2011年07月

2011年07月30日

マイセンの花のカテゴリー その6 「FFブルーメ」後編  FF-blume FF-Bukett

前回のブログで「FFブルーメ」の正式な名称を
「M.S.メーリアンの銅版画を手本とした最上級の花の絵」
と書きました。
M.S.メーリアンとは17世紀に活躍した女性画家であり、自然科
学者です。子供の頃から昆虫が大好きだった彼女は、虫は土の中
から自然にわいてくると考えられていた当時、昆虫を詳細に観察し、
その生態を図鑑として著しました。この図鑑はドイツの貴族や知識
階級に高く評価されました。

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写真1)  図鑑とイラスト

M.S.メーリアンの業績についてここで詳しく触れている余裕は
ありませんが、特にドイツでは旧ドイツマルクの紙幣になるほど
有名な人物です。

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写真2) ドイツの旧500マルク紙幣 
Anna Maria Sibylla Merian
アンナ・マリア・ジビーラ・メーリアン(1647-1717)

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写真3)メーリアンのイラスト  銅版画

写真3)は彼女のイラストですが、蝶や蛾が芋虫から蛹になり
羽化して成虫になるのまでの様子が詳細に描かれています。
どくにドイツ語で著された『ヨーロッパ産鱗翅類‐その変態と食草』
はマイセンの絵付けにも大きな影響を与えた図鑑です。

マイセンにおける「FFブルーメ」の花絵付けも、常に昆虫と関りを
もって描かれます。よく「どうして食器に蛾を描くのですか?」など
と質問を受けますが、「FFブルーメ」はメーリアンのこうした伝統
をきちんと受け継いでいる結果なのです。

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写真4) マイセン「FFブルーメ」 デミタスカップの裏側の絵付け

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写真5)メーリアンのイラスト  

「FFブルーメ」のもうひとつの大きな特徴は、銅版画の繊細な
線描を磁器絵付けで表現している事です。ご存知のように銅版画
はビュランという小刀のような工具で銅板を彫ってゆくのですが、
本当にシャープな線でモチーフを表現してゆきます。
磁器絵付けにおいては、当然この線を「筆」で描いてゆくのですが、
こうした表現がいかに技巧と熟練を要するかは、作品を見れば
すぐにご理解頂けると思います。

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写真6) 彩色前に銅版画   メーリアンの図鑑より

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写真7)「FFブルーメ」 マイセン ソーサー  1965年頃

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写真8)「FFブルーメ」 マイセン カップ正面の絵付け 1965年頃

写真7)8)ではマイセンの「FFブルーメ」による線描をお見せした
かったのですが、画像で上手く表現できているでしょうか?
写真はそうとう拡大してありますが、これらがいかにすごい絵付け
かは画像でも伝わってくると思います。

「M.S.メーリアンの銅版画を手本とした最上級の花の絵」の特徴
をまとめると以下のようになります。

a) M.S.メーリアンの版画を手本とする
b) ヨーロッパのフローラである
c〉 花は華麗な花束で描かれ、常に蝶や蛾その他の昆虫と結びつ
   けられて表現される
d) 非常に精選された花絵の形態である
e)   混ぜ合わせた絵の具が用いられ、渋い発色である


愛好家や磁器絵付け関係の方から熱心なご質問を頂いております。
この場をお借りして感謝したく思います。

「マイセンの花のカテゴリー」の解説はどうしても固くなってしまい、
ちょっと夏バテ気味なので、読者の方には申し訳ございませんが、
ここでちょっと休止します。また時機を見て再開しようと思います
ので、どうぞご容赦下さい。


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2011年07月28日

マイセンの花のカテゴリー その6 「FFブルーメ」前編  FF-blume FF-Bukett

今回は「FFブルーメ FF-Blumenmalerei」について解説します。
「FFブルーメ」や「FFブーケ」というカテゴリーは、マイセンにおける
「最上級の花絵」という意味で使われます。
ブルーメというのは花という意味ですが、FFというのは何でしょう。
ドイツ語で、Effeff(俗)=FFは立派であるという意味があります。
また英語のFinest of Fine=最高の中の最高という意味である説
もあります。またドイツ語のFeinは精緻なという意味ですので、これ
にも関係するのかもしれません。
いずれにしても最高級を意味する語なので、「最上級の花の絵」と
訳されます。

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写真1)「FFブーケ」 マイセンの公式カタログより

「FFブルーメ」と聞いて、写真1)の花絵付けを思い起こす人は
多いでしょう。これはもちろん正しいのですが、それでは写真2)を
見て下さい。

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写真2)「FFブルーメ」 マイセンの公式タログより

この花絵にも「FFブルーメ」とあるのがお分かりでしょうか?
多くの愛好家は写真1)だけが「FFブルーメ」と勘違いしていま
すが、「FFブルーメ」は単に「最高級の花絵付け」を意味している
だけで、花絵付けのカテゴリーではないのです。つまりマイセンに
おいて最高級の技術で描かれる花絵を示しているだけで、一定の
花絵付けを示す用語ではありません。ここはよく間違えられる処で、
専門家でも誤解している事が多いのです。

では写真1)の花絵は正確にはどう呼ぶのでしょう。
「M.S.メーリアンの銅版画を手本とした最上級の花の絵」と言い
ます。ちなみに写真2)は「アムステルダム芸術の様式で描かれた
最上級の花の絵」です。(アムステルダム様式は、自然主義様式
の花の絵と関係が深いので、ここでは触れません)

ただ、現在では1)の花絵が「FFブルーメ」ということで一般的にな
ってしまっています。当ブログでこれを否定するものではありません
が、しかし、マイセンの花絵付けをきちんと研究するのには、上の
記述はきちんと押さえておかねばならない事は言うまでもありません。


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写真3)「メーリアンの銅版画による最上級の絵付け」1965年頃

それでは実際に「FFブルーメ」の絵付けを見て頂きましょう。
銅版画の精緻な線描や古典的な渋い発色など、マイセンにおける
最も高品質な絵であることが理解できます。価格も驚くようなもので、
日本ではデミタスC&S一客で約80万円もします。

この項は次回に続けます。


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2011年07月18日

マイセンの花のカテゴリー その5  「ドイツの花の絵」

マイセンの花の様式 版画を手本とする花 「ドイツ花の絵」

今回は「版画を手本とする花」のバリエーションの中から
「ドイツの花の絵」を解説します。
「ドイツの花」の概念はとても難しいものです。マイセンの花の絵
のチャートで示したように、あくまで「版画と手本とする花」の3つの
バリエーションのひとつであり、他の2つの花絵とも微妙に関連して
いるのです。また、「様式化された花絵」とも共通性があり、「ドイツ
花」の概念は非常に曖昧なものとも言えるのです。

以下の解説はマイセンの公式な論評に基づき、私自身の下した解釈
であるという事を再度ご確認ください。

「ドイツの花」という表現は色々なところで使われます。マイセン以外
特にドイツ国外で所謂マイセン風の花を描く時には「ドイツの花絵」
とか「ザクセンの花絵」などという表現が使われます。しかし、これは
広い意味での表現であり、マイセンの花絵付けを分類する時には
あくまでカテゴリーのひとつです。この辺がごちゃ混ぜなので、分かり
にくい原因のなっているのでしょう。

前回 その4では「乾燥した花」について解説しましたが、これは一種
類の花が単独で描かれているのが特徴のひとつでした(これはカット
フラワーとも呼ばれます)。しかし、すぐにこれらのカットフラワーは
数種類が集まって描かれるようになります。写真で具体的に見てい
きましょう。

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写真1) 「ドイツの花の絵」マイセン ソーサー1740年頃 在庫作品

バラ、アイリスともう一種の三種類のカットフラワーがまとまって描
かれています。しかし、これらは「ブーケ花束」として構成されている
訳ではなく、まだ構図としてはまだまだ稚拙なものです。しかし「乾燥
した花絵」の精緻な線描や色彩はそのまま踏襲されており、絵付け
技術のレベルは非常に高かった事がはっきりと認識できます。

さらに下の写真を見てみましょう。

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写真2) 「ドイツの花」  プレート 1745年頃  当店在庫作品より

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写真3) 「ドイツの花」 同プレート 1745年頃  当店在庫作品より

写真2)3)は同一作品に描かれた花絵です。描法的には
写真1)と同じですが、構図は大きく進歩して「ブーケ 花束」と
してのまとまりを見せています。単にカットフラワーを寄せ集めた
のではなく、明らかに花々をブーケとしての構図でみせようとする
絵付け師たちの意図があります。

さらに進歩した「ドイツの花」を見ます。
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写真4) 「ドイツの花」 プレート  1750年頃   当店在庫作品より

この辺までくると、後にマイセン花絵の定番として位置することに
なる「様式化された花の絵」に近くなります。メインの花やS字構図
なども形成されつつあります。しかし、ブーケとしての完成度はまだ
今一歩で、なんとなく散漫な感じを受けます。

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写真5) マイセン プレート「ドイツの花」全体像1750年頃 在庫より

花の描法も一部銅版画の線描は残しているものの、筆のグラデー
ションを生かした磁器絵付け独自の描法になっている事にご注目
ください。

こうしてみてくると、「ドイツの花」の範疇はとても広く、私の意見では、
「乾燥した花」のカットフラワーがやがて花の集まりとして表現され、
さらに「様式化された花」に至る前の過渡的な花絵付けを、「ドイツの
花」と定義してよいと思います。従って、「ドイツの花」は、単なる花の
集合体や均整のとれた花束まで幅広い構図で描かれますが、これら
にきっちりとした規則性は認めらないのです。

「ドイツの花の絵」の定義は次のようになります。

a) 版画を手本とする
b) ヨーロッパのフローラである
c) 1745年頃から発達した過渡的な花絵付けである
d) 「乾燥した花」で見られたような影は、もはや省略され存在しない
e) 花の形状は種類によって異なっており、花の集合体として描
  かれるが「様式化された花」にみられるようなブーケではなく、
  構図に厳密な規則がある訳ではない
f) 混合された絵の具が使われ、渋い発色である
g) 銅版画の精緻な線描は一部残しているが、すでにグラデーション
  を使っ.た磁器絵付け独自の描法が現われている

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写真6) 染付けによる「ドイツの花」1745年頃
      H.Sonntagの書籍より

注意すべき事は、この頃にはマイセンでブルーの下絵付け(染付け)
の製品が多く作られたため、「ドイツの花」を染付けで作る例も多く、
上の写真のような作例も「ドイツの花」として扱われています。
染付が、銅版画の精緻な線描に向かないことは明らかです。

私見では、構図的に本例はかなり「様式化された花」に近づいてい
ます。しかし、確かに、これを「様式化された花」とは呼べず、この
辺に「ドイツの花」の曖昧さがあるのです。


次回では「FFブルーメ」について解説しましょう。
実はこれも、間違った認識で理解されている事が多く、専門家の間で
さえも誤解されているマイセンの花のカテゴリーなのです。


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2011年07月12日

マイセンの花のカテゴリー その4  「乾燥した花の絵」

マイセンの花の様式 版画を手本とする花 「乾燥した花の絵」

「版画を手本とする花」を手本とする花には3つのバリエーションが
あります。今回はその中から「乾燥した花の絵」を解説します。

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写真1) 「乾燥した花の絵」の例 マイセン 1735年頃 当店在庫

「Trockene Blumenmalerei」の訳については、これを意訳して
「版画を手本とした花」とする説もあるそうですが、本ブログではダイ
レクトに「乾燥した花の絵」と訳す事にします。乾燥した花の絵の
由来ですが、木版画や銅版画を写した花絵は、後年に完成された
マイセンフラワーと比べると、平面的で乾いた感じに見えるので、
この名が付けられました。

もう少し具体的に写真で見てましょう。

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写真2) 「様式化された花の絵」 チューリップ マイセン 1925年頃

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写真3) 「乾燥した花の絵」 チューリップ マイセン 1735年頃

いかがでしょうか?写真2)の生き生きした動きのある絵と違って、
写真3)は乾燥しているように見えませんか?しかし、写真2)の
チューリップは実は多分にイメージ的なものであり、実際に観察す
ると写真3)の方が実体に近かったりします。これは「乾燥した花の
絵」が植物図鑑の版画にに範を取っているからに他なりません。


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写真4)「乾燥した花の絵」  マイセン  1735年頃

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写真4)植物図鑑の図版 銅版画 ヴァインマンの植物図鑑より

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写真5) 「乾燥した花の絵」  マイセン 1735年頃

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写真6)植物図鑑の図版  銅版画 ヴァインマンの植物図鑑より

写真4)6)は書籍からの写真で銅版画を撮影したものではありませ
んので、詳細な線描等は確認できないかもしれませんが、「乾燥した
花の絵」が図鑑を源にしているのがよく把握できると思います。


「乾燥した花の絵」特徴は以下のようなものです。

a) 植物図鑑などの銅版画や木版画を手本にする
b) ヨーロッパの花絵付けである
c) 1732年頃から発達したマイセン最古の花絵の様式である
d )しばしは花や昆虫に影が付けられている
e) 花は単独で描かれ、昆虫など共に周囲にも散らされている
 f) 混合された絵の具で描かれ、渋い発色である
g) 乾燥した花という名称は、版画の形状や描写からくるものである
  これらは学術的な見地からの植物を正確に描写しようとしたもの
  であり、植物の生命感や美しさを追求するような芸術的な表現
  ではない
h) 銅版画の精緻な線描は、磁器絵付けにもとりいれられている


花は単体で描かれている事にご注目ください。植物を同定するため
の図鑑ですから、多くの花がまとまって描かれる事はありません。
「乾燥した花の絵」は単体で描かれているのが特徴です。単体の
花は「カットフラワー」などと呼ばれる事もあります。

次回は「版画を手本とする花」から「ドイツの花」を紹介します。



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2011年07月08日

マイセンの花のカテゴリー その3   版画を手本とする花

今回はマイセンの「版画を手本とする花」を取り上げます。

前回のチャートで見ていただいたように、「版画を手本とする花」
はマイセンの花絵付けの原型といえる様式です。
開窯当時から1735年頃まで、マイセンでの絵付けは専ら東洋風の
「ヘロルトシノワズリー」や「柿右衛門」などの絵付けが主流でした。
流行が変わっていくにつれ、次第に、西洋風の絵付けが求められる
ようになりますが、その頃はまだ絵付け師たちが自分でデザインする
という事はありませんでした。絵付け師は芸術家ではなく、あくまで
職人だったのです。

そこで、花を描くに当って範を求めるわけですが、これが植物図鑑
でした。植物図鑑は当時の教養であり、知識階級の間で流行してい
ました。そして、未だ花を描いた事のないマイセンの絵付け師たちに
とってはまたとない手本でした。マイセンではヴァインマンやメーリ
アンの著になる植物図鑑が手本になりました。
この頃の図鑑は銅版画や木版画で刷られていました。
マイセンの絵付け師たちは、版画特有の線描までも、生真面目に
磁器へ写しました。これこそがマイセンの花絵の始まりです。

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写真1)版画を手本とする花の絵  1735年頃

マイセンにおける、記念すべき最初の花絵にしては本当に地味です。
アブやアリなどの昆虫も、当時の図鑑を踏襲してそのまま描かれ
ているのにご注目ください。現在のあでやかなマイセンフラワーと比
べると、同じ窯のものとは思えないくらいです。


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写真2)マイセンフラワー(様式化された花の絵) 1925年頃

写真2)は完全に様式化されたマイセンフラワーの例ですが、磁器
装飾として完璧な調和を見せています。マイセン伝統の花絵付け
であり、将来に渡っても変わらず受け継がれてゆく文化と考えてい
ます。

「版画を手本とする花の絵」には幾つかのバリエーションがありま
す。次回ではこれを見てゆきますが、こうした分類はあくまで20世紀
に入ってからの学術的見地であり、実際のバリエーションはお互いに
はっきり区別できるほどには際立っていないのです。


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