July 02, 2005
バイパス手術と認知機能の続きー田中先生のコメントから
バイパス手術と認知機能に田中先生がポストして下さったコメントへの回答です。(長くなってしまったコメントととしてポストできないのでこちらへ書き込みます。)
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そうですね、患者本人とご家族には検査の趣旨は必ず説明します。
特に高齢者の場合に、いくらかの認知機能の低下があると思われる場合にはバイパス手術に限らず手術を受ける前に認知機能の低下を検査することがあります。また、年齢に関わらず中枢神経/血管関連の手術だと術前、術後の検査が望ましいです。また手術が絶対的なものではなく治療の選択肢としてのひとつの場合には予後の事を考慮して認知機能の低下が顕著な場合には手術ではなく他の治療方法にしたほうが望ましいこともあります。
さらに、術前の認知機能の検査が有無に関わらず、術後の認知機能の様子がおかしいと多くの場合は認知機能の検査を時間をあけて何回かしてその回復状況を観察することもあります。術後の検査は手術自体がどういう状況であったのか(特に酸素のsaturationの状態など)十分な情報を得ておく必要があります。
いずれにせよ大きな手術の場合はいろいろなリスクがありますが、そのひとつとして(直接的にに中枢神経/血管に関連した手術であるにしろないにしろ)認知機能の低下ということがあります。
神経心理の検査が特別な検査ではないということがよく分かりますよね。神経心理の検査がもっと有効にそして頻繁に医療で使われていって欲しいと思います。
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そうですね、患者本人とご家族には検査の趣旨は必ず説明します。
特に高齢者の場合に、いくらかの認知機能の低下があると思われる場合にはバイパス手術に限らず手術を受ける前に認知機能の低下を検査することがあります。また、年齢に関わらず中枢神経/血管関連の手術だと術前、術後の検査が望ましいです。また手術が絶対的なものではなく治療の選択肢としてのひとつの場合には予後の事を考慮して認知機能の低下が顕著な場合には手術ではなく他の治療方法にしたほうが望ましいこともあります。
さらに、術前の認知機能の検査が有無に関わらず、術後の認知機能の様子がおかしいと多くの場合は認知機能の検査を時間をあけて何回かしてその回復状況を観察することもあります。術後の検査は手術自体がどういう状況であったのか(特に酸素のsaturationの状態など)十分な情報を得ておく必要があります。
いずれにせよ大きな手術の場合はいろいろなリスクがありますが、そのひとつとして(直接的にに中枢神経/血管に関連した手術であるにしろないにしろ)認知機能の低下ということがあります。
神経心理の検査が特別な検査ではないということがよく分かりますよね。神経心理の検査がもっと有効にそして頻繁に医療で使われていって欲しいと思います。
June 14, 2005
バイパス手術と認知機能
一般病棟でさまざまな患者を見ている専門家は必ず感じることだが、患者が(特に中年以降)大きな手術を受けた後に術前と比べると認知機能に変化があることが多々ある。特に記憶力や注意力/集中力に低下が見られる。とくに手術上問題がないと、私達はまず麻酔の影響や低酸素の事実がなかったかなどを疑いがちである。低酸素症/無酸素症、つまり酸素が脳に届く量が極端に少なかったり、届かなかった時間があるといったことは特に海馬が敏感である。つまり、記憶を司っている海馬の機能に影響がすぐ現れ、それが神経心理の検査上でも顕著に現れる。しかし、Keith et al. (2002)によるNeuropsychologyに載っているAssessing postoperative cognitive change after cardioplumonary bypass surgery (バイパス(CBP surgery)術後の認知機能の変化について)の文献にも書かれているようにバイパス手術により脳はさまざまなリスクにさらされることになる。低酸素症/無酸素症以外にも低体温、血糖値の上昇、炎症、マイクロレベルの血液凝固、健忘症を引き起こす薬物の使用などで認知機能に変化を起こす可能性のある危険因子はいくらでもある。そして、Keith達はこれまでされてきた研究よりも厳密にデータを解析し、実際に健常者とバイパス患者との術前、術後の認知機能の違いについて明らかにした。私が思うキーポイントは彼らの考察にあると思う。考察で彼らはこういったバイパスの手術以外の手術でもこういった認知機能の変化が観察されると述べ、こういった認知機能の変化についてさらなる研究が必要だと主張している。つまり、どんな要因が術前、術後の認知機能の変化をもたらすかということへのさらなる解明の重要性について言及しているのである。
私もいくつかのリハ病棟で臨床をしていたときに人工股関節手術(hip replacement)や人工膝関節手術(knee replacement)などで入院してきた高齢の患者が術後認知機能の顕著な低下があるケースに何度となく遭遇した。股関節、膝関節など脳とはほど遠い場所にあり、中枢神経とは無関係とも思える手術が認知機能の低下を引き起こすのだ。こういった場合、患者に関わっているチーム(医師、作業療法士、理学療法士、看護師、そしてneuropsychologist)でさまざまな意見が飛び交う。低酸素症だったのではないか?(つまりはカルテを調べてその事実を確認する必要がある)もともと認知機能の低下、認知症の走りのようなものがあったのではないか?鬱ではないか?手術の際の麻酔のせいではないか?などなど、、、数えたら切りがないほどの原因を挙げることができる。原因究明ももちろん重要だが、認知機能がどれだけ低下しているかの客観的な把握とそれらが日常生活に与える影響を検討することが患者自身とそしてその家族に一番の利益になるだろう。また術後の時間の経過とともにさらに変化する認知機能のモニターも同じ理由で重要である。
私もいくつかのリハ病棟で臨床をしていたときに人工股関節手術(hip replacement)や人工膝関節手術(knee replacement)などで入院してきた高齢の患者が術後認知機能の顕著な低下があるケースに何度となく遭遇した。股関節、膝関節など脳とはほど遠い場所にあり、中枢神経とは無関係とも思える手術が認知機能の低下を引き起こすのだ。こういった場合、患者に関わっているチーム(医師、作業療法士、理学療法士、看護師、そしてneuropsychologist)でさまざまな意見が飛び交う。低酸素症だったのではないか?(つまりはカルテを調べてその事実を確認する必要がある)もともと認知機能の低下、認知症の走りのようなものがあったのではないか?鬱ではないか?手術の際の麻酔のせいではないか?などなど、、、数えたら切りがないほどの原因を挙げることができる。原因究明ももちろん重要だが、認知機能がどれだけ低下しているかの客観的な把握とそれらが日常生活に与える影響を検討することが患者自身とそしてその家族に一番の利益になるだろう。また術後の時間の経過とともにさらに変化する認知機能のモニターも同じ理由で重要である。
June 05, 2005
高齢化社会と認知症
高齢化社会の問題のひとつとして認知症がこれまで以上に深刻な問題になるであろう。これまで認知症が一部の専門家(神経内科医、老年科医、精神科医)によって扱われてきたが、今後はそれ以外の医療従事者も積極的にかかわっていくべき分野だということは間違いない。少し前までは認知症の診断/治療ではアルツハイマー病とその他の原因が別にあり治療が可能な疾患の区別が主であった。しかし、現在は研究も進みアルツハイマー病と脳血管性認知症が全く別のものではなく深い関係にあること、認知症の前段階とも言える(Mild Cognitive Impairment−MCI)という状態を早く見つけ出すこと、アルツハイマー病の認知的症状の進行を柔和する投薬治療の有効性などさまざまなことが分かってきている。そのためにいかに早くMCIを見つけ出し、その原因を予測して介入する重要性が注目されている。
2001年のAmerican Family Physicianの記事“Early Diagnosis of Dementia(Santacruz&Swagerty)でも一般の家庭医向けにこれらのことが書かれている。ここでも書かれているが、重要なのは認知機能の把握はもちろん、家族の報告、患者の日常生活上の機能的な変化、そして精神機能的変化にも耳を傾けることが重要だということだ。そこから正常範囲の老化とMCIを見分けることや何が原因の認知症かということ探り出すことが重要である。
このプロセスに神経心理学的評価が重要な役割を果たすことは容易に理解できるだろう。神経心理学的評価によってどんな認知機能がどれだけ下がっているかということが分かるだけではなく、その認知機能の低下の原因を予測することも可能である。残念ながら、神経心理学的評価の重要性はあまり一般医には知られていないが、今後このような評価が医療の一般的なサービスとして使われることを願う。一般医こそ患者が最初に診察を受ける場所であるのだから、そのフロントラインで患者のわずかな認知機能の変化がキャッチされると早期の介入が可能なわけである。
2001年のAmerican Family Physicianの記事“Early Diagnosis of Dementia(Santacruz&Swagerty)でも一般の家庭医向けにこれらのことが書かれている。ここでも書かれているが、重要なのは認知機能の把握はもちろん、家族の報告、患者の日常生活上の機能的な変化、そして精神機能的変化にも耳を傾けることが重要だということだ。そこから正常範囲の老化とMCIを見分けることや何が原因の認知症かということ探り出すことが重要である。
このプロセスに神経心理学的評価が重要な役割を果たすことは容易に理解できるだろう。神経心理学的評価によってどんな認知機能がどれだけ下がっているかということが分かるだけではなく、その認知機能の低下の原因を予測することも可能である。残念ながら、神経心理学的評価の重要性はあまり一般医には知られていないが、今後このような評価が医療の一般的なサービスとして使われることを願う。一般医こそ患者が最初に診察を受ける場所であるのだから、そのフロントラインで患者のわずかな認知機能の変化がキャッチされると早期の介入が可能なわけである。
June 04, 2005
神経心理学的評価って?
神経心理学の専門家は臨床現場では専門分野として神経心理学的評価(または高次脳機能評価とか認知機能の評価とも呼ぶ。)をする立場にあるが、では神経心理学的評価とは何のために行われるのか?その疑問にクローズアップしよう。
Essentials of Neuropsychological Assessment (Hebben&Milberg, 2002)より、、、
神経心理学的評価の目的は少なくとも7つの違った目的で使われる。
1. 認知機能、行動、感情といった心理学的な観点から見た機能の変化の確認と説明。
2. 評価の結果と生物学的/器質的原因との関連性:中枢神経へのダメージの有無の確認、大きさ、そしてそのダメージの場所の予測。
3. 評価の結果が神経内科的疾患、精神的疾患、発達上の疾患、またはそれ以外のなんらかの疾患とどう関係してるのかの解釈。
4. 認知機能の変化の検討、そして予後の予測。
5. リハビリのためのガイドラインの作成や就業や教育への助言。
6. 家族や介護者へのガイドラインの作成や教育。
7. 退院の計画やその後の治療/介入計画。
このように神経心理学的評価にさまざまな使い道があることが分かる。もちろんこのような目的を達成するために専門家としての知識、技術が問われることは当然だが、評価の結果を以下に分かりやすく平たい言葉で神経心理学を専門にしていない専門家、患者本人、そして、患者の家族に伝えるといったコミュニケーションスキルも重要である。
Essentials of Neuropsychological Assessment (Hebben&Milberg, 2002)より、、、
神経心理学的評価の目的は少なくとも7つの違った目的で使われる。
1. 認知機能、行動、感情といった心理学的な観点から見た機能の変化の確認と説明。
2. 評価の結果と生物学的/器質的原因との関連性:中枢神経へのダメージの有無の確認、大きさ、そしてそのダメージの場所の予測。
3. 評価の結果が神経内科的疾患、精神的疾患、発達上の疾患、またはそれ以外のなんらかの疾患とどう関係してるのかの解釈。
4. 認知機能の変化の検討、そして予後の予測。
5. リハビリのためのガイドラインの作成や就業や教育への助言。
6. 家族や介護者へのガイドラインの作成や教育。
7. 退院の計画やその後の治療/介入計画。
このように神経心理学的評価にさまざまな使い道があることが分かる。もちろんこのような目的を達成するために専門家としての知識、技術が問われることは当然だが、評価の結果を以下に分かりやすく平たい言葉で神経心理学を専門にしていない専門家、患者本人、そして、患者の家族に伝えるといったコミュニケーションスキルも重要である。
June 01, 2005
NEUROPSYCHOLOGIST(神経心理学の専門家)とは?
米国では臨床における神経心理学が独立した分野として確立されたのは1940年代だそうだ。もともと神経内科学と心理学から発達した分野で、そのアイデンティティーは心理学にある。Neuropsychologistは心と行動の関係、そして脳と行動の関係の専門家という多きな二つの柱の上に成り立っている。ここに米国の臨床神経心理学の学会のNational Academy of Neuropsychology (NAN)(Hannay et al. 1998) による “Clinical Neuropsychologist” の定義をここに挙げてみる。
A clinical neuropsychologist is a professional within the field of psychology with special expertise in the applied science of brain-behavior relationships. Clinical neuropsychologists use this knowledge in the assessment, diagnosis, treatment, and/or rehabilitation of patients across the lifespan with neurological, medical, neurodevelopment and psychiatric conditions, as well as other cognitive and learning disorders. The clinical neuropsychologist uses psychological, neurological, cognitive, behavioral, and physiological principles, techniques and tests to evaluate patients’ neurocognitive, behavioral, and emotional strengths and weaknesses and these relationships to normal and abnormal central nervous system functioning. The clinical neuropsychologist uses this information and information provided by other medical/healthcare providers to identify and diagnose neurobehavioral disorders, and plan and implement intervention strategies. The specialty of clinical neuropsychology is recognized by the American Psychological Association and the Canadian Psychological Association. Clinical neuropsychologists are independent practitioners (healthcare providers) of clinical neuropsychology and psychology.
(Neuropsychologistとは心理学の中でも脳と行動の関係の科学を専門にした臨床家である。Neuropsychologistはこれらの知識をアセスメント、診断、治療、リハビリなどを通して人の生涯を通しての神経性疾患、精神疾患、発達上の疾患などさまざまな疾患を扱うために使う。Neuropsychologistは心理学、神経内科学、認知行動学、そして生物学的な考えやテクニックを使い、患者の高次脳機能、行動、心理機能の評価、そしてこれらと中枢の機能との関係を評価する。さらに、評価の結果、病歴また周囲の医療専門家の情報を元に総合的に病気の診断を下したり治療計画を立てそれを行う。臨床神経心理の専門性はアメリカ心理学会とカナダ心理学会から認められ、さらにNeuropsychologistは独立した臨床家である。)
米国でNeuropsychologistは最低限Clinical Psychologistの免許を保有し、神経心理学のトレーニングを受けている専門家のことを指す。一見、非常に分かりにくいかもしれないが、米国ではNeuropsychologistになるためにはすでに確立したプログラムの形態があり、Neuropsychologistを目指すものは誰もが似たようなトレーニングを受けている。それはおそらく日本で医師を志すと医学部に進学して医学全般について学び、その後に自分の専門分野を決めその分野を極めるのとその形態は似ている。
A clinical neuropsychologist is a professional within the field of psychology with special expertise in the applied science of brain-behavior relationships. Clinical neuropsychologists use this knowledge in the assessment, diagnosis, treatment, and/or rehabilitation of patients across the lifespan with neurological, medical, neurodevelopment and psychiatric conditions, as well as other cognitive and learning disorders. The clinical neuropsychologist uses psychological, neurological, cognitive, behavioral, and physiological principles, techniques and tests to evaluate patients’ neurocognitive, behavioral, and emotional strengths and weaknesses and these relationships to normal and abnormal central nervous system functioning. The clinical neuropsychologist uses this information and information provided by other medical/healthcare providers to identify and diagnose neurobehavioral disorders, and plan and implement intervention strategies. The specialty of clinical neuropsychology is recognized by the American Psychological Association and the Canadian Psychological Association. Clinical neuropsychologists are independent practitioners (healthcare providers) of clinical neuropsychology and psychology.
(Neuropsychologistとは心理学の中でも脳と行動の関係の科学を専門にした臨床家である。Neuropsychologistはこれらの知識をアセスメント、診断、治療、リハビリなどを通して人の生涯を通しての神経性疾患、精神疾患、発達上の疾患などさまざまな疾患を扱うために使う。Neuropsychologistは心理学、神経内科学、認知行動学、そして生物学的な考えやテクニックを使い、患者の高次脳機能、行動、心理機能の評価、そしてこれらと中枢の機能との関係を評価する。さらに、評価の結果、病歴また周囲の医療専門家の情報を元に総合的に病気の診断を下したり治療計画を立てそれを行う。臨床神経心理の専門性はアメリカ心理学会とカナダ心理学会から認められ、さらにNeuropsychologistは独立した臨床家である。)
米国でNeuropsychologistは最低限Clinical Psychologistの免許を保有し、神経心理学のトレーニングを受けている専門家のことを指す。一見、非常に分かりにくいかもしれないが、米国ではNeuropsychologistになるためにはすでに確立したプログラムの形態があり、Neuropsychologistを目指すものは誰もが似たようなトレーニングを受けている。それはおそらく日本で医師を志すと医学部に進学して医学全般について学び、その後に自分の専門分野を決めその分野を極めるのとその形態は似ている。