○○○○○

『神話伝説辞典』で猫を引くと昔話しか出てきませんが、伝説化しているものもあるようなのでその辺から探ってみましょう。

「猫檀家」
寺の飼い猫が長年世話になった貧乏な山寺の和尚のために一芝居打つ報恩譚。長者の娘の葬送で突然棺が空に浮き上がり、他の和尚達が経を読んでも一向に効き目がない。しかし山寺の和尚が「南無トラヤヤ」と唱えると棺は降りてきて、長者は山寺和尚に感謝して寺は繁盛した。

小松先生のデータベースで「猫」「和尚」で検索したところ次のような地域に特定の寺にまつわる伝説として残っているようです。

1宮城県泉永寺 寛永年間の出来事。寺は栄える。
2福島県 寺名はなし。新潟の話として、「棺に猫を近づけないための鎌」の由来。
3長野県上水内郡宝蔵寺 棺浮遊のモチーフはないが、悪天で葬儀が開けなかった時猫が出てきて「宝蔵寺の和尚に頼め」と言い、寺は栄える。
4青森県八戸 寺名なし。寺は栄える。
5香川県瀧寺 化け鼠退治と報恩。寺は栄える。
6岩手県藤沢村 寺名なし。寺は栄える。
7青森県三戸 福蔵寺。寺は栄える。
8京都 寺名なしだが、現在の西陣大黒町称念寺通称猫寺のことか。猫踊モチーフ。棺桶浮遊のモチーフはなし。寺は栄える。
9青森県八戸 寺名なし。寺は栄える。
10秋田県 寺名なし。元化け猫を和尚が引き取り、報恩。寺は栄える。
11山形県中津川 寺名なし。寺は栄える。「猫又」
12岩手県浄法寺町 福蔵寺(実在?)。南部藩主の葬式で。
13岩手県二戸 福蔵寺。350年前。

これを見ると東北地方が多いようですね。ただ寺名のないもの=昔話も多いです。また福蔵寺という名前が多いですが、これは実在する寺なのか伝説上の寺なのか分かりません。

また「猫」「恩」で検索したところ、恩返しの対象は和尚しかありませんでした。つまりこの「猫檀家」タイプの報恩譚は必ず寺が舞台であるということでしょう。

飼い主が裕福になるという点では犬の伝承にも近いです。「犬」「和尚」で検索するとほとんどが「猿神退治」タイプ、つまり化け物退治譚になるわけですが、この犬は飼い犬ではない場合が多いでしょう。むしろ猿の苦手な犬を連れてくる。

寺で猫を飼うことが多かった、という事実から生まれた伝承なのでしょう。寺で猫を飼うのは鼠が経典を齧るから?だと思います。『太平記』などに載る「鉄鼠・頼豪鼠」伝承では頼豪のいた三井寺は「鼠の宮」を作り、それに対抗して比叡山は滋賀県坂本の寺領に「猫の宮」を建てたといいます。

東北に「猫檀家」伝説が多いのはどうしてなのか?恐らく猫にまつわる伝承をもっと拾ってみないと分からないでしょう。或いは鼠の伝承と対比しながら。

岩手県稗貫郡には赴任者の和尚を次々と食い殺す古鼠とそれを退治したテンジョウ坊という猫の話が伝わっているそうです。
やはり猫の存在意義は「鼠を捕ること」なのかもしれませんね。

○○○○

「猫」で検索すると700近くヒットするので(それでも狐に比べたらずいぶん少ない)、全部の伝承を取り上げることは不可能ですが、まああと三つ四つ見ていこうと思います。


四天王寺左甚五郎の猫.JPG
大阪四天王寺伝左甚五郎作の猫。2007年撮影。元旦の朝には必ずなくという伝説があります。また四天王寺の猫は雄で、日光の眠り猫は雌だ、とも。

日光の方では眠り猫を作ったら鼠の害がなくなったと言いますし、眠り猫を描いた紙を貼っておけば中国と同じく蚕を守るとも。また不眠症に効くそうです。逆に居眠りがひどい人は眠り猫の目を見開いたものを貼っておけば治るといいます。

愛知県蒲郡法住寺の猫の彫刻も左甚五郎作とされているようですが、こちらは「夜な夜な抜け出して家畜や畑を荒らして困ったので足を切ってしまった」という、「絵抜け馬」型の伝説になっています。

○○○

伝説の裾野もむやみに広いです。猫→鼠、猫→左甚五郎、猫→寺・・・きっとそれぞれの地平はまた他の地平と交わって永遠に終わることはないのだと思います。