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南国の風を感じ、降り注ぐ陽光を浴びながら異郷の地に溶け込んでいく様を楽しめる作品。根源的な温かさが私達を包み込んでくれるので、沢山の元気を貰える。それは失った笑顔を取り戻せるかの如くに。

以下ネタバレあり

▼世界観について

「南国の島」の雰囲気がとてもよく伝わってくる。邪魔をするものが無いという印象。

特にテキストは癖がなく、共通ルートにおいては悪く言えば平坦に感じられる。主人公が今まで薄い人生を送ってきたことのメタファーかと思ったが、ともすれば、島の風を感じるような突き抜けて美しい背景に視線を逸らすために趣向を凝らしたものだったのかもしれない。
有紀「……平和に見えて、色々抱えてるんだな、この島は」
湊「……それは、どこも同じでしょ」
外から見える世界と中で知り得る世界は全くの別物だとよく分かる会話。この世に綺麗に見えるものは沢山あっても、綺麗なものは数少ない。だからこそ、本当に綺麗なものには希少価値があるんだと分かる。

▼シナリオについて

『LOST:SMILE』の名を冠する通り、各ヒロインは過去に悲惨な目に遭遇している。それは主人公の有紀も例外ではなく、訳ありな彼女たちに共感するための大きなバックボーンになっている。

この作品で特徴的な部分といえば、顔色を失いそうになる悲惨な過去を持っているにも関わらず見た目上は明るく振る舞っているところだろう。とはいえそれは「仮面を被った仮初めの笑顔」であり、「本当の笑顔」に程遠い。この物語のタイトルがLOST SMILEであることからも、「本当の笑顔を取り戻す物語」として認識することがベターであるとわかる。

陰惨な過去を持ちながらも乗り越えた……いや、乗り越えている最中である彼女たちの薄く張り付けた笑顔でこの世を過ごす人には共感できるポイントも多いシナリオであり、続編でも主題になっていくだろうなと思わせた。


▽めぐる

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小学生のような言動を続けるが、れっきとした現役JKらしい女の子。

主人公の過去にも大きく関わっており、その出会いと結びはまさに運命的。一本の映画にしてしまえばいいと思うほど綺麗な物語だった。

悲惨な過去を忘れまいと必死に行動を続けているひたむきな姿は純を重ねてしまうが、明確なゴールが見えない分、めぐるの方がより事態を重く受け止めていることを伺わせる。それが生きている人間との向き合い方と、死んでしまった人間との向き合い方の差なのだろう。

知らないからこそ怖い。だからひたむきな行動を重ねて”しまう”。人間の強さと弱さが表裏一体であることを痛感させられる。

そんな彼女を支えてくれる周囲の人物で最も焦点を当てて欲しいと思えたのはめぐるの姉・みひろである。事故当時はまだ物心のついていなかっためぐるがこれだけ苦しんでいたのだから、もっと大きな苦悩があったに違いない。めぐるの苦しみを別の視点からも知るという意味でも、続編が待ち遠しい。

▽美鈴

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普通の人間とはどこか違う、ミステリアスな匂いが漂っていると最初から思わせるヒロイン。

不老不死の話題が出た時に過剰反応する、驚異的な治癒能力を見せる等、怪しい挙動がルートの序盤から見られる通り「不老不死」という特異な設定のヒロインだった。

島の秘密にも深く関係することもあって、彼女のルートは後々のシナリオに活きてくる部分が数多いお話であったかなと思う。

美鈴の立場にあれば結末が感動的であることはわかるのだが、彼女と過ごした時間が短く、一緒に冒険をしたといえるのは1回きりであったのもやや急ピッチだったかなと思う。3回、4回と彼女と四苦八苦した経緯があればもっと彼女との恋愛にも深く感情移入出来たと思えるので勿体無いと感じた。

「旅行客」として島に入った美鈴が、島と大きな関係を結んだことでこれからどういう余生……いや人生を送っていくのだろうか。見果てぬ話のその先に希望という名の想像を乗せてまっすぐに飛んでいけと願う。そうすることしか出来ないプレイヤーという立場が、何とも寂しく感じた。


▽純

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褐色×元気っ娘。

このヒロインに悲惨な過去があるとは何となく想像できず、彼女のルートを見る前は元気な姿をいつまでも見せて欲しいなどと無責任なことを考えていたことを覚えている。

彼女とは過去の話だけではなく、ビーチバレーの特訓や彼女の幼馴染・隼人との会話にも魅力を感じられた。特にビーチバレー関連の話はスポーティーで活動的な彼女らしさも溢れ出ていた。

ビーチバレー大会・本番では一進一退の攻防にハラハラする場面もあり、真夏の太陽が降り注ぐ視線に負けないぐらいの熱い戦いにのめり込むことが出来た。お遊びであるはずのビーチバレー大会は純にとって命運を分かつ存在であったことは後の展開からも裏付けられるように、スポーツとシナリオの絡ませ方が非常に上手かった。

そんな彼女のシナリオは幼少期に母親を失うということはどれだけ人生において穴が開くのか、ということがよく分かる好例である(というと優しい言葉選びではないが)。

読めば読むほど純の悲痛さが伝わってきて、心が痛くなるシナリオである。心を痛める要因と化した純の父親も、大人ならもっとしっかりしろと言いたいところではあるが、改善するには難しい不器用さを持っているので責められるわけでもない。

明確な悪役が存在していればどれだけ楽だろう。悪がいなければ正義の鉄槌を下せないヒーローのように、振り上げた拳のもって行き場がない場面が散見された。悩みばかりが増幅していくこの世のストレス社会は、美しい小さな島でも、人間が集団生活するなら避けられないのだと言わんばかりの現実が襲いかかったのだ。

そんな中で自分に関わる人を「結果」という明確な形を以て幸せにしたいと一心不乱に行動を続ける純ちゃんの眩しさに心を惹かれるのは必然であった。前向きな心とひたむきな努力は、続ければ続ける程、人に見られて評価される。彼女が本当の幸せを手に入れられないのなら、私達が応えなければならない。

それが大人の責任だと、そういう当たり前の気づきをしてくれた純の父親・利夫と良き教師である胡桃の2人も良かった。報われた物語は、本当に読んでいて気持ちがいいものだ。

▽総合

真夏の太陽を浴びて光を纏う素敵な本質がそこかしこに転がっていたように、面白いと思えるポイントがいくつも存在していて、特に今の時期(投稿日:8/16)にはピッタリの作風であった。故に、季節感を全力で感じることが出来たし、南の島へ一人旅したいと思えるぐらいには作品に対して没入できたと思う。

一方で、作品の全貌を見渡して文字に起こした際に「続」という文字を何回も使ってしまう程、正直に申し上げるとまだまだ未完成な部分が残る作品だなと思った。単体で評価することは難しい作品であったが、見事な結末に辿り着くための礎になることを願いたい。