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「役割」の概念を主題に据え、実在する童話や著名な小説の登場人物達が抱えるトラブルを解決していく物語。

作品のコンセプトは非常に分かりやすく、誰が読んでも理解出来るものとなっている。このシナリオの理解しやすさは、かわいいキャラクターや世界観といった本作における秀逸な部分へ目を向けさせる役目を担っていた。

■私にとって最高のクイーン

多くのキャラクターが登場するこの世界で、最も好きになれたのはかぐやだった。

いわゆるyoutuberで、猪突猛進にも見える性格からは可愛さをゴリ押して知名度を押し上げているのかと思ったが、その実は自ら考えてアクションを起こし、自分に足りないものを分析して弱点を克服しようとする孤独な努力家。とてつもなく好印象。
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あと初対面の人が苦手というのもかわいい。

個別シナリオも一番面白かったのではないかなと思う。平安時代には登場していたかぐや姫が時代の変遷に合わせて姿を変化させているのは大変驚いたが、完全にキャラクター崩壊を遂げているわけではなく、随所に原作を踏襲したと思しき性格が見られたのは良かった。

「今日だけは……ただのかぐやだもん……」

月の世界でぼそりと呟いた彼女の囁きが耳に届いた瞬間、本作で最も感情が昂ぶった。

■主役の意思の弱さはそのまま作品全体の”薄さ”に繋がる

様々な物語を渡り歩くという物語的な構造上、主人公の主義主張が二転三転するのは致し方ない。それは様々な性格を持ちながらも素晴らしい価値を保有する物語に住む住人あるいは管理者の正義が三者三様だから、彼女たちの考え方を尊重するという考え方を司書という立場を考えなければただの読者である主人公がするのは決して間違いではないし正しい。

ただ、それに付き添ってくるテイルちゃんとの相性は本当に最悪だったと思う。

経緯が特殊であるテイルは、通常の成長物語では「欲求が先行している状態で理知を獲得していく」とするところを「何も知らない状態から欲求も含め知識を獲得していく」とした成長が描かれていた。

これをノンポリシーの主人公が教育するというのはまず構造として成立しないだろう。事実、テイルの成長は、主人公を媒体として様々な物語に触れたくさんの人物と携わったことで獲得している。

主人公がただの観覧者であり続けるならばよかったのだが、著名なキャラクター達を「救う」立場にいるのはまずかった。主義も主張も経験も能力も持たないので、何を説いたとしても全く説得力が無いのである。

館長や物語世界の登場人物達に終始かつ常時助けられてばかりおり、主義主張も操り人形の主人公が放つ全く胸に響かない台詞で説き伏せられていくヒロインたちの価値も大幅に下がってしまう。名作に対する冒涜とまではいかないが、強い不快感を露わにしてしまった。

これは間違いなく読者としての共感覚に引っ張られてやって来た同族嫌悪である。

読み手の無責任に口出し出来る立場を無遠慮に利用しつつも、何故か登場人物全員から恋慕の情を抱かれる。”ただ読んだだけ”の人間が全てを理解したつもりになって達成した気になっているその烏滸がましさは、誰しもが見たあるいは経験したことのある罪深い行動だろう。今、この感想を書いている私も自己嫌悪が止まらない。

主人公の人間としてのスケールの小ささが、物語世界を救うというスケールの大きさに不釣合いであったことが本作における最大のウィークポイントであったかなと思う。終盤には伏線回収もあり、読後感は決して悪くない。

主人公の在り方に納得さえできてさえいれば、もっと良いところを見つけられただろう。無念である。