リンゴ・スターといえば、説明など不要なほど有名な、ビートルズのドラマーです。

私はビートルズが世界一好きなバンドなのですが、そのビートルズの中にあって、いまいち計り知れないリンゴ・スターについて、私なりに考えてみた事をつらつら書きます。


▼まずは昔からずっと言われ続けている事ですが、「ビートルズは世界一のバンドだけどドラマーのリンゴ・スターって本当に上手いの?」という疑問について。

私の回答は、上手いです。

別の記事でも書きましたが、ドラムという楽器は時代(機材)の変化によって、楽曲に対するアプローチと立ち位置がどんどん変わっていった楽器です。

今現在のドラムのテクニックに照らし合わせて、そこからリンゴ・スターのドラムプレイを解析すると、確かに物足りなさを感じるでしょう。

しかし、リンゴ・スターというドラマーは、誰よりも歌を愛し、バンドメンバーを愛したドラマーです。
ジョン・レノンがメインで歌うならばこう、ポール・マッカートニーがメインならこう、ジョージ・ハリスンなら...
というようなアプローチが随所に見られます。

言うなれば、リンゴ・スターのドラムは、歌を活かし曲を活かすドラムなのだと思います。

現代のテクニックありきで、それをどう使うかではなく、今の自分という人間(未熟なら未熟なまま)がフロントの彼らを活かすにはどうすれば良いかを思案した結果のドラムプレイです。

とはいえ、リンゴ・スターがテクニックなど全く無く、感性のみでビートルズに在籍していたかというと、そんな事は全くありません。

事実、リンゴ・スターはビートルズ加入前に既にプロドラマーとしてリバプールで活動していました。
それをビートルズに引き抜かれた形です。

以下は曲で解説してみます。


▼What Goes On
アルバムRubber Soulの8曲目のリンゴ・スターがメインボーカルの曲です。
他の方のリンゴ・スター擁護の記事でもよく教材に上がる曲です。

まずこのテンポのシャッフルは、力んでいては絶対に叩けません。
とは言え、リラックスしてこの曲に挑んでも、途中から力んでしまい脱落するでしょう。

単純にこのドラムをタイトに3分近く叩き続ける(しかも仮歌で歌いながら!)のも凄い事ですが、評価されるべきは、このリズムが完全に身体に入っていて、それを真っ直ぐに出せている事です。

人間は誰でもドラマーだというのが私の持論です。
何故なら人は既にそれぞれのリズムを持っているからなのですが、それをドラムで表すにはやはり苦労も伴います。

この曲のリズムがリンゴ・スターの身体に入っているのは、時代を考えると、近しいジャズ、ブルースが身近な時代だからと考えられますが、それをドラムで出せるのはまた別の話です。
どんだけ練習したんだ?!と思いますが、嘘か真かリンゴ・スターは練習嫌いだそうで...


▼Hello, Goodby
アルバムMagical Mystery Tourの7曲目。
ポール・マッカートニーがメインボーカルで、後半部分はリンゴ・スターのソロのようなドラムが楽しい曲です。

このソロのようなドラム、これが素晴らしいです。

フレージング的には、リンゴ・スターの手グセ全開なのですが、あれだけ手数(リンゴ・スターにしては)を入れても、全くボーカルの邪魔をしていないのです。

メロディの合間合間を縫うように出される音は、ボーカルを潰すどころか、むしろ弾みを与えています。

別の記事で一音の意味の大事さを書きましたが、その一音の意味の嵐です。
プレイしている時はそんな事は考えていないでしょう。
しかし、一音一音にバンド全員が反応して、音が交わり更に昇華されていくのを感じるには、最適な曲だと思います。

個人的にこの曲で一番好きなところは、「I Say Hello」とかぶる、ライドシンバルのチーンチーンです。


▼Birthday
アルバムThe Beatlesの2枚目1曲目の曲。
リンゴ・スターのそれいるのか?と言いたくなるようなドラムソロが入っているのが有名な曲です。

個人的にはこのドラムソロはリンゴ・スターの人柄と、バンドメンバー(特に横でタンバリン鳴らしまくって盛り上げてるポール・マッカートニー)の関係が見れて楽しいのですが、今回はそれではありません。

この曲の素晴らしいところは、曲のアタマのドラムの入りから次の2拍目のスネアまでの間。

この数秒で全てが決まった感は、さすがと言わざるを得ません。

ドラムの仕事の一つは、「アタマを取ってケツを締める」事にあります。
リンゴ・スターはこれが異常な程上手いのです。

具体的に言うと、「アタマを取る」というのは、その曲のそのテンポのそのノリの一番前で音を出す事。
「ケツを締める」というのは、定番のエイトビートであれば2、4拍目にあるスネアドラムの位置、これをその曲のそのテンポのそのノリのちょっと後に置く事。(一概には言えませんが、概ねこんな感じです)

更にリンゴ・スターはオカズのフレーズを入れる時は、決まって突っ込んで前に行きます。
そして1拍目でキッチリアタマを取って、スネアドラムで締めるのです。(この事がBirthdayという曲に詰まっています)

この事を理解した上でビートルズを聴くと、多分目から鱗が落ちる勢いで、聴く耳が変わると思います。


▼Used To Be Bad / Really Love You
ポール・マッカートニーのソロアルバム、Flaming Pieの9曲目と11曲目。
これは聴き比べて欲しい2曲です。

Used〜がポール・マッカートニーのドラム、Really〜がリンゴ・スターのドラム。
どちらもシンプルなエイトビートのドラムの曲ですが、そのリズムの取り方は全く違っています。

ポール・マッカートニーは、アコギを弾く時もそうですが、真面目にリズムを取ります。
誤解を恐れずに言うなら、8で取っています。

リンゴ・スターは、ラフです。音もリズムもラフです。
これも誤解を恐れずに言うなら、4で取っています。
しかし、Birthdayで触れた事柄は確実にこなしています。

この8と4、勿論どちらも16ありきなのですが、それはまたいつか機会があれば。

ポール・マッカートニーのドラムは、味のある良いドラムだと思います。
しかし、すぐ後にリンゴ・スターの方の曲を聴くと、ドラムの大切さが分かります。

何が違うのか?それはリンゴ・スターのドラムはやはり周りを活かすプレイなのです。
前へ前へと進む力、ベタなはずのエイトビートをまるでシャッフルのように感じさせるワクワク感。
それこそがリンゴ・スターが、今なお数々のプレイヤーから尊敬される所以だと思います。


さて、つらつら書きましたが、なんか一生書き続けてしまいそうなので、リンゴ・スターについてはまたいつか。

まあ、何が言いたいかっていうと、音楽はリズムからって事ですな。