神戸藩では、若様のお供をして城外へ出た家来の一人が、瀕死の重症で城に戻り、若殿が拐かされたと伝えた。
 折しも、城門に矢文が射込まれた。若君の命と引き換えに、三千両を亀山領地内の稲荷神社へ持参せよと記してあった。
 大勢の家来達が護衛につき、小判は駕籠で運ばれた。だが、稲荷神社には誰も居ず、小判は駕籠のまま置いて立ち去れ、若君は後日送り届けると書かれた文が、地面に突き立てられた矢に結ばれていた。
 家来達は、姿を見せない賊の手に、若君の命が握られているため、手も足も出せない状態で、仕方なく賊の指示に従った。

 三太たちを見張っていた賊が、手薄になった。どうやら、小判を運んできた神戸藩士達の様子を見届けるために幾人かがつけて行ったらしい。
 三太達を見張る仲間の中に新三郎が居たらしく、男達が次々に気を失って倒れた。その後、倒れた男の手足を蔓(つる)で縛ると、三太達三人の縄を解いた。
   「お前は…」
 若様が身構えた。
   「若様、大丈夫です、この男は賊に化けたわいの仲間です」
   「そうか、安心致した」
 今解いた縄で、新三郎は自分を縛れと三太に指示した。言われた通りに縛り上げると、縛られた賊は気を失しなって倒れた。
   「さあ三太、亀山城へ逃げ込もう」
 すぐ近くまで、山中鉄之進等が来ていた。駕籠の三千両は、賊の目から隠してくれるように山中に依頼して、三太と新平と神戸藩の若君は亀山城へ走った。

 神戸藩の若君が亀山城に着くと、すぐさま一騎の早馬が神戸城へ向けて走った。若君が無事に亀山城に匿われていることを知らされた神戸藩主は、直ちに小判を置いてに家来達を向わせた。

 一方、時は少々遡るが、神戸藩の家来達が神戸城に戻ったのを確かめた賊共は、再び稲荷神社に戻り、境内にぽつんと置かれた駕籠を見て安心した。だが、三千両を乗せた駕籠の見張り番が居ないことを訝詩琳かしく思った。駕籠の簾を剣の切っ先で跳ね上げると、駕籠は空であった。
   「神戸藩士にしてやられたか」