さて、しめじもブログとやらに手を出してみたいと思います。
本当は1月1日から始めようと準備をしていたのですが……
年明け早々流行り病(インフルなんたら)にかかりました(^^;)
やったー(T.T)
おかげで3年ぶりに実家(香川)に帰ったのに、ほとんど寝てすごし、うどんしか食べられませんでした(美味かった)。
しめじブログでは、小説のネタになることを書き留めていきたいと思っています。それは書籍のレビューであったり、一日のできごとだったり、思いつきだったり、色々になるかと思います。
目的は明確に。これは何事においても重要です。今回はブログの目的を明確にしてみました。
これで終わるのも寂しいので、小説のネタになるような本の紹介。
しめじの大好きな安部公房の短編集『水中都市・デンドロカカリヤ』から『詩人の生涯』を紹介します。
「ユーキッタン、ユーキッタンと三十九歳の老婆は油ですきとおるように黒くなった糸車を、朝早くから夜ふけまで、ただでさえ短い睡眠時間をいっそう切りつめて、人間の皮をかぶった機械のように踏み続ける」
という始まりで物語は始まる。若い老婆には老けた39歳の息子がいて(夫婦だと考えられる)、彼は働いていた工場を不当に解雇され、抗議文をばら撒く闘志だった。そんなプレタリアートの物語。
彼らは貧しかった。貧しさは命をすり減らし、糸織りを続けていた若い老婆はついに自分が糸になってしまう。
その糸を隣の女工が取りに来た。ジャケットにするのだ。
「それを持っていかれては困る気がする」
老けた息子は女に訴えるが、聞き入る余地はない。糸はジャケットになり、路傍で売られる。それはとても寒い冬。ジャケットを欲しがる人たちはたくさんいたが、誰もが貧しかった。
「人は貧しさのために貧しくなる」
そんな不条理な貧しさが支配している世界。いまや倉庫の中は売れないジャケットであふれていた。ジャケット業者は考える。なぜジャケットが売れないのか? いっそ戦争でもして外国にうりつけるか……
「気象学の法則に加えて、以上のような一切が、内と外の両側から夢と魂と願望の雲を冷却させ、それらは凍って結晶した。ある日それは雪になって降りはじめた」
「液体空気」よりも冷たい雪は町全体に降り出し、全てを凍らせていく。凍らなかったのは、外国製のジャケットを着ている人間たち。かれらブルジョワ達は雪を防ぐ立派な家を持っていた。
しかし、労働者のいなくなった世界ではブルジョワも力を持たない。石炭は底をつき、ついに全てのものが凍りついた。
「こうして、今ではほとんどありとあらゆる生物が凍りついてしまったはずなのに、不思議に一匹の鼠だけが以前と変わらぬ生活をつづけていた」
それは老婆のジャケットがしまわれてある倉庫のネズミだった。ネズミは巣の材料にするべく、老婆のジャケットを噛み切る。すると突然ジャケットから血が流れ出した。ネズミの歯が老婆の心臓にあったのだ。ジャケットは自分の血で真っ赤に染まる。そしてひとりでに空へと舞い上がった。
「老婆のジャケツは、やがて一人の青年を雪の中に探し当てる工場の門のわきで、小脇いっぱいにビラをかかえ、出てくるものに手渡そうとする姿勢のまま凍りついていた、彼女の息子の前に」
赤いジャケットは、息子の体をすっぽりと包み込む。まばたきをして、自分のきている赤いジャケットを見る。突然彼は自分が詩人であることに気づいた。
「貧しいものの言葉は、大きく、複雑で、美しく、しかも無機的に簡潔であり、幾何学のように合理的だ。貧しいものの魂だけが、結晶しうるのは当然のことだ」
彼は貧しいものの魂である雪の言葉を目で聞き、言葉を書きとめた。「ジャケツ、ジャケツ」と雪は彼に訴えて消えていく。意味を持った雪はやがて消え去り、春が来た。動き出した人々はみな一様に「ジャケツ」と呟き、微笑みあう。
やがて持ち主のいなくなった多くの倉庫からジャケットが運び出され、町中ジャケット来た人々であふれかえる。喜びと力にあふれた讃歌が広場を埋め尽くし、雪は消え、彼の仕事も終わる。
「彼は完成した詩集の最後の頁を閉じた」
詩集の最後の頁に吸い込まれて物語は終わる。
絶対的な美しさをもつ水分子の結晶。その力強く、繊細で、ほころびやすい性質をプロレタリアートの中に安部公房は見出したのではないでしょうか。
また、息子は老婆との結合により真の詩人となり、行動を完遂しています。この図式は、言葉だけでなく老婆の貧しさによる死を受け止めたことにより、言葉に普遍性と美しさを帯びることができたと解釈できるのではないでしょうか。
この作品は、安部公房の作品の中で一番ロマンティックな作品だと思います。結構レトリックに力が入っていて、後半の詩人になる辺りから危ないほどに攻めてきます。
実は、しめじはこの作品が1番好きです。2番目は『砂の女』3番目は『人間そっくり』です。
ぜひみなさん機会があれば読んでみてください。この短編集に入っている作品はどれも良いものばかりなので。『水中都市』など、「ショウチュウを飲みすぎると、人間は必ず魚類に変化するんだ。現におれのおやじも、おれの見ている前で魚になった」なんていう刺激的な会話が出てきます。シュール好きにはかなりお勧めな一冊です。