以前世銀プロに書いた記事「海外青年協力隊は日本の隠れ資産?」がきっかけで、協力隊とのコラボ、「セネガル市場調査団」がはじまっています。


アフリカの中間層やBase of Pyramidはこれからどんどん伸びていく、アフリカは今に中進国の仲間入りをするから、これからがビジネスチャンスだ!というマクロ的なレポートは、世銀、アフリカ開銀、エコノミスト誌、マッキンゼー、モニターコンサルティングなど、いろいろな機関が出しまくっています。

ところが、そういうレポートを読んで、日本企業や先進国の企業がアフリカにきてみても、「で、どうやって商売をはじめていったらいいの?」「村にモノを売るにはどんなチャネルがあるの?」「そもそも、村の人たちってどのくらいお金もっていて、どういう消費行動をとっているの?」「村人が大きな買い物をするときの意思決定プロセスは?」という商売人としては当たり前の問いへの答えがあまりにも少なく、適切な打ち手が見当たらず立ち往生、というケースが少なくありません。

これらの問いには、大きな都市の大企業ばかり見ている僕には答えられないし、商社の人たちも知らないし、JICAやJETROや大使館にいっても情報はないわけです。

ところが、これらの問いに答えられる(あるいは調べて答えられる環境にいる)組織がひとつだけあります。それが海外青年協力隊。日々、村で活動している協力隊員たちにはそれを知る機会があって、じゃあそれを形にしてみようじゃないか、とはじまったのが、このイニシアティブです。

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3月に我が家でやったキックオフ飲み会は、セネガルの北からも南からも興味のある隊員さん6名が集まってくれ、調査方針を話し合いました。取っ掛かりとして、まずは村の一般家庭の家計状態を調べてみようと話になり(どんな収入があるのか、お金がたまると何に使うのか、どういう意思決定プロセスで?、どこから買う?、などなど)、それに加えて特定の分野(農業資材の売れ方、祭りとモノの売れ方の相関、など)に興味のある人はそこを掘り下げてみよう、という方向になりました。隊員さんたちもすごい強い意見を持っていて、楽しい議論でした。みんなが出してくれた村のエピソードひとつひとつが、ビジネスパーソンとして聞いていて実に面白いセネガルの消費者行動が浮かび上がってきたり。

夜中過ぎまで語り、締めは、大学院時代に友人のJ(P&Gのマーケッター出身で今はキャンサースキャンというソーシャルマーケティングの会社を立ち上げている)から叩き込まれたマーケティング理論の講義。Decision Making Process/Unit,、4つの”P”、PushとPullなど、様々なフレームワークを説明しました。隊員さんの飲み込みは超早かったです。

Devil is in detail、やり始めて、今思い浮かべるOutcomeと全然違うものになるかもしれない、途中で大きな方針変更があるかもしれない、隊員活動が忙しくなってこれどころじゃなくなるかもしれない、あるいは時間が思ったよりかかって次の隊次に引き継がなきゃいけないかもしれない、でも、一緒に悩みながらやってみようという話をしました。

走り出すことが一番大事。みんなの課題意識と学ぶ意欲は高くていいチームです。


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4月に入って、最初の家計調査報告が上がってきました。隊員さんたちのレポートのレベルはかなり高く、隊員活動との両立が大丈夫かとハッパをかけている僕のほうが心配になるほどでした。

方向性やマーケティングの基本については、キックオフで大分話し合ったのですが、まだ頭の中がもやもやしている、でもその中でみんなそれぞれの課題を見出し、走り出しています。

テーマは「農業資材の定着(試験的導入)の決定要因は何か?」、「村人の野菜・肉・魚摂取量と収入・その他要因の相関関係」、「セネガル人の預金と借金 – これらの有効活用によって生活水準は向上するのか」「一般的なセネガル家庭の収入・支出の概観、そして大半の家庭では男性の家長が財布を握っているが女性の買い物の動態がどうなっているのか」「家計の中の教育費の位置づけ」などなど。

どうです、開発のプロや民間セクターの皆さんもクリアな答えを持っていない興味深い問いばかりでしょう?

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隊員さんたちのレポートを読んでいて、眼からウロコの情報がいくつかありました。

例えば、セネガル人の貯蓄というのは、銀行にいくことではなく、家畜を買うこと。村から遠いマイクロファイナンスのオフィスに交通費をかけてフィーを取られて預金口座を作ってゼロに近い金利収入を得るよりは、数カ月で体重が何倍にもなる牛などを買ったほうがよほどリターンが高いし安心。牛の面倒を見てくれるプル族に手間賃を払っても、リターンはしっかり出るようです。また、キャッシュを持っていると、お金が必要になった親戚や友人にたかられる可能性が増え、セネガル人的には「Solidarity(団結)」のカルチャーでそういう要請を断れないので、キャッシュをなるべくモノに変えて貯めようとする(建設中の家が多いのは、そういう事情)。あとは、お金を貯める先で、地元の小売店(ブティック)というのも多いそうです。ブティックにお金を預けておいて、モノが必要だったらその口座から引き落としみたいな形で買うようにする。こういう金融行動って、村人相手の商売をしようとしたら知っておくべき知識のひとつでしょう。


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5月上旬には、前述のマーケティングのプロのJが日本から、世銀本部の同僚たちがワシントンから、セネガルに来てくれ、隊員さんたちが活動しているセネガル南部(ガンビア国境)のニオロとメディナサバという二つの村への訪問を行いました。村の人たちの仕事の話や生活の様子を聞いたり、街道からはずれた電気のない村を訪ねたのは、とても楽しかったし、とても勉強になりました。村訪問のあと、ニオロの安ホテルでビールを飲みながら、残りの調査期間で何をやっていくべきなのか、大いに語りました。

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浮かび上がってきたのは、開発のゴールはポジティブな変化を起こして前に進んでいくこと、なので、ぼんやりと全体を見ていてもだめ。Status quoにチャレンジして未来を先取りする個々人が燃えて飛び火させまくることでしか変化を起こすことはできない。そんなchange agentをみつけて力を貰ったりあげたりしながら一緒に変えて・変わっていく必要がある、ということ。

「セネ人は全体的にこうだからダメだ」というトレンドを見るのではなく、その中で変化を起こしている個人にフォーカスしてみよう(たとえば、周り全員がマンゴーを売っているおばちゃんたちの中で、一人だけ卵を売っているおばちゃんがいたら、その人になぜそういう行動変化をはじめたのか聞いてみる)」、というアドバイスがJから出ました。

Jが隊員さんに送ったメールの内容がよかったので転載:
「皆さんにとっては当たり前になっていることが他の人から見ると大発見なのです。
そういう視点を忘れないでプレゼンを作ると良いと思います。
世の中にコンサルタントという職業があるのは、当事者から見ると当たり前のことを
客観的な視点から「なぜそれが当たり前のこととして起きているのか」に対して的確
な分析ができて新しいアクションにつながるからです。
「そういうものだ」で終わらせないで、なぜそもそもそうなのかという視点で見ると
新しいものが(というより、当たり前のことの新しい側面が)見えてきますよ。」


<ニオロ近郊の無電化村>

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<ニオロで点滴灌漑!?>

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こういう感じで進んでいます。

この先の予定は、今月末に我が家で中間報告会(JICAの所長さんが来てくれます)、7月に最終報告、という予定です。できれば成果物をWebに上げたいし、第1回の今回がうまくいったら、次の隊次に引き継いでいっていってほしいし、他の国の隊員さんたちにもこのイニシアティブが広がって、いずれは世界ベースで、こういうBOP・消費行動のデータベースができればいいなあと思っています。


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ここで声を大にして言いたいのは、こういう一番現場をしっている隊員さんたちの活動に、多くの人々が注目(刮目と言ってもよい)していること。

こうやってJ君や世銀の友人たちががセネガルにアドバイスに来たり、アカデミアの先生から参考になる論文をどしどし頂いたり、米国で醤油会社を経営している方から現場で頑張っている日本人への応援の意味で醤油を送って頂けることになったり、医療系支援のプロからも意見を頂いたり、フェースブックの調査団のページのメンバーが隊員7名に対して隊員以外の社会人が26名というこの外からの注目率。これは協力隊の日本にとっての戦略的価値がそれだけ高いという証左に他なりません。

昔、ある隊員の知り合いが帰国後の就職面接で、「あなた、二年間遊んでたんでしょ」と言われたという話をきいて唖然とした記憶がありましたが、そんなナメたセリフは何人たりとも二度と言わせてはいけない。これを通じて、現場から積み上げた「知」のレベルをたたき出したい、そしてそれができるチームがいまここにあると思うのです。

そして、僕自身の仕事も、村の人たちに繋がってなんぼ。でも首都にいては具体的な知恵もわかないし、協力隊やPeace Corpとのコラボ、というのはこれからの開発業界にとってなにげに大事なトレンドになっていくような気がします。

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