2009年10月15日

空気人形4

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冴えない中年男性・秀雄が所有する
空気人形。のぞみと名付けられたその
空気人形にある朝、心が芽生える。
主人にそのことを隠しながら、空気
人形は外に出かけ、外の世界に、外の
人間に触れていく。やがてレンタル
ビデオ店でバイトを始め、そこの店員
とデートに出かけたりもするが、夜には
家に帰り、秀雄の相手をするのだった。


是枝裕和監督の最新作は、心を持った空気人形の物語。シネコン
で観たんですが、チケットカウンターに並んでいる時に前のおばさん
二人が、観たい映画の話をする中でこんな事を言ってました。
「『空気人形』っていう映画、予告観たんだけど訳解からなくて」
「どんな映画?」
「空気の入った人形に命が宿るんだって」
「そんなの面白いの?それに何、空気の入った人形って?」

オバサン、それはダッチワイフって言うんだよ。

なんてツッコミを入れる勇気も、そんな映画を観に来たなんて
言える勇気も僕にはなく、二人はそそくさと『私の中のあなた』の
チケットを買いに行きました。
あの二人、映画の内容をちゃんと把握していれば興味を持って
くれたのかなぁ。
ちなみに劇中に「ダッチワイフ」という言葉は出てこず、劇中でも
公式HPでも「空気人形」と表現されています。なのでこの記事でも
「空気人形」で統一しようと思います。
しかしネタバレなしでは書きづらい映画だなぁ。かなりネタバレ
ギリギリだと思うので、注意して読んでください。

人形が心を持つという物語は、昔からたくさん作られてきました。
一番有名なのは『ピノキオ』ですね。『トイ・ストーリー』もそういう
カテゴリに入るでしょうか。しかしこれらはあくまで子供の持つ人形。
しかし空気人形は、孤独な大人の男のためのものです。しかもその
用途はただ一つ。そしてなにより、主人公の空気人形は自分が
「性欲処理の代用品」だということを自覚している。そんな自分が
何故心を持ったのか。そのことに戸惑いながらも、空気人形は
心を持ったという事実を受け入れ、その人生を楽しみます。

物語が進むにしたがい、様々な知識を蓄えた(心が成長したと
言った方がいいのかな)空気人形は、人間により近い行動を
とるようになります。主人である秀雄に対して怒りを覚え、バイト
先の店員・純一に恋心を抱き、愛し合いたいという欲求から過ちを
犯してしまいます。
この二人の男性のエピソードはどちらも考えさせられるものです。
特に秀雄の発言は、無責任な気もしますが秀雄にとってはそれこそ
空気人形を選んだ理由なわけで、ちょっと複雑な気持ちになります。

他者との繋がりがあってこそ命は命と呼べる。物語は悲しい結末を
迎えますが、空気人形の心は、タンポポに風を与えたことで命に
昇華されたんでしょうね。

主演のペ・ドゥナがとにかく素晴しいです。まさにお人形さんが
動き出したという感じで、その演技力と存在感は大したもの。
際どいシーンにも果敢に挑戦しているし、息を吹き込まれるシーンの
表情なんかは本当に最高です(いや、変な意味じゃないですよ!)。
映画の半分以上は彼女の功績ですね。今年の映画賞を総なめに
しそうです。



e5125aspaceodyssey at 22:19│Comments(7)TrackBack(14)映画のレビュー・か行 

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1.  (映画)空気人形  [ ゼロから ]   2009年10月15日 23:15
何処かのblogで、オジサンが多かったと書いていましたが場所のせいなのか、若い女性同士とか男同士が多かったです。空気人形役に起用されたペ・ドゥナ。この起用は、いいところを付いていますね。
2. 映画『空気人形』(お薦め度★★)  [ erabu ]   2009年10月16日 00:48
監督・脚本・編集、是枝裕和。原作、業田良家『ゴーダ哲学堂 空気人形』。2009年
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あらすじレトロなアパートで秀雄と暮らす空気人形にある日思いがけずに、心が宿ってしまう・・・。感想ダッチワイフに心が宿るってのは、古くから『やけっぱちのマリア』なんてのも...

この記事へのコメント

1. Posted by にゃむばなな   2009年10月17日 22:25
ほんと、この映画の全てはペ・ドゥナのおかげでしたね。

彼女じゃなきゃ、ここまでの完成度はなかったでしょうね。
2. Posted by ノラネコ   2009年10月18日 23:17
今年の日本映画を代表する傑作でした。
是枝監督はデビューからずっと観続けているお気に入りの作家ですが、これは彼にとっても新境地だったと思います。
似た作品というのが思い浮かびません。
3. Posted by えめきん   2009年10月19日 06:56
にゃむばななさん、コメントどうもです。

この映画のペ・ドゥナは完璧でした。
ちなみにこのこの間『グエムル』を見返したんですが、彼女の存在感はやっぱり大きかったです。というか可愛いです(笑)。



ノラネコさん、コメントどうもです。

アート系作品では今年のベストかもしれませんね。
是枝監督の作品はこれで3本目ですが、どれも見応えのある作品でした。去年話題になった『歩いても歩いても』が未見なので、今度レンタルしてこようとおもいます。
4. Posted by シムウナ   2009年10月19日 21:42
TB有難うございました。
心を持った人形、そして心を失っている
空虚な人間たち…心の交流が紡ぎだす世界感に
何度も見たくなりました。

今度、訪れた際には、
【評価ポイント】〜と
ブログの記事の最後に、☆5つがあり
クリックすることで5段階評価ができます。
もし、見た映画があったらぽちっとお願いします!!
5. Posted by えめきん   2009年10月20日 07:04
シムウナさん、コメントどうもです。

観れば観るほど新たな一面が浮かんできそうな深い映画ですよね。美しい心を持った空気人形の方が、周囲の人間よりよほど人間らしく見えました。
6. Posted by ノルウェーまだ〜む   2010年06月17日 00:59
えめきんさん、こんにちは☆
主演のペ・ドゥナが本当に可愛くて、透明感のある素敵な映画でした。
男性からすると、根底に後ろめたいものを抱えているので、見方が別になるのかもしれませんが、私はとっても美しい映画と思いました。
>空気人形の心は、タンポポに風を与えたことで命に昇華された
そうですね!
最後があまりに哀しくて気がつきませんでしたが、なるほどそういう意味ではハッピーエンドなのかな。
7. Posted by えめきん   2010年06月21日 22:47
ノルウェーまだ〜むさん、コメントどうもです。

男性でも美しさはしっかり感じ取れましたね。ただ、やはりそれと隣り合わせで別の印象を受けたのは、やはり僕が男だからでしょうか。あ、いや、別にああいうものを使った事がある訳ではありませんよ(笑)。

>そういう意味ではハッピーエンドなのかな。
僕は少なくとも一抹の希望を見出せる結末だな、と思いました。その点も含めて綺麗な映画でしたね。

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