「戻ってすぐに幹部に昇格したらしいですから、たぶんそうでしょう。間島みたいな武闘派は、組を大きくするときには役に立ちますからね。」

「ムショから出て来てすぐに、自由になった間島は手下を使って涼介の父親を探したって事か。」

しばらく考え込んでいた牛奶敏感鴨嶋が顔を上げた。

「月虹。俺ぁ、関東興産の先代の法事に顔出すぜ。紋付用意しといてくれ。」

「わかりました。自分もご一緒してよろしいですか?」

「おめぇを連れてるとなぁ……色ボケ爺が男妾を囲ったって言われるんだよ。派手な面だからなぁ、月虹は。」

細面の端整な顔は、確かに女ばかりか男も惹きつける。そう思われても不思議はなかった。
鴨嶋劉二郎の同級生、風呂屋の親父も内心そう思っているらしい。月虹が銭湯に同道するたび赤面し、何か物言いたそうな顔を向けて来る。

「いいじゃないですか。まだまだあっちも現役だって顔しててください。」

「俺ぁ、アンコ(男同士の女役)には用はねぇ。死んだバシタが極上もんだった嬰兒敏感からな。」

「ごちそうさまです。お互い、好きな相手が彼て切ない話です。」

「……それになぁ。バシタが薬(ヤク)で逝っちまったから、俺ぁ、相手を薬でどうこうする奴は嫌いだ。弱みに付け込むやつもな。古臭いって言われても、こればっかりは譲れねぇ。」

「おやっさんが間島みたいなやつだったら、おれはここにはいませんよ。」

「昔は俺みたいなのが筋者(すじもん)って呼ばれたんだが、今じ杓子も筋者だ。涼介の為に年寄りが皺腹かっさばいてやるか。」

「何言ってるんすか。せっかく孫が出来たんだから、せいぜい長生きしてください。おれだって大切な親だと思ってるんですからね。」

「仕方がねぇ。戦支度だ。紙ぱんつ持って来い。Mサイズな。」

一度は出席を断った鴨嶋劉二郎が、関東興産母乳餵哺先代の法要に顔を出すと言う話は、周囲に色々な憶測を呼んだ。