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ダウナー系主人公に蹂躙される女の子達の物語。胸糞悪い場面が目白押しかつ全体的に倫理という箍がかなり外れているので、価値観に共感出来なければ、大した理由もなく当たり散らす主人公に苛立ちを無限に募らせるだけのゲームになってしまう。こうした単一の観点だけでもやや敷居が高いと思わせる作品だった。

以下ネタバレ注意

▽有希
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妹。本作の根源的存在といえるヒロイン。「他人に顔色を悟らせたくない」という理由で鬱陶しい髪型にしているところが好き。

感情を表に出しながらも人付き合いが上手く行かない、典型的なコミュニケーション障害を抱えている。特に彼女を象徴たらしめているのは、下手くそな愛想笑いである。
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特にこの表情はコミュ障を上手く表現出来ているなと思う。見ての通り全く目が笑っておらず、笑うという行為に至った理由が面白いからということではないことを如実に示している。

主人公が苛立ちを覚えている部分だが、下手な愛想笑いを続けていかなければならない理由もコミュ障にはある。それは、「嫌われたくない」という心の現れから来る「縋り」なのだ。

そして有希に対する主人公の態度は本当に酷い。確かにこの娘を最も近い距離で常にお世話するというのは難題なのだったのだろう。幾度も挟まれる回想シーンでそれはかなり伝わる。

だが、そんな幼少期に抱えた苛立ちを社会人になっても引き摺っている幼稚さには辟易とする。彼女の努力を平気な顔で踏み躙るし、「性的衝動を抑えるため!」とか意思を翻して「本当は愛している!」等と言われても嘘臭いし薄っぺら過ぎて心の何処にも響かない。

だから私は、主人公に髪を切られる前のボサボサな髪型が好き。誰も信用しない、それこそが彼女の歩んだ人生の答えである気がするので。

無理やりにでも笑顔で居続けることで敵意が無いことを必死にアピールしている有希は本当に哀れで、どんな目に遭っても「縋る」か「諦める」ことしか出来ない彼女の弱さは全編を通して印象的だった。

▽紗英
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CGで異様に可愛く化けるアホ属性持ちの従姉妹ヒロイン。

主人公のゲス度合いは相変わらずだが、有希と付き合う展開になるよりは嘘臭くないのでいくらかマシな気持ちで読むことができた。

彼女と付き合うことでこの物語はスッキリ終わるのかと問われると勿論そんなことはない。幼少期の兄という名の幻影を断ち切られて孤独な戦いを強いられる有希のことを考えると本当に胸が痛くなる。今更な話でもあるがあまりに無責任過ぎて開いた口が塞がらない。

紗英はあらゆる面で愚直なので、後先を考えない行動も多い。そんな猪突猛進ガールが主人公に捨てられかけたことを悟る瞬間、それは彼女にとってまさに天国から地獄。青天の霹靂といったところだろう。あの必死な形相は……その後にたどる結末を含めてなかなかに見応えがあった。

▽千佳
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随所で見せるエピソードから、悪人ではないのだろうということは分かるが、いじめに加担?見捨てる?等の行動が因果応報となってしまった哀れな女の子。その一方で因果応報を悦びに変換させてしまう等、心の切り替え方が器用なヒロインでもある。

このヒロインを描写することで物語全般において何を意味するのだろうかと甚だ疑問だったが、恐らく、有希に対する行いへの後悔から必要以上に同情する情けない姿を露呈させることで「かわいそうな存在に同情する事は正義か?」とプレイヤーに問いかける意味合いを持たせているのだと思う。その意味は私にはただ胸糞悪いばかりに感じたが。

▽おわりに
有希は目を背けたくなるような過去がありながら、どういう過程を経ても絶対に復讐心を持つことがなかった。それどころか怒りの感情すら見せず、限界まで主人公に距離を詰めようとした。

これは理由を付けた気になっているが実は癇癪を起こしているだけの主人公にとって、呪いのようなものだろう。後ろめたい気持ちがある存在が、傍らで「傍にいるだけでも幸せ」と囁けばそれだけでも責められた気持ちになり、心に波風が立つだろうなと思わせる。

単なる「苛立ち」という感情に揺れる心の向かう先を多岐に渡ってゆくifという形で示し、明確にどれが正しい終わり方だと定義しないこの作品は、様々な思考を浮かび上がらせる。

裸にさせられた彼女―有希自身が幸せと捉えたなら、それでいいのだろうか。苛立ちを別の形で昇華したからといってそれがハッピーエンドに成り得るのだろうか。疑念や疑問を尽きることのない雪に喩えるならば、今もなおしんしんと降り、宵闇の中に積り続けている。