおよそ半年前に遠来からお見えになる
クライアントのアクセスの利便性をあげるため、
事務所を拠点駅の傍に移してから、徒歩で店を尋ねたのは
これが初めてのことだったからである。
店主とは毎度たわいの無い世間話を交わすぐらいの事しか
ないが、彼の趣味人として、道楽家としての着眼点は
非常にユニークではあるものの、指摘は実に的を得ており、
いつも会話をしながら愉しく勉強させて頂いてた。
好きなシガーをくゆらせながら、趣味を解する人と言葉を
交わしてすごす豊かな時間、それが愉しくてこの店から
離れられないのかもしれない。
シガーを堪能し、シガーの補充も済ませた私は、
店主とすごした愉しいひと時の余韻と、昼の打ち合わせの
結果に浮かれた気分で再び駅に向かい歩き出した。
外は相変わらずのけだるさに包まれていたが、街の景色が
所々かわっているのを見つけては、自分がタイムスリップ
したような不思議な感覚で街を眺めながら帰路を愉しんで
進むうち、とある一件のお店の看板が目に留まった。
つい最近オープンしたばかりらしく、その看板は真新しく、
セピアにそまった街の色の中で異彩を放っていた。
それがこの店を知った最初だった。
バーと見ると、なぜか勝負を挑まれているような気になり、
やはり覗かずには何事も進まないであろうと勝手に思って
しまうのは悲しいかな酒呑みの性であろうか。
そう思うが早いか、私は妙な高揚感に駆られるのを覚えつつ
地上からはなかなかそれと気付きにくい地階へと繋がる
階段をゆっくりとおりていく。
黒と白で綺麗に纏められたモダンな通路を進むと、重厚な
木の扉が・・・。
扉を見たとき私の心はときめいた。
黙っていても期待感が高まる。
私は静かに心を落ち着けて扉に手をかけて、静かに開いた。
扉が開いたことに気が付いたバーテンダーの声がかかる。
扉の先の世界はモダンに整えられているが、所々に手が
加えられていて無機質になりすぎないよう配慮がされている。
私は、バーテンダーの声に誘われるままに更に奥へと進んだ。
バックバーを見たい・・・。
期待感が更に膨らむ。
一人であったのでそのままバーカウンターに・・・。
バックバーも綺麗に纏められており、かつ、カウンター越しに
みえる世界は、バーテンダーの為のステージとしての立派な
舞台装置として機能している。
バーテンダーも、グラスも、お酒のボトルの群れも
それぞれが対等にスポットライトの下に立っている。
常連さん・一元さんの別を問わず、見る側に楽しさを
与えてくれる作りだ。
私の期待は極限まで高まり熱を帯びた。
カウンターから自然な流れでメニューが出る。
ショーが開園したのだ。
私は圧倒されぬようにと気を引き締め、
探りを入れるような会話の後に軽い食事とアペリティフに
一杯目を頼む。
静かな緊張が走るも、バーテンダーも心得たとばかりに
オーダーしたカクテルの準備をしながら更に言葉を繋ぐ。
世間話のような、なにげない言葉を交わしながら、
互いに読みあいが続く。
バーテンダーが舞台の中で綺麗に踊る。
店内にシェーカーの音が気持ちよく響く。
シェイカーの音が止み、注ぐグラスに目が集中する。
差し出されたグラスを受け取ると、静かに口に運ぶ。
動き、見せ方もさることながら味もまとまっている。
・・・悪くない。
素直に評すると、其処から更に探りあいが始まる。
一杯目を呑み干す頃、オーダーした食事もカウンターに
運び込まれる。
それをゆっくりと口に運び味を確認する。
盛り付けに不慣れさを見るも、味は悪くない。
フードの味付けに合わせ、少し注文を加えて二杯目を
オーダーする。
フードへの指摘に一瞬顔色が微妙に滲むも、ポイントの
指摘に対しての食いつきがいい。
そして僅かなキャッチボールの後、二杯目が出された。
二杯目を受け取ると、次は非礼を詫び素直に評する。
心の滓がとれたのか、キャッチボールが加速する。
そんなこんなを幾度くりかえしたことか・・・
それからは、色々と言葉を交わし、時間を重ね、
公私問わず、酒を介して互いを解す日々を続けた。
気がつけばそんな生活も十余年を経て、いくばくかの酒の
知識と、時折言葉を交わす酒食を心から楽しむ同胞諸兄と、
相変わらず心地よいサービスを提供してくれるバーテンダーのM。
この関係こそが私を酒呑みたらしめている最大の要因なのかもしれない。

