2015年07月

うつむき、額に右手を押し当てる。一度は忘れようとした罪悪感が、急に胸の内を支配して、息が出来ないほどに苦しくなる。 「どうしたの?」 「……夢を、ときどき見るんだ」  話が見えないユールベルは、地面に手をついて身を乗り出し、不思議そうに下からじっと覗き込む。しかし、ジョシュは彼女を見ることができず、顔をそらして、額を押さえていた手で両目を覆った。ずっと隠してきたことを、あふれくる感情にのせて吐露する。 「場面はあのときの資料室で……だけど、ユールベルに跨がっているのは、レイモンドじゃなく俺で……」 「夢、でしょう?」  そう、現実ではなく夢である。だけど、それは自分自身が見せているもので――。 「何度も見るってことは、どこか俺の願望が入ってるのかもしれない」 「……もしかして、以前、私を避けていたのって、これが原因なの?」  訥々と紡がれる疑問に、ジョシュは顔を隠したまま。その夢を見るようになってからは、彼女への罪悪感と、自分に対する嫌悪感とで、まともに彼女と接することが出来なくなった。いや、彼女と接していい人間ではないように感じたのだ。 「そんなことだったなんて……」 「そんなことって、おまえ……」  半ば呆れたように溜息まじりに言われ、思わずジョシュは目を覆っていた手を外し、困惑ぎみに彼女を見下ろして言い返す。しかし彼女は淡々と続ける。 「夢を見ることと実際に行動を起こすことは違うわ」 「それは、そうだけど……」  ジョシュは複雑な表情で眉を寄せた。確かに現実と夢とでは重みが違うが、夢だからといって気にならないわけではないだろう。きっと嫌な思いをしているに違いない。 「言わなければわからなかったのに」 「……嫌な話を聞かせて悪かった」  ジョシュは彼女の前に膝を折って座り、うなだれるように頭を下げる。ユールベ

うつむき、額に右手を押し当てる。一度は忘れようとした罪悪感が、急に胸の内を支配して、息が出来ないほどに苦しくなる。 「どうしたの?」 「……夢を、ときどき見るんだ」  話が見えないユールベルは、地面に手をついて身を乗り出し、不思議そうに下からじっと覗き込む。しかし、ジョシュは彼女を見ることができず、顔をそらして、額を押さえていた手で両目を覆った。ずっと隠してきたことを、あふれくる感情にのせて吐露する。 「場面はあのときの資料室で……だけど、ユールベルに跨がっているのは、レイモンドじゃなく俺で……」 「夢、でしょう?」  そう、現実ではなく夢である。だけど、それは自分自身が見せているもので――。 「何度も見るってことは、どこか俺の願望が入ってるのかもしれない」 「……もしかして、以前、私を避けていたのって、これが原因なの?」  訥々と紡がれる疑問に、ジョシュは顔を隠したまま。その夢を見るようになってからは、彼女への罪悪感と、自分に対する嫌悪感とで、まともに彼女と接することが出来なくなった。いや、彼女と接していい人間ではないように感じたのだ。 「そんなことだったなんて……」 「そんなことって、おまえ……」  半ば呆れたように溜息まじりに言われ、思わずジョシュは目を覆っていた手を外し、困惑ぎみに彼女を見下ろして言い返す。しかし彼女は淡々と続ける。 「夢を見ることと実際に行動を起こすことは違うわ」 「それは、そうだけど……」  ジョシュは複雑な表情で眉を寄せた。確かに現実と夢とでは重みが違うが、夢だからといって気にならないわけではないだろう。きっと嫌な思いをしているに違いない。 「言わなければわからなかったのに」 「……嫌な話を聞かせて悪かった」  ジョシュは彼女の前に膝を折って座り、うなだれるように頭を下げる。ユールベ

査一課のフロアに向かっていると、背後からよく通る大きな声で呼びかけられた。その特徴的な声だけですぐに誰だかわかる。誠一は早足で近づいてきたその人物詩琳美容に振り返り、ぺこりと頭を下げた。
「岩松さん、急に休んですみませんでした」
「それは構わんが……おまえ、大丈夫なのか?」
 先輩刑事の岩松が、気遣わしげな眼差しで言葉を選びながら尋ねる。どうやら澪の誘拐にショックを受けて休んだと思っているようだ。同僚たちの中では、彼だけが誠一と澪の交際を知っているのである。
「大丈夫です」
 誠一はしっかりと答えてみせる。しかし、岩松は微妙な面持ちになった。
「おまえもわかっているとは思うが、半端な気持ちで出来る仕事じゃない。澪ちゃんのことでいつも通りの仕事が出来ないのなら帰った方がいい。責めているわけじゃないんだ。おまえ自身のためであり、俺たち仲間のためでもある」
「問題詩琳美容ありません」
「そうか……」
 完全には納得していないようだが、それ以上の追なかった。ただ疲れたように小さく吐息を落とすと、左手を腰に当て、右手で緩く頭を掻きながらぽつりと言う。
「澪ちゃん、無事だといいな」
「澪は大丈夫です、絶対に」
 誠一は自らに言い聞かせるようにそう答えた。岩松は頷き、たくましい大きな手で誠一の頭を撫でまわす。おかげで硬めの髪はぼさぼさになってしまった。いつもなら文句を言っているところだが、今はその手から伝わる仄かな温もりが有り難かった。

「誘拐じゃなくて駆け落ちなんじゃないですかね」
 扉を開けた途端、遠慮のない声が誠一の耳に飛び込んできた。同僚たちが簡単な昼食をとりながら歓談していたようだ。話題は今朝報道された澪の誘拐についてだろう。捜査一課の連中はほとんどが澪と顔見知りなので、他の事件よりも興味をひ詩琳美容かれるのは当然といえる。ただ、話の内容については飛躍しすぎと云わざるを得ない。
「確かに、腑に落ちない点は

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