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山の向こうに住まう妖異と人間達の仲を取り持つ魔法使いという立場にいる者を主人公とし、彼らの出自に纏わる様々な課題をクリアしていくストーリー。敢えて触れるまでもないが、実在する民話(?)の「遠野物語」を基軸としている。

日常が恋しくなるほどに毎日が非日常であり、常に忙しなく駆け込んでくるトラブルに追われるから、次は何が起こるのだろうという期待をもたせてくれる。読み進める手はそう簡単に止まってくれなかった。

以下ネタバレあり

・共通
全体の中でも、トゥルールートに次いで面白いと思えた。
導入部分として、魔法使いの役回りを象徴するイベントが相次ぐため、物語の全体像がつかみやすい。そればかりか、魔法使いにとって「トラブル」の一過に過ぎなかっただろうゴンゲサマと竜胆のエピソードは少しばかり涙腺を刺激する良質な物語であった。

・花子
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力を持つ妖異とは思えない程の寂しがりであり、稚拙なアプローチを掛けてくるところが可愛い。

だが、個別ルートとしてはここがもっと良い出来であれば個人的にもっと推せる作品になっていたと感じてしまうぐらいには残念であった。

全体に通ずる課題ではあるが、とにかく主人公が活躍していると思わせる根拠が弱い。そして恋愛に転換する場面があまりにも早く訪れてしまうため、人と妖異の恋という異質でワクワクするテーマの醍醐味をほとんど味わうことができない。

妖異が恋を知りたいと人間にせがむのは、よく見られる展開ではある。
ただ主人公はメインヒロインである白のことが頭にあるからかとにかく”応じてあげている”意識が透けて見えており、それを察知した花子が主人公にアプローチを掛けているところは可愛くはあるものの、頼られるというよりはなにかにつけて他の妖異等に頼りがちな主人公が終始花子より上の立場にいるのは不自然だし不愉快。

そういったプレイしていく上で心に立ち込める暗雲を吹き払うような良質なエピソードがあるわけでもなく、唐突な打ち切りエンドを迎えてしまった。

これは特別に実った恋を甘美なものに熟して欲しいと思う人間の欲に対する罰なのだろうか。
何とも残念であった。

・みだり
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純情な淫魔。恩義のために人間である主人公の従者に就くその献身的な姿勢は「タマユラミライ」のストーリーを象徴するヒロインと感じた。

明確なシリアスが存在しないので、全体の中で最も起伏のないルートになっているが、人妖入り乱れてみだりと主人公の新たな門出を全力で祝うその優しさが素晴らしいと思えた。この温かさが、深野市という舞台を良いと思わせる根源と言っても過言ではない。

欲を言うと、みだりが男性恐怖症になったエピソードがあると更によかった。
性格上の問題と言われればそれまでではあるのだが、「主人公と結ばれるまで処女を保たなければならない」暗黙の了解を守るための設定にしか思えなかった。

何が言いたいかというとサキュバスぐらい処女でなくてもよかっ
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・由岐奈
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劣悪な環境で育った、芯の強い女の子。個別ルートの尺が長く、シナリオにおける謎が解き明かされていく、準トゥルーヒロイン。見ようによってはメインヒロインと取れるかも。

自分の中に宿る恋心を自覚するまでのプロセスならびに彼女の成長していく姿が克明に描かれており、単体の完成度が高いルートだった。

お役所仕事を彷彿とさせるほど慎重派の主人公に比べ、口より先に手が出る傾向の由岐奈の積極性は見てて惚れ惚れした。無論、「魔法使い」という立場に不慣れな彼女に失敗はついて回ったのだが、葛藤を交えながらも正しい方へと確かな足取りで向かっていく意志の強さは彼女の多大なる魅力である。

そして、彼女にとって大きな主題となる薪奈とのエピソードでは、由岐奈の「人のためを想う」能力の高さを知ることが出来る。強いだけではなく、優しい。……素晴らしい。思い返すと、惚れる要素の多いヒロインであることをまざまざと実感させられる。

トゥルールートでは巻き込まれたと言っても過言ではない「魔法使い」の役目を引き継いでいくことになるが、そこでも、彼女の足取りはしっかりしている。やがて深野市の中心的存在として君臨するのだろう彼女の奮戦する姿は、光を纏ったように輝いていた。

・白
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一見ロリ枠に見えてロリ巨乳なお姉ちゃん。現代では廃れてしまったと思しき方言が特徴的。

まず最も評価に値するのは白が天真爛漫な性格であることは間違いようがない。彼女が笑顔で、いつまでも主人公のことを見守り続けてくれたからこそ、どちらかと言うと地味で重い話を華やかなものとして映し出してくれたのだし、最後に迎えたあの終わりの後のミライが素晴らしいものになる想像を掻き立てる大きな一要素として役立ったのだと私は確信している。

単純な可愛さとしても、何かにつけてお姉ちゃんぶる胸以外の小さな姿が微笑ましい。

また、”ぶる”だけではなく、明滅するように登場したりしなかったりするのも、「既に幽体となっている自分ではない誰かと今を生きることが主人公のため」という意思と「自分と過ごしてほしい」という欲が相反しながらも両立した結果なのだと思う。

自分の幸せだけを願うのであれば介入し続けるであろうが、そうしなかったことに白の優しさおよび包容力を感じる。そういった点でも魅力のあるヒロインであった。

トゥルーとなる白ルートには良い点が沢山あるが、真っ先にそう思えた根拠は話が由岐奈ルートの延長上にあることだと感じる。あの物語が無かったことになるのはあまりにも寂しかったし、白と主人公が迎える結末に集中することができた。

由岐奈ルートで衝撃的なものも含む設定の種明かしがなされるため、話の終盤で大きな衝撃を得ることなどはなかったが、だからこそ主人公の「選択」を落ち着いて考えさせられたのだと思う。
003
話の一番最初に妖異として印象付けられる卯子鳥サマの存在を、最後の最後にまた持って来る采配はお見事である。これによって起承転結の結が起へと結び付くので、物語そのものは綺麗な円となり、彼らがたどる輪廻の輪を想起させられる。理想に近い締め方だった。