遅くなって私は家路についている。しかし今日の町はどこかおかしい。ふだんなら夜中でもこうこうと明るい街中なのに、どこもかしこも薄暗くで、人っ子ひとり歩いていない。たとえ闇の中でもなんらかの明かりは見えるはずなのに、まったく光というものがなく、かといって真っ暗でもない、淀んだようなダークグレイの闇なのだ。まるで濃い黒い霧に被われているか、暗い色のガスでもこもっているみたい。
 私は本能的にこれは何か邪悪なものだと気づき、こういう日に外に出ていてはまずい、早く家に帰らなければと思ってスピードを上げるが、なにしろどっちを向いても同じ黒々としたものが渦巻いていて、もうどこが道なのかもはっきりしないし、自分がどっちを向いているのかもわからない。
 という出だしはかっこよかったのに、しばらく行ったらこの霧は雲散霧消してしまった。

北京の現在の姿ですね。