優勝ヒロインはやはり

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得  点:98
シナリオ:☆☆☆☆☆
キャラ性:☆☆☆☆☆
テキスト:☆☆☆☆☆
グラフィック  :☆☆☆☆☆
システム:☆☆☆☆☆
音  楽:☆☆☆☆☆
プレイ時間:20h以上

「楽しいイベントがたくさん詰まっている」「活発に活動する自然」「すぐに終わってしまう儚さ」といった夏の抽象的概念を物語の主軸に詰め込んで、どこまでも透き通るような海に囲まれた小さな離島で気持ちの温かな人間達が紡いだあまりにも優しすぎて切ない物語。間違いなく夏の名作として語り継がれる作品が産声を上げたという確信が持てました。


【共通】
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 最近では珍しい部類に入るマップ選択式。キャラのアイコンをクリックして短編が始まるシステムは古き良きもの。こっちの意思で女の子に会いに行く感覚が持てて好き。

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Keyならではのミニゲーム等、明るくて楽しいノリと優しい雰囲気で統一された共通ルートだった。完成度の高い世界観を用意するだけでなくプレイヤーに没入してもらうために親しみやすい空気を醸していると感じられた。こういったところが本当にユーザーに対する気配りというか、プレイヤーのために作品を制作しているんだなと感じられて好感が持てた。

以下ネタバレ注意

【鴎】
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掴み所のない女の子だなーと思ったら本当に手の届かないような場所にいるヒロインだった。

この世界観に蔓延っているファンタジー要素も手伝ってか、夢の中にいるようなふわふわした雰囲気がシナリオ全体を包み込んでいた。感情移入という点では難しいが、俯瞰的に見る物語の素晴らしさというものを再認識することができた。

鴎の一見おかしな言動や行動、思わせぶりな態度それぞれに全て意味があり、何度も読み返したくなるようなシナリオで、鴎という名の通り、海を越える旅をしてみたくなった。コンパクトなシナリオから多彩な未来へ羽ばたく可能性を感じるシナリオでした。

【蒼】
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寝ている姿が印象的なヒロイン。
やや孤立気味な他のヒロインと違って島のコミュニティに根付いた生活をしているため、個別ルートに入っても島の空気を変わらずに味わうことができる。

とはいえ主人公とは過去に何も思い出がないため、やや疎外感を感じた。かなり気さくでフレンドリーな登場人物達が織り成す物語でもそう感じたのだから、田舎が持つ閉じて中で完結してしまった世間はどういう描き方をしても現れてくるのだなぁと思った。

大切な人を救うために自らの身を削りながらファンタジー要素の土台造りとして物語に組み込まれている、シナリオの隠れた被害者の一人。先述した疎外感に蝕まれることなく彼女に感情移入することが出来れば感動出来るとは思う。思うのだが、なかなか難しかった。

【2018/07/03 追記】
イナリの存在意義については島モンルートをクリアすることで釈然としました。先日までエアプ感想を披露してしまい申し訳ありません。意味のないキャラなんて居るわけなかった。

【紬】
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かわいい。
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かわいい。
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かわいい。
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かわいい。

このままでは感想にならないので気を取り直して。
キービジュアルのヒロインでは最も個別ルートが面白かった。というか泣けた。

かなり捻った展開となっており何を語るにも物語の肝となる重要な部分であるから軽々しく言葉に出したくはないが、謎を散りばめて点滅した存在と化す紬ヴェンダースの正体を追っていくところが、プレイヤーが紬ちゃんの『自分探し』を追体験しているように誘導されるため非常に感情移入しやすかった。

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短い夏の思い出を一生のものにするために死力を尽くして楽しむことに徹する主人公と
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命運や激情に揺らる紬ちゃんの表情が夏の太陽のように眩しく、とても可愛いビジュアルと声と口調を持つ『紬の夏休み』は癒やされながら泣くという、人生ではそうそうない体験をした。展開でガツンと殴られるわけじゃないのに感情が突き動かされるこの気持ちは、それこそ記憶喪失にでもならない限り一生忘れないでしょう。

【しろは】
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センターヒロイン。

他3人同様運命に翻弄されることになるものの最後には幸せを勝ち取る、勝ち取ったように見えるそのラストこそが真相編で大きな意味を持つ第一歩になるなんて全く思わなかった。一見普通のシナリオに見えるがこの普通の恋愛こそが最も輝いているんだということに後から気づく構成は見事と言う他ない。

硬い表情が印象的で全く表情を崩さない女の子だがだんだんと心を開かせていくその過程が本当に可愛かった。このルートでも当然充分に彼女の魅力を知ることが出来るが後のルートで更に化ける。

【うみ・Pockets】
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まさかの真ヒロイン。

伏線らしい伏線はしろはルートの終盤と、物語をある程度繰り返すと口調が変化するぐらいで、この物語における真の主役であることを匂わせなかった彼女の行動が本当に健気。

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主人公の再従姉妹として共に生活するうみはこれまでのシナリオを共に歩んできた相棒に近いポジションであり、
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プレイヤーとしても1から関係を築いていく存在である。

これが実は主人公がうみの父親でしろはが母親、うみ自身は未来から過去にやってきた存在だというのだから本当に驚いた。

自分を産んだことで命を落としたしろはの天命を救うために過去の舞台へ単身乗り込み(再従姉妹の関係性をでっち上げている鏡子さんあたりはしろは母から事情を聞いてうみの孤独な旅をサポートしていた可能性がある)、自分の身を顧みず母親の運命を変えて行こうとするその行動、最後の最後まで全く弱さを見せない確固たる意思と眼差しを見て好きにならないわけがない。

奇跡に頼って何度も何度も一人でこの夏をリスタートしている冷たい孤独の中で七つの海を渡り、人の温かさを求めて彷徨う蝶であることが比喩でも何でも無い真実の姿だということに慄える。罪など誰にもかぶせることの出来ない、呪われた運命から逃れるために、与えられた希望に導かれるようにふらふらと進んでいく姿は「Summer Pockets」のシナリオそのものでもあった。

そして最後はユーザーに解釈を与えるエンド。決して「投げた」わけではなく、答えを揃えるためのたくさんのピースを与えて幕を下ろしたからとてつもない余韻が残った。

再プレイや作品を思い出す度にピースの一部分が、かちり、とはまって、「ここはこういう意味だったんだ」「この時このキャラはこういうことを考えていたのかもしれない」とプレイ後からも新たな発見を何度も繰り返すことができる。シナリオは読み終えたけど、この物語は心の中で一生終わらないのかもしれないという予感がした。

今年の夏は、いつもの夏よりもちょっぴり良い夏にしていきたいと思います。
そう思わせてくれる作品でした。